異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記 作:山下敬雄
汗水垂らすピンチに、
おもしろくなってきたピンチに、
ピンクの主のピンチに、
悠久の暇をつぶせそうな機会に、
様々に様々がうごき駆けつけたこのシチュエーション、火柱立ち昇り威力砕けるこの白い一室で。
焦げ濃くなってきた火の匂いに、睨む黒髪の女はその身とその火で成り上がってきた己、過去の長きにわたる闘いまでを深く広く反芻していく。火柱が天へと至るまで、ただ純粋に強く追い求めつづけた。
己に火を焚べたのは誰であるのかを────
(……知らぬ神族の示現……いや、神をひきよせるそれほどまでの炎……そんな炎を統べるのはただ一人、──天戴武天…このような気まぐれ……)
手に取りながめていた、ひび割れた緋色の剣はしらない。
黒い羽衣にくらべてそれほど特別なモノにも見えない。
そっと宙へと浮かせた剣は目の先に立つ男子の手元へと返された。
「一発です。あと一発ソレを受けてあげます。このカムリをほつれさせた納得のいくものならば、この勝負、あなたの勝ちにします」
「なっ…??」
返されたまだ熱い剣と、添えられた言葉に。
まだ闘いはつづいているのだと、ドクリと跳ねる心臓までピネスはわかった。その目の前に立つ女子生徒は微笑んでいない、冗談にしても本気であるということだ。
「このような相手くっくっく、童め、よほど命知らずよのぅ!! 餓鬼どもの偽王の次はコレに喧嘩を売ったか、くっくっくハハハハハ」
赤い魚が高笑いを浮かべる。バチバチとその身をフラッシュさせながら、魚の口が裂けるほどに大口でワラっている。
いつの間にか帰ってきたシュブンキン、そしてその燃えるお魚を乗っ取り現れた喋る存在に、命知らずでも喧嘩を売ったつもりもないピネスはそんな事の言い訳は今はどうでもよく。
「いっ、いいからなんか前の黒騎士みたいにアドバイスってのくれよ! あんたけっこーすごいんだろ! 登別さんが雷の神様ってやつってぇ!!」
請うたのはまさかのアドバイス。恐ろしげな喋る魚も、魚ならば恐れるに足りない。もっともっと恐ろしいモノに見守られているのならば、強きに従うしかない。ピネスは自分のチカラでは避けられない理不尽、イベントというものがこの世にはあることを重々わかっていた。そしてまた垂らす汗水や不平不満より求められているのは、きっとクリティカルなイチゲキであると────
「くっくっくいい心掛けよの。──かまうなそのまま奴を斬り裂け、一切の情けなど捨てろすべて貴様が神と敬うくっくっく…この黄泉の雷神、我によこせ。その矮小なイノチなど天の前にはなきに等しいと思え童! 神による神をも屠るイカヅチを見せてやろう…!! くっくっくはははははは」
いちいちの大袈裟な物言いと高笑いも、先に立ち待つ黒い眼に見つめられ漂いはじめたたちのぼる魔力と炎の気と闘気に、説得力が増しているばかり。
しかしピネスは苦笑い──
「そーそー鬼になれ、喜びも、怒りも愛も、魔力も運もぜーんぶ叩き込め、強者にちょっと強くて若いだけのイモムシの情けはいらない、よっ! 手加減は学校みんなの後悔、全力全身ノ前進! じゃないとありゃ泣かせるには硬いよっ! クリティカルシンデレラボーイ! ブク高の運命をしょってけぇーーはははっ!!」
(なんでさかなと同調して笑ってんだ……って)
「俺、なんでブク高をしょって……!?」
「エッチアイ! あまり怪我をしてはいけないのですよっ! け・ど・もっっ、勝てば風紀を正すチャンスなのですっ!!!」
ピネスはもっと苦笑う。
バチバチとヤル気を昂らせるお偉いらしいお魚に、
水色作業着は何故か突然ピンクに染まり紛らわしい、愛と書かれた帽子を後ろに反転させいい笑顔で頷いた。
ピンクのアンテナ髪は灯る瞳で彼を見つめ、手に持つイニシエランタンをぼーぼーと灯しながら、彼の顔を勇ましく指差した。
勝手な言動と行動仕草に苦笑いを超えて──笑うしかない。
「もはやこの学校の風紀ってなんだぁ……はっ…みんな勝手だなぁ……よしっ! じゃー俺も勝手させてもらうぞっ、こんなかんじのぉ……なんとなくなぁ!!!」
翠の剣を取り出して、なんとなくの二刀。
なんとく餌を与えるように突き刺し、燃え盛る魚を注文通りにあたえ青く充電した。
代わり見返りに右手の緋色の刃はメラメラと灯り燃え盛る。
灯るスベテの期待感は炎へとかわる。
今更臆するという言葉は剣を強く握りしめたときには、知らず失せた。
納得させろという得体の知れない無茶な注文には全力でアンサーするしかない。
一発イチゲキ────考えるよりもなんとなくゆだねてみる。
期待も不安も入り混じるぶっつけの炎剣はひらり浮かべる黒い羽衣へと────────
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イニシエランタンの火は仄かに、しずかに────────
「ピンクのナイスちゃん、あとでお姉さんがくそでっけぇパフェをおごろう。今日はカントリーパーム18個入りの甘さぽっちじゃ疲れの果ては取れない、ねぇーっ…!」
「くぬぬぅー…冗談はほどほどなのです!」
崩れて故障したゴーレムの残骸のなか、白い粉を払いながら見守るギャラリーは生ぬるい唾を飲みながら最後まで魔力の限りまでこのド派手な勝負の行方をアシストしながら見届けた。
緋色と翠の刃は折れるを通り越して、散り散りに。
ほつれた羽衣は、その取れそうな端を思い切ってその手で引き裂いた。
一世一代、神様との燃え盛るジャンケンは────グー。
地へと向けられた拳は、仰向けにへばりつく少年の眼前鼻先に寸止め。
ゆらゆらと揺れる白煙に、ゆらぐ黒いシルエットはその乾いた唇をうごかした。
「久しぶりに汗を流しました。雑務日常など忘れてしまうほどに、本気の闘いはやはり────たのしいものですね」
「は…あ…あぁー……そうです…ね」
最後はグー、最後の最後はパーで咲かせて。
真剣から咲かせるように微笑む女神とおそるおそるの、タッチ。
もはや汗も流し疲れた手と、今になって汗を流しはじめたあたたかい手がはじめて直に触れ合った。
ピネスが全霊を込めて轟かせた一発イチゲキは、それでも黒布の端っこに満たない。
結局微笑む女神は勝負のことなど忘れたのか、勝ち負けには言及をしなかった。しかしそんな些細なことを問い詰められる者などここにはいない。
スーパー女子高生では足りない、強者でも実力者でも足りない、見知らぬ黄泉の神の雷をもってしても足りやしない。
圧倒的な存在感と強さに、受け止められたピネスは汗ばむ手をひかれへばりつく地から天へと起こされた。崩壊寸前の亀裂まみれのトレーニングルームは、最後は闘う両者、手を繋ぎ合わせ────その終わりを迎えた。