市民安全課の応接室で、俺は中学校の教師と面談をしていた。
「そうですか……海道さんは熱心のボランティア活動をされているのですね……」
「はい、海道さんと小原さん、お二人とも今では我々もつい頼ってしまう程に働いてくれています。もしボランティア活動でなければアルバイト代を支払いたいくらいですよ」
応接室のモニターでロビーの様子を見る。そこでは海道五月と小原つかさの活動が一目で見ることができた。
「はい、ではこちらの用紙に名前をご記入ください……はい結構です。この番号札をお持ちになってお待ちください」
小原さんは正面の受付で働いてもらっている。飲み込みが良くテキパキと動き、即戦力として俺たちの役に立ってもらっている。
「そうだよね~おじさん、あたしもつらい時があるよ。大変だよね誰にも理解してもらえないってさ~」
五月は別の窓口に作ったお悩み相談コーナーで客の愚痴を聞いてもらっている。中には本気の相談もあるが、その場合は麗衣に対応してもらっている。
「このようにお二人には活動してもらっています。お金を渡すわけにはいかないので、せめてものお礼変わりとして、空き時間で学校の勉強を手伝わせてもらっています。もちろん代わりに宿題をするのではなく、塾の先生の真似事みたいなものですが……」
「は、はあ……そういえば、海道さんの成績が伸びていたような……」
「少しでも彼女たちに恩を返したいわけでして……」
とまあ、このような話しをして教師との面談は終了した。
何故教師が乗り込んできたのか ? それは五月と小原つかさが原因だ。
*
「一さん、今日のニップレスは何色だと思いますか ? 」
「き、君は何を言ってるんだ ? 」
宿泊研修の後から市民安全課に入り浸るようになったつかさはすっかり変態になってしまった。学校の成績や素行は全く問題無いが、俺に会うと今のような質問をするようになっている。それにいつの間にか俺の事を名前で呼ぶようになっている……いや、宿泊研修の時から呼んでいたか ?
大浴場での出来事が彼女にとって強烈なインパクトとなり、今ではいつもスライミーの分裂体が彼女の身体にへばりついている。
本体は今、課の奥に備え付けた水槽で遊んでいる。つかさの身体から滲み出る体液は本体にも送られているらしく、スライミーは一文字家や安全課で過ごしながらも極上の食事にありつけているのだ。
話を戻すが、五月とつかさの二人が市民安全課にいることが当たり前のようになり、学校側もおかしいと考えるようになったようで二人が何をしているか確認に来たというわけだ。
無論正直に答えたさ。こっちは探られて痛いことは何もない。精々怪人の事くらいだがバレる要素はない。
「正解は……ピンクでしたー。最近スライミーの色が変わるようになったんですよ ! 」
つかさは目の前で胸をペロンと出しながらとびっきりの笑顔で答えを言い放った。前言撤回、あったわ痛い所。しかもかなり激痛を伴うところが。彼女のご両親には本当に申し訳ない事をしたと思う。今度菓子折りでも持ってご挨拶に伺うべきだろうか ?
*
さて、我が一文字家で俺は東条麗衣ことポゼッシャーのマッサージを行っていた。
「あ、あん ! そこです……そう、そうです。そ、そこッ ! ? 」
肩を揉むのではなく軽くさする程度から始める。筋肉が解れてきたら少しずつさする範囲を広げていく。最初は線、次に円を描くように。首の付け根は力を抜きさする。揉むと揉み返しが来るので、揉むのは終盤だ。俺は本職ではないしテクニシャンでもないが、我流でこれくらいはできるのだ。
「そ、そういえばご主人様、最後の怪人は作成されないのですか ? 」
ふと思い出したようにポゼッシャーが俺に尋ねてくる。
「例の怪人エッセンスも残り一つか……今度の休みにでも作るか。最後の一つだもんな」
「私たちの仲間もあと一人、とても楽しみですわご主人様 ! 」
こいつにとっては最後の仲間か、やっぱり同胞ができるのは嬉しいんだろうな。
「それで、その……鍋に入れる物は私が決めてもいいでしょうか ? 前回はスワップンが決めたから今回は私がどうしても最初の怪人として入れてみたくて」
まあいいだろう。スワップンを作った時は事故みたいなものだったし。
俺はポゼッシャーのマッサージを続けながらそんな事を考えた。最後にポゼッシャーはとろけ顔になっていた事を記しておこう。
次の日曜日。
俺たちは例の鍋を取り出し最後の怪人エッセンス、ポゼッシャーが剣のキーホルダーを投入。大きな泡が噴き出るのを見ながら最後の怪人はどんなのが出るのか雑談をしていた。
なお、今回は不測の事態に備えて準備万端だ。洗面器、水、そして福袋に新しく入っていた物品も用意している。前回は宿泊研修の件で有耶無耶になっていたが、今回は後々紹介しようと思う。
そして鍋の水分が全て無くなり、最後の怪人が姿を現した。
ラストはなんと全裸の女性だった 。背丈はやや小柄だが金髪で素朴な感じの女の子だ。まるで騎士のような……。
「最後は……人型か ! ? 」
「へえ~、あたしとポゼッシャーは影、スライミーはゼリー、ラストは人型なんだ」
スライミーがプルプルと反応する。
「スライミーが『僕の後輩はどんな事ができるんだろう ? 』って言ってますね」
当然のようにいるつかさ君、自宅の場所まで教えたのは失敗だったか ? それよりも何故君はスライミーの意思がわかるんだ ?
「さあ……なんとなくわかるようになりました」
「多分スライミーが長時間へばりついていたことで意思疎通できるようになったのかと」
ポゼッシャーが説明してくれる。多分そうなのだろう。
俺たちが騒いでいるうちに全裸の女性が動き出した。
「う、うう……ハッ ! ここは ! ? 」
一瞬うなされかけた少女だったがその後すぐに目が覚めたようだ。
「あ、あなたたちは……い、いや、まさか ! ? 」
少女が自身の身体を確かめるようにあちこちを触る。そして次第に瞳に涙が溜まる……。
「ど、どうした ? なにか痛い所でも…… ? あ、俺の名は一文字一という。こっちは……」
少女はまるで俺の言う事が聞こえていないような感じだったが、頬を指で摘まむと泣き出した。
「わ、私の身体が……痛い……夢じゃない……元に、元の大きさに戻っている……。あなたが、あなたが戻してくれたのか……ありがとう……ありがとうございます ! ! 」
全裸の少女が泣きながら俺に抱き着いてきた ! ? ここまでいきなり好意を寄せてくる怪人も初めてだが……。
*
「先ほどは申し訳ない……あまりの感動で我を忘れてしまいました……」
少女は顔を赤くして正座している。彼女には現在スワップンの服を着てもらっている。サイズでは大体同じくらいなのだ。
「い、いや、いいよ。ところでさっき『元に戻れた』とか言っていたけど、それはいったい……」
「実は……」
彼女の名はフレーチェといい、ドッコイ王国とかいう国の新米騎士だった。魔族の侵攻を受けて懸命に戦ったが敵の将軍に敗北し、敵に小人化の魔法をかけられて小さくされてしまった。その後敵に捕まっていたが、目を覚ましたらここにいたと……。
「ご主人様、確かにフレーチェの身体能力は同年代の人間よりもはるかに上です。私達とは違い最初から怪人というわけではないようですが、それでも彼女の力は明らかに鍛え上げた者のみが得られるもの。信じてよいと思います」
「そうだよボス、私達怪人はそれそれの居場所がわかるようになってるんだよ。フレーチェの居場所もつかめてるし、信じてもいいんじゃない ?」
まあなにを今更だよな。大体怪人なんて俺にはよくわからない部分が多いし、仮に異世界召喚 ? そんな感じだったとしても彼女の境遇を考えればこのままでいいんじゃないかと思う。
「よし、フレーチェの誕生 ? を祝して何か美味い物でも買ってくるか。それに最近忙しすぎてスワップンやスライミーには特に何もできなかったし」
「いいね ! いよ、ボス、太っ腹 ! だてに腹出てないね ! 」
うるせえよスワップン。
「み、みなさん……うッ ! ? 」
みんなで騒いでいたその時、スワップンが胸を掴んで苦しみだす。
「どうしたフレーチェ ! ? 」
すぐにポゼッシャーがフレーチェに駆け寄るが苦しんでいる原因がわからない。
「ぐ……がッ……身体が…… ! ? 」
フレーチェの身体が見る見るうちに小さくなっていく。そしてフレーチェの身体は最終的にフィギュアサイズまで縮んでしまった。
「……そ、そんな……またこのサイズなのか……」
どうやら闇鍋で生み出す前はこの大きさにされていたようだな……こんなに小さくては生活もままならないだろう。
「フレーチェ、気を落とすな。私達にはわかる。それはお前の能力だ。使いこなせば伸縮自在になるだろう」
「そうそう、スライミーの時とは違って君の能力はわかりやすそうだし、サポートしてあげられるよ」
「え、ええと、そんなすぐに使いこなせるものなのですか ? 」
今まで蚊帳の外だったつかさが声をかけてくる。
「どんな能力でも使い続ければ熟練してくるし、無駄な力が入らなくなるものだ。何度も繰り返し使えば自分自身の意思で大きくなれるだろう」
ポゼッシャーやスワップンのように、能力がすぐフルパワーで使える怪人もいれば、スライミーのようにじっくり育てる必要がある怪人もいるというわけか。
「それと、フレーチェさんの服はどうしましょう ? 」
確かにどうしようか ? フィギュアサイズの服なんて通販で専門職の人に頼むしかなさそうだけど……福袋に入ってた『あれ』でどうにかならないだろうか ?
「一応私も裁縫はできますが、フレーチェさんが切れる服となるとさすがに時間が……」
「……いいんだ、みなさんありがとうございます。いざとなれば裸でも大丈夫です。今までもそうしてきましたから……」
落ち込むフレーチェ、落ち込むみんな……俺はこんな空気を認める事はできない。
「つかさ君、君裁縫ができると言ったね ? これで服を作ってくれないか ? 」
俺はそう言ってつかさに一つの小箱を渡す。
『福袋特典4つ目、ソーイングセットでございます。普通の針、普通のハサミ、普通ではない糸。そう ! これは怪人自身の意思でなければ破れない、切れない糸なのです。ちなみに備え付けている道具であれば切れますし、糸をこちらの道具箱に戻すこともできます。有意義に使ってくださいネ』
福袋に入っていたこれ、何に使えば……と思っていたがまさかここで使う事になるとは。
あのミラーウーマンとかいう女、本当に何者なんだろうか ?
結局この日はソーイングセットをつかさに手渡してお開きとなった。さすがに全裸のフレーチェをそのままにして祝い事をする気にはなれなかったし。
それから約一月が経過し、怪人が勢ぞろいした我が家だったが二つほど変化があった。
一つは、スライミーの能力が上がったようだった。見せてもらったがなんと擬態であった !
近所の住人からテレビの有名人に至るまで、喋る事はできないが完全コピーできたのだ。
……すぐさま俺は能力の使用を『緊急事態のみ』に限定した。
理由は言うまでもないが、こんな能力を乱発したら世界大混乱待ったなしである。
落ち込んでいたスライミーにはしっかり褒めて好物の甘い天然水を飲ませてやった。
もう一つは、フレーチェが段々ここでの生活に慣れてきた事だ。
特に食べ物に関しては元々の世界よりもレベルが違うらしく、フレーチェはショートケーキやチョコレートなどの甘味に目を輝かせ、一口食べる毎に興奮していた。
「おおお…… ! ? この食感、甘味、なめらかさ……今まで一度も食したことがありませんッ ! 」
やっぱり女の子だからなんだろうな、デザートや服に興味をしめしているようだった。他の時間ではテレビを見てこの世界の勉強をしたりしている。またはトレーニングをして身体を鈍らせないようにしているようだった。
しかし、中々身体を大きくはできないようだった。
そんなある日、 俺はフレーチェを胸ポケットに入れてつかさの家を訪問することになった。フレーチェの衣服が完成したと連絡を受けたからだ。
小原つかさの家は普通の一軒家と言った感じで、裏の方では何か工場があるようだった。一応つかさの性格激変に一役買ってしまった身としては大変申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、極力高いお菓子の詰め合わせを用意し家の呼び鈴を鳴らす。
「……そうですか、つかさがそちらでボランティアを……」
「はい、小原さんには大変お世話になっていまして……今日はそのお礼と親御様へのご挨拶として伺った次第です」
俺を迎え入れたのはつかさのご両親だった。事前に連絡はしていたが、やはり娘に男が訪ねてくるのは警戒していたのだろう。すぐには会わせてくれなかった。しかしこのお父さん、結構話しがわかる人だった。
「ロボットですか ! ? 私も男ですからね、実に興味がありますね ! 」
「そうですかそうですか、実は私はこう見えてもロボット制作会社『シテヤルゼ』を経営しておりましてね、まだ小さい町工場ですが、いつかはたくさんのロボットを作って人々の暮らしを良くしたいと考えているのですよ ! 」
この人の目の輝きは本物だ。シテヤルゼという名前はさすがに攻めすぎではないかと思うのだが、それでも夢に向かって突き進む姿は実に交換が持てる。
ご両親への挨拶を終えた俺は別室に通される。やはりつかさの部屋には通されなかった……まあそれが普通の対応だろうなと思う。つかさと挨拶を終えて早速本題に入る。
「すごいですよ一さん、このソーイングセットまるで手足のように使えるし、糸が底を尽かないんです ! 」
たけっちグループが用意した道具だから何かあるのかと思っていたが、まさか糸が無限供給されるとは。裁縫をする人から見れば喉から手が出るほど欲しいんだろうな。
今回つかさが用意してくれた衣類は合計三着。Tシャツにジーンズ、ゴスロリ服、パジャマ……おいおい、これを一ヶ月でだと ! ?
「普通なら無理でした。でもこのソーイングセットを使ったらできちゃいました」
「つかさ殿、ありがとう。サイズもぴったりだし、着心地も今まで着ていた服とはまるで違う。裸で生活しなくてすむよ」
いや、これは恐れ入った。確かに道具の力もあるのだろうが、つかさ本人の腕前もあるのだろう。これほどの衣類を、しかもフィギュアサイズのをだ。彼女には感謝しきれない。
そこで俺はソーイングセットを正式につかさへプレゼントする事にした。
「いいんですか ! ? これ絶対値段つけられない代物ですよ ! ? 」
いいのいいの、どうせ家にあっても使い手いないし。それならちゃんと使ってくれる人に渡ったほうがいいに決まってる。
「わかりました。大事にしますね ! 」
満面の笑みを浮かべるつかさ。本当にごめんね……先日は変態みたいにしちゃって……。
その日は本人達の希望でフレーチェをつかさの家にお泊りさせる事にした。やはり次に作る衣装で女子会をしたいらしい。
俺は邪魔になってしまうので早々に引き上げる事にした。
だが翌日、なぜかその日は毎日のように来ていたつかさが来なかった。
さらにその翌日、代わりにつかさのお母さんがやってきた。酷く顔を青白くさせたまま……。
*
「ゆ、誘拐ですか…… ? 」
「はい……今朝郵便受けにこれが入っていまして……」
つかさのお母さんを市民安全課の奥部屋に通した俺たちはあまりにも突拍子な言葉に耳を疑った。
"お宅の娘は預かった。返してほしければ五億円用意しろ。警察に連絡したら娘の命は保証は無い"
無駄な所が無い簡潔な文章だ。受け取り手に情報を与えないようにするためか…… ?
だが入ってたのは他にもありフィギュアサイズのパジャマ……これはつかさが編んだフレーチェ用のパジャマだ……。
「あの……こういうのはなんですが、警察に連絡したほうがよろしいかと思います。我々では力になれないかと……」
麗衣が横から口をはさむ。確かにその通りだ。これはもはや警察に連絡して力になってもらった方がいい。
「そうしたんです……連絡したんです ! でも、証拠が無いと言って取り合ってくれなかったんです ! ! 」
「なっ ! ? 」
おいおい嘘だろ ! ? こういう時はまず動いてくれるんじゃないのかよ、なにかあったらどうする気だ ! ?
「夫は今身代金を用意する為知り合いや金融会社に行ってお金を出してもらえるように頼み込んでいます。でも……」
……無理だろうな。この前の話しを聞いた限りでは既に相当な額のお金を借りているだろう。今更貸してくれるとは……。
「無理な事は承知の上です……でも、つかさからこちらの……あなたのお話を聞いて、他に頼れる人がいなかったんです。お願いします、もし警察関連でお知り合いがいましたら、何とか力添えをお願いできませんでしょうか ? ……お願いします、お願いします ! 」
お母さんは何度も頭を下げていたが、一度この件を預かりお引き取り願う事にした。見捨てませんから、と一言添えてだ……。
「さてボス、どう動くの ? 指示に従うよ」
「ご主人様、そのお顔はある程度作戦が決まっている顔でしょう ? 何なりとお申し付けください」
水槽の中からプルプルとスライミーも動く。本当に頼りになる奴らだ……。
「つかさ君の居場所はわかる、スライミーの分体がまだつかさ君にへばりついているからな」
「スライミーの意思が私達には読み取れるからね。さあスライミー、地図で示して ? つかさはどこ ? 」
スライミーは自らの身体をウネッと伸ばし地図の一点を差す。
「ここの三階……奥の部屋だって言ってるよボス」
「……画像で出すとここですね。かなり広い土地で、セキュリティ対策がしっかり取られているビルですね」
ポゼッシャーがパソコンの検索結果を出して俺に伝える。
六階建てのビルで最近作られたもの。一見ただのビルに見えなくもないがセキュリティにより、大家がモニターで確認し不審者と判断した者が敷地内にいた場合、すぐに警察や警備会社に通報される仕組みとなっている。
「強行突破しかないね」
「そうだな、すぐに突入準備だ」
待て待てお前ら ! ? そんな事したらすぐ指名手配されて逮捕だぞ。そんな危険は冒せない。
「じゃあどうすんのさ。さすがに見つからずに忍び込むなんて不可能だよ ? 」
そんな事はわかってる。
今武器になりそうなのは、今ここにいる怪人達を除けば、同行している可能性の高いフレーチェ、俺のマジックテープ、復元銃、送られてきたフレーチェのパジャマ、そして福袋に入っていた残りの道具二つ……。
『盗み刀<<魂盗>>たまとりと読みます。これは怪人専用武器でして、斬った相手の魂を奪い取ります。斬られても死んでませんから殺人にはなりません。どうしようもない時に使用を検討してください』
もう一つはチケットだ。
『最後はなんと<<私とお話できちゃう会話チケット>>です ! たいていのお願い事なら聞いちゃいますよ……もちろん有料で☆これは一様しか使用できません。しかも使えるのは一度きりで、お金で解決できる事だけです。誰かを連れてこいとかはできないのでご注意を』
最後に一つだけ、今の俺にしか使えない、一度だけの隠し玉がある。これを使わなければ救出はできないだろう……そんな予感がする。
*
「おい……おい、しっかりしろ ! 」
私どうしたんだっけ……確か学校が終わってから一さんの所へ行こうとしたら誰かに襲われて…… ! ?
「待て ! 大声を立てるな ! 気絶しているフリをしろ……そうだ、それでいい」
目隠しをされ、縄で縛られている事に驚き声を上げようとした私を、フレーチェの声で思わず止める。
「突然黒い服を着た連中がつかさ殿を捕えたのだ。私は上着のポケットに入っていたから難を逃れたが」
「あの、ここがどこかわかりますか ? 」
「すまない……土地勘が無いし、こんな身体では窓を覗き込む事もできない……」
情報が足りない……でも、スライミーが私にくっついているから一さんが居場所を突き止めて助けに来てくれるかも…… ?
「待て、喋るな。誰か来る……」
男たちの話声と女の話声がする……。
「いやー意外と簡単でしたね。シテヤルゼの社長令嬢を誘拐するって旦那が依頼を受けた時は大丈夫かと思いましたけど」
「だけどなんであんな小さい会社の小娘なんて誘拐したんですかね ? 」
「あのシテヤルゼという会社が作っているロボットは軍事利用できるから、機械の本体かデータが欲しいのさ。先方がどうしてもって大金出してきたからね、旦那もOKしたのよ……」
部屋に入って来る……私の前で止まった…… ゲハッ ! !
「つかさ殿 ! ? 」
「お嬢ちゃん、寝たふりしてもバレバレよ。あんたは生きてさえいれば利用価値があるんだから」
お腹を蹴られた……呼吸が…… ! ?
「さて、お嬢ちゃん……あんた妙に冷静だね ? 普通誘拐されて極限状態になったら騒ぐ筈……さては、あんたに入れ知恵してる何かがいるね ? 」
思わず私は身体を震わせてしまった。
「反応したね ? こいつの服を脱がせな ! 盗聴器の類が無いか細かく調べるんだよ ! 」
「へ、へい ! 」
誘拐犯の人たちが私の服を脱がせていく ! まずい、フレーチェが !
「姐さん、このガキが持ってたのはこの人形と小さい裁縫道具だけです」
「ふぅん……ソーイングセットは特になにもなし。こっちは……やけに精巧な人形だね。念のため……こうしておこうか ! 」
「うわああぁぁっ ! ! 」
「フレーチェ ! ? 」
今度こそ私は声をあげた。まさかフレーチェを壁に投げ飛ばしたんじゃ…… ! ?
「なんだいお嬢ちゃん、いい歳して人形に名前つけてんのかい。まあいいわ、ロボットの本体かデータが来ればあんたは用済み。精々残り少ない命を楽しみなさい」
誘拐犯はそう言って部屋から出ていった……フレーチェ……どうなっちゃったの……一さん……!