「退屈だねえ。沙那、なんか、愉快なことないかい?」
山街道が三脚に差し掛かって勾配が急峻になってくると、
「ありませんよ……。なんにも、あるわけありません」
沙那は、また、宝玄仙がおかしかことを言い始めたと呆れて嘆息する。
本当にどうしようもない女だ。
自分が追っ手をかけられている手配人という自覚はあるのだろうか。
「だって、ずっと同じ景色じゃないかい。茶屋のひとつだってありやしない。ほとんど行き交う旅人だっていないし、どうなっているんだい。なんで、こんな寂しい道を歩いているんだよ。とにかく、退屈だ。なにかしな」
宝玄仙は不機嫌そうだ。
沙那は嘆息した。
退屈だから、なんだと言うのだろう
旅が順調なのは結構じゃないか。
この頭のおかしな女法師は、これでももともとは、帝都では有名な天教の高位の法師であり、れっきとした貴族巫女だったらしい。確かに、それに見合う法術の実力があることは確かだ。
ただし、男も女も分け隔てなく情欲の対象とする多情多淫の性癖を持ち、性質は我が儘にして粗暴、直情径行にして浅慮──。情の深さも僅かに見え隠れはすれど、好奇心ばかりが先走り、軽佻浮薄の極み。とにかく手のつけようのない自己本位の厄介者である。
敵も多かったらしく、それで罠をかけられて、宝玄仙よりも力の強い闘勝仙という八仙の男の性奴隷にされていたのだそうだ。
呪術をかけられて逆らえなくされ、二年ものあいだ、女としてありとあらゆる辱めを受け、奴隷以下の境遇だったというのだから、多少の同情はある。
しかし、沙那が宝玄仙の逃避行の旅に同行することになった途端に、沙那に対して、性的な悪戯を朝となく、夜となく……、いや、こうやって旅の途中であっても「調教」と称した悪戯をのべつまくなしに仕掛けてくる厄介者の主人だ。
正直かなり、閉口している。
成り行きで、「隷属術」を受け入れて、護衛の供にして宝玄仙の「奴隷」となったが、沙那に女奴としての身を強要し、男女の交わりにおける悦楽とやらを教え諭すとの名目で、朝な夕な、いや夜も昼間も徹してまで、淫靡なる「手ほどき」を幾度も重ねてくる。
「服従の首輪」という隷属の呪術のかかった金属の首輪を装着され、宝玄仙の「言葉」に逆らえなくし、いまも「女淫輪」という淫具を陰核の根元に嵌めて、沙那がその効果による欲情状態にすることを強要している。
しかも、宝玄仙の術により外せなくなっていて、それだけでなく、宝玄仙が好きなように、振動もできるし、電撃を帯びさせることができるというわけだ。
これを嵌められてから、宝玄仙の淫らな悪戯に拍車がかかった気がする。
沙那としても、弱水の城郭で冤罪を仕掛けられて捕縛されたのを助けてもらった恩もあるし、宝玄仙が情欲なしに生きていけない性質であることは認識しているので、多少なりとも性愛の相手をするつもりではあったが、物事には限度というものがある。
だんだんと遠慮もなくなり……、いや、遠慮など最初からなかったが、とんでもない「ご主人様」ぶりを発揮し、最近は沙那に対してやりたい放題だ。
だが、もはや、逃亡もできず、拒絶することも不可能であり、沙那としては、ただただ、この宝玄仙の厄介な性的嗜虐を受け入れるしかなかった。
「旅の経路はできる限り、天教の寺院のないところを選んでますから、どうしてもこういう道になります。我慢してください」
「ふん、とにかく退屈なんだよ」
宝玄仙が鼻を鳴らす。
それはともかく、宝玄仙がかつて所属し、いまは宝玄仙を手配人として追っ手をかけている「天教」というのは、この帝国を中心に広まっている信仰であり、その最高峰が八仙と呼ばれる人智を越えた法術を駆使するという集団である。
当然に内外の影響力はとんでもないものであり、そこから手配されている宝玄仙がいまだに、捕らわれてないというのは、宝玄仙がそれだけの術者であるということもあるが、かなり運がいいと考えていいだろう。
だが、逃げおおせるだろうか。
天教に天敵として宣言されている以上、帝国の国境どころか、国境を越えた諸王国を抜け、どこまでも西に行って、完全に天教の影響が及ばない土地に辿り着くしかない。
そこまで向かうのも、一年以上の旅になると思うが、宝玄仙の旅の目的地は、そこから遙かな西域にある「魔域」と呼ばれる魑魅魍魎の場所らしい。
実は、宝玄仙の身体には、術者である闘勝仙という男が死んでも、いまだに解呪できない「淫紋」が刻まれていて、いまでも宝玄仙の本当の能力は制限されているし、定期的に無能力になったりしいて、これを解くには、魔域にあるという「賢者の石」というものが必要なのだそうだ。
魔域といえば、人間族とは違う妖魔族という魔道に長けた異種族の住み処であり、人間である沙那たちがそこに入るなどとんでもないことだとは思うが、宝玄仙は本気のようだ。
まあ、あまりにも遠い場所すぎてわからないが、いずれにしても、魔域に入るなど十年以上はかかるのではなだろうか。そもそも、生きて辿り着けるのか?
どうなることやら……。
いずれにしても、この女はまたもや、退屈の病を発症したらしい。
どうせ碌でもないことを考えているに決まっている。
さっきの声は、間違いなく、沙那の身体で遊ぼうと考えている感じだ。
「……ところで、この辺りは、
沙那は早口で言った。
言外に、ここでは、おかしな悪戯は封印してくれと頼んだつもりだ。
五行山の盗賊団といえば、この界隈では有名な存在らしく、峠を挟んで、ふたつの大きな盗賊団が縄張りを作っているということだった。
旅の行程を管理するのは沙那の役目だ。とにかく、そういう細かいことは、この変態巫女は全くの不得手だ。だから、昨夜宿泊した宿屋を出立する前に、沙那はしっかりとその情報を仕入れていた。
得ることができた情報によれば、本当に五行山の盗賊は危険な存在であり、この辺りを支配する地方軍も手を焼いているようだ。
沙那としては、危険を避けるために、できるだけ早く出発して、十分に明るいうちに五行山を通過してしまいたかったのだが、またしても、宝玄仙はいつもの嗜虐癖を発揮して、朝から性愛の相手をさせられ、結局出発したのは、十分に陽が中天近くにあがってからだった。
それで、かなり急いでいるが、このままでは、五行山を越えるどころか、峠に辿り着くのかも怪しい。
とにかく、できるだけ先に進もうと、沙那は足を速めていた。
「五行山の盗賊? なんで、そんなところを進んでいるだい? 旅程を管理するのはお前の仕事だろう。おかしな道を進むんじゃないよ。そもそも、野宿? この宝玄仙に野宿をしろを言うのかい、沙那──。はっ、いい根性じゃないかい。だったら、それ相応の罰があると思いな。どんな罰がいいんだい……? そうだねえ……。だったら、陰核に糸を繋いで、一晩中木の枝に繋げて吊りあげてやろうか。お前は体力だけはありそうだからね。根性入れて、ずっと立ち続けてみな」
宝玄仙が歩きながら鬼畜に笑った。
沙那はびっくりした。
この宝玄仙なら、本当にやりかねないのだ……。
「なに言ってんです──。この五行山のことについては、昨夜もちゃんとお話ししましたよ。それに、早朝に出発すれば、楽に山を通り抜けられたんです……。とにかく、急ぎますよ。陽が暮れれば、この五行山は歩けません。本当に野宿するしかなくなります。だいたい、そもそも、ご主人様が朝から悪戯なさるから……。これに懲りたら、いい加減に毎晩の碌でもない悪戯は多少は自重を……」
沙那は振り返った。
そもそも、こんなに微妙な時間になったのは、宝玄仙のせいなのだ。
かねがね思っていたが、本当にこの宝玄仙には、追われている身だという自覚がなさ過ぎる。
目の前のことが愉しければいいという刹那的であり、このままでは魔域どころか、国境を越えられない気がする。
「ひっ」
だが、宝玄仙の顔を見て、沙那は恐怖の声をあげてしまった。
宝玄仙は顔に満面の笑みを浮かべていたのだ。
この鬼畜巫女が、この顔をしたときは碌なことはない。
沙那は、それを知っている。
「よくぞ言ったね、沙那。なかなか、頼もしいじゃないかい……。とりあえず、女淫輪を動かしてやろうか……。いや、自慰にしよう。『服従の首輪』に命令してやるよ。下袴を脱いで、下半身は股布一枚になりな。布の隙間から指が入るだろう。ここで自慰をするんだ。一番感じるように指を動かすんだよ」
宝玄仙が笑った。
沙那はぞっとした。
冗談じゃない。
ほとんど人の通過することのない五行山の山街道とはいえ、街道には違いないのだ。
そこで股布一枚になるなど……。
ましてや、自慰をする……?
沙那は、顔が引きつるのがわかった。
「め、い、れ、い……だよ……」
宝玄仙はにやつきながら言った。
「ああ、そんなあ」
沙那は悲鳴をあげた。
“命令”という言葉を言われれば、もう終わりなのだ。
その単語が合言葉になり、どんな理不尽な命令であろうと、沙那の身体は首輪に刻まれた法術により、勝手に“命令”に従うために動き出す。
いまもそうだ。
沙那は、宝玄仙の破廉恥な命令に服従し、いったん歩くのをやめて、下袴を脱ぎはじめる。
「命令」で沙那の手が勝手にやっていることで、これに沙那の意思は関係ない。
だが、自分の手足が他人の言葉で勝手に動くというのは、何度も味わっても恐怖だ。
「や、やめて、やめて、お、お願いします。なんでもします。なんでもしますから、外で辱めるのだけはやめてください。お願いします、ご主人様」
沙那は悲鳴をあげた。
しかし、宝玄仙は笑うだけだ。
沙那の手は、下袴の腰紐を解いて、呆気なく足首から抜いてしまう。
しかも、沙那は護衛のために、腰に革帯で剣を吊っていたが、それについては、ご丁寧にも股布一枚の腰にぶら下げ直している。
「じゃあ、出発だ。命令さ」
宝玄仙が沙那が脱いだ下袴を取りあげた。
「ああ、そんな……」
沙那は泣き声をあげた。
だが、沙那にはなんの抵抗もできない。
沙那は、上着は身につけているものの、小さな股布以外には腰から下にはなにも着ていないという破廉恥な姿のまま、再び歩きだす。
そして、さっきの「命令」により、股布の隙間から指を入れて、股間に触れる。
「んふうっ」
沙那は声をあげた。
宝玄仙の命令は、「一番に感じるように自慰をしろ」だ。
だから、沙那の指は懸命に、沙那がもっとも感じる場所である肉芽をくすぐるように動かし始めた。自分の身体がどんな風に感じるかは、沙那が一番よく知っている。
自分の手から逃れることなど不可能だ。
「んふうっ、はううっ、あふう」
沙那は、すぐに腰から下が痺れたようになってがくりと膝を折ってしまった。
そのあいだも、沙那の指は快感を少しでも拡大しようと、股布中で動き回る。
「相変わらず、感じやすい身体で愉しくなるねえ。それから、恥ずかしかったら、そんなに大きな声を出すんじゃないよ」
宝玄仙が沙那の痴態を見て、笑い続ける。
「も、もう……や、やめて……。ご、ご主人様、こんなことをしている……ば、場合じゃ……。陽、陽が暮れます……。ここは、五行山ですから……」
沙那は懸命に訴えた。
「五行山がどうしたんだい? やっぱり、女淫輪も動かしてやるよ。だけど、こうやって見ていると、一箇月間、調教しまくっているのに、やはり肉芽が一番感じるのかい? じゃあ、肉芽はいいや。そこは女淫輪に任せて、お前は尻に指を入れな。尻で自慰だ。命令だよ」
沙那の股間で女淫輪が振動を開始する。
それとともに、沙那の指は一度抜かれて、今度は後ろからお尻の穴を探して、股布に入っていく。
「お、お尻は堪忍を……。ほ、本当に急ぎましょう──。ここは本当に物騒なんで……」
しかし、沙那の意思とは無関係に、勝手に指がお尻に挿し込まれて、うねうねと動き始める。
女淫輪の刺激と相まって、沙那は完全にその場にうずくまってしまう。
宝玄仙は手を叩いて笑った。
本当にこの変態巫女め……。
沙那は唇を噛んだ。
これで口さえ開かなければ、絶世の美女の巫女として、誰からも尊敬と羨望の眼差しを向けられるほどの外見なのに……。
「そんなに気持ちがいいかい、沙那? 本当に、お前は全身が性感帯みたいに感じやすくて面白いよ。とにかく、早く行こうじゃないかい。そろそろ、進みな。お前の言い草じゃないけど、陽が暮れてしまうよ」
宝玄仙が言った。
沙那は歯噛みした。
「……あ、ああっ、あっ、だ、だったら、や、やめさせて……。め、命令の解除を……んはああ」
沙那はしゃがみ込んだまま、宝玄仙を見あげて訴えた。
しかし、その沙那に宝玄仙がさらに鬼畜な笑みを浮かべる。
「歩けるさ。“命令”してやればね。さあ、沙那、命令だ。自慰をしながら歩くんだ」
宝玄仙が鬼畜に言った。
沙那は悶え泣いた。
「いやあ、いや、いやあ」
沙那は指で尻を自慰をしながらという屈辱の姿で立ちあがった。
本来であれば、とても歩くことのできないような疼きの中、一歩一歩と沙那の脚は前に進みだす。
「このまま歩きながら、達し続けな……。そうだね。五回ほど絶頂すれば、許してやるよ」
宝玄仙が沙那の下袴をぽんと投げ寄越しながら、すたすたと前を歩きだす。
沙那は、肛門に入っていない側の手で下袴を受け取るも、それをはくことはできない。
脱げというのがさっきの命令なので、それを解除しなければ、このままで歩くしかないのだ。
「ま、待って……」
先に進むと危ない……。
沙那は、そう訴えようとしながらも、さっそく最初の絶頂を迎えてしまい、その言葉は口から出る嬌声によってかき消されてしまった。