無自覚無防備なTS聖女は今日も誰かを狂わせる(R18版) 作:月見ハク
フィーネに魅了された俺は、さりげなく彼女に近づくことにした。
魔獣討伐訓練では偶然にも彼女と一緒に参加することになった。しかもそこそこ強い魔獣に襲われたおかげで、俺の力をアピールすることもできた。
いやそれどころか、フィーネとパートナーのような雰囲気にもなれた。まさに幸運のトリプルコンボだ。
彼女の治癒魔法は圧倒的で、誰もが見惚れた。
おそらく教会認定の聖女にも優るだろう。俺はますますフィーネに心酔した。
この時、前世も含めてこれまでで一番頭を回転させた。どうしたら彼女の気を引けるだろう。どうしたら彼女の心を掴めるだろう。
「フィーネお疲れさま! 治癒、助かったよ」
結果、俺はあえてフィーネとフレンドリーかつフランクに接してみた。
多分だが、彼女はこういう関係性にこそ飢えているのではと考えて。
「こちらこそ助かったよ、シャ……シャーテイン君」
(……可愛すぎかよ)
俺の読みは大当たりだった。
調子に乗って手を差し出してみると、彼女も遠慮がちに握手に応じる。
信じられないほどなめらかできめ細かい、フィーネの柔肌。
一生触れていたいと思わせる手のひらの感触に、俺の脳は一瞬で沸騰した。
恥ずかしそうな上目遣いが色っぽすぎる。嬉しそうにはにかむ笑顔に俺の心はノックアウト寸前だった。
「す、すごい……じゃあシャーテイン君も新王陛下から直々に?」
「あーまあ、なんか俺ずいぶん実力がバレちゃったみたいでさ。目立ちたくないんだけどな」
「うん、その気持ちは分かるよ……」
可愛い。
こんなに可愛いいのに絶大な治癒魔法の使い手で、でも謙虚なフィーネがやっぱ可愛い。
「ああうん、とはいえ目立っちゃうんだけどさ~」
「でもすごいなぁ……かっこいいよ、シャーテイン君は」
俺の――きっと相手の言ってほしいことを無意識に言ってしまうのだろう彼女が愛おしい。
幼い少年のような純粋な眼差しで見つめてくる瞳に吸い込まれそうだ。
「いやフィーネだって十分すごいよ、あんな治癒魔法見たことないぜ」
「そ、そうかな……」
そこで嬉しそうに照れるとか、反則だろ……。
俺はあえて気の利いた会話ではなく、季節の移ろいや草花の変化、少年が好きそうな昆虫や冒険の話題を振ってみた。
ここでも俺の読みは冴えていた。
彼女は目を輝かせて食いつき、だんだん口数も多くなってきた。
「――それでマリエッタっていう専属の侍女がいるんだけどさ、いっつもからかってくるんだよ」
フィーネは平凡で身近な話題ほど、楽しそうに話してくれた。
ああ天使だわ。マジ天使。この時間だけで学院に来た意味があったかも。
「あれ……?」
会話も途切れた頃、彼女が不意に押し黙った。
「ん、どしたフィーネ?」
彼女は何かを打ち明けようとして、でも恥ずかしくてためらうように口をパクパクさせる。
かと思えば意を決したように俺を見つめてきた。
(やばっ、不意打ちかよ……!)
激しく高鳴る心臓を押さえ、微弱な電気信号を送って落ち着かせる。
「あ、あの、シャーテイン君に……こんな変なお願いをするのは忍びないんだけど。も、もしよろしければ、たまに私の話し相手になってもらえない、でしょうか? 私、話し下手みたいで、どうにか克服できたらいいと思ってるんです」
自信がないのか途中から敬語になっている。
頬を赤らめ、伏し目がちに俺を見てくる。
(もうあかんて……)
心が持っていかれる。とてもじゃないが彼女の顔を直視できない。
うん、顔の部位に集中しよう。
まつ毛長いな……。あ、少し目元が潤んでる。今すぐ抱きしめたい。
いかん、少し冷静になろう。
彼女の手紙の内容や会話から察するに、学院に来るまでもまともに友達を作ってこなかったのだろう。
であれば、ここは一気に距離を詰めるチャンスだ。
「話し相手っていうか…、俺たちもうダチじゃん?」
「ダ、ダチ……!?」
キョトンとした顔も死ぬほど可愛いな。
「えっと、もう……友達、なの?」
「そう、友達」
「え……そ、そっか、じゃあ、よろしくお願いします……?」
フィーネは少し混乱した様子で、おずおずと手を差し出してくる。
もちろん両手で握り返し、その小さくて柔らかい感触を脳のメモリーに記憶した。
それからは至福の日々だった。
俺は剣術や馬術の授業で実力を誇示し、クラス全員の熾烈なにらみ合いを制してフィーネの剣の打ち込みの相手をしたり、馬の世話のコツを教えたりなんかもした。
いつもにらみ合いが激しすぎて、結果彼女をいつもぼっちにさせていたんだから、俺が彼女の専属パートナーになっても文句は言わせない。
授業だけでなく、休み時間や昼休みもフィーネと過ごすことができた。彼女の唯一の友達として。
でも、あまり近づき過ぎるのも良くないだろう。
すでに学院中を敵に回しつつあるし、がっつき過ぎて彼女に引かれてしまっては元も子もない。だから節度ある友達付き合いを心がけた。
でも夏になり、状況が変わった。
フィーネが半袖ブラウス姿で過ごすようになり、その破壊力が想像以上だったのだ。
「フィーネ、前に話した少年冒険団が魔獣を討伐するっていう小説を仕入れたんだけど、見てみる?」
ベンチの隣に座るフィーネに本を見せる。
「え、どれどれ……」
フィーネが無防備に距離を詰めてきた。
(えっろッ!!!!)
ブラウスやスカートから露出した二の腕や太ももは、照りつける陽射しに容赦なく晒しているにも関わらず、透き通るような白さと艶を保っている。触れることができれば、これまで抱いたどの女よりも心地いい肌触りだろう。
ほんのり汗ばんだ体から漂ってくる香りは、鼻腔を惚けさせるほど甘くて清らかで、鼻を押し付けて思いきり吸い込みたい衝動に駆られる。
フィーネがもう立派な女であることを主張する胸のふくらみは、前世基準でCカップ……いやDカップはあるだろう。同年代の女子に比べ少し大きいが、出しゃばりすぎないサイズ感が最高だ。男の欲望を具現化したようなその丸みは、しっかりと張りがあり、それでいてちょっと触れただけで形を変えるような柔らかさも兼ね備えていそうだ。ぜひ揉んでみたい。
「あ、これ挿絵も付いてるんだ」
ささやくような美声が鼓膜をくすぐる。薄く輪郭が縁取られた唇は、艶と弾力を震わせながらわずかに口角を上げている。
目もわくわくといった感じの無邪気さを讃えており、それがどこか扇情的で性の妄想を掻き立ててしまう。
「ごめんフィーネ、俺ちょっと先生に呼ばれてるんだったわ。その本、読み終わったから貸してあげるよ」
「あ、うん。ありがとう」
俺は前かがみになって立ち去る。
もう、限界だ。
決行しよう。
彼女を手に入れるために、編み出した魔法がある。
脳が不快に感じる微弱な電気を空気中に伝搬させ、付近一帯から人を遠ざける「人よけの魔法」だ。
これまでも、俺はフィーネが眠るベッドに潜り込もうとしたことがあった。
しかし、彼女から常に発せられる祈りの力によって不可視の魔法が解けてしまい、ついでに自動発動した防護魔法に阻まれ、指一本も触れられなかったのだ。
おそらく無自覚に発動しているのだろう。
薬でも盛らない限り夜這いは不可能だ。
だとすればチャンスは、力を使い果たして一時的に魔力回路が休眠状態になる「天使の休息」の間だけ。
作戦はこうだ。
まず、フィーネがベンチに腰掛けて鍛錬を始めるのを待つ。最近は日陰で涼しく、あまり人の来ない寮の裏庭で読書をすることが多いと聞く。なら、この場所に向かった段階からフィーネの周囲に人よけの魔法を張ってもいいだろう。
やがてフィーネが眠りに落ちたら、俺は堂々と彼女の隣に座る。
まずは頭を撫でてみよう。起きないことを確認したら、その芸術品のような唇にキスをして、舐め、口に含んでみたい。十分に堪能したら彼女の口内に舌を侵入させる。「ん……」なんて可愛い声を上げるかもしれない。
その後は、彼女の小柄な体をぎゅうぎゅうと抱きしめ、その弾力と柔らかさを全身で味わう。……やば、もう射精しそう。
ハグを堪能したら、次は胸だ。
服の上から徐々に楽しみたい所だが、時間を掛けるとフィーネが目覚めてしまう。手早くブラウスのボタンを外し、乳房を覆うブラジャーをめくり上げる。まろび出たふくよかな柔乳に、まずは強くキスをして俺の印を残す。手のひらでその重みを感じながら揉みしだく。彼女の乳首は綺麗なピンク色だろうから、それもろとも乳房全体をしゃぶろう。徐々に硬くなってきた突起を舌で転がし、甘噛みする。……ああ、最高だ。
フィーネの上半身の味や柔らかさを堪能したら、いよいよ魅惑的な太ももの間に手を差し込み、潤みきったアソコを撫でて……それで……。
「うぅっ……!」
いつものようにフィーネを犯すことを夢想しながら自慰をして、想像の中で挿入してもいないのに射精してしまう。
現実でも、途中で一度は達してしまうだろう。
そんなことを考えていると、またもそそり立ってくる欲棒を慰めるべく、俺はひたすら夢想に耽った。
チャンスはすぐに巡ってきた。
夏の日の夕暮れ。
校舎裏庭のベンチで、静かな寝息を立てて眠るフィーネの姿があった。
周りには人の気配はない。
ただ一人、隣に座る俺を除いて。
何百回とシミュレートしたように、まずは頭を撫でてみる。
想像以上になめらかな感触に驚く。やはり妄想と現実では大違いだ。
「ん……」
フィーネの切なげな声に、体中が歓喜と劣情であふれる。
ついに、ついにフィーネを俺のものにできる。
甘いキスをしようと、頬に手を添えたとき。
「――――!」
内臓に灼けつくような痛みが走り、全身の穴という穴から炎が吹き出した。
声を上げることもできず全身が燃え盛る。
(なんだこれ、痛い、熱い、痛い……!)
あまりのことに脳が動転する。
(たす……け……て……)
「見過ごせる範囲はとうに超えているんだよ、シャーテイン・ハミルド」
パッと意識が戻る。反射的に声の方を向く。
そこには涼し気な顔をした美しい青年が、静かに立っていた。
(これは……幻覚魔法!?)
燃えて消し炭になったはずの体が、元通りになっている。いや、最初から燃えてなどいなかったのだ。
いつ意識に侵入されたのかすら分からなかった。
いやそれよりも、なぜこの男は俺の「人よけの魔法」をかいくぐってここにいるのだ。 どうして俺の名を……。
「類まれな才能や騒乱時の功労に免じて目をつむっていたのだがね。私の妹……王女の寝所に侵入した時点で、やはり首を刎ねるべきだったようだ。あまつさえ聖女に不埒な所業を企てた罪、ただの死で償えると思わぬことだ」
底冷えするような低い声に、ガクガクと震えが止まらなくなる。
なぜだ、なぜ、なぜ知っている……?
「殿下!? じゃなくてセダイト新王陛下!」
間近から聞こえるはずのないフィーネの声が聞こえ、肩が震えてしまった。
まだ目覚めるはずは……違う、俺が長い時間、幻覚に閉じ込められていたんだ。
いや、そんなことより新王、だと……!?
王国のトップがなぜこんなところに一人で?
夕闇を背に立つ影に目を凝らす。
しかしそこにはただ闇があるだけだった。
(まさか、回路が見えないなんて……)
幼少から魔力回路を磨き続けた程度では、到底及ぶことができないほどの力量差がそこにはあった。
……ああ、そうか。
ここは現実なんだ。
転生してから今やっとそれを実感した。
でも、もう遅い。俺はもう後戻りできないところにいる。
な心を抱かず、フィーネとただ友達でいられる幸せに満足するべきだったんだ。
彼女を見ると不思議そうな顔をしていた。ああ可愛いな。
……ごめんよ、フィーネ。
「そろそろ外してもらえるかな?」
有無を言わさぬ圧が、またもや全身を襲う。
この言葉に従わなければ俺はここで死ぬ。そうでなくてもどうせすぐ死ぬ。
「それでは失礼いたします、陛下。フィーネもまたね」
フィーネとの最期の別れをして、俺は死刑台に向かう気分で歩いた。
どこで間違えたのか。
父さんと母さん。わずかな稼ぎで俺を一生懸命育ててくれた。学院に行くと言ったら二人とも呆れていたな。
王都に置いてきたあのパン屋の娘。そういえば何年も笑った顔を見ていない。
俺は、何が欲しかったんだっけ?
男子寮に向かって歩いていると、ふいに視界が暗くなった。
魔力を練り、周囲に電撃魔法を放っている。しかし少しも手ごたえがない。
「あーこれ、終わったわ」
とんでもなく凄腕の、おそらく暗殺者のものだろう気配をうっすら感じる。
次の瞬間、意識がスッと消えていく感覚があった。
何をされたのかすら分からない。
苦痛も走馬灯もない。ただ消える。
転生したときと同じように、俺の人生は唐突に終わりを告げた。