学園襲撃、これを1話でまとめるか悩みました。
クロウside
ローズと再会してから5日間が経過。選別トーナメントでモブ式奥義を披露した事で怪我を負ったシドが今日から復帰してくる。
正直な話、シドの復帰は今の俺にとっては凄くありがたい。何なら復帰祝いに金貨を1枚渡してもいいと思える程に。
何故かって? それはローズが露骨に絡んでくるからだ。
「おはようございます。今日は良い天気ですね」
「奇遇ですね。よければご一緒に昼食はどうですか?」
「ガオーン領の一角牛は素晴らしいですね。少しお話を聞かせてくれませんか?」
「クロウ君は婚約者がいないと言う事ですが候補などは決めてないんですか?」
「もしクロウ君の都合が合うならば、今度の休みに出かけませんか?」
などなど5日間毎日、暇さえあれば会おうとしてくる。周囲は“選別トーナメントでは普通に良い勝負をしたから少し意識している程度”、とはなっているが過去の件からローズを知っている俺からしたら明らかに異性の、それもlikeではなくloveの方で。
本人は無自覚なのか自身が隣国の王女なのにも関わらず、男子に必要以上に迫る行動はどうなのだろうか?
こうなるとシドがいない今、ヒョロとジャガは頼りにならない。美人と話せるからと俺の居場所を教えたり友達アピールをして俺を拘束しようとするし、その点で言えばシドは金を払えば従順(褒め言葉)だから楽だ。
(それに今後はシェリーの動向も探れるからな)
シドが療養する事になった日の放課後に見舞いついでにローズがスタイリッシュ盗賊スレイヤーを知っているとシドに教えた。
するとシドも意外と驚いており、その時に自分もシェリーと友達になったんだと言っている。その中でシェリーはアイリス様から正体不明のアーティファクトの解明を依頼されている事も。
「おはよー」
そんな感じで学園の屋上で今後の行動を練っているとやって来たシド。俺はシドが視界に入った瞬間、ポケットに入れておいた金貨を指で弾き射出。弾丸レベルの回転とスピードで撃ち出されそれにシドは一瞬だけ戸惑うが、その正体が金貨だと理解すると何の苦もなくキャッチした。
「…………要件は?」
「ネームド(ローズ)が積極的に関わってきてる。アイツ等(ヒョロジャガ)じゃ役に立たないから盾(肉壁)を頼む」
「おっけー」
俺の言った事を理解し、懐に金貨を大事そうに仕舞うシド。対価を払った以上は応える。そうでなければシドなりのプライドが決して許さない。
(うん。持つべきは揺るぎ無い信念を持つ信頼出来る仲間だな)
これでローズの件はひとまず大丈夫だろう。“後は何も問題が起きなければ”いいだろう。
「何かフラグを立てなかった」
「…………気のせいだろ」
多分。
◇◆◇◆
「あ"あ"〜」
授業中ではあるが生理現象は仕方ない。トイレで溜まっていた尿意を解放するのは心地良い。しかも今頃は生徒会選挙の話でローズが俺達の教室に来ている頃、ローズには悪いがトイレで時間を潰させてもらおう。
…………と呑気に思っていたが、事態は思わぬ方向へと。
『キャ──ー!』
「…………ん?」
獣人特有の聴覚が拾った女子の悲鳴。それに続くかのようにツンと嗅覚を襲う血の匂い。
そして“魔力が上手く操作出来ない”。
この状況、どうやら学園内で事件が起きているようだ。それも多くの魔剣士である学生が役に立たない状態で。
「さて、と。取り敢えず現状の把握「おい! お前!」する前に……」
トイレから出ようとした瞬間に全身を黒ずくめの衣装で包んだ男遭遇。魔力量と隙だらけの様子から雑魚だと伺える。
「へへ、俺“達”はシャドウガー、ガー、ガーディアン? だ! 大人しくしろ!」
「…………素直に応えるとでも思うか?」
シド好みな会話。今のところ相手は対した実力もなければ作戦も完全には把握していない。自分達が集団であると自白し、間違った組織名を名乗る辺りシドが見たら典型的なモブだと喜ぶだろう。
それでも俺が魔力を使えないと理解しているから強気でいられる。これでもし俺が女だったら男に返り討ち、そのまま犯されるまでが一連の流れだろう。
しかし、それは普通の人間の場合ならだ。
「くく! この俺様に見つかったのが運の「じゃあな」つ……き……」
男が喋り終える前に横から脳天に薄く鋭いスライムを刺して瞬殺。操作が難しくなるが出来ない訳ではない。それに魔力伝導が高いスライムなら尚更に楽で、付け加えると鍛えた獣人ならば素の身体能力で魔剣士を殺すのも可能。
「どうするか」
バタバタと聞こえる大人数の足音。それは1箇所……人数が考えると大講堂か。襲撃犯達の狙いは不明、わざわざ魔剣士が大勢いる学園を襲撃するにはリスクが高く、単純な目的があるとは思えない。
わかっているのは襲撃犯が教団絡みである事。これは相手がシャドウガーデンを名乗っていたから確実で、以前のニューからの報告を照らし合わせたら合致する。
(大勢の人質、魔力操作が上手く出来ない、範囲は恐らく学園全体)
これらをまとめると王国側からの救援は困難。むしろ足手まといにしかならない。きっとシャドウガーデンの面子なら現状も把握してるだろうし、取り敢えずは…………。
「この状況を“楽しんでいる”バカの所に行くか」
出来るだけ敵を暗殺しながら。
◇◆◇◆
「ぐっ! あ、ああ。しぬ、の、か。僕は……」
「…………」
途中で敵を何人か殺しながら教室に戻った俺。そこには血溜まりの真ん中で倒れ、片腕を天井に伸ばしながらアホなセリフを呟くシドの姿があった。
(……いや、こんな時に何やってんだよ)
バッサリと斬られた跡は本物で出血もマジ、なのに本人は何故か嬉しそうと言う意味不明な現場。これはアレか? 俺が来たからしたのか? だとしたら相当なバカだぞ。
とにかくこれ以上の寸劇に付き合うのも馬鹿らしいので、瀕死状態のシドの腹に蹴りを入れる。
「おら、早く起きろ」
「ふぐぅ! い、今はちょっとシャレにならないから!」
「お前がアホな事してなけゃ蹴る必要ねーんだよ」
俺の蹴りが効いたのかゴホゴホと咳込みながらシドは慌てて立つ。改めて見ると傷は深く太刀筋が良いのも考え、そこそこの手練れではあるとわかる。
「で、お前は何をしたんだ?」
「何って。いきなりテロリスト集団が現れてローズ会長が襲われたから、ヤられ役のモブとして身代わりになったんだよ」
「…………なるほど」
バカはやっぱりバカだった。
「傷、治そうか?」
「ん? んー、いや大丈夫。これくらいなら僕でも簡単に治せるし、これから僕はテロリスト達を屋上から観察するさ」
この程度で死ぬ奴じゃないが一応も兼ねて聞くが問題ないらしい。魔力が制限されている状態なら生命力の高い獣人である俺の方が回復は早いし。
「それじゃ俺は一旦人質の方を見てくる」
「おっけー」
さて、犠牲者が少ないといいんだけど。
◇◆◇◆
シドと別れて大講堂へ移動。途中に敵と遭遇するも対した弊害になる訳もなく、シドが屋上からスライムを飛ばしたりもして敵は順調に数を減らしている。
と言うかシドの奴、遊んでいるのか時折俺にもスライムを飛ばして来やがる。頭にでも当たる物なら致命傷になるのに、だ。
そんな感じで無事? に大講堂の屋根に到着した俺。天窓から中の様子を見ると、そこには集められた人質もとい生徒達の姿。
見たところ怪我人は数人、それも致命傷は避けて命に別状はないようにしている。取り敢えず殺人が目的でないのも確定、その証拠に王女であるローズも無傷だ。
(…………ふむ)
ひとまずの情報は得られた。あとはシドと合流して的確に相手をすれば…………。
「…………と、思っていたらこれだよ」
「おかえり、クロ」
「は、初めまして! シド君のお友達のシェリー・バーネットと言います!」
シドの魔力を頼りに合流したのは副学園長室。そこには呑気そうなシドと初対面故にかガチガチに緊張しているシェリーの姿があった。
何故こうなったかを簡単にまとめると。
・シドが屋上でスライムで敵を狙撃。
↓
・コソコソと隠れ逃げる(バレバレ)シェリーを発見。危ないと思って助け、ついでに事件の原因が判明。
↓
・魔力操作が上手く出来ない原因はアーティファクト『強欲な瞳』、特定の波長以外の魔力を吸収する効果で、これにより敵は自由にコチラは逆に使えない状況へ。吸収した魔力は何に使うかは不明だが、学園の生徒達から吸い取った分だけでも危険。
↓
・強欲な瞳の効果を打ち消す事は可能。そのために必要な事があるそうで材料が足らない。今から取りにいくつもり。
「つまり、彼女がこの事件のキーなのさ」
「そそ、そんな! 私がなんて!」
(…………はあ)
目の前で繰り広げられる二人のやり取りを見ながら俺は内心溜め息をついてしまう。
俺が一人で探りを入れたり考察している間にシドは事件の全貌をアッサリ知ったんだ。これじゃあ俺の頑張りは骨折り損、空回りしたようなもの。
しかも話にはなかったが、シドはシェリーを助ける前にそこそこ面白い敵と戦っていた。シド目線のレベルなら恐らくは敵の主力の一人なのだろう、事件が解決してないからリーダーでないのは確かだが。
「……よし、じゃあ材料は俺が取ってくるからリストをくれ」
とにかく方針が決まったのは僥倖、この中で一番自然体で動ける俺が行くのがいい筈だ。
「え!? あ、危ないですよ!」
「大丈夫だ。部屋の場所は知っているし。俺は獣人、魔力が使えなくても戦えるから。シドはシェリーの側にいてやれよ?」
「うん。わかった、気をつけてね」
状況が状況故に俺の単独行動を心配するシェリー。それでも友達の友達だからと信頼してくれた。
「う、気をつけてください!」
二人に見送られ俺は部屋の外へ。そこで俺は一人になった事で軽く溜め息をつき虚しく呟く。
「役に立ってねーなー」
仕方ないとは言え、自分に出来る事をしよう。
◇◆◇◆
ニューside
「お、ニューか」
荒らされた研究室。瀕死状態のかつての許嫁であった騎士を見て、かつての人生に思い出していた私の背後から不意に声をかけられた。
「クティノス様……」
そこには絶対的主であるシャドウ様と共に歩むシャドウガーデンのナンバー2であるクティノス様が1枚の紙を持っている。
「クティノス様、報告いたします」
「ああ、俺は用意する物があるからそのまま話してくれ」
そう言ってクティノス様は手元の紙を見ながら研究室の棚を漁り、何かの準備をしていく。
「現在、シャドウガーデンのメンバーが学園の周囲に潜伏し待機しております。指示があればいつでも動けます」
「メンバーはどの程度に動けるんだ?」
「はっ! 現状だと私も含め半分程の力しか出せず、戦闘にはリスクが出るかと。七陰の皆様ならば普段通りに動けますが、現在王都いるのほガンマ様し「被害が拡大する可能性があるから戦わせるな」……はい」
一旦手を止めてまで力強く念押しをするクティノス様。確かに今の状況でガンマ様が戦われたら……被害が増えてしまう。
「ガンマは全体の指揮を取ってるんだろ? ならば待機しておくように伝えてくれ。それと外はどうなってる?」
「はい。アイリス・ミドガルを含め騎士団が囲っています。しかし……」
「この状況なら何も出来ないよな。折角結成したばかりの紅の騎士団も……」
クティノス様は振り返り私の後ろにいる二人の騎士に目を向ける。どちらも騎士としては一流、アイリス・ミドガルが自らスカウトした人材だが結果はこのザマ。
「そっちは知り合いだったか?」
「……許嫁だった人です」
「……最後の情があるなら治すが?」
その眼は決して元許嫁にではなく私個人に向けられたモノ。
しかし、私の答えは決まっている。
「いえ、大丈夫です。それよりもクティノス様は先程から一体何を?」
箱に入っいるのはミスリルのピンセットや地竜の骨の粉末。他にも素材がいくつもあり、これが何を示すのか私にはわからなかった。
「ああ、これか。“強欲な瞳”っていう、この状況を作っているアーティファクトを無効にするアーティファクトの調整に必要らしい。今はシャドウがシェリー・バーネットの側にいて、その調整の補助をしている」
「…………なるほど」
確かにアーティファクトに精通しているシェリー・バーネットならば、この状況を覆す事も可能。その事を見据え彼女と接点を持ったシャドウ様、そしてそれをアシストするクティノス様。
このお二人が行動する事で事件はすぐに終止符を打たれるのだろう。
「日没頃には完成すると言っていた。魔力さえ戻れば人質になっていた生徒達も反旗を起こす。そのタイミングで俺達も行動を起こす」
「では、我々はそれに合わせ待機しております」
「頼んだ」
手筈を整えたクティノス様は研究室から出ていく。残ったのは私と瀕死の元許嫁、しかし私は……何もしなかった。
◇◆◇◆
クロウside
「それじゃ、俺は大講堂で待ってるな」
「はい、ありがとうございました! お気をつけて!」
「無理しないでねー」
二人に再度送り出され俺は部屋を出る。
研究室から素材を取り二人の元に戻った俺。シェリーはよほど心配だったのか安堵で少し泣いていた。
そして時間がしばらく経過し、アーティファクトの調整は無事完了。あとはこれを見つからずに大講堂に投げ入れたら“強欲な瞳”の効果は無効、魔力を取り戻した生徒達の反撃が始まる流れだ。
俺は念のためと言うか万が一に備え先に大講堂に行き隠れておく事に。
「…………よし」
着いたのは大講堂の屋根。しばらくするとニューを含めシャドウガーデンのメンバーが集合していた。
『立ち上がれ、反撃の時です!』
…………そして、大講堂に光が灯ると同時に魔力が僅かに湧き上がる感覚。つまり“強欲な瞳”が無効化された証だ。
大講堂の中から聞こえるローズの声、それに伴い叫びながら反撃を始める生徒達。さっきとは真逆の状況、しかも襲撃犯達とは違い数もいる。
それでも魔力を吸われ続けた生徒達には荷が重い。
『いくぞ』
あらかじめ決めておいた行動開始のハンドサイン。その瞬間に天窓から溢れるシャドウの魔力、それを浴びたシャドウガーデンのメンバーは大講堂へ入っていく。
「来たれ……我が忠実なる輩下達よ……」
そんなシャドウの声と同時に襲撃犯達に斬りかかるシャドウガーデンのメンバー達。俺もクティノスの姿で参戦し、シャドウの隣に立つ。
「……成功したんだな」
「ふ、当然だ」
事態は一変、黒ずくめの男達は瞬く間に数を減らしていく、が主犯の男は見当たらない。
と、思っていたら少し離れた場所に感じる強い魔力。どうやら逃亡にシフトしたようだ。
「シャドウ。どうやら敵の首は逃げるみたいだ」
「そうか」
逃げた方向に指を指しシャドウを向かわせる。
『敵のボスはくれてやる』
『わかった、ありがとう』
そんな感じでアイコンタクトをし、シャドウは大講堂の入口を破壊し主犯の元へと向かっていく。
「……クティノス様」
「ニュー……シャドウは首を狩りに行った。俺達は残党の始末だ」
「はっ!」
その後は殲滅戦。外にいた騎士団が大講堂に入ってくるまでの間、俺達は敵と交戦。そして離れた場所にあったシャドウともう一つあった魔力反応も消えた。
どうやらシャドウの方も決着がついたようだ。
こうして学園襲撃事件は幕を閉じたのだった。
「え!? あ、あなたはもしかして……」
退却する瞬間に何やらローズに勘繰られてしまったが。
◇◆◇◆
「急いで戻ったのに、着いたらほとんど終わっていたなんて」
深夜のミツゴシ商会。そこには楽しそう、けれど妖艶に映るアルファが何枚かの紙を持って笑っていた。
「アルファ様、あの」
「これで俺達もお尋ね者、か。別に顔バレしてねーけど」
そんなアルファの姿に戸惑うガンマと呆れる俺。アルファが持っているのは指名手配書で、そこにはシャドウを始め俺やアルファの名前があった。
今回の事件、表向きと言うか全貌はシャドウガーデンの仕業になっている。王国や世間はシャドウガーデンが俺とシャドウを除き女しかいないのを知らず、襲撃犯の男達も一緒くたに扱われている。
それに加え結成したばかりの紅の騎士団の主力もやられ、王国……とりわけアイリス様の立場も著しく下がっていた。
(王国側も荒れそうだな)
「それでシャドウはシェリー・バーネットとお別れしたのね?」
「ん? ああ、“真実”は話さずにな」
今回の事件の黒幕、それはシェリーの義父であり副学園長のルスラン・バーネット。シャドウによるとルスランは“強欲な瞳”を使ってかつての力を取り戻すのが目的。そのためにシェリーの母を殺しシェリーを養子にしたらしい。
そしてシャドウはルスランを殺した。その瞬間はシェリーに見られ、シャドウは何の訂正もする事なく去った。
結果としてシェリーは学術都市へ留学する事にしたそうだ。何が目的かは言わずに、な。
「それにしても教団も随分と表舞台に出てきたわね」
「そうですね。そうなると次の奴らの動向は…………」
「“聖地リンドヴルム”か」
「ええ、出来るだけ七陰を集めて挑む必要がありそうね」
(…………今度も忙しくなりそうだな)
めちゃくちゃ省略しました。そして今回のクロウは完全に脇役と言うかサポートに回りました。
シェリーを救うのも考えましたが、そうなるとかなり長くなりシャドウ様の出番と意味もなくなりますので原作通りに闇落ち?にしました。
・クロウ
今回は脇役に徹した。自身の不甲斐なさに少し憂いた。
・シャドウ
ほぼ原作通り。敢えて言うならクロウをスライムで面白半分に狙撃したり、アーティファクトの件でニューと関わらなかったくらい。
・ニュー
元許嫁の件でクロウと少し話した。時間と場所が違ったら身を捧げていた。
・シェリー
今回の一番の被害者(2つの意味で)。シドと別れる際にクロウとも挨拶したかったが出来なかった。
・ローズ
日が経つにつれクロウへの想いが強くなっていた矢先に襲撃事件。シドに命懸けで庇われ再び揺れる事に。
最後にクティノスの正体に気づきかける?
次回からはしばらく日常編で、アンケートの内容や自分なりに考えた回を書こうと思っいます。
クティノスの童貞卒業回は?(過去編)
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