※この作品はR-18です。

一般コンビニバイト君の受難   作:東雲。

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「斎賀百は下着にジャージでコンビニに行く」という言説からインスピレーションが爆発した産物です。


第1話

 都内某所のとあるコンビニエンスストア。夜の利用者がポツポツと入店してくるのを、バイトの男は機械的に応対していた。

 

「合計380円になりますー……500円で。お釣りは120円になりますー…ありがとうございましたー」

(セルフレジあんのに何でまだ有人レジ使おうとするんだか……はーかったり)

 

 心のぼやきを無感情な接客ボイスに変換し、また一人の客の相手をやりきる。ため息を吐きそうになったのをこらえた時、自動扉が新たな来客を知らせる。

 

「いらっしゃいませ……!」

 

 男は顔には出さず心を踊らせた。内心「アタリ」だと思っている常連客だったから。

 整った顔は気の強さを滲ませ、そのくせ首から下は野暮ったいジャージに身を包む、生活感とのギャップがなんとも言えず良い。またそれはそれとして、そのジャージを内側から強引に押し上げるバストはちょっと拝みたくなるくらいの眼福であった。

 

 時折入店してはカップ麺ばかり買っていき、買う数とペースから『カップ麺ジャージの人』と従業員の間であだ名付けされているなどとは、彼女は知る由もないのだろう。

 

 ただ、普段は真剣な顔でカップ麺を選び買っていく彼女が、今日はどうも忙しないように男の目には映った。なんとなくだが、他人の目を妙に気にしているように見える。

 

(自分の格好(ジャージ)が気になってんのか? ならなんでそれでコンビニ来たのさってなるけど)

 

 女性は棚の向こう側へ消えていく。男はちょうどやってきた別の客のレジ対応を迫られていた。

 

(クソ、だからセルフレジ使えっつーの!)

 

……

…………

 

「ありがとうございましたー」

 

 出ていく客を見送り、一息つく。そろそろシフトが替わる時間帯だ、裏に回ろうと男が思った矢先、『カップ麺ジャージの人』が商品を手にレジにやってきていた。

 男は、『やっぱ何か変だな』と思う。彼女は普段セルフレジを使うのに、なぜ態々こっちに来たのか。そしてなんというか…挙動が怪しい。

 

「す…済まない。会計を、頼めるか…?」

「え、あ、はい」

 

 カウンターの上に置かれた商品に目を向ける。

 

(カップ麺買うのにそんな緊張すること――はあああああ!?!!?)

 

 ここで動揺を声に出さなかったのは、半生において五指に入るファインプレーだったと男は後に述懐する。

 カウンターに並べられていたのは、栄養ドリンク二本と十個入のコンドーム――しかも三箱。

 男の知る限り、彼女がこんなものを買ったことは一度もない。思わず顔を二度見しかけ、レジの向こうで音が聞こえてきそうなほどに強く握りしめられた拳が目に入った瞬間、男は全てを察する。顔はなんか直感的に見たらヤバい気がしたので見なかった。

 

(あーハイハイこういうプレイって訳ね……こんな生活スタイルなのに彼氏とかいるんだなぁ。いやいるだろこんな美人だし。普段着がジャージでカップ麺が主食っつっても、この顔と胸の前じゃあマイナスポイントにもならねえや)

 

 中々に最低な内心に我が事ながら苦笑を零しつつ、男は淀みなくバーコードを読み取っていく。たとえ相手が誰であれ、買うものが何であれ、粛々と応対せねばならない。主に上の評価と給料の為に。

 だから、マニュアルを持ち出して対応する。それが彼女を追い詰めると知りながら。

 

「袋はご利用ですか?」

「すっ、すぐ、使うので……結構、だ……!」

「は、はい」

 

 意識して手元に視線を落としているので見えないが、きっと顔を上げれば羞恥で真っ赤に染まった顔を見ることができるのだろう。もしかしたら恥ずかしさのあまり涙ぐんでいるのかもしれない。

 好奇心が内から湧き出てくるが、バイトの男はやはり行動には移さなかった。カウンター越しに伝わる謎の気迫が怖かったのもあるし、安全に愉しむ分には危険を冒さずとも想像するだけで十分だったのもある。

 

(むしろこんな気の強そうな人がこういう羞恥プレイ的なお願い聞いちゃうんだなぁ。惚れた弱みってヤツなんかね。いやあ誰だか知らんが羨ましい事この上ねえな!)

 

「ええと……2290円になります」

「……カード、で」

「あ、ハイ。じゃあその機械に差し込んでいただいて――」

 

 ビシビシとプレッシャーを浴びながら応対する自分の声が震えていた事に、男は気づかなかった。

 会計を済ませ、半ば逃げるように去っていく彼女を男は目で追う。夜の暗がりでハッキリとは見えないが、女性よりも年若そうな青年が待っていた。

 

「お前は―――こと―――――――んだ! も―――コ―――が使――――――だ――が!!」

「でも―――――」

「―――……―――!」

 

 閉まる自動扉で声は聞こえなくなっていったが、短く何か言い合った後、女性は怒り心頭と言わんばかりの足取りで去っていき、青年もそれを追う。

 だがそんな態度も今だけで、女性の家なのか彼の家なのか、帰った後はあの青年に鳴かされてしまうのだろうか。あるいはその怒りで青年を鳴かせるのか。チラリと見えた横顔の、怒っているようで満更でもなさそうな顔色を眺めながら、男はぼんやりとそんなことを思った。

 

「すみません、そろそろシフト交代です」

「あ、すんません」




Q.お相手is誰?
A.貴方の心の中に。
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