※この作品はR-18です。

固有能力は【洗脳】 ~エロ目的に使うしかねえ!~   作:レイジー

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 ひ、久しぶりぃ……
 約二か月ぶりだね……
 思いついたアイデアをテンションに任せて文章にしてたら(完結させてない)こっちの方から筆が離れていたよ……


第三〇話 軸を求めて

「まぁ、ダメ人間さんやないの」

「オタギか……」

 

 中々にヒドイ言われようだが、マトモに探索も訓練もせず勉強もせずに今こうして酒を飲んでいる以上なんとも言い返せない。

 

「いやぁ、めんどくさくってさ~。ハハッ」

「……はぁ。そこは言い返さんとあかんよ?」

「いいよ、別に。プライドもなんもあったもんじゃねぇし。図星突かれて怒るほどガキじゃねえし、嘘なら嘘で呆れるだけだから」

 

 は~、メンド!

 

「まだ終わってないけどずっと気ぃ引き締めるってのもねぇ?」

「終わったんとちがうん?」

「ちゃいまっせ~。アレは人工物。だから最低でも黒幕が残ってる」

「は~、面倒やなぁ……」

「ヒイラギも戦うん?」

「同じようなのが湧いたら相手に操られるだろ。そうなりゃ俺みたく抵抗力の強い奴がいなきゃだろ」

 

 街から離れることは禁止されている。

 が、参加の強制はされていない。

 特に俺があれこれ考える必要はないのだが、一度首を突っ込んだ以上はことの顛末くらいは知りたいという感覚もある。

 

「なら少しくらい訓練したらええんやないの? 最近訓練してる?」

「してない! アッハッハ!」

「まさにダメ人間やなぁ……」

「……わかってるよ、それくらい」

 

 どれだけ虚勢を張って、冗談めかしく笑っても、焦りはある。

 このままではイケない。

 けれど、そんな焦りとは裏腹にやる気が湧かない。

 無理矢理頑張ろうとしてみても、続かないのだ。

 

「意外にも焦りはあるんやなぁ」

「そりゃ、な。……知ってっか? 俺ってさ、今ベルタを鍛えてるんだよ。そいつが覚えよくってさ~? ……ほ~んと、眩しいよ」

「なに枯れたオッサンみたいなこと言ってるんよ。そないな歳ちがうやん」

 

 そう思うんだから仕方ない。

 

「気分転換でもしたらええんとちがう?」

「気分転換~? 飯食う、風俗行く、寝る。……ダメだ、やる気が起きん」

「違うことでもしたら?」

 

 オタギは短くそう言って、うだうだぐだぐたとしている俺に痺れを切らしたのか近場に腰は下ろさず離れた場所で一人で食事を始めた。

 

「……ハハッ」

 

 絞めるような酒痛は俺を責めるように感じた。

 

――――――――――

 

「じゃ、今言ったのをこなすように。俺は眠いし昼寝するわ」

「は、はい」

 

 湿気でロクに安眠出来ないだろうに俺はそう言って移動。

 ダメ男への一途をたどるように夢へと身を投じた。

 

 夢。

 明確に。

 虚無の空間で自分に植え付けられていた記憶が取り囲む。

 何度も繰り返した。脳に焼き付いた動き、人々の影。

 

(ああ……嫌になる)

 

 それみたことか、安眠とは程遠い、真逆の悪夢だ。

 そう頭の片隅でもう一人の自分(だれか)が笑う。

 

 記憶の中で自己嫌悪が加速した。

 自分の模倣があまりにもヒドかった、と。

 真似していたのはあくまでも動きだけ、自分には欠けがあった。

 

(戦いにおける精神性が違いすぎる)

 

 端的にいえば、雑味。

 同じ軌道を描く線でも、力むのと適度な脱力とでは線に違いが生じる。

 

(何が模倣だよ……全然じゃねえか……)

 

 真剣にやらないからだろう?

 疲れるまでやれば真剣だって思った? 本気でやれば真剣だと思った?

 ただの模造刀だろう、キミは。

 録音した自分の声を聴くような嫌悪感がある。

 

 ただ、実際そうだった。

 動きにばかり気を取られていた。

 動作における精神性は意外にバカにできない。

 ヘタな精神論ではなく、事実としてその点はパフォーマンスに影響を及ぼす。

 意欲や目標意識を言い換えてもいい。

 

 バカだな、キミは。

 当事者にならないでこの国の人たちと同じ目線に立てるワケがないだろう?

 神様が急に空から降りてきて、命令をしたところでどれだけ正しい話だろうと従わないのと同じだろ思うよ。それにキミ自身、当事者にならないでこの世界の人間になれると思ったかい?

 嫌悪感は、幼稚さゆえ。俺も、声の主も。子どもゆえの無遠慮な物言いと子どもゆえの正しさ。俺はそうして指摘されるほどにあやまつ幼い人としての密度の低さ。

 

(闘志を流麗に。垂れ流しの殺意を内に圧縮して、激流の表面を平坦に)

 

 感情を持たないなんて思い込んで、人と関わるのに嘘を吐いて大袈裟に振舞って。

 異常と思った? それとも特別だって思い上がった?

 違うと思うな。キミは凡人だよ。居場所は作れるし、居場所を作れないのはキミが逃げているから。

 キミは凡人だ。主人公じゃないんだから作品を動かす劇的なエピソードなんてないし、ほんのちょっとの日常の積み重ねで心は擦れるし、日常の積み重ねで癒されもする。

 ウソを吐くからこうやって過去が足を引っ張るのさ。

 その言葉をキリに声は止む。

 

 闘志の質。

 業火から深海へ。

 静かに、淡々と敵を苛む。

 

(どうしたらそうできる? ……感情の制御は特異なはずだ。最近はあまり抑制していなかったけれど心を御す程度――)

 

 ウソ。

 本心の在処はわからない。

 歪んで、壊れて、見失って、偽って。

 俺は知っている感情しか知らない。

 知ってる感情しか使えない。

 ウソ。

 

――――――――――

 

「鍛えるか」

 

 目覚め、夢を忘却した俺に残っていたその感情。

 なにかが欠けているような感覚。

 強くならなければという焦燥感。

 

「まだやってんだ」

 

 夕方。

 訓練場にはベルタの姿。

 

「あ、ヒイラギさん!」

 

 訓練をしていたベルタが俺に気づくと訓練を止めて俺に小走りで近づいてきた。

 

「おう。自分の訓練に来ただけだから気にすんな。それとも質問か? 準備運動の間なら受け付けるぞ」

 

 そういうとベルタは数瞬だけ驚いたような表情になり、すぐ元の眼差して俺を見つめる。

 

「できることを最大限生かせないかなって魔術併用の練習をしてるんですけど、どういうのがいいと思いますか?」

「ふむ? ……アドバイスをする前に並列能力の確認だな」

「並列能力、ですか?」

「んと、じゃあまず指鳴らしってできる?」

「これ、ですか?」

「そそ」

 

 靴ヒモを結び直しつつ本番の前に指鳴らし――いわゆる指パッチンの確認をする。

 実際に難易度の高い確認をする前に簡単なモノから確かめる方がいい。

 

「じゃ、それを左をこのペース、右をこのペースで」

「左がこれで……右がこれ――んんっ」

 

 左右で異なるテンポ。

 見本にしたテンポも重ならないように意図的にズラして指を鳴らしているからベルタもそれに倣って拍が合うことはなく、そこもあって難しそうにしている。

 けれど何度かの停止ののち、左右で違うテンポを鳴らせるようになった。

 

「よし、じゃあ今から五段階で速度を変えるからちゃんと覚えるように」

「はいッ」

 

 順に一秒あたり1回、2回、3回、5回、7回。

 

「今から左右で数を指示するからそれぞれ対応したペースで鳴らすこと」

「は、はいッ」

 

 指折りで数を示し、左右同時に、あるいは別々に数を変えて左右で別々に鳴らさせる。

 数を変える間隔も特に決まりはなく雑に、短時間で何回も変えたり長時間変えなかったり。

 が、それも一度のミスはありつつも成功を収める。

 

「ん、基本は大丈夫そうだな。左右で違うペースを維持したり切り替えるってのが並列能力の初歩。次の段階は~って言いたいとこだけど飛ばして、いきなり魔術でやる。はい、じゃあ右手で火を、左手で風を起こして混ぜようか。同時に」

「右火、左風。右火……左風……右、左、火、風……」

「ハイダメ~。同時って言っただろ? 別々だな、今のは」

「すっ、すみません! もう一回!」

 

 小さな火。弱い風。

 混ぜれば強めのライターのような長さの火が横へ伸びる。

 ただ、別々に発動をすれば伸びた火は風に煽られた鯉のぼりのように揺らぐ。

 同時にすれば真っすぐ、揺らぎなく直線状の火が伸びる。

 ベルタのそれは揺らいでいた。

 

「……ちょっと両手を合わせてみような」

「え、は、はい……」

「じゃ、その接触面に魔力を重ねて~」

「こ、こう?」

「そこが魔力の中心部分。ゆっくり両手を離して、けど魔力の中心は意識したまま、はいそのまま魔力は解除して、けど中心点はイメージし続ける~……魔術を同時発動、はい!」

「えいっ!?」

 

 同時にできない場合、理由は色々あるが、ベルタの場合はイメージのズレが原因だった。

 例えば目をつぶったまま両手を真っすぐ横へ伸ばせ、と言われて床と平行に腕を伸ばせる者がいるかと問われればその割合は少ないだろう。

 ほぼ必ず両手の指先の位置は肩から上か下にズレる。

 それと同じで、右手で構築した魔術と左手で構築した魔術、その二つの中心がイメージできていなければズレが生じる。

 右手から内側へ25センチ、左手から内側へ23センチ。

 そこを中心と誤ってイメージしてしまえば左手の魔術が狙った位置へ到達したとき、右手の魔術はあと2センチ分遅れている。

 その空間把握のミスがベルタの失敗の原因だった。

 であれば、一度両手を合わせ、そこから同じ速度で手を離させれば中心地点はズレないし、イメージもしやすい。

 

「ん、それが異なる魔術の同時行使。……複合行使だな。まあ本題はこれじゃないし使わないけどね」

「え」

 

 ついでに教えただけで本題は魔術の併用。

 ようするに何かをしながら、魔術も使うということで。

 魔術を組み合わせることではない。

 というか魔術の組み合わせ自体は訓練してパターン化と体内での遅延を組み合わせれば簡単な部類だ。

 

「やりたいのは近接戦闘をこなしながらの魔術での補助だろ? じゃ、戦う時の魔術三種を挙げてみよう」

「えっと……『自分に有利に働く』『相手に攻撃をする』『相手を妨害する』。ですか?」

「正解。一つ目はバフみたいなのが想像しやすいか? あとは最近だと山みたいな足場の悪い場所で足場を安定させるってのだな。二つ目はそのまま攻撃。三つめは足場を崩したり、風を当てて体勢をくずすみたいなのだ。一時的にバフをかけて暴走状態にするって妨害もあるけど今は難しいだろうな」

 

 バフ、アタック、デバフ。

 基本はこの三つだ。

「その中で自分の得意なモノは? 逆にできないことは? 選択肢が多くて悩むならまず減らせ。ある選択肢でどれが一番か、じゃない。使える選択肢でどれが使えるか、だ」

「多分、自分に有利に働く、だと思います。上位相手には複雑な工程が必要な攻撃系は私じゃ難しいですし、妨害は相手の弱点を戦いながら探れる気がしません……」

「ん。今はそれでいい。ただし諦めはするなよ? 実力に余裕が出てきたらできるように訓練しろ。たとえできなくてもその経験は相手に対する洞察だったり、仲間との連携で役立つ」

「はい!」

 

 現時点では切り捨てるのが大事だ。

 広い経験はよく言えば万能だが、素質が合わなければ普通は能無しになる。

 少ない経験から多くを学び取れる習得の上手さがないなら誰かしらが普通にできること未満しかない。

 パーティを組めば誰かしら牙持つ技能。街を歩けば誰かしらが上回る程度。

 学びが上手くないなら序盤は突出がベストなのだ。

 

「さて、と。俺ぁ自分の訓練に入るわ」

「あの……見てても良いですか?」

「あ~……。まあ、いいか」

 

 参考にはならんだろうが。

 というか下手に参考したら現時点じゃ毒だろうし。

 単純な話、身体能力柔軟さやら操作経験がなければ真似しようとしても身体を傷めるだけ。

 そこまで激しいのはやらないし俺もできないから真似しても少し傷める程度、痛い目を見ても学習材料にはなるだろう。

 

「――やりますか」

 

 雑念を振り払い、意識を自分に向ける。

 まずは自分の力だけで。

 次に【洗脳】による模倣で。

 その二つの感覚差を修正しつつ記憶を掘り起こす。

 記憶の姿をなぞってもその美しさは身につかない。

 それは意志によるモノ。

 たとえ真似をしようとも、【洗脳】で意識を書き換えようとも、きっと真似できない。

 オリジナルを動きに込めるしかない。

 

「精神を研ぎ澄ませる――」

 

 一振りの刀にする。

 それはどういうことか。

 余分を削ぎ、斬るという行為力を高める。

 心の軸を意識し、雑念を澄ませる。

 

「ふッ!」

 

 ダメだ。

 削ぎすぎ。

 

「はァッ!」

 

 これは雑念が多い。

 

「らァッ!」

 

 一撃のたびに鞘に納めるさまは居合。

 何度も剣を繰り出し、試す。

 鋭さに欠けた一戦を試行のたびに変化させる。

 

「必要なのは目的意識。そこに対する肉付け」

 

 強くなりたい。

 望むモノ全てを勝ち取れるように。

 強くなりたい。

 失いたくないから。

 

「天秤になんてかけない。全部を手に入れる!」

 

 強欲に生きる。

 感情制限なんて関係ない。

 

――――――――――

 

 私には今、師匠がいる。

 ヒイラギという名前の師匠。

 師匠は変な人だ。

 異世界の人だからとかではなく、純粋に個人として変な人だ。

 他人に対して興味がないと思いきや意外と人を見ている。

 胸に視線を感じるから性欲が旺盛かと思いきや試すように際どい角度にしても目は向けられないし、そもそも胸への視線も性欲とは違った。

 いっそ性欲を向けられた方が思考がわかって安心できたし、軽蔑できた。

 けれど、この人のことが少し理解できて、後悔してしまった。

 彼の求めているモノはきっと『愛』。

 昔の自分と似ているから気づくことができた。

 他者からの無償の愛を求めている目。

 胸を見ていたのは『抱擁』を求めるから。

 彼が私や誰かに無意識に優しいのは優しさを求めているから。

 優しさは廻る。それが自分に向くことで他者との繋がりを気づこうと無意識に求めている。

 彼は大人で、子ども。

 大人にならざるを得なかった子ども。

 だから正しいやり方を知らない。

 想像でしか他者を測れない。経験で測れない。

 子どもゆえに行ってしまう他者の一括りをできず、個人として図ることしかできない。

 アレが成功したのはあの人だから、コレが成功したのはこの人だから。他の人間に通用しない。

 そう考えてしまう。

 そうしないとかつての恐怖を他者から受けると想像してしまうから。

 個人からの恐怖を一括りで全体に当てはめるから。

 面倒な人。

 いちいち顔色を窺わなければならない。

 気づかなければ無神経で居られた。

 早く気づけば深入りしなかった。

 気づかないなら気づかないままが良かった。

 気づいた時にはすでに彼を好きになっていたから。

 種は救われたこと。

 養分は戦う時の眼差し。

 水は夜をともにした時の眠る彼の涙。

 日光は不意に見せる彼の不器用な笑顔。

 そのまま枯れずに育ってしまい、彼の人間性に踏み荒らされたかと思えば、悩みには誠実な彼に惹かれて、花咲いてしまった。

 今となっては、彼の面倒臭さすらも愛おしい。

 私のときを捧げて良いと思えるほど。

 むしろ、彼に私の人生を荒らしてほしいと思うほどに。

 けれどどうすればいいのか私にはわからない。

 愛を見失った彼に私の思いを伝えるにはどうすれば良いのだろうか。

 愛という言葉を使わずに愛を伝えられる語彙を私は持っていないから。

 私は、彼と少し似ているから。

 恋すらわからないのに、愛が分かるわけはない。

 全てを捧げればわかってくれるだろうか。

 そんなはずはなく、口にしても彼は愛を受け止められない。

 心という粘土で作った愛情のためだけの器がまだ創られていないから。

 他の器で受け止めるしかない。

 少しずつ形成するしかない。

 でも。

 もし許されるなら。

 彼に愛を与えて、彼の愛を受けたい。

 

――――――――――

 

「何か掴んだ? 動きが随分違うじゃん?」

「そう、ですかっ? 正直ついて行くのが、やっと、なんですけど」

「そらそうよ。調整してるから」

 

 手加減を緩め、昨日よりも少し激しく剣を打ち合っている。

 衝撃に押され、ベルタの体勢が後ろへ逸れるが問題なく立て直される。

 

「そろそろ実践訓練がてら地下に行ってみるか?」

 

 訓練の中でそう提案した。

 実際。手応え的には問題ない。

 

「! やりますッ!」

「午後、行く?」

「はいっ」

 

 そうして決まった実戦。

 午前の軽い訓練を終え、グラーベンシュタットとは雰囲気の異なる地下へと訪れた。

 

「初めてか?」

「……はい」

「ま、俺もベルタの訓練のための下見で初めてだけど」

 

 モンドドラゴン地下――地龍の通り道(アヴァムギーヴ)。

 そこは少し進んで光のない場所へと届くと草原のように針状結晶が伸びていた。

 踏むだけ、爪先が僅かに触れるだけで折れ砕ける地。

 動くたびに平たく均され、粉塵は降り積もる。

 その地の名は――放魔封の崩晶地帯。

 

「少し……滑りますね」

「大丈夫か?」

「……なんとか」

「周囲の把握は?」

「10メートルほど、でしょうか」

「……ま、今はそれでいいか」

 

 正直足りない。

 環境的に仕方がないとはいえ、その程度だと危険が多い。

 

「足場、注意な」

「はい」

 

 名の通り、魔が封じられる。

 より正確には放出された魔がこの地の魔と干渉を起こし、跳ね返され、減衰するのだ。

 それによって探知も妨げられる。

 

「じゃ、やってみよう」

 

 魔力を圧縮し、波としての性質調整を行い、破裂させる。

 魔力の衝撃は周囲に拡散し、遠方のモンスターを引き寄せた。

 

「危なくなったら助けるから自分の限界目指して頑張れ」

「はい!」

 

 まずやってきたのは岩のような虫。

 大きく歪な姿。

 それは食し、見に纏った鉱物が理由で。本来の姿は球の一部を平たく切り取ったような丸さをしている。

 

「やぁッ!」

 

 その数、7。

 斬りつければ容易く破砕し、雪崩のように断片が破砕されて宙を舞う。

 踏みしめるモノと同じ、天然のチャフによって探知は阻害され、見に纏えば身体強化をも損なわせた。

 

「くっ……」

 

 経戦時間が伸びるにつれて動きも悪くなる。

 消費する魔力と身体操作のズレ。

 修正しようにも不規則に刻々と悪化するズレはそれを許さない。

 

「ッぁ……はぁ、ハァ……」

 

 そして何よりも恐ろしいのは呼吸。

 舞う粉塵は防がなければ肺に溜まる。

 いわゆる塵肺。

 そして以前の世界と異なる点として、物質が魔を阻害するがゆえの封魔の症状もある。

 心臓は灰に挟まれているために肺に粉塵が溜まれば心臓魔石を阻害され、魔の大半を封じられるのだ。

 

「そろそろ無理かな?」

 

 対処法は主に二つ。

 一つは防塵マスクの着用。

 もう一つは呼吸を抑えたうえで口周辺に魔術をかけること。

 そうすることで粉塵を魔術で阻み、正常な空気を吸うことができる。

 呼吸を抑える必要があるのは、阻まれた粉塵が魔術を減衰させて吸引の力に負ける可能性があるからだ。

 

「よっ、っとぉ」

 

 前蹴りを出し、威力を集束させてモンスターを殺さずに一時的な行動不能に陥れる。

 序盤は俺の補助なしでも問題ないと思ったが、弱るにつれで判断ミスが増えて手を出すことになった。

 

「すみませんッ」

「俺は気にせず自分の方っ。一人だったらって仮定での戦闘なんだから」

「ッ……」

 

 あくまでも俺は命綱。

 だから今は極力気配を消している。

 足音を消すため移動は空気を圧縮したモノを使って着地を避け、魔力の放出は最低限にしてその最低限は環境に吸わせる。

 そうやって俺はいない存在に徹していた。

 

「2……3」

 

 問題点を記憶しながらベルタの手に余ったモンスターを抑えて戦況を整える。

 そうして10分強。

 範囲内のモンスターを寄せ尽くしたらしく、戦闘が終わった。

 

「はい。合計62体の中で5体に手を出しましたよ、と。反省点は自分でわかる?」

「……はい。敵の動きを読み誤って対処の順番を間違えました」

 

 積むべきブロックを間違えたとでもいえばいいか。

 ピラミッドのように大きい物、優先順位の高いモノを先に積むべきところを優先順位の低いものを際に置けばその瞬間は良くても後で崩れてしまう。

 

「うん、正解。明確に間違えたのは3体目だな。大きさに惑わされたって感じ。じゃあ他は?」

「自分の消耗を甘く見てました」

「その理由は?」

「粉塵で滑る足場と邪魔される魔力で普段とは条件が違うのでそこを無意識レベルに含めれていませんでした」

 

 ベルタもバカではない。

 俺の中億通り、足元に注意して一時的な魔術で安定した足場を形成していた。

 けれどすぐ降り積もる粉塵までは対処できていなかった。

 そこが迂闊さの1つ。

 

「頭にあったのは見て取れた。けど情景の悪化に従って意識が甘くなったな。ま、ここは経験で埋められるな」

「頑張ります」

 

 無意識はそう簡単には変えられない。

 記憶を強制定着させられる俺でも難しい。

 だから無意識面に関しては完全なミスというワケではない。

 あくまでも『仕方ないこと』だ。

 

「全体的には出来てたな。意識すべき点は意識できてたから数こなせば上達するはず。100点満点中72ってとこ。この調子で頑張れ」

「っ――はいッ!」




 ベルタのはあくまでもベルタの見解
 当たってる場所もあるし、違うところもある
 他者のことを完全には理解できないからね、想像で補うしかないし、的外れだってあるさ、と
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