異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記 作:山下敬雄
グラウンド中央には風に憩う、一本の大きな木。
その傘のように立派に茂る新緑の影の下、ベストポジションに設営された移動式の簡易茶室はぽつんと存在する。
ぽつんと…だがとてもおだやかに学び舎のグラウンドと木の緑を遮らず、侘びるように溶け合っている。
そこだけはほんのちょっとの和の異世界、見上げればここちよい緑、振り向けば広大なグラウンド学校景色。
何にも遮られない憩いの空間で、また甘くてしぶいFikaのじかんがやってきた。
セムラというお菓子はスウェーデンの伝統菓子だ。
シュークリームのような見た目であり、パン生地に生クリームとアーモンドクリームをこんもりと挟んだものである。粉糖を上からかければ見た目にも楽しく茶の席で出すにも適している、カルダモンの風味のするパン生地は独特であるが加減を間違えなければ良いアクセントになる。つまりシュークリームのような見た目のシャレたクリームパンである。
茶人の出すそんな甘い伝統菓子と淹れたての熱いお茶の組み合わせをパクパクと食欲旺盛4度おかわりしたのしみながら……。
いつも通りのクールな黒スーツとタイトスカート、本日は藍染の眼帯で渋い茶に合うスペシャルなおしゃれを、プラチナ髪のお偉い人物は畳の上で客人を座して待つ────。
一本木の下畳の上に、プラチナに佇む目印と特別な気配がある。
遠方よりお越しの方は慌てず走らず、少しほころんでいた身なりを魔法でととのえて────
この和の異世界への入口である小さな木枠を通るが、ブク高の制服姿は通れない……。
金髪の茶人はくろまねき商店で購入させられたという大量の手荷物を客人から預かった。
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やっとほっと一息────────
パッツン頭の黒髪は座布団の上で正座をつくる、彼女の礼儀作法の美しさは茶人サーガの目からみても完璧で見事なものにみえていた。パッツン頭は出された茶と珍しい菓子のセットを落ち着いた様子で、たしなんでいく。
静かな葉音とまた茶を点てる音だけがきこえる空間で、勝手にまぎれこんだコカトリスはその美しき黒髪女神の膝上におそれなくすやすやと羽をやすめ眠っている……。
「やーやー、随分とお帰りが遅かったようでフフフ」
独特のタイミングでしぶく切り出したのは、となりの座布団のプラチナさん、不黒文。
一息つき茶をたしなんでいた客人に、眼帯をしていてもわかる含み笑いを浮かべた。
「さぁ────約束は果たしました。今度はあなたが果たす番です、不黒文」
ちらりと目をやり、戯言には付き合わない。
ずっと用意していた台詞を突き返すように吐き、女神はまた柄つきのお椀をまわし新しい茶をすすった。
「といわれてしまっても、こちらも〝アレ〟を手放すのは惜しいよなぁー。こっこっこっそーかそーか、
コカトリス鶏ちゃん6号、膝元に寄って来たふぅーちゃん魔獣軍団に属する鶏サイズのモンスターに餌付けをし愛でながら────
「──不黒文」
「フフフ、ふぅーちゃんジョーク!!」
飛んできた鋭い目線にジョークと不黒文は朗らかに腕をひろげながらアピールをし返した。
しかしそれはとんだいらないアピールとジョーク。
茶であたたまった女神の喉から溜息が漏れ出てしまう。
「はぁ……あなたは1番手のかかる…」
膝に眠るモンスターですら羽と嘴をとじて大人しい。大人しくない変わった人間が今、女神の目の前にはおかしな笑みをずっと浮かべ存在している。
「ふぅーー……。ごほんっ────それはすまない不黒のふぅーちゃん、いやブク高の校長先生が舐められる訳にはいかないからなっ! ある種のパフォーマンス、本気ではないぞー。フッフッフ!」
「はぁ……そのような見栄など評価に値しません。本題に移ってください」
黒髪の女神は冷静にも不黒文のペースに流されず、粉糖のかかったパンを手に取り間に飾られてあった白いクリームを掬いとった。
「本題本題、そうだなぁ本題?? おっと──これかぁー。これから色々調べものをするつもりだったのだが、仕方がないっ!」
校長に命令された鶏ちゃん6号は〝本題〟を咥えて客人女神の膝元へと鳥足で駆けてはこんでいった。
「これはたしかに────」
「よちよちよちよちこっこっこ、鶏ちゃん6号は賢いなー」
「不黒文…チッ」
女神が舌打ちをすることなどあるのだろうか。
──ある。
戻ってきた鶏ちゃん6号を撫でてまたシュークリームもどきで餌付けをする。そんな終始ふざけた存在を咎めるようにぎろり……女神はそのパッツン黒髪に似合う鋭い黒目で睨みつけた。
「ごほんっ────……失敬失敬ところでそのみどりの本題の正体というものを、渡したついでに教えてくれてもいいと思うのだが? どうかな? ふっふ」
僅かな殺気を感じ取った不黒文はおちゃらけ困ったときの伝家の宝刀、校長の咳払いで仕切り直し、いらぬ口は転じてうまい具合に提出した本題に関する情報の提供を女神へと求めた。
「いいでしょう…隠す必要もないこと」
蔦のからみ巻きついたみどりの本。
提出した本題とは一冊の本であり、ブク高の先生生徒冒険者たちがみどりのダンジョンで手に入れた特別な一冊のことである。
その手に取ったみどりの一冊をその神の慧眼で識別していた女神は隠す必要もないと、不黒文の要求に応じる姿勢をあっさりとみせた。
「おっ太っ腹、よっ神様ふっふぅーーー」
「余計な嘴はしまっておきなさい」
「ごほん──了解した。──して? どこからでも話したまえ?」
「いいでしょう…。これは────ブックマスターのブックです」
「…なァるほどな。すごいな、懐かしいゲームの説明書のようだ? 微妙にわたしの知りたいところでは、ないなっ」
「あなたが口を挟むからです。ブックマスターのブッ」
「ははーん、マテマテのスペシャル待てよー、つまりこれと同じと言いたいのかな?」
指をパチンと鳴らし何かを閃いた。
不黒文は例の赤い本を校舎の方から呼び寄せて、紙をひろげてひとりでに飛んできた学習帳を自身の手元へととめた。
「それは────頭の方は回るようですね…知っているのなら、話は早いですね。では、ふつうのダンジョンにはそのダンジョンの象徴であるブックマスターつまりとりわけ特別なモンスターがいることがほとんど。この緑のブックはおそらく野良のダンジョンをクリアした証ですが、さっき言ったブックマスターを倒したときに手に入れたのでしょう」
「ほぉー、確かに搦手も存外チカラもあり他のモンスターより手強いきのこ星人だったな。中途半端な階層の道端で不意にイカした家から現れたものだ、まぁウチの生徒と用務員が倒してしまったがなー」
「そうですか…たいていは自ら階層を降り動いては来ません、そのようなブックマスターは珍しい方。しかし知性をもつほど厄介度は上がるのは常、次のダンジョンのこうようなブックを手に入れる際は気をつけるようにしなさい」
「ほぉー、珍しいきのこであったか確かに言い得てアレは厄介。(こちらも既にデバフ状態異常に対するなにかしらの気の利いた保険にすこし今までより重点を置き始めていたところだ。なにかしらの回復の異能を使えるのは今ここにいる水野サーガの薬草茶術のみだからな、といってもピネスくんとわたしには幸い耐性がある分最優先ではないがな?)だが────、次のダンジョン次のブックとはきかされてはいないぞ、わたしは。たのしいたのしそうな竹馬お祭りの次は読書をご所望とはな? ふふふ。すこしまたそちらの話をきかせてもらう方がお互いスムーズに運びそうだ。わたしはブク高のトップでありスペシャルな校長、なにからでもどこからでも教えたまえ」
次のダンジョンのブックマスターを倒しブックを手に入れる。
次のダンジョンという言い方に引っかかったふりをする不黒文はまた新たな情報を貪欲に…ブク高の校長らしいユーモアをまじえつつ女神相手に勝手に求めた。
「なにからでもどこからでもですか。…いいでしょう……では、それは簡単なことです」
またもそう言いあっさりと要望を了承。
女神はあっさり目の三杯目のお茶をお椀を傾けゆるり味わいながら、周りに流されない静かな貫禄と一息の間を入れて──
「ほぉ、ふっふっ多少難しくてもこのスペシャルなこうちょ」
「不黒文、────あなたには罪がある。あなた自身隠してしまうほどの、ぬぐいきれない罪が」
「ん? 罪? ……」
パンで掬い上げていた古き伝統菓子セムラの中のクリーム、その甘いクリームだけを舐めとっていたプラチナ髪の手と舌はとまった。
女神ガイアが真剣な面持ちで睨むのは藍色の眼帯の裏であり未だ生きている──表。
神の目には不穏な灰色は透けて視えている。
いくら隠していても灰色────妖しげな魔力を放ち、特別に何かを惹き寄せるその灰色。
いくら忘却してもいくら時を積み重ね染め上げても…その眼からは逃れられない。
茶はすすみ、菓子は甘い、侘びた空間の雲行きは茶を点てるように渋く濁りゆく。
果たして、女神の話す不黒文の犯した罪とは────────