尻に玄奘の平手が炸裂して、宝玄仙は思わず呻くとともに顔をしかめた。
「跪いて立て──。真っ直ぐに顔をあげろ──。命令だ──」
玄奘が叫んだ。
前回の十日目の発作のときに、宝玄仙は玄奘と隷属の誓約を交わしている。
法術使い同士が交わした術式を使った誓約であり、宝玄仙ほどの能力保持者であれば、自らの強力な法術力そのものが強い縛りとなって、破ることを不可能とする呪術として、強く誓約が成就してしまう。
抜け道はあるものの、宝玄仙のような高位能力者は、簡易な誓約といえども、強力に心身を縛る枷となるのである。
そして、その隷属の刻印が玄奘の“命令”という言葉によって効果を発揮した。
宝玄仙の身体は、宝玄仙自らの意思に関係なく、玄奘の言葉に従おうとする。
うつ伏せで高尻状態だった姿勢を解き、必死に不自由な身体を起こして、左右の手首と足首をそれぞれに手枷で繋げたまま身体をもがかせて、膝立ち状態になる。
左右の手首が足首に繋がっているので、大きく身体を反らせた格好だ。
その宝玄仙の頬に、玄奘の平手が跳んできた。
「あぐうっ」
力任せに叩かれた身体はそのままぐらりとひっくり返る。
「ちゃんと立たんか──。命令だ──。お前だ──。お前があの闘勝仙様を殺したのだろう──。絶対にそうに違いないんだ──」
“命令”により、すぐに身体を起こす。
そこにうなりをあげるような平手が再び頬に炸裂する。
「くわっ、な、なにすんだい──」
「お前だ──。お前があの闘勝仙様を殺したんだろう──。言わんかあ──。いちいち姿勢を崩すな──。一切避けることを禁止する──。命令だあ──」
玄奘の顔は怒りで真っ赤になり、明らかに興奮状態だ。
またもや平手だ──。
「ぐあっ──」
顔が吹っ飛ぶような打擲だ。
頭が揺れて一瞬、気を失いそうにさえなった。
だが、姿勢を保てという“命令”の効果もあり、今度はなんとか身体を倒すことは防いだ。
すると反対側の頬に平手が跳ぶ。
「ふぶうっ」
顔が真横にねじ曲がる。
しかし、今度は反対側の頬に平手が炸裂して、強引に元に戻される。
そこにまたもや平手──。
もはや、悲鳴をあげるいとまさえないくらいの連続の平手が左右の頬に炸裂する。
右に──。
左──。
また、右──。
そして、左……。
二十……。いや、三十……、四十発……?
もはや、数えるのも馬鹿らしいくらいの数の平手の打擲である。
やがて、隷属の刻印を使った“命令”にもかかわらず、姿勢を保って顔をあげていられなくなった。
隷属の刻印による“命令”の有無に関わらず、身体が保てない命令は行使できない。
頭が朦朧となり、宝玄仙の首ががくりと垂れる。
すると髪の毛を掴まれて、強引に顔をあげさせられた。
「はあ、はあ、はあ……。思い知ったか……。この糞ったれ女が……。お前が闘勝仙様を殺した……。そうだな? 命令だ。一切の嘘を主張することを禁止する……。正直に言え。お前が殺したのだな?」
玄奘が宝玄仙の顔を無理矢理にあげさせて怒鳴った。
宝玄仙はなんとか意識を保ち、できるだけ不敵に見えるように微笑んでやった。
「……わ、わたしは……殺して……ないよ。あの男は……自殺したのさ……。自分の睾丸を喰ってね。多分、腹でも減ってたんだろうよ」
わざとらしくせせら笑う。
これこそが、宝玄仙がどんなに怪しいとしても、神殿側が罪を問うことができなかった最大の理由だ。
闘勝仙殺しの取り調べのとき、宝玄仙は連中が施す「嘘を口にできなくする」術を何度も受け入れ、その都度、殺してはいないと言い張った。
もちろん、それは嘘であるが、なぜ、嘘をつかないという誓約を交わしながら堂々と嘘が言えるのか、ついに彼らはわからなかった。
その結果、宝玄仙の「無実」が証明され、その代償として、神殿と皇家が結託して、魔域までの西方行脚という無理難題を宝玄仙に押しつけることになったのである。
「そんなわけがあるかあ──。このくず女──」
玄奘が力任せに髪を引っ張りあげる。
「あがああっ、いたいいっ、や、やめないか──。抜けるだろうがあ──。このきちがい──。何度でも言ってやるよ──。あの闘勝仙は自分の睾丸を喰って死んだ馬鹿たれだよ──」
宝玄仙は髪を引っ張られる激痛に耐えて大声で喚いた。
「この女──」
今度は力任せに顔を地面に叩きつけられた。
「ふぎいいっ」
顔面を強打する。
そして、そのまま再び髪の毛を掴まれて、姿勢を膝立ちに戻された。
「この馬鹿女め……。あれ、おやっ?」
玄奘が怒りで顔を真っ赤にして、宝玄仙を睨んだ。
だが、なにかに気がついて、はっとなったような表情になる。
次いで、いきなり爆笑した。
「なんだ、お前。これだけ痛めつけられて、逆に興奮して乳首を勃起させているじゃないか。やっぱり、闘勝仙様に二年間も躾けられただけはある。立派な被虐体質に調教されてしまったか」
玄奘がやっと髪の毛から手を離した。
「くっ」
宝玄仙は口惜しさに歯噛みした。
玄奘の指摘は事実だ。
乳首が痛いほどに勃起しているのは自分でもわかる。乳首だけではない。叩かれた痛みや屈辱により、宝玄仙の身体は完全に欲情して、股間からはみっともないくらいに愛液を垂らしている。
あの闘勝仙に支配されていた二年間は、確かに宝玄仙の身体をどうしようもないくらいの被虐体質に変えていた。
もともと、大勢の女官や巫女を百合遊びの相手に囲っていたくらいの性に奔放な宝玄仙だが、決して被虐癖ではなかった。むしろ、女王様体質であり嗜虐癖なのが宝玄仙の性癖だ。
それを無理矢理にに被虐癖を埋め込んだのが、闘勝仙であり、闘勝仙の息のかかった腹心だちだ。
あの恥辱が蘇るようで、浸透させられた被虐癖を指摘されると、涙が出るほどの口惜しさを覚える。
宝玄仙はぐっと歯噛みして怒りを呑み込む。
「ははは、泣いているのか、宝玄仙? 泣かんのだぞ。ほら、泣くではないぞ」
玄奘が大笑いして、あおりたてる。
宝玄仙は怒りでかっとなった。
「だ、誰が泣いているんだい──。泣くわけないだろうが──」
喚きあげる。
だが、玄奘は笑うのをやめない。
「いや、眼には涙が溜まっておるぞ、宝玄仙。最後にお前の泣き顔を見れただけでも、多少の溜飲はさがった。ご褒美だ。被虐八仙の宝玄仙様なら喜んでくれるかな?」
玄奘が宝玄仙の左右の乳首を両手でそれぞれに摘まむ。
そして、力の限りに指で押し潰しながら捻り回した。
「あぎゃあああっ、痛いいいい──。や、やめええ──」
宝玄仙は絶叫した。
「ほらほら、もっと泣き叫べ、被虐女」
玄奘が大悦びで乳首を捩る。
あまりの激痛に、宝玄仙の身体からは一斉に脂汗が噴き出たが、一方で、植えつけられた被虐体質が大きな疼きを下腹部に発生させもする。
口惜しいが、痛めつけられたり、恥辱的な仕打ちをされると欲情してしまうのは本当なのだ。
そうなるように調教されてしまったのである。
「よし、もう一度うつ伏せになれ。脚を開いて尻をあげてな」
やっと玄奘が乳首を離す。
宝玄仙は大人しく、命じられた格好になる。
「なんだ、宝玄仙。淫汁が膝まで垂れておるではないか。いくらなんでも、みっともなさすぎるだろう。被虐なのはわかるが、ちょっとは自重せんか。そんなことでは、八仙の威厳は保てんぞ」
尻側から宝玄仙の股間を覗く玄奘がわざとらしく揶揄する。
「くっ」
実際にその状態なのだろう。
天幕の中で地面にうつ伏せになって高尻をしたままの格好で、宝玄仙はこの屈辱に思わず呻いた。
「それにしても、いつ見ても、見た目は最高の美女だな。いつも、闘勝仙様や殿下に玩具にされているお前を遠くから見ていた……。是非、とってかわりたいと思っていたが、こんな日が来るとはな」
そると、玄奘が後ろからすっと指で宝玄仙のお尻の亀裂を上から下にひと撫でしてきた。
「ひゃあああ、あああああっ」
たったそれだけの刺激なのに、熟れきっている宝玄仙にとっては、凄まじいほどの刺激だった。
呪術で硬直されている身体を限界まで突っ張らせて、身体を痙攣させてしまう。
「相変わらず、敏感な身体だな、宝玄仙殿。そして、尻穴はやっぱり弱いようだ。闘勝仙様はお亡くなりになったが、あのお方が面白がって、お前の尻穴にかけた呪術はまだ健在のようだ」
玄奘が大笑いする。
宝玄仙は歯噛みしながら、肩で息をする。
「……はあ、はあ……、や、やっぱり、お、お前、あの頃のわたしを見たことがあるのかい?」
少なくとも、宝玄仙には玄奘を見た記憶はない。
だが、闘勝仙は宝玄仙を余興のように弄ぶとき、大して隠そうとはしてなかったし、時には家人たちの大勢いる集まりの中で屈辱的なことをさせることもあった。
その中に混ざっていたとしてもおかしくはない。
闘勝仙への悪態を宝玄仙はちょっと口にしただけで、逆上したようになった玄奘だ。
もしかしたら、かなり近い立場にあったのかもしれない。
「あるな。闘勝仙様は幾人もの貴人の女をああやって、慰み者にして遊ぶ癖があったが、お前は大のお気に入りだった。なにしろ、二年も続いたのだからなあ。惜しい方を亡くしたものだ」
玄奘が懐かしむような口調で言った。