異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記 作:山下敬雄
校長室を出て廊下を渡っていく。
浦木幸はさっそく課せられた校内クエストをどうしようかと思い悩みながら、とりあえず廊下の向こう側の階段踊り場まで着く頃には何か思いつくだろうとオートマチックに歩を進めていく。
向かってくる足音には気付かなかったが、──どこか聞き慣れた一声。
「は?」
「お?」
対向からやってきた靴音は止まり、自分の歩みもリンクし一瞬止まった。
中2の夏には変わっていたオレンジ髪ストレートのギャル風味、青いジト目。ルーズソックス。
相変わらずの黒髪その造形、背だけは自分より高く、だがいつもの間の抜けた省エネなかんじの表情はなく……。
お互いの顔を一瞥してまた時は一歩一歩動き出す。
「なんでスルーしてくれてんの」
「なんでってぇ、なんとなくみたことあったっけなぐらいの感じで淡々と」
ピネスはオレンジさんと行き違うように動き出した足を止めた。
前方斜めのジト目は若干じぶんを訝しみ見ている。そして『は?』以外のつづきの言葉をオレンジが投げかけてくるとは彼は思わなかった。
ピネスは彼女と久々にしゃべる雰囲気に違和感の記憶を抱きながらも、淡々と答えていく。
「幼稚園から中学高校こんなとこまでついてきてきもいんだけど、ハぬけ」
「だから今そよ風のようにスルーを」
「なにそれ調子乗ってるってわけ?」
「いやっ?」
「乗ってるでしょ」
「いやいやーゼンゼン」
「これあんたがなんかしたの?」
「これって?」
「このおかしな世界のことだけど」
彼女が右見る窓の景色をピネスも見る、校庭が赤紫の濁りに覆われている。
それはおかしな世界だと、彼女は言う。
そう言われればその通りでしかないと、もう随分と今更のことだが彼は思う。
「あぁー、確かにおかしいな。でも俺にはどうしようもないぞ?」
「は? なんかあんた最近ごちゃごちゃやってんでしょ」
「ごちゃごちゃ俺が? あぁーまぁ、あっちでゴブリンを斬ったり叩いたりごちゃついてはいるな」
「は? つまんないんだけど、もういい?」
「あぁ? そうか? わかった」
テンポよく話していてこれからと思ったら、突然男は女につまらないと言われ突然終わりを迎える。引き止めたのはあちらであり、突然冷めたように強引だとも思えたが、ピネスは『まぁこんなものだろう?』とオレンジの彼女とのやり取りを納得し、すんなり了承した。
彼女と自分を繋いでいるのは幼馴染という一点。年月とともにその他の肉付け味付けはもろもろぼろぼろと記憶老朽化し失せていく薄い関わり。
なんの気なしにまたフツウの一歩を進もうとしたそのとき──
「あんたってさ、」
「なっなんだ?」
「──やっぱ調子乗ってんでしょ、ハぬけ」
ピネスを見つめる無表情無感情のこわい目は、そう言い残し──そよ風のように去っていく。
「なんだってんだ?」
茶色いローファーの靴音を追っていく。ピネスはかすかに靡くオレンジの背をじっと見つめて、首を傾げ、つぶやく。
久々に遠い遠い幼馴染と喋ったと思えば調子に乗っていると結論を出され決めつけられた。
ミステリーともいえない、脳裏に一方的にオレンジのモヤをのこされた、だが。
『アレならばそう言う』
浦木幸というキャラに対するオレンジさんの当たりはこんなものだろうと納得して、晴れた。
納得したピネスはその背を見るのをやめ、また前へと歩き出した。
ゆらゆらすすむ長いオレンジ髪、彼女の耳にダサいスニーカーの靴音が聞こえる。
「なにあいつ……やば」
おどろき見つめざるをえない、痛々しい背中が遠くみえる。
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▽
グラウンド底の赤空を見つめながら、黒髪を風になびかせる。
赤い階段を上りきったピネスは、今、手すりに両肘を置きながらじっと思いふける。
「校内クエストっ……といってもなぁーー」
なんとなくまずは屋上へと────。
足を運んだピネスは校長に課された校内クエストをどうこなすか、とりあえず1番高くよく見えるところからプラン立てていく。
そして出会ってきた女子たちの顔を順々に思い浮かべていく。
(校長は家庭科3だし、きのこの人はきのこをおやきだろぅなんか煙ってっけど大丈夫か?)
遠く地上からもくもくと煙る様を見つけて、口をぽっかり開けて苦笑いをしていると────
『だれ?』
「あぁ?」
そっと流れてきた人声に手すりの青年は振り返る。
屋上を彩る緑ハーブ鉢の景色の中から、静かに現れてくるシルエット。
黒のブレザー、黒のスカートは不黒高校のもの。爽やかな金髪のショートカットにふしぎな飴色の瞳が付いている、そんな見たことのない綺麗な女子生徒だ。
「こんなところにいてはいけないよ」
「?? なんで?」
立ち止まり柔らかな口調で語りかける女子生徒までの距離は4.50m。相撲の土俵の直径とおなじくらい開いている。
「ふらっと屋上にくるとねここを卒業できなくなるって噂」
「へぇー、でも普通に垂れ幕とかされてたり」
「そうだね。君はだれ?」
「俺? 2-D浦木幸。あんたは?」
「ふふっそのせなか、寒くないの」
「あぁー、────さむい」
気になるピネスの背中にはすーすーと異界の寒風がながれ当たりつづける。そんな寒がる4.50mの間合いを、微笑む金髪ショートが詰め寄って────
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▽▽
装い新たに堂々と一歩一歩降りていく階段。久々に包まれるちゃんとした一枚つづきの布地になぜか安心感をおぼえる。予期せぬ巡り合わせで校内クエストをふらっとこなし上機嫌、浮かれながら────
下りと上りは鉢合わせた。鼻先とおでこが当たる寸前で両者接触を回避。慌てて3階の踊り場で体勢をすこし崩したポニーテールの女子が、危なくてつい閉じてしまった目を開くと……つい先日、見慣れた容姿の男を見つけてしまった。
「えっえっ浦木くん??」
「あぁー緒方さん、奇遇だな」
「きっきぐぅだね…………あれっその服は?」
「あーなんか知らないロックフェスのシャツもらっちゃって」
【第1回不黒ロックフェス】と黒地に赤くかかれた半袖シャツをピネスは着ている。
「そっそうなんだ…」
「そうだけど、どした? 緒方さんなんかへ」
「いやっべっべつに。そーだお腹とか空いてるかなーーってこっこれなんか握りすぎちゃって!」
「おおぉ、さんきゅー。ちょーどすさまじく腹減ってたんだわ。今度は何味?」
「──ってもういないな緒方さん。……おにぎりぃ……なぜかゲットだぜ!」
ドタバタと3階の廊下を走り去る音がもう遠く聞こえる。
ピネスは緒方のずっしりと詰まった風呂敷を譲り受け、『異能幸運、ラッキーぃ♪』などと、重なるラッキーに上機嫌につぶやき階段を下っていった。
▼
▽
「シンプルクールなシャツね、どこでお売りなのかしら」
「あぁー…わりぃ、秘密で」
今日もセットは完璧、ゴージャスにウェーブした金髪のマドンナはばったり出会った彼と握手して去っていく。
ピネスのひらいた右の手のひらには1個と半カケラの豆があり。それが何を意味するメッセージなのかはわからず、有難い食料を握手するだけで手に入れてしまい……。
「なんか階段や廊下歩いてるだけで色々ラッキーに貰えたな、異能幸運……やるなッ」
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▽
1.5個のピーナッツをかじりありがたい塩味を感じながら、1Fの廊下をなんの気なしに探索し歩いていく。
そして【茶室Fika Lagom】とかかれた丁度いい教室プレートを発見。
『そういえばおにぎりとピーナツはあっても茶はない』ピネスは巡り合わせた学校ダンジョンの一室にかるくノックをしその戸を開いた。
「なんだこのえらいせまい穴は…」
扉の先にさらにあった……狭い入り口を頭を下げながら進入していく。
猫の通り穴のような道順に添いピネスが進入を果たしたのは、────畳、グリーンの上。それっぽい雰囲気がそこにある、それっぽい掛け軸や木彫りの熊やら異国の皿。やはりいくつもある茶器セット。そして──
「茶室に外人?」
「失礼な輩、私のどこが外人」
狭い入り口をくぐり面を上げたピネスの目には正座した金髪の横顔が待ち構えていた。青い茶人帽をのっけ髪を纏めており綺麗なうなじが見える、彼女が着ている青と金の道服は物珍しい色合いであった。
「こりゃすまねぇ…どう見てもペラペラな日本人さんだ」
「またしても失礼、外人でも日本人でもない茶人」
「ちゃじん? あぁー、その格好…なんかコップを木のやつでかさささーって混ぜる人だ!」
「失礼、なんと風情のない言い回し、カタカナと擬音と駄文で茶人を表すなど言語道断」
「へっへぃ…たしかに…ノン風情だったかもしれねぇ」
くっきりとした顔立ちの茶人に対して出だしを間違え、ことごとく怒りを買ってしまうピネス。
きっちり叱られたからか、何故かピネスの崩していた足は自ずと畳の上に正座してしまい。
チラっと彼の膝下を見た茶人は────
ブレンドした抹茶を茶
茶碗にお湯を注ぐ。
「飲みなさい」
さっと膝下へと差し出される。
出された黒い茶碗に描かれた金色の十字が交わるところが待っていた彼の方を向いている。
ピネスはおそるおそるソレを手に取り、一礼する青道着の茶人をチラっと見て────口をつけ泡立つ鮮やかなグリーンを飲んでいく。
「あれっお茶なのにクリーミーで甘くてうまい?」
「あっ、けっけけ? けっこうなお点前で?(あってる?)」
泡髭をつくりながらピネスは飲んだ甘い茶の感想をこれを点てた茶人へと伝えた。
「当然ですっ、至極当然。──ラーゴム」
飲む様をガン見していた茶人は感想を聞き入れてから目を悠々と閉じて、小刻みにしぶく味わうように頷く。
「ら、らーごむ?」
「当然塩梅、ラーゴム。一期一会の必然の出来栄え」
「あぁーなるほど。ところでここっておにぎり、たべていい?」
「Fika、ラーゴム。存分にわびなさい」
「ふぃ、ふぃーか? おっおぅ……ラーゴム!」
テンポ良く頷く茶人外人スウェーデン人。
ピネスが想像していた厳かな茶会とはちがい、わびていてそれでいてポジティブ堂々な茶人がいる。
あっさりと許可を得たピネスは手荷物の風呂敷を広げていく、アルミの三角のカサカサ音にも茶人女子は頷いている。美味しいお茶にはおにぎりがちょうどいい……その組み合わせの妙を居合わせる茶人は想像でき知っているので頷く。
さっそくおにぎりを頬張り、茶もいただく。
ピネスもまた頷き、頷くピネスにまた彼女も頷く。
聞き慣れない外来語彼女の教えるラーゴムの精神は、なんとなく道をゆくピネスに伝染した。