固有能力は【洗脳】 ~エロ目的に使うしかねえ!~ 作:レイジー
ギルド・訓練所。
「ふぅぅぅぅ――はあぁッ!!」
徒手。
つまりは武器を持たない生身で俺は標的を殴る。
ルートヴィヒで一緒に訓練をしたり遠目に見た。
ここに来るまでの道中で見た。
ここで訓練するのを見た。
知り得る全ての徒手による動きを模倣する。
身体強化をした状態で完全再現をし、【洗脳】でひたすらに動き。
そして次第にそれらを抑えて。
素の身体能力での再現に近づけ、自由意思による再現に近づける。
「っぁ――はぁッ!」
やってわかったッ!
思った以上にやることが多いッ。
細かな力みによる姿勢制御。
脱力していてもその場その場の動きを真似することだけはできる。
けれど動きを繋げようとすれば体勢に応じた各所での力みが必要だった。
雑な力みで動けば繋げられる選択肢が減る。
正しい動きはそれだけ可能性を広げる。
ついでに……魔力消耗キッツい……。
現状の【洗脳】練度では動作の模倣と、魔力制御の両立ができない。
能力自体の可能性はあるのだが、それをするための【洗脳】の許容値――並列処理能力が及ばない。
だから【洗脳】には動作の模倣だけを任せる。
そして俺自身で魔力を制御して身体能力を引き上げるのだが、そこに問題があった。
「ぅ……ぐッ……」
まだムリかよッ!
どれだけ強化しようとも、それ以上の動きをする人間の模倣は不可能だ。
10メートル跳ぶことができるとして、11メートル跳ぶのを前提とした動きは真似できない。
ムリに真似をすれば空中での動作10工程あるとしてその7、8工程までしか真似できないうえに、着地を失敗して怪我をする。
それと同じで関節の可動域、純粋な身体能力。そういった及ばない部分を無自覚に真似すれば肉体が激しく損傷をする。
――そろそろ魔力も限界だな。
これで筋肉切れたの……35回目か?
筋断裂――いわゆる肉離れ。
他にもアキレス腱などの腱断裂も2度。
その度に治し、魔力はもう底をつこうとしていた。
一通りの動作の模倣をするだけで、たった2時間弱での出来事だ。
「にしても……昨日ヴィータと休む云々話したのに、こんなことなっちゃって、まぁ……」
ハハ、と乾いた笑いが漏れた。
実に情けない話である。
寝ても覚めても変わらぬ悪夢のような現実から、寝ても覚めても変わらぬ自由な世界に。
ずっと興奮している子どもなのだ。
自制心のないまま寝落ちするまで遊び続ける子どものように。
でも、一度始めたモンを途中で止めんのは気持ち悪いんだよなぁ。
「……ま、とりあえず訓練終わりっ、今日はヴィータの言いつけ通り休みまっしょい」
色々改善点はあったなぁ。
単純にバフをかけるための
それに断裂を治すだけの、体力回復なしの治癒魔術が40回すらもたない魔力量。【洗脳】やら身体強化込みとはいえ魔力の持久力が足りなさすぎる。
出力、練度、効率、貯蔵量、回復量。色々訓練しねぇと早死にするなぁ……。
「日常生活で魔力纏って制御するだけじゃ足りないのか。どうすっか?」
朝食は食べたものの運動をしたことから空腹を感じ、シャリーをはじめとして複数の人間に細いと言われていることを気にして少し太ろうと思っている俺は屋台飯を大量に買い込んで食べ歩く。
ちなみに、そこで出たゴミは買った場所以外の屋台でも回収してもらえる。
捨てるために寄った店でも買ってもらえる可能性があるから、だそうだ。
「……休みって何すれば良いんだ?」
正直いって、俺は楽しいという感覚が人より乏しい。
当然といえば当然だ。
ずっと親に娯楽を制限されていたのだから。
他者を真似して読書をし、それを『楽しい』と思い込むことで疑似的な快楽は得ていたが、やはりと言うべきかそれから離れても特に支障はない。
完結を見届けられなかった作品はあったが、その続きに対する熱意というモノが欠如している。
後ろ髪を引かれない。
見つけた娯楽はすぐに取り上げられるからだろうか。
捨てることにあまり躊躇がない。
「……ヒマだぁ」
脳も休ませろと言われているから勉強もあまりできない。
できるとしたら街を歩いて文字と口語のインプットを増やして言語取得をするくらいだろうか。
……そうだ!
なんか適当な女でも見つけてヤっちまうか。
でも能力の制約上直接的にはできない……普通にナンパしつつ要所で使うって決めたんだっけ。
「適当な酒場にでも行くか」
うん、それが良いな。
この辺歩いてる人間にいきなりってのも脈絡ねーし。
何かしら自然な流れを作った方が警戒も少なくて済むっしょ。
――――――――――
「ようヒイラギ! お前もこういうところ来るんだな!」
「アーノルド? まさか知り合いに会うとはな。俺は気まぐれに来たんだが、よく来るのか?」
「まあ、転々とだな。ここは結構いい店だからそれなりに来るけどよ!」
酒場『砂雲亭』。
歩いていてふと目に留まったから入っただけだったのだが、そこには知人開拓兵のアーノルドがいた。
あいも変わらず筋骨隆々だ。
「賑わってんな~」
「お前も一緒に飲もうぜ!」
「おう」
誘われてアーノルドの近くに歩み寄り、近くの人間たちに目を向ける。
男女様々で、恐らくは職業も様々。
いかにもな開拓兵から、一般職に就いているであろう者。
「引退した元仲間?」
「違う違う。偶然知り合っただけ」
適当な酒を頼みながらその中にいた一人の女性に声をかけた。
すると返ってきたのは否定の回答。
追求すれば、本当にただの偶然であり、今日が初めてだという。
「キミは……ヒイラギっていうんだね?」
「そう、アーノルドと同じで開拓兵。お姉さんは?」
「私? 私はエマ。
「へぇ、湯女なんだ」
利用したことはないが見たことはあった。
公衆浴場でチラホラと見かけた利用者以外の者――従業員。
垢すりやマッサージ、洗髪、散髪。
そういったことを仕事にしている。
ちなみに、男もいてそちらは三助だ。付け加えるならこちらの言語では同じ単語だが、翻訳の都合で脳内での理解が違っている。
「ヒイラギは誰かと待ち合わせしてんのか?」
「うんにゃ。今日は休日ってことで酒飲みに来ただけよ。そっちも同じようなモンだろ?」
「まあな」
なんとなく『場』がわかった。
ノリとは少しニュアンスが違う気がするが、それに近しいモノを理解した俺は頼んでいた酒を一気に呷る。
「よっしゃ! 飲み比べんぞ!」
「ぶえッ?!」
そんな俺に気を良くしたのか、それとも単純に酒が入っていてテンションが上がりやすい状態なのか。
飲み比べを提案してきたアーノルドに背中を強く叩かれ、飲んでいた2杯目が口から吹き出る。
「おい! アンタらもどうだ!?」
「飲み比べか。……勝ったらどうすんだ?」
「そうだな……負けた他の奴らから銀貨1枚をそれぞれ貰うってことでどうだ? 酒代は負けた奴らで割り勘だ!」
「へぇ、いいよ。乗った」
近場にいつつも輪には含まれていなかった男に声をかけるアーノルド。
正直それぞれで飲んでいる酒の量が違うから前提が違うが、そのあたりは気にしないのが基本らしい。
ふ~ん、そういう感じね。
適当に誘っても良い、と。
「ねえ、お姉さんも飲み比べ参加しない?」
「……いいよ、今だからね」
なら俺も声をかけようと、そうしたのは隅の方で1人で酒を飲んでいた赤髪の女性。
普人種とは異なり、
背は俺よりも30以上高く2メートルを超え、容姿はハッキリいって地味。
ありがちな目にありがちな鼻にありがちな口。
顔についていえることがあるとすれば、少し人より長い下まつげと左眼の泣きぼくろだろうか。
とはいえ極端でなければ基本気にしない俺にとってさほど変わらない。
身長差が多少面倒と思う程度だろう。
「俺、ヒイラギ。そっちは?」
「クラウディア。負けないよ」
「もちろん。けどこっちも負けないよ」
その後も酒場の全員に声を掛け、集った参加者は計8名。
「っしゃァッ! マスター! 一番度数キツいロカリー蒸留酒とショットグラス用意してくれ!!」
ロカリー酒。
それはロカリーという果実を使用したモノで、ロカリーは端的にいえばゲロ甘い。
つまり糖度が恐ろしく高く、限界まで発酵しても余裕で糖分が残る。
甘いため割るのが基本だが、蒸留でアルコール度数を高めることで逆に糖度を下げるという方向もある。
いわゆるブランデーだ。
「うぉっ、酒の匂いキッツ!?」
軽く匂いを嗅ぐ。
すると意識が飛びそうなほど濃密な酒精が浴びせられ、同時に嗅ぎ慣れたロカリーの匂いもするものだから馴染み深さと馴染みの浅さの両立で脳が混乱した。
「不参加組は次の用意頼む。……さ、全員グラスは持ったな?」
「おう」
「もちろん」
「大丈夫」
「イケるぜ!」
あ~、ヤベェ、匂いだけで逃げたくなってきた。
……覚悟決めろぉッ!!
「俺たちゃ皆で酒を飲む! 躊躇う奴など居やしねえ! さあさ皆さんご一緒に! 盃傾け飲み下せ!!」
アーノルドによるコール。
それに合わせて場の全員がコールを重ね、酔いに合わせて俺も数瞬のズレとともにコールを重ねた。
そして言い終わると同時に参加者全員がショットグラスを一気に傾け、一瞬で空に。
「――っぁ~! キッツぃ、けど意外と悪かねぇ」
俺はどちらかといえば酒が苦手だ。
口の中に残る独特の酒の余韻が基本的にダメで、付き合いで意識を誤魔化しつつ飲む程度。
けれどこの酒はそれがなかった。
正確には少しあるのだが、意識を酒に集中させなければ気づかない。
これまでに飲んだ酒の中でトップクラスに嫌いじゃない酒だった。
「反応からしてヒイラギは初めてだろ? 案外イケんじゃん」
「へ~!? 初めてなのか! 良いねぇ、元気で俺ぁそういうの好きだぜ!」
「飲みなれてないのにロカリー蒸留一気ってスゴ……」
「随分と、まあ……」
「何事も挑戦、ってな!」
「はははッ、威勢がいいな! 気に入ったッ、お前が負けてもお前の分半分は払ってやる!」
「へっ、抜かせ。むしろ金搾り取ってやる」
「くはははッ!!」
飲み終えたショットグラスが不参加組によって回収され。
そしてそれぞれの下へ新たなグラスが用意される。
「まだまだイケるぜ俺たちは! 時の流れを忘れ去り! 龍の火酒をかっくらえ! 盃傾け飲み下せ!!」
再び一気に空にする。
灼けるような酒の感触。
熱を帯びる身体と頭。
テンションが上がるのが自覚できる。
「良いねぇ!」
「何杯目で脱落者が出るかな!」
「ヒイラギぃ、お前じゃねえのかぁ?」
「アホ抜かせ。俺は勝つぜ」
その他、参加者同士で挑発し合い、不参加者たちは次の用意をしつつそれを煽る。
「次ぃッ!」
2回目からはコールが同じらしく、そこからは俺もコールにちゃんと参加することができた。
「次ッ!」
このあたりから参加者の一部の飲む速度が落ちる。
少ない量ながら、2度の喉の動きを要するようになった。
「次ぃぃッ!」
参加者の1人が吐き、脱落。
「次ぃぃッ!!」
1人が自主的にリタイアし、俺はふらつき立っていられなくなったことでリタイア。
「あ゙ぁ……思ったより酔うな、これ……」
「あはは、そりゃあ普通はこんなペースじゃ飲まないし。はい、ご飯とお水」
「ありがとうございます……うめぇ……」
リタイアし、残っているメンバーから離れた位置で休み、思わず漏らした言葉に料理を作ったのであろう店主が反応して笑顔を向けてくれた。
「へへっ」
思わず笑い返すと店主が俺を手招きする。
ふらふらと揺れながら歩き、そのもとへと向かう。
「どったの?」
「酔って味なんてほとんどわかんねーだろうに美味いって言ってくれたからな、安酒で悪いが貰ってくれ」
「……良いの?」
「ああ、サービスだ。ただし今は飲むなよ? ちゃんと休んでからだ」
「おう、ありがとな」
酒を受け取り。
そして俺たちは揃って笑った。
――――――――――
「お~い、大丈夫か~?」
「う~ん……」
結局優勝はアーノルドが最初に誘った白髪の男――フィンが持っていった。
そして酔いが回った参加者は多くが動けない状態に。
「死にはしねーだろうけど、このままじゃ帰れねぇだろうし……」
メンバーのほとんどが友人知人と一緒に来ていたから特に問題はなかったが。
俺が誘った長身女性は別。
この場に知り合いがおらず、誘った責任ということで俺が介抱をすることに。
「お~い、もう夜になるぞ~。帰るぞ~。おしまいで~すよ~!」
「うぅん――わぁってますぅ!!」
「ダメだこりゃ……」
勢いよく身体を起こしたかと思えば俺に抱き着いて来るクラウディア。
少し距離があったが身長差のせいでちょうど頭の位置が同じになる。
そして酔うと甘え癖があるのか、それともスキンシップが増えるのか、やたらを頬を擦りつけてきた。
はぁ……魔術使えっかな?
単純に魔力が残り少なかったり、酔っていて魔術回路が少し麻痺していたりと色々不調。
そんな状態で治癒魔術が使えるのかと少し不安になりつつも仕方なくクラウディアに魔術をかける。
「――ゥゥォロロッ!!」
「ぎゃんッ!? ゲロったァッ!?」
俺のミスか。はたまた急激な体調変化か。
クラウディアが口から僅かに漏らす。
そのタイミングで口が首筋にあったものだからゲロは俺を伝って服の中へと潜ってきた。
「おっ、オマエッ!?」
投げたくなったし、殴りたくなったが、俺の影響である可能性が高いからそうもできず、かと言って拒絶で付き飛ばせば惨劇が広がるだけ。
不快感を必死に抑え、俺はクラウディアを背負って少し金は掛かるが近場の宿へ入った。
「クソがァッ……服もパンツも身体もゲロ掛かってんじゃねえかッ」
オフの日だから荷物は持っていない。
宿も近場の関係ない場所だから荷物があるワケもない。
だから
とりあえず俺はクラウディアをベッドに寝かせ、部屋に置かれた桶に備え付けの魔道具からお湯を出してそこで服と身体を洗った。
「あれぇ? なんで裸でいるのぉ?」
ある程度意識が回復したのだろう、クラウディアが起き上がり来ていた服全てに被害を被った結果全裸になっている俺を見てそう呟いた。
お前のせいだ、お前の。
「へへ~、しゃがんでると余計ちっちゃく見えるね――ゥッ……」
は――ッ!?
近づき、俺の頭を撫でようと手を伸ばしたクラウディアが息を詰まらせ。
何が起こるのかを察した俺は桶の中から衣類全てを取り出し、机に向かって投げた。
起こる水しぶきと、ゲロしぶき。
俺は頭にゲロを浴びた。
「……おい」
「あっはァッ! ごめん……」
酒臭いゲロを浴び。
俺の怒りが限界に近かった。
そしてクラウディアは流石に申し訳なさそうにしながら伸ばしていた手を引っ込め、数歩下がろうとして、その半ばで再び嘔吐した。
浴びないまでも飛び散り、脚にゲロがかかる。
「あ、服が……んしょっ」
クラウディア自身、今のゲロが服にかかったらしく、そしてなんの躊躇もなく脱いだ。
「あは~! 裸になっちゃった!!」
一糸まとわぬ姿。
肉体は実に女性的。
普段見慣れた開拓兵のモノと比べると多少肉付きが良く見えるが、整ったプロポーション。
……にもかかわらず欲情できねぇ。
部屋で裸の男女が2人きり。
……おっかしいなぁッ!? ムラムラしねえなぁッ!?
「私も身体洗う~!」
クラウディアが巨体だったこともあって案内された部屋にはそれ相応の大きな桶もあり。
彼女はその大きな桶にお湯を張って。
そしてなぜか俺を抱えてそこに浸かった。
…………ん?
「なじぇッ!?」
「ちっちゃくて……カワイイなぁ……すぅ~、はぁ~……。なんか酸っぱい?」
「誰のせいだ、誰の?!」
占領するようにお湯を浴び、頭のゲロを流す。
汚れたお湯はその都度捨て、全身を綺麗にする。
「あ~、ダメだなぁ。……襲うね!!」
「ん? ……はい?」
ちょうと全身がキレイになったころ。
クラウディアによって抱き抱えられた俺は、身体を拭けぬままベッドに連れ込まれた。
「待て待て待てぇッ!? 待ってッ! お願いッ! 俺そっちじゃないから!? どっちかっていうと攻める――」
「大丈夫、だいじょーぶ! ヒイラギは両方イケる人だから、私の目に間違いはないから!」
にっ、逃げッ――力強ッ!? なんでぇッ?!
拘束を振りほどこうと、かなり強めに力を加えた。
けれど敵わないと、そう直感できるほどクラウディアの拘束は強い。
「じゃ、いただきま~す」
酔いのせいか、魔力切れか。両方か。
どうにか使おうとした【洗脳】も使えず。
力でも負け。
俺はクラウディアによっていただかれてしまった。