小原つかさは苛立っていた……現在の居場所は建物の4階階段付近。いったいどこに潜んでいたのか、細マッチョの男が待ち構えていた。
「ぐふふ、この俺、ブタバラは天才だ。疲弊した敵を待ち構えて倒す。そのために昼寝をしていたのだ。女、お前は今回の人質だろう ? ならば大人しく元の部屋に……」
「まだこんな奴がいたのか……つかさ殿、一旦上へ逃げよう ! スワップン達と合流して……つかさ殿 ? 」
つかさは手を震わせて、ニヤニヤ嗤うブタバラを相手についにブチギレた。
「いい加減にしてよ ! なんでいつもいつもあと少しって時に妨害が入るの ! ? どうせ来るならいっぺんに来なさいよいっぺんに ! 」
いっぺんに来られたらつかさの命が危なかったのだが、そんな事は今の彼女にとっては過ぎた事なのだ。
「何故怒っているのかは知らんが、とにかくここは通さんぞ」
ブタバラの手がつかさに迫る。何とか回避して三階へ逃げ込むが階段踊り場のバーを滑るようにしてあっという間に追いついてしまう。
「捕まえたぞぅ」
「放してよ ! せっかくみんなが助けてくれたのに、これじゃ全部台無しじゃない ! 」
「まあ女よ、そう怒るな。そういう運命なのだ諦めよ」
運命…… ?
つかさのポケットの中でフレーチェはその言葉を繰り返す……。
つかさ殿が誘拐される事も……私がこんな姿になっている事も……王国が滅亡した事も……。
そんな筈は無い……そんな運命が……。
あっていい筈が無い ! !
心の叫び……これがトリガーとなりフレーチェの身体が光り輝く !
「でやあッ ! ! 」
「ぬおおッ ! なんだと ! ? 」
つかさを守るように、ブタバラを倒すように、二人の間にフレーチェが立ちはだかる。
「今の私には仕えるべき王国も、陛下から賜った剣も、鎧も無い……だが、この身に変えても……貴様は倒す ! 」
今のフレーチェは小人ではない。かつて新・筋肉将軍マッチョに一歩も引かず戦った騎士。
ドッコイ王国騎士フレーチェだった !
「ほう……貴様がフレーチェか ? マッチョ様やベアトリーチェ様が探していたぞ。貴様を連れて行けば俺も一気に昇進だ。ハトムネの驚く顔が目に浮かぶわい。いくぞフレーチェ ! 」
「来いッ ! 」
二人の戦いが始まった直後につかさは動き出した。この短時間で常識外れの経験を積んだ彼女の肝っ玉は尋常ではなかったのである。
今の彼女にできる事、それは逃げる事ではなく『フレーチェの武器を探す事』である。
現在のフレーチェは丸腰状態、服は福袋のソーイングセットによって作った糸で出来ている為破れてはいない。さすがに靴までは用意できなかった為に裸足だが……。
それよりもまずは武器である。徒手空拳で戦うには分が悪い、早く武器を探さなくては……。
「あった ! やっぱりこういう場所ならあると思った」
意外にもすぐに武器を見つけたつかさはフレーチェに向かって武器を放り投げる。
「つかさ殿、これは ! ? 」
「日本刀です ! 切れ味はいいけど折れやすいから気を付けて ! 」
東洋の刀は西洋の剣とは違い切れ味では勝るが耐久性では劣る。フレーチェは持った瞬間の感覚で特徴を掴んだ。
「ありがたい ! つかさ殿は逃げてください ! せいッ ! 」
「ふん、なにが日本刀だ。折れやすいならば俺にとって好都合よ !」
ブタバラの強みはハトムネ同様に防御力。鍛え上げた筋肉による天然の鎧、それが彼の強みであった。
「……支援魔法、保護」
フレーチェは防御力を上昇させる支援魔法を自身ではなく武器にかけた。
「やはり貴様も魔法を使えたか。ならばこちらも……むん、マッ……」
「遅い ! 」
フレーチェはブタバラがポージングを取る前に突撃し攻撃を加えた。
「貴様らの爆発魔法は知っている。こんなところで使わせるものか ! 」
フレーチェの素早い連続攻撃がブタバラにダメージを蓄積させる。
ブタバラの強みは確かに防御力である。しかしハトムネほどではない。ブタバラはスピードを優先したがゆえに筋肉がハトムネよりも少ない。確かに並大抵の攻撃ではビクともしないのは事実。
しかし、今のフレーチェは筋肉を切り裂ける武器も、力も持っている。
ではパワー勝負に持ち込むか ? それも難しい。何度も言うが、スピードはフレーチェの方が上だ。攻撃をする為に予備動作を……例えばパンチをするために腕を振りかぶる、その動作をフレーチェは許さない。
もっと広い所なら勝負はわからなかっただろう。しかし今現在戦っている廊下は決して狭くはないが戦うには広くはない。
ブタバラの敗因は『奇襲する時間と場所を間違えた』これに尽きる。本気で勝ちたければハトムネと一緒にポゼッシャーと戦えばよかったのだ。
出世欲に目がくらんだ男の敗北は目の前だった。
「ぐぬぬぅ……こうなれば、ほああああッ ! 」
ブタバラの体内に魔力が蓄積される。本来魔法は体外で魔力を練り上げ発動するのだが、ブタバラが使える魔法は爆発魔法のみ、つまり魔法は体内で発動することになる。これが意味する事は……。
「貴様、自爆するつもりか ! ? 」
「倒せないようなら道連れにするまでよ ! ハトムネに手柄はやらん ! 」
ブタバラは廊下を通せんぼするように身体を広げて自爆態勢を取る。絶対に逃がさん……そう言っているようだった。
「ぐふふ……もうすぐ爆発するぞ……ここ一面大爆発だ ! 悪く思うなよハトムネ……ハトムネ ? 」
爆発する前にブタバラは気が付いてしまった。ハトムネの生命反応が感じられない……。
「まさか、まさか……まさか ! ハトムネが倒されたのか ! ? 誰にだ ! ? 」
仰天しているブタバラをよそに、続々と他の怪人達が三階に集結してきた。
「何がどうなってるの ! ? あの筋肉野郎は ! ? 」
最初に合流したスワップンが文字通り筋肉ダルマと化したブタバラを見て驚く。
「ここは危険だ逃げよう ! 魔力を体内に溜めて自爆するつもりなんだ ! 」
フレーチェからの説明を聞いて合点がいったスワップンは銃を構える。
「無駄よ無駄ぁ……マッ……」
フレーチェは他の仲間だけでも助けようと保護魔法を全体掛けしようとするが、スワップンは『復元銃』を発射した。
復元銃を浴びたブタバラはダメージが回復し、同時に体内の魔力も綺麗さっぱり消え去った……。
「ソー……ば、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な ! 貴様ら何をしたぁッ ! ? 」
「この復元銃はね……浴びた物体を五分前の状態に戻すのよ。つまり、五分前はまだ魔力を溜めてはいないから魔力を溜め直さないといけないわけ……おわかり ? 」
激しく動揺するブタバラに対し丁寧に説明するスワップン。
「そ、そんなものまであったのか…… ? 」
「お、おのれ……こうなったら逃げるしか……ヒィッ ! ? 」
カツン、カツン、と靴音を立てて階段を上って来たポゼッシャーの姿を見て恐れおののくブタバラ……。
「ぐ……ぐおぁぁッ ! 」
イチかバチかポゼッシャーに突進するブタバラだったがかなうはずもなく……。
「……ふんッ ! 」
「ゲボアッ ! ? 」
ポゼッシャーにパンチで突進を止められ、そのままキックを叩き込まれフレーチェの方へ飛ばされる。
「ぐぬぅ ! ? なんだこのスライムはぁッ ! ? 」
いつのまにかブタバラに付着していたスライミー分裂体がまとわりつき、身体の自由を奪う。
ポゼッシャーとフレーチェによって挟み撃ち、さらにスワップンとスライミーが控える……。
怪人四人が勢ぞろいした状況では……ゲームセット。
「神聖魔法、光輝 ! 」
フレーチェが唱えた神聖魔法はブタバラの頭上に光の環を作り出し、ブタバラの身体を閉じ込めた。
光の輝きは強さを増し、光の環から出られないブタバラを一気に消し去る。
「そんなバカな、嘘だ……。嘘だァァッ ! ! 」
輝きが消え去る頃にはブタバラの姿など残っている筈もなく、焼け跡のみが残っていた。
「か、勝てた……。マッチョの部下に……」
「お疲れさんフレーチェ、でかくなったね~、やるじゃん」
「勝てたようだなフレーチェ。つかさは先に避難させてある。心配はいらない」
「……お疲れフレーチェ」
四人の怪人がそれぞれの戦いを労い、そしてつかさを連れて建物を後にした。
みんなが帰る場所は一つ……。
「ただいま戻りましたご主人様」
「ただいまボス~、おなかすいたよ~」
「ただいま首領……」
「戻りました一さん ! 」
「只今帰還しました一殿」
「お帰りみんな ! ! ! 」
*
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえる。今の時刻は午前6時、一文字一は自宅の窓を開け黄色い夜明けを迎えていた。
後ろには食べ散らかした跡、美女や美少女とヤってしまった跡が残っていた。
「はは、すごかったなみんな……」
一文字一の睡眠時間0秒。一睡もせずに夜を越したのだ。
「まあいいか。みんな頑張ったもんな」
ポゼッシャーは「私は多くの敵を倒しました……だから……その……ご褒美がほしいです」
スワップンは「この身体ならセックスできるでしょう ? 歳を気にしなくていいからさ……お願いボスぅ」
スライミーは「僕はこの身体でも気にしないよ。首領の肉棒をこの身体にぶち込んで」
つかさは「怖かったんです……本当は……抱いてください……」
フレーチェは「あ、あの……どうもセックスするのが一番能力のレベルアップにいいようでして……初めてなのでお手柔らかにお願いします……」
そうして5Pに突入、一はこの一晩で何キロか痩せたに違いない。
*
それからしばらくして、市民安全課には事件関係者が集まっていた。
「……大丈夫だよなこれ ? 」
一の元に届いた一通のメール、それはミラーウーマンからで誘拐犯のアジトを買い取りたいと書いてあった。
みんなと相談した結果、了承の返事を送ったのだがなんと何十億もの金額が振り込まれていたのだった。
あまりにも怖くて確認のメールを送ったが返事が無い。
「もらってもいいんじゃない……っていうかあのアジト更地になってたし」
スワップンが言う通り、メールの返事をしてすぐに建物が消えたのだ。
「ま、まあ出すものは出したし、もらっておこうか。フレーチェの私物も必要だしな」
「す、すいません。でも恐ろしいです。その……戸籍、ですか ? それが用意されているなんて」
メールにはもう一つ……『フレーチェの戸籍も用意しました、絶対安全ですよ』という一言も添えられていた。ポゼッシャーに確認してもらうと本当にフレーチェの戸籍が作られていたのだ。
「……まあいいだろう。俺たちは今まで通り生活していけばいいさ。さあもうすぐ仕事だ学校だ ! 今日も一日頑張るぞ ! 」
「おお~ッ ! ! 」(九人)
ん ? 九人 ?
一、ポゼッシャー、スワップン、スライミー、フレーチェ、つかさ、誰だあと三人 ! ?
「あの、一文字一さんですよね ? 私、結婚怪人と申します」
「あたいは破壊怪人だ。これから頼むぜ大将 ! 」
「わらわは石膏怪人じゃ。よろしく頼むぞよ」
「おいおい待て待て、誰だい君たちは ! ? 」
怪人エッセンスはもう無い。怪人は作れないのだ。
「あの、ミラーウーマンという方からお手紙を預かりまして……この方なら怪人を任せられると」
一は手紙を受け取るが途轍もなく嫌な予感を感じた。
『一さん、怪人を三人お送りしますのでよろしくお願いいたします。私は言いましたよ ? "これからも怪人達をよろしくお願いいたします"と。気が付かないとしたらまだまだですねえ、一さん。ではまた』
「ちくしょうやられた ! 」
この何十億はまさか怪人の支度金か ! ? 迷惑料か ! ? いずれにしても一は一生かかってもミラーウーマンには勝てないのだ。
「「「名前をつけてください(くれよ)<ほしいのう>」」」
「うぅ……わかったよ ! お前の名は ! ! 」
一文字一……この男の頭痛は今後も続くのである。
怪人錬成鍋 NO.4 小人怪人フレーチェ
本来は人間サイズだったが魔族の魔法で小さくされていたのを『たけっちグループ』が魔法解除を行い怪人として作り直した。
元のサイズへ戻る為には強敵と接敵し心を震わせる必要がある。一度コツを掴んでしまえば大きくなることも小さくなることも容易である。
バフ効果のある<支援魔法>と攻撃用の<神聖魔法>の二種類の魔法を使いこなす。本人が訓練を受けていたため、一通りの武器を使いこなせる。
元の世界に片思いしている男性がいたが、色々と苦い経験であるので記憶は完全消去されている。今は一文字一に仕えている。
はい、本編はここで終了となります。ただひょっとしたらおまけでちょっとしたものを投稿するかもしれないので完結タグはまだ付けないでおきます。
四つに分けてしまいまいたが、お読みいただきありがとうございました。