固有能力は【洗脳】 ~エロ目的に使うしかねえ!~ 作:レイジー
一年と約三か月ぶりの帰還。おまどうまって感じ
お陰でちょっとモチベーションが上がった気がする
「うぁ……変なとこが筋肉痛だ……」
目覚めて少し身じろぎをしたら脚や脇腹に奔った痛みで意識が完全覚醒を果たした。
慣れない脚の使い方。姿勢。
そういう理由で筋肉が痛んだのだろう。
「今日は休みだな」
到着の翌日という理由もある。
休むのもいいだろう。
「……もう。三週間以上か」
気づけば今日で23日目。
時間が経つのは意外と早いものだ。
「腹減ったな……」
空腹に身体を操られるまま食堂へと向かうとそこにはオタギの姿が。
「おはよう」
「おはようさん。寝癖ついてんで」
「どこだ~? ……ここか? ん~、見事にハネてらぁ」
言われるまま頭に手を伸ばし、食事が出るまでの間苦戦するがついに決着がつかず、放置を決定する。
「えらい調子悪そうやけど、大丈夫?」
「ただの筋肉痛っすわぁ。流石に今日は休む。適当に街観たり、勉強して、寝るかな。そだ、この街のおススメ観光名所的なのとか、あとは開拓兵としておススメの店とかある?」
「そやなぁ。お昼からでええなら案内しよか?」
「お、いいのか? じゃあおねがーい」
「ええよええよ。ウチ、あまり働かへんさかい」
気になって話を聞いたところ。
どうやらオタギは適当に稼いで適当に遊ぶという生活をしているらしい。
特別、金に興味はなく、物欲はないわけではないが強くもなく、適当に生きていれば自分のしたいことも見つかるだろうと生きてきて。
気づけば35になるのだとか。
ハッキリいって見た目からは想像もつかない。
肌など単純な見た目なら10代後半、雰囲気を加味しても20代前半。
種族的に老化が遅いのだとか。
ちなみに寿命自体は普人種より少し長い程度とのこと。
「じゃ、お昼よろしくな~」
お昼から街の案内をしてくれるというのなら。
午前中に俺がするのは決まっている。
そう!
勉・強!
「お? 空調がある……本を守るためか」
ギルド書庫。
グラーベンシュタットのものよりも少し狭く感じるそこは驚くことに空調がついていた。
とはいってもあくまでも本の敵である湿気を除去するための空調らしく、少し暑いのは変わらない。
多少温度が下がり、不快感が減ったのは大きいが。
「……この『妖魔の調べ』って本、王都でも商業都市でも見たな。タイトル的にあまり惹かれなかったけど読んでみるか」
著者。フーベルタ・ホルシュタイン。
巻数は複数にわたり、この書庫にあるのは4巻まで。
誰かが読んでいるのか、それとも単純にこの書庫では有していないというだけかはわからないが、少なくともこのシリーズは7巻まであるのは確実だ。
グラーベンシュタットの書庫7巻を見た記憶がある。
内容はよくあるモンスターに関する調査と考察なんかを端的にまとめたって感じだな。
1巻は――この地名は確か東部南方寄りの場所か。……近いな。
森付近に出るモンスターがやけに整ってるな。というか本の序盤か?
まあ、初めのころってことで気合いが入ってたんだろうな。
ざっくり、その土地におけるモンスターの出現頻度やら出現位置傾向、ドロップの頻出部位の傾向。
あとは大体の大きさと、基準となる強さか。このくらいの経験を積んだ開拓兵なら勝てますー、ってか?
その記述の仕方が少し癇に障った。
俺も開拓兵として未熟ではあるけどそこそこの経験を積んだからわかる。
強さは一概にはいえない。
相性があるし、その日のコンディションもある。モンスターを一定数倒したからレベルアップしました、強くなれます、だから他のモンスターにも勝てます。とはならない。
レベルアップはそう簡単な話じゃない。
例えるなら100冊の本をただ読んだところで学者にはなれないし研究もできない。けど、10冊を内容のことをちゃんと考えて読んだ人間は学者や研究者になれる可能性はある。
正しい努力と研鑽ができているか。それが重要なのだ。
「でもそこを無視すりゃ結構良い本だな。まとめ方がキレイだ……」
あまり好きな表現ではないが、一般化した言い方をすれば『天才と秀才の違い』だろう。
その両者。具体的に何が違うかといえば、インプットとアウトプットだ。
天才は直感的に最適を選ぶ。自分に合った、最も効率的な進み方を直感で選び抜き、成長する。
だから有り体にいえば失敗を知らず、その方法がなぜ自分に合うのか、他の方法はなぜ合わないのかを理解できていない。
けれど秀才は最適を選び続けることのできなかった人間。
時に間違い、歩みを止めることになるが。それが逆に『効率の生み出し方』を学習させる。
なぜ歩むことができたのか。なぜ止まったのか。
失敗という経験があるがゆえにそれを分解して観察でき、それゆえに分解して得たパーツを組みなおすことができるのだ。
この筆者は『どうして読みやすいか』『どうしたら理解しやすいか』がわかってる。
必要な情報を抜き出しただけじゃない。
必要な道筋までわかってる人間だ。
ついでにいえば、自分の中の道筋だけじゃなくて、書籍化するにあたって一般化もできる人間、か。
その事実には軽い恐怖があった。
人心を知り尽くしているとすら思える。そんな手法だからだ。
どれほどの知恵と経験と思考を重ねればその領域にたどり着く。
ただただその考えが背筋を這って。
身震いがした。
「勉強してンのか?」
「え? ……あ、ああ」
なんだコイツ。
……この本読みたかったのかな? 流石に4巻全部独占はダメだったか。
「今読ンでる1巻。改訂版あるからこれ使えよ」
「……あんたのじゃ?」
「オレのじゃァねェよ。ここのだ」
「そう?」
声的に女、だよな?
小柄だしローブ着てるせいでどっちかわからん……。
「あァ……この街近辺に出るモンスターの情報ならな2巻の89ページから先に書いてあンぜ」
「熟読者か。なるほど、助かる」
「気にすンな。オレはこの本を改訂版と入れ替えに来ただけだからなァ」
「そう? でも俺に教えるのまでは仕事じゃないっしょ。だから、ありがとう」
ギルド職員だったか。
書庫管理してる人ってあんな感じなんだな。
表に出ないから格好も気にしなくて良いのは楽そう。
「勉強頑張りなァ」
「おう」
ん~、イイ人。
最低限の内容だけでも会話楽なのに、励ましまでくれるとか。
話まとめるの下手とか同族嫌悪するんだよなぁ。
余計なことまで喋るとか俺だけで充分だっての。
「あ~……甘やかされた人生送りてぇ……。好きなコトだけやって生きててぇ……、身の回りの世話全部ぶん投げてぇ……」
料理とかは好きだけど日常レベルだと面倒なんだよなぁ。
食器とか洗いたくない……。
誰か食洗器作って……。洗濯機も作って……。
……奴隷でも買うか?
ん~でもなぁ、犯罪犯して奴隷になった奴なんてぶっちゃけそこまで欲しくないし。
見た目が良けりゃ買うかもだけど!
「ままならんなぁ……」
――――――――――
「ヒイラギはなにが見たいん?」
「そうだな。日常面だと新しい服とかが欲しいからそういう店で、仕事だと新しい魔道具を見たいかな。武具も新調したいけど高いのはちょっとキツいかな」
「なるほど。ならええトコ紹介したる」
……ん~、改めて考えるとこうして案内してもらえるのってありがてー。
「ほう。ちなみにどんなの?」
「まずは服屋やね。ヒイラギは素材がええから似合うと思うで」
「似合うぅ? こんな地味顔でぇ?」
「顔は関係あらへんよ。それにアンタの顔を好きって思てくれる人もおると思うからなぁ」
「顔で褒められたことはないけどな」
褒められたのはよくわかんない趣味のヤツらに精神性を褒められた? 程度だ。
うん。あらためて考えても褒めてんのかわかんねーな?
「ん~、そやなぁ。ウチ的には……その不慣れな笑顔の時の口元とか結構好きやなぁ」
「不慣れ……ほっとけ」
「あははっ、そういう照れた時の目元も好きかもしれんなぁ。ちょっと目じりが上がって少し目が細うなるとことかな」
「変な趣味……」
「
……。
「だぁッ! ムズムズするぅっ! 同じ思いしやがれ!」
「?」
「その綺麗な髪が好きだ! 丸みを帯びつつも切れ長の
「恥ずかしい人やなぁ。大声で言うことなん?」
「ふんっ、褒めるのは恥ずかしくないもんね~」
ウソ。
ホントは人目あるしちょっと恥ずかしい。
「少しとはいえ人心がわかるのに、俺に良くしてくれるところが好きだよ」
「恥ずかしいなら言わんでええのになぁ……」
そういうとオタギは子どもを相手するかのように俺の頭を撫でてきた。
イヤ、という感覚はあまりなかった。
それはその行為があまり俺の中で特別性を持たないからだろう。記憶の中ではそんな経験がなかったから。
童顔とはいえ大人なんだけどなぁ。
こっちの年齢は知ってるはずなんだけど。
そんなことを考えているとオタギの魔力が髪へと流れてくるのがわかった。
「?」
「無防備やねぇ」
伸びたオタギの右手。
左側の髪に魔力が流れ、持ち上げて見ると髪が緑に。
俺にも緑の髪はあるが淡い色。そもそもそこの髪は白。
どちらかといえばこの緑はオタギのそれだった。
「自然に戻るまでそのまま、な?」
「願掛けかおまじない? まあ良いけど」
よくわからないが実害はない。
ミサンガとでも思えば良いだけだろう。
「ここやね。新品も古着もある」
「おぉ〜」
この国の服は大きく2種類。
1つは布を縫ったモノ。もう1つは調整のためなどで紐を用いている服。
つまり、この国ではファスナーやボタンがない。
さらにいえば、ゴムもない。
基本はᎢシャツのような服だったり、紐で結んで留めたり。
見える範囲の商品ならブラジャーがそういう紐留めだったりする。
ちなみにズボンなどについている前カン――鍵ホックはある。
「ん〜、この辺着てみるか」
選んだのは淡い水色の服にくすんだ緑のズボン。
適当である。
「どやろなぁ、何か羽織ってみてもええかもなぁ」
「ふむ、羽織るとな? じゃあ……色はこのままに服をインナー系に変えて……よし」
次に選んだのは色は同じ雰囲気の薄手のインナーに、白い羽織りと黒い羽織りの2つ。
「ええと思うで。白は上にまとまりが出るし、黒はメリハリ感じるわ」
「どちらがお好みで?」
「そやなぁ、ウチとしては黒やなぁ。馴染みあるし」
「あぁ、髪色」
特に服に対する強いこだわりがあるわけではない俺はオタギのオススメに従って黒の方向で行くことにした。
正直いえば、明確に俺がダサいと感じない限りはワリとどうでもいい。
なんなら動きやすいのなら女物でも構わない節すらある。
「次は――このへんかな?」
シンプル。もとい逃げの方向で選んだのは細身の赤いズボンに白インナーと黒い服。
「つまらんなぁ」
「ほっとけ。……そういうなら全身オタギが選んでくれよ」
「ウチぃ? あまり得意じゃないんやけどなぁ……」
とはいいつつも選択は早かった。
黒の服。鮮やかな緑のインナー。それよりも強い緑のズボン。
「なぁ?」
「言わんで……」
「まあ、はい……」
センスは似たりよったりらしい。
ダサいのじゃなくて良かったというべきか。
「実際、黒とか白って合わせやすいもんなぁ」
「せやなぁ」
「こだわらなきゃそこを使って色の種類抑えればいいもんなぁ」
「そやなぁ」
「オシャレって難しいなぁ」
「それなぁ」
「オシャレな人ってスゴいよなぁ」
「あれなぁ」
「……」
「……」
「服買って出るか」
「賛成」
結論!
素人は黙って白黒合わせて色は2色か3色!
――――――――――
「いやぁ、買った買った!」
武具屋と魔道具屋を巡り、買ったのは2つ。
最近は徒手での戦いを練習しているのと、単純に気に入った剣がなかったという理由で前者を。
後者は最低限の防御力が欲しかったからだ。
「意外と金遣いが荒いんやねぇ」
「金は使わんとな。社会が回らんさ〜」
護掌腕環は二環一対の腕輪で、効果は両手への保護効果。
双子石と呼ばれる鉱石と合成した双子魔石を用いることによって左右の保護力を共有化。
1つでは100の容量として、それを共有しているためトータル200の保護力を生み出す。
保護膜の転用によって攻撃力にも用いることができ、徒手で戦う際にはかなり有用だ。
「にしても、ヒイラギは魔道具を使うた状態で戦えるんやねぇ」
「……並列処理のこと?」
「そやね。上位になればできる思うけど……その歴でできるはちょっとスゴイわ」
「あ~……多分あれじゃねえかな? 俺って前の世界魔術とかない世界だったからさ、魔術回路とかも後付けなのよ。で、そこで新しい感覚として身についたわけで。魔道具を通して腕に魔力を戻す作業が簡単っていう」
「? どゆことなん?」
「つまり、魔術回路に魔力を流す感覚が意識の前提になってないってこと。認識としては、オタギはこの街に慣れてるから道も通り慣れてる。だから違う道を通るってなったら違和感がある。けど俺はどの道も通ったことがないからそこに対する違和感がない。みたいな?」
「なるほどなぁ。ルートヴィヒからモンドドラゴン来るんに普段ノースミナス経由やった人間がグラーベンシュタット経由なったら違和感あるてことやなぁ」
「ま、そゆこと」
俺にとってはどっちも新しい感覚だ。
生体魔術回路での魔力操作はまだ一ヶ月も経ってない。魔道具の魔術回路――魔術刻印に流すのもまだ一ヶ月経っていない感覚。
切り替えるも『そういうモノ』程度にしか思わない。
「……ん? 魔道具通して、腕に魔力戻すぅ?」
「え?」
「え?」
……俺、これまで魔道具の使い方間違えてた?
これまで魔道具の効能を十全に発揮できてなかった感じ?
「魔道具ってそういうモンだろ? 魔力を流して、そこの効果を発動する……」
「おうてるけど……普通は戻さんで?」
「ナンデ!? その方が魔力効率良いだろ?!」
「戻さんゆうか、戻せんゆうか……」
戻せない?
どういうこと?
ワケがわからないよ……。
「違和感とか異変があるはずなんやけどねぇ……」
「ん~? 拒絶反応?」
「そやねぇ、そもそも本人にない魔力の流れ取り込んどるから制御できへんはずなんけどなぁ。取り込んだら変な流れのせいで魔術回路傷つくだけのはずやし……」
「あれじゃない? 魔道具の魔力変速をそのままやってるから。生体魔術回路と魔道具魔術回路の抵抗って違うワケじゃん?」
「そやなぁ。たしかに普通より流しづらいなぁ」
「で、そこから生体に戻したら魔力流す感覚も変わるワケで。そこでの減速をしないまま魔道具と同じ感覚で流してたらそりゃ負荷かかるでしょうよ。重い荷物持った後で、軽い荷物を同じ感覚で持ち上げたら逆に危ないみたいな」
「! 驚いたわぁ……それは盲点やったなぁ」
重いつもりの間違った力加減で空のダンボール持ち上げると意外と危ないんよなぁ。
あとは自転車で重いギアから軽いギアに変えた時の空振り感。
「力加減わかってなかっただけだろうな。それで初期の数件の失敗で無理ってイメージが定着した、みたいな感じか」
「幼少期から培われる固定観念ないから柔軟な考えできるんやねぇ」
「そだな。あんま難しく考えなさんな。何事も柔軟に、ってな!」
でもちょっと誇らしかったりはする。
だからキッチリしたり顔はキメとくぜ。
「それ、借りてもええ?」
「いいぞ~。ほれ」
「――……難しいけど確かにできるなぁ。びっくりやわ」
「へへっ」
とはいえ、俺も常に柔軟にできるわけではない。
むしろ異世界人としての常識が捨てきれていないから部分的に習得が遅くなったりもする。
まさに一長一短といった感じだ。
それを修正していくのが今後の課題。というところだろう。
うしっ、頑張りまっしょい。
『妖魔の調べ』
時折市場に出回る『フーベルタ・ホルシュタイン』名義の著書の1つ
その著者の著書は基本的に専門知識を必要とすることが多いが、この本シリーズに関しては見習い開拓兵から遠征開拓兵まで幅広く活用できる名著
シリーズが全何巻かは著者以外誰も知らない
第一巻は東南東に位置する森周辺や、そこから南下したアルブスと呼ばれる地方に出現するモンスターなどの情報が記載されている
モンスター以外にもその土地の魔導気候などの情報も書いてある
第二巻はノースミナスのモンスターを主として、そこから北上した先の街周辺、ルイズギーヴ、モンドドラゴン周辺に出現するモンスターなどの情報が記載されている
第三巻はモンドドラゴンから北上した先の地方――
と続く
第一巻初版は最低でも50年以上前とされているが、正確なことは出版社を通じたモノではないため情報がなく不明