※この作品はR-18です。

無自覚無防備なTS聖女は今日も誰かを狂わせる(R18版)   作:月見ハク

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第26話 【新王視点】毒牙のたくらみ

 初恋は聖女だった。

 

 

 王国の第二王子として生を受け、奔放な兄とは対象的に生真面目で不器用な性格に育った。

 

 兄で失敗したからか、幼少から厳しく君主教育を叩き込まれたせいだろう。物心つく頃には政務に参加するようになった。

 

 十五歳になり成人すると、成人の儀で聖女の祝福を受けた。

 

 あのときの衝撃を生涯忘れることはないだろう。

 

 聖女はマイという名の、黒髪が美しい少女だった。おそらく私よりも一つか二つは年下に見えた。純白のローブを身にまとい、全てを内包するような笑みを讃えるその姿はまさに女神。一目見て、私の理想の女性だと思った。

 

 聖女の願う公平で争いのない世界を作ろう。聖女とともに、平和な世界で幸せに暮らそう。本気でそう決意した。

 

 しかし、すぐに絶望的な現実を知る。

 

 聖女は純潔たる存在。ゆえに一生誰とも結ばれることはないのだという。

 過去には聖女に求愛した王もいたそうだが、結局は叶わなかったらしい。

 

 だが、私は聖女以外と結ばれるつもりはない。

 

 あの美しい黒髪の乙女を手に入れるためなら、何でもすると決めた。

 

 この国のあり方を変え、教会のルールを根本から作り変えよう。聖女も自由に好きな相手と結ばれる世界に。

 

 予定通り、王位継承を巡って兄上――第一王子の派閥と私の派閥とで対立が始まった。

 私は兄上の派閥が暴走するのをじっくりと待った。

 

 下馬評では私のほうが優勢だったから、焦りはなかった。政治に積極的に参加していて官僚に影響力を持ち、誠実な王子として民の評判も良い。おまけに魔力も量、質ともに兄上より私のほうが上なのだ。

 

 そんな状況で第一王子派が焦らないはずがなかった。

 

 手はずどおり、第一王子派に忍ばせたスパイが王都でテロを起こした。後に引けなくなった第一王子派は煽られるように一斉蜂起した。まだ準備不足の段階にも関わらず。

 

 クーデターを鎮めるのは簡単だった。圧倒的な魔力と知力を持つウォルム侯爵が参謀として味方に付いてくれたのも大きい。私は彼の力を借りて第一王子派を徹底的に排除した。

 

 水面下では出世欲の権化であるゴーゼ司教と手を組み、念願である教会の改革にも着手した。

 

 先代の大司教を失脚させ、黒髪の聖女も一緒に交代させる。

 

 適当な聖女候補を用意して、新たな聖女に任命するのだ。そうして聖女でなくなった黒髪の乙女を、晴れて私の妻とする。

 

 聖女を妻にめとるよりも、こちらのほうが何倍も手っ取り早い。

 

 計画は順調だった。

 

 タイミングよく、聖女候補に最適な少女も見つかった。

 

 私の右腕であるウォルム侯爵の、義理の妹フィーネ。

 

 確か兄上が最後に立ち寄ったのがエルドア領で、その際はフィーネ嬢がずっと案内を務めていたと聞く。噂によると兄上はフィーネ嬢に夢中になっていたらしい。年端もゆかぬ娘にまで手を出すのかと心底呆れたのだが。

 

 

「――エルドア領によくお越し下さりました、セダイト殿下」

 

 フィーネ嬢と対面して、私は固まってしまった。

 

 女神が、顕現したかのような美しさ。

 なぜか男性貴族の礼服に身を包んでいたが、それすら彼女の高貴さやエキゾチックさを引き立たせている。

 

 兄上が夢中になったというのも合点がいった。

 

 フィーネ嬢が征伐軍への同行を求めてきたときは、その勇敢さに驚いた。同時に無謀さに怒りが湧いた。もう聖女気取りなのかと。

 

 しかし彼女は本気だった。

 

「私はできるだけ多くの民を、癒そうと考えております。そこに領の隔たりはございません。傷ついた民は、等しく癒やします」

 

 その気高い瞳に射抜かれ、心臓を鷲掴みにされたかのように苦しくなった。

 

 敵軍の兵まで癒やすという底抜けの慈愛は、あの黒髪の聖女の雰囲気と重なる。フィーネ嬢の場合は、その絵空事を実現できる力も持ち合わせていた。

 王国に並ぶものなしと謳われた私の炎熱魔法。それを優しい治癒の力が包み込み、中和したのだ。

 

 この光景を、私は生涯忘れることはないだろう。

 

 気高く、強く、どこまでも優しい。

 まさに私の理想の女性そのものだった。

 

 見ると、フィーネ嬢は額に大粒の汗をかいている。

 私が威圧してしまったせいだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

 ふと、フィーネ嬢の胸元に視線が吸い寄せられる。

 

 ジャケットの下に着ているシャツが汗で濡れ、肌にピタリとくっついていた。

 下着を付けていないのだろうか。女性らしいふくらみや形の良いへそが透けている。

 

(なんて、妖美なんだ)

 

 瞬間、私の奥底から突き上げる衝動があった。

 

 それは恋なんて生ぬるいものではない。私はフィーネ嬢に激しく欲情していた。まだ成人前の少女に。

 

「あの、恥ずかしいものをお見せしてしまい、申し訳ございません……?」

 

 フィーネ嬢が恥ずかしそうに頬を染め、上目遣いで見つめてくる。その姿は少女とは思えないほどの色気を放ち、同時に庇護欲をそそられた。

 

 今すぐ抱きしめたい衝動をなんとか抑え、私は屋敷を後にした。

 

 気づけば、長年恋焦がれていたはずの黒髪の乙女のことが、頭からすっかり消え失せていた。

 

 

 もう一度フィーネに会いたい。

 

 忙しい合間を縫って誘いの手紙を送ったが、そのことごとくをウォルムに妨害された。

 

 あげくの果てには、領に戻り次第フィーネに求婚すると告げられてしまった。彼女はまだ成人前だというのにだ。

 

 私はウォルムを排除することに決めた。

 

 とはいえ彼の王都騒乱における貢献ははかり知れないし、幼少からの顔なじみだ。穏便な方法でフィーネから離そう。私とフィーネが婚約の契を結ぶまででいい。

 

 あらゆる権力を駆使し、ウォルムとフィーネが顔を合わせないよう画策した。

 

 愛しいフィーネのことを夢想する日々。

 

 エルドアの屋敷で見た、銀色の艶めきを放つ蜂蜜色の髪、透き通るような青い瞳、絶世の美しさを誇りながらどこか親しみやすい顔立ち、はにかむような笑顔、恥ずかしそうな上目遣い、そして魅惑的な胸のふくらみ……。

 

 十数年溜め込んだ欲望がすべて解き放たれたかのように、私は毎晩、彼女を抱くことを夢見た。

 

 

 王立高等学院にフィーネが入学することが決まる前から、彼女に似合う制服を作るのに試行錯誤した。彼女に合う色合いや生地を考えるのは、激務の中で憩いのひとときだった。

 

 そしてせっかくフィーネが学院に通うため王都に来たというのに、私は彼女と会えない日々が続いた。

 

 ウォルムだけでなく、エルドア侯爵家の騎士や使用人にいたるまでが全力でフィーネを囲っているようだ。

 

 正攻法では無理か。

 

 私は王としての権力を大いに利用することにした。

 王宮晩餐会に王直々に招待する。それも本人に直接会って誘う。事実上の勅令に、貴族は絶対に逆らえない。

 

 私は誰にも予定を告げず学院を訪れた。ひそかにフィーネを見張らせている陰(・)の(・)者(・)に彼女のもとへ案内させる。

 

 夕暮れの中、フィーネは裏庭のベンチに腰掛けてすやすやと眠っていた。

 

「なんて美しいんだ……」

 

 思わず言葉を漏らすほど、神秘的な光景。本物の女神がそこにいた。

 

 だがその隣には、最近フィーネに付きまとっているという男がいた。

 

 シャーテイン・ハミルド。

 

 陰の者によれば、シャーテインは程度の低い妨害魔法を編み出し、人払いをしてフィーネに淫らな行為を働こうとしているらしい。

 

 私はこの男を知っていた。

 

 シャーテインはかつて王女である私の妹の寝所に忍び込み、唇を奪った不埒者だ。

 即刻処刑とするところだが、王都騒乱で妹を守り、我が陣営の勝利に大きく貢献してくれたのもこの男だった。

 

 妹は私の影響なのか、聖女に憧れている。自分の唇を穢したこの男の助命を嘆願してきたのだ。

 

 二度と会いたくないだろうに、妹はこの不埒者に褒賞まで手渡した。

 その場にいた者によると、シャーテインの色欲のこもった視線に耐える姿はたいそう痛々しかったとか。

 

 いつか首を刎(は)ねてやろうと決めていたのだが。

 

「見過ごせる範囲はとうに超えているんだよ、シャーテイン・ハミルド」

 

 不埒者はこともあろうに、私の最も大事な女性を毒牙にかけようとしている。

 

 殺意を込めた魔力で、不埒者を貫く。

 シャーテインは確かにそこそこの魔力の持ち主だが、所詮は平民のレベルだ。近くに潜む陰の者にすら、てんで敵わないだろう。

 

 私は陰の者に目配せをして、シャーテインを処(・)理(・)するよう指示した。

 

 邪魔者を追い払い、ようやくフィーネを堪能する。

 

 制服がよく似合っていた。

 

 やはり彼女にはドレスではなくブラウスが似合う。エルドアの屋敷で見た、あの魅惑的なシャツ姿を思い出す。

 

 濃紺のスカートから伸びる太ももに目を奪われる。彼女の白さを際立たせる暗い色にデザインした甲斐があった。その扇情的な両脚がまぶしい。

 

 セミロングの蜂蜜色の髪が、夕暮れの優しい風にさらさらと揺れていた。

 

 すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られる。

 抱きしめて身動きを封じ、あの太ももに手を這わせ、スカートの中を蹂躙したい。

 そんな衝動に、思わず股間が熱くなった。

 

 私の用意した服に、毎日その美しい素肌を包むフィーネ。

 その事実だけで独占欲が満たされるはずだったが、すぐにもっともっとと新しい欲が生まれ肥大化する。

 

 そんな私の劣情が伝わってしまったのか。

 

「あ……あのっ! 義兄さまに相談いたします、ので」

 

 声色や視線、少し後ずさった足元、そして魔力……どれもが私への拒絶感を含んでいた。

 

 おそらく彼女は無意識なのだろう。

 しかし私には分かってしまう。

 その現実に胸が破裂しそうになる。

 

 やはり正攻法では無理なのだ。

 

 どうしたらフィーネを手に入れられる?

 

 一瞬で思考を巡らせ、私は彼女の気持ちを傾けさせるのではなく、手っ取り早く既(・)成(・)事(・)実(・)を作ることに決めた。

 

 私に気のないフィーネをおびき出すため、私も彼女に特別の思いはないが仕方なく……といった設定を仕立て、王宮晩餐会に招いた。

 

 正直来ないかもとも思ったが、優しいフィーネは困っている私を無下にできなかったのだろう。彼女は晩餐会にやってきた。

 

 

「聖女、フィーネ様のご来場!」

 

 私は――いやおそらく会場の誰もが、フィーネの姿に見惚れてしまった。

 

 無駄を完璧なまでに省いたベージュのドレスは、彼女の美貌と神秘性を一層引き立てている。

 

 うっすら頬を上気させ、ほんのりと笑みを浮かべる姿はまさに慈愛の女神そのものだった。

 

 伏し目がちに歩く様は、可憐な天使に見えた。

 

 化粧を一切していないにも関わらず、見る者すべてが感嘆の吐息を洩らすほどの美貌。

 露出した白い肩は艶(なまめ)かしく、会場中の男を虜にしていた。

 

 ポニーテールにしているせいで美しいうなじもあらわになっていて、首や胸元に邪魔な宝飾品を付けていない分、ありのままの白い素肌を堪能することができた。きめ細かく透き通った生肌が、彼女の無垢さを象徴している。

 

 そして……コルセットを付けていない胸元には彼女本来のふくらみが実っていて、私の劣情を増大させた。

 

 ダンスでは、下半身の興奮を隠すのに苦労した。

 

 吐息すら感じられるほどの至近距離でフィーネの甘い香り、整った美貌、艶めかしい素肌を見せつけられて、反応しない男はこの世にいないだろう。

 

 おまけにフィーネの手はおそろしく滑(なめ)らかで、直に触れると吸い付くような肌触りだった。

 

 抱きしめたらどんな感触なのだろう。密着して味わいたい。

 

 耐えきれず、思わず引き寄せてしまった。

 

「ちょっ……!」

 

 フィーネの拒絶感が一気に高まり、彼女の体内で防護魔法が発動するのが分かった。

 

「待って…! 母上が見ているんだ。すまないが少しだけ辛抱してくれ」

 

 危なかった。

 咄嗟の言い訳も、人のいいフィーネを騙すには十分だったようだ。

 

 実際、フィーネと婚約したいという私の願いに一番反対していたのは母上だ。これで少しは母上を牽制できただろう。

 

 「すまない」と謝ると、優しいフィーネは「わかりました……少しの間だけですよ」とため息をついた。

 

 その声色から、心の距離が少し縮まったのを感じる。

 私は抱きしめそうになる情欲を死ぬ気で堪(こら)えた。

 

 

 中庭でのフィーネとの歓談は、至福の一時だった。

 

 しかしまたも現実が私を絶望させる。

 

「私のお役目はこれで果たされましたでしょうか? 今宵はこれで失礼させていただけると幸いなのですが」

 

 その冷たさを含んだ声で、彼女の気持ちを悟った。

 

 手を尽くしても、やはり私に気持ちが傾くことはないのだろう。

 

 その後も、何度も手紙を送ったが返事はそっけないもので、お茶会の誘いも断られた。

 

 晩餐会で社交界には既成事実を作ることができた。

 しかしそれだけではまだ、彼女を手に入れることはできない。

 

 仕方がない。

 

 もっと直接的に彼女を手に入れるしかないのだろう。

 

 

 私は、フィーネの純潔を奪うことに決めた。

 

 

 意外にも、彼女を聖女にしたがっていたゴーゼ大司教は、純潔を奪うという私の企てに反対しなかった。

 

 それどころか具体的な方(・)法(・)までをも提案してきた。

 大司教はその交換条件として、自分もその場に同席させろと言ってきた。

 

(なるほどな、この男も下劣な獣だったか)

 

 正直、私以外にフィーネの裸を見せるのは死ぬほど嫌だったが、そうも言っていられない。

 

 早くしないとウォルムに奪われてしまう。

 奴もまた、フィーネと結ばれるなら手段を選ばないだろう。この私のように。

 

 ゴーゼ大司教は、知れば知るほど下卑た男だった。

 

 教会では何人もの聖女見習いを卑劣な手口で犯しているらしい。それを得意げに暴露してくるあたり、私と共犯関係を作り、影響力を持とうと考えているのだろう。

 

 唯一の目撃者となるこの男にも、早々に消えてもらうことにしよう。

 フィーネの裸体をいやらしい目つきで観賞する大司教の姿を想像して、虫唾が走った。

 

 

「こんな服はいかがでしょう?」

 

 ゴーゼ大司教がニタニタと笑いながら見せてきた衣装は、薄布が合わさっただけの、商売女でも着ないような淫靡なものだった。

 

 大司教は毎夜、聖女候補にこの服を着せて楽しんでいるのだという。下劣さに吐き気がする。

 

 しかしフィーネがそれを着ている姿を想像すると、否応なく股間が膨らんでしまった。

 

 

 一番の障害は、フィーネの防護魔法だった。

 

 その絶大な力は、私の魔力をもってしても弾かれてしまう。

 何重にも策を講じて、封じなくてはならない。

 

 魔力の発動を阻害する薬液入りの湯に入浴させ、さらに防護魔法を封じる暗幕で舞台を包む。最終的には無理やり彼女の体内に私の魔力を流し込み、完全に麻痺させる。

 

 この露出の高い衣装も、服の中に魔道具を仕込まれないようにという意図もある。

 

「普通の少女であれば、恥ずかしがって魔法を練るどころではなくなりますよ。無垢な少女であればなおさら……そんな姿を眺めるのもいいでしょう?」

 

 ニチャリと音がしそうなほど醜悪な笑みを浮かべる大司教に、私は吐き気を覚えつつ、反論はしなかった。

 

 

 豊穣の舞を舞わせるというゴーゼ大司教の案も採用した。

 

 その練習を名目にフィーネを王都に引き止める狙いもあったし、当日、舞台上でなるべく彼女を疲弊させたかった。

 

 しかし心の奥底では、淫靡な衣装で舞を踊る彼女の姿を見たいという欲求のほうが大きかった。

 

 唯一の不確定要素は、護衛のエラだ。

 

 彼女はかつて妹の護衛をしており、その実力の高さは折り紙付きだ。

 こちらも、最強クラスの陰の者に対処させよう。

 

 そうして計画は整った。

 

 もうすぐフィーネは私のものになる。

 

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