食堂は朝食が終わりかけだったが、女中さんは相変わらず私を見て軽蔑の視線を向けるが朝食は持ってきてくれた。
ここの食事は美味しいから食べて帰るのも悪くないと思ったら女性の声がかけられる。
「ここ。いいかしら?」
「え、ええ。どうぞ」
どうやら、相席を希望しているようで私が頷くと女性は座ってきた。
綺麗な人だなと素直に思った。
歳は私より上だけど、和服美人で、ここにいるという事はこの宿の女将さんだろうか?
周囲も彼女が気になるようでチラチラと見ていた。
あのおじいさんたちのばあ様というにはいくらなんでも若いなと思ったが、女将さんらしき女性はあっさりと種をばらした。
「後妻ですの。実は三人とも」
「そうなんですか」
納得。こちらの考えが丸見えだったのだろう。女将さんもクスクス笑う。ただ、周囲はそうでもなかったらしい。
チラチラ見ていた女中さんたちがヒソヒソと話をしている。
流石に内容は分からないが、いい話でないのは確かだろう。
ただ女将さんは気にした様子がない。慣れているのだろう。
「で、あの人たちの夜這いはどうでしたか?」
たしか、私をここに呼んだのばあ様って言っていたがおそらく40届くか届かないかぐらいの方とは思わなかったので、ちょっとびっくり。
でも、その容姿に似合った綺麗な声だ。
ただ、夜這いって……私は思わず苦笑する。
数日間おじいさんたちとお孫さんたちに輪姦され続けたのを夜這いと言っていいのか微妙だが、楽しかったのは事実だ。
「ええ。楽しかったですよ」
「そういうと思っていました」
女将さんは私の考えを見透かしたようにクスクス笑う。
「ここはね。夫や私が認めた相手ならそういうことは許されているの。
昔は一族しかここで働けなかったのよ」
ああ。女中さんのあの視線が理解できた。
他所からきて働いている訳だ。
「少子高齢化でこのあたりも人口が少なくなってね。
おじいさんも私もここを守るために必死で働いていたの。女遊びも男の甲斐性よ。私はそれで女将に成れたし」
「あはは……」
これは女将さんにかなう旦那さんはいないだろうな。
かかあ天下と聞いていたがこの人やほかの二人がおじいさんたちを支えてなんとかここは持っているのだろう。
「それにね。貴方には感謝しているのよ」
「え?」
私に? なんでだろう?
「貴方を抱く前、あの人たちが少しボケかけていたの」
ボケ? まさか……。
私はちょっと驚いたが、女将さんは話を続ける。
「本当に初期でね。治療と休息を兼ねてあの温泉に行かせたのよ。
そしたら貴方を抱いて性欲が蘇ったらしく、また働くようになったの。
あの温泉に行って貴方に会ってなかったらあの人たちのボケは進んでいたかもしれないわね」
そこまで言って女将さんは苦笑する。
あのおじいさんたちの性欲が蘇った? それはつまり……私は女将さんを見ると女将さんはニッコリと笑う。
「この年でまた子供は……ね。まぁ私たち三人とも、あの人たちの夜這いで後妻に収まったから文句も言えないけど、だったら責任を取ってもらわらいといけない人が一人いるでしょ?」
「あはははは……」
つまり、三人とも後妻のばあ様たちを夜這いして子供を産ませようとしたのか。
あの三人も必死だったのだろうけど、逆にそれが私にまで及ぶとは思わなかっただろうな。
作家としていやな考えが頭をよぎった。
あのおじいさんたちの後妻の理由はもしかしてこれかもしれない。
子供を産むのは今でも命懸けだ。昔はもっと大変だっただろう。
ここを守るために必死になっていたの、田舎にはこういう風習がいまだ残っているのだろう。
「私は産むつもりだし、二人も多分そうね。
で、天野はるかさん。良ければ私たちと一緒にあの人たちの子供を産まない?」
女将さんの笑顔に私はドキッとした。
あの快楽を味わった者として、そしてまだ快楽を求める者として。
肉便器の天野はるかは、それを受け入れそうになる。
けど……
「素敵な申し出ですね。ありがとうございます。
けど、お断りします」
私はきっぱりと断る。
女将さんは少し残念そうな顔をするが、私は続ける。
あの温泉の快楽は素晴らしいものだし、おじいさんたちと少年たちのセックスも楽しい。
でも……。
「私は作家です。
何者でもない私が、肉便器を経てやっと見つけた私なんです。
あの快楽は小説の糧にしたいんです。
あのおじいさんたちや少年たちとのアバンチュールも、私は物語のネタとしてしか見ていません。
でも、それでいいんです。それがいいんです」
「そう……残念ね」
女将さんは本当に残念そうに言うが、私は続ける。
私は小説家なんだ。目の前のちんぽや精液より、原稿用紙とペンをとってしまう女なんだ。
私は女将さんに頭を下げる。
この宿は素晴らしいし、ここでの体験も最高だ。
けど私は小説家なんだという決意を顔に私は頭を上げると、笑顔で嘘を言う。
「ネタがなくなったら私はまたここに来ますよ。
その時は、よろしくお願いします」
「そう……ありがとうね。天野さん」
女将さんはそう言ってニッコリと笑った。
その笑顔は、本当に綺麗だった。
そして私は宿を後にして家路につくのだった。
「旅行はいかがでした?」
「いい休日でしたよ。日曜に帰るつもりだったのに気持ちいいから有給を使ってもう一泊するぐらい」
「それは良かった」
帰りのタクシーも行きのタクシーと同じだった。
もちろん、私の姿は行きと同じくワンピースに麦わら帽子姿。
ただ、その宿泊の間に散々輪姦されていたるので卑猥なタトゥーシールとかそのまま体についているのだが。
「女将さん若くて奇麗でしたね」
「ですよね。昔は映画に出ていたとかで、その縁で後妻と女将になったとか」
「へぇ~どんな映画なんです?」
「ポ……ゴホンゴホン!すいません。
ちょっと忘れました」
タクシーの運転手と話をしていたが、まぁ私に取ってはどうでもいい事だ。
多分ポルノ映画って言おうとしたんだ。
あの女将さんらしいなと思った。
私はまた本を出すためにも作家として頑張らないと。
「お客さん。着きましたよ」
「はい」
駅に着く。
帰りの列車の中で今回の話をネタにどんな官能小説を書いてやろうかと考える私がいた。
本というのは残る。残ってしまう。
色に狂い、肉便器として生き、その果てにその物語を紡ぎ、己の生き様を、恥多き人生を晒して残そうとする私はなんて最低で最高の小説家なのだろうか。
車内のリクライニングシートに座ってくっくっくと一人笑いを噛みしめる。
けど、それも仕方がないのだ。だって私は……小説家なのだから。
「だから、売文稼業はやめられないのよ♡」
車内で小さく声を漏らして、私はメモ帳に今回の旅をネタにした小説を書き始めた。