異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記 作:山下敬雄
隠された期待感、隠されたカメラは捉えている。
待ってはいない、アクマでオレンジが向こうからやってきた。
走りやってきたら、自分の濃いファンがダンジョンの途中でご丁寧にカメラを回し待ち受けていた。
奇しくも今同じ舞台でviewtuberは声を張り上げひとつのコンテンツを生み出すため──ぶつかり合う。
「あははは
「は? 身に覚えがありすぎてないんだけど! 収拾つけれるの、北風が?」
「ゴミの収拾はこうやってツけるのよッッ!!! 【ひとがはいる】!!! 【変換】【Enter】!!!」
腹の底から拡声器へ、拡声器から宙へ、文字として浮かび上がった【ひとがはいる】は、
魔力をさらに支払い変換して【人が入る】
役に立たない【が】と【る】は払い脚に蹴り飛ばされ、【人】【入】はひとりでに動き始めた。
サッカーボールのように飛んできた【が】と【る】を避けて、木浪は前を見据える。
整列されていたパイプ椅子を蹴散らしながら文字が走って来た。
これまで文字が飛んでくることはあっても意志をもったように走ってくることはなかった。
しかし動きがむっすーの異能冷蔵庫よりかたく甘い。木浪はパイプ椅子の海をかきわけ猪突猛進できた2文字を単純に避けた。
「【口を追え】【口っく追ん】!!!」
【人】【入】に突撃させ、GEMが拡声器から放つ飛び道具を交えた攻撃。
まるで即席パーティーのような動きで木浪にしかけたが、これも狙いが甘い。
魔力を消費することなく避けれるものは避ける選択をし、大味な連携攻撃を抜けた木浪はチャンスとばかりに前へと走り出した。
学校の体育館のようなステージ。
ひしゃげたパイプ椅子の地を駆け抜けて、再び舞台上に待つゴシック衣装の悪魔のもとへと──────
前へと向かっていた背尻を不意に蹴られる。吹き飛ばされた木浪は、ふたたび……。
スポットライトの照らす木目のステージに伏す。
「あーはっはっはーーーー。いい撮れ高だわーーー。これ傑作じゃん。────ネェ?」
客席から引きずりだし、今、同じ舞台。
されど対照的……その様を見下ろしニヤけるGEMに、頭を垂れるオレンジ髪がいる。
何が起こったのか。木浪はたしかに後ろから蹴られて、再びこの舞台にダメージを受けて戻っている。
蹴られたのはきっと────木浪は階段を上がり戻って来た【人】【入】とその後ろに控えて見下す黒い小悪魔を、垂れ下がる湿ったオレンジ暖簾の隙間から目に入れた。
「あははアンタ引き寄せることしかできないのねっっ逃げてばっかりなのにチグハグで皮肉ねぇ! 対してアタシはビュアーたちが望むコンテンツの発信者その差がここにも現れているのよはははははーー! 受け身よ受け身ー! そのくだらない壁もゼーンブ!!! ヤケになってちゃちな石ころ投げ入れても効くわけないじゃないこの復活したviewtuberHIGH小悪魔GEM様に!!! 地力と才能がちがうのよ」
「────そうね? だからアンタ、そのびゅーびゅー馬鹿にした口をひんまげてかるく許しをこいなさい。viewtuberごっこのヤツに最初から勝ち目なんてないのよハイナミTV、アタシのアシスタントで死ぬまでこきつかって許してあげる」
地に苦しく睨む相手をみて勝利を確信する。
HIGH小悪魔GEMは2人でつくりあげたコンテンツの終わりを、これ以上ない配信タイトル通りのとても気持ちいい結末でシメようと、地にみっともなく伏す人間に悪魔の契約をもちかけた。
今までの腐ったプライドを売り、あらたに才あるviewtuberのアシスタントをするだけで許す、この場で殺すよりもとてもやさしくリーズナブルな提案だ。
後ろで控えなおも隙をあたえない、そして聞こえてきた小悪魔の高笑いに────そっとオレンジはワラった。
「────……そんなつまんないことしない……」
「あははは──は?」
「はい本日の北風ちゃーん、ちょっとびゅーびゅー吹いただけじゃぁん? 大波小波ハイナミはここからでしょ! こんな風に──ねっ!!!」
よろよろと杖つく老人のように立ち上がり、勢いあるviewtuberのように無法に、
差し伸べられた悪魔の手に向けるのは、いただきもののレアな魔法の杖。
そして引き寄せいただくは、LIVE配信をその目にみて分析した相手の強みと弱点。
「しマっ……!???」
特殊な召喚魔法もどきを使い魔力のありかを分割したことで最大魔力の薄まっていた天使色の拡声器を、魔力最大異能最大のチカラを行使し奪取。
「そろそろ【入浴】のじかんでしょーーーーーーしょっ!!!」
木浪は手に入れた拡声器で、向かってきた【人】【入】の2文字に【入浴】の指示を出した。
走るのをやめ立ち止まった【人】はそういえば走り疲れた気がすると、顔を見合わせた【入】の文字へと目掛けて走っていった。
目の当たりにした変わったダイナミックな入浴の方法に、彼ら文字モンスターたちの本物の主人であるGEMは大声を張り上げ別の指示を出した。
「【入るなーーーーーー!!!】……コノッ【野人】!!!」
【人】は己が本来【野人】であると思い出した。しかし、汗臭いのは気にしないものの何故か今日はひさびさにさっぱり【入浴】もしたい気がする。
汗をわかし戸惑う【入】、かんがえる【人】つぎつぎと下されていく魔力のこもった熱い指示に、
「【入るナっつってんの!!!】」
「【入れっつってんの!!!】 ────入れや!!!」
最後は木浪の異能で強引に引き寄せられた【人】【入】は、がっちんこ────お互いに激しくぶつかり、ハジケながら入浴した。
しゃべりで勝り、チカラでねじ伏せる。
大勝利と代償の真っ赤な鼻血を垂らしながら、木浪はワラった。
「はぁはぁ……野人でも風呂は入るでしょ、ふっ」
「ハァハァ……こっ、このっ!!!? マダヨっ!!! マダここからよ! たかだか文字がにもじ砕けただけじゃない! もう一回吹き飛ばしてやる! マイクがなくたって、あんたももうボロボロで魔力がヤバイんでしょーー──へっ!??」
たとえ喉がぶっ壊れてもGEMは負けない負けられない……また魔力を振り絞り声にだす言葉のマジックをカタチづくろうとしたそのとき────白いマイクが小さな羽を広げ懐へと飛んできた。
飛んできた自分の大切なモノをしっかりとその両手にキャッチしたのはGEM、
そしてラッパ状に開いた白い大口から、悪意ある石ころは相手viewtuberの腹を目掛けて吐き出された。
「は──ふぐっっ!???」
「大波小波ハイナミTV! ガツってない北風はゼンブわたしのお金と餌ーーー!!!」
「マっ──マッ!???」
【古杖一閃】。
駆けるオレンジの大振りに弾き飛ばされた小悪魔は、後ろの石壁の硬いクッションにぶつかり、激しく地へと崩れていく。
決まった大ダメージのイチゲキに……石埃が舞う。
敗北が煙たくただよう埃の中に浮かぶシルエットが足音を立てて近づき、やがてオレンジに色づいていく。
振り上げ、振りかぶった古杖に、倒れたままGEMは目を瞑った。
「そういえばさっき思い出したんだけど? ────ずいぶん久しぶりじゃん。てんてんてんじぇるのメグちゃんねる。はぁ……その泣き芸。ふっ、────ヤバくない?」
見開いた真顔の小悪魔からやがてあふれて涙が流れたのは、きっとホコリが目に入ってイタイから。
スマホを向けながら微笑うオレンジの差し伸べる曲がった杖を、HIGH小悪魔GEMは知らずつかんでいた。
viewtuber VS viewtuber。
そんな無名のviewtuberの争いは人々が知らぬところでも。
遠く離れたモニターの上ではなく、彼女たちはまた奇妙な舞台の上で出会い、とても些細な因縁の決着を……全力と全力でつけたのであった。
「は? なに掴んでんの? これからまだシバくんだけど? ひゃっぱつ」
「ふぇ────!??」