異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記 作:山下敬雄
▽SP校長室▽にて…
呼び出されたピネスは特別な部屋に入った瞬間に何かイヤな空気を感じた。
いつもの渋い机の席に座りながら俯いて目を閉じた校長がいる。
ピネスは黙ってゆっくりと机の前まで歩いた。すると校長はそのときを待っていたように開眼し、その美しい面をあげた。
「ピネスくん……これを持ってこれから1階の用務員室に向かいたまえ。中身は決して見ないように、それをヤツに渡してこい」
「よ、ようむいんしつ?」
ピネスは笑わない校長から手渡された軽いが重みのある荷物を受け取った。
▼
▽
やってきた1階の用務員室。
明かりは薄暗い、吊られていた下着の暖簾をくぐって、女子らしき生活感がとっ散らかっている空間をイチマイイチマイおそるおそるピネスは抜けていく。
布団が敷かれたまま、ここには誰かがいる。
誰かが寝ている。
「あのー」
「はぁ? はふ」
「これなんですけど」
ピネスはヤツへと校長に頼まれていたそれを渡した。
寝ながら手を伸ばし受け取り薄暗い明かりのなか、受け取った封筒の中身を読み出した。
「とんだあいのぼむえんど…」
彼女はそう呟いた。中身を丁重に元の折り目のとおりに仕舞い、
彼女の頭の横ににょきり……銀色の枝があたためられていた布団からせりあがった。
▼
▽
用務員室を出て銀色の枝の行く末を追い、真っ白いトレーニングルームへとピネスは連れて行かれた。部屋を掃除していたゴーレムたちへと会釈をし、ピネスはカラダを念入りにほぐす水色作業着を見つめながらそのときをただ待った。
「準備運動かんりょー。さぁて、どうする帰る?」
「え? 帰るって帰れるの?」
「当たり前じゃん? だって強制じゃないんだからこれは、言うことなんて聞かなくていいんだよ」
念入りな準備運動と溢れて伝わった闘志、ピネスは見ていた彼女の行動と雰囲気とチグハグなことを言われていると感じた。
「まじ…てっきりなにかたたかうのかと? そんな雰囲気を感じたかんじでぇ……ただならぬ殺気というか…」
「君がぁー、あたしと? 殺気ぃ? 子供にむけて? ははっ笑わせるじゃん。──ってことは自信あるんだぁ」
「いや自信とかそういうわけじゃ……ただなんか避けられないのかなぁーってちょっとこっちが思ってただけで」
ピネスは首をかしげながら誤魔化した。
この先避けられないイベントが起こると彼のセンスは感じ取っていたが、読み違えたようであり何事もなく終わるのであればピネスはそれでもいいのだ。
ただ…
用務員の池原は彼のぐーにしたお手手をちらりと見た。
「いいよ、やろ! かかってきな」
「まじ…すかっ」
やはり結局避けられない、池原とピネスのたたかいは突然に訪れた。
▼
▽
刺股がざくりと床へ、突き刺さる。
突き刺さる銀の顎の間にすっぽりと首がある、ダウンしたピネスは完全に刺股一本で制圧されてしまった。
「あれぇ? あれれー? なーんかあたしと戦うとか余裕とか言ってたっけ」
「いや…人とたたかうなんてやったことさっきのダンジョンぐらいで…」
「ははーん、言い訳しちゃうんだ」
「いや、ほんとで…」
「だからさ……本気で来いっつってんの」
ピネスを見下ろす赤い目は急に凄んだ。
「ありゃ、もしかして本気の出し方しらない?」
と思えばまた砕けた余裕のある感じへともどった。
それでも苦笑いさえ浮かべるのは危険に感じる…ピネスは窮屈な銀の間、天の彼女と目を合わせながらゆっくりと答えた。
「えーっと…それってぇ、ダンジョンのモンスターとたたかうってかんじすか?」
「ははっはははっそうねそうね…それでいい! あたし今日ヤったモンスターより弱く見える?」
「いや、ぜんぜん…」
そうピネスが首を左右に振ると、銀色は引き抜かれた。
向こう側に刺さった剣はピネスが起き上がるやいなやふわっと投げ返され、
「なら来なよ! いつも君がやってるように殺す気でね! あーそーそーそっか? こっちも殺す気でいくわ。これならきっと簡単か」
「えぇ!? まっ、まじか!?」
ピネスが翠の剣を手に収めたときには、物騒なことを平然と告げられていた。しかし殺す気でやることとモンスターと戦うことはある意味ピネスの中でもイコール。本気を出すこともイコールであった。
「大マジ、だいたいさぁあたしviewtubeなんて始めたこのところ思うんだよねぇ。この道の先輩なんだから教えて当然知らないんだから教えられて当然、この子は伸びるからぜひとも鍛えてくれたまえーーだとか言うヤツよくいるじゃん? いんやいたよいた、最近でもマジでいたよそういうヒトの話きかないヤツ。でも結論から言うとねそういうおしえろおしえろ言うヤツって懇切丁寧に鍛えても結局みんな途中で辞めたよ。なんか決まってやり切った感出しちゃうのよ、『うっす!武の真髄すこしわかりました!師範今までありがとうございましたー!! うっす!』ってええ!?いやいや待ってよ武の真髄すこしわかったの!?随分はやいな!?わたしもまだなのに!?あーそーへぇー……まそんなヤツが昔やってた道場にいましたよ。でね、みんな低レベルに合わせて一歩一歩やってもらえると最初は安心すんのよ、これが武のふむふむって、そりゃそうだよ上手いヤツが噛み砕いて柔らかくしてひよっこの雛に良いエサだけあげてんだからね。だれも硬い骨の部分なんて食いたくねぇーのよ、てか食わせねーのよあぶないし月謝ほしいし、なんだ今風で言うとそーそーview数ほしいし♡。ほら最近の漫画でもさぁ、山にこもって師範と熊と鍋囲んで落石素手で砕くとか火の中の栗拾うとかの古臭い修行シーンそんなの誰も望んでねぇーでしょ? ばっさりカットだよカット、いらないよそんなのっっ動画見れば分かるしもっと武道も効率求めてこーよ!」
「ぅー…ん?」
長い長い語りであった。刺股を後頭部をもたれる棒にしながら水色作業着の女は1人でずっとすらすらと語り出した。緊張感を削がれてしまったピネスは、突っ立ちながらその年上の念仏を聞くしかなく。
「でもさぁそういう苦労、上まで身ひとつ全国各地自力でさがして辿り着くまでが結局楽しいんじゃん? わかるぅ…? そういうじぶんなかのドアをひとつひとつ確認してどっちかなぁーってひらいていく楽しさ。あぁーこっちのドアはあたしより上手いヤツがいる…やめとこっこっちにしとこっとか。戦闘術デザインアドバイザーなんて名乗ってるけど、ほんとはそうなのよ。ま、今はその辺の動画みりゃそんなドアがばがばのぱっかぱかかもしれねェけどっ」
「わかる……かも?」
まだ続きのあった語りに、ピネスは眉間に皺をよせえらく考えながらとりあえずもっともらしい相槌らしきものを吐いた。
「わかるかもかぁー…わかっちゃダメに決まってんじゃん。あそーそーだからこう無駄に長くなったけど、あたしはクリティカルシンデレラボーイ、君にこれだけ言いたいの」
「クリティカルなっなんて??」
「ムカつくんだよねぇ…自分より若くてわかった気でいる馬鹿なヤツううううううう!!!」
「え、そんな理不尽!? ──きた!!!」
不意に噛みついた銀の刺股と殺気に自動反応した翠のショートソードはかち合った。
「へぇーわかるんだぁ!」
「!! (なに言ってたかさっぱりわかんねぇ…!! あ、見抜かれてた!?)」
理不尽な銀色の仕掛けに対してしっかりと正解の太刀筋で反応。
一太刀交えただけで分かる、たたかいの肌触りがちがう。
本気にちかい池原とピネスの第2ラウンドは始まった。
▼
▽
(見たことねぇありえねぇことどんどん積極的にやってくる、なんだこの人。そうだあの黒騎士…とやったときみたいなどうしようもないかんじいや、それよりこの人は厳しく殺しにきてる気がする──本気だ、本気なのか? それにこれって……さっきから俺の魔力とか乱されてね? 運すら? クリティカルが全然でねぇ!)
「うおぁ!?」
「足元ぼーっとしてんのー? 君ってきっと考えても馬鹿なんだからやめた方がいいよー」
「クソっ、!!」
銀の刺股と繋がる不思議な魔力の糸と輪に足を取られて転けたピネスは、翠の刃を糸へ当て電撃を伝わせた。
縄に捕らえた獲物からの激しい反撃を──
「なるほど! 考えれるじゃん、──効かないけど!」
青雷のマジックをもらい痺れた全身は、銀の棒をくるくると手腕で回し元通り。
帯電した魔力を外へ逃したのか……ニヤリと笑うソイツがいる。
「どなってんだこの人ぉ!!」
ボロボロになった魔力の糸を剣で切り、ピネスは意表をついた攻撃と同時に捕らえられていた状況を脱出。
仕切り直す…かかって来いと言わんばかりの銀の旋風に、冷や汗を冷やされながら彼はならばと挑んだ。
「どしたどしたぁー! 殺気読んでばかりなのが特技なのぉー! 与えられて逃げるだけそれって特技っていえるかなぁ? お得意のクリティカルってのわたしに見せてみなよ! ま、無理だけどねーー!」
銀色の刺股の連撃、激しい攻めを見せながら挑発をする。
ピネスは鋭く変幻自在に唸る銀色の刺股捌きをいなすのが精一杯。殺気へとぶつける翠の刃の感触はやはりクリティカルどころではない。
逆に、〝クリティカル〟。スイングする重い銀色のイチゲキがピネスを後ろへとおおきく爆発するように弾き飛ばした。
(やっぱりこの人クリティカル打ってきてる。じゃぁやっぱりここしかないだろぉ!)
「なんとなくサァっ!【ピネス…サンダー】!!!」
「ありゃまた弾っ──!?」
遠くから足を踏ん張り放った雷撃のマジック、遠距離からの攻撃に対し旋回する銀色のプロペラシールドがソレを阻む。
だが無茶苦茶、スベテの魔力を圧縮して使ったかのような今まで見せたものより数段鋭い魔法威力は、刺股を回すだけで受け切れるものではない。
痺れはガードを貫き池原の全身を伝った。
そして────
「わかったかもー!!!」
「わかったなんて言わせないっ!!!」
布石を打ち、ピネスは仕掛けた。
雷音唸る翠の刃を魔力を込めた銀色は待っていたとばかりに真正面から受け止めた。
鍔迫り合わせて、ぶつかり合ったチカラ勝負。
しかし期待感が湧き上がるのはどこからか、痺れる冷たい期待感が、いつの日からか錆びついた池原のカラダの中を伝っている。
それは警鐘であり、脅威、背筋がどこかへトんでいってしまいそうなヤバいヤツ。特殊な修行を重ねた彼女の器には勝手に満たされていくのが分かる。
「やばっ!? これかァァアレをヤったの!?」
剣を振り切り放たれた青緑の三日月は、噛みつく銀色の顎を切り裂かん。
相手と己を強引に繋げて絞り出す本気以上の本気、ただならぬ魔力を受け止める本気。
どちらもないとその技は成されない。
「あっ、やべ……あぁー…」
▼
▽
「はぁははぁ……なんだこの陽気のかたまり、若っかーーーー……」
白いトレーニングルームの壁には痛々しく刻まれた落雷のような跡がある。
床には転がる真っ二つに折れた銀色の棒切れと、
大の字に息を吐き天を見上げる、茶髪の水色作業着さん。
胴体は繋がっている。
「…大丈夫すか?」
「はは、お手を拝借」
心配したピネスはまだ生きていた彼女に安堵し、伸ばし求めてきた手に手を貸した。
「よかっ…うがっ!? いててててて!??」
「はいあたしの勝ちー!」
「痛いいいいいいい────────!!!」
心優しき少年の貸した手は何故か関節技をかけられ、天地は逆転。
ピネスを押さえ付けて乗り掛かり、笑い飛ばし勝ち誇る用務員女子がそこにいた。
▼
▽
緑の糸で両手はあやとりをしている。
さっきやった咄嗟の防御行動をもう一度確認し、池原はひとり頷いた。
「いいよ、毎週ここでいちにかいは相手してあげる。それ以外はムリ。暇じゃないし金取るから、てことでね。あと校長様怒ってた? なんとかそっちから上手いこと言っといて、じゃね!」
「え、あ、はい??」
片手でごめんのジェスチャー、なんだかチャーミングに彼女はウインクまでしている。
浦木幸は毎週用務員の
勝利か敗北かわからない手に汗にぎる充実感を手にし、最後は苦笑いでピネスは彼女のいるトレーニングルームをあとにした。