固有能力は【洗脳】 ~エロ目的に使うしかねえ!~ 作:レイジー
「ここが東の果て。旧防衛都市『モンドドラゴン』か……」
グラーベンシュタットのモノよりも小さな昇降機を使って地上へと上がる。
規模はやはりグラーベンシュタットに劣るが、それでもれっきとした小都市。
賑わいは見えた。
「……蒸し暑いな」
雰囲気は梅雨ごろ、雨が降った翌日の快晴。
陽が照っていてなお、まとわりつく湿気が鬱陶しい。
「これなら中は半袖にすりゃよかったな……」
マントを外しつつ街を見歩く。
住居など、固定された建物はレンガや石材などの頑丈な建材を使う一方、屋台などは最低限の木の棒などと布の組み合わせ。
そして少し特徴として感じたのは、建物が着色されていること。
青や緑、赤などの塗料が厚く塗られていた。
そういう装飾なのか、それとも保護剤か。
ま、どっちもってことにしとくか。
「よっす、活動登録よろしく」
「かしこまりました」
開拓兵は指名依頼というモノもあり。
その街にいない状態でその依頼が入らないように、あるいは依頼が入った際に通達できるように活動地点をギルドで登録する。
グラーベンシュタットを出る際に一度転出届を出し、今度はモンドドラゴンで転入届を出す。
簡単に言えば住民票のようなモノだ。
といっても俺は直接税を納めていないから国民扱いじゃなく、だから戸籍も持ってない。
物品税なんかは間接税として納めているが。
「この辺ってさ、どこ行けばモンスターと戦える?」
「どこでも戦えますが……基本は地下か山ですね。平地のモンスターは衛兵が対処しますので」
「ほ~ん。……じゃ、今日は山行くか」
場所が違うから地下でも良かったが、山の方が興味があった。
う~ん……目ぼしい依頼もナシ。
受けれるっちゃ受けれるけど実際に倒せるか、倒せたとしてどれくらいの効率かってのがわからないからやめておこう。
今日は普通に実力把握。
――――――――――
「メェー! ……アレ? それは羊だっけ? ヤギもメーか? ……鳴けオラッ!」
『ヴェエエエエエエッ!!』
「うおっっ、汚い声!」
体高180センチほどのヤギ型モンスター。
黒く、大きな角が特徴だ。
う~ん。動きはそこまでか?
ただ足場がちょっとやり辛いな。
地衣類ばかりで多少の草花がある朽ちた山。
淀んだ地下とは異なり、生きた魔が広がっているが吐き気を感じるほどに濃い。
淀んだ魔と生きた魔。その違いは例えるなら水風呂だろうか。
水が冷たく、体が冷える。
浸かり続けた時、水が動かなければ体温を吸収した水が身体の周囲に留まって保護膜のようになる。
けれど水が動き続けていれば保護膜は形成されず、常に体温が奪われ続ける。
それと同様に、生きた濃密な魔というのは慣れにくいのだ。
強い負荷が、多様な種類で襲ってくる。
「ぃよぉッ! とぉ」
『マ゙ッ!?』
いくらでも転がっている石。
掴んで投げ、ヤギモンスターの足場へ投げて崩す。
そのまま立ち上がる前にナイフを投げ、命を絶った。
「地下とはまた違った動きづらさで面倒……でも遠征行くならこれくらいは慣れておかないと、かぁ……」
逃げることはできない。
逃げれるとしたらそれは諦めた時。
高みを目指すことをやめ、停滞を選んだ時だ。
さて、危険があるとして、その対処は2つかな?
危険を減らして、最終的には危険をなくすってのと。
アクシデントが起きた時に即座に対応するっての。
あ、あと脳筋戦法で何があってもダメージないように鍛えるってのもあるな。
でも山だと転落の怪我はノーダメでも転落して距離が離れたり隙を見せたりってのが起きちゃうから対処としてはあまりよくないか。
「おっ、ドロップしてんじゃん。これは心臓か? これが特殊個体とかじゃなきゃあれだな、素の心肺機能が弱そうだな。……売れんのか? これ」
これまで大量のモンスターを殺してきたが、内臓を残したというのはほとんどない。
既に数千の殺しをしてなお、コレを除けば2度。
とはいえ、希少イコール高価とはならない。
少なくとも現状では内臓系を用いた製薬・錬金などは聞かないからだ。
「ま、一応持ち帰るか。売れなきゃ食えばいいし」
肉系統なら最悪は食べることができる。
貸し厨房を使えば料理も可能。
……久々に凝った飯食いてぇなぁ。てか作りてぇなぁ。
前の世界だと調理機器ほとんどなかったからあまり凝れなかったんだよな……。
適当に魔道具職人に依頼すればフードプロセッサーとか圧力鍋とか造れるかな?
調べて聞いてみよ~。
でも今日はとりあえず簡単な飯でいいや。
――――――――――
「お、結構キレイな厨房。包丁は――種類は少ないけど手入れは済んでる。砥石の匂いは……残ってないな。薪のかまどと加熱用魔道具の両方。……何ここの管理人、ガチの場所作ってる途中か何か?」
流石に望むモノ全てというワケではないが、かなり整った厨房がそこにはあった。
部屋の壁面にはオーブンがあり、一気に焼くこともできる。
ただ、調理する人間が少ないのか利用客は数人。
もしくはこのレベルの厨房がこの街の一般水準なのかもしれない。
「おやおや、エライ楽しそうやねぇ」
「む? 京?」
正確には違う。
翻訳された結果の口調であり、脳が翻訳する前の言葉はあくまでも方言やイントネーションが少し標準とは違うというだけ。
ただ、思わずそう反応してしまっただけである。
「イヤやわぁ、王都なんて行ったことあらへんよ?」
「あ~、ごめんごめん。顔つきとかからわかるかもだけど異世界人でね、翻訳の都合か前の世界の京都っていう場所で使われる口調に聞こえたからさ。あまり気にしないで」
振り返るとそこにいたのはスラリとした細身の女。
黒髪に緑を交えた長髪。
眩しいほど白い肌の中に青の線。
顔にはないかと思いきや、こめかみから耳にかけて細い線がそれぞれ1本。
そして彼女は右眼だけは普通に開き、左眼は奥が見えないほど細目。
もはや開けているのかいないのかわからないほど。
「なるほど、そういうこと。でも意外とあってるかもしれへんよぉ? ウチ、育った街は西側なんやけど。そこに昔流れ着いた人間ってある国の首都出身が多かったって話さかい」
「そうなんだ。というかよく知ってるね」
「大したことあらへんよ~。ウチかて母に聞いただけやさかい」
クスクスと小さく笑いながら柔和な笑みで否定する。
「ところでどうかしたの? もしかしてここ使おうとしてた?」
「ちゃうちゃう、面白そうやさかい声をかけただけよ。迷惑やった?」
「そんなことないよ。少し驚いただけ。せっかくだし一緒に料理でもどう? 今日エアレーってモンスターの心臓を手に入れたんだけど買取価値なかったらしくてさ、それを使って煮つけ料理でもしようと思ってたんだよね」
「ちゅうことはアンタもウチと同じ開拓兵っちゅうことなんやな。奇遇やね。ええで、これも縁ちゅうことで。ウチはオタギ、アンタは?」
「俺はヒイラギ。よろしくね」
ま、ギルドで薦められた宿の近くにある厨房だし出会う確率は高いか。
「ふふっ、変に気ぃ使わんでええわぁ」
「――んじゃ、改めてよろしくな」
「こちらこそ」
すぐ見抜かれたのは驚いたが、気を使わなくてもいいというのならそうするまで。
バレているうえで続けるのは逆に嫌われるだけだろうから。
「ところで1つだけやと足らへん思うけど、どないすんの?」
「ふっふっふ。抜かりはないさ、ちゃんと追加のココロやら野菜をいっぱい買ってきてある」
「用意がええなぁ」
調味料は厨房に備え付けられていて、使用料に含まれている。
だから必要なモノは恐らくすべて揃っている。
「よし、始めるか」
「レシピわからへんさかい指示しとぉくれやす」
「あいよ~。じゃ、煮つけに合う感じの野菜料理頼むわ」
「曖昧やなぁ。ま、いいやろ」
正直オタギの料理の腕前知らないからなぁ。
メイン任せるのはちょっと怖い。
あと単純に俺の作りたい料理だし。
「ところでヒイラギは普段料理しはるん?」
「あ~、開拓兵になってからは買い食いとかになったな。けど今でもするときはするな。……直近のは料理なんて言えねえけど」
「……前は何してはったん?」
「前ってーと前の世界ってことか? だったら学生だな。こっちの国と比べたらかなり平和ボケした国だったよ。実際俺もロクなことはしてなかったし」
「自虐はあかんえ? 自分のこと認めへんとしんどいだけなんやさかい」
「……ありがと」
「ええよええよ。アンタおもろいさかいな」
面白い、かねぇ?
まあ、珍妙ってことか。
知らない文化で育った特殊人だし。
「あ、ちなみに苦手なモノってある? 食べられないやつ」
「ん~、そやねぇ。脂っこいのんが苦手やねぇ」
「あらま。じゃ、ちと控えめにすっか。ちょうど最近不摂生だったし」
「ふふっ。健康には気ぃつけなウチも悲しなるさかい」
「ハハッ。そうはいっても地下に長く潜ってるとどうにもねぇ」
「保存食使うたらええのに」
「いやぁ、入手した素材全部持って帰るために飯はひたすら狩ったモンスター食うって生活だったから」
「おや、まぁ……」
うん、流石に非常識っスね!
逞しいこの世界の住人といえど、度を越していたらしく帰ってくるのは絶句。
なんとなく話題も切り出せなくなり、淡々と作業だけが進み。
そして会話のないまま完成する。
完成したのはハツの煮つけとロールキャベツ的な葉野菜巻きと1合強の白米。と、暇つぶしに自分用に作ったハツのアヒージョだ。
オリーブオイルに似た油を見つけたため思わず購入し、少し小ぶりだがニンニクに似た匂いのモノなども色々見つけ、それを用いて作った。ついでにフランスパン的なロングパンも厨房入り口で売っていたから買ってカリカリに焼いた。
「そら一体なに?」
「元いた世界の他の国発祥、アヒージョって料理。実際作るのは初めて! ま、油ッ濃いのは苦手って話だし俺用だね」
「ふ~ん」
流石に油まみれの料理には興味がないらしく、反応も素っ気ない。
「いただきます!」
まずはメインのハツ煮つけ。
煮つけを作るのは久々ということもあってか少し分量を間違えてしまい、しょうゆ的調味料の主張が心なしか強い。もしかしたら単純に調味料のクセかもしれないが。
とはいえ、米によく合う。
「んは~、これこれぇ。故郷の味って感じがするっ。この国の飯も悪くはないけど俺としてはやっぱ慣れ親しんだこの味よぉ~」
品種改良された米とは違うが、それでも米は米だ。
やはり日本人は米だ。
……てかアレだな、ハツの煮つけがちょっと違うと思ったけどそもそも向こうじゃ使えなかったモン使ってるんだからそりゃそうだ。
調理に使う酒やみりん。
つまりアルコールの含まれたモノ。
半ば育児放棄の人間が食材を用意することはなく。
やるのは俺。
未成年の俺がそれらを買えるワケもなく。
煮つけは初めの頃に何度か、それらナシで作れないかと試行錯誤したとき以来作っていなかった。
「幸せそうに食べはるなぁ」
「おう。この野菜巻きもウメーしな。適度に歯ごたえを残しつつ食べやすい大きさで切り揃えられた野菜に、適度な味付けで単品として完成したこの野菜巻きスープ。欲を言えばオタギの料理もっと食いてえなぁ」
オタギの味付けはなんというか、すごく落ち着く味だ。
実際に食べたことはないし、あったとしてもその記憶はとうの昔に消えているのだが。それでもこれがおふくろの味というのだろうと思うくらいにはすごく美味しかった。
飾らない味。
けれど食べる人間のことを考えた飽きの来ない味。
一言で表せば、丁寧だ。
「ん? どったの? もしかして食欲ない? あ~、じゃあ料理に誘っちゃってごめん」
「あ~……ちゃうちゃう。前、こないして食べてもろうたことあったんやけどその時はなんも言われへんかったさかい」
「そうか。じゃあそいつの分含めて俺が言おうかな。美味しいよ、オタギの料理は。食べてて落ち着く良い味だ」
「少し照れてまうなぁ」
「え~? 褒め殺しにしちゃおうかな? かな?」
「も~」
そんななんてことないやりとりをし、料理中とは違って会話が弾み、オタギは完食し。
俺は残ったアヒージョとパンを食す。
「ちょいもろうてもええ?」
「ドーゾドーゾ。味は保証せんがな」
「――美味しい」
「そりゃよかった」
やはり、油っこいのは苦手でおかわりはしなかったが。
それでも手をつけたパン一切れ分は喜んで食べてくれた。
「ふぅ~。食べた~」
「ヒイラギはこれから寝はるん?」
「あ~、そうだな。部屋戻って準備して寝るかな。なんで? もしかしてなんか美味しいデザートのお誘いですかな?」
「期待に沿えのうてすまんなぁ。そやなくて蒸し風呂でもどうかって思てなぁ」
「サ――蒸し風呂か。いいねぇ」
「ここ、パン屋やさかい、蒸し風呂もやっとるんよぉ」
「なるほど。オーブンの熱の利用か。俺も蒸し風呂はこっち来てから入るようになったけど好き~、出たあと冷えた水で身体冷やしてまた蒸し風呂入るってのが好き~」
良いよね~、サウナと水風呂。
とても楽しい。
そうして俺たちは調理による諸々を片付けた後、サウナに入ることになった。
「ヒイラギは前は学生って言うとったけどほんまなん? こんな傷だらけで……」
「ホントホント。この傷は……まあ恥ずかしい話が数日前のがほとんどだな。地下潜って、傷に気がつかないで放置しちゃってたり。あとは死なない程度に毒くらって痕が残ったり」
「……そやけど、逞しおしてええ思うよ」
「そっか。でもオタギみたいな傷一つない綺麗な身体ってのは良い開拓兵の証だよな~。俺みたいなヘマはしてないってことだし」
玉の肌。
白く、美しく。
熱で赤らみ、汗ばみ、艶めかしい。
「いややわぁ。そないなやらしい目で見んといてぇな」
「ぐへへへへ~、舐めまわしてやりたいくらいだぜ~、ぐへへ~」
「ほんま、おもろいなぁ。ウチの見た目って普通は避けるのになぁ」
「?」
「種族柄、やねぇ。流石に看破みたいな固有能力ほどやないけど感情変化に敏感やさかい、ヨソの方には避けられとったんよ」
「今はまだマシだけど根強いってか」
「そやなぁ……」
「そのへんは時間が解決することだからあまりどうともできないだろうなぁ。英雄みたく活躍しても見られるのは多分個人としてだろうし」
「そやなぁ……」
それがこの国の難儀なところだ。
個人で判断するのは良いことだろう。
けれど、こうして差別的な部分に干渉するとなると。
特に善行で何かを成すとすると介入はし辛い。
悪行は種族、善行は個人。
何事も上手くいかないモノだ。
「だからって諦めはしないんだろ?」
「そらそうよ~」
「じゃ、何か手伝えるなら、その時俺に頼ってくれよ。飯一食でいいぜ?」
「――そら、頼もしいなぁ」