あくまでフィクションである。
裏でそこそこ肉便器生活をしているとその記録というものはなかなか消えないものである。
どこから探し出したのかしらないが、マリコが見つけて激怒したオファーというのがこれである。
「『人間オークション』ですってぇぇ!!!
この令和の世になんてもんをやっているのよ!!!
しかもはるかを家畜扱いって!!!」
ブチ切れ中のマリコを横に私は苦笑するしかない。
なお、そのオファーというのが、まんま苗床なのが笑うしかない。
『日本在住の高所得男性へ
低コスト・低工数・低リスクで、若く壮麗な女性たちと優秀な遺伝子を残しませんか?
もちろん逆のオファーもあります。
育児コスト・社会リスク・医療保障込みで産む機械となれる女性には特別のオファーをご用意しています。 詳細は下記アドレスまで』
いやもう笑うしかない。
これ以上ない人身売買で、東南アジアの若い女性たちを代理母にするというプロジェクトはバブル華やかなりし頃に派手に話題になったものである。
地方はとにかく人手がおらず、若い人間が都会に去って人不足はそのころから加速しており、そんな中で残った男性相手に外国人妻がというのは大いに売れたものだ。
家族を作り、子供を残すという事だけならば悪くはない仕組みなのだが、これが大手を振って広がらなかったのはそうやってできた子供がハーフになってしまうという問題だった。
そんなことが許容されるようなら、田舎になっている訳で。
ここまで大っぴらにこんなのが出で来たという事は、それだけこの国の少子高齢化が目立ってきた事の表れでもあるのだろう。
「はるかの体はたしかに価値はあるとは思うけど、行為でなくて苗床というか産む機械ってどこのエロマンガよ。もー」
マリコの怒りはごもっともなのだが、私自身はこれそんなに悪くもないと思ってたりする。
あの時代と違って、今では女だって働くことができる時代だ。ましてやこの体ならなおさらだ。自分の力で生活ができるのだから、そんな仕事をしても別に良いと思っている。
ましてや、結婚したいとは思わないが、子供は産んでもいいかな思うのは、この体もいずれは衰えて産めなくなる事への生物的恐れなのかもしれない。
それとも私が元々性欲が強いだけなのかもしれないが。
「具体的にはどんな感じなのよ?」
「女性向けのアドレスがあるわよ。これね……」
という訳で、マリコとふたりで眺めてみると、エロくはない容赦ない社会の闇を見せつける事になった。
白衣を着た外人女性が流暢な日本語でこんな事を良い始める。
「何処の国もそうですが、純血主義というものは存在します。
特に先進国では移民問題も過熱している中で自国民族のお子様を欲しがる家庭は多く存在しております。
そんな方々の為に我々は母体を募集しております。
我々としましても、皆様方の生活を守るために全力でサポートいたします。皆様方の不安を取り除き、より豊かな生活を送っていただけるよう最善の努力をさせて頂きますので、ぜひともよろしくお願い致します」
そして施設案内に移るのだが、マリコ曰く窓の景色から見て東南アジアの某国。政情不安で国境に不安があったりする場所らしい。ちなみにこういうところの方が安全とかいう話もあるそうで。
そこに集められた女性たちはまず健康診断から始まる。
母体が健康でないと『産む機械』になれないからだ。
そこで各種感染症の有無やエイズウイルスなど危険な性病がないことが確認されたのち、主にアレルギー反応や副作用の確認であるが、それを経て体の準備が整ったところで、改めて面談を行い出産までのプランが提示されるのだそうだ。
厄介なのが、男性と違い女性は子供を産むために拘束時間がとても長い事。
10月10日に体のケアまで入れて、一年半のプランで、現地女性の場合だと価格は700万円となる。
日本の価格体系だと安めの相場ではあるが、実際に現地に行くともっと安い値段だったりする場合もあるようだ。
これが私のオファーである日本人女性コースだと、1100万程度になるそうな。私としては、それでもだいぶ安い気がするんだけど……。
表向きは海外派遣で母体が健康である事を前提だが、実際裏向きは国外誘拐であり、身代金目的ではなく産む機械として売られるという事だ。
またそれがわかっていて引き受ける方も引き受ける訳だが、まあお里の知れているというところだろう。いや違うか。
こうして産むと、そこで赤ちゃんと離されて、赤ちゃんはクライアントである父親の所に行く事になる。
「一千万か……」
漫画の金貸しの幹部は言い切った。
『金は命より重い』と。そんな彼が重たいと言った金額が1000万である。
事実、昨今の動画では1000万溜めると勝ち組なんて言われる始末。
見ず知らずの男の子供を孕み、その子と二度と会えないだけでその勝ち組の切符が手に入るのならば、むしろ安いのかもしれないと思う事もあるわけで。
「受けてもいいかなとは思うけど、なしだわ。これ」
「はるかが受けなくてホッとしているけど、一応理由は聞いても?」
マリコに私は薄くだけ笑った。
伊達に人間辞めて肉便器をやっていた訳ではないのだ。
「多分売られて帰ってこれなくなるから」
「うわぁ……」