※この作品はR-18です。

他所で好評を得たブルアカ小説を改訂して載せます。   作:貞明み木

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ユウカと先生と夜

 夜の静寂がシャーレのオフィスを訪れてから、すでに1時間ほどが経っていた。

 オフィスには私と、もう一人だけ。

 そのもう一人は、ツーサイドアップにまとめたすみれ色の髪をときおり触り、手元の書類とタブレットに視線を交互に向けている。

 

「先生、これで問題ないと思います」

 ユウカはタブレットをこちらに手渡した。

 さらっと目を通すだけでも、その会計の完成度が理解できた。

 このすみれ色の瞳を持つ少女の助けのおかげで、シャーレの財布の底が破れずに済んでいる。

「この内容で問題なければ、今日の業務は終了にしましょう」 

 改めて内容を確認し、問題ないことを伝えた。

「よかったです。計算通り、ですね」

 ユウカは普段、冷凍庫の中の氷のように冷静で落ち着いている。

 しかし、戦闘でも、事務でも、何かを成し遂げたときは、氷が解けるような温かい笑顔を見せる。

 

 私はかなり長い間、ユウカをオフィスの当番にしている。

 オフィスの面倒な業務をユウカ以外誰もやりたがらない、ユウカより事務処理能力が優れた者がいない、ということが表向き……、いや、実際、2つの理由も事実なのだが、もっと重要な、裏の理由がある。

 それは、毎日の業務が終わったあとの、2人きりの、あの時間。

 お互いに、普段は心の奥の金庫に閉じ込めている感情を出し合う時間。

 それは、ユウカの一声から、始まる。

 

「じゃ……行きましょうか」

 それを言うときのユウカの瞳は、決まって少し細まる。

 私の金庫の鍵穴に、その視線が突き刺さる。

 小さく頷くと、私とユウカはカフェに向かう。

 昼間、カフェには暇を持て余した生徒たちが遊びに来る。

 そのためにゲームやら、テーブルやら、ソファが置いてある。

 そして、夜には閉めるので、誰もいない。

 

 

 

 カフェには、少しの光だけがあった。

 カーテンから月光が漏れ、それだけがカフェの隅に置いてあるベッドを照らしている。

 このベッドは昼寝をする生徒のために使われている。

 そのため周りには仕切りが置き、隅に置いて少しでも休みやすいように工夫している。

 私はユウカの後を、わずかな胸の高まりと、それよりずっと大きい恥ずかしさを覚えてベッドへ歩いていく。

 ユウカが先にベッドに座った。

 

「さ、先生。座ってください」

 

 ユウカの微笑は、先程見せた笑顔よりも、私の心のずっと深いところに突き刺さる。

 目線を反らしながら、ユウカの隣に座る。

 

「今日の先生も、きっとかわいくなりますよ」

 

 ユウカはそう言って、カーテンを開ける。

 2階にあるカフェ。その隅のベッドにいる2人を、月光がより明るく照らす。

 

「先生、こっち、向いてください」

 

 私は目線をあちらこちらに回しながら脚を折り曲げて、ユウカのほうに体を向ける。

 ユウカは黒いハーフグローブを、右手だけ外した。

 右手の素肌を見る機会は、今の時間くらいだ。

 

「目、合わせてください」

 

 ユウカはグローブを付けたままの左手で、私の頬を触る。

 布の感触が頬を撫でた。

 ゆっくりと、少し目線が下にあるすみれ色の瞳を見つめる。

 すみれ色の瞳の瞳孔には、赤い光が覗いている。

 じっくり見ないと分からない、赤い光。

 その光は、私の心の金庫の鍵穴を、毎夜のように、粉々にしてしまう。

 

「かわいいです、先生」

 

 ユウカは私と目を合わせたまま、右手を徐々に私の腹部に近づける。

 右手の暖かさを感じた。

 

「じゃ、いきますね」

 

 ユウカはぐっ……と力を込めた。

 

「あ゛っ……」

 

 思わず、声が出る。

 手加減されていても、人間離れした力に内臓がぐっと押されると、吐き気を感じる。

 ユウカの暖かい右手の感覚と、吐き気の感覚が、一つになって、私の表情は崩れる。

 

「かわいいです。先生。いつもは絶対に見せない、その顔が」

 

 ユウカは左手で私を抱き寄せ、距離を縮める。

 右手も、暖かさと吐き気を一層増加させてくる。

 

「お゛ぐっ……」

 

「吐いちゃダメですよ、先生。ここは、生徒のための場所なんですから、汚さないでください」

 

 ユウカのその言葉が、私の背徳感を強める。

 興奮が高まるごとに、息も荒くなる。

 性的快楽とは程遠い刺激にもかかわらず、今の私は、それで興奮している様子にしか見えないだろう。

 この威厳という言葉とは対極に位置した姿は、ユウカ以外に見せられるものではない。

 ユウカもまた、自らの尊敬する者を、こんな形で虐めている姿は、その尊敬している者以外には、見せられるわけがない。

 2人は、恍惚さを、2人だけの空間で、味わっていた。

 私の両手はだれんと垂れ、体中の力は抜けている。

 表情も、体も、心も、ゆるんで、とけて、くずれきっていた。

 

「先生……好きです」

 

 ユウカの顔は、あの暖かい笑顔とそれほど変わらない、はずだ。

 変わっているのはわずかに目が細まっている、ただそれだけだ。

 なのにその笑顔は、普段のそれより熱く見える。

 

「す……き……」

 

 くずれきった表情をユウカに曝け出して、言った。

 それをきいたユウカは愛おしそうに私の腹部を撫でて、小さく息を吐いた。

 小動物の可愛い姿を眺めて、つい息を零すときのように。

 

 私の臓器が限界を迎えて、私が胃液を吐き出すまえに、ユウカは手を離した。

 私の身体はユウカに倒れ込み、ユウカは静かにそれを受け止めた。

 未だに息が荒い私を抱擁し、吐き気がなくなるまで、ユウカは言葉を発さず、私を抱き続けた。

 

 

 

 次の朝、私たちは何事もなかったように、オフィスで再開する。

「おはようございます、先生」

 ユウカはいつも、私より早くオフィスにつく。

「おはよう、ユウカ」

 再びお互いの心の感情を金庫にしまい、私たちはいつも通りに、働く。




https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20098359です。私が最初に書いたブルアカSSです。たまたま好評を頂き今に至ります。これがなければ今の私はないと言っても過言ではない。良ければ他のも見に行ってくださいね。
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