下帯ひとつの裸身に、夜明け前の冷えがじわりと染み込んでくる。
五行山の大広間だ。
どうやら、昨夜も酒盛りと輪姦をやりながら、いつの間にか寝入ってしまったようだ。
天井近くの明かり窓から、薄い光が差し込んでいる。
まだ朝とは言えない色だ。松明の残り火が壁に赤黒い影を投げ、広間の奥まで届かない。
大広間には、鈍い金属音と荒い息遣いが混じった気配が、途切れずに残っていた。
視線を巡らせる。
周囲には、眼看喜を新頭領と認めて忠誠を誓った部下たちが、思い思いの場所に倒れている。幹部格ばかり十数名だ。酒瓶や食い散らかした料理の間で、鼾をかき、口を開け、無防備に眠りこけていた。
上衣を着ている者はほとんどいない。下帯だけを辛うじて締めているのはまだましな方で、腰布すら外れ、下半身を晒したまま寝入っている者もいる。
だが、喧噪だけは続いていた。
眼看喜は、寝転んだまま視線を中央へ向ける。
広間の真ん中、宴の中心に据えられた石台があり、そこでは、一昨日からの陵辱がいまだに続いていた。
人の膝ほどの高さの石柱が、広間の中央に据えられている。
その上に、四肢を失って、切断された腿の付け根に取り付けられた金具で石にしっかりと固定されている孫空女がいる。
その孫空女に、手下がひとり、背後から孫空女を犯して、腰を振り続けていた。
周囲を見れば、寝入っている男たちが最も密集しているのも、この石柱の周りだ。
酒と欲に溺れ、交代しながら女に群がり、そのまま力尽きて眠りこけたのだろう。
いま起きているのも、ちょうど順が回ってきただけに過ぎないに違いない。
「きいいっ、きいっ」
一方で、孫空女は、背後から躰を押さえつけられたまま、石台の上で身を捩っていた。
腕のない四肢の名残を無意味にばたつかせ、喉の奥から、獣のような奇声を絞り出している。
人の声ではない。
そうなるように、最初から仕込んだのだ。
眼看喜は、その様子を眺めて口元を歪めた。
初日の夜、眼看喜たちは、元頭領であるこの女に人の言葉を捨てさせた。
二度と口にするなと命じ、代わりに、猿の鳴き声だけを強要したのだ。
少しでも人の発音に近い音を出せば、徹底的にいたぶってやった。
四肢のない躰を水桶に沈ませ、拷問用の法術具で痺れるほど打ち、さらに、敏感な性器に不快な薬を塗りたくってやったりした。
何度も、何度もだ。
いまでは、その恐怖があの女の骨の髄まで染み込んでいる。
もう二日以上、人の声らしい音を出そうとした気配すらない。
口を開けば、条件反射のように、意味のない奇声が溢れるだけだ。
いずれにしても、そろそろ、正気を失っていてもおかしくはないが、まだまともだ。
時折、鋭い眼光で、こちらを睨み返してくる。
憎悪を煮詰めたような色は、むしろ以前より濃い。
また、顔も髪も躰も、男たちの精液痕が付いていない場所を探すほうが難しいほどに汚れている。
少し離れた位置にいる眼看喜のところにまで、濃い臭気が届いてくるくらいだ。
──まあ、無理もない。
孫空女を皆で弄び始めて、すでに三日目の朝になる。
そのあいだ、一度も食事は与えず、水もほんのわずかしか口にさせていない。
与えられているのは、繰り返し押し付けている精液だけだ。
身体も洗わせることもしていない。石台に縛りつけたまま、汚れを落とす手間など誰もかけなかった。
四肢がなく泳ぐことが不可能の孫空女を、水桶に放り込んだのが例外くらいだ。
結果として、躰は薄汚れ、髪は絡まり、女は完全にこの場の色と匂いに染まっている。
だが、それでもなお、孫空女は美しかった。
四肢を奪われ、犯し続けられて悲惨な印象になるどころか、ますます溶け出すような官能を放っており、一段と深い蠱惑で輝いている。
だからこそ、三日も経つのに、少しも飽きることはないのだ。
「ほら、飯だぜ」
前側に別の男が寄っていき、性器を露出したまま、孫空女の口の中に男根を突っ込んだ。
孫空女に、もはや抵抗は少ない。
また、石台の下には、外された金具と白い欠片が散らばっている。孫空女の前歯を全部金具で抜いたのは、多分、初日の夜だ。
孫空女には、御影という男の仕掛けが施されている。簡単には死なず、精を与え続けていれば、生きるだけの力は保てるらしい。
だが、女頭領だった孫空女の恐ろしさを知っている者は、孫空女の口に性器を突っ込むのを躊躇ったのだ。
だから、眼看喜が上下の前歯を金具で抜かせた。
片付ける者がいないので、いまだに床に残骸が残っている。
「おおおっ、い、いいぜえ」
いま犯している部下が腰を激しく振りながら声をあげた。
射精したのだろう。
しかし、それにもかかわらず、手下は取り憑かれたかのように、抽送を続けている。
絶対にかなわなかったかつての女頭領を犯している。しかも、五行山のような田舎の盗賊団には勿体ないような美女だ。──そんな状況が、手下たちを狂わしているのかもしれない。
射精したばかりにもかかわらず、そいつはすぐに二度目の精を放った。
男根を抜いて、床に座り込んだが、抜いたというよりは、腰が抜けてしまった気配だ。尻もちをついているそいつは痴呆のような顔をしていた。
そして、もうひとりの若い手下も、孫空女の口のなかに精をぶちまけた。
「どら、交代だ」
眼看喜は、孫空女に近づいて、ふたりを押しのけた。
下帯を外して男根を露出すると、まずは尻の穴にずっと押し込んでいた猿の尻尾を引っこ抜く。
次いで、孫空女の股間に尖端を押しつけた。
「ひっ、きいいいっ」
眼が覚めたように、孫空女の身体が震え、顔が凍りつくのかわかった。
眼看喜が犯そうとしているのが、いままで、猿の尻尾の淫具が埋まっていた孫空女の尻穴だったからだ。
「てめえは家畜だ──家畜のくせに、尻を犯されるのか怖いのかよ」
力任せに、孫空女の尻に怒張をめり込ませる。
「んぎいいっ」
孫空女の尻が痙攣し、その顔が苦悶に歪みのがわかった。
いままでの陵辱で、孫空女の尻を犯したのは、いまの眼看喜が初めてのはずだ。
そのうち順応はしていくだろうが、やはり、純粋に苦悶するこういう反応は、尻処女でないと味わえないと思った。
わざと痛みが増すように激しく律動してやる。
「うがあっ、がっ、がああっ」
孫空女が四肢のない裸身をのけ反らせた。
すさまじい締めつけが襲ってくる。
「てめえ、猿語を忘れてるじゃねえかよ──」
眼看喜は大笑いしながら、欲望のまま孫空女の尻に精を注ぎ込んだ。
尻から男根を抜いたとき、孫空女はほとんど白目を向いていた。
「ざまあねえなあ、姫猿──。お前も、俺たちの厠女の自覚があるんなら、もう少し尻を鍛えやがれ」
眼看喜が大笑いした。
そのとき、がらりと大広間の入口の引き戸が開いたのが見えた。
眼看喜は、精液の残滓を孫空女の尻たぶに塗りたくって掃除してから、おもむろに下帯を付け直す。
入ってきたのは、
そういえば、昨夜は、この見欲と
「おう、見欲か。首尾はどうだった? 御影様の布があるんだ。あの魔女は捕らえてきたんだろうなあ? 魔女はどこだ?」
「それが……」
しかし、眼の前までやってきた見欲は、蒼い顔している。
眼看喜は眉をひそめた。
もしかしなくても、これはしくじったんだろう。
舌打ちが漏れた。
「……聴怒の野郎はどこだ……? 指揮は、あいつのはずだろう」
「それが……ですね……」
見欲は言い淀んでいる。
眼看喜はかっとなった。
「さっさと説明しろ──」
怒鳴りあげた。
そのとき、遠くで大音響がして、続いて地響きが起こり、大広間の床が揺れた。
「なんだあ──? なにがあった──?」
眼看喜は叫んだ。
「なんだ、なんだ……」
大音響と振動で、大広間に転がっていた賊徒たちも、次々に飛び起きる。
「どうした?」
「なにが起きた?」
酒に濁った声が重なり、寝起きの男たちが身を起こす。
「扉も、窓も全部開け──」
眼看喜は怒鳴る。
すぐに、大広間にいた手下たちが、あちこちの扉を次々と開け放ち、明かり窓も押し開けられた。
「あの魔女が──」
「襲撃だ──」
「山門が破られた──」
外から怒号が流れ込み、大広間のざわめきが一気に膨れ上がる。
「……魔女だと?」
眼看喜は、その言葉に反応して顔を上げた。
「ええっ──? なんで……宝玄仙が、こっちを襲撃に来るんだ……?」
見欲が蒼白な顔のまま、思わず独り言のように呟いた。
「おい──。いま、なんて言った──。昨夜、なにがあった……説明しろ」
眼看喜は間合いを詰め、見欲の胸倉を掴みあげた。
「そ、それが……」
見欲が言葉を選ぼうと息を吸った。
眼看喜は、拳で見欲の顔面を打ち据えた。
「うぐっ」
見欲の身体が床に叩きつけられて転がる。
「す、すみません……。宝玄仙に逃げられました……。しかも、聴怒兄貴が、いつの間にか連れて行かれていて……」
鼻血を出し、床に伏したまま、見欲は震える声で言った。
大広間にざわめきが一瞬だけ沈む。
「頭領──大変です──」
すると、血相を変えた数名の手下が、外から駆け込んできた。
「どうした──?」
もともと広間にいたひとりが叫ぶ。
「襲撃です……あの魔女が、聴怒さんを縛ったまま引きずってきて、孫空女を出せと喚いています……」
外から来た者のひとりが言った。
「ちっ、出入口を固めろ」
眼看喜は即座に命じた。
「それが、山門が破られて──。もう、こっちに昇ってきます」
「もう、外門は破られています──」
「すでに、内門です──」
一緒に来ていた三下たちも口々に叫ぶ。
その瞬間、再び凄まじい大音響が山砦を揺らした。
床が跳ね、梁が鳴り、大広間全体が軋む。
「内門が破られた──」
「入ってくるぞ──」
外から喧噪が届く。
いままでよりも、ずっと声が近い。
眼看喜は、歯を噛み締めた。
「狼狽えるな──。全員、武器を取れ──。弓で囲め──。それと、誰か、御影様に伝えてこい──」
眼看喜は怒鳴りあげた。
中庭に出た瞬間、眼看喜は足を止めた。
視界に、三つの人影が同時に飛び込んできた。
石畳の中央に、男がひとり立たされている──。聴怒だとすぐにわかった。両腕を後ろ手に縛られ、口には猿轡を噛まされている。
眼看喜は息を詰めた。
そのすぐ背後に、ふたりの女──ひとりは、法杖を持つ黒衣の女。顔のわかる距離で見るのは初めてだ。なるほど美人だ。──あれが宝玄仙か。聴怒の縄尻を持っているのは宝玄仙だ。
その脇にいるのは女護衛の沙那だろう。そっちもいい女だ。
宝玄仙は、着衣に乱れもなく、法杖を持たない片手で縄を軽く引いている。
沙那は、特に構えはない。
腰には武器を下げているが、柄には触れてなかった。
しかし、視線だけを静かに巡らせ、周囲の動きを漏らさず拾っているように見える。
「兄貴……あっ、いえ、頭領……地面を……」
さっきまで大広間で一緒にいた部下が小声でささやく。
砦の中庭の地面の上に、うっすらと刻まれた紋様が広がっていた。線は円を描くように連なり、中心から外へと滲むように伸びていた。
あれは、結界紋か……。
内心で舌打ちする。
記憶が引きずり出される。
数日前に、最初にこの五行山で宝玄仙たちを襲ったとき──あのとき、自分は離れた位置から爆裂矢を撃ち込む役目だった。
結界が刻まれた瞬間、悲鳴が上がり、人影がまとめて、なすすべなく拘束をされた光景を覚えている。
なにが起きたのか理解する前に、すべてが終わっていた。眼看喜は、恐怖に囚われ、ただ逃亡をしただけだった。
「眼看喜という頭領はどこだい──。面倒な話はやめようじゃないかい。お前らに私怨はない。孫空女と引き換えだ。この男を返してやるよ」
その地面の結界の中央に立つ宝玄仙が怒鳴った。
五行山の賊徒たちは、宝玄仙たちが立つ結界の外側を、距離を取って囲んでいる体勢だ。あの襲撃に参加した者も、してない者も、あのときのことは語り草になっているのだろう。
怖ろしくて、結界の内側には誰も踏み込もうとしてない。
宝玄仙たち三人と、賊徒たちのあいだには、それなりの距離がある。
眼看喜の背後には、大広間から駆けつけた幹部格の賊徒たちが集まっていた。
数だけは揃っている。
幹部格で、それなりに腕が立つ者が二十人──。三下たちを集めれば百人──。ほとんどがここにいるだろう。
ニ人と百人──。
しかし、誰の顔にも余裕はなかった。
「聞こえないのかい、眼看喜──。臆病風に吹かれてないで、顔を出しな──」
宝玄仙が、中庭に響く声で叫んだ。
その声に反応して、聴怒の肩がびくりと震える。
猿轡の奥から、喉を鳴らすような低い音が漏れた。
「てめえ、どういうつもりだ。ここは俺たちの砦のど真ん中だということはわかってんのか。ここには百人の荒くれがいる。幾らお前が法術遣いでも、これだけの人数に叶うわけはねえだろうが」
眼看喜は怒鳴り返した。
「じゃあ、やってみるかい。地面が見えるだろうが──。すでに結界は刻み終わった。よく訊きな。お前ら全員を燃やすのに、一瞬だけでいいんだ。一瞬だよ。酒の詰まった身体だ。さぞや、いい色に燃えんだろうねえ」
宝玄仙が高らかに哄笑した。
その言葉が届いた途端、賊徒たちの動きが揺れた。
誰かが後ずさり、釣られるように別の者も距離を取ったのだ。
宝玄仙を囲んでいた輪が、ひと回り大きく広がった。
「……眼看喜様、いけません。あの結界は、頭領の……いや、猿姫さえも、捕らえられたんです。数十名が、あっという間でした……」
部下が近づき、声を潜めて囁いた。
「わかっているよ……」
眼看喜は、足元の紋様から目を離さなかった。
「……ところで、御影様は?」
眼看喜は低く問い返した。
「それが、どこにも……。いま、何人かで探させてるんですが、砦のどこにも見つからなくて……」
「ちっ、肝心なときに……」
眼看喜の口から舌打ちが漏れた。
「どうしたんだい──。さっさと決めな。大人しく人質交換に応じるのかい──。それとも大騒ぎしたいのかい。どっちなんだい。返事しな──。わたしはどっちでもいいんだ──」
宝玄仙が、余裕を崩さずに叫んだ。
「わかった。応じる──。孫空女を連れてくる。だから、暴れるな──」
眼看喜は声を張り上げた。
すると、すぐに周りの幹部たちが寄ってきた。
「あれを渡すんですか?」
「眼看喜の兄貴……」
背後からも幹部の賊徒たちが距離を詰めてくる。
「……とにかく、結界からあの魔女が出るまで待て……。人質交換に応じる振りをして隙を見つけたら、全員で御影様の布を被せちまえ。それで終わりだ……」
眼看喜は、低く、しかしはっきりと指示を出した。
「あの護衛はどうするんです?」
「殺せ。あの魔女の法術さえなければ、所詮は女だ。全員でかかれば殺せるはずだ。死に物狂いでやれ……」
周囲の賊徒たちが、小さく頷いた。幾人か包囲をしている手下たちに指示を与えるために散っていく。
「ああ──?もしかして、そこら辺で喋っているのが、眼看喜なのかい──?」
宝玄仙が、怪訝そうに視線を向けてきた。
眼看喜は反射的に一歩下がり、部下たちの背中に身を隠した。
「……い、いま、孫空女を連れてくる。お互いにゆっくり歩いて、真ん中で孫空女を渡す。そしたら、聴怒の縄を離せ──」
眼看喜は言った。
「ふん、いいだろう。早くしな──」
宝玄仙が笑う。
眼看喜は、背後の部下に顔で合図を送った。
二人が頷き、大広間の方へと駆けていく。
中庭に、張り詰めた沈黙が落ちた。
しばらくして、中庭にふたりの部下が、四肢のない孫空女を抱えて現れた。
四肢のない躰は布切れ一枚で巻かれているだけで、抱えられたまま揺れている。
首はぐらりと傾き、意識が定まっていない気配がある。
だが、眼だけは違った。
焦点の定まらないまま、鋭い光を宿し、ぎろぎろと彷徨っている。
「孫空女を渡す──。ゆっくりとこっちに来い」
眼看喜は怒鳴った。
「ちっ、面倒だねえ。ほら、下衆男、行きな」
宝玄仙が聴怒の背後に回った。
聴怒の尻が蹴飛ばされる。
「んぐっ」
猿轡の下から、短い呻きが漏れた。
蹴られた勢いで、聴怒が前へもつれる。
そのまま、進行方向の先頭を歩かされる形になった。
宝玄仙は一歩遅れて続く。
人質に手が届く距離を保ったまま、歩みを緩めない。
さらにその後ろを、沙那が無言で付いてくる。
武器には手をかけていない。
だが、間合いは崩さず、隊列を守っている。
一方で、孫空女についても、そのまま、二人に抱えさせて前に進ませる。ただし、わざとゆっくりと歩くように小声で指示する。
互いに進む距離が少しずつ近くなる。
眼看喜は歯を噛み締めていた。
本当に、結界から出てきた。しかも、宝玄仙から近づいてくる。
そして、その接近の途中だった。
「あんた、なんで、来たんだ──」
掠れた声が落ちた。
突然に孫空女が、宝玄仙に向かって叫んだのだ。
「ほう。死んだ眼でもしてるかと思ったけど、それなら、大丈夫かねえ」
宝玄仙が応じたのが聞こえた。
歩みは止めないが、孫空女に向かって一気に距離を縮めた。
それに合わせて、聴怒も前へ押し出される。
足取りはもつれ、何度もよろめいた。
沙那は無言のまま、最後尾を外さない。
近い──。
眼看喜は周囲の幹部に、眼だけで合図を送る。
誰も声を出さない。
背中に隠した暗封布を、各々が握り直している。
宝玄仙と聴怒が、さらに一歩、近づいた。
「聴怒、走れ──」
眼看喜は叫んだ。
聴怒が前へ弾ける。
もつれた足取りのまま、こちらへ全力で走り出した。
「いけええ──」
眼看喜は吼えた。
「うおおおっ」
「うりゃああ」
「おおおっ」
数名が一斉に飛び出す。
暗封布が、宝玄仙へと投げかけられる。
体当たりが重なり、布が被さった。
宝玄仙の身体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
続けざまに、沙那にも布が投げられた。
沙那が身を翻そうとした、その瞬間だった。
人影が殺到する。
刃が走る。
無言のまま、次々と突き立てられる。
声は上がらない。
叫びもない。
沙那の身体が崩れ、石畳に倒れた。
血が広がり、足元に溜まっていく。
ほどなく、動きは完全に止まった。
血だまりの中で、沙那は呆気なく絶命していた。
「やったぞおお──」
眼看喜は叫んだ。
すると、雄叫びが重なり、砦中に響き渡る。
勝利の叫びが、何重にも中庭を満たしていった。