奉仕しないと帰れない部屋に囚われた男の業務記録 作:dolph
白いドアが開かれ異界から訪れる利用者の姿を認めると、男はそれと気取られないように気を引き締めた。帰還するには利用者の訪問が必須であるのに、内心を言葉にすると甚だ不遜なことながら「来やがったか」である。
「来たぞ。今日もくつろがせてもらおう」
「……ようこそおいで下さいました。こちらに記帳をお願い致します」
一見すると凛々しい女騎士である。
眩い金髪を清廉に一つに束ね、強い光を放つ目は鮮やかな青。顔立ちは端正で金髪碧眼の美麗な少女であるが、それだけに留まらない。
立ち姿は自信に満ち溢れ、品格すら漂うのは高貴な生まれを予感させる。
傷一つない金属製の胸当てと肩当てを身に着け、武張った姿に威圧感を発しつつも、如何なる脅威であろうと彼女がいれば大丈夫だと安心感を抱かせる。
それでいて鎧を脱げば、女の魅力に溢れた肢体を現す。ドレスに着替えれば男たちの視線を大いに集めるだろう。
非の打ち所がない理想的な姫騎士を体現している。
但し、大変遺憾な事に「外見だけは」と付け加えなければならない。
男は彼女が記帳する利用者ノートを覗き、片眉を吊り上げた。
「恐れながら、本当のお名前をフルネームでお書きください」
「ちゃんと書いてるだろう。これが私の名前だ」
「偽りを記すことは不可能であると何度もお伝えしております。ご記入いただいた箇所が黒く潰れているのがご覧になられますか?」
「私にはちゃんと読める。これで問題ない」
「問題があるから申しております」
「大丈夫だと言ってるだろう」
「駄目です」
「駄目じゃない」
なんでこんな馬鹿馬鹿しい問答を繰り返してるのだろうと男は自問しつつ、切り替えた。
彼女はこれでも貴重な利用者の一人である。一応は丁重に応対するのだが、そこが不満であるようだ。彼女は最初からこうだった。頭痛が痛くなったのを覚えている。
「黙れ。書け」
男は鋭く言い放った。この部屋では無論のこと、帰るべき世界でも滅多に見せない剣呑な態度である。
「な、なんだ急に……。私はちゃんと自分の名前を書いたんだぞ!」
凛々しい目元が少し赤くなる。目元のみならず、頬もうっすら赤らんできた。
「書いてないから言ってる。口答えするな」
「凄んでも無駄だ! 私は不当な圧力にはけっして――」
言葉の途中で、ぱあんと快音が響き渡った。男が少女の頬を平手で張ったのだ。必要とあらば美女美少女の顔を全力で殴れる男である。
少女は打たれた頬を押さえ、顔を伏せた。怒ったのか、わなわなと体を震わせる。打たれていない側の頬が赤くなってきた。
「わ……わたしが暴力に屈するとでも――」
きっと顔を上げ、眼光鋭く男を睨みつける。しかし顔を上げるなり、またも乾いた快音が響き渡る。反対の頬も打たれた。打たれた箇所がじんわりと熱を持ち、赤くなっていく。
「名前を書け」
「………………はひ♡」
彼女はとろんと目を蕩けさせ、覚束ない手つきで記帳した。
彼女が最初に書いた名前は「ダクネス」。しかし偽りであるとノートに拒否され、文字が黒く滲んでしまった。
書き直した名前は「ダスティネス・フォード・ララティーナ」。ダスティネスが家名、フォードはミドルネーム、ララティーナが彼女個人の名前である。
ダクネスを自称するララティーナを持て成す困難さを、男は最初の訪問で痛感させられていた。
■
初めて異界の部屋を訪れたダクネスは、物珍しそうに周囲を見回した。しかし、豪奢極まる応接間を見ても興奮はなく、退屈そうな様子を見せた。美しい男がかしずいても態度は変わらず、いっそ冷淡ですらあった。
男がこの場について説明するのを生返事で聞き流すダクネスは、自分がここを使う事は二度とないだろうと思っていた。
ダクネスが住まうベルゼルグ王国において、ダスティネス家は王族の懐刀を担う一族であり、歴とした公爵家である。ダスティネス家の令嬢であるダクネスは贅沢に慣れきっている。目を見張る豪奢な部屋を珍しく思いつつも、行き過ぎであると感じた。
美しい公爵令嬢なのだから言い寄ってくる男は腐るほどいた。有望な貴公子と見合いが組まれたこともあった。誰も彼もダクネスの琴線に触れなかった。ダクネスは、美しく品の良いだけの男は飽き飽きとしていた。男なら雄々しくあるべきと思うのは、ダクネス自身が戦場に立ち、騎士としての役割を果たしているからだろう。
例え好みでなくとも、突然現れた異界の部屋が素晴らしい場所であることはわかる。ただ、ダクネスとは決定的に合わないと言うだけで。
男の話を聞き終えたらサインだけして帰るつもりだった。好きになれない場所でも、この場に囚われ帰れない男の力になってやろうと思う情けが、ダクネスにはあった。
しかし、最後の言葉が何かに触れた。
「飲尿の強要はご遠慮ください」
ダクネスは大きな衝撃を受けた。
幼少期から貴族としての教育を受けてきたダクネスは、肉体の力のみならず理論的に考える術も身に着けている。
禁止ではなく遠慮しろと云う事は、絶対禁止を意味するわけではない。と云う事は、強要すればやるのだろうか。飲尿を。
ダクネスは屈辱に燃え盛った。
「飲尿の強要だと!? 私がそんな事をするとでも思ったのか!!」
「そのように思っているわけではございませんが、注意事項として挙げさせていただきました」
ダクネスは火のように食って掛かったが、男は動じず言葉を返す。
返された部分が良かったのか悪かったのか、ダクネスは一層熱してきた。
「私がしないなら誰がすると言うんだ! まさかお前が私にするつもりなのか!?」
「……私が何かを強要することはございません。お望みでありましたらその限りではございませんが」
「ばばっばばばばバカを言うな!! 私がおしっこを飲ませろ何て言うわけがないだろう!」
「仰らないのでしたら私がする事もありません」
「そんな事言って私の油断を誘っても無駄だ! 私が隙を見せたら縛り上げて掛けるつもりなんだろう!? おしっこを!」
「……かけて欲しいんですか?」
「ふざけるな! そんな淫らがましい事をして欲しいわけがあるか!」
ダクネスは、いよいよ興奮してきた。端正な顔を赤く上気させ、吐く息も熱く荒い。言葉を区切る度に、はあはあと熱を吐き出している。
一方の男は混乱してきた。ダクネスの異常に気付いてしまったのだ。ダクネスが異常な性的興奮状態にあること。そして、脳みその異常である。
言葉の意味は通じているはずなのに、会話が出来ない。投げる言葉全てが深淵に吸い込まれ、得体が知れないものを吐き出してくる。
美麗な少女であるのに、悍ましさすら感じさせる変貌であった。
「……もしや淫らなことに興味がおありなのですか?」
「バカを言うなっ!?」
声が上擦ってきた。握る拳に力が入っている。
「興味はないのですね?」
「当然だ! 私はどんなに淫らな欲望をぶつけられても決して屈しはしない! 我が剣に誓って、絶対に屈しない! 何があろうと私は絶対に耐え抜いてみせる!」
この男は20世紀初頭の日本を知らない。押すなよ押すなよネタがわからない。そして忖度力も足りていない。空気は読むものではなく吸うものだと力説する。
しかし、ここまで食い下がるのなら、やってみろと云う挑発なのではと察することが出来た。
「それでは失礼をして」
「あっ!? 何をする!?!?」
猛る彼女の肩に手を置き、重心を狂わせて床に膝を突かせる。尚も押してペタンと尻も突かせた。彼女に抵抗の意思があったとしても、触れた状態で仕掛けられたのなら避けがたい技であった。
ダクネスは呆然と男を見上げた。力に寄らない技への驚きがあった。自分は下で相手が上なのを形にされ、全身を屈辱で炙られた。
それでもダクネスは屈しない。己の高潔な精神は何があろうと決して折れぬことを主張しようとして、大きく目を見開いた。
「なっなっなっなっなっなにをすりゅつもりだっ!?」
自身を跪かせた男が目の前に立ち、股間をごそごそやっている。
スラックスのジッパーをジーと下ろし、中から取り出したものは、ダクネスが物心ついてから一度も見たことがないものだった。
「はっ………………、はわわわわっ!? しょっしょしょしょしょ、しょれわっ!?」
「ああ、顔の向きはそのままで。動かないでください」
「ひゃいっ!?」
動こうにも動けない。ダクネスの視線は男の股にくぎ付けだった。
見たことがなくても知識はある。女は持ち得ない肉で出来た棒状の器官は、男と女の体で一番違う部分である。
「ひゃっ……………………」
ダクネスが凝視する中、男の股とダクネスの艶やかな金髪とを、仄かに黄金が混じり仄かに臭い体温と同程度に温かい放物線が繋いだ。
ダクネスは、頭が温かくなった。
水のようにサラサラとした液体が頭部から首筋を伝って背中に流れ、前面では額から流れて鼻梁の両脇に道を作り、艷やかな上唇に達した。
ダクネスは呆然と口を開けている。液体は口の中へ入ってきた。舌に触れた。汗のような塩気があった。
反射的に口を閉じ、口内に溜まったものを飲み干した。喉を通って胃の腑に落ちた。
「はうっ………………!!!」
ダクネスの目がクルンと回る。白目を向いてバタンとその場に倒れ伏した。意識が途絶え、手脚がピクピクと痙攣する。
しかし秀麗な顔は恍惚として、幸せな夢に遊んでいるようだった。
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初めての訪問時は朦朧とした状態で利用者ノートにサインさせたが、二度目以降の訪問ではサインさせる度に似たようなやり取りを繰り返す。サインをさせるのが一苦労なら、応対するのも努力と体力と気力を要する。
これでこまめに訪問してくれるのならありがたいが、ダクネスの訪問は不定期だ。
ターニャは初めての利用者である。
異界の部屋に囚われ利用者を饗せば帰れると記されてはいたものの肝心の利用者が訪れず、途方に暮れていた男に希望を見せたのがターニャである。ターニャは現役の軍人であることから戦場を駆け回り、一週間どころか数ヶ月空くこともある。それでもいつかは必ず来てくれると信頼している。ターニャが軍大学に通っていた頃は週に一度の訪問を欠かさず、互いに懐かしく話すこともあった。
ラムとレムにはとても感謝している。
二人は屋敷勤めのメイドである。主人に気に入られているらしく、個室を与えられている。主人が出掛けるのに同行するときも、滞在するのはやはり個室だ。そのため、毎週必ず訪問してくれる。しかも二人一緒に。男がおうちに帰れるのは、半分以上がラムとレムのおかげである。恩返しに相談に乗るくらいでは不足が過ぎる。それでもやはり、飲尿は出来れば避けて欲しいと思っている。
そこにダクネスである。
ダクネスは公爵令嬢なのに何故か不安定な職業についているらしく、そちらの影響で訪問が不定期だ。めいっぱい我慢した方が気持ちいい、もとい快楽になんて負けない、もとい遠征などがあるので不定期にならざるを得ないとか。
それでも普通の応対で済むなら良いが、ダクネスは一筋縄では行かなかった。頭におしっこを掛けられて再訪問するのだから、推して知るべきだったのだ。
応接間は元より、部屋に備わった各施設は勝手に綺麗になる。しかし応接間で放尿するのは気分的によろしくない。
そこでダクネスの言動から推察し、頬を平手で張ったら大いに悦ばれた。本人は否定していたが。
しかし、楽ではなかった。叩かれる方はろくに痛みを感じていないようであったが、叩く方が痛くなった。心ではない。ダクネスを打つ平手である。柔らかな頬なのに、どんな不思議か叩く時は鋼のように硬くなる。それを何度も打たなければならないのだから、打つ方は大変な苦労であった。
そこでやり方を工夫した。叩く手が痛くなるなら道具を使えばよい。鞭を使われ、ダクネスは大変満足した様子を見せた。本人は否定していたが。
これで安定した関係を築けると思ったところで、ダクネスから要望があった。こんなに豪華な部屋で相応しい行為ではないと言うのだ。鞭で打つならそれなりの場が必要であると主張した。とても回りくどい言い方であったが。
そこでなんと、応接間に地下牢が現れた。何から何まで超常の異界の部屋は、利用者と管理者の要望に応える機能があった。当然のことながらダクネス専用地下牢である。
男はダクネスを拘束して放置したかったのだがそういうわけにも行かず、あらゆる道具を使わされることを余儀なくされた。放置は駄目絶対であるらしい。
ダクネスが重度の被虐性癖を患っている事を、これでもかと思い知らされてきた。
彼女の将来と自身の負担軽減のために頑張って穏当な方向へ誘導しようとしてきたが、症状を緩和する事すら不可能であった。
今日も重度な肉体労働を科せられるのかと思えば、ため息が深くなる。
「なっ……なんだ、ため息何てついて。私に言いたいことでもあるのか? あるならはっきり言えばいい」
「何でもありませんよ。今日はどのようにダクネス様を持て成そうかと考えておりました」
「お前の考えなんてお見通しだ。彼女たちのようにいやらしい事をするつもりなんだろう! 私がその程度でどうにかなると思ったら大間違いだ!」
ダクネスが見ているのは、ラムとレムが書いた利用者ノートのメモである。
管理者である男は、サインの名前は読めても具体的な記述は全く読めない。しかし、二人がいやらしい事を書くわけがないと知っている。利用者が増えるよう褒めてくれているはずなのだ。
ダクネスよりラムとレムを信じる男は取り合わず、ダクネスの手からノートを取り上げてテーブルに戻した。
「うっ……、いつもより強気だな……」
「私はいつもと変わりませんよ。ダクネス様が弱気になっておられるのでは?」
「そんなことは……」
「とりあえず、それに着替えろ」
男はダクネスの前に粗末な布を放った。
「そもそもどうして鎧姿で来る? ここは戦場ではなく休む場であるとわかっているでしょう?」
「それは……、部屋に戻ってすぐに来たからで……」
これもまた何度も繰り返した問答である。言っても無駄だと男は悟っていた。
「せめて鎧だけは脱いでください」
「わかった……」
ダクネスは、ちらちらと男の顔色を窺いながら胸当てと肩当てを外す。屈んで脚甲も外し、恐る恐る男を見上げてから背中を向けた。
渡された衣服の様子から、素肌の上に着るものだと察しがついた。これまでも地下牢に囚われる時などは着替えさせられたものだが、やはり裸身を男に晒すのは恥ずかしい。辱められるのが大好きでも、恥ずかしいのは苦手なのだ。しかし、耐える価値があると知っている。
男に見下ろされながらシュルシュルとアンダーウェアを脱ぐ。脱ぎ掛け、手が止まった。
下にはパンツを穿いてるが、上には何も着けてない。ドレスや部屋着ならちゃんと着けるが、胸当ては体の形にピッタリ合っているので着けなくても揺れて困る事がない。むしろ着けた方が違和感がある。前回も同じ事で葛藤したのに、忘れてしまったのは気が逸ったせいだ。
しかし、ここで耐えてこそと知っている。意を決して脱いだ。
騎士の出で立ちだったのでパンツは飾り気も色気もない白。そんなパンツ一枚だけの姿になり、膝を立て両脚で体を隠す。左手で脚を抱え、右手を伸ばして衣服を手に取り、後ろを気にしながら衣服を広げて固まった。
「こここここれを着るのか!?」
「その通りです。ダクネス様だけのために特別に作りました」
「いや……だがこれは……」
「着替えたらこれを付けてください」
「!!!!」
ダクネスの前に放られたのは、三つのベルト。腰に巻く物よりずっと短い。内二つは対になっており、短い鎖で繋がっている。
どこに付けるものか理解した瞬間、ダクネスの息が荒くなった。
「んっ……、はぁ……。これを付けろと言うんだな?」
「その通りです。早くしろ」
「ひゃいっ!」
命じられ、ダクネスは衣服を頭から被った。服を名乗るにはおこがましい布切れだった。
作りとしては貫頭衣。あるいはチュニック。袋状の布に頭と腕を出す穴を開けただけの単純な構造だ。生地を選んで細部に手を入れれば立派な衣服を名乗れる。
しかし男から渡されたチュニックは、開けられた穴が大きすぎた。頭を通す穴は肩が通るほど広い。ずり落ちないように着れば襟が広がって、胸の谷間どころか先端まで見えてしまいそうだ。腕を通す穴も大きい。脇腹まで届いている。穴が大きいと言うよりも、ここまで来ると生地が小さいと言えた。
そこまでなら、広い襟口を背中へ引っ張れば胸を隠せる。しかしそれをしてしまうと、今度は股間が隠せない。チュニックは絶対的に丈の長さが足りなかった。
ダクネスのためだけに作られた特製のチュニックである。
何でも揃っているクローゼットのドレスは、全てに魔法が掛かっている。着用者に合わせてサイズが変わるのだ。ダクネスが着たチュニックは違う。男がダクネスに合わせて裁断した。
胸を完全に隠そうとすれば股間が隠れない。股間全てを隠そうとすると胸が隠れない。バランスを取って胸の先端だけを隠せば、股の間がちょっぴり覗く。
ダクネスはバランスを取った。
バランスが崩れないよう慎重に立ち上がり、首輪を嵌める。左手にベルトを嵌めて外れないよう締め付けを調整し、震える手で右手のベルトを男に差し出した。
「んんっ!」
ダクネスは、右手にベルトを嵌められ外れないよう留められた瞬間、小さく呻いて体を震わせた。
「それではついてきて頂きましょう。ダクネス様のために新たな施設を作りました」
手枷にも首輪にも、リードのフックを留めるリングが付いている。
男は手枷のリングにリードを繋ぎ、ダクネスを振り返ることなく歩き始めた。
「はぁ……はぁ……、ま、まってくれ……! そんなに引っ張るな……」
着替えたダクネスはいつも通りに歩けない。大きく足を踏み出せば、チュニックの裾からパンツが覗いてしまう。
だけども男は振り向くことなく先を歩く。男の視線を気にする必要はないはずだった。
ダクネスがいつものように歩けないのは、内股と内股を擦り合わせているからだ。
むっちりとした太ももがすり合わされ、肌には汗が滲んできた。汗ではない水気が混じりそうで、ダクネスは熱く荒い息を吐いた。
続けると長くなりそうなので分割
分割と云っても次話は一文字も書けてない