固有能力は【洗脳】 ~エロ目的に使うしかねえ!~ 作:レイジー
私は元気ではありません。風邪をひいています
若い頃は一日あれば治った風邪も今では金曜夜に症状が出始めて以来日曜現在まで長引く始末
悲しいね
昔から私の風邪くんは空気が読める子で症状が出るのが週末なのが救いです
出張のタイミングで風邪にならなくて本当に良かった
「五番隊は進路を1時の方向へ、六番隊と合流。両隊は巨大樹まで同行、その後別れて五番隊は10時方向へ10分直進ののち2時の方向へ変更、直進。七番隊は八番隊と定期的な連絡を続けたまま直進。九番隊十番隊は大岩を迂回後元の進路直線上へ」
森の中、それぞれがいつ連絡が途絶えるともわからない不安の中で一つの指示で突き進む。
時折荒れる通話。
孤立以外にも洗脳への恐怖があった。
精神作用系能力に対する耐性を持っている者は多くなく、各隊に一人耐性持ちがいる程度……どころかほとんどいない。
少ないからこそヒイラギは大隊副隊長を務めることになったのだから。
「やけに静かですね。空気感も違うせいか肌がピリピリします」
「そうだね、今日は音が少ない。モンスターとの遭遇も少ない」
「どう思います?」
「警戒は必要です。現状では情報が少ないのでそれしか言えませんね」
おかしい箇所があろうと、具体的にどこがおかしいのか、何が起こるのかがわからなければ対策のしようもない。
「『五・六番隊。巨大樹到着』」
「様子は?」
「『ウロに異変なし、周辺も同様。5分ほど前から接敵なし』」
「了解。指示を続行するように」
「『了解』」
他の隊もモンスターと出会わない。
それは前回からすれば信じられないことだ。
聞けば前回は他の場所でも大量のモンスターが現れ、苦しめられたという。
全員が遠征開拓兵ならばともかく、一般開拓兵混じりや一般開拓兵のみとなると一体一体の強さは知れていても物量に押し切られてしまうのだ。
「ほんと、なんか静かですね〜。森の中にはモンスターもいないし、前回とはえらい違いだ」
「すべてが終わったとは思えない。1か所に集まって何かに備えているのかもしれない、気を抜かないようにね」
「アレは前回の戦跡ですか?」
「そうだね。被害が広がらないよう制御しながら燃やし尽くしたらしい。耐性はあるけれど完全には耐えられなかったらしくてね、遠くからする必要があったんだ」
枯れた広場に焦げた大樹。
見た目はヒイラギたちが見たものと当然ながら類似。
中心には空洞があり、その内部で何かが燃え尽きた白跡。
大本がいるのだと嫌でも理解する。
「『こちら十番隊、こちら十番隊。謎の人物と遭遇、警戒を行いながら様子を』」
予定にない通話が入ったかと思えば途切れる。
「こちら一番隊、こちら一番隊。通信不良のため聞こえなかった、十番隊再度求む。通信不良のため聞こえなかった、十番隊再度求む」
緊急事態や異常事態の際の二重応答。
が、やはり何も起こらない。
「全隊に告ぐ。十番隊に起きた異常事態の対処のため一番隊進路を10時方向へ変更。各隊は同様に十番隊の最終地点付近へ駆けつけるように」
指示ののち、一斉に駆け出す。
通信の難しい環境のため隊同士の距離は近く、駆けつけるのもすぐだった。
そしてたどり着いたとき、ほんの少し程度に植物で身を隠した女が、倒れ伏した十番隊の中心に立っていた。
「総員攻撃ッ!」
誰、とヒイラギが思うよりも早く隊長命令が下り、【洗脳】を受けたかのようにヒイラギ含めたその場の全員が一斉に攻撃を開始する。
思考を置き去りにし、全員の身体へ指示が下った。
「はァッ!!」
近接攻撃を得意とするメンバーが速攻で急所を狙い、速度に秀でた者たちが倒れ伏した十番隊を回収、空いた空間から先遣メンバーが離脱し、魔術が炸裂する。
炎が、風が、水が、岩が、異能が飛び交いその中心で人影が揺らぐ。そして揺らぐ人影はやがて小さくなり、消えた。
「総員攻撃止め!」
魔術停止し、そしてその中心が暴かれる。
そこに人の姿はなかった。
あったのは人の形をしていたかもしれない何かの炭。
(ただの人だったんじゃ……いや、一般人はここにはいないし開拓兵なら倒れ伏した開拓兵たちの中心であんなふうにはいない。あの判断が正解だ)
冷静になり、思考し、行動が正解だったと判断する。熱と冷気の入り乱れる空間に他の隊も到着し、それぞれで状況説明が行われる。
「という感じだ」
「一体何者だったんだ?」
「わからないが、とにかく変な女だった。ほぼ全裸で、けど羞恥心は少なからずあるのか一部は隠して……まあ隠しきれてなかったけど」
「今回のって人為的なモノかもって話だろ? 犯人かその仲間かもな」
有事のために広場の内外へ分散。
ギルド職員たちが魔術で破壊された空間の中心を調査する。
「正常な判断力があると考えて聞くけれど、君はアレを見てどう思った?」
「ん〜……人間?」
「……なぜ?」
「あの瞬間、彼女は着弾の瞬間まで全員を観察していました。全員に対して目を向け、俺も目が合いました。正直、俺は異世界人でこの世界みたいに人種は多くなかったんでここでの『人間の定義』はわからないです。そのうえで言葉として、俺は彼女を人間と認識しました」
その定義は前世からの疑問。
人間とは何か。
肉体形状だとすれば猿との違いは、先天的に少ないあるいは多い者は人間ではないのか。
遺伝子だとすれば電脳化技術が完成した時、肉体を捨てた者は人間ではないのか。
宇宙人は人間か否か。
知性知能に依存するなら障害者は人間ではないのか。
抱く疑問、投げかける疑問。答えはなかった。
「私は一目でアレを怪物と認識した」
「なぜ?」
「アレは私たちを同類と認識していなかった」
「なら俺も怪物ですね。なにせ、姿形が似ているだけで遺伝子の全く異なる生物同士ですから」
結局はそうなのだ。
見た目が似ていようとも生物種が違う。
無から肉体を生成するモンスターという存在が実在する世界で、猿からの進化なのかすらもわからない人間。
根底意識に区別が生まれる。
「ま、殺すというなら殺すでいいですし、自分はそこに深くは関わらないです。関わる機会もないでしょうしね」
自分よりも圧倒的に実力で勝る者たちがいる場所で、そんな機会は訪れない。
「じゃ、俺は離れますね」
固まる理由よりも離れる理由の方が多く、強い。
「ならアレを見たら──」
跳んだ。
感覚がそう訴えたから疑う暇すらなくまっすぐ。
宙で周囲を見渡し、木の根が目に入った。
地中からまっすぐ伸びる木の根、それが開拓兵たちを貫いている。
そして、オークトには周囲とは異なり無数の木の根が襲いかかり、貫かれていた。
「なっ?!」
「そう、員! 退っ──」
逃げるよう指示を出そうとしたオークトの腹を木の根追撃する。
刺さる木の根が言葉を阻み、異常事態と指示者の喪失、そして自分も能力の影響下ではないかという自己判断への不信感が行動を鈍らせる。
「副隊長命令ッ! 各自負傷者を保護して逃げろッッ。耐性に自信のある命知らずのバカ俺と残ってくれ!」
着地の直後、オークトの腹に刺さった木の根を切り、抜き取り、口に回復薬を流し込む。
「私も、残ろう」
「あ? ……動けるのか?」
「殿を務める程度造作もないさ」
「ああそうかよ。なら基本指示は引き続きよろしく!」
一瞬フラつくもすぐまっすぐ立ち、戦おうとするオークト。
「なら俺は──」
頭を狙って伸びてきた根を避け、掴む。
「みぃつけたぁ!」
魔力を流し込む。
精神へ作用する力を有した木の根はヒイラギの魔力と反発するが、ねじ伏せて力を強制した。
「こんにちは。そしてさようなら」
地中から逃げるように飛び出したのは半裸の女。
薄緑の肌に蜂蜜色の瞳、白の髪。
暴力的な美を有し、それを隠すことのない彼女は全体へ視線を向けたのち、ヒイラギをまっすぐ見つめた。
「私の能力を一切感じていないだなんて……天敵みたいね」
「フッ、雑魚能力に支配されるほど弱くはない」
避けれたのはそれが理由だった。
精神へ掛かる僅かな違和感。
ヒイラギと同じ。
「……まあ、強さはそこまでみたいだし。死になさい」
流した魔力の影響で不具合が起きているのか、彼女は地中へは戻ろうとせずにその場で開拓兵たちを眺めた。
「副隊長! ダメだ逃げられないッ!!」
「ッッ。説明ッ!」
「周囲をモンスターが取り囲んでる! まるで今日一日出会わなかった奴らが全部集まってるみたいだ!」
周囲を囲むは無数のモンスター。
気配を消していたモンスターたちが一斉に牙を剥いた。
「円陣形成! 負傷者と魔術士は円陣内部に!」
もはや班という仕切りはなく、取れる手同士で守りを固める。
固めた中で魔術士たちが一斉に魔術を放つとモンスターたちの多くが死に消えた。
「スゲぇ……ッ、じゃねえッ。ええと──」
「魔術士たちは防壁形成ッ、前衛たちは防壁完成まで侵攻阻止ッ、ギルド職員たちは作業続行ッ、軽傷者たちは重傷者の治療!」
指示を引き継いだオークト。
素早い指示に呆気にとられつつギルド職員の作業とは何かと視線を向けてしまい。理解した。
それは足場の強化。正確には地面を盾とすること。
何もしなければ再び木の根が襲いかかる。それを防ぐため、地面を穿ち砕けないように固める必要があったのだ。
「ッッ」
「未熟を恥じる余裕があると思う?」
「!?」
そう。女はまだ健在。
無言で様子を伺っていた女は天敵と評したヒイラギを殺すべく、魔術を放った。
唸る轟音が耳をつんざく。
地震が起きたと刹那的に考える中、音が答えを提示するように平衡感覚の異常をもたらした。
脳が揺れている。
「み──」
無音が訪れた。
いや、音が伝達されなくなったのだ。
わずかには聴こえるが、それは音があるというだけでどんな音なのかが判別できない。
同じ音量と思えるほど音が縮み、混ざりあって一音なっていた。
「──」
鼓膜が破れた。
そういったつもりだったが、果たして自分がなんと言ったのかわからない。
呂律は回っていたのか、声量はどうなっていたか。
そもそも脳が揺れているのだ、思考だけに留まっていたのではないか。口は動いていないのではないか。
すべてがわからなかった。
音がない。
情報が消え、危険を察知できなくなった。
感覚が一つ消えるだけで湧き上がる恐怖に、ほんの一瞬動きが止まった。
「大丈夫〜?」
「──ぁ」
音が戻る。
ミュートを解除したようにすべての音が一気に溢れた。
「へへへ〜、おね〜さんはお見通しなんだよね〜」
「マジ神──今度酒奢る」
「やった〜」
いつかの彼女がそこにいた。
すべてを見通したように、酒が染み付いたような紅い顔で不敵な笑みを浮かべて。
「じゃ、勝たなきゃね〜」
そう言って腕をまっすぐ伸ばすと、腕が蛇へと変化した。
肌色の蛇は指先──爪先の白からすべてを侵食するように腕全体を白く染める。
そして指先から分かれ、五首の大蛇へ膨れ上がった。
「ご飯だよ〜、いっぱい召し上がれ〜」
大口を開ける蛇たちは手当り次第に貪り食う。
姿形が獣だろうが木だろうが関係なく、燃える炭だろうが関係なく。
飢えの限りを尽くしたのちの暴食の宴。
そんな様相で一画からモンスターの姿が消えた。
「前衛総員円陣内に退避! 魔術士たちは防壁強化!!」
叫び、全員がそれに従おうとするが間に合わない。
辛うじて一部の魔術に長けた者たちが持続式の魔術の壁を形成しただけで、前衛のことごとくが地に伏していた。
「くっ!」
「……本当に、天敵みたい」
なぜかヒイラギだけが立つ。
能力によって『伏せ』られ。
壊滅。
「あ〜……力の雰囲気が俺とそっくりなのな。そのくせ俺に効かないのは謎だけど」
理由は定かではない。
ただ、女の力はヒイラギには通じなかった。
腕をまっすぐ向け、魔術回路が光るほどに魔力を込めようともその効果はゼロ。
「……下位互換?」
「ッ……ムカつく」
「ハッ、図星で化けの皮でも剥がれたかぁ?」
「大丈夫。生憎、そんな厚化粧しなくてもはじめから化け物よ」
「おやおやおやおや、そりゃ失敬失敬。すっぴん美人だったか〜」
周囲の目など気にせず警戒に笑うヒイラギは。不意を打つように繰り出される根の攻撃のことごとくを見ずに避ける。
それは感知、という次元ではなく、まるで未来を見ているかのように。
本来であれば見て回避などヒイラギの出せる速度では不可能に等しい。が、ゆったりとし速度で全てを避けるそのさまは周囲に伏すベテランたちの目から見ても異常。
「オークトさぁん。みんないらないみたいだしさぁッ、俺がもらっても良いよなぁッ!!」
返事はできなかったが、目が『頼む』と言っていた。
「そいじゃ、ま──『死ね』」
人を除き、周囲に死が撒き散らされた。
膨大な行使で制御は難しく、人間は殺さないという制限だけをかけて周囲を【洗脳】。
そうして周囲を取り囲んでいたモンスターが消えた。
「ッッ──!」
「イッツ、コトダマジック。さあ、天敵の登場だ。──逃げれると思うなよ?」
圧倒的不利から一気に戦力差を埋めた。
木の根は使えず、攻撃は先読みされ。
一対一の戦いはヒイラギ優位だった。
「力が封じられたからってッ、お前が強いワケじゃない! 『死ね』ッ!」
ヒイラギの真似をするように力を無差別に放つ。
狙いはヒイラギではなく、戻れば厄介な周囲。
「ッ!? なぜ通じない!!」
「お前のそれって耐性貫通力が高いだけで干渉力が低いもん。俺程度でも抑えられるけど?」
能力とて基礎は魔術の理論で動いている。
そして女は魔術の勉強をしていないため干渉力の強化を知らなかった。
「くそッ!!」
「はははははッ!」
身から蔦を生やし、それをムチのように攻撃するがそのことごとくを避ける。
どれだけ数が増えようとも存在する空白を選んで動き。
意図的に生み出された隙すらも避けて。
正解を選び続ける。
「ところでさぁッ!」
「ッッ」
「俺ばかりに意識を向けてていいのかぁッ?!」
「!?」
向けられた視線は女の背後。
しまったと咄嗟に振り向くがそこには誰もおらず、騙されたと理解して来ているであろう攻撃を防ごうと腕を盾にするが、ヒイラギの姿は元と変わらぬ位置にあった。
「騙されてやがんの」
「貴様ッ」
向けられた嘲笑に女は怒るが、感情を昂ぶらせたからといって強くなることもなく、制御を失った未熟な感情は動きを弱らせるだけ。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ〜」
さらに追い打ちをかけるようにバカにしながら動き回るヒイラギ。
仲間たちの近くを動き回るが完璧な位置取りで仲間に当たることもなく、むしろそれを利用し仲間たちと手を触れ合う余裕すらアピールするように手を打ち合う。
「おッ」
「!?」
再び背後への視線。
嘘だと思いながらも触れ合ったことで効果を解除したのではないかと目を向け、やはり誰もいない。
「ギャハハハハッ! 学習能力なしかよ!」
「ッッ──!」
制御を失った膨大な魔力が爆ぜ、近くにいた者たちを吹き飛ばした。
「オイオイ、バカにされて怒るとか図星ですかぁ? そうだろうなぁ? 真っ赤な嘘なら何言ってんだコイツって呆れるだけだからなぁ!」
「うるさいッッ!」
一切の変化なし。
混じり気なしの純粋な魔力が放たれ、ヒイラギを包む。
それは例えるなら釣りをしていた者が釣れないからと網を用いるような元も子もない行為。
攻撃力自体はないが避けられもせず、ただ膨大な魔力がヒイラギを蝕む。
「──」
「フッ……三度も同じ手に引っかかると思ったか!」
背後への視線。
が、女は一切視線を動かさなかった。
「ぐガッッ!?」
「アカンなぁ、せっかくヒイラギが教えてくれたのに。人の好意は無下にしたあかんで?」
吹き飛ぶ女と、拳を振り上げた姿勢のオタギ。
だが、オタギはその一撃でふらりと膝を突く。
「っ……役に立てんくてごめんなぁ」
「いや、充分だよ」
動き回り、仲間たちと触れ合った時。
ヒイラギは全員に対して効力を調整した【洗脳】をかけていた。
どれだけの力で効果がもたらせるのか、力の競合で相手に感知されないか。
調べ、女の能力が【洗脳】したあとの対象の状況までは把握できないことを理解できた。
あとは信用である。
能力で指示を出すと直接タイミングを指定するか条件づけをしない限りは即座に行動に移してしまい、不意を打てない。
拍手やウィンク、魔力の炸裂などを条件にすれば気づかれる可能性もある。
そのためすれ違いの際の短い言葉だけで意図を察してくれる相手が必要だった。
「三度目の正直〜。さてさて、今の一撃でお前の動きは封じさせてもらった。そ・こ・で!」
地に伏す女に拘束魔道具を装着し、そのうえで頭を鷲掴みにしながら周囲へ視線を回し向け、そして最後にオークトに固定する。
「こいつは俺がもらっていい、そうだよなぁ?」
「あ、ああ……けれど貴重な情報──」
「て、ことで。『服従しろ』」
必要な部分だけを聞いたヒイラギは周囲へ魔力を伸ばして女の能力を上書きし、そのうえで能力を消して全員を自由にする。
「……は?」
「は?」
「え?」
「いやぁ、許可がもらえて良かった良かった。モンスターだから人権はないし、知能高いから利用価値も高いし、結構強いし、顔も身体も良いし。個人の利点少ないギルド任務だと思ってたけど、得したな〜」
突然の発言に呆気に取られる周囲を無視してマイペース続けるヒイラギ。
「あ、具体的にやっておくか。ん〜と、他者の害になる行動は基本禁止ね。殺す傷つける盗むとか、不快になるのも極力禁止。逃亡も当然禁止で指示のない限りは俺の近くにいること、指示で離れる場合は俺の利になる理由がない限りは基本即座に帰還すること。あ、俺に対して反意を持つのも罵倒するのも別に構わないよ〜、そのほうが屈服させがいがあるし」
その他にも様々な条件をつけ、逃げられず自害もできず、意思を持つ道具として制限をかけた。
「あ、あの?」
「お〜ん? ああ、オークトさん? 大丈夫大丈夫、情報は吐かせるから。なんせ俺の力って行動の制限と強要ができるんで」
「そ、そうか……」
「別にいいでしょ? そもそも情報を吐かせたら利用価値なんてないだろうし、情報吐かないかもしれない状況で確実に吐くだけ儲け。思想が違おうとも行動に移せないし思想を撒き散らすのもムリ、見た目だってそういう種族って認識でいいでしょ」
髪を掴み、揺らそうと攻撃をできない女の姿。
だがおオークトやその場のギルド職員たちでは判断できず、保留となった。
「じゃ、色々聞こうか。まずは自由意思で答えてね〜、言うも言わぬも自由。嘘は禁止。何を言うかによってこの先が決まるから慎重に、ね」
そこに対して人権はおろか、生物を相手にする慎重さなどまったくなかった。
そのさまはまるで幼子がオモチャを扱うような、そんな乱雑さ。
ヒイラギの行いに周囲の者たちが冷酷さを理解する。
自分たちのようなモンスター相手ではなく。
人間相手と認識したうえでの、行い。
「ま、質問内容は職員に任せるかな〜」
必要な情報を見落とすワケにはいかないためヒイラギは聞き出すことの大半を職員に任せることに。
「……」
「まあ、事後処理で忙しそうだししばらくは俺が相手してやるか。てことで、黒幕だ〜れだ?」
怪我人の手当て、拠点の設営などを行わなければならない。
割ける手が限られていた。
「黒幕、ですか? 彼女がそうなのでは?」
「んぉ? ああ、いえ、多分違いますよ。こいつはただ突然変異で賢く強く生まれたワケじゃないと思います。反応も力の使い方も誰かしらを相手にしてた奴のモノですし」
女は『聞く』ということができていた。
相手の発言を待つ、それに受け答えをする。
それは他者とやりとりをしなければ身につかない。
でなければ相手の言葉を無視して自分の話だけをするという社会性の欠如した人間になる。
が、彼女には少なからず社会性が感じられた。
「てことで、黒幕は?」
「ははは、バレてるなら仕方ないが奴のことは私も知らないな」
「ふむ。嘘はつけないし事実か」
知らないという発言は真。
情報はないのかと職員は肩を落とした。
だがヒイラギは続ける。
「相手の見た目は?」
「生まれた時に一度見ただけだから顔はよく覚えていない。目が弱くてよく見えなくてね、角があったとは思う。髪かもしれないけれど」
「相手の目的は?」
「知らんな。私を作った理由は『能力再現の実験』と言っていたが」
「……」
能力再現の実験。
つまり、正しい正しくないはさておき基礎理論自体は完成しているということ。
理論をもとに実験。そして生まれた彼女。
聞いていた者たちの背に冷や汗が滲む。
「お前の目的は?」
「生物の目的なんて生きることに決まってるじゃん? あとは繁殖?」
「……なぜ生みの親の害になるような、素直な回答をする?」
「クフッ、貴方は親だからという理由だけで従順に従うのかしら?」
「ねえな。理由はわかった。なら、お前はお前の利を提示すれば俺が従わせずとも仲間になれるか?」
「さぁ? 利があれば可能性はあるけど私にとっての利を出せるかな?」
「モンスターとしての殺人欲求はあるか?」
「抑えようと思えば抑えられるけど? 知能が高いってことは損得勘定できるってこと、それを無意識レベルでやればあなたたちみたいに社会性を獲得できるし」
「モノは欲しくても盗めば捕まるから盗まない、って感じか」
ギルドの欲しい情報ではなく、単純に自分の気になった情報のためだけに質問を繰り返す。
「最後に……なんでそんな口調がコロコロ変わるんだ?」
「能力の暴走。自我の弱さ。思考、人格が断片的に混入する。昔からだから自己が薄い」
「……ふぅん? ま、いいや」
人為的な不自然生命である彼女の能力は不完全だ。
複数の能力が押し込められている時点で負荷が強い。
加えて、能力の力だけを再現されているために安全性が皆無。例えるならばカッターナイフの切るという目的再現のみを求めた結果、持ち手はなく刃を掴んで扱うような話だ。
「あとは面倒だし現状興味ないからパス」
問答は職員に任せ、ヒイラギは休む。
余裕を見せてはいたがなぜか脳への負荷が尋常ではなく、思考はロクに回っていなかった。
「おつかれ〜、飲み物いる〜?」
「酒じゃないよな?」
「だいじょ〜ぶだよ〜。ただのお水だから〜」
「ならもらう」
ヒイラギは気づいていないが、ヒイラギは大量の汗を流していた。
短時間のこととは思えないほど膨大な量はまさに滝汗。
「くぅっ、しみるぅっ」
「ね〜ね〜」
「んぁ?」
「これからしばらく一緒に行動していい?」
「あ〜、いいんじゃね?」
何かを考えるように視線を動かしたヒイラギだが、疲労のせいで思考は巡らず視線を動かしただけ。
そしてヒイラギは考えられていないことに気づかないどころか、視線を動かした自覚すらなかった。
「詳しいことは今度話すね」
「お〜ん、話したいタイミングでごじゆーにド〜ゾ〜」
フラフラと揺れるヒイラギを受け止めた彼女はそのままヒイラギの頭を膝に乗せる。
自分が今どういう状況なのか、わからない。
座りこそすれ身体が立っていたから保てていた意識も、横になったことで崩れ溶けた。
「すまない……すこしねむる……」
そうして意識は暗転する。
本人に記憶がないため作中じゃほぼ確実に出せない設定
彼女は人間をベースに色々手を加えられたモンスターです
材料としては『幼児(今回の場合は1歳)』と『トリフィッデントの魔石や樹皮』『濃縮マナ液』『培養人肉』『生きたまま摘出した魔術回路』『精液』『血液』『遺跡から抽出したマナ』『脳』など
ヒイラギが見ずに攻撃を避けられたのはお互いの能力によるもの
彼女の能力はヒイラギと同じくするモノ(使われた素材自体は黒幕さんのモノ)のため魔力次元を同じくし、その結果思考が一方的に読み取れたという理由(ここはのちのち出そうと思えば出せるけど本編だと説明過多になるから後書きで)
彼女の魔術回路はひどく劣化しているためヒイラギのように相手の動きを読むことはできなかった。もし完璧な状態の魔術回路だったらヒイラギは動きを読まれていた上に普通に殺されていた