鴉の鳴き声と共に鳥の群れが帰っている。夕日が沈み暗くなる最中、今日のシフトが終了する。
「お疲れ様でした」
「お疲れ〜」
私の名前は『煩悩 迷』何故両親がこんな名前を付けたのか、ていうか苗字どうしたん?と名前のせいで散々だったが今はこうしてバイトしながら学校に通っている。だがある日の帰り道に運命的な出会いをしてしまったのだ。私の平凡な日常はそこから変わった。
「君がアイツの…そうかそうか」
見知らぬ男が私を見ながらブツブツと独り言を漏らし少しずつ近づいてくる。
「あの…どうしたんですか?誰かと勘違いしているのでしたらその辺に」
「メイ…だったかな?」
「あれーやっぱり私ですよねーストーカー?」
「いいや逆さ、君もこの世界から追放したくてね」
「へ?」
謎の男の発言を理解できない。ていうか名前知ってるの怖すぎ、ていうかこういうのって普通「消す…」とかこr…
「自己紹介がまだだったね、上木悟…またの名を」
「あー厨二病ってやつですね、病院行ってください」
「ゼノム!!」
完全に逝っちゃってる。それしか言葉が出てこない、こんなやつ無視して早く帰ろう…そう思った。
「なるほど、君はまだ初見のようだな…だが解る時が来るさアイツの並行世界に位置する君は絶対にね」
厨二病男の横を通り過ぎた時に脳裏に手が映るヴィジョンが視えた。その手は中指を親指で抑えてそれを…
「ばん」
勢いよく弾丸のように何かを飛ばした。
意識が遠くなり違う何処かへフワフワ浮いていく感じだった。どこだかわからない、どこだ?ここは…
「うっ…!!」
「おぉ…ようやく復活したのですね!」
(ん?誰このお爺さん、てか肌どうしたのそれ)
「魔王様が復活した!これより忌まわしき勇者達そして人類に再び絶望を与えて支配するぞ!!」
(え…ナニナニ夢!?魔王って言った?ここ何処?え…暗くね?いや貴族か何かですか照明器具もないって!)
目が覚めたメイは見渡しながら立ち上がる。そしてあるはずのないモノが天井に衝突して突き刺さった。
「魔王様!まだ安静にして下さい!復活したばかりで魔力が乱れておりますぞ!」
「いったぁ…え?何これツノ?え…てか私デカくね?」
目の前の爺さんが小さいのか自分が大きいのかなんて更に奥に広がる広場で整列している魔物のサイズではっきり分かった。
「これ2〜3メートルくらいあるんじゃね?」
「魔王様?」
「魔王?私?」
「もしや覚えてらっしゃらないのですか?」
「は?私、人間だし」
細かいことは後にした。ここが何処か知りたい私は魔物の軍勢を無視して内装をぶち破り外出を試みる。
「お待ち下さい!!魔王様ぁ!!」
(なんかずっと後ろがうっさいわーマジありえん魔物の王とか)
しばらくして私も薄々感じていたがなんか凄いオーラ放ってるやつこっち来てる誰マジで?魔力って言うのだろうか?は?なんでそんなのわかるの私、ガチ魔王じゃん最悪ー…ってことは顔もマジ魔王なんじゃね?化け物なんじゃね?えー!一応さ女なんすけど
「そちらから来てくれるとは驚いたぞ魔王…」
「へー女勇者ってやつ?意外」
「ん?なんだその魔力は…本当に魔王なのか?」
「あーやっぱ違う感じだよねコレ、だって私って元々人間だしさ」
あの厨二病男が私に何をしたのかわからないけど私の魂が無理矢理魔王に入った感じなのは理解できる。たぶん力の使い方とかさっぱりだから見掛け倒しの魔王がノコノコ殺されに来てしまった構図だろう…ん?それヤバくね?
「相変わらず舐めやがって…このババア!今度こそ完全に封印してやるからな覚悟しろ!」
「えー…なんか精神年齢に全く合わないババア呼ばわりキツいな…てか女なんだ魔王。性別とかそういうの無いやつ想像してたー」
勇者の放つ雷が眉間に直撃する。
目の前にいるのは殺意しかない人間と実感できた。冷静に対処する方法を考えるが無理だこれ詰んだ…
「あーヒリヒリする…」
「な…何故だ…」
「さて、どうしようかね」
「くっ…やはり変わっている!以前の魔王ならダメージが入った。だが今の魔王には傷すら付いていない…あの余裕…私をどう料理するか悩んでいる。何かないのか」
「は?」
勇者の反応を見た感じ、もしかして魔王めっちゃ強い?そりゃそうか魔王だもんな、よし!
メイは女勇者の手を掴み最大限にパワーを込めて引っ張る。
「クソ!なんて速さだ…このまま私を叩きつける気だな!」
持てる力を振り絞って勇者は内なるエネルギーを放出していた。辺りが真っ白に輝きそして…
「え…」
消し飛ぶ…
崩れた瓦礫の中からメイは出てきた。周囲は爆発した衝撃で何も残っていない、魔物や建物全てを消し飛ばしたのだろう。
「あの馬鹿野郎!道案内をお願いしようと手を握ってあげたのに自爆!?アホなの!」
叫んだ数秒後に冷静になった。
「アホなの私だ…魔王だったね、ラスボスに急に掴まれたら絶体絶命か…そうか」
これからどうしようか考える。謎の男ゼノム?が何者か特に気になっている。只者では無い、それに追放と言っていたのだ。どうやら私は元いた世界から弾き出されこんな世界にいるらしい意味不明。とにかく理由が気になるところ、発言全てがおかしいから紐解くのも難しいが今はその時ではない気がする。
「これ、家ないってことよね…」
それからずっと歩いていたと思う。何も無い暗い世界をぐるぐると歩き続けたと思う。あれからの経過時間なんてさっぱりだった。あるのは…
「門?デカいなーこれ」
禍々しい装飾で彩られた巨大な門があった。私の無意識は出口と叫んでいる。いわゆる魔界と元の世界を繋げる門だと叫んでいる。巨大岩石が擦れる音が門を押していくと響いている。この重量を軽々と押す身体をいちいち気にしていたら先が長くないであろう。あんまり心得てないがパリピの精神で進むことにした。まあ私はギャルとは程遠い地雷系なんすけど…
「あーそうきたかー」
門の先にはダンジョンといったファンタジー世界が広がっていた。たぶんあの女勇者に敗れた魔物の死体なのだろう、生存者はいませんね…はい次。
「ていうかさ、魔王がこのまま人間にあったらヤバくね世界終わる?」
しばらく考える。魔王を倒しに行った勇者が帰らず魔王が来たとなれば人類はどうなる?あー辛いわー詰んでるー。
「ん?」
メイは閃く、魔王なのが原因ならば…
「魔王超えて神になっちゃう?私ってば天才じゃね」
メイは無意識に自分の並行世界と重なり続けていることなど知らずに力は増していた。魔王が強い訳ではない、魔王であった世界線と重なり続けた今のメイがおかしいのだ。
元の世界いわゆるメイが本来人間であった世界線においてあの男は焦っていた。彼、または彼女の足掻きが予想以上であるが故の誤算。だがそれもまたアイツらしいと笑みを浮かべていた。
「結局こっちに戻ってきちゃうのも時間の問題かな…邪神…いや?そもそもその地位も名を与えたのも俺だっけか、メイねぇ…またトチ狂った並行世界だな全く」
彼を囲う何人もの女がいた。たぶん全員がゼノムの妻なのだろう…
「異界に閉じ込めたのに並行世界を無限増殖して収束しまくってエラー落ち狙ってる動き、無意識とはいえ妙だな」
「そうだな…まあそれくらいの処理こっちも対応できるからまだ閉じ込めたって感じだ」
「まだ?」
ゼノムと女達のやり取りは超越者の領域…それ以上なのだろうか。
(パリピの精神…私がギャル…アゲアゲ精神…白ギャル黒ギャル…マジ映えウケる…ウチらが真の神)
力がみなぎる。なんかそれっぽいことやって豆腐メンタルを落ち着かせようと自己暗示していたら悪魔の角が消えた。たぶん身体も元のサイズだと思う…160かな?めっちゃ近い2〜3メートルの巨体に比べたらマジで丁度いいよこの身体。やろうと思えばやれんじゃん神!
「誰だ…我が眠りを妨げる大いなる魂の持ち主は…」
「へ?床が光った…」
魔法陣らしきものが広がり地中から犬の顔が三つ生えてくる。これファンタジーで見る地獄の門番みたいなアレだ!アレ!
「えっと!名前なんだっけ!?」
「なっ!?その魔力…魂…ついに降臨したと言うのか」
会話にならない、だがメンタル負けたら私はたぶん絶対負ける。パリピの精神が乱れた時に私の敗北は確定する…だって私違うからそんな眩しい陽キャと違う!
「あーそうそう私ね、神になったからよろー」
「くだらない戯言を…貴様なんぞゼノム様の掌で踊らされてるだけの人形!道化師だ!」
「ゼノム…?」
この番犬からアイツの名が出てきた。たぶん敵だろう…しかし私は神になったのだから煽りに乗らずにレスバ…いや無理だ私じゃ
(拳で語れば良くね?)
「なっ!?」
「おつー」
それは一瞬だった。一撃でしかないはずの右ストレートは番犬には多重の痛みそして重み意識が痛みに集中して拡散する。そして何倍にも膨れ上がって収束してくる。番犬はたった一つの拳が何億年と続く怒涛の連打へと変わり精神を襲われる状態に陥っていた。
(いつ…終わる?この痛みは後何年…)
番犬は意識を失って動かなくなった。何が起こったのか自分でも理解できない、だが頭が割れそうな何かがずっと押し寄せては叩きつける痛みが続く。記憶の断片と言うべきかフラッシュバックされたヴィジョンが映る…
「ラ……ン………」
「おいしょっと…じゃあなア…………」
「…………て……た………て……」
(なんだこれヤバい死ぬ…痛すぎなにこれ!)
「はぁ……はぁ…ぐぅっ!!あぁ…!」
そのままメイも意識は無かった。意識が途切れる間際に悪夢なら覚めてくれと願うメイであった。