「……なにしろ、二年も続いたのだからなあ。惜しい方を亡くしたものだ」
玄奘が懐かしむような口調で言った。
「……ちっ……。やっぱり、お前も、あの二年を知っている男のひとりだったかい……。そうだと思ったよ」
「いかにもな。お前は覚えてなかったようだが、俺はよく覚えているぞ。そうだなあ……。一番面白かったのは、闘勝仙様の生誕祭の宴でたったひとり、全裸で給女をさせられたお前の姿かな。あのときは、余興で利尿剤を腹いっぱいに飲まされて、排尿を禁止されたのだったな……。いやいや、それとも、闘勝仙様のお飼いになっていた闘犬十匹とのまぐわいか……? それとも、逆立ちをして糞便をした噴水芸もよかったぞ」
玄奘が嘲笑した。
宝玄仙は懸命に怒りを呑み込む。
いま玄奘が口にした全てについて、身に覚えはある。ある理由により記憶はないのだが、間違いなく事実だ。
いずれにも、参加者を限定した秘密の宴だったはずだが、それらに玄奘が参加していたのは間違いないようだ。
あの二年間……。
宝玄仙にとっては、地獄の日々の二年間だった……。
性欲を自由自在に操る淫紋を刻まれてしまい、発狂するほどの快感を長時間与えられ続けることで、隷属の呪術まで受け入れてしまって一切の自由を失った。
それから、公然の秘密として、闘勝仙の性奴……、いや、生きた「玩具」となり、そいつの気儘のままにたくさんの呪術紋の実験台のようにされた。
これが二年間──。
二年経って、闘勝仙が急死し、隷属だけは逃れたが、術者が死んでも呪術は残る。それを操る者がいなくなるだけだ。
世間的には、突然の発狂により自殺して死んだとされている闘勝仙の死だが、それにより困惑したのは、闘勝仙を介して、宝玄仙を好きなように扱ってきた高位高官の連中だ。
呪術により制限をされて弱まっているが、宝玄仙はもともと八仙であり、法術の遣い手だ。
術が完全復活すれば、帝都そのものを破壊することもできたかもしれない。少なくとも、火の海にすることくらいはできただろう。
もっとも、それは淫紋の呪術が解呪されていたらの話だ。
さすがの宝玄仙も、闘勝仙が死んでも残っている淫紋の呪術の制約ために、いまだに力は制限されている。
この状態で帝国と神殿を相手に喧嘩をする気はない。
いずれにしても、本来の宝玄仙は、歴代最年少で八仙になったほどの法術使いだ。
闘勝仙という巨大な支配者が消滅し、やっと、あの連中は誰を好き勝手にいたぶっていたのかということに気がついて恐怖したのであろう。
そして、どんな風に調べても、宝玄仙の闘勝仙殺しを立証できなかった。
嘘をつくことが不可能な状態で、宝玄仙が平然と嘘をついたからである。
闘勝仙とともに宝玄仙の身体を陵辱していた帝都の多くの高位高官たちは途方に暮れただろう。
だから、闘勝仙の息のかかっていた大勢の宮廷や神院の高位神官たちは、宝玄仙を持て余し、この西方行脚を受け入れさせたというわけだ。
名目は遠い魔族の土地である「西域」あるいは「魔域」と呼ばれている場所に行き、法術を中心とする天教の信仰を魔族たちに拡げるためとなっている。
だが、そんなことは絵空事である。
古来、天教を信仰している人間族たちは、魔族は人間を喰らい、その肝を餌にする蛮族だとして、彼らを討伐と虐殺の対象としてきた。
魔族には頭に角があり、角のある種族を有無を言わさずに、天教は皆殺しにしてきたのである。
男も、女も、子供も、年寄りも、赤子でさえ、角がありさえすれば、天教の信仰を受け付けられた人間族は全てを虐殺した。
だから、天教の総本山のあるこの唐華帝国周域には、魔族はほとんどいない。いたとしても隠れ住んでいる。
魔族たちからしては、天教の支配する人間というのは、自分たちを見境なく殺しまくる悪魔の勢力だろう。
本当に魔族に人間の肝を喰らう性質があるのかどうかは知らないが、少なくとも、宝玄仙は人間を喰う魔族というものに接したことはない。
だが、それを「事実」として、魔族は「悪」だと極端に教えているのが天教なのだ。
人間族たちの中でも、天教の支配の弱い土地については、魔族への忌避感は天教の信仰域よりは小さいらしいが、それも程度問題であり、一般に魔族と人間族は不倶戴天の敵同士だ。
その魔族が天教の信仰を受け入れるわけもない。
そもそも、宝玄仙は知っている。
魔族も、人間も、まったく同じであり、高度な知性を持つ社会的な種族だ。決して、蛮族などではない。
角があるという外見さえ無視すれば、ほとんど違いもないほどだ。
もっとも、確かに魔族には乱暴なもののいるし、見境なく人間を攻撃する一派も存在はしている。
もしかしたら、本当に人間の肝を喰らう種族もいるのかもしれない。そもそも、人間族の持つ常識と、彼らの常識は異なる。
だが、悪人もいれば、善人もいるというのは、人間族もまったく一緒だ。思考は単純で、人間ほど複雑な精神構造は持ってない。
少なくとも、あの闘勝仙という男は、宝玄仙の知っているどんな存在よりも邪悪であり、根底からの悪人であった。
だいたい、魔族の生誕の地とされる西域こと魔域には、瘴気という風が大地の全てにはびこっている。
宝玄仙のもともとの能力があれば、人間にとっては毒である瘴気を癒すことも可能だが、通常の人間が魔域に入れば、半月もしないうちに、瘴気の毒で死ぬと言われている。
魔域に生身で入るなど、死にに行くようなものだ。
瘴気の強い西域で耐えられるのは、力の強い魔族だけなのだ。長い年月ですっかりと瘴気の弱い土地に順応してしまった魔族種は、すでに瘴気に耐えられる力がなく、いまや、魔族種でさえ、瘴気の中では長く生きることができないと言われるくらいなのだ。
ましてや、種族として耐性のない人間族には、魔域での活動は不可能とされている。
だが、淫紋の縛りにより完全には程遠い法術しか扱えない宝玄仙は、それを受け入れた。
その必要があった。
もしも、宝玄仙が渋れば、宝玄仙の復讐を阻止するために、別の方法も考えたかもしれないが、大人しく宝玄仙が帝都を離れたことにより、安堵した者は多かっただろう。
そして、いよいよ魔域に向かう西方行脚の旅の開始にあたり、宝玄仙を補佐するために皇国の国教である天教の大神院がつけてきたのが、この玄奘だ。
宝玄仙は、それまで玄奘の存在は知らなかったが、玄奘は宝玄仙のことを知っていたようだ。
しかも、宝玄仙を隷属で支配していた闘勝仙がその死とともに、冥界に持っていったはずの秘密の符牒の言葉を玄奘は知っていた。
それでいきなり、支配されたのである。
貞操帯とやらも、符牒を口にされて法術も身体も凍結された状態で無理矢理に装着されてしまったのだ。
闘勝仙の淫紋が刻まれたままの宝玄仙は、十日以上も性感を発散させることなく置くと、体内の淫気が淫紋と結びつき、もともと限られている法術が一切遣えなくなるのである。
そして、貞操帯こそ、宝玄仙の淫気の発散を防ぐ狙いがある。
つまりは、旅のあいだ、宝玄仙をずっと無力化するための道具が「貞操帯」というわけだ。
旅が始まって、宝玄仙の法術がほぼ遣えない状態にあることは、玄奘以外には知られてない。
玄奘も言いふらすつもりはないのだろう。
その代わり、こうやって、定期的にいたぶられる。
闘勝仙が死んでも、こうやって符牒の言葉を知った者が利用することで、いつまでもあいつの呪術が宝玄仙の身体を縛り続けることで、まだまだ宝玄仙の屈辱の日々は続くということだ。
死んでも、宝玄仙をこうやっていたぶる続ける……。
改めて、闘勝仙への憎悪が身体の中で沸騰していく。
「じゃあ、八仙様のおまんこを味わうか。もともと、男であろうと、女であろうと、毎日のように大勢の相手と性を愉しんでいた宝玄仙様だ。さぞや味はいいんだろうな」
この男は宝玄仙のことをよく知っていた……。さっきの話で、闘勝仙が身近に置いていた存在だということはわかったが、かなり宝玄仙のことを知っている。
闘勝仙の奴隷に成り下がることで、性の相手は限られるようになったが、もともと、宝玄仙は多淫のたちであり、帝都ではかなりの好色女と知られていた。その時代のことさえも知っているのだと思った。
「いくぞ」
玄奘がうつ伏せで丸くなっている宝玄仙の身体に後ろから覆いかぶさるようにして、胸の両手を伸ばして揉みあげてくる。
そして、男の法衣の袴である下袴を落として露出した怒張の先で、宝玄仙の尻の亀裂から股間にかけて滑らせるように繰り返し擦ってきた。
「おおおっ」
自制などできない。
淫紋を活性化させる符牒の言葉により、いまや狂ったような性感にさせられている。
宝玄仙は地面についている顔を伸びあがらせるようにして、股間から熱い悦びの雫を噴きあがらせた。
「こりゃあ、前戯もなにも必要なさそうだ」
玄奘が嘲笑うような言葉とともに、胸を揉んでいた手を宝玄仙の腰の横に添える。
一気に女陰に怒張を貫かせてきた。
すぐに、ずんずんと言う律動が始まる。
待ちに待っていたものだ。
「あ、ああっ、あああ」
宝玄仙は顔をひきつらせて、ほとんど無意識にお尻に力を入れていた。
あっというまに絶頂のうねりが襲い掛かってくる、
うち痺れている下肢の中心から、次々と巨大で溶け渡るような快感のうねりが沸き起こってくる。
「いぐううっ」
宝玄仙は顎を突き上げるようにして、叫ぶような嬌声をあげていた。
「うあっ、締めつけやがる──」
一方で、玄奘が苦しそうな声とともに切羽詰まったような反応を示した。
これでも、性技にかけては百戦錬磨の宝玄仙だ。三段締めどころか、五段締め、八段締めとばかりに、膣に挿入してきた怒張を揉みあげているのだ。
「くっ、こりゃ、いかん──」
玄奘が強引に怒張を引っこ抜いた。
そして、素早く前側に回り、硬直している宝玄仙の髪を掴んで顔をあげさせ、精液を顔にぶっかけてきた。
白濁液が宝玄仙の顔にかかって、強い匂いとともに垂れ落ちてくる。
「危ないところだったぜ。思わず、膣に出すところだったぞ」
玄奘がほっとしたように笑う。
そして、精を発したばかりの萎えかかった男根をわざとらしく、宝玄仙の黒髪に擦りつけて拭ってから、下帯と下袴を整える動作になる。
そのあいだ、宝玄仙はいまだに淫紋を活性化させられた状態なので、金縛りのままであり動けないでいる。
そもそも、まだ枷を四肢に装着したままだ。
「はあはあ……。な、なんだよ……。精を注いでくれるんじゃなかったのかよ……」
宝玄仙は荒い息をしたまま、地面の高さにある顔をあげて、玄奘を睨む。
「まあ、そんな危ないことをするわけないだろう。ただ、最後だから、一度は味わっておきたかっただけだ。八仙様のおまんこをな」
「最後?」
そういえば、さっきも“最後の晩餐”とうそぶいていたか……。
これで、最後と口にしたのは二度目だ。
「ああ、最後だ。そして、さすがに、俺ひとりで味わうのは惜しいと思ってな。今夜は男を増やしてやった。まずは、このふたりだ」
玄奘が天幕の入口に行き、がばりと布を開けた。
宝玄仙はそちら側に尻を向ける体勢だったが、首を向けて、それを確かめることはできた。
はっとした。
入ってきたのは、同行する十人ほどの高僧の中でも、玄奘に近い者たちだ。そいつらが宝玄仙の天幕に入ってきたのだ。
顔に淫靡な表情を浮かべて……。
「ほう、やはり、その噂は本当でしたか」
「まさか、宝玄仙様のそのような淫らなお姿を拝見できるとは」
ふたりが卑猥そうな響きを込めた口調で言った。
宝玄仙はかっとなった。
「げ、玄奘──。お前、やっぱり、淫紋のことを口外しないという誓約を破ったね──」
宝玄仙は叫んだ。
十日前の淫紋による発作のときに交わしたのは、玄奘が宝玄仙の秘密を口外しない代わりに、玄奘に対する隷属の刻印を宝玄仙が受け入れるという法術の誓約だ。
だが、やはり、この男はそれを破っていたのだ。
「いかにも、破りましたね。ですから、誓約に従い、それをお知りになった宝玄仙様は、たったいま、俺に対する隷属からも解放されたはずです。そういう誓約でしたからね。だから、今後は命令に逆らっても結構ですよ。もっとも、淫紋の呪術から解放されるわけではないでしょうけどね」
玄奘が大笑いした。
「この恥知らず……」
だが、確かに隷属の刻印は、たったいま消滅したのはわかった。
まあ、おそらく、この男が約束を守ることはないとは予想はしていた。だからこそ、条件付きの隷属の刻印の誓約にしていたのだ。
この男が約束を破ったときに、隷属から解放されるように……。
「さあ、いくらでもこの女を使っていいぞ。今夜は、この宝玄仙は男の性欲を発散させる玩具だ。だが、膣の中に精を放つのはだめだ。念のためにな。だが、この宝玄仙は尻穴も絶品らしい。尻を使え。尻なら犯していい」
すると、玄奘は言い放った。
それを合図に、ふたりが左右から宝玄仙の裸身にむしゃぶりつき始めた。
「くあっ、あああっ」
ふたり掛かりの愛撫を受け、宝玄仙はたちまちに快感に打ち震えた。