固有能力は【洗脳】 ~エロ目的に使うしかねえ!~ 作:レイジー
う~ん……この保護膜の形状操作ってもうちょい上手くできそうなんだけどなぁ。
手に対しての付与だから基本領域は変えられない……。
延ばせて指先5センチ程度まで。
来ているのはモンドドラゴン山。(本当はモンドドラゴンという山があり、そこから街の名前になったのだが紛らわしいため俺は内心でそう呼んでいる)
悪路での走破能力を鍛えるために山を駆けまわりつつ、新装備の実験を。
今は保護膜がどれくらい広げられるのかという実験をしているのだが、中々上手くいかない。
「ギュギュっとして――ドーン!」
保護膜の領域を1度狭くしてから一気に広げるが、変化はなし。
ただの無駄である。
「もうちょい領域拡張できたらな~。手刀でガチ斬撃できるようになったのは良いけどそれするならもうちょい距離欲しいし」
とはいえそれをする時点で本題からは逸れているのだが。
そもそも素手での打撃の際に拳を保護するための魔道具なのだ。それを刃を形成するために使うというのは本来の用途からズレている。
「領域拡張? ……武装強化?」
頭に湧いて出たのは武装強化。
武器防具に用いる魔力操作系技能の一種で、防具に纏わせれば防御の目算を狂わせることや耐久力が上げることができ、武器に纏わせれば斬撃刺突殴打の威力上昇や攻撃範囲の拡張、強固に練れば攻撃を飛ばすこともできる。
そこから連想したのは手の領域拡張からの保護膜形状変化だった。
「手に武装強化。できるかどうかは知らんがやればわかる。やるなら魔力の並列行使。分散して、それぞれで操作して、合流しても混合させずに流す。並列行使自体は両手でそれぞれやるのと変わらないから問題ない。問題は混合させずに流す分離維持」
制御が難しい魔道具伝いの乱流は主線に、真っすぐとした素の魔力はその他の回路を通じて指先まで流し込む。
直進する素の魔力は先んじて指先へ。
手の領域拡張。続けて保護膜の発動とその形状変化。
発動自体は何もせずともできるが、保護膜は意識を割く必要がある。
が、極論これは意識を割いてはいけない。
呼吸する時に意図的に筋肉を動かさないように、あくまでも呼吸をするという意思のもとで自動的に必要な筋肉が動くように。
魔道具との並列処理というモノは意識せずともできるようにする必要がある。
「――ッシャァッ!! 制御ムズいけどできたぁッ!」
実用性はともかく、技術的には可能だった。
とはいえ攻撃をしたいなら普通に剣を使えば良いだけで、これはあくまでも剣を失った時の緊急避難。
護掌腕環は防御特化だし、その使用目的が最適。
十徳ナイフを持つよりも、一本のアーミーナイフを持つ方がよほど心強いというモノだ。
「大体1メートル弱か」
おおよそ普通の直剣と同じほどだろう。
違うのは重量の有無による感覚の違い。
モンスター素材など未知の素材が使われているこの国では鉄よりも遥かに軽い素材があり、魔導的な効力によっては異常なほど軽い場合もある。
だが、多少の重量はある。
それと全くのゼロ質量というのは感覚があまりにも違いすぎるのだ。
「ん。まあできることを把握しておくのは実際大事、フィクションじゃあるまいし人生で役立つ知識だけが手に入るなんてねえしな。なんつったっけ? チェーホフの銃? ま、どうでもいいか」
こういった遊びとも思える内容が実はどこかで思わぬ繋がりを見せるかもしれない。
役に立たない雑学が友人知人とのバカ話に使えるように、ムダも存外に使いようなのだ。バカとハサミもなんとやらである。
「じゃ、適当に訓練したら帰りますか」
――――――――――
「いかん。気分転換がてら路地の店見てたら迷った……」
最悪大通りに出れば住むが、どうにも入り組んでいるうえに行き止まりも多いせいで迷ってしまう。
「……適当な店入って道聞くか」
もしかしたら商品を買えと言われるかもしれないが、安ければ買えばいいし高ければ他をあたればいい。
「おぉ……」
雰囲気あるぅ……。
魔道具によくわかんない素材とか本とか。
いかにもな感じの雑貨屋だな。
こういうの好き!
「適当ォに見ていけ」
「ドーモ」
生まれつき魔術回路の数が多く、それは魔術回路が体表に刻まれる程度には多い。
老化が遅く、寿命が長く。そして魔術の探求に対する意欲が異常とも思えるほどで。そして極度の引きこもり体質。
昔、一人の天才
「お、妖魔の調べだ」
本のおいてある場所で見つけたのはギルド書庫にもあった本。
巻数は全部で5。1巻2巻3巻、とんで5巻と7巻。
なんとも不思議な品揃えである。
「そこにあンのは確認用の見本だ。8までならあっからよォ、買いてぇなら言え」
「ふーん。……多いな」
あんま客としてもてなします〜みたいな感じの接客じゃないな。
なんつーか、買いたきゃ買え。みたいな雰囲気。
別に害ないし、売ってくれるならそれでもいいけど。
「そうだ。食器洗う魔導具と洗濯する魔道具ってない?」
「ねェな。面倒なら店に任せりゃいいンじゃねェのか?」
「店……店ね。そういうのもあるんだな」
そういう道具がないならそういう職業くらいあるか。
たしかに面倒だし、そっちも良いかも?
……う〜む、悩みどころて感じやねぇ。
「お? 収納環? これはもしや?」
「一定量までなら空間に収納できる」
「密輸とか平気なワケ?」
「魔道具持ってりゃ看破のヤツが調べっから平気だろ」
「そっか」
……結構いい人だ。
聞けば教えてくれるし。
「……」
「これ、俺の所持金で足りっかなぁ……?」
「見せてみろ」
「ん」
「まァ……残り2割ってトコじゃねェかァ?」
「ヨシッ! 購入!」
一気に所持金トビましたなぁ。
……ツラミ。
まあ、いっか! 最悪地下に潜ればほぼノーコストで金は稼げるし。
「余裕ありゃ市場価値ねェ素材持ってきてくれ。モノ次第だがよォ、研究用に買うからよォ」
「具体的に」
「そォだな。血とか体液とかだなァ。肉でもいいがなァ」
「ふぅん。憶えてたら持ってくるわ」
とは言うが、実際にはそもそも店の場所すら把握していないのだが。
そんなことは今の俺は憶えていなかった。
道を聞くために入ったのに当然のごとく買い物をしている時点で頭が悪い。
「ふぅ、いやぁ、良いモンみっけたぜぇ。……ん? いやいや、道聞きに来たんだった」
「迷子かよ。……ほらよ、通りまでの地図だ」
「おおぉ」
いやぁ、うっかりしてた。
「ありがとう、眉毛がチャームポイントの店主さん! んじゃ!」
太めの短め眉って、いい……。
かわいい。
……俺ってロリコンの気がある感じ?
……いやいや、まさかね〜。ナイナイ。
低身長、童顔、短太眉、ヘテロクロミア、空色と紫のツートンカラーの外ハネショート。
体格ゆえに声が少し高いが口調がその声とは繋がらないほど落ちついていて。
自分が思ったよりもチョロい人間だということを自覚した。
ん?
そもそも見た目とかイケるからってシャリーを【洗脳】して犯してる時点でワリと節操ないわ、俺。
とりあえず『なんとなく好き』で手ぇ出そうとする人間だったわ!
そりゃチョロいわな。
「……なんでみんなって自分のやりたいこと持ってんだ? 俺なんて自分の本当の好きすらわかんねーで全部受け止めるくらいの雑さで生きてるモラトリアム人間だってのに……。束縛の弊害? ……ハッ、そうやって
自分の情緒不安定さが嫌になる。
楽しいことの最中に嫌なことが脳裏をよぎって、没頭できない。
他者と関わる煩わしさ。独りでいる不安感。
強い自分がない。
持続した自我がない。
ふとした拍子に、違う自分が湧いて出る。
鬱屈した自分。
クズな自分。
他者と関わりたい自分。
他者を遠ざけたい自分。
社会性を持たない自分。
他者に優しくしたい自分。
他者から奪いたい自分。
自分の価値観だけの自分。
他者の価値観で動く自分。
数多の自我が。
せめぎ合う。
多重人格のように。
――――――――――
「おや。どうしはったん? エライ退屈そうやない?」
「オタギ……や、なんでも――」
特に宿から近いワケでも、ギルドから近いワケでも、門から近いワケでもないのにオタギと出会った。
わざわざ話すことでもない。
俺は誤魔化すようにいつも通り笑い――そんな頬を撫でるように両手で挟まれる。
「口角、いつもより上がってへんよ? 眼、少し震えてた。声、抑揚あった。なんでもないことないやろ? 言えんとこは言えんでええから、一緒にお酒でも飲んでお話しよか?」
「俺は――いや……。奢りなら行ってやんよ」
「ひっどいなぁ。しゃーないわ……」
よくわからないプライドなのか。
情緒不安定なせいか。
俺自身なぜ言ったのかわからない上から目線が出て。
オタギはカラカラと笑って俺の手を引いて酒場へと向かった。
「ま、若いし悩んで当然やろなぁ。聞くから、自分なり自由に話してみ?」
「…………俺ってさ、実際自分が何したいのかわかんねーんだよ。親から束縛されたせいか、自由に対する憧れがあってさ、だから昔から知らない世界――知らない土地に行きたかったんだ」
「そか。なるほどなぁ。辛かったんやなぁ」
「離れたかった。離れれば親にハメめられた型からも抜け出せるって思ってた。本来の自分になれるって思ってた。けどそんなモンなかったんだよ。自分なんてなかった。それに、親にハメられた型なんてのもなかったんだ。俺がそんな形に育ったのはそういう部品しか与えられなかったから。右手につける部品しか与えられなかった人間が左手を延ばせるワケがない。俺には……自由のための経験すらなかったんだ」
「あるって信じとった自分らしさが、実はないっちゅうんは不安なるわなぁ」
「人として得るべきだった経験が俺には欠如してるんだよ。それは社会性だったり、心だったり……」
「他の人が普通に持っとるモンを持ってないのは怖いわなぁ」
「誰かと接せれば『普通』になれるって思ったけど、なれなくて。女を抱けば愛でもわかるかと思ったけど、それもよくわかんなくてさ。俺ってクズだからさ……結局逃げてさ……」
「ヒイラギは目まいがしてるんやなぁ。なんも持っとらんから重さが足りんでフワフワ宙ぶらりんで、クラクラ目まいしてるんやなぁ」
目まい……。
ははっ、目まいか……。
「なんもわかんねーよ! どうすりゃ成長できんだよ! どうすりゃ安心して生きていられるんだよ!? 何を核にすりゃ良いんだよ!? 何を目的に生きりゃ良いんだよ!? 教えてくれよ!!」
「ていっ。落ちつきぃ。1つずつウチの考え言ったるから、まずは冷たい酒飲んでスッキリしぃやぁ」
「――すまん」
「アンタが欲しいのはやっすい同情やないで答えや捉えて言うわ。アンタ、知らん土地行くの――旅の好きなとこなに?」
「だから旅が好きってのは逃げ出したい気持ちが滲んだモノで――」
「なに?」
「……知らないことを知って、自分の知識が更新される感じがして……」
「それでええんよ。別にそれが好きって気持ちで構へんよ」
これで……いい?
「あのな? そもそも気持ちに理由づけってのがアカンよ。人間の言葉ってそんな万能ちゃうで? 気持ちなんて簡単に言い表せるモンちゃうし、だからこそいっぱい話しあうし、それでも通じ合うのが難しいからケンカすんのよ」
「そう……だな」
「自分に経験足らん思うんやったら、そんな少ない言葉で自分を決めるのは余計アカンて。好きかもしれんモンを憶測で否定すんのもな」
「っ――」
「で。自分らしくなるための経験が足らんいうなら経験積めば良いだけやろ? 諦めんのもアカンなぁ」
「……」
「社会性てのもな、法律に従ったり他の人間がやってないことをやらんかったらそれっぽく見えるし、そうやって社会で擬態してれば自然とわかると思うで?」
「……そう、なのか?」
「真似してれば自然と染みつくモンやで。心に関してはアンタはないワケやないやろ。そうやって悩んでる時点で心はある、ちょっと経験足らんだけや」
「……」
「やから、結局頑張ればええんよ。ムリに頑張るんやなくて、ちょっとずつ、やな」
「それでいいのか?」
「一人じゃ難しいんやったら誰かに頼ればいい。頼れるモンおらんのやったらウチを頼ればええねん」
「頼って……頼らせてくれるのか?」
「ヒマやしね~。こんなオバサンでええならヒイラギが満足するまで力になるで」
なんで……そんなに良くしてくれるんだ?
こんなくだらない、クソみたいな俺を……。
「ホンに、カッタい顔やなぁ。若いのがそんな顔するんはアカンよ?」
「へ、へへっ」
「……難儀な人生やなぁ。笑顔、向けられたことないんやね……。子どもの頃に見んかったから」
「……平然とイヤな部分突いてくるねぇ。別に良いけど」
もう、理性もなんもかなぐり捨ててしまいたい。
いっそクラウディアに犯された時に受け入れてたら幾分か楽だったんじゃないのか?
変なこだわりとか全部強制的に捨てれたんじゃないのか?
俺はそのチャンスを捨てたのか?
「変な自尊心をよぉ、捨てる方法ってありませんかねぇ?」
「さあ?」
「か~、頼りにしていいって言ったくせにダメですな~! ハハハッ!」
「空元気って感じやなぁ……。無茶はアカンて……」
撫でないで!
恥ずかしいから!
……やっぱ撫でて!
「うぅ~」
「意外にも素直やなぁ」
「恥を捨てようと……」
「なら。よ~しよ~し、頑張ってエライわぁ」
「うー……うー……」
恥ずかしいよぉッ!!
酔ったうえで、恥ずかしい!
「記憶消してやらぁッ!」
とりあえず今は恥ずかしい行為をした、っていう事実だけあれば良い!
記憶はいらん!!
このあと滅茶苦茶ナデナデされた
そのうーうー言うのをやめなさい!
笑顔が下手なのにもちゃんと理由があったんじゃよ