階段を降りてギルドの受付前へと出る。その光景はあまりにも酷すぎる為、急いでリョナの両目を塞いだ。
「そ…そこ!もっと!もっと突いてぇぇええっ!!」
集まっている男性ギルドメンバーが受付嬢達を花びら大回転している地獄絵図が広がっていた。そこにはオルトロスやギルドマスターの姿も見えた。ゼノムがエロゲの世界に書き換えた影響は凄まじい、ギルドがコレなら外はもっと酷いのでは…
「ここまで来るとギャグじゃん…」
メイはリョナとそのまま外へ出ようと扉に手を触れるが静電気のような何かの抵抗を受ける。コチラからは開けることが出来ないようだ。
「母さん!これ結界だよ!」
「閉じ込められたってコト…?」
何者かが閉じ込めるように結界を施しているようだ。扉の前で棒立ちの二人はギルドの男性に腕を掴まれていた。
「なあ、あんたらも混ざらねぇか?」
「竿は多くても女が女将入れてもギルド内じゃ7人しかいなくてよぉ」
「お断りします」
「ボクも母さんが嫌がってるので離してもらえませんか?」
「おいおい!どうせこの空間は女将が結界を張って出られねぇんだぜ?見てるだけじゃ、つまんねーだろ?女将の気分が変わらない内に楽しもうぜ!な?」
オルトロスのヤツかよ閉じ込めたの!?ケルベロスもそうだがゼノムが世界書き換えるついでに何かされたんじゃないか?一応眷族でしたよね?いいの?ゼノム中心のハーレムじゃないの?私の記憶じゃアイツの好みとは遠いぞ今の状況…
「嫌だと分からないのか…野蛮な人間…」
「あ?ガキのくせに大人に刃向かうか?」
リョナが私の嫌悪感を察して喧嘩腰になり始めた。母親として止めるべきだが相手は異常な世界の異常者だ。最善の策が見当たらない…
「ごふっ!?」
リョナの拳は既に男の腹を捉えて吹き飛ばしていた。男の巨体はカウンター席に直撃し、周囲の酒や皿をぶち撒けていた。鳴り響いていた喘ぎ声や肉棒を打ちつける音が静まり返り、全員の視線がリョナに集まる。
「母さんの腕…そろそろ離してもらえませんか?折りますよ?」
「こ…このガキ!!」
男は近くにあったワイン瓶を叩き割り、脅しの武器としてメイの首に近づける。母を人質に取られたリョナは焦ってしまう。
「そこから動くな…!オメェの大事な母ちゃんなんだろ?これだからガキは面倒なんだよ!親なら息子にちゃんと教えてあげなきゃ」
男はメイの胸を揉み始めた。背後から酒臭い顔を近づけて唇を奪おうとする。リョナは何もできないまま目を背けて握り拳に力が入り続ける。しかし、男の様子が急変していた。手に持つワイン瓶が滑り落ち、メイの胸から手が離れて顔色が悪くなっていた。
「ど…どうしたんだ!?アイツ!なんか変だぞ…」
「なんか変って…どう見ても変だぞ!?目から何か生えてる!?」
緑色の芋虫のようなものが男の眼球から蠢いていた。それは次第に大きくなり飛び出した。様子が急変したのは男だけではなかった。
「つまらない」
「母…さん?」
メイの表情が一切感情の読み取れない不気味なものへ変貌していた。一階の騒動にゼノムとケルベロス達も駆けつけていた。同じ顔の幼女が三人いたがたぶん三人はケルベロスだ。
「ありゃ…メイちゃんがお気に召さないのは知ってたけどメイちゃんじゃなく出てくるのアイツかよー!」
ゼノムが手を出した先に画面が浮かび上がる。何桁もある数字の列が高速で横に流れていた。
「ゼノム様それは?」
「世界改変するからちょっと待ってて…とりあえず野球にするか」
メイ(?)の視線がゼノムに向いていた。それと同時に数字の列が乱れて砕け散る画面が映る。
「やべ、妨害受けてる。俺こういうの専門外なんだよなー!ククラ呼べば良かった…」
世界改変の入力を『あの人』が妨害しているようだ。ゼノムも消されまいと異常な速度で最終入力を終える。空間が歪み、蒼い閃光が散りばめられ世界を再構築する。ギルドの酒場に居た筈のゼノム達は大きなグラウンドに立っていたのだ。
「ここが野球の世界…」
「流石ご主人様!でも…なんで野球?」
「きっとここで勝負を決めるつもりなんだよ!」
三人の…いや、三匹の犬は初めて見る野球場にテンションが上がる。ベンチにはギルドマスターの爺さんとオルトロスが座っている。ゼノムと同じチームのようだ。対する相手チームのベンチには誰も見えない、この野球場にいるのはゼノム、ケルベロス三匹、オルトロス、ギルドマスター、メイ(?)、リョナだけだ。
「………。」
「さて、足りない人数は…」
メイ(?)は黙り込み、ゼノムはユニフォームに着替える。それに続いてケルベロス達も着替えていた。リョナは世界が変わった事よりもメイの心配しかしていない。
「まずは9人か、ファーストセカンドサードはケルベロスで後は俺がやる」
ゼノムは反復横跳びをしていた。その速度は次第に加速していき残像が生まれる。実態のある6人のゼノムがそこにはいた。
「じゃあ試合始めるぞ!」
ベンチに座っていたオルトロスはリョナを連れて更衣室へと向かった。棒立ちのメイ(?)に向けて早くしろと言わんばかりにゼノムはバットを投げつけ挑発する。顔面を狙っていたバットの投擲は容易く受け止められた。
「メイちゃん!俺らが先に守備やるから準備準備!」
「………。」
メイ(?)はゆっくり構えた。どうやらやる気のようだ。ギルドマスターのドスの効いた「プレイボール!!」の合図と共にゼノムの左脚が一直線に天を掲げ激しい縦軸のスピンをした。全身を使った空中スピンだが、まだボールは投げていない。激しく回ること5分が経過したところでメイ(?)のあくびが聞こえる。
「そこだ…!」
ゼノムのスピンを軸に大砲のようにボールが投げられていた(?)軌道は曲がりに曲がって最後にはストライクゾーンである。そこを通過するボールに上からバットが降って来た。メイ(?)はあくびの時にバットから完全に手を離していたのだ。
「おごぉっ!?」
キャッチャーゼノムにボールで弾き飛ばされたバットが命中する。肝心なボールは誰もいない観客席に向かって飛んでいた。
「ホームラン…おもしれぇじゃん」
「………Zzz」
メイ(?)はバットを枕にして寝ていた。そこに着替えたリョナが向かう。首にキスマークがあるが誰も触れることなく試合が続行された。ベンチに向かうオルトロスは何故か頬を手で抑えていたが誰も気にしない。
「よく分からないのですが母さんの代わりに勝ってみせます」
「分かってたら怖いって、俺も分かってないから」
「そうなのですか?しかしこの世界にしたのは貴方では」
「最終入力確定の瞬間に邪魔が入ってたからさ…俺の想定した世界じゃないんだわこれが!」
先程とは打って変わってシンプルな投げ方だった。しかしその標的はストライクゾーンではなく大きく下、その先にある彼女の寝顔にロックオンされた。
(マズイ…!この軌道は母さんに当たる!)
「いつまで寝とんじゃい!起きんかい!」
高い金属音が響く。リョナの持つバットがボールを捉えていた。
「はい!キャッチー!!」
ピッチャーゼノムが打たれたボールを直ぐに掴んでいた。まるで誘導するかのような投げ方だと後から気づくリョナだった。
「おーい、次の打者オマエだぞー」
目を覚ましたメイの様子は普段通りだった。
「あ…何ここ?野球場?なんで私こんなとこで寝てるの?」
「それは俺が聞きたい」
「なんでゼノムが6人!?ケルベロスは3人!?しかも幼い!」
「とりあえず野球するから構えろ」
「構えろって…えぇ…経験ほぼ無いんですけど」
「大丈夫だ。俺もだぜ」
「なんで野球してるの?」
「野球と見せかけた恋愛ゲームのつもりが邪魔されてだな」
「野球しか残らなかったと…」
「まあ、後で変えるわ」
「今直ぐ変えろよ!」
ゼノムの速い投球がメイを通過しストライクを告げる。ゼノムは再び画面を開き数字を入力していた。
「そういえば何とも無いのか?さっきまでアイツだったぞ」
「アイツ?『あの人』か…どっから夢なのかさっぱりで」
「そうか、問題無さそう……ん!?」
再び画面の数字が砕かれていた。しかし今回はメイに意識がある。ゼノムは直ぐに高速入力で対応するが砕かれる速度が上がっている。何一つ残らないまま次は画面に亀裂が発生していた。ゼノムの焦り方に周囲は戸惑うしかなかった。
「どうなってやがる…メイの意識があるのに…どうやって…」
「ちょっと!?なんかこの世界おかしくない!?」
空の途中でガラスが割れるように砕かれており、中央に黒い球が全てを呑み込んでいた。
「リョナの時と同じってか…なあメイ?」
「なんでこんな状況で冷静なの!」
「今からリョナを取り込めるか?」
「は!?意味わかんないだけど!」
「近親相姦だと思ってヤってくれ〜」
「あんたバカァッ!?」
そんな二人の会話など聞いていないリョナは謎の黒い球に一人で立ち向かっていた。その姿が目に映ったゼノムは全てを悟った。もう終わった手遅れだと…
黒い球は赤い瞳を見せながら開き、呻き声を上げながら無数の黒い槍をリョナに降らせる。妖艶の粉を漂わせて青い光を放ち、槍を相殺する。ゼノムが表示した画面が砕けるのと同時にリョナが放つ光が途絶え、全身に無数の槍を受けながら地へ突き刺さった。
「チッ…最初から狙いはリョナだったみたいだ。なあ…リョナラーだったアイツがよぉ…そうでなくなったんだがよぉ…異常性癖が…個としての大きな鍵の一つが今ここで撃ち砕かれたんだが異常者をそうでなくされるのって少しの安心感と恐怖を感じるな」
「らしくないことベラベラ喋んないでくれる?私の知ってる上木悟、いやゼノム・ルマ=アウゴは決して負けないでしょ!」
「ああ…負けないさ、ただ勝てる気もしない相手ってのは先に言っておくぞ」
「だったら負けないように今から出来ること教えて」
「うーん…エッチなこと考えてたらたぶん負けない」
「この期に及んで冗談言ってるなら今シバくわよ?」
「メイちゃんがアイツに唯一特攻できるのそれしか無いからさ、冗談じゃないよガチ」
「あーもう分かった!やればいいんでしょ!」
メイは無惨な死に方をしているリョナを見つめていた。あれほど美しい綺麗な青髪、羽根、肌、そして心…それらが今は血に染まり穴だらけで汚れている。
ドクン…
胸の奥で鳴り響く鼓動のリズムが
ドクンドクン…
次第に速くなり
ドクンドクンドクンドクン!
呼吸は乱れ
「ハァ…ハァ…!」
殻で塞がっていた『ソレ』は
ピキ…ピキ…
大いなる災いの前兆だった。
「ヒャハハハハハハハハハハ!!!」
「うお!?ビックリした」
メイはリョナの亡骸を目指して走っていた。走るメイに目標を切り替えた黒い球は槍を降らせる。笑いながらメイは槍の雨をノーガードで浴び、ボロボロになりながらリョナの元に辿り着いた。
「あはっ!あはははははははははは!!」
穴だらけの自分の腹に指を入れて指先を血で染める。その赤く染まった指でリョナの顔にハートマークを描いていた。その後、強く抱きしめて全身の穴という穴から噴き出る出血をリョナの死体に擦り付けるようにして衣類を脱ぎ始めた。遠くから見るゼノム達は軽く引いている…
「あ…まあ、らしいっちゃらしいけど…」
「ゼノム様…あれがこの世界の求愛行動なのですか?」
「アイツの世界での求愛行動だろ…」
全身が赤く染まった者同士、片方は死体でありそれを犯す女は致命傷の出血をしている。血の流れなど完全に止まった海綿体が何か出来るわけもなく、死んでる亀頭を無理矢理捻じ込み子種を求めて腰を振る。メイの舌はリョナの眼球を舐め回し抉り取った。目玉を舌の上で数回転がし手に取る。メイは不気味な笑い声を上げながら目玉を肛門へ運んでいた。
「や…め…ろ…」
黒い球が苦しんでいる様子だった。何はともあれ効果は絶大なようでゼノムは直ぐに行動した。砕かれたピースを繋ぎ合わせるように画面を復活させた。
「これならいける…!やはり異常性癖は異常でなきゃな!」
世界を戻すコードをゼノムは入力する。そして『あの人』がこじ開けた煩悩迷との繋がりを再度戻して封印する。
『1145141919810…』
数字が高速で流れて画面を越え、周囲の空間に蓄積されて蒼い閃光となる。その閃光はリョナの死体にも蓄積された。
「うっ…嘘!?大きくなってるぅ…」
リョナの海綿体に血液が巡り巨大なペニスを造り上げる。その巨塔は母の膣内を大きく広げて頂上は子宮口を迎え入れる。先ある都は白く輝く海に満たされ民は栄える。
「母さん…」
「い…生きてたの…」
「もうダメみたい…だから…」
リョナの身体は輝く鱗粉のように散り、メイの手のひらに集まった。それは青い蝶の形をした髪飾りだった。髪飾りが出し続ける鱗粉がメイの穴だらけな身体を塞ぎ、出血多量で死にそうだったはずのところを完治させていた。
世界は戻りメイ達は元居たギルドに立っていた。だが世界は戻ってもリョナは戻らない、メイが身に付けた蝶の髪飾りとして今後も一緒に過ごすのだろう。
「なーにやってんだオマエ…」
「ちょ!入ってこないでよ!」
神の目には彼女が蝶の髪飾りで自慰行為してるようにしか見えなかったのだ。世界が戻りギルドに女勇者が帰還した辺りからゼノムの姿を見た者はいない…
「何か抜け穴があったんだろうな…一度戻ってククラに相談するかぁ」
ゼノムが帰宅した玄関の前では裸エプロン姿の白髪獣人が待っていた。
「お帰りなさい!ご飯にする?お風呂にする?それとも…」
「お…?なんだその古い展開は」
ゼノムの背後から誰かの手が近付いていた。
「ゲーム…」
その姿はメイだが明らかに人格が『あの人』だった。
「そんな…あり得ない…いやあり得るのかオマエなら」
「お帰りなさい!邪神様!」
「この女…ダレ?」
ゼノムの目は泳いでいた。自宅に当然のように居るアイツと当然のように出迎える正妻に脳が混乱している。そして耳元でメイの姿をした『あの人』が囁いていた。
「泊まっていい?」
………。
これらが現実ではないことを正しい認識がゼノムの部屋の天井で知らせてくれた。夢を見ていたようだ。とても良くないが悪くも無い夢、あのままで居てくれたらと願うばかりだが『あの人』は遠い真なる想起を必然的に、そして絶対的に運命の歯車がどれだけ壊れても噛み合うように最後には到達してしまう。その最後が訪れないように永遠のリスタートが最適解だと思っていた。しかしそんなスタートで到達するとこまで来てしまった。打開策をククラだけでなくルシュフェルら妻全員を集めて会議を行なったが結果的に煩悩迷に行き着くのだ。彼女の異常性癖は未知数であり彼女の興奮状態が『あの人』の足枷となり縛れるのは確認できている。問題なのは『あの人』の影響、すなわち真なる想起による影響を少なからず煩悩迷も受けていることだ。並大抵のエロスに全く反応を示さなかったのだ。理性は「照れ」や「困惑」を示しながら本能は「無」だったのだ。あの全てを呑み込んでいた黒い球との戦闘で偶然リョナと名付けられた悪魔が煩悩迷の性癖に刺さる無惨な死に方をしたお陰で彼女を興奮させることが出来ていた。だが次はどうなる?このまま真なる想起の影響が酷くなれば煩悩迷の理性もいつか…
「どうした?顔色が悪いぞ…」
「あぁ…すまん、謎が多くてなアイツの」
「どの世界線でもそこだけはいつも通りだ。そして同じく」
ルシュフェルの肌がゼノムの肌と密着する。気分転換に一発ヤろうのGOサインだった。
「そうだな…あっちじゃ貯蔵の許容量に耐えられる者が一人しかいないせいで貯まっていたところだ。いくぞ…」
「ほう…一人いたのか?」
「まあノーカンなんだがな流石に」
「笑えない冗談だ」
寝起きから取れない寒気を紛らわすような濃厚な一発だった。それでも背後霊のような何かが付き纏って首を狙われ続けるような感覚が続いていた。
「縛りつけたとしても邪神である以上、厄介なのに変わり無いってことね…とりあえず塩と護摩と…」
「そんなものわざわざ使うまで無いだろう…」
「やっぱりか…」
「消えた…だと?」
ゼノムが手にした盛り塩と護摩が不自然なノイズ音と共に消失していた。その怪奇現象のような光景にルシュフェルは問う。
「邪神の怨念でも連れて来たのか…?」
「怨念って概念が残ってるなら有難い方だな!俺らの敗北ルートは回避されたな!」
「そうか…真なる想起から遠ざけるのには一応成功…なのか?」
たぶんゼノムは何となく言っているのだろうとルシュフェルは、察してそれ以上触れないでいた。