※この作品はR-18です。

奉仕しないと帰れない部屋に囚われた男の業務記録   作:dolph

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語り得た事

「……フェルン。結婚おめでとう」

「ありがとうございます、フリーレン様」

 

 何が起こったのかフリーレンにはわからないが、言わないと拙い気がした。選択は正しかったようで、フェルンは薄く頬を染めて微笑んだ。

 社会性皆無の魔族と違ってフェルンは人間である。社会的に認められ、他者の承認を得る事がとても重要なのだ。

 参列者が見守る中で、誓いのキスは触れるだけ。

 新郎は条件反射で舌を入れようとしたが、新婦に押しやられた。

 新婦は赤い顔を伏せ、無言で魔法を発動した。

 新郎は魔法がさっぱりわからぬ。しかし、この場には熟練者が何人もいた。

 

「今のは服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法だよね。なんで使ったの?」

「……特に理由はございません」

 

 何の魔法かはわかっても、フリーレンには使った理由がわからない。ソリテールにはわかった。

 

「だって旦那様とキスしたんだもの。きっとフェルンは濡れて」

「ソリテール様! それ以上仰ったら戦争になります。お覚悟ください」

「少しだけならそのままでいいんじゃないかしら? それともフェルンは……。ああ、そうなのね。初めてだからビックリしちゃったのね」

「ソリテール様……。私は戦争になると申し上げましたよ」

「そんな事で戦争するな」

 

 フリーレンが机に立てかけてあったフェルンの杖を取り上げた。誓いのキスでは流石に手離していた。

 

「返してください!」

「フェルンは馬鹿な事をしようとしてるよ。やるなら場所を選んで」

「馬鹿な事ではありません。戦争を始めるのに相応しい理由です!」 

「何が?」

 

 フリーレンはフェルンが服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法を使った理由がわからない。そこに戦争開始足りうる理由があると思えるわけがない。

 ソリテールは魔法発動の理由はわかっても、フェルンが騒いでいる理由はわからない。興味はそこから移っていた。

 

「フリーレンは千歳のおばあちゃんなのにわからないの? エルフが衰退するわけね。そうだわ。旦那様ならエルフの問題を解決出来るのではないかしら?」

「どの問題でしょう?」

 

 男はこの地に初めて踏み入るが、知識だけはこの場の誰よりも広く深い。

 幼いフェルンがいた世界なのだ。フェルンの安全を確保すべく、読める書物は全て読んでいた。だからこそ、フェルンが住む街に戦火が迫っている事を予測出来た。

 種族としてのエルフが抱える諸問題も衰退の原因も察しがついてる。

 

 ソリテールは一片の悪意なくフリーレンを言葉の刃で刻んでから旦那様に問い掛けた。フリーレンが涙目になってるのは目に入らない。入っても気にしない。

 

「エルフは絶滅寸前にある種族なの。一番の原因は魔王様がエルフを滅ぼそうとしたからだけど、それがなくても数を減らして衰退していたと思うわ。長命種なのは魔族と同じ。魔族は勝手に生まれるけどエルフは繁殖しないと次がない。エルフは中々繁殖しないの。私に色んなことを教えてくれた旦那様なら何とかなるんじゃないかしら?」

 

 色んなことを想像したフェルンは頭の中で開戦の号砲が響くも武器がない。色んなことがわからないフリーレンは首を傾げた。

 

「幾つか推測出来ます。中でも一番の原因と思われるのは、シュタルク君」

「………………」

 

 名指しされたシュタルク君は窓の外に集中している。

 ぼんやりと眺めているわけではない。外部世界を内面化し、自他の境界を曖昧とする深い集中である。瞑想の一種と言って良い。頑張って耳を閉じているのだから、呼ばれたくらいでは気付かなかった。

 

「シュタルク」

「ん? 終わっ……た?」

 

 フリーレンに小突かれやっと気付くも、集中する視線を浴びて腰が引けた。

 

「シュタルク君に聞きたいことがある。その前に、フェルン、フリーレン様。並んで立っていただけますか?」

「なに?」

 

 意図が不明ながらも、立つだけなら大した事ではない。言われた通りに並び立つ。

 

「ありがとうございます。さて、シュタルク君。フェルンとフリーレン様と、どちらが大人の女性だと思う?」

「え゛?」

 

 フリーレンがシュタルクを見る。フェルンもシュタルクを見る。どちらも笑ってない。シュタルクの一挙一動を見逃さない観察者の目。

 

「そんなのそっちでわかるんじゃね!?」

「勿論私の意見もある。しかし、ここでの私は異邦人だ。この地で生まれ育ったシュタルク君の方が適切な見識を持ってるだろう」

「う゛っ……」

 

 この男、基本的に温厚で穏やかであるが、根は悪い。使える盾があるなら遠慮なく使う。

 シュタルクは周囲を見回すが、異邦人である男の他は魔族が三人。全く使えない。ダラダラと冷や汗を流しながらフェルンとフリーレンを交互に見て、実際の年齢はあれだからと後者を上げようとして、

 

「先入観なく思った事を言って欲しい。ここで言う先入観は二人の実年齢の事だね。見たままだと、どちらが大人の女性に思える?」

「う゛う゛…………」

 

 男は容赦なく逃げ道を塞いだ。無論、シュタルクへの悪意は微塵もない。むしろ同性の気安さで親しみすら感じている。今はただ盾になって欲しいだけである。

 

 シュタルクの脳裏を走馬燈の如くこれまでが過った。小さいフリーレンと比べてフェルンは背が高いしおっぱいも大きいし面倒見が良くてフリーレンの介護を度々してきた。対するフリーレンは、早起きしたら褒めてやらないと拗ねる。事情があったとしても、あーんしてもらわないとご飯が食べれない時がある。玉ねぎが苦手。美味しいのに。

 誰がどこからどう見てもフェルンの方が大人の女性に見えるだろう。しかし、問題があった。

 フリーレンは事ある毎に大人のお姉さんアピールをしていたのだ。フェルンは一度たりともそんな事がなかった。

 五対の視線の矢が刺さるシュタルクは耐えられなかった。本当の矢だったら突き刺さらなかったろうに。

 

「フリーレン、かな?」

 

 語尾を上げたのがささやかな抵抗である。

 しかし何の効果もなく、フェルンの視線が首筋に冷たかった。フリーレンがふふんと得意げに笑うのは、むしろ小憎らしかった。

 

「シュタルク君にはそう見えるのか。私にはフェルンの方が大人の女性に見えるよ。つまり、フリーレン様はまだ成熟してない。エルフは性成熟に時間が掛かるから他種族から取り残されるのでしょう」

「そこは旦那様が早められるんじゃないかしら?」

「それは何とも申し上げられませんね。さて、シュタルク君も疲れたろうから話し合いは一先ずここまでにしましょう。アウラ、口を開いていいぞ」

「………………」

 

 皆がシュタルクの反応を見定めていた中、アウラだけは男を睨みつけていた。じゃあ聞くなよぉと嘆くシュタルクは、既に誰にも見られていない。

 

「……私の魔法が逆転したからって、私が何も出来ないとは思わない事ね」

「それ! 旦那様に聞きたかったことだわ。アウラは旦那様に復讐したいのよね? 魔族も復讐するのね。ねえ、どんな気持ち? 復讐って何のためにするのかしら?」

「お答えしますが、まずは場所を変えましょう。皆疲れたようですから。疲れたところ申し訳ないが、リーニエにお願いがある。シュタルク君はさっきの話を聞いてなかったようだから、リーニエから簡単に説明してあげて欲しい。いいかな?」

 

 リーニエは小さく頷き、話を聞いてなかったシュタルクは気まずそうに顔を逸らした。

 

「アウラには後で話がある」

「私にはないわ」

「こっちにはあるんだよ。生死に関わるからちゃんと聞け」

「なによもう! もうそんなのばっかりじゃない! あんたが何とかしなさいよ!」

 

 こちらの世界では敵なしでも、ドアの向こうではアウラを羽虫のように扱う者たちがいる。沈黙を強いられ嫌なことを思い出させられ、積もったものが噴き出たらしい。

 魔族が心を手に入れた奇跡的な瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 アウラは一人で魔法の研鑽。ご飯の時間には帰りなさいと言われて顔を顰めた。

 シュタルクはリーニエが引っ張っていった。

 新婚のフェルンは男から離れず思い出話とこれからに花を咲かせると思われたが、フリーレンの手を引いて外へ出る。建物から十分離れたところで手を離した。

 聞かれたくない話であろうとは、フリーレンでも察せられた。

 

「フェルンはあいつと話したいんじゃないの? それより結婚ってなに? ソリテールたちが大人しいなら五年くらいここにいてもいいけど、フェルンもそのつもり?」

「違います。フリーレン様にお聞きしたいことがございます」

「……なに?」

 

 ソリテールと関わってからと云うもの、フリーレンが知らないフェルンを色々見せつけられてきた。何を聞かれるのかと身構えたのは正解だった。

 

「フリーレン様にも関わりがある話でございます。先ほどのソリテール様が仰っていたように、エルフは衰退している種族です。フリーレン様もエルフは緩やかに滅んでいる種族と仰っておりました」

「言ったね。それが?」

「それを解決する魔法はございませんか?」

「ないよ。そんなのがあったらエルフはこうなってない」

「……さようでございますか」

 

 即座に否定されたと云うのに、フェルンの顔に落胆はない。代わりに赤くなっていく。フリーレンにはさっぱりわからない。今日はずっとわからない事だらけである。

 

「まだ何かあるの? ないんだったら私もあいつに聞きたいことがある。ソリテールやアウラに魔法を教えたのはあいつだね。魔力がないのにどうやって何を教えたのか聞いてみたい」

「その時間はいずれ取って頂けると思いますが、その……私が伺いたいのは少し、違いまして……」

「なに? 聞くことは聞くよ。答えられるかはわからないけど」

「エルフは恋愛感情や性欲がとても少ないと伺いましたのでもしかしたらご存知ではないのかも知れないのですが……」

「だからなに? 回りくどいね。フェルンらしくないよ?」

「私に恥じらいがないようなことを仰らないでください!」

「そんなこと言ってないよ」

 

 大人しくて良い子なフェルンだが、稀に機嫌を損ねると面倒な事になる。髪を三つ編みにされるならまだしも、むっすーと頬を膨らませて口を利いてくれなくなる。

 今回はそれではなさそうだが、割と面倒だった。

 

「お聞きします」

 

 赤い顔を上げ、真っすぐにフリーレンを見詰めるフェルンは真剣だった。

 

「……聞くよ」

 

 それ以外に言いようがなかった。しかし果たして、フェルンの言葉はやはりわからなかった。

 

「確実に妊娠する魔法はございますか?」

「……………………は?」

 

 フェルンには長い付き合いであるフリーレンにも知らない面がある。

 それどころか、今のフェルンはフリーレンが知るフェルンと別人だった。

 

 

 

 

 

 

 広い家の中に、男とソリテールだけが残った。

 

「旦那様に私の家を案内するわ」

 

 と言って連れられたのはベッドがある部屋。元からある部屋を改装したのか、新たに増築したのか。

 造船工場なのだから海側は大きく開いていたはずである。窓から海が見える部屋なので、広い空間を区切って部屋を作ったと思われた。

 

「あの部屋には遠いけれど、工夫して綺麗な部屋にしたつもりよ。どうかしら?」

「良い部屋だと存じますよ。眺めが良いし、海に面しているのに波の音が聞こえません。気密性だけではないように思えます。魔法の効果でしょうか?」

「旦那様は魔法を使えないのにそこまでわかるのね。色んな魔法を掛けてあるわ。うるさいのは私も嫌だから防音の魔法は全部の部屋に掛けてあるの。今はフリーレンと魔法について情報交換しているからもっと快適になるはずよ。アウラにお願いして命令しなくても攻撃魔法でなければ話してくれるようになったの。嬉しいわ」

「それは重畳です」

「ふふ……。さぁ、私の隣に座って? いっぱいお話しましょう? そんなのも脱いで楽にして?」

 

 ソリテールが座ったのはベッドの上。小柄なソリテールが一人で寝るには大分広い。

 男は勧められるままにジャケットとベストを脱いで椅子に向かって放り投げ、ソリテールの隣に腰を下ろした。スプリングが全くない代わりにマットレスが厚く、座り心地が良ければ寝心地も中々と思われる。

 

「おっと」

「うふふ……、旦那様。私の旦那様♡」

 

 そして座るなり押し倒された。華奢な体に馬乗りにされ、挙句両手を囚われた。

 ソリテールは紛う事なき大魔族。常人より多少丈夫でそこそこ強い程度の男では全く抗えない。

 死臭も血の匂いもないが、薄く開いた口から白い歯が覗く。威嚇するようにカチンと鳴った。

 

「旦那様は今ここにいるけど、すぐにあの部屋へ帰ってしまうのね。私は鍵を失くしてしまったからもう行けないの。とても残念だわ。旦那様と会えるのはこれが最後だなんて。だからね? 旦那様がどこにも行けないように一つになろうと思うの」

「それはそれは。ソリテール様のお心を嬉しく思いますよ」

「本当? 私と一つになってくれるのね♡」

 

 ソリテールはチュッと唇を合わせてから、甘く囁いた。

 

「でもそんなこと言って旦那様は狡いから、あの時みたいにされちゃうかも知れない。でも逃げられないでしょう? 私は何も飲まされてない。防御力が高い服も脱いでる。ドアは魔法で閉じたから外には聞こえないし入って来れない。旦那様の全部が私の中に入ってきて、ずっと一緒のままになる」

 

 桃色の唇を赤い舌が一周した。

 いつぞやの舌なめずりと、近くて遠い。今度こそ食べるため。

 

 フェルンに結婚を勧め、二人より三人の方が人類社会への理解が深くなると思ったのは本当。

 旦那様ならエルフの衰退を食い止められるのではと思ったのも本当。

 復讐について詳しく教えて欲しい。

 但し、その時だけのもの。今は愛しの旦那様を喰い殺して一つになりたくて堪らない。それ以外に考えられない。もうすぐ二度と会えなくなってしまうのだから。

 

「そんな事を為さらなくても、ソリテール様をあの部屋でお待ちしておりますよ。これからも時が続く限りお会いできます」

「……旦那様って魔族より嘘吐きなのね。鍵がなくなっちゃったのよ? もうあそこへは行けないわ」

「そこが違うのですよ。お聞きします。ソリテール様が鍵を失った時以外で誰かへ鍵の事を話したり、或いはフェルンから聞かされたことはございましたか?」

「ないわ」

 

 ソリテールもフェルンも遠い部屋や鍵の存在は表立って話したいことではなかったので、互いの言葉は匂わせるのが精々だった。部屋の存在を知らなければ何のことかわからなかったに違いない。

 

「私も同じです。自身の世界に戻っても、鍵やドアの事を話せたことは一度もありません。先ほどお話しましたね。聞き取れる言葉にならなかったり、言葉が意識に上らなかったりするのです。ですが先ほどはソリテール様もお聞きになった通り、詳細に語る事が出来ました。シュタルク君は聞いてなかったようですが、リーニエがどのように伝えるかで答えが出ます」

「それがどうしたの? 旦那様は話せなかったのかも知れないけど、私とフェルンは話したくなかっただけ」

「結果に注目してください。おそらく話そうとしても話せなかったはずです。私の推測が正しければ、先の話を聞かなかったシュタルク君はリーニエから鍵と部屋の話を聞かされないと思いますよ。もしくは、聞いたとしてもシュタルク君の記憶に残らないでしょう。すぐに答えが出る話です」

「……どういう事なのかしら? 旦那様は何を言ってるの?」

「ソリテール様には鍵の所有権があり続けていると云う事です」

 

 ソリテールは目を丸くしてから二度瞬きした。垂れ目の印象が薄れてとても可愛らしい。

 

「きゃっ」

 

 叫び声も可愛らしい。

 力が強かろうと体重は見た目通り。抑える力が緩めば、あえなく上下が逆になった。

 

「推測と申しましたが、私は確信しておりますよ」

「本当に?」

「勿論です。単に鍵が失われただけなら私がこの地に招かれる事はありません。現にフェルンの時は何も起こらず何も知らされず、フェルンが訪れなくなっただけでした」

「……もしもシュタルクがリーニエから全部聞いていたら二度と旦那様を離さないわ」

「構いませんよ。この後に、一時間ほどしたら確かめに行きます。一緒に行きますか?」

「一時間も? すぐでもいいのじゃないかしら?」

「おわかりでしょう?」

 

 アウラに引き摺られてドアを潜った時は、二度と自身があるべき世界に帰れないのかと恐怖したし理不尽な状況に怒りもした。

 が、鍵について語り得た事で考えが変わった。今回の訪問は営業活動である。利用者大量獲得のチャンスなのだ!

 

 鍵の所有について全く瑕疵がないソリテールは当然として、かつての所有者であったフェルンも、そこに加えてフリーレンとリーニエ。一挙に四名獲得のビッグチャンス到来である。

 話を聞いてなかったシュタルクは残念だ。鍵或いはノートの選定から漏れたのだろう。

 どういうわけか利用者は女性ばかりである。不思議な力が働いている。

 これでシュタルクがリーニエからきちんと話を聞けていなければ推測の裏付けとなる。

 

 上手く行けば、ソリテールたちは一度に四つのサインを残してくれる。四つである。毎回二人で来訪するラムとレムの倍である。二度来てくれるだけで帰還のドアが開く。

 このビッグチャンスは何としてもものにしなければならない。

 

 が、それとは全く別の割と切実な問題があった。

 ここは異界の部屋の外であり、時間の流れが止まったり引き延ばされたりする事はない。一定の速度で流れ続ける。

 

「あんっ……、外はまだ明るいのに。旦那様ったら♡」

 

 一体どこで覚えた言葉なのか、なんて野暮は言ってはいけない。血反吐を吐かされ覚えさせられた。テキストで学んだことは実践を通して血肉となっている。

 ソリテールなりに雰囲気を高めようとしてくれているのだから、ここは喜ぶべきである。

 

「ソリテール様にお会いするのは久し振りですから、心が急いてしまうのですよ」

「本当のことを言うとね? 私もそうなの♡」

 

 男が上でソリテールが下。

 言葉を交わしながら顔が近付き、唇と唇が掠める距離になる。

 男が軽く触れさせれば、ソリテールは舌を出して妖しく舐めた。

 

「フェルンのことを言えないわ。私ね? 旦那様を食べてしまおうと思った時から……、ずっと濡れちゃってるの。ねぇ、触ってみて?」

 

 上に乗る男のワイシャツを、ソリテールは一つずつボタンを外す。あの部屋へ行く度に外してきたのだから慣れたものだ。

 ソリテールが着るのは袖がない白のワンピースドレス。屋内では赤いボレロを脱いでいる。スカート部は長いようで膝より少し下。男の長い手がそろりと入って上ってきた。

 

「んっ♡ ほら…………ね?」

 

 細い脚を舐めるように撫でながら、男の指が脚の付け根に届いた。指先が触れるだけでじわりと滲んできた。

 

「旦那様も硬くしてるのね。嬉しいわ♡」

「気が急くと申し上げましたよ?」

 

 男がソリテールに触れれば、ソリテールは男に触れていた。黒いスラックスの上から手のひらで包むように撫で始める。やがて、ジッパーを下ろした。

 

「ねえ……、今日はこのまましましょう? 汚れてしまったらフェルンに魔法を掛けてもらえばいいから」

 

 フェルンが覚えた「服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法」は伝説級の魔法である。魔法名通りに着ている服を綺麗にしてくれる。当然、下着も。ついさっき、フェルンが実演してみせたばかりである。

 

「旦那様のをいっぱい掛けて、私の全部をどろどろにして?」

「喜んで」

 

 どちらからも相手の唇を貪った。

 

 

 

 

 

 

 ところで、人間には生存に関わる三の法則なるものがある。

 呼吸が三分止まると死ぬ。体温保持が三時間出来ないと死ぬ。水を三日飲まないと死ぬ。食料を三週間食べないと死ぬ。

 それと同レベルで、三日セックスしないと死んでしまう男である。

 死を恐れる男ではないが、禁セックスで与えられる死は真の主の顔に泥を塗り、恥辱に塗れて孤独に死ぬ羽目になるのだ。絶対に避けなければならない。尤も、ここにはメイド長がいないので死ぬ事はないのだが、事ある毎に「手段を選びません」とやられて骨身に染みていた。

 例え死ななくても夢精は避けたい。夢精してにちゃぁとなってしまったパンツをフェルンの魔法で綺麗にされるのは恥ずかしい。もしもそうなってしまったら、小さかったフェルンにパンツを穿かせたエピソードを語るつもりでいる。

 

 そのフェルンはフリーレンから色よい返事がなかったので、魔法の開発を持ち掛け師匠を困らせていた。

 

 アウラは一人で魔力の研鑽。

 

 残る一組。

 リーニエは男から頼まれた通りに、シュタルクへ話し合いの内容を全て伝えた。遠い部屋の存在からドアを開く鍵についても漏れなく語る。

 しかし、話す順番が悪かった。

 初手でフェルンの結婚について話し、シュタルクの精神を肉体から旅立たせた。以降の話はシュタルクの頭に全く入っていない。

 長い旅から戻ったシュタルクは、旅立ちを決意した。




一段落付いたようでついてない
方位は定まったと思うが距離がわからない_(:3 」∠)_
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