固有能力は【洗脳】 ~エロ目的に使うしかねえ!~ 作:レイジー
「ありゃ? こりゃやっちまいましたな〜。ガッツリ濡れてら」
目覚めた彼女は沈んだ意識のまま身体の違和感に気づき、またかと苦笑する。
「あの子は〜……帰ったか……」
部屋を見回し、誰の影もないことに気づく。
「ちょっと本気にしちゃう程度には好みだったんだけどな〜、ざ〜んねん」
そう呟くと彼女は記憶が間違いでないことを確かめるように股へ意識を向け、そして部屋に残る匂いへ、あるいはまだ温もりを残す隣へと手を伸ばした。
「思い出がてら孕んどくか〜?」
「どういう価値観だよ……」
「あれぇ?! 帰ったんじゃないの〜?」
「……さては寝ぼけてたなオメー。飯何がいいか聞いたし答えたろうによ」
「そだっけ? ごめ〜ん、憶えてないや」
帰った。そう思っていたヒイラギが食事を持って部屋の入り口にいるその光景に思わず目を見開く。
「ホントだ。アタシ好みの柔らかいパンと野菜スープ。やっぱ朝はこれですよ、これこれ〜」
「判断そこなのね」
「ありがと。じゃ、あ〜ん」
「どうしたよ? って、ああ……」
口を開け、顔を向ける彼女の姿にそういうのを所望しているのかと思った直後、想像よりも濃密なのを求めていると理解する。
「口移しで食べさせてくれるんでしょ? ほらほら〜、アタシはもうお腹ペコペコですよ〜」
「それでいいならいいけどよ。ちなみにそのままとグチャグチャ、どっちがいい?」
「ん〜、どっちも試してみよっか」
「オッケー」
彼女の希望に従ってスープを口に含み、口づけをする。
口内が混ざり、混合液が彼女の胃へと流し込まれた。
「げほっ、けほっ……これ、噛めないからそのまま飲むことになってちょっと辛いね」
「あ〜……じゃ、ちょっと試してみるか」
喉を刺激する原形の野菜。
浮き出た涙を静かに拭いながらヒイラギは興味本位といった雰囲気でそう発した。
「合わせて」
「んっ」
再びスープのキスをし。
今度は舌を絡め合う。
舌を絡め、合わさる舌で野菜をすり潰す。
長い加熱で柔らかくなっている野菜はたやすくペースト状に変貌し、口内から固形が姿を消した。
「ひゃ〜。……えっち」
「俺がか?! 受け入れるそっちもだろ〜が」
「まあね〜。でも呼吸が難しいね、これ」
「普通のキスなら一瞬口を離せば呼吸できるけど、これは液体が中にあるから漏れるし、キスしながら鼻でってのもちょっと難しいしな」
「たまに、だね〜」
一度ならともかく、これを連続でとなると呼吸が苦しい。
そういうプレイと考えるのも良いが、食べ終えるまでと考えると少々難しい。
「基本は俺が噛むか」
「よろしく〜」
そうして行われる親鳥とヒナのような行為。
噛み潰されたスープとパンが餌を待つヒナのような彼女の胃へと与えられる。
「……っぁ」
「っは……ところで、言ってた吐き気は平気か?」
「そーいえば、なんか平気だわ〜。なんで?」
「俺に聞かんでくれ」
「じゃ、アタシたちのラブラブで乗り越えたってことで〜」
「そうかい。とりあえず気分悪くなったら言ってくれよ?」
「あいあ〜い。了解で〜す」
食べれば吐く。
そう言っていた彼女だったが、そうはならず吐き気すらなかった。
ヒイラギからすればそういうこともあるだろうという程度の軽いノリだが、彼女からすれば何をどうしようとも抗えなかったそれがないというのは表情こそ軽薄だが内心では強く驚いていた。
少なくともこの朝は吐き気に悩むことも、吐き気を抑えて何度も無理に食べることも、吐きかけたものを飲み込むこともない。
そんな確信があった。
「ありがと」
「よくわからんが、ど〜いたしまして」
実際、彼女がこの食事で吐くことはおろか吐き気を催すことすらなかった。
「あちゃ〜……ごめんね、アタシのせいでせっかくの朝ご飯冷めちゃったね」
「別にいいよ、気にしない気にしない。こちとら麺料理でろんでろんに伸びても平気で食える人間だぞ」
彼女の食事を終えるころ。
ヒイラギの食事は既に冷めていた。
料理は生温かく、美味しさは損なわれていたがヒイラギは平気な顔でそれを完食した。
ヒイラギからすれば自炊を始める前、与えられた下限の食事を思えば冷めてなお美味しいだけで十分すぎるほど。
「ね、髪染めて〜」
「? 俺がか?」
「アタシ。君の魔力で、さ」
「よくわからんが……こうか?」
「ん、ありがと。……お礼にアタシもやったげる〜」
「これって何の意味があるんだ」
錆色の髪は一部が白と空色に。
白の髪束は錆色に。
それぞれの色が交換される。
「ん〜? ナイショ〜。へへへ〜」
楽しそうに笑う彼女の顔。
ヒイラギは特に実害もないからと気にしないことにした。
「最後にちょっとだけ、しよっか」
「いいぞ。やろうか」
そうして最後に交わり、少しの言葉を交わして別れた。
――――――――――
「ヒ、ヒイラギさんっ」
「あ? あ〜……ようやくか」
ギルドへ訪れるとそこには普段よりも多く人がいて、俺は察した。
続きが始まる。
打たれていない終止符。
中断された戦いにけりをつける時が来た、と。
「お寝坊はんやな」
「ははは、スマンね」
「簡単に説明すれば調査の結果、前倒したヤツにさらに親玉がおるらしいんよ。そやさかいそれを探して倒すってのが今回の仕事やね」
「親玉、ねぇ。編成はどうするんだ? 前回と同じじゃキツいだろ」
能力が同一あるいは同系統という前提で動くのが当然で、そうなったときに耐えられる人間や正気に戻せる人間、正気を失った者を抑える人間が必要になる。
もし仮に同士討ちを可能とさせる能力ならそれはさらに必要になる。
「いくつかを一つにまとめる話らしいよ。範囲は前回と同じ、けどまとめて一定の道をたどる、って」
「あ〜、十人隊長の指示で動いてたけど百人隊になったから百人隊長の指示で動く、って感じか」
「そうやなぁ、せやないと難しいからなぁ」
一つの指示で動いていれば異変があった際にすぐ気づける。
逆を言えば環境も相まって船頭多くして船山に登るとなることもあるのだ。
「ヒイラギくん、だね? 少し来てほしい」
「お?」
話していると突然見知らぬ男が声をかけてくる。
格好からしてギルド職員。
何かあったのだろうとは思いつつも自分だけが呼ばれる理由が特にわからず、強いていえば一つだけ。
「緊急事態対策団第三班の班長を務めているブレイドだ」
「あ、はい。ヒイラギです?」
「今回呼んだのは君の能力ゆえだ」
それきた、と内心で叫ぶ。
「相手の能力に対して君は問題なく動けたと報告を受けている。その耐性を見込んで緊急事態調査団第一班の第五隊副隊長を任せたい」
「うぇ……」
「この大役を務めるのには経験不足なことは自分自身理解しているだろう。それゆえの重圧もあるだろう。だが適任が限られているのだ。引き受けてほしい」
そういうとブレイドは立場が圧倒的に離れているはずの俺に対して頭を下げた。
「正式に判断を下す人間は別にいるんですよね? 隊長とか、職員とか」
「ああ。だが主立って動くのは隊長と副隊長。ゆえに耐性のある者にしか任せられない。有事の際に正常な判断を下せる者が指示を出せる立場にいなくてはならない」
言っていることはわかる。
混乱を極めた際、それを鎮静させるのは指示の力。
正常な判断を下せる者の力が必要であり、その者に指示を出させるならば全員がそれに従う理由がいる。
その理由が『立場』。
なぜならば指示の正当性を判断できるだけの冷静さが混乱の最中ではないから。
誰もが他者の正気を疑い、自分の正気すら疑う必要がある中で、異議も賛同も正当性は保証されず。
ゆえにこそ組織人として組織に従う理由、立場が重要なのだ。
「……わかりました。けど極力楽な隊にしてくださいよ? 判断ミスで崩壊の一手を担うとか嫌ですからね?」
「ああ、そこは汲もう」
「ならいいですけど」
「正式な組み分けは後ほど行う。いつでも動けるように準備を済ませておいてくれ」
「了解です」
会話よりも移動時間のほうが長いと思うほど短いやりとり。
個人的にはその方が好きだが、重要事項でこうも短いと経験の浅さもあってもっと聞くべきことがあるのではないか、するべきやり取りがあるのではないかという不安に駆られる。
人間とはままならない生き物だ。
「なんやったの?」
「耐性の問題で副隊長を任されちゃった」
「おやまぁ」
「す、凄いですねヒイラギさん! 流石です!」
「流石に荷が重いよぉ?」
口ではそう言うが、チャンスとも捉えていた。
実力がものをいう状況で指揮を知れる。
加えて言えば要求のおかげで隊長隊員ともに学びやすい条件に整えられている。
「でもまあ、どうせ上に行く機会が得られたんだ。やらねえ手はねぇなあ?」
「ですね!」
「元気そうでなによりやわ」
どうやらオタギはここしばらくの俺の無気力を心配に思っていたらしく、俺のやる気を喜んでくれた。
「それぞれ再編成でどうなるのかはわからないけど、変に惑わされるなよ? 俺と違うんだから」
「その時はヒイラギさんが守ってくださいね」
「そうやな。ヒイラギに任せるわ」
「おいおい、まだ一緒とは……」
守れるなら守るが、そうなるとは限らない。
戦力の分配のために配置換えは行われるだろうし、適性を考えての配置ではどうなるのかはわからない。
「ん~、ヒイラギみたいな特殊耐性はウチらにはないからなぁ。多分組んだ経験ってことで一緒なる思うで?」
「それもそうか。いやでも、一緒の隊だからって近くに配置になるとは……」
「それでも、お願いしますね、副隊長さんっ」
「……はぁ。わかったわかった、万一お前らが敵に操られても上書きして俺のにしてやるよ」
降参するように両手を挙げながら笑い、そんな軽口を叩く。
そして悪戯をするように両手をそれぞれの前髪にかけ、染めた。
「――」
「――」
「俺の仲間だぞ~、ってな」
「任せるわ、騎士様」
「おう、任せい」
――――――――――
「キミが副隊長のヒイラギくんかい?」
「あっ、どうも」
待機を終え、合流地点へ向かうとそこにはいかにもなイケメンがいた。
太陽のような金髪に
前世で『イケメン』から想像するような優男ではなく、眉目秀麗でありつつ肉体が高密度に鍛えられ肩幅が広く手足が太い。
本来マイナスになるであろう顔の傷痕すらも彼の容姿を引き立たせるアクセントでしかなかった。
「私は『アレン・アウジオ』だ。話は聞いているから気負う必要はない。不安と思ったならば見て学び、できると思えば挑戦してみるといい。修正は適宜行う、存分に試したまえ」
「はいっ、ありがとうございますっ」
携えるは剣と槍。合計四本。
長剣、長槍、短剣、短槍。
変速二刀流が基本戦闘スタイルらしい。
武装と身体強化による戦い方が主で、魔術はほとんど使わないのだとか。
「実際に体感した人間から情報を集めたい。君の主観で構わないから精神作用系モンスターと遭遇したときのことを教えてほしい」
「え? あ、はい。自分のところが遭遇したのは大きなトリフィッデントでした。一定範囲まで近づくと耐性の低い人間は効果を受けて、一度効果を受けると距離をとっても効果は解除されなかったです。ただこちら側で精神作用の能力をかけて解除すれば相手の効果を解除ができたので状況としては一枚の紙を奪い合って絵を書き換えるみたいな感じですかね? 受ける人間の能力種類によって受けた時の反応も違うみたいで、自分は干渉されていることはわかったもののよほど気を抜かない限りは特になんともないというか、脇腹をくすぐられているのを耐え続けるみたいな感じでしたね。ただその際に一緒にいたヴラスタという職員の方は抵抗で絶え間なく消耗するみたいで、例えるなら常に押し合いをしているみたいな、もしくはずっと荷物を持ち続けて体力が尽きて荷物を手放してしまったら効果を受けるみたいな感じでした」
「ふむ……。範囲型能力で半永続式能力か。そして脳の思考領域の奪い合い。抵抗に関してはそれだけではわからないない。……もし可能ならキミの力を教えてほしい」
「…………正直自分もよくわかんないです。一ヶ月そこらなので」
「? そうか、流暢に話すし立ち居振る舞いが整っているから気づかなかったが君は異界の民か。たまに言葉が硬いのはそれか……」
「まあ、はい。自分の力は『対象に指示を与えてその通りに動かす』って感じで、基本は自分か相手のどちらかの思考能力や知識などに依存します。例えばギルド長に『ギルドの機密を教えて』って言えばそれを知れますけどそこら辺の人に同じ質問をしてもできません。同様に自分自身に対して『アデル・オーガストの動きを模倣しろ』と命じても能力が足りず物理的に不可能なのでできません」
「……キミは多分私と近いね。私の能力は【調和】といって使用すれば精神を平常に保てる。怒りで我を忘れることも恐れで立ちすくむこともない。思考領域を主とした力なんだ」
「思考領域……まあ、脳への介入。お互い知り得ない情報は出ないですしね」
「それに対して、ギルドから聞いた話を分析するとヴラスタという人物の能力は『強要』が主。対象の魂を魔力で従属させ、理性の疎外と死への恐怖で全てを支配する」
「ん~、テストで問題そのものを書き換えるのと、権力で答えを捻じ曲げるのとの違いかな?」
「君とは少し似ているが過程が少し違う。君のそれは指示の1つ1つが目的で、彼女のそれは屈伏の結果として指示を受け入れている」
「で、それがどういう違いを生むんですか?」
「精神との近さの違い、かな。例えば不意にくしゃみが出たら風邪かも、って思っちゃうでしょ?」
「あ~、思いますね。背筋がいきなりゾクってしたりしたら特に」
「そこさ。彼女の力は魂への負荷、肉体に対する震えや寒気などを組み合わせることによって『恐怖』を誤認させる。実際に恐怖を抱いていなくても恐怖を抱いていると錯覚させ心を弱らせ、実際に恐怖を抱かせる」
「なるほど。条件付けによる反応ですね」
「というワケでキミの耐性は高いと見なす。全力でついてこい」
「はい!」
説明と考察を重ねた。
続いて、前回探索時に集めた全ての情報から推測を重ね、行動の基礎を構築。
木でいうところの幹を構築し、そこから現状で予想できる枝の分岐を構築し、そして実地調査で適宜葉を育てる。
時は正午。
作戦開始。
はい、よーいスタート(幻聴)