異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記 作:山下敬雄
「あぁーまったくやっと捕まえたと思ったら追いかけっこの第二ラウンドかよっ、まじで回転寿司屋の子どもみたいにはしゃぎまわって読めねぇぞシュブンキっ………………は? なんだこれ…???」
回転寿司屋ではない。校舎内を追いかけっこ、その赤い魚の尾を見失い当てずっぽうで入った──一面の白い部屋。
従業員のいつものゴーレムは挨拶もしない、みな掃除で手一杯だ。
トレーニング室はあちこちに威力凄まじきクレーターができており、ピネスは迷い込んだこの月面ともちがう未知の光景にそれからは何もしばらく言えなかった。
彼の目に映る何もかもがものすごく危なくて意味が不明で頭がこんがらり迷い、浮かべた大きなクエスチョンマークも立ち尽くしやがて砕けてしまうほどにおかしい────
ただそこには横たわる大の字の紫色が冷めていき……水色の作業着となっていく。
そしてブク高の制服をきた長い黒髪の女子がその水色の大の字の前に立ち、何かをのたまっている。
「おそらく魔力の差を埋めるための、
「いくらこっちでバケツで汲んでも枯れない井戸相手にはせっかくお披露目発動のおニューな異能も意味なかったみたいだけど、ねっ…!(分かってはいたけどいくら叩いても底がみえないから
⬜︎…タコイカ学習帳
魔力クラッシュ:
なんらかの方法や衝撃で魔力の集中コントロールを著しく失い魔力がトんでしまうこと。魔力の性質について調べていた戦闘術デザインアドバイザーの池原は自身の昔の怪我の功名もあり、この気の流れがボロボロになる現象を身をもって…爆弾をかかえる身を爆発させて知っていた。
このクリティカルにも関連するあやふやさを孕む現象に目をつけた池原は防御を固めた強い相手に対する対処法を己の若き異能の追加ルールのひとつとして組み込んだ。
強引に成り立たせたルールとしては魔力クラッシュで魔力が一度トんでしまうと内在魔力総量が減ってしまう、〝内在魔力総量が減ってしまう〟という追加現象だけを既に池原のナカで認知しある現象に強く願かけた……分かってしまえば非常にシンプルなものだ。
つまり水色作業着の色を紫色に塗り替えた池原の特殊に染まった攻撃をうけ、耐えきれずに魔力クラッシュしすぎると……内在魔力総量の最大パーセンテージが段階的に減り、ガードに回せる魔力が減りに減り、結果ガードがだんだんと薄く弱くなる。
最終的にはこの内在魔力総量がすっからかんのゼロへと至るまで異能の効果とダメージは持続されることだろう。
つまり遠まわりの結果的に相手のガード硬さが弱まり、威力は幾分落ちるものの池原もお得意のクリティカル攻撃が安定し通りやすくなるということであり、校長やピネスにも劣る魔力量の彼女にとっては相手との魔力の差を度外視し大いにメリットを享受できる異能のひとつなのである。
しかしこれは纏う作業着という分かりやすいフィルターを通して異能の発動者本人にも適応される諸刃の剣でもある。だが池原の考える強さ、そしてくわえてできれば同じ土俵で強者と戦いたいという彼女のフェアプレイ精神と信念の現れともいえるだろう…。
インスパイアド登別海
★池原叉鬼の異能
〝
⬜︎
「たたかい対峙し力量が分かるのは強さの証、私が最初は受けに回るのもきっと見越していたのですね…いい着眼点でした。しかし込めた願がお互いの魔力をとおして覗かれてしまえば、こういった風に逆に賢しさの裏を利用されもしますっご注意を」
天に聳えるその黒い瞳は子の顔をのぞく。
その黒き美貌はニコりと笑いながら、先ほどの戦いの体を成したモノを…勝ち誇ることなくただ振り返っている。
カメラを回しているのを理解してのことか、彼女の素であるのかはわからず。
「ご注意どうも…ハァー……めちゃくちゃ人生いち楽しませてもらったよ…あたしの方はまぁ、今日のあたしのバージョンはこんなもんかな。(その気になれば圧倒的な魔力とパワーで攻める相手の前にはにわかの魔力仕込みのルールなんて意味がないっておたくは言いたいのよね、知ってるよそういう理不尽な拳を打ち込まれる感覚──それにしても強者はたいていお優しいことで、お優しすぎてリベンジマッチの魔力までボコボコ殴りのゼロにしてくれて…こりゃ明日と腰に響くね)」
「私もさいしょの期待いじょうに楽しめました、これからの子のあなたの成長におおいに期待していますイケハラサキ、強きに向かうあなたのその強さ私は何一つきらいではありませんよ」
「こっちは傷一つでもって感じやんだけどねぇー、なんていい親…涙がでるほど敗者を褒め称えてくれてぇーあたし池原叉鬼の20うんねんがちっぽけに見えるよ。じゃお言葉にあまえてまた一歩一日成長させて──もらう、よっ、いえーい」
よっ、と起き上がり──いえーいと重ねて音を鳴らす。
大の字でおもいふけるのをやめた池原叉鬼とにこやかに彼女のことを見守っていたパッツンは小気味のいいハイタッチを交わした。
用意したステージにクレーターを咲かせるほどの激しい番外編の戦いは約束した通り…お互い楽しめる範囲の実力を出し合い、敗者も勝者も後腐れなくそれぞれの笑顔で終わりを迎えた。
「で、あなたはどうしますか? めらめらしている…その魔力、そんなに無防備だとわたし気になってしまいます」
蛇に睨まれた────いや、蛇などではない。
黒い瞳に黒い髪、それは自分と同じ色であってもどこか決定的圧倒的に違うと断言できる。
黒は黒でも質も美しさも柔らかさも迫力も、まるっきり別次元で違うのだ。
美しき何かの化身、そう言わずにはいられない、それでさえ言い表すに──足りない。
ピネスは自分にそれが振り返るとは思わず、ズキンと、その瞬間に心臓が跳ねた。
彼の肌が敏感すぎたせいもある。
微笑んでいてもそれは、長いまつげのするどい目でにらんでいる。明らかに重々しい殺気を帯びた烏、黒いミステリアスをこえたナニかなのだ。
「竹馬スイッチが入るとおしとやかなだけとは言えないね、運や機嫌しだいではついばむおかわりもあるってね? はは、がんばれイモムシ2号(1号からのハイタッチならぬバトンタッチって、ねっ)」
そんな無責任。
無責任すぎるお気楽な手は困惑する少年の手へと叩かれた。
勝手に受け継がれてしまった汗ばんだ濡れたバトンとは…一体なんなのか…ピネスは分からない。
「たけうま?? いもむし…にごう?? な、なんか、なんなんだこれ??」
「エッチアイ! 朱文金はいたですか!? ──くぬっ? なんなのですっ??? わぷっ!?」
「おっとと観客は下がった下がった。今ガツってるおもしろいとこだからねー(あとでパフェおごるから、よっ。──だれだっけ?)」
帽子のツバのカメラをくいと向ける。
駆けてきて乱入したピンクの観客を、黙らせ作業着をきたお姉さんは引きずっていく。
重なる元気なピンクと水色を一瞥したパッツン髪は、クレーターに刺さっていた剣をその手に取る。
そしてまた、先刻先の試合にみせたように切先を踊り遊ばせ────意気揚々と挑発した。
クレーターがDPを補充されたゴーレムたちに埋められていき、師範とも呼べないよく分からない関係性のあのいつもの作業着のお姉さんに笑いながら外堀を埋められていく。
なおも知らない女子生徒から向けられている謎の刃は、彼の腰に携えた二刀が飾りでないのならば──と楽しそうにはやし立てる。
抜いても地獄、抜かずともきっと女の子の機嫌を損ねてしまう地獄。
始まってもいないのに少年の汗はなぜこんなにも流れるのか、答えはきっと目の前にしかない。
剣を向けられたからには──
「どこからでも? 受けとりましょうその刃、その魔力、その異能すべてを!!!」
「あぁー……シュブンキンはあとでいいかな…コズミ? ちょっと、外せないスペシャルなイベントってのが俺の道にはぜっさんなんとなく…あるらしいぞッ…!!!」
剣を向けられたからには──!!!
浦木幸は滴る前に顎先をぬぐった。
この興奮と殺気と入り混じる期待が醒めないうちに、そのかえってきた緋色の剣をすべり抜いた。
ピネスとパッツン、話し合いは短くはじめましての試し合いが今はじまる。
めらめらとその魔力を滾らせて、走り出した少年のスーパースニーカーは赤と緑の足跡を臆せず刻み──羽をとじた不気味な黒い烏へと飛び込んだ。