「……。とにかく、いい思い出になりました。言っておきますけど、宝玄仙様と愛し合ったのは愉しかったですよ。気持ちよかったですし。本当に奴隷になってもいいと思っちゃうくらいにね」
沙那は軽口とともに、宝玄仙の身体を抱えあげて肩に担ぐ。宝玄仙を林の中に放り込んで隠すためだ。
身を隠してあげるのはせめてもの慈悲だ。
よくわからないが、いまの宝玄仙は、あの死んだ黒風斎が持ってきた黒い布で目隠しを施したことで、法術がまったく遣えないだけでなく、全身が完全に弛緩して動けないようだ。
このまま放っておけば、逃亡した沙那と宝玄仙を追ってくるために出動してくるであろう県軍の兵にあっという間に発見されるのは間違いない。
二度と会うこともないとは思うが、すぐにかかるだろう追っ手に捕らえ直されるのは気の毒だ。
だから、林の中の見つかり難い場所に隠してやろうと思ったのだ。
丁度いい洞窟があるのだ。
生い茂った植物の蔓が覆いとなり、出入口はちょっと見つかり難い場所となる。
そこに身体は隠してあげようと思った。
隠したところで、宝玄仙は自分では目隠しを外せないらしいので、逃亡は不可能なのかもしれない。下手をすれば、そのまま水も飲めず、食べ物も食べれずに餓死するのかもしれないけれど、そこから先は自力でなんとか脱出してもらうしかない。
しかし、それ以上の面倒をみる気はない。
なにしろ、宝玄仙をすぐに自由にすれば、沙那を追いかけてきて、今度こそなにをされるかわからない。
だが、その瞬間、身体になにか熱いものが走り抜けて貫いたのがわかった。
「えっ?」
沙那は違和感を覚えて、思わずその場で凍り付いた。
「ふふ……。どうやら、服従の首輪が効果を及ぼしたようだね……。じゃあ、命令だ。わたしをおろして、黒布の目隠しを外すんだよ。外したら、わたしに触れないように、どこかにやっちまいな」
肩の上の宝玄仙が勝ち誇ったような笑いとともに言った。
すると、沙那の身体は、沙那自身の意思とは無関係に動き、宝玄仙をその場におろすと、宝玄仙の顔に手を伸ばして、黒い布の目隠しを取り去った。
びっくりした。
まるで、沙那の身体ではないかのように、勝手に身体が動いたのだ。
「ど、どうしてええ──?」
思わず、叫ぶ。
だが、瞬時に背中に冷たいものがどっと流れた。
なにが起きたのか理解できないが、得体の知れない力で沙那の身体が操られているのは明らかだ。
まずい──。
逃げるべきだ……。
沙那は駆けだした。
「とまるんだよ、沙那──。命令だ──。この宝玄仙から逃げることを禁じる。わたしの言葉には今後、絶対服従。二度と逆らうんじゃない。わたしに危害を加えること、裏切ることも禁止する。そして、旅のあいだ、わたしを守るんだ。命令だよ」
けらけらとした笑い声とともに、背中にかけられた宝玄仙の最初の言葉で、沙那の身体は硬直したように動けなくなった。
なにかが変わったということは感じなかったが、おそらく、それらの言葉は沙那の今後の行動を縛ったのだろう。
はっとして、県令の屋敷から宝玄仙の法術で脱出した直後に首輪をかけられていたことを思い出す。
多分、あれが「服従の首輪」なのだと思う。
これを使って、沙那は宝玄仙に隷属をさせられたのだろうと悟った。
ただ、わからないのは、沙那の知識にある「隷属の首輪」と隷属効果と、いまの沙那の状態が完全に異なっていることだ。
そもそも、奴隷ではない者が最初に奴隷として誰かの隷属下に入るとき、言の葉に載せるだけでなく、心からの屈服が必要であり、そのため隷属化には大なり小なり、拷問が必要なことは知られている。
現に、あの地下牢の拷問で張須賀から隷属を迫られたときも、心とは裏腹に隷属をした素振りをすることで騙し、逃亡の隙を得ることができたのだ。
つまりは、屈服さえしなければ、絶対に隷属は完成しないはずなのだ。
ところが、沙那には、まったく宝玄仙の奴隷になる気などなかった。
屈服した気など全くない。
ちょっとした軽口で「奴隷になってもいいと思った」と口走ったに過ぎない。
たったそれだけで、どうやら、沙那はその言葉だけで、宝玄仙の隷属下に陥ってしまったみたいだ。
どういことなのか……?
そして、もうひとつの違和感は、隷属の効果だ。
一般的な隷属の首輪は、「主人」の命令が逆らえないように心を縛るものだと聞いている。しかし、さっきの沙那は、心は関係ない。まるで、宝玄仙の言葉によって、沙那の手脚が沙那自身の心から離れて勝手に動いてしまった感じだった。
どういうこと?
とにかく、外さないと……。
沙那は首輪に手を伸ばした。
「おっと、触るんじゃない──。命令だ。服従の首輪を外そうすることを禁止する。未来永劫にね。まあ、どうせ、わたしでなければ外せやしないけどね」
宝玄仙がからからと笑う。
そして、その宝玄仙の言葉で、またもや沙那の手は意思を失い、勝手に途中でとまった。
動かなくなったのではない。
首輪に触れるという行為ができなくなったのだ。それ以外の行動はできる。ほとんど無意識のうちに、沙那は両手で身体を覆う被布を抱くようにしていた。
「嬉しいよ、沙那。わたしの奴隷になってくれて。まさか、奴隷になるなんて口走ってくれるなんてね。本当に感謝するよ。とにかく、案内しな。さっきの素振りでは、このわたしを一時的に隠す場所に連れて行こうとしてたようじゃないか。そこに行こうか。しばらくのあいだ、そのままこもるよ。服従の首輪なしでも、二度と逆らおうなんて考えないくらいに、徹底的に調教しないといけないしね」
「ちょ、調教って……」
「いいから、そこに行きな。命令だ。話は歩きながらだよ」
沙那の身体は、またもや勝手に動き出す。
真っ直ぐに、考えていた隠し穴に向かいだした。宝玄仙が沙那の後ろから愉しそうな雰囲気でついてくる。
やはり、勝手に身体が動く。
沙那の知っている一般的な「隷属の首輪」と、沙那が装着された「服従の首輪」とやらは、まったく異なるものだと悟しかなかった。
心を縛るのでない。
これは身体そのものを「言葉」で操る隷属の法術具なのだ。
しかも、おそらく、ただ言葉で口にするだけで、身体が操り状態になってしまった。
いずれにしても、なんとかしなければ……。
とにかく、少しでも情報を……。
「ま、待ってください。どういうことなのか説明してください。これは奴隷用の隷属の首輪ではないのですね」
いずれにしても、なにが起きているのかを正確に知ることだ。
宝玄仙の支配下から逃れる手段を探るには、まずはそこからだ。
「当たり前だよ。このわたしの最高傑作の法術具だ。そこら辺にあるようなちんけな隷属具とはまったく違うよ。お前の心じゃない。身体を隷属するんだ。とにかく、お前が理解できる言葉で命令される限り、首輪がお前の意思と誤認させて、身体を動かすようにできてる。まあ、逃れるのは不可能だと思いな」
よくわからないが、とんでもないもののようだというのはわかる。
しかし、そうであるなら、もしかしたら、言葉が聞き取ることができないように、聴力をなんらかの手段で潰すのはどうだろうか……。
「もちろん、さっきも言ったけど、勝手に自分の身体を傷つけることは禁止するからね。自分の耳を自分で潰すというのはだめだ。命令だよ」
後ろからついてくる宝玄仙が言葉を付け足した。
沙那は歯噛みした。
やがて、目指していた洞窟に到着する。
岩で出入口が隠れて死角になっているだけでなく、樹木の蔓が表面を覆い茂っており、外からではまず洞窟の存在はわからない。
「なるほど、いい住み処じゃないかい。さすがは、県軍の女将校だよ。でも、こんなところに、わたしを放り捨てて行こうとしてたんだよねえ」
洞窟に入ったところで、宝玄仙が法術を使って、完全に闇だった洞窟内が明るくなった。
内部は奥が広くなっていて、湧き水が溜まっているところもある。
それはともかく、やっぱり宝玄仙の口調には、揶揄するような響きとともに、どこか怒りを抑えているような気配があった。
やはり、あのまま置き捨てていこうとしたことを根に持っているようだ……。
沙那の身体に緊張が走る。
宝玄仙の気性は、この十日でよくわかったつもりだ。
絶対に、とんでもない仕返しを実行するのは間違いない……。
だが、服従の首輪とやらを装着された沙那には、それから逃げる手段はない……。
「あ、あのう……。捨てていくとか……。そういうことではなくて……。そのう、宝玄仙様が捕らわれたりしないようにと……」
とにかく、言い訳しようとした。
だが、宝玄仙が強く洞窟の地面を片脚で踏んで音を響かせた。
「黙りな、沙那。わたしのことは“ご主人様”だ。それと、二度と逆らう気にならないように、お仕置きを兼ねて調教をしてやるよ。ここはこもって隠れるにはちょうどいいしね。わたしの法術で結界でも張っていれば、まずもって発見されることはない。たとえ、黒風斎が死んでいないとしてもね」
「ほ、宝玄……いえ、ご主人様……。黒風斎は死にました。はっきりと手応えがありました……」
「いや、高位法術師というのは簡単には死なないんだ。万が一を考えて、魂を分離して、どこかに隠していたりするのさ……。まあ、そんなことはいいよ。とにかく、そこに跪きな。そして、外衣を寄越すんだ。それはわたしのものだしね」
沙那は黒風斎が追ってくる直前に、裸身を隠すための黒い外衣を宝玄仙から渡されていた。
それを取りあげられて、再び全裸になった。
沙那の身体は、やはり、沙那の意思とは関係なく、地面の上に跪く姿勢になる。
「左手首を背中で握るんだ。命令だ」
両手が背中に回って離れなくなる。
宝玄仙が位相術で宙から取り出すように、小さな容器を取り出した。中に入っている油剤をたっぷりと指にすくうと、沙那の女陰にすり込んでくる。さらに指で奥にも
……。
「くっ、あっ、い、いやっ」
思わず口からか細い声が洩れた。
得体の知れない油剤を塗られて、痒みで七転八倒したのは、まだ数刻前だ。
絶対に同じような媚薬に決まっている。
「ほ、宝玄仙様……いえ、ご主人様、なにを塗って……」
「ふん。お前に大好きな掻痒剤だよ。どうやら、黒風斎がお前に塗っていたらしいのは、いつの間にか効果が薄れてしまっていたみたいだしね。やり直しだ。これは、このわたしが五年以上かけて作ったものだよ。塗ればどんな女でも耐えられない疼きと痒みが発生する。いい薬さ。お前のような気の強い女将校にはぴったりのね」
「あっ、そこはだめです──」
沙那は悲鳴をあげた。
宝玄仙が花唇に続いて、手を沙那の腰の後ろに回して、お尻の穴に大量の油剤を塗りたくり始めたからだ。
「あっ、ゆ、許して──」
痒み責めの苦しさはすでに嫌というほどに味わった。
あれば、女の尊厳を確実に崩壊してしまう責めだ。
地下牢の拷問から屈服せずに、逃げることができたのは、たまたま張須賀たちが隙を示したからだ。
だが、服従の首輪で身体の自由を支配さえている沙那に、宝玄仙の責めから逃げる手段など存在はしないだろう。
しかも、宝玄仙はこの隠れ処のような洞窟で、いくらでも沙那を相手に時間をかけられる。
つまりは、沙那が本当に屈服してしまうかもしれないということだ。
やはり、それはいやだ──。
「尻の穴はまだまだ、快感が足りないようだねえ。県令の屋敷でも可愛がっていやったけど、しっかりとここも感じる穴にしてやるからね。女同士、愉しもうじゃないか」
「こ、この変態──」
さすがにかっとなって、沙那は怒鳴った。
「ははは、やっぱり、お前は面白いよ。従順になった振りをしながら、そうやってやっぱり反抗するんだからね。そこら辺にあるような隷属用に首輪ではなく、とっておきの服従の首輪にしてよかったよ。これは心で逆らっていても、無理矢理に従わさせられる素晴らしい調教具だからね」
すると、宝玄仙が嬉しそうに、追加の油剤をお尻に穴に追加してきた。
「ああ、ああああっ、いやああっ」
そして、いきなりだった。
身体の芯に響くような痛みにも似た痒みが、突然に股間とお尻に襲いかかってきたのだ。
「ひひいいっ、か、痒いいい──」
沙那は絶頂して腰を動かす。
「姿勢を崩すんじゃないよ。命令だ。しばらく、尻振りをしてな。一刻……いや、二刻だ。二刻したら、自慰を許してやろう。ただし、寸止めだ。股ぐらと尻の穴で、二十回ずつ寸止め自慰をさせてやる。ずるしようとしてもできないよ。服従の首輪を使って、命令してやるからね。それを五回繰り返したら、さっきの掻痒剤を塗り足して、貞操帯で封印だ。お前がいつ心からの屈服をするのは愉しみだねえ」
宝玄仙が笑い続ける。
「あああ、いやああ──。謝ります──。謝りますから勘弁してください──」
沙那は狂ったように身体を悶えさせながら泣き声をあげた。
*
黒風斎篇はこれで終わりです。次のエピソードは「五行山篇」の予定です。山賊団の赤毛の女頭領が登場します。