※この作品はR-18です。

奉仕しないと帰れない部屋に囚われた男の業務記録   作:dolph

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折角脳みそを切り替えたので書きました
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魔族の絶対

 翌朝、目を覚ましたフェルンは隣のベッドが空になっている事に驚愕した。が、フリーレンを探す事なく朝食の準備に取り掛かる。昨日のフリーレンは昼間からよく寝ていたので、夜になったら目が覚めて何かしらをしていたのだと思われたのだ。

 朝食の準備をしている間に他の同居人たちが顔を出す。食べるだけの三人に待っているよう言い置いて、まだ顔を見せない三人を探しに赴き、三人が一緒に寝ているのを発見した。

 

 フリーレンは寝間着を着ているけれど、他の二人は裸でいる。三人で一体何をしていたのかとフェルンは目を吊り上げかけたが、フリーレンも一緒なのだ。

 投げキッスをエッチだと思っているフリーレンがそのような事をするとは考えにくく、兄様は節操なしではない。昨日も自分と三回もした事であるし。

 そう思えば、少女二人がお兄さんに甘えているように見えなくもない。

 ソリテールは油断ならないと知ってはいるが、体付きの女らしさは自分が圧勝している事実が心を励ます。努めて冷静を装い三人を起こせば、思った通りに何もなかったと確認できた。

 

 昨夜の男とフリーレンは昨日の朝の続きを話していたらしい。その最中に鍵が現れたとソリテールが報告に訪れ、そのまま盛り上がってしまったのだとか。

 おかしな匂いをさせている事もなく、フェルンは三人の言葉を疑わなかった。ソリテールだけなら信じ難いが、他の二人がフェルンを騙す必要はないのだから。

 

 確かに誰も嘘を吐いてない。全部話してないだけである。

 フェルンの後ろ姿を見送るフリーレンは男を小突くが、言葉にされないと男には何のことだかわからない。男なりに解釈して、今日はフェルンをたっぷり可愛がると約束した。

 全然違うのだが、フリーレンはもうそれでいいことにした。そしてソリテールは、昨夜のように混ざるか鑑賞に留めておくべきか頭を悩ませ、フリーレンの強い言葉によって後者を選択することにした。

 もしかしてこの問題は自分が悩んでいるだけかとフリーレンは愕然として、考えるのを止めた。全部この男に任せればいいのだ。それ以外の選択肢はなかったし、最も賢明な選択でもあった。

 

 

 

 

 

 

 それぞれの自由より効率を重視する男によって、人類三人と魔族三人は食事を一緒にするようになっていた。

 和気藹々を求めなかったり自己完結したり心身を充実させた面々は静かな食事を気にしないが、どれにも当てはまらない一人はちょっぴり胃が痛くなっている。食事が以前よりも美味しくなったのが細やかな救いであった。

 

 食事を始めるのが一緒でも、食べ終わるのはそれぞれである。食べるのが早い男二人が席を立とうとした時、ソリテールが口を開いた。

 

「フリーレンとフェルンはわかっているわね。リーニエも残って。旦那様はいてくれてもいいのだけれど、少しだけ私達だけでお話したいの。いいかしら?」

「構いませんよ」

「だったら私にも用はないわね。好きにするわ」

「……ええと、俺は?」

「アウラが行くんだから椅子になっていればいいんじゃないかしら?」

「ならねーから!」

 

 あれから幾日も経っているのに、ソリテールはいつまで引っ張るつもりなのか。人間と時間感覚が違う魔族だからか。すると、十年経っても同じことを言われるかも知れない。酷い未来に、シュタルクは嫌な汗が滲んできた。

 

「だったら丁度いい。私からアウラに話があります。シュタルク君にとって関係ある話じゃないが、戦士のシュタルク君なら面白いと思うよ。良かったらアウラと一緒に聞いてみないか?」

「私はあんたと話したいことなんて何もないわ」

「俺からはあると言っただろうが。今日は逃げるな」

「チッ……」

「ソリテール様たちの話が耳に入らないよう、遠い部屋を使います」

「防音の魔法が掛かっているからどこでも大丈夫よ。アウラは出来ても解除しないでね」

「チッ……」

 

 とてもお行儀が悪い大魔族に男は苦笑するが、シュタルクは冷たい汗が乾かない。出来るなら同じ空間にいたくない。しかし、はいともいいえとも言わない内に断れる段階を過ぎていた。今更断ろうにも、急ぎの用事は何もないのだ。

 断ってしまったら隔意があると思われそうで断れないのがシュタルクの良いところ。それが本人を苦しめているのは別の問題である。

 

 皆が食事を終え食器も片付けて、フェルンがお茶とお茶請けを用意する。昨日、兄様と一緒にたっぷり作った焼き菓子だ。菓子を見てリーニエが微妙に口角を上げるも手を伸ばさない。食いしん坊と思ったが違うのだろうかと内心で小首を傾げるも大した疑問ではない。

 

 フェルンが椅子に座ってから、ソリテールがコトリと小さな鍵をテーブルに置いた。

 話を聞かされていても、フェルンは目を離せない。

 リーニエは軽く目を落とすだけで、焼き菓子とあのシロップ漬けドライフルーツと、お茶に合うのはどちらか考え始めた。

 フリーレンも、鍵の効果を聞かされはしたが実感がない。軽く一瞥するだけだった。

 

「昨日見せられたね。それがあるとあいつのところに行けるんだって?」

「そう。旦那様がいる遠くの部屋に通じる鍵。昨日の夜、私のところに現れたわ。これからも旦那様に会い続けられるの。旦那様の言った通りになって良かったわ。だから」

 

 ソリテールは一堂を見回し、フェルンで留めた。

 

「もしもまた鍵が失くなったら、この場の全員を殺してから人類と魔族を絶滅させるわ」

 

 全く調子を変えず、微笑みながら言い切った。

 

 自分が原因で鍵を失う事はない。そうなるとしたら、この場の誰かの所為となる。自分に不利益がある者を生かしておく理由はない。積極的に除去すべきだ。

 人類と魔族の絶滅は、旦那様から教わった事を実践するため。もののついでで色々な話をしてくれて、その度にソリテールはもっともっととせがんでいた。

 遊びとしての戦闘も、本当の戦闘も、目的を達する方法も、色々な事を学んできた。

 人類と魔族を絶滅させるのは、旦那様の言葉を確かめる事に他ならない。

 

「ありえません。そうならないよう私が阻止します。リーニエにはソリテール様から能々言い聞かせておいてください。フリーレン様には私から厳重に注意させて頂きますので」

 

 この場が戦場であれば、戦闘や逃走以前の話だ。如何にして最後の言葉を遺すのか試行錯誤する場面である。

 今は違う。フェルンは正面から飛んでくる視線に怯むことなく、真っすぐに見返した。

 

「本当に? フェルンは前も失くして、今度もフェルンのせい。いつかフェルンがおばあちゃんになっても誰にも言わないでいられる?」

「兄様と約束しました。誰にも話しません。ずっと私の傍にいてくださったフリーレン様に相談しようとして、私は鍵を失いました。以降はフリーレン様にも話した事がありません。……私は皆さまと同じ速さで歩けませんが、兄様と私の子供のためにも未来を損なうことは絶対にしないと宣言します」

「……そう」

 

 それはソリテールが望んでも不可能な事である。望んだ事もない。フェルンの宣言を聞いても変わらない。しかしフェルンがそこまで強く言い放つのなら、そこには人間だけが持つ何かがあるのではと興味を引かれた。

 今は後回しである。

 人類二人と魔族二人の一見混沌とした会議は、強固な目的意識によって脇道に逸れることなく進んでいく。

 

「それならフリーレンはお願いね。でもフリーレンも旦那様と――」

「魔導書がいっぱいあるんだろ? 行けるなら行けるだけ行きたいに決まってる」

「それだけじゃなくて、フリーレンは旦那様と――」

「あいつに説明させろ! ソリテールじゃちゃんと話が通じない」

「それもそうかしら? 旦那様はお話がとっても上手だから♡」

「……後ほど兄様に伺ってみます」

 

 フリーレンに疚しい事は何もない。何もないのだが、婚約直後に初夜でソリテールも一緒に、なんて話せるわけがない。感情の機微にいまいち鈍感なフリーレンでも、それが不味い事くらいわかる。何よりも客観的に見ればエッチ過ぎてフェルンの誤解を招きそうだ。

 それが誤解であるかどうかはさておき、三者の視線は大口を開けて焼き菓子に食らいつこうとするリーニエに集まった。

 

「リーニエにはきちんと言っておくわ。旦那様の事も、この鍵の事も、この鍵を使っていける場所のことも、誰にも話しては駄目よ? 話していいのはこの場にいる三人と、旦那様と、アウラだけ。もしも自分より魔力が多い誰かに強制されそうになったら、話す前に死んでね。わかった?」

 

 リーニエは口を閉じられず、白い顔を上下に振った。

 

「私の言った事がわかったか確認するわ。私は何て言ったかしら?」

「旦那様の事、鍵の事、鍵で行ける場所の事を絶対に話しません」

「それでいいわ」

 

 ソリテールはずっと微笑を浮かべている。見た目はリーニエと同年代の可愛らしい少女であるが、実年齢は十倍以上開き、魔族が絶対視する魔力も同程度に開き、実戦となれば近付く前にバラバラにされてしまう。

 リーニエは魔族の性としても、拒むことが出来なかった。仮に言われなくとも、美味しいものがいっぱいあると云うのだから行けるだけ行きたいと思うのはフリーレンと同じである。

 

「皆が約束を守ってくれるなら皆の事は私が守るわ。旦那様はこの場にいる全員で来て欲しいみたいだから」

 

 ソリテールにとって、自分の欲求よりも旦那様の希望の方が先に来る。

 それがフェルンに何度目かの敗北感を刻むのだが、この場の誰も気付いていない。その敗北感とて、男がフリーレンへ宣言した通りの事を実行して綺麗に解消される予定である。

 

「鍵は私が持っておくわね。鍵を使う時は声を掛けるから」

「仕方ありません。必ず絶対に声をお掛けください。一人で行こうとしたら……」

「何かしら?」

「いえ、何でもございません。ソリテール様が兄様の名に掛けて誓ってくださるのなら結構です」

「もちろんよ。私が旦那様を裏切る事なんてあり得ないわ」

 

 ソリテールは裏切りの意味を知っている。それと同時に、魔族の誓いは無意味の代名詞。

 しかし、ソリテールは男を裏切れない事を、ソリテール自身が知っている。そのような選択肢は始めから存在しないのだ。

 

「私から話したいのはここまでよ。旦那様とアウラはいつかあの部屋に帰ってしまうから、そうしたら使う事にするわね」

「……あいつがここにいると使えない? 魔導書があるなら早く読みたいんだけど?」

「駄目よ。そうしたら旦那様と一緒にいられる時間が短くなってしまうわ」

 

 それはフリーレンとフェルンにとって、とても説得力がある言葉であった。

 

 そうして議題を終えれば人類二人と魔族二人がまとまっていられるわけがない。

 お茶とお茶菓子を適度に消費して、フリーレンとフェルンは今日一日の予定を話し合い、その日その日の魔族二人は旦那様と更なる甘味を求めようと食堂のドアを開いて外に出た。

 ソリテールの姿が消えた事に後れを取ったと悟ったフェルンは後を追い、フリーレンははぁと一息ついてフェルンの後を追いかけた。食堂を出て幾らもしない内に、体に響く重い音が飛んできた。

 家中に防音の魔法が掛かっているので、ドアを閉めている限り外の音が聞こえる事はない。誰かが入り口を開けたらしい。

 

 

 重い音は途切れることなく続いている。爆発音ではなく、重いものが叩き付けられるような音である。

 もしも何らかの戦闘行為に依る音だったら誰かが騒ぐと思われるので、フリーレンは疑問に思いながらも不安に思う事はなく、音の発生源に足を進めた。

 大きな家を出たすぐそこで、先に食堂を後にした三人がいる。

 少し離れたところではアウラが青い顔をして立ち竦み、音を立てているのはシュタルクだ。愛用の斧を振りかぶって、何かしらに何度も叩きつけている。

 何を打っているのかフリーレンからは見えなかったが、シュタルクの一撃を何度も受けられるのはちょっとやそっとのものではない。魔力の防御をまとうソリテールだって、何度も受けるくらいなら避けるだろう。

 

「シュタルクは何してるの?」

「あ、フリーレン様……。兄様によるとシュタルク様の力試しなのだそうです」

「力試し?」

「シュタルクも無理みたいね。フリーレンも後で試してみる?」

「何が?」

 

 ソリテールに言われても、フリーレンには何の事かわからない。

 とりあえず、近くに来たことでシュタルクがちょっと泣きそうになっているのが見えた。何を打っているかもわかった。

 

「私のジャケットをシュタルク君の攻撃で破れるか試してもらってるところなのです」

「へぇ?」

 

 男に解説されても、やはりフリーレンにはよくわからなかった。

 

 

 

 人類二人と魔族二人が会議をしている一方で、男はアウラにエーリカの事を伝えた。

 名前も詳細も口に出来なかったが、このジャケットを破った人物がいると聞かされたアウラは、言われずとも全てを悟った。そんなのにいつか会わなければならない未来を思って顔を青くした。

 聞いてるだけのシュタルクにはよくわからないようなので、男がこれを破れるか試してみると良いと提案した次第である。

 

 一見するととても上等なジャケットである。その実、凄まじい防御力を秘めていたりするのだ。

 初代のジャケットも凄い防御力を持っていたが、真の主の手によって中身ごと真っ二つにされてしまった。

 その後、真の主の主から褒美を兼ねて特注してもらったのが現在のジャケットである。真の主の主は彼の蛮行を目の前で目撃したのでそれに耐えられるように、は行き過ぎにも程があるので初代よりも防御力を上げたジャケットとベストとスラックスの一式を下賜したのだ。

 ちょっとやそっとでは破けない。発情狼が全力パンチしても穴が空かない。ソリテールが魔力を放出してもほつれない。

 しかし、癇癪交じりの貫き手で全貫通されたり、苛立ち気味のキック一発で真っ二つになったりもしている。なお、どちらのケースでも中身が相応に損傷したのは余談である。

 

 丸太に被せたジャケットに、シュタルクが何度打ち込んでもでかい音が響くだけ。

 始めこそ高そうな服を傷つけるのを躊躇ってちょこんと触るだけだったが、今や全力の斬撃である。なのに破れるどころか斬撃の跡すら残せない。

 こんなものをキック一つで真っ二つにする存在がいるとは、恐ろしくて堪らない。ちょっと泣きそうになっちゃうのは無理もなかった。

 

 うへあと力尽きたシュタルクがその場に崩れ落ち、折角だからと選手交代。

 フリーレンが魔法を撃ち込み、リーニエも斧を振り下ろし、フェルンも至近距離からゾルトラークを叩き込む。

 ジャケットはいずれにも耐えた。これに同等の防御力があるベストも付くのだから、三つ揃えをまとった男を傷つけるのはとても大変なのだが、割と死にそうになっているのは本人の行いが悪いのに違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 そうして穏やかな時間が流れていく。

 

 フェルンは大好きで結婚もした兄様にたっぷり可愛がられ、一緒に料理をして、色々なレシピをものにする。

 ソリテールがずっと兄様にくっついているので時々目を細めるが、それを全く気にしないソリテールに敗北感を覚えたり、兄様に慰められたりで、フェルンとしては遺憾なことにそのようなものだと覚えつつある。しかし、ソリテールと一緒には断固拒否。しかし、そうすれば愛してもらえる時間も増えると聞かされ、心が揺らいでしまったりもする。

 半日どころか数時間続けて可愛がられただけで動けなくなってしまったのは至福の時間でありはしたが、満足させられなかったかも知れないと云う不安と、これ以上されたらどうなってしまうのかと云う不安もある。それらを解消するためにソリテールが同席しても、自分のおっぱいの方がずっと大きいので問題はなさそうと思うくらいにはなっていた。

 

 フリーレンは何処にいようと魔導書の解読である。ソリテールに民間魔法を教えるのは家賃と思う事にした。それ以外の情報共有をソリテールから積極的に持ち掛けられ、熱心に吸収しているのは別の話である。

 まだフェルンには気付かれていない、らしい。男が、フェルンについては任せて欲しいと言っていた。フェルンからそのような事について聞かれた事はない。もちろんフリーレンから話すわけがない。ソリテールにした口止めは有効のはずだ。

 この件に関して、フリーレンは考えるのを止めたのである。

 

 リーニエは男が振る舞う甘味に顔をほころばせる。男がシュタルクにしている格闘術の指導を偶に覗いたりもする。

 

 アウラは誰とも群れずに単独行動。

 

 そんな日が幾日か続き、男とアウラの姿が突然消えた。

 そうなると知ってはいても、気落ちしてしまう者がいるのは仕方ない。

 予定通りにソリテールはシュタルクを除く三人を集め、しっかりとドアと窓を閉じた食堂にて、異界の部屋に通じる鍵を使った。

 

 

 

 

 

 

「ようこそお出で下さいました」

 

 一行は、ソリテールが何度も出迎えられた時と同じ言葉で迎えられる。

 フェルンは豪奢な部屋の懐かしさに目を潤ませて、フリーレンとリーニエは行き過ぎな豪華さに目を丸くした。

 

「へぇ……」

「何よ。私からアゼリューゼを掛けられてるのを忘れたわけじゃないでしょうね」

 

 フリーレンが目を丸くしたのは、アウラの服装も手伝っていた。ずっと夜のお店装束でいたアウラが、メイド服を着ているのだ。

 そもそも魔族は衣服を変えない。少なくとも、フリーレンの知識にそんな例は一つもない。そこに加えてメイド服なのだから、意外だとか珍しいだとかを越えて、何かおかしな事が起こっているのかと思わされる。

 

「こら。話は聞いてるが、フリーレン様たちに絶対に危害を加えないように。ここだけでなく、向こうでもだ」

「チッ……。わかってるわよ」

 

 脅しに掛かったアウラに、男が早速釘をさす。

 アウラはフリーレンに自身の固有魔法である服従させる魔法(アゼリューゼ)を掛けているが、男へ掛けた魔法は逆転してアウラが服従させられる羽目になっている。

 男が意思を込めて命令した言葉は強制力を伴って、アウラの意思ではどうにもならない。せめてもの反抗として、お行儀悪く舌を打つのが精々だ。

 そんなアウラを男は気にしない。期待してない。

 

 まずとりあえずは絶対となる利用者ノートに四者のサインをもらって会心の笑みを内に隠し、腕を上げて豪奢な部屋の奥を示した。

 

「フリーレン様には早速魔導書をご案内いたしましょう。ソリテール様とフェルンは少しだけお待ちください」

「私も一緒に行くわ。フリーレンがどんな魔法を知りたいのか気になるもの」

「私も同行いたしてよろしいでしょうか?」

「勿論構いませんよ。アウラはリーニエの相手を頼む。リーニエは食べたいものを何でもアウラに言ってくれ。アウラが全部持って来てくれるから」

「はあ!?」

 

 アウラの驚愕はどうでもいい男である。そっと近付き、耳打ちした。

 

(向こうに存在しない美味しいものだ。色々食べてきたからわかってるだろ? やれ)

 

 リーニエを甘味中毒にして、この部屋から離れられなくする作戦である。

 根は悪い男なのだ。リーニエがあちらで食べるものを美味しく感じられなくなったとしても、知った事ではなかったりする。ここに来てくれれば欲しいものがあるのだから、全く問題ないとすら思っていた。

 愕然とするアウラにリーニエを任せ、男は魔法使い三人を書斎に案内した。フリーレンが狂喜した。

 

「こここここれ!! これわかってる!? これが読めるなんて………………!! 聞いた事はあったけどとっくに失われたと思ってた……。ん? ここだからある?」

「お喜び頂けて幸いです。この書斎に収蔵される条件は、存在したまま時間を経るか、多数の読者を得るかのいずれかとなります。一度条件を満たした書物が消える事はありませんので、フリーレン様の世界に現存しているかどうかはわかりません。そんなに貴重な魔導書だったのでしょうか?」

「当たり前だよ! 伝説どころじゃない。失伝魔法だ。誰も受け継ぐ者がいなくなって、存在自体が消えてしまった魔法。何かで読んだことがあったけどもう手に入らないと思ってた。ゼーリエだって持ってない魔法かも知れない」

「……フリーレン様、良かったですね」

「ふぅん? フリーレンはこんな魔法が好きなのね」

 

 男には魔法がわからず、人類と価値観が違う魔族はフリーレンが喜ぶ理由がわからずそんなものかと首を傾げる。

 しかし、フェルンはわかった。

 お鍋のおこげを取るのは、魔法以外の方法がたくさんあるからだ。お鍋のおこげを取る魔法が失われるのに十分足りる理由である。しかし、何も言わなかった。フリーレンがとても喜んでいるのだから。

 

 フリーレンが魔導書に没頭してしまったので、ソリテールはここに来たら絶対にすると決めていた事を打ち明けた。これにはフェルンももろ手を挙げて賛成した。

 三人が次に目指すのはクローゼットルームである。

 

 ソリテールはウェディングドレスを着た結婚写真を肌身離さず持っていたが、フェルンのゾルトラークで一部が損傷してしまった。是非にも再撮影したいとずっと思っていたのだ。

 フェルンだって女の子。綺麗なドレスを着て兄様と一緒の写真なる精緻な絵を入手出来るなら欲しいに決まっている。

 

 書斎から他の部屋に移動するには応接間を経由する。

 テーブルに着くリーニエが、無表情でパフェにスプーンを繰り返し差し込んでいた。アウラはお客様がいるのに仏頂面である。男の姿を見付けると表情が動き、渋面を作った。魔族が見せる顔ではなかった。

 

「リーニエはお腹が満足したら一休みするといい。休める場所は幾らでもあるし、体を動かせる場所もある。帰る前に一度は風呂を使う事をお勧めするよ。全部アウラが教えてくれるから」

 

 甘味の暴力に蹂躙されているリーニエは、無言で首を上下に振る。

 アウラが男を見る顔が、怨敵を睨む人類の顔になった。

 

 リーニエはアウラに任せ、男はソリテールとフェルンを連れてクローゼットルームへ。

 時間を掛けてドレスを選び、着替える毎に写真撮影をして、着替えを手伝ってもらうソリテールは男にしな垂れかかり、カチンと来たフェルンも同じことを仕出かして、フェルンは頑なに拒み続けていたソリテールと同じ時間を過ごしてしまった。

 男は全く容赦する事なく二人を失神に追い込み、濡れた部分だけを拭いてやってからベッドルームに運んでやった。寝かせるだけなら寝心地の良いソファが幾らでもあるけども、気分の問題である。

 

 次はフリーレンの相手をすべく書斎へ。

 ちなみに、応接間は無人だった。利用者ノートを捲ってもリーニエが帰った形跡はないので、アウラが何処かへ案内しているらしい。命令しておけば、アウラでもちゃんと出来るのだ。

 

 書斎のフリーレンは、男が退室した時と変わらない様子で魔導書にかじりついていた。

 魔導書は逃げないので一休みをと男は提案し、フリーレンは受け入れて、受け入れた。

 あちらの時と同じようにフリーレンを風呂へと案内し、本格的な頭皮マッサージで見せてはいけない顔をさせたのは二人だけの秘密となった。

 

 フリーレンが眠ってしまっても、男は赤い回復薬をぐいとやって眠気を覚まし、次に備える。

 リーニエの食事も風呂も寝床も全部アウラに任せたきりで、今度は目を覚ましたソリテールの相手をする。行為の後で眠ってしまったので、風呂を要求されて付き合った。

 その頃、フェルンは同じベッドでフリーレンが眠っているのに気が付いた。

 とても広いベッドなので、五人や十人が手足を広げて眠っても余裕である。広さはさておき、フェルンもまた行為の後で眠ってしまったので色々な匂いをさせていた。

 フリーレンに気付かれた。何も言われずに微笑まれ、フェルンは初めてフリーレンから年上のお姉さんを感じたりもした。

 

 男は一睡もすることなく三人の相手をする。

 少々忙しくても、疲労や眠気は赤い回復薬で完全解消。

 なにせ一度の訪問で四つのサインを貰えるのだから、労力がいつもの三倍になる程度は全く問題ないのである。

 

 

 

「またのお越しを心よりお待ちしております」

 

 いつもよりちょっと大変な二十四時間が経過し、四人の内三人が元の世界に戻っていった。

 最後に続こうとして足を止めたフェルンは、先の三人よりこの部屋を多く訪れていたので、抜け道を知っていたのだ。基本の制限時間は二十四時間だけども、それを越えても眠らない限り強制的に退室させられる事はない。

 赤い回復薬を一本おねだりして、二人きりの甘い時間をたっぷり過ごした。

 

 そうしてフェルンが帰った直後である。

 男は利用者ノートを開いて一度に四つも増えたサインに口角を上げていたのだが、硬質に響き渡る音のせいで浸っていられなかった。

 

「ああああああああああああっっ!!!!!」

 

 アウラが何事かを叫びながら、幾つものテーブルに並ぶ飾り皿を壁に投げつけていた。

 どれも繊細でありながら重厚な皿であり、ものによっては重量がキロに届く。

 妙齢の美女に見えて大魔族であったりもするアウラは、細い腕にも関わらず割と力持ちなのだ。皿をぶん投げるくらいわけはない。

 

 男がぽっかーんと口を開けて眺める間にも、アウラは休まず皿を投げ続ける。

 どれもこれも木っ端微塵であり、仕舞にはテーブルを持ち上げて壁に叩き付けるのは、唖然とさせられたがアウラが心配になってきた。

 もしかしたら魔族特有の脳を侵される病気にでも掛かってしまったのではないだろうか。

 ここではあらゆる傷病を回復できるので、アウラが鎮静化したら然るべき治療を施そうと考えた。

 

「はあ……はあ…………」

 

 大魔族であっても、幾つもの皿とテーブルを粉砕するのは疲れたらしい。応接間を無残な姿に変えたアウラは、俯き肩を震わせていた。

 背後から近付こうとする男に気付き、アウラは素早く振り向いた。

 青い目が剣呑な光を放っていた。

 

 怨敵を前にし刃を構えた復讐者の顔で、アウラは叫んだ。

 

「よくも私にリーニエの世話をさせたわね!!」

 

 アウラがブチ切れてしまった。




あっさり帰還
やろうと思えば続けて書けるんだなあとしみじみ
私は何を急いでいるのか?
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