異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記 作:山下敬雄
1Fの頃より硬さがなくなり連勝と経験を重ね連帯感があがり、逆に緊張感が抜けていたのかもしれない。
事態が悪方へと向かった考えうる様々な要因も不意に隠した毒牙を剥いたダンジョンは考える暇を与えない。
いつもより歯ごたえのある悪に立ち向かうツギハギブレザーのナイトがいる。
ぐうぜん手にした異能幸運のおかげかこれまでラッキーにも負けることなく勝ち進んでいるばかりに、ツギハギ合わせたような実力で今日もダンジョンへとなんとなく挑んだ彼が、その若き身に知らないこともある。
異常をきたす己の身の限界を────
(やべぇ…なんかカラダがクラクラす────)
いつものように剣を構えても良いように定まらない。良いようにクリティカルさえ出ない。いつもはこの辺りで来るはずの魔力の期待感が高まらない。
気を抜くと霞んでいく……。
意識と視界が霞んでいき、
暗闇────
「せ、せんぱい大丈夫ですか!! しっ、しっかりしてくださいっ!!」
後ろにその背を見つめるサンチュはまさか彼が不意に地に倒れるとは思わなかった。
すぐに駆け寄ろうとしたが──強張り竦むカラダが、足を硬くし邪魔をする。
一瞬で最悪へと陥る……一瞬でどうにかしたくても自分ではどうしようもない恐怖を目の当たりにし……その足はもつれてしまう。
彼が倒れてもなお──続々と召喚され現れるモンスターたちがいる。
最悪に次ぐ最悪に見舞われたときに、
人はそのあまり味わった事のない刹那に、
恐怖したり
泣いたり
考えたり
怒ったりもする。
ひとり、許せない光景に眉間にシワを寄せた彼女はもしものときにと、先程誰かさんに手渡されていた〝煙幕茸〟をモンスターたちへと投げつけた。
識別された茸は学習帳に記載どおりの効果を発揮する。もくもくと空間が濃く青く煙る中、サーガはサンチュの手を取り手の引く方へと引っ張りうながしていく。
『アイツが倒れて勝てるわけないでしょッ! そもそもにげるっっ』
『至極──退路はこちらですっ!』
杖でターゲットした獲物を釣り上げるように腹の底から気張った異能は、地に寝ていた情けない彼の背を強引に引き寄せた。
▼
▽
ピネスをいつの間にかその背に背負い上げて、風に靡くオレンジ髪は馬鹿らしいモンスターの鳴き声がひびく小部屋を出て、どことも知らない退路を走った。
「あのっあのっ……先輩は!?」
「は? 早くして、こっちお荷物担いでんだけどなんでそれより遅いの」
「はっはいっ……!」
なぜか先程から遠く鳴り響く不気味なラッパ音が吹き抜けていく、フザけたその音色もきっと祝福の笛ではないだろう。
走り続けた一行は通路十字路に不意に横から走り現れたコボルトを──斬。
先導するサーガはその身を棍棒でつよく打たれながらも、日頃の修練のたまものの波綿岩死の心で耐え忍び、冷静に不意に己の間合いに投げ込まれた岩をカウンターで居合い──真っ二つに斬りさいた。
即座に首を左右に振り先の道の安全を確認する。そしてモンスターのいない方へと後続の仲間たちをまた先導していく。
▼
▽
とにかく逃げる逃げ続ける。
考えうる手は考えているあいだにも前へと走ること。もしもこの緊張の石音立てる迷い道、次への地下階段を見つけたのならばこの厄介な状況をリセットできるのではないか。
彼を背負い運ぶ彼女たち学生たちがそれぞれ何を考えていたにしても、3人の足音はまとまり同じ方向へと向かった。
そして五里霧中のダンジョン道を走り続けたどり着いたのは、──アンラッキー。
進入した部屋中から見えたと思った奥の一本道は途絶えていた行き止まり。
急ぎまた部屋外へと戻るには──獣の声と謎のラッパ音がちかく、判断としては極めて遅くて致命。
「ハァハァっ……ツいていないことってつづくのよ、なにが俺は幸運なのっやっぱハぬけじゃない……」
「必死救命、おまかせを」
木浪はずっと背負っていた呑気に眠る彼を、薬草茶術の異能をもつサーガの元へと焦燥の中、妥協判断し下ろした。
「どっどうしようわたしのせいでっっ…! うっウラキせんっっ」
「あのさぁ、いつまでも引きずってんのうざい」
「うっ…ぐ……」
さっきからずっと動転しているサンチュを面と向かい木浪はきつく言った。顰める瑠璃色の瞳が、水粒を目元に溜める少女のうるむ黒瞳を睨み見つめた。
「はぁー…アイツ馬鹿で省エネだから」
「え…」
「あんたなんかのせいにしない。てかゼンゼン気にも留めてないんだけど。けっきょく他人のことも他人の言ったことなんてあのハぬけは微塵も覚えてないし、小学校のときはもっとちがって久々に会った中学のときは既に完成されたぼけーっと省エネ昼行灯スタイルまじきもい、萎える。目も合わせるのもイヤだしそんなに仲良くもしてないし。かと思ったら最近はなんかこそこそこんな狭くて暗いところでイキりだして調子乗って馬鹿だからノセられて、勝手にその場で助けたふりしてダサく死んだふりして、は? なんで私がヤってんの? なんなの『あぁーはいコレ木浪、煙幕茸』って?」
「きっ…きなみせんぱいなんのはな…」
「で、今? ヘマしたのはアイツ、ピンチなのもアイツ、ダサく床で寝てるのもアイツじゃん? こんなんで負けててあの時のお姫様が許す? 『守ってやるよ?』 は? 許すわけないじゃん? は? ダサっ!」
いきなりこの先輩は何の話をしているのか、目尻に溜めた涙さえまん丸とわからず水をはじいて開いた。サンチュの目から意味もなくぬるくなった涙が落ちていく。
まだまだその捲し立てる口は終わらない。何故か現在ダメージを受けて寝込んでいる浦木幸をバシバシと鞭打つように、──木浪は思い出したように止まらない。
「で、絶賛この状況で最悪なわけだけどヘマしたアイツが復活するまで、──守ってやる覚悟いい? わたしだけじゃゼッタイあんなのと闘うの嫌なんだけど、なんで寝てんのこいつ? ねぇ後輩、しらない? まさかちょこんと動く骨に油断して刺されたぐらいでこいつねてんの? 引率リーダーとか校長命令とかダンジョンクエストとか『異能、どう?』とか調子のっておきながらあり得なくない? で、闘える? どうなの? 見学するならその綺麗なままの剣かして」
怒りながら突然覚悟をする、オレンジ髪と瑠璃色の瞳。
左腰にある洒落た黒猫剣の尻尾柄は、ぴくりと引っ張られるように少し動いた。
サンチュは自分の顔に向けて自分ではなく彼にフォーカスして怒る彼女を見ていると……何故かさっきまで悲しみ悔やみ落ち込み流していた涙の意味をすっかり当てもなく失ってしまった。
「うっ、うん! かっ……覚悟いいです! 先輩! 木浪先輩! うらきせんぱいが寝てるのは……ぐす…わたししりません!!! たたかえますっ…闘いますっ!!!」
右腕で一気に拭った両目のうっとうしい涙。その拭った右腕は左腰にぶら下げた黒尻尾柄を手に取り、鞘から剣を抜き出した。
「ぷっ、後輩ここまぇ泣かせるとかまじきもいわ。あとでこいつしばこ、ハぬけのナイト」
サンチュの決意する顔を見て思わず笑った木浪は、チラリと振り返る。
薬草茶の準備を進めている金髪のサーガは曇りが抜け良い表情になった2人にこくりと明るく凛々しい表情で頷いた。
息を立てあぶら汗を流す彼の頭を起こし、ゆっくりと茶碗に調合したブレンド茶を飲ませていく。
「至極勇猛、意気投合、亭主のケア回復はサーガの異能に至極おまかせ! 存分ほどほどに闘いなさい、ラーゴム!」
木浪とサンチュは威勢良く呼応するサーガの尻を叩く号令に深く、同時に頷いた。
迷っている暇はない、悔やんでいる暇はない。
18Fの中部屋が何を悔やもうとも辿り着いた……最悪な此処こそが彼女たちの闘いの舞台、闘いの時。
杖を構え剣を構え、ざわついてきた入り口を見つめ──杖はその魔力を練り上げ迎え撃つ。
悪のマーチは彼女らの思い作戦など知らず近付いてくる。フロアのモンスターを焚き付ける不気味なラッパ音は、もう覚悟する闘いの音にしかきこえない。
うずうずと昂り点滅繰り返し光るサンチュのその手も、
彼の容体を学習帳とともに見極めるその冒険見聞の瞳も、
用意周到に武器を部屋に散りばめタイミングを待ち構えるその魔法の杖も、
今、迫る危機を堂々迎え入れ己に眠る異能チカラを腹底から解き放つ────。