「羨ましいことだな。女は得だ。実力が多少不足でも、それだけの美貌なら県令にとり入れるし、高名な客人の接待役にも任じられるというものだ。まったくもって、羨ましい。それで、どこに向かう。お客人の閨の相手でも命じられたか?」
県令の屋敷の廊下を歩いていると、突然に声を掛けられた。
嫌な男に会ったと思って、沙那は内心で舌打ちした。
だが、いちいち相手をするのも億劫だ。
沙那は、素知らぬふりをして、横を通りすぎようとした。
沙那と立場が似ていて、本来は軍に属する将校であるが、平素は県令家族の護衛任務についており、軍営とは離れて、県令の屋敷側にいることが多い。
だが、なぜか沙那に対抗心を抱いていて、なにかというと嫌味を口にしてくるのだ。
それでいつも口喧嘩のようになるのだが、今夜については言い返す気になれなかった。
なにしろ、今夜に限っては、この張須賀の言葉がそのとおりだったからだ。
沙那が向かっているのは、この屋敷にある浴室である。
そこに
玄奘が偽名であり、実は女であることは確信しているが、同性である沙那に好色な感情を抱かないということではなさそうだ。
むしろ、性愛の相手として興味を抱いている。
すでに確信している。
その玄奘のところに行き、全裸で浴室で相手をするのだ。
ただですむことはないだろう。
守りたいような貞操ではないが、なんとなく気が重い。
「まあ、そんなところよ」
沙那はそのまま足をとめることなく、横を過ぎようとした。
すると、いきなり後ろから肩を掴まれた。
「ま、待て──。いまのはどういう意味だ。まさか、本当に閨の相手を?」
立ち止まって振り返ると、張須賀が驚愕した表情になっている。しかも、顔色まで変わっている。
なんなんだ、こいつ……。
「離してよ。県令の命令で、浴室でお相手をするのよ。じゃあね」
張須賀の手を払う。
すると、唖然とした顔になった。
「よ、浴室だと──。そこでなにをするのだ。待て、沙那──、待てったら」
追いすがろうとする気配の張須賀を振り払い、沙那は浴室に向かう。
張須賀は、さらになにかを言いたそうだったが、追いかけてくるまではしてこなかった。
なんなんだ、あいつ……。
まあいい……。
とにかく、玄奘のことだ。
浴室の前に着いたときには、さっきの張須賀のことなど、沙那の頭からは消えてしまった。
さて、沙那が県令の屋敷にある貴人用の浴槽にやって来たのは、これが初めてではない。
しかし、随分前のことで、多分二年以上は前だろう。まだ、十八歳になる前だ。
自分の身体を洗うためではなく、貴人の入浴の世話をする接待婦のひとりとして入ったのである。
もちろん、任務のためだ。
浴場にしろ閨にしろ、男というものは、そういう場所では気を抜きやすい。
これを利用して、貴人からなにかしらの情報を探るのである。
女軍人である沙那だが、自分の顔も身体も、世間の男の興味を惹きやすいものを持っているらしい。美人の方に入るようだ。武芸で鍛えている身体だが、筋肉のつく体質でもないことから、女として十分な魅力はあると思う。
だから、それを利用して、接待婦などにやつした調査任務を幾度も申し渡されたりしていた。
沙那としても、別段、貞操にこだわりがあるわけでもないので、身体を使った調査任務を行うことに大きな抵抗はない。
そして、今夜は久しぶりの浴槽奉仕を指示された。
玄奘が欲しがるようなものをなんとしても聞き出してこいという県令の指図であり、沙那の立場でそれに逆らうことはできない。そもそも、現状において、玄奘が唯一望むものとして口にしたのが、沙那の身柄なのだ。
県令は、玄奘の性別を男と思っているところがあり、沙那には浴室だけではなく、その後の閨での奉仕も視野に入れて玄奘に接するように、沙那に因果を含めてきた。
沙那としても、今回の案件の当事者として、不本意ながら身体を張ってでも、玄奘が欲しがるものを探り当てなければならないのはわかっている。さもなければ、玄奘が気紛れのように見せた金錦の反物欲しさに、県令が沙那をどうするかもわからないのだ。
そもそも、一体全体、あの玄奘は何者で、どういう立場の存在なのだろう?
今わかっているのは、玄奘がとんでもないほどの能力を持った高位能力者の法師であるということだけだ、
沙那は脱衣所になっている場所で、下着も含めて完全に服を脱ぎ、その上から裸身が透ける薄物の湯着をまとった。身体の前で布を合わせて紐で結ぶ形式のものであり、裾の丈は辛うじてお尻が隠れるくらいの短いものだ。
男の欲望を誘う目的もあり、湯を吸収すればさらに透け、ほとんど裸身に近い感じになる。
そういったものが、世の男の欲情を誘うのだそうだ。
それはともかく、浴場側に入ったところで沙那は首を傾げた。
すでに玄奘が浴場に入っていることは承知しているが、沙那よりも先に、玄奘の衣類を脱がせたり、入浴に使う道具の準備をする下女が数名入っているはずなのである。
だが、浴槽側にいるのは、玄奘ひとりだけの気配だ。
すでに湯に浸かっていて、下女のような者たちは誰もいない。
「玄奘様、湯加減はいかかでしょう。よければ、身体をお洗いします」
沙那はこちらに背を向けている玄奘に声を掛けた。
肩まで湯に浸かっているが、玄奘は当然ながら裸身である。法衣はなく、頭や顔の前の被り物のない玄奘からは、黒々とした艶のある長い髪が出ている。また、肩の線だけでも、玄奘が明らかに女性であることがわかる。
玄奘が振り返った。
身体の前には豊かな乳房がある。
沙那に向かって、その玄奘が破顔した。
「来たね、沙那。入っておいで」
玄奘が湯の中で立ちあがって、沙那に向かって寄ってきて手を伸ばす。
湯に濡れた玄奘の裸身は、女の沙那から見ても信じられないくらいに綺麗で色っぽかった。
沙那はなぜかどきりとしてしまう。
「いえ、わたしはお背中を流しに……。それよりも、下女たちは来なかったですか?」
たじろぎを隠すためもあり、沙那は湯槽に縁に跪くようにしゃがみながら訊ねた。
天然石を削って作られた油槽は大人が三人は楽々入れるくらいの広さがある。さらに囲む縁には楡木も使っていて、それが風合となっていい香りを漂わせていた。
久しぶりだが、相変わらずの贅を尽くした造りである。
館にある浴場の中でも最高級の一室であり、ここを準備したことひとつをとっても、県令の玄奘に対するもてなしの度合いがわかるというものだ。
「下女は断ったよ。湯の世話は、お前でないと受け付けないと、県令の家人に伝えたんだけど、それで来たんじゃないのかい。いずれにしても、裸を他人に見せるつもりはないんだ。ここを中心に結界も張ってる。誰も覗けないし、入ってこれない。お前が来たのがわかったから、一時的に解除しただけさ。でも、また張り直した。いいから、来な」
玄奘が手をさらに伸ばして、強引に沙那から湯着を剥ぎ取った。
そのまま、沙那は浴槽の中に引っ張り込まれてしまった。
「あのう、いま、結界って、申されました?」
一介の女将校の立場から県令の三女の嬰麗の選任護衛になって、なにがよかったかというと、嬰麗にあてがわれる古今東西の重要な書物に接する機会を貰えたということである。娘の教育のために、県令はかなりの富を使ってさまざまな書物を集めさせている。
しかし、そもそも勉強の嫌いな嬰麗は、自分で読むのを嫌い、沙那に読ませて、その内容を要約させて説明させるということをするのである。
おかげで、様々なことに詳しくなった。
だから、武芸はできても法術に縁のない沙那だが、法術に関する知識だけはそれなりにある。
結界術というのは空間に見えない壁を作り、結界の中の出入りを制限したり、あるいは悪意のある攻撃から防護したりする術であるが、それがかなりの高位の法術であることは認識している。
この玄奘が何者であるかはわからないが、並大抵の法師ではないことだけは事実だろう。
「ああ、結界だ。誰にも入ってこれない。だから、わたしの相手をしな。どうせ、あの県令に言い含められてきたんだろう? なにか、情報を引き出して来いとでもね。なんでも聞きな。教えてやるさ。わたしの性の相手をすればね」
「せ、性の相手って……。玄奘様は女の方ですよね……?」
「それがどうしたんだい。世の中には男女の性愛もあるけど、女同士の性愛もあるのさ。教えてやるよ」
手を引かれるまま、浴槽の中で向かい合う体勢になる。
改めて見ても、実に見事な裸身だ。胸は豊満ながらも身体全体は細身であり、手足は長く美しい体形だと思った。
ただひとつ気になったのは、いまは湯の中に隠れている玄奘の股間に、一本の陰毛もなかったことだ。それだけでなく、下腹部のところに小さな紋様のようなものがあり、そこから薄っすらと蔓のようなものが伸びたような線があったような気がした。
最初の一瞬だけだったので、よくわからなかったが……。
ちょっと気になって、湯の中に視線を向ける。
刺青──?
いや、動いている?
心なしか下腹部の紋様が色が変わり、形が拡大しているように見えた。気のせいか?
「なにをまじまじと覗いてるんだい。やっぱり、女の身体にも興味あるんじゃないかい」
玄奘が笑う。
「そ、そんなことは……」
どうやら、いつの間にか、凝視するような視線を送ってしまっていたみたいだ。
沙那は慌てて目を逸らせる。
その沙那の胸に玄奘がいきなりしゃぶりついてきた。
「あんっ、あっ、ちょ、ちょっと……」
玄奘ほどではないが、沙那もそれなりに胸は大きい。
その胸に玄奘が触れて揉みあげ、乳首を吸ったり噛んだりしてきた。
しかも、びっくりするくらいに、玄奘は愛撫が上手だった。
身体を強烈な媚薬に侵された感じになり、あっという間に股間を強い疼きが駆け巡る。
「ひゃん、ああっ、な、なんでいきなり……」
「逃げるんじゃないよ──」
全身を貫いた強い衝撃に、思わず沙那は逃げ腰になった。
だが、その沙那の身体を玄奘が片手で抱き締め、胸を口で愛撫されながら、湯の中で股間に手を伸ばされる。
「ああっ」
沙那は玄奘に抱きすくめられたようになって、腕の中で身体を跳ねさせた。
任務のためとはいえ、一度ならず、何度も性行為はやったことはある。しかし、こんなにもいきなり、我を忘れそうになるくらいに当惑されてしまうのは初めてだ。
なに、これ──?
力が抜ける……。
全身に快感が迸る──。
「ちょ、ちょっと待って、玄奘様──」
とにかく沙那は戸惑ってしまい、慌てて玄奘の淫らな手を身体から離そうとした。
すると、胸を舐めていた玄奘が笑いながら、一度口を離す。
「なにやってんだい。ほら、背中で自分の左手首を握りな。離すんじゃないよ」
玄奘が笑いながら口に出す。
驚いたことに、その途端に、沙那の両手が勝手に背中に回り、右手が左手首を掴んでしまった。離そうとするが、まるで他人の手であるかのように離れない。
「うわっ、なんですか、これ──?」
沙那は恐怖に陥った。
「これが宝玄様の結界さ。この結界の中で抵抗は無意味だよ。抵抗できるものなら、してみるんだね」
玄奘が……いや、いま“宝玄”と自称した気がするが、とにかく、彼女が愉しそうに声をあげる。
そして、再び胸を口で愛撫し、手で沙那の股間に触れてきた。
「ひゃん──」
「ふふふ、思ったとおりに、お前は淫乱だよ。絶対に感じやすいと思ったんだよ。だから、眼をつけたんだ。ほらほら、もう濡れ濡れじゃないかい……」
玄奘、あるいは宝玄が舌で左右の乳首を代わる代わる刺激しながら、沙那も陰毛を手ですくように動かし、股間の亀裂の粘膜に沿って上下に動かす。
強い衝撃が身体を貫く。
「くあああっ、あああっ」
沙那は身体を突っ張らせた。
さらに陰核を親指で押され、すっと指が股間に侵入してきた。
しかも、二本──。
「はううっ、あああ」
自分でも信じられないような艶めかしい声が口から迸る。
「ほら、気持ちいいだろう、沙那? この宝玄の奴隷になれば、こんな気持ちのいいことが毎日だ。観念して奴隷になってしまいな。本物の男の性器に掘られる以上の快感を約束してやるよ。指が届かなくても、法術を遣えば、こんな場所も刺激できるんだよ」
そして、指が律動を開始した。
だが、挿入したのは二本の指のはずなのに、それが無数の触手の塊のような感覚に変化し、膣の中のあちこちが同時に擦られる感触になる。
「ああ、あくうっ、ああ、はああっ」
沙那は激しい快感に翻弄される感じになり、両手を背中に回したまま、肢体をくねらせて悲鳴をあげる。
これが法術──?
こんな法術があるのか──?
とにかく、あまりに反応が激しすぎる自分が恥ずかしくなり、沙那は必死に歯を喰いしばる。
「ま、待って──」
そして、逃げようとした。
でも、力が入らない。
触手の塊のように感じる指が激しく出入りするたびに、感じる場所を刺激されて、強い快感が駆け抜ける。しかも、一箇所ではない。十箇所、二十箇所とあちこちが気持ちいい──。
こんなのは初めてだ──。
そもそも、沙那は自分が淫乱であるなんて思ってないし、むしろ、淡泊な方だと思っていた。これまで任務で情報収集のために、貴人の男に抱かれたときには、こんなに感じることなどなかったし、むしろ、男女の性愛なんて鬱陶しいくらいにしか感じなかった。
ところが、いまやられているのは、それらとはまるで比べ物にならないくらいの衝撃だ。
「もういっちまいな、淫乱娘め──」
股間への責めがさらに激しくなる。
「だめええ──」
沙那は堪りかねたように絶叫して腰をよじらせた。
そして、後ろ手のままの身体がお湯の中で大きく反り返る。
太腿も波を打って痙攣し、それがあっという間に全身に拡がる。
「あぐうううっ、ああああっ」
沙那はひと際大きな嬌声をあげて、ついに女の極みに達してしまった。
突きあげる絶頂感が通り過ぎ、沙那は玄奘の腕の中で完全に脱力してしまう。
いや、“宝玄”なのだろう。
彼女は何度も、そう口にしたのだから……。
「はあ、はあ、はあ……。ほ、宝玄様……、なのですよね……。た、堪能しました……。と、ところで、手を自由にしてくれませんか……」
沙那は肩で息をしながら宝玄に虚ろな眼を向ける。
ところが、宝玄が急に戸惑ったような表情になって、沙那を見る眼を細める。
「えっ、なんで、わたしの名を知ってるんだい?」
「はあ、なに言ってんですか──。自分で何度も、そう名乗ってたじゃないですか。気がついてなかったんですか」
これには、沙那は心底呆れた。
まさか、無意識だったとは……。
「えっ、わたしが……? ま、まあいいさ。聞いてたのがお前だけなら、なんとかなる。とにかく、わたしは玄奘ということになってんだ。わたしが宝玄だということは、絶対に誰にも言うんじゃないよ──。いいね──」
宝玄が沙那を睨む。
沙那は戸惑った。
「わかりましたけど……。でも、隠しているなら無理がありませんか。玄奘というのは男名ですよね。宝玄様はどう見ても、男には見えませんよ。そもそも、わたしに隠すつもりがなかったじゃないですか」
浴槽に連れ込んで、性別を隠すもなにもないものだ。
まあ、なにかの事情がある感じではあるが……。
「いいんだよ。玄奘の糞ったれは、まだ土の中だ。迷惑の掛けようもないし、わたしが安全な場所に逃げおおせるまで、しばらく名前を使わせてももらうさ。とにかく、わたしはここでは玄奘だ。いいね──」
「はあ……」
沙那はとりあえず頷いた。
でも、逃げる?
この宝玄という女法師は、もしかして、どこかでなにかをやらかして逃亡中?
どういうことなのだろう?
「逃げるって、なにからお逃げなのですか?」
単刀直入に訊ねてみた。
すると、宝玄がにんまりと笑った。
「ほう、知りたいなら教えるよ。ただし、わたしの性奴隷になるのが条件さ。奴隷になれば、もうわたしを裏切れない。そうしたら、なんでも教えてやるよ」
「じゃあ、いいです」
なにか怪しい匂いしかない。
県令には秘密を探るようには命じられているが、深く知るとおかしなことに巻き込まれるような気がする。
それに、この女は危険だ。
沙那の本能がそれを告げていた。
首を横に振る。
「……ふうん、まあいいか。今夜が終わりというわけじゃないしね。お前がその気になるまで、しばらく滞在するさ」
「なりませんよ、奴隷になんか……。それよりも、両手を自由にしてくださいよ」
沙那は、身体をよじって、後ろ手で動かすことができない両腕を宝玉に見せる。
さっきから一生懸命に離そうとしているのだけど、どうしても右手が左手首から離れないのだ。
「まだだよ。まさか、お前ばかりいい気持ちになって、わたしを放っておくつもりじゃないだろうねえ。今度はお前の番だよ、沙那。淫紋が疼くんだ。わたしをいい気持ちにしておくれ……。来るんだ──」
宝玄からまた腕を取られて、今度は湯の外に連れて行かれる。
浴槽の縁は、浴室の床から膝下くらいの高さがあった。
宝玄がそこに座り、脚を拡げて股を晒す。
その脚のあいだに、沙那を引っ張り寄せた。
沙那は、両膝を床につける正座の姿勢で、宝玄の股間の前に顔を寄せさせられる。
そこには、熟れたように真っ赤になっている宝玄の女の性器がある。
やっぱり一本の陰毛もなくて、また、花びらを思わせる幾何学的な子供の拳ほどの大きさの紋様もあった。
だが、淫紋……?
また、宝玄の股間からはどろどろとした雫が滴っていた。
湯の雫ではなく、明らかに宝玄の股間から滴っている愛液だ。その証拠に宝玄の開脚している股間ではそれが糸を引いている。
「わたしを奉仕して絶頂させるんだ……。この淫紋の呪術から逃れるには、少なくとも十日に一度以上は、身体の疼きを癒してもらって性欲を満たすしかない……。しかも、他人にね。さもないと、淫紋の呪術に取り込まれてしまう。忌々しいことに、自慰では絶頂できないんだ。これも呪術でね……」
宝玄が自嘲気味に笑った。
「じゅ、呪術?」
物騒な言葉に、沙那はびっくりした。
この宝玄は、なにかの呪術をかけられている?
それがこの淫紋?
沙那は唖然とした。
「な、なんですか、藪から棒に……。とにかく、淫紋ってなんですか? 十日に一度とか、自慰ではだめだとか……。まったく、なんのことかわからないんですけど……」
沙那は当惑して訊ねた。
「そんなことはどうでもいいだろう──。お前はさっさと、ここを舐めて、わたしを昇天させればいいんだ──。男だと都合が悪いけど、女なら問題ない。とにかく、始めな──」
宝玄が怒鳴る。
沙那は嘆息した。
「わ、わかりましたが……。とりあえず、両手を自由にしてください。ご奉仕しますから……」
沙那は決心して言った。
だが、宝玄がにやりと微笑みを向けてきた。
「いや、そのままやりな。お前にはどうやら、被虐の癖もあるね。両手が使えないままの方が欲情するだろう? 犬のように舐めな」
「わ、わたしには被虐癖なんて、ありません──」
沙那は憤慨して叫ぶ。
「いいから、そのまま舐めるんだよ。それとも、無理矢理にさせられたいかい──。いや、そうしようか……。被虐癖のお前に相応しい奉仕をさせてやる」
宝玄が指先で軽く沙那の額を突く。
その瞬間、一気に全身の力が脱力してしまった。
「えっ?」
浴場の床に完全に仰向けに寝かされた。
困惑したが、指先一本、足先ひとつ動かない。
両手は背中にあるままなので、腰だけは軽く浮かべた感じだが、首さえも動かせない。
「よっこらしょ」
宝玄が沙那の顔の上に股間を密着させて座ってきた。
鼻と口を股間によって完全に塞がれる。
息ができなくなり、沙那は戸惑った。
「そら、今度は駄々は捏ねられないだろう。死にたくなければ、さっさと舌を動かして、わたしを昇天させな。さもないと、窒息して死ぬよ。鼻と口だけは動かせるようにしてやろう」
宝玄がけらけらと笑いだす。
そのあいだにも、だんだんと気が詰まって苦しくなる。
なんということをするんだ──。
「んんっ、んっ」
沙那は観念し、必死になって顔の上の宝玄の股間を舐め始めた。
「ああっ、い、いいよ、お前──」
すると、たちまちに顔の上の宝玄が嬌声をあげてよがり始めた。