※この作品はR-18です。

艶本西遊記   作:ドン・ドナシアン

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 37 新しい仲間

 五行山の砦に、割れんばかりの歓声が渦巻いていた。

 

 勝った──。

 誰もが、そう信じて疑っていない声だった。

 眼看喜(がんかんき)も、狂喜の昂奮のなかにいた。

 あの魔女を捕らえたのだ──。

 

 黒布を被せられて、人の塊になっている膨らみに眼を向ける。

 宝玄仙は、黒布を被せたまま、ぴくりとも動いていない。

 孫空女を捕らえたときと同じだ。

 術を封じられ、力を奪われ、ただの肉塊になっている。

 

 そして、沙那という名の女護衛は、部下たちによって刃物で切り刻まれて、仰向けで血だまりの中に転がっていた。

 完全に死んでいる。

 呼吸もない。動きもない。

 

 ほっとするとともに、悔悟の気持ちがふつふつと湧く。

 考えてみれば、惜しいことをしたと思ったのだ。

 思ったよりも呆気なかったことを考えると、沙那を殺さずにすんだのではないか。

 殺さずに生け捕りにできたかもしれない。

 

 たとえば、宝玄仙を人質にして、抵抗を諦めさせるとかだ。主従のようだから、大人しく投降した可能性もある。

 そうなれば、五行山の厠女は、姫猿と魔女に加えて三人になったのだ。

 宝玄仙は、早晩、あの御影(みかげ)が帝都に連れていく。そうなると、結局、厠女は一匹しか残らない。

 

 それにしても、最初の襲撃のときに、沙那に近くで接した者たちは、孫空女に負けず劣らない美女だと口にしていた。

 遠目だったから、眼看喜は顔までは見てないが、どれほどの美人だったのだろう。

 血だまりに仰向けに倒れている女護衛に、改めて視線を送る。

 

 しかし、違和感が、胸を刺した。

 一瞬だ。だがはっきりと……。

 

 あれっ? 服装が違う……。

 体型も……違う。

 

 次の瞬間、喉が裂けるほどの声が飛び出していた。

 

聴怒(ちょうど)──」

 

 斬り刻まれているのは、女護衛ではなかった。

 聴怒(ちょうど)だ。

 

 滅多切りにされた顔には、幾重にも口に布を巻かれていた痕があり、よく見れば、腰縄が食い込み、両腕を腰の横から動かせないように拘束されている。

 

 理解が追いつかなかった。

 眼前の現実が、意味を拒んでいた。

 砦の歓声が、ゆっくりとざわめきに変わっていく。

 

「沙那、赤毛猿を確保したよ──。存分に暴れな──」

 

 叫び声が上がった。

 

 眼看喜は、弾かれるように振り向いた。

 そこにいたのは、聴怒だった。

 

 縛られていたはずの縄は解けている。

 四肢のない孫空女を、両手で掴み上げていた。

 

 聴怒がふたり──?

 わけがわからない。

 

「うわあっ」

 

「あがあっ」

 

 悲鳴が重なる。

 宝玄仙を黒布で被せ、脱力させていたはずの場所──。

 そこから、下から布が切り裂かれていて、すでに人が飛び出している。

 

 宝玄仙だ──。

 

 法杖に仕込まれていた隠し剣が閃き、手近の部下が手当たり次第に斬り伏せられる。

 血が噴き、倒れる。

 

 止まらない。

 宝玄仙が暴れ続ける。

 悲鳴とともに、周囲にいた者は武器をとることも忘れて、宝玄仙に背中を見せて逃げかかる。

 だが、そこに宝玄仙が飛び掛かり、一刀のもとに絶命させていく。

 それが続く。

 

 あっという間に、周囲で十人近く──いや、さらに大勢の部下たちが血飛沫を上げて崩れ落ちていく。

 庭が騒然となる。

 

「ご主人様──身体を戻して、ご主人様の身体、動きにくい──」

 

 宝玄仙が怒鳴りながら斬る。

 さらに二人が倒れ、次いで一人が地に伏した。

 集まっていたので、逃げることもできず、どんどんと斬り倒される。

 死骸の山と血の海があっという間にできあがる。

 

「失礼だねえ、お前──」

 

 孫空女を担ぎ、距離を取っている聴怒が声を上げた。

 次の瞬間、聴怒の姿が溶けた。

 輪郭が崩れ、黒衣の宝玄仙に変わる。

 変化(へんげ)の術──?

 

 振り返る。

 鬼神のように周囲へ躍りかかり、次々に斬り倒していく存在──宝玄仙から沙那の姿に変身していた。

 

「なんだあ──?」

 

 声にならない声が、眼看喜の喉から漏れた。

 

 その間にも、三人、四人と周りが倒されていく。

 気づけば、眼前には誰も残っていなかった。

 

 はっとした。

 沙那が、迫ってくる。

 

「ひいいっ」

 

 逃げることもできず、眼看喜は、その場に尻もちをつく。

 全身を返り血で染めた沙那が、剣を首元に突きつけた。

 

「眼看喜──、部下に降伏を命じなさい──。いますぐよ──」

 

 周囲を見る。

 周りにあるのは、部下たちの死骸だけ。何人倒されたのかもわからない。

 ほかの者は遠巻きだ。

 あまりの沙那の暴れぶりに、近づこうとする者は皆無だ。

 

「さっさとしろっ──」

 

 剣が振るわれた。

 顔に、熱湯を浴びせられたような感覚──。

 次の瞬間、血がどっと滴り落ちてきた。

 斬られたのだと、遅れて理解する。

 

「や、やめてくれ──。降伏する──」

 

 喉が震える。

 

「声が小さい──」

 

 沙那が眼看喜の肩を蹴り飛ばして、地面に倒す。

 剣先が顔の前に突きつけられる。

 

「全員、武器を捨てろ──降伏だあ──」

 

 眼看喜は、ありったけの声を振り絞った。

 五行山の砦に満ちていた狂騒は、眼看喜の叫びとともに、目に見えて萎んでいった。

 呆然としていた者たちが、争うように足元の武器を放り出す。

 金属音が重なり、槍や刀が地に転がった。

 

 そして、後ずさる。

 一歩、また一歩と距離を取り、誰もが眼看喜から離れていく。

 気づいたとき、眼看喜の周囲に立っているのは、沙那と、そして四肢のない孫空女を抱えた宝玄仙だけになっていた。

 

 中庭は、死体だらけだった。

 血の匂いが濃く、息を吸うたびに喉の奥にまとわりつく。

 呻き声はない。

 誰一人として動かない。

 

 倒れている者は、全員死んでいる。

 しかも、すべて一太刀で致命傷を負っていた。

 

 並大抵の腕ではない。

 それだけは、疑いようがなかった。

 沙那は、なおも眼看喜の肩を踏みつけ、顔のすぐ前に剣を突きつけたままだった。

 

「……とんでもない女だねえ。こいつも臭いけど、お前も血の匂いがすごいよ。何人やったんだい」

 

 孫空女を抱えた宝玄仙が、笑いながら近づいてくる。

 

「さあ……。ところで、この仕込剣……切れ味いいですね。もらっていいですか。目立たないように、法杖じゃなくて、棒に改造して持っていこうかと……」

 

「お前、それでも、霊力のこもった霊剣なんだよ……。まあ、いいけど」

 

「ありがとうございます」

 

 沙那は軽く礼を述べ、視線を眼看喜へ戻した。

 

「ところで、これ、どうするんですか?」

 

 沙那の問いに、眼看喜は一瞬、意味がわからなかった。

 だが、すぐに悟る。

 自分の始末の話だ。

 地面に押しつけられている背に、冷たいものが流れた。

 

「さあねえ……赤毛猿、どうする?」

 

 宝玄仙が、孫空女の顔を覗き込みながら訊ねた。

 その孫空女は、まだ呆然としている。

 焦点の合わない目で、ゆっくりと周囲を見回している。

 

 大勢の賊徒の死体──。

 すさまじい血の量と匂い──。

 剣を持つ女──。

 そして、自分を抱えている女──。

 

 理解が追いつかないのか、息だけが次第に荒くなっていく。

 そして、頬に血が集まり、顔が赤く染まってもいく。

 

「お前に聞いてるんだよ……。さっさと答えな……。こいつを生かしておいて、お前自身が仇を取りたいのか。どうなんだい?」

 

 宝玄仙が、少しだけ面倒くさそうに促す。

 それでも、孫空女は、しばらく口を開かなかった。

 喉がひくりと動き、ようやく、掠れた声が漏れる。

 

「……ど、どうって……」

 

 一拍。

 視線が宙を泳ぐ。

 

「ああ、言っておくけど、お前の手足は治せるよ。まあ、条件はあるけどね……。おやっ、お前、歯をどうしたんだい? もしかして、抜かれたいのかい?」

 

 最初は穏やかそうな口調で話していた宝玄仙が、孫空女の前歯が全てないのを見て、険しい口調になった。

 やらせたのは眼看喜だ。顔から血の気が引いていく。

 

「……そう……だけど……。でも、どうでも……いいよ。そんなの……」

 

 孫空女が掠れた声でやっと答えた。

 

「あっ、そう」

 

 沙那が剣を眼看喜の喉に無造作におろす。

 次の瞬間、眼看喜の意識は、途切れた。

 

 


 

 

 呆れるほどの強さだ──。

 

 宝玄仙は、四肢のない孫空女を抱えたまま、口元を歪めた。

 沙那が強いことは、前からわかっていた。

 だが、いま目の前で繰り広げられていたのは、想像していた類のものではなかった。

 

 剣を振るえばひとり、ひとりと倒れていく──という次元ではない。

 剣を動かしたその瞬間に、二人、三人がまとめて血を噴き、次の斬撃が入る頃に、沙那の背後でさらに賊が崩れ落ちる。それが沙那が走り回る全てで発生するのだ。

 

 また、返り血を浴びても、呼吸は乱れず、殺しているという意識すら見えずに、淡々と大勢を殺していく──。

 

 まさに、鬼娘──。

 大袈裟な二つ名だと思っていたが、認識を改める必要がありそうだ。

 

 一方で、腕の中の孫空女は、ひどく軽い。

 肉体の損壊だけではない。

 それ以上に、内側が壊れている。

 

 四肢を断たれ、部下だった男どもに弄ばれ、歯まで抜かれたらしい。

 乾ききった精液の感触と、こびりつく臭気が、この数日の地獄を雄弁に語っていた。

 

 それでも──こいつは、いまも必死に周囲を理解しようとしている。

 頭は回っていない。

 だが、心が折れてない。極度に疲れているだけだ──。

 

 宝玄仙は、小さく鼻で笑った。

 ……ひと晩でも寝ればなんとかなるだろう……。

 獣のような女だったしね。

 

 そして、その宝玄仙自身にも、はっきりとした異変が出始めていた。

 

 霊力の巡りが鈍いのだ。

 否応なく身体の奥に熱が溜まっていく。

 

 早いな……。

 そう思ったが、それが現実だった。

 

 派手に山門を吹き飛ばし、広範囲に結界を張った。

 あれだけの法術を連続で練っただけで、こうなるのか……。

 宝玄仙の霊力は図抜けて大きいが、それが尽きる遙か前に身体が先に狂い始める。

 淫紋を通じて刻まれている呪術の、いちばん忌々しいところだ。

 

 本来なら、まだ余裕があるのだが、刻み込まれた淫紋は、そんな理屈を許さない。

 霊力が一定水準を下回ると、身体が淫欲で狂いだす。

 いま襲っている感覚は、まるで、媚薬を内側から塗り込まれているような感覚に近い。

 霊服の下で、股間が小さく震え始めているのがわかる。下着のなかでは、愛液がしとどに薄布を濡らし始めている。

 

 ……くそったれが……。

 

 宝玄仙は、奥歯を噛みしめた。

 この発作の対処法は、嫌というほど知っているが、面倒な呪術が山ほどかかっている。

 しかし、放っておけば、印も結べなくなる。

 さらに進めば、理性より先に淫情で身体が狂いだす。

 

「……発作ですか?」

 

 沙那のかすかな声が、耳元に落ちてきた。

 

「ああ……。情けない話だけどね……」

 

 宝玄仙は、肩をすくめた。

 

「あの山門を粉々にしたのが、少し派手すぎたね……。壊すだけならまだ大丈夫だったんだ……。お前ができるだけ、派手にやれって言うから……」

 

 宝玄仙は、沙那に視線を向ける。

 

「ですが、おかげで近づこうとする賊徒はいなくなりました……。楽にここまで入れて、助かりました」

 

「お前は、主人使いが荒いよ」

 

 宝玄仙は、小さく笑った。

 そして、小さく息を吐く。

 

「悪いけど……ちょっと男を見繕ってくるよ……。一度精を受ければ収まる。一度くらいなら、すぐに終わるさ」

 

 とりあえず、胸に抱いている孫空女を沙那に押しつけた。

 

「な、なに言ってんですか、ばかですか、ご主人様」

 

 沙那が孫空女を受け取りながら、ぎょっとした顔になった。

 

「いや、それが一番、手っ取り早いんだよ。発作を治めるには、男なら一回の精で済む……。じゃあ、行ってくるよ」

 

「待ちなさいって──」

 

 沙那が真剣な表情で怖い顔をした。

 宝玄仙は、仕方なく足を止める

 

「なんだい?」

 

「なんだい、じゃないですよ。まさか、本当に、ここで性行為をしようというんじゃないでしょうねえ?」

 

 沙那が周囲を一瞥し、倒れた賊徒たちと血に濡れた中庭を静かに見渡しながら言った。

 

「仕方ないだろう──。お前も淫紋の発作のことは知ってんだろうが──。これがお前のような女相手だと、何度も絶頂しなけりゃならないんだ。時間もかかるしね」

 

「いえ、そうだとしても……」

 

「その点、男は楽だ。この宝玄仙の性技にかかれば即だ。同じ相手の精を受け続ければ、別の問題もあるけど、こいつらとは、もう二度と遇うことないだろうさ」

 

 宝玄仙はけらけらと笑った。

 すると、沙那が険しい形相でさらに睨む。

 

「発作の対処が必要なのは理解していますよ……。ですが、ここは駄目です。無理です──」

 

「なにが無理なんだい──。逃げるようなら、捕まえればいい。心配しなくていい。その程度の霊力は残ってるんだ」

 

御影(みかげ)という男の存在を忘れたのですか。ご主人様の法術を封じる手段を知る天敵なんでしょう」

 

「ふざけるな──。あんなのが天敵であるものかい。あいつは、わたしが弱っているときにしか姿を現さない臆病者だよ。もう出てきやしないよ」

 

「……いまが、その弱っているときです」

 

 沙那は即答した。

 

「だったら、さっさと回復すればいいだろうが──」

 

「回復の方法は理解しています。ですが場所を選ぶべきです」

 

 沙那は視線を山の奥へ向けた。

 

「場所? 場所を変えて、男を連れて行くのかい?」

 

 宝玄仙は眉をひそめた。

 

「男は連れて行きません。とりあえず、昨日隠れていた洞窟まで移動術で跳びましょう。安全を確保してから処置を行うべきです」

 

「へっ、仕方ないから、お前が相手をしてくれるってことかい? いつから、そんなに淫欲に積極的になったんだい。いつも逃げ回るくせに」

 

「必要な処置であれば対応します……。……というか、そもそも、逃げ回っても無理矢理にさせるじゃないですか──」

 

「お前が嫌がるからだよ。嫌がる相手を苛めるのが、嗜虐責めの醍醐味なんだよ」

 

 宝玄仙はにやりと微笑んだ。

 沙那が真っ赤になる。

 

「そんな醍醐味は知りません。とにかく、行きますよ。跳躍してください」

 

「……つれない奴隷だねえ」

 

「その奴隷がいなければ、発作は収まらないのでは?」

 

「首環で命令してもいいんだよ」

 

「命令されても、ここで性行為はだめです。早く離脱しましょう」

 

 沙那は視線を逸らさずに言った。

 

「お前ねえ……。そもそも、奴隷のくせに、なんでそんなに指図するんだい──? 自分の立場をわかってないんじゃないのかい?」

 

「わかってます。だから、従ってるじゃないですか」

 

「その態度のどこが従ってんだい──」

 

「策を練るのがわたしの役割です」

 

「今回も、わたしの力責めの策を、わけのわからない変化(へんげ)の術の捻り手で、あの聴怒とお前とわたしの外見を入れ替えたりして……。その維持の霊力を使ったんだよ──」

 

「真っ直ぐ突っ込むなど、策とはいえません。御影という男がいるんですよね。ご主人様の能力が封印されたら終わりです。ご主人様が聴怒の姿になっておけば、安全でした。実際に、うまくいきました」

 

「結果論だよ」

 

「その結果論で、霊力切れの発作を起こし始めてるじゃないですか──」

 

「まったく……。ああ、そうだ。お前、聴怒に変身していたとき、どさくさに紛れて、わたしの尻を蹴っただろう。思い出したよ──」

 

「そうでしたか? ご主人様を演じるのに夢中で覚えてません」

 

 沙那は素知らぬ表情だ。

 しかし、絶対にいつもの腹癒せに、蹴ったに違いない。かなり力が思っていた。

 

「くっ、お前ってやつは……」

 

 宝玄仙は小さく息を吐いた。

 そのときだった。

 かすれた笑い声が聞こえた。

 いまは、沙那に抱き抱えられている孫空女だった。

 

「……あんたら、面白いねえ。こんな場所で……性欲の会議かい?」

 

 孫空女はくすくすと笑っている。

 宝玄仙は眉をひそめた。

 

「暢気なやつだねえ──。お前こそその状態でよく喋るよ。まあ、喋らないよりはいいさ……」

 

「手足はないけど、口はあるから、喋れるからね」

 

 孫空女は笑っている。

 

「ならいい──。まあ、ちょっと待ちな。その手足も、抜かれた歯も治せるんだけど、それで揉めててね……。とりあえず、二、三人の男を抱いて精を受けたら手足を復活してやる」

 

「だめだと言ってるじゃないですか──」

 

 沙那が横で怒鳴る。

 とりあえず、無視する。

 

「心配しなくていい。調子さえ戻れば、この宝玄仙には簡単な仕事だ。その代わりに、お前もわたしの旅の性奴隷だ。今度は嫌だと抜かすんじゃないよ」

 

「嫌じゃないし……。なんとかしてくれるなら、奴隷にでもなんでもなるけど、あたしは女だよ……」

 

 孫空女が面食らったような顔になった。

 

「それがどうしたんだい。まさか、女同士だと、性行為ができないと思ってんじゃないだろうねえ」

 

 宝玄仙は大笑いした。

 すると、孫空女を抱き抱えている沙那が、なぜか、はっとした顔になる。

 その沙那が口を開く。

 

「……ご主人様、男じゃなくて、孫空女にしょうましょうよ……。こいつには、いま抵抗する手足がありません。それを徹底的に苛めるというのは、多分、男を相手にするよりも面白いですよ」

 

 沙那の言葉に、孫空女がぎょっとした顔になる。

 

「な、なんてこと、言うんだよ、お前──」

 

 孫空女が沙那を見上げる。

 

「黙りなさい。手足がなくても、口があれば、ご主人様の性のお相手はできるわよ。その手足を復活するにも、ご主人様の発作を収めなきゃならないんだから、観念して相手をしなさい」

 

「まあ、確かに面白そうか……」

 

 宝玄仙は肩をすくめた。

 確かに、沙那の言う通りだ。

 手足を切断されて、ついさっきまで地獄を見てきた女にしては、これ程に快復をした。余程に心が強いのかもしれない。そんな孫空女の初調教が、手足のない状態というのは、すごく面白いかもしれない。

 

「そうです。面白いんです……。そうと決まれば、すぐに跳躍しましょう」

 

「はいはい。わかったよ。昨日の洞窟までだね」

 

 頷きながら、宝玄仙は最後に中庭に視界を向けた。

 血の匂いと──死体の山──。そして、少しずつ拡大していく身体の淫欲の熱……。

 

「……長居は無用か。それにしても、お前らふたり匂うよ」

 

「それも洞窟でお願いします。ご主人様のいつもの法術を頼りにしてますね」

 

 沙那がにっこりと微笑む。

 

「お前はやっぱり、主人使いが荒いよ」

 

 宝玄仙は小さく笑う。

 

「ね、ねえ、なにをさせられるんだよ。女同士ってなんだよ」

 

 孫空女が赤い顔しながら言った。

 

「女同士なら、なんなのよ。だいたいわかるでしょう」

 

「そりゃあ、まるっきり知らないわけじゃないけど……」

 

「それで十分よ──。じゃあ、ご主人様、行きましょう」

 

「わかったよ。行くか……、忘れ物はないね?」

 

 声をかけてから、宝玄仙は移動術を刻む。

 目の前の賊徒の砦が一瞬にして消滅した。

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