異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記 作:山下敬雄
「その目。魔のものは魔を引き寄せる。隠しきれないその右目です」
不黒文は藍色の眼帯をかるくなぞる、女神がにらみ見透かしたその右目を。
「少し便利な程度の目に見えるが? ふふふ生徒たちもこのスペシャルな姿をイカしていると」
「不黒文、これはそういった話ではありません」
「ふっふ、分かっている。だがわたし自身はっきりと分からないことの方が多いとは──いえるな?」
もう長年付き合いつづけ己の一部でないとおかしいほどに染まっているこの目、この色を。
そして何が己の罪であるのかを。
不黒文は女神の言う罪が漠然と分かっているが分からない。知っているがあの日以来深くは知らない、いたずらに時を重ね生きていても核心になる部分は知りようがなくとても近くてとても遠いことだと自認し、ある種長らく区切りをししみじみとあきらめてきていたこと。
不黒文は手に取っていたパン菓子の蓋をそっと皿上の元のクリームの上へとかぶせ戻した。
「灰色の悪魔の目。その目はいわば悪魔の化石」
「悪魔の…化石? ふむ、ちゃんと見えてはいるが」
もはや眼帯には意味がない。
瞳の色を見透かしさらに先をゆく女神には隠す必要のないものであった。
不黒文は藍色のそれを外してみせ、解放された灰色が眺める世界に狂いはない、動かない硬い化石でもなく光はちゃんと宿っている。
「今はなき天魔戦乱の時代、イニシエに栄え暴の限りを尽くした強力な大悪魔族はその滅び干からびたカラダの一部でさえも、底知れない魔力を秘めているといわれています」
「そこまでの圧倒的なチカラは感じないがな。生徒たちと比べると多少魔力がオート回復しやすいらしいが、それにこの魔力量はわたしの実力も少なくとも半分はあることだろうふふ」
「はいそれは持つものの意志と体質ポテンシャルによって得られる魔力チカラの限りは違う代物です。同じく手にしたクリアクレアはあなたよりもその目を限りなく同化させ使いこなしています、そうでないと考えられない成り上がりの速さ。今は大悪魔と名乗り魔界のある一帯を支配しているという噂も遠い遠い私の耳にもはいるところです。大悪魔──クリアクレアは」
「そんな名前をしたヤツはまったく知らないが、どこか似たような語感のヤツならば卒業アルバムでもめくり探せば思いだすかもしれないな」
「悪魔に魅入られてしまったものはもはや別人です。いいように想像するような元のような清い人間ではありません、フツウのものではない──それにただのやさしい人間が大悪魔になるまで適し悪の芽が育つことはありえないのです」
「ありえない……そうだな、あの時のわたしはちょうどそんなことを思っていたな。だがそいつが何者になったとてやはり私にはあまり関係のないことだ。そんなヤツのことはとうに顔カタチ好きな曲や食べ物まで忘れてしまったことだからな、お偉い一国の校長先生ともなると年がら年中生徒たちからの新しい青春のおすそわけを味わいつづけていくことだからなー、青春の無限ループにおちいっているのかもしれないなははは」
「いいえ、あるのです。あなたが忘れようとしても拭いきれないあなたの罪として」
「結局このわたしに何が言いたい?」
「ええ、あなたという存在が現世に決していてはいけない明確な理由があります。その悪魔の右目はクリアクレアの左目といくら一方が忘れていようが妖しい繋がりをもっている。右目と左目、両目をひとりに使わずにわざわざ分けられ置き去りにしたそれがどういう意味をもつか分かりますか? 何を狙っているか、何を考えているのかが……そう、分かるはずがないのです悪魔の考えることなど」
「分かるはずがない…か……確かにわたしにヤツと共にするこの灰色の青春の繋がりと存在するだけの罪があるとして、あるとしてもだ。この今の青き尊きを謳歌する不黒の学校自体がこんな何色の赤にいきなり濁らされ巻き込まれてしまうのは、かなりいただけないぞ? 何らかのそれ以上尊い意思が介入していようともリアクションが大袈裟すぎるというものだ」
見上げる緑の葉は赤を隠しとおせない。ブク高の校舎は相変わらず赤く濁った妖しい色合いの空の下に存在している。もういくら待っても青に晴れることはないそんな隔離された昼も夜も曖昧な不条理なセカイである────
天を見上げた不黒文は両腕をひろげながら、首をかしげた。
誰の仕業であるのかをとなりの黒い女神に問いかけるように。
「それもあなたが集めてしまったことなのです。やはり魔は魔を惹き寄せる。あなたはしらずその目で多くの子たちの才能を見抜き、この場所に集めた」
問われた女神は毅然としている。やはりその目、発端は灰色のその目であるのだというスタンスを崩さない。そして不黒文がトップに居座る不黒高校そのもの自体も彼女と同じ属性であるとでも言うように。
「集めた…それがどうした。学校は生徒を集める場だ! わたしはわたしの人生を好きにやったことだあの日出会った悪魔に魅入られてなどはいない! すこし変わったかわいい生徒たちのことをこの灰色の目をもってして、逆に利用してやって、ちゃんと凝らし見ているだけだ! それをなんだっ慈悲深き神がまとめてくるめて一緒くたに厄介払いといいたいのか?」
急にトーンを変えたプラチナ髪校長のはなつすこし粗暴な言葉遣いも、聞き入れる黒髪の女神は動じない。
「ダンジョンのブックを集めることは唯一残された現世にとどまることの許されないあなたの使命です。だがあなただけでは頼りなく異能は特別なものであれど何もできない、だからこそ不黒文あなたに絶対の信頼をよせあなたをサポートするものたちが必要であると」
「ははは唯一がこれとは何を勝手なことを言っている、それに細川、中川、三河、副島っっわたしのかわいい男子生徒たち4人のことはどうなっている。これはモテヤバふぅーちゃん的確かな痛い経験則だが他者に勝手に押し付けるようなわからぬ使命ほど呪いじみたものはないといえるぞ!」
「……こちらで彼らのことは預かっています。思い出してくださいあなたがその異能と夢のはざまであった私の念体にさいしょに願ったように、彼らの魂はこちらで結んだ契約のもとに無事に保護されています。そちらにあるのは現身であり、魂が無事であればまた不黒文あなたの特別な異能でしっかりととどめた彼ら本来の現身へと…その異能が順調に成長しさえすれば戻すことができるでしょう。彼らの異能が一部使えるのは肉体と魂の繋がりが失われていないそういうことです」
「(契約だと……たしかに言われてみればそのような夢を今になって見てきた気もするなぁ…それにピネスくんが副島たちとタコイカでなかよく話したという内容にもそのようなことを言っていたな? つまりわたしは…わすれた夢の中でも生徒ファーストの完璧校長ブクロのふぅーちゃんだったか、──ぬかりなし!)ふっふわたしの異能ネクロマンシーがまだまだ彼らを生き返り呼び起こすには未熟と言いたいのだな。そして次に、この見知らぬ隔離された異境それにダンジョンと知らぬ存ぜぬ余裕をかましているそちら側、どちらにも我々ブク高一同は挟まれるように生きようが死のうがその魂を契約と名打ち囚われているということだな?」
「それは、──どう考えるかです」
「ふっ。なんだとぉ?? どう考えるかです…はーはー、やはり…どう考えてもォー。運悪く悪魔とダチになった校長、そしてその敬虔なるブク高の生徒たちにその薄いいかがわしいブックとやらをなんの趣味か集めさせるというのは人に大地に生命に信じるものに慈悲深き女神ガイア様のやることではないーーー!!! さらによく見ればいつも拝んでいる石像様と顔もヒップもおっとりさも全然ちがうなーー!!! あまりにも想像の斜め上を射られてびっくりしたぞ!!(出てきたのはクソパッツンのビジュアル系黒髪日本神話だぁーー) 一体何者だ! 古本屋ならたぁだではレアな古書は売らないぞ! 即興の使命や伊達や酔狂やアソビで世にもあぶないダンジョン探索ができるか!!! できるというのか!!!」
まるで機関銃。
勝手に一人で盛り上がりヒートアップしていった不黒文のおしゃべりな口は、もはやわけのわからないだがひどく失礼なことを怒涛のいきおいで放ちつづけた。
やっと鳴りやんだ女神へと向かった失礼な音の弾丸に────
「フッ。何者か……さきほどからひどく息巻き勘違いしているようですね」
「私は悪魔や天使神々、天界や魔界や現世、訳のわからない異境魔境のことなど──どうでもいい。各々常々……ただイチバン強きものが天に近づき勝ち進み天を戴き、弱きものは相応の可愛らしい振る舞いと熱のある声援を精一杯つづければいい。そうしていれば強きものが弱きをときに救い、そしてまた強きものがまたあらたな灯に期待を寄せあれこれと教え構じるのは当たり前のこと。不黒文──私が興味があるのはあなたののたまう思想や運の無い天界の定めた罪などではなく、あなたのその大悪魔の誘惑をも挫き、その灰色の瞳を己の一部にし取り込み活かしていくそのっ胆力です。そしてわたしは特別を自称するそんなあなたに相応しい別の生きる術と、あなたを慕う子たちをその異能の輝ける闘いのステージへと導いたまで……」
「使命などォ、黙ってその薄い嘴をひっこめて受け取っていなさいッッ!!!」
「我こそが
「私に矢をっ槍をっ嘴をっ他愛無い不平不満を雨霰のように突き刺し止められるものか!!! 止められるものがあるとするならばそれはさらなる強き炎、この身を焦がしひき裂くほどの異能魔力チカラのみ!!!」
美しき女神に機関銃などいらない……対抗してはげしく燃え盛る怒れるような炎の気に────
存外勇ましすぎる女神の語気にあてられてしまったスペシャルさんは笑っている、────笑うしかなかった。いきすぎたからかいが引き起こした予想以上の美しき熱気に。
「それが女神の本心とは、ふっふ、強火過ぎて明日に天地が焦げ付きでもしたらひっくりかえさない…とな」
「────本心? いいえちがいます不黒文。天を知り己を知り天になりやっと己になり見下ろす視野は果てなく広まれど振り下ろすこの拳は……なんとも狭いものです、それもまた真実。そしてまた今日、強きと闘い自由久々の汗を流しでもすればコインの表と裏は行ったり来たりひっくりかえりもするのです、今の私の見ているあなたには罪も使命もない。そしてこれは元はカムリ村の闘士、ヌイからの命令です──もっともっとこのふざけたダンジョンとやらにめげなく挑み果てなく強くなりなさいッッ才ある子たちをその優れた目で引き連れて!!!」
立ち上がり、燃えていく。
女神の叫びに、おきた茶室のコカトリスはグラウンドへと羽ばたいた。
手をつけるのも忘れられていたセムラの中のクリームはただならぬ熱気に溶けていく。
ブク高の校長不黒文とカムリ村の闘士ヌイ、悪魔も女神もそこにはない。
ただ強きものがおおきな声で命令をした、めげなくダンジョンに挑み果てなく強くなることを────────。