沙那の裸身が両手首を束ねた革枷ごと吊り上げられる。
その途中で、少女たちは彼女の両太腿へ一本ずつ銀針を打ち込まれていた。
針は手のひらほどの長さだ。
先端は深く肉の奥へ潜り込んでいるらしく、少々暴れた程度では抜けそうにない。そして、針側の反対側に、小指の先ほどの小さな金属球がある。
不思議なことに、刺されたときも。刺さっているいまも痛みはない。
ただ、身体の内側をなにかが這い回るような不快感だけが、じわじわと広がり続けている。
胸がむかつく。
呼吸が落ち着かない。
全身の経脈を誰かに掻き回されているような気持ち悪さに、沙那はじっとりと脂汗が滲んでくるのを感じていた。
そして、それ以上に不気味なのは別にある。
卓の上だ。
そこには同じ銀針が十数本も並べられていた。
一本や二本ではない。
まるで最初から全部使うつもりでいるかのように……。
「どうしたの、お姉さん?」
少女のひとりが笑う。
「さっきからもじもじして。まだ始まってもいないのよ」
「ふふふ。もしかして、このお姉さん、かなりの経脈遣いじゃない? 経脈が発達している人ほど、それを乱す
「雷針?」
沙那は眉をひそめた。
「これよ」
少女が無造作に手を伸ばして、太腿へ刺さった銀針を指先で軽く弾いた。
びん──とかすかな音が響く。
次の瞬間だった。
「あぐうっ──」
沙那の息が止まった。
電撃が落ちたわけではない。
身体を切られたわけでもない。
それなのに、太腿の奥でなにかが炸裂した。
苦痛そのものが内側から暴れ回る。
全身の神経を同時に引き絞られたような衝撃だった。
「あ、あぐっ……ひぐうっ」
身体が反射的に跳ねる。
だが、その動きで針がさらに揺れた。
途端に第二撃が襲う。
「くっ、ああっ……」
沙那は歯を食いしばった。
呼吸が乱れる。
腕から力が抜ける。
両手首を吊る鎖へ身体の重みがずしりとのしかかった。
「動くと経脈を揺さぶって苦痛を与えるの。苦しくて暴れるでしょ?」
少女が楽しそうに説明する。
「でも暴れると、その動きでまた針が揺れる。それで、また苦しくなる」
もうひとりの少女が言葉を継ぐ。
「それが雷針よ。遠慮なく泣いてね」
「これで責められて泣かないなんて無理なんだから」
ふたりが顔を見合わせて笑う。
「だ、誰が……」
沙那は荒い息を吐きながら睨み返した。
しかし、言葉の途中で反対側の太腿へ刺さった雷針が弾かれる。
びん──。小さな音。
それだけだった。
「んぐううっ──」
沙那の背筋が反り返った。
今度は悲鳴すら出ない。
ただ、苦悶に歪んだ吐息だけが唇から漏れ続けた。だが、身体を震わせるたびに雷針がかすかに揺れる。そのたびに苦痛が追いかけてくる。
沙那は歯を食いしばり、必死に身体を静止させた。
少女たちは卓の上へ並んだ銀針へ手を伸ばした。
「とりあえず、八本くらいにしとく?」
「いいんじゃない? じゃあ、あと六本追加ね」
まるで夕食の献立でも相談するような気軽さだった。
沙那の背筋に冷たいものが走る。
八本──。
たったいま二本でこれだ。
身体の内側を這い回る不快感だけでも無視しきれない。
それがさらに増えるというのか。
少女たちがそれぞれ三本ずつ手に取る。
そして何の躊躇もなく前後へ分かれる。
沙那は思わず唾を飲み込んだ。
どこへ打つつもりなのだろう……。
どれほど苦しくなるのだろう……。
わからない……。
わからないことが恐ろしい。
「そんな顔しないでよ、お姉ちゃん。まだ全然始まったばっかりなんだから」
前に立つ少女がくすりと笑う。
「そうそう……。どこが一番効くか、一緒に試していこうね」
後ろの少女も楽しそうに続けた。
試す──。
まるで玩具でも試すような口調だった。
その無邪気さがかえって不気味だった。
「まずは定番のお尻かな」
少女たちの手が近づき、後ろから片側の尻たぶに針が突き刺さったのがわかった。ざわざわとした不快感が大きく拡大する。
「脇腹とか、いいかもね。ここは弱い女が多いし」
右脇腹に一本──。
沙那は歯を食いしばった。
「じゃあ、右腕もいっとこうか。腕って動きやすいから、きついんだよね」
右の二の腕にまた一本。
「それなら、右脇にいくね。針が近いと共鳴して、苦痛が拡大するし」
右脇腹に針が刺さった。
身体の内側で広がる不快感がさらに濃くなる。
呼吸が浅くなる。
脂汗が額を伝う。
それでも声は出さない。
出してなるものか。
「こっちの残りは背中。楽なところにしてあげとく」
「ならこっちは、ちょっときついところにしとこうかな。お姉さんの経脈、ここもかなり発達しているし」
前側にいる少女が、手を伸ばして沙那の乳房をぐっと掴んだ。
「あっ、やめっ」
思わず顔をしかめてしまった。
しかし、少女が躊躇うこともなく、乳首に横から雷針を貫かせた。
「んぐうっ」
思わず呻き声をあげる。
これで八本──。
だが、卓の上にはまだ多くの銀針が残されているのだ。少女たちも、それを使い切ることを疑っていないようだった。
そのときだった。
沙那は息を呑んだ。
いままで身体のあちこちで別々に渦巻いていた不快感が、突然ひとつに繋がったような気がした。
「あ……。な、なにこれ……?」
呼吸が詰まる。
胸が苦しい。
胃が裏返りそうだ。
経脈の中を流れる気が乱され、身体の内側で互いにぶつかり合っている。
「あれ、共鳴し始めた?」
少女が首を傾げた
「まあ、八本だもんね」
ふたりが楽しそうに笑う。
しかし、沙那は返事もできなかった。
口を開けば吐きそうだったからだ。
「ふふふ。このお姉さん、どこまで我慢できるかなあ」
少女の笑い声が響く。
沙那は黙って睨み返した。
しかし、その視線の先で少女が無造作に脇腹の裸身を軽く叩く。
「ふぐうっ」
沙那は衝撃に全身を突っ張らせた。
同時に背中の雷針を揺らされた。
「あああっ」
沙那は沸き起こる苦悶に、大きく胸を喘がせて眉間に皺を寄せた。
「ああっ、いやあっ」
しかし、次の瞬間、大きな悲鳴をあげていた。
激しく胸を動かしたことで、乳首の針が揺れて、響くような苦悶が広がったからだ。
「ほら、動いたら苦痛が大きくなるのよ」
「これなら、思ったよりもすぐに屈服してくれるかしら」
すると胸の針を弾かれた。
そして、背中──。
再び、太腿を二本同時に──。
身体を静止させているだけなのに、雷針同士が微かに震え合っている。
動いていないはずなのに苦痛が増していく。
沙那の額から汗が滴り落ちた。
それでも、情けない悲鳴を迸らせることだけは、必死に耐えた。
「あれ、思ったよりも効いてない?」
「泣かないね」
少女たちは顔を見合わせた。
「じゃあ、もう少し続けようか」
「うん」
楽しそうな声だった。
少女たちは、針を無造作に弾きながら、楽しそうに童歌を口ずさみ始めた。
まるで昼下がりに遊んでいる子供のようだった。
「んぐうっ、ぐうっ」
その無邪気な声が部屋に響く。
沙那は荒い息を吐いた。
額から汗が流れ落ちる。
呼吸を整えようとする。
乱れた気を鎮めようとする。
だが上手くいかない。
身体の内側では、雷針同士の共鳴が続いていた。
不快感は途切れない。
波のように押し寄せてくる。
針は弾かれ続ける。
もう身体を静止するなど無理だった。
少し収まったかと思えば、また強くなる。
沙那が暴れるので、その揺れで苦悶が続く。
終わりがない。
「まだ大丈夫そう」
「強いんだね、お姉さん」
少女たちは笑いながら、針を弾く。
沙那は返事をしなかった。
いや、できなかった。
口を開けば弱音が漏れそうだったからだ。
腕が重い。
肩が痛い。
胃の奥がむかつく。
全身の経脈を無理やり引き回されているような感覚が続いている。
気が付けば、視界の端が霞んでいた。
汗が目に入ったのか。
それとも疲労か。
時間の感覚も曖昧になり始めていた。
少女たちの歌声だけが耳に残る。
歌い。
弾き──。
笑い。
言葉を交わし。
また針を揺らす。
それが何度繰り返されたのかもわからない。
沙那は唇を噛み締めた。
負けるものか──。
そう思う。
だが、その決意を保つこと自体が、少しずつ苦しくなっていた。
そして、ふと気がつくと、いまにも気を失いそうな苦悶のなかで、これまでとは異なる新しい感覚が、乳房と股間に襲いかかっていることに気がついた。
「あっ、媚薬が効いてきたね.じゃあ、休憩しようか」
「木馬の上でね。じゃあ、
少女は白龍とともに、椅子に座って沙那の苦悶を見物している木叉という道術遣いに声を掛けた。
一度沙那の身体が大きく天井に持ちあげられる。
すると、その沙那の足の下に、背が鋭角に尖った三角木馬が出現した。
鎖が下げられて、沙那の脚の付け根が三角木馬の尖った背におろされていく。
「うあっ」
さすがに沙那は、両手で鎖を握って身体を浮かせようとした。
しかし、その動きで腕の針が大きく揺れて、苦痛が全身に広がる。
「あぐううっ」
身体が脱力して、木馬の背に股間が喰い込む。
容赦のない激痛が股間に襲いかかる。
「くううっ、お、おろして」
さすがに沙那は声を放った。
「ふふふ、乗り心地はどう? でも、動かない方がいいよ、お姉さん」
少女は太腿の針を弾く。
「おごおおっ」
沙那は耐えきれずに、悲鳴を迸らせた。