十海は自我が希釈し、自己を「鬼」と再定義してしまう。肉体を失った亡霊から鬼へと作り替えられていく体に祝い酒と称して強烈な度数の酒を飲まされるが、体は拒絶して身体中から酒が染みて漏れてしまう。
見かねた鬼の頭領・酒呑童子は彼を自分の屋敷へ連れて行き─
【注意事項】
・同意のない性行為
・泥酔状態での性行為
・洗脳、闇堕ち、快楽堕ち、メリーバッドエンド
・スライム(半液状化)状態の相手に対して姦淫
簡単なキャラ紹介
睡郷十海(すいきょう とうみ)…神になりたい亡霊。鬼ヶ島にたどり着いた途端、目的を忘れてしまい、鬼に作り替えられる。
酒呑童子(しゅてんどうじ)…鬼ヶ島を統べる鬼の頭領。
長らく来訪者のなかったここ鬼ヶ島に、何ぞ流れ着くものがあったとの報告を聞き、酒呑童子は根城を出て麓まで降りることにした。
大抵はただの漂着物で、生きていることも稀なのだが、なんと今回は人の形をしてしゃべっているという。これはいいしらせだ、新たに仲間が増えるのだから。
まつろわぬという理由で神々によって一度滅ぼされかけた鬼は、最後の力を振り絞って牙城であったこの島を、あらゆる境界から切り離した。独自の大結界を張り巡らし、現世と常世の狭間を常に漂って移動することで何人たりとも侵入を拒んだ。
たとえ侵入できたとしても、ここは鬼しかいない島。己が何者かしっかり地固めしてない者が迂闊に足を踏み入れれば、たちどころに自我が薄れ、希釈される。現世のような物理法則もなければ、常世のような死を基礎とした規律も存在しない治外法権のこの島では、自我を失うことはすなわち存在の消滅を意味する。しかし己を定義し続けられるうちは、いかなる状態でも即座に肉体を形成・構築できる。ゆえに、自分自身を見失った者は新たに自身を「鬼」と再定義することで死を免れる。代わりに新たな鬼が誕生するという仕組みでこの島はできていた。
(おおかた、境界を越える過程ですでに記憶を失ってるか)
先だって伝言を持って来た小鬼によると、その者はすでに麓の屋敷で「洗礼」を受けているという。
(もう鬼になっとるかも知らんな)
どんな顔かくらいは見たかったものだが。苦笑いを隠して鴨居をくぐり、部屋を覗いてみれば、期待とは違い、奇妙な光景が広がっていた。
防水用のなめした皮を敷き詰め、さらに二重三重と布団を敷いている。周りで鬼たちが忙しなく床を拭っており、どうも様子がおかしい。
「どうした。ただの漂着物か、死んでいるならば陸に揚げてないで海に戻せ」
「それなんですけど、まだ生きてるんですよ。多分」
「多分?」
酒呑童子は鬼たちの間を縫い、騒動の大元を覗き込んだ。
中心には一人の男と思しきものが寝かされていた。というのも、人型だと判別できるのがせいぜいで、溶けかけている。海の生き物に食われ、消化されかけていたのかと見紛うほどだ。
確かに額からは2本の角が生えているから『再定義』したことは間違いない。だが、体の周りが薄ぼんやりとしていて、敷いた布団がそのまま見えるほど透き通っている。よく目を凝らすと、骨や体組織が微かに見える。
「俺ってば、角が生えたもんだから、てっきりもう鬼になったと思って祝い酒を一杯やってやったんですよ。そしたらこいつ、飲んだのを戻してこんなんなっちまいまして」
おそらく最初に対応したのであろう鬼が状況を説明するのを、酒呑童子は横目で聞いていた。
視線を男に戻す。
肋骨を隔てた奥では心臓が平静時よりもずっとひっきりなしに収縮を繰り返している。頻脈だ。体を構成しようと必死なようだが、これほど酔っているうちはまだ鬼として不完全であることに他ならない。
「ううむ、これは…『再定義』が思ったよりうまくいっておらんな」
「え、そんなことってあるんすか」
「元々こいつの存在が不安定なんだろう。見たところ元は亡霊だったようだが、今ちょうど鬼と亡霊の中間くらいにいるんじゃないか」
「えーっ、じゃあどうなるんですか、こいつ」
「鬼にしちゃいましょうよ、亡霊なんてつまらない」
周りの鬼たちが口々に騒ぎ出した。
しかし、酒呑童子は男の口元がもぞもぞと動いて何かを発しようとしたのを見逃さず、すっと手で鬼たちを制した。たちまちその場は水を打ったように静まり返った。
確かに十海は目的を持ってこの島を目指し、探して、海を渡って辿り着いたはずだった。
(えーと、どうすればよかったんだっけ?)
だが上陸した途端、何のためにここにやって来たのかが突然思い出せなくなった。
自分を見つけた鬼が名前を問うてきた。その頃には、自分の名前さえ言えなくなっていた。この間わずか数分の出来事である。
気がつけば十海の額には角があった。それは十海にとってすでに『己の身体に生まれながら備わっていたもの』であり、もはや変化ですらなかった。
麓の屋敷に招かれると、鬼が酒を差し出し、促されるまま十海の口に流し込まれた。しかし鬼の酒はあまりに度数が強く、十海は劇物同然のそれを吐き戻した。酒は消化吸収するよりも早くあっという間に十海の全身を巡り、たまらず目を回して昏倒した。
鬼たちは騒ぎを聞きつけ、続々と集まり十海を取り囲んで囃し立てた。新しい鬼が生まれたことを彼らは喜んでいるだけだったのだが、十海にその意図は届かない。
十海は鬼たちが自分を取り囲んでなにかを言い合っている様子を、ぶれて揺れる視界でぼんやり捉えていた。きっと彼らは自分をどう処分しようか品定めしているのだ。それに、自分の処遇がどうあれ、自分が今死に瀕していることくらい、悟れない十海ではなかった。
(ああ、もう、今度こそ死ぬかも知れねえ…)
角が生えたことで十海は明らかに亡霊から鬼の側へ片足を突っ込んでいるのだが、鬼としての実体を得るには至っておらず、浴びるほど飲まされた酒が消化しきれず、まだ霊体のままの体表から滲出していた。
「あ…あぇ…」
十海は鬼の酒気にあてられて意識朦朧としており、さりとていまだに亡霊の素質から抜け出せて無いのだろう、完全に意識を失うことができずに苦しんでいた。
「おいお前さん、しっかりせい。鬼なら酒くらいで死にはしない」
酒呑童子は気付けに十海の頬を軽く叩いた。
極度に濃く構成された霊体で覆われた薄い表面はぶよぶよとしていた。およそ人間の頬を叩いてるとは思えない、蛸でも触ったようなビチビチという音を立てた。
湿った感覚に不快を覚え、手を見るとべっとりと濡れていた。酒呑童子は、塩を浴びて体内の水分を放出しながら溶けていくなめくじを想像した。
まだ形成途中の未熟な肉を、霊体がコーティングすることでかろうじて形を崩さずに保っている。そのせいで肉は摂取した酒を体内に留めることができず、体を守るために霊体も膜を張ることにほとんどを費やしているのだろう、霊体でも処理しきれず身体中から染み出してしまっている。それでもイレギュラーな状況に対する彼なりの防衛反応なのだろう。この島で客死する前に、なんとか存在の定義を試みているのだ。
酒呑童子は、十海の死してなお生にしがみつく姿勢が気に入った。
「先生は回診に行ってるんだったな?」
「そうです、今回は件数が多くて帰って来るまでまだしばらくかかります」
周りの鬼たちは眼前の十海を持て余した。腕をこまねき、すっかり酔い潰れた十海を、打ち上げられたクラゲを観察でもするように見下ろしていた。
「これでは埒が明かんな。先生が帰ってくるまでできることを吾れがしておこう。この者を吾れの屋敷まで運んでいけ。できる限り刺激を与えぬよう、静かにな」
十海は目の細かい網に包まれ、担架に乗せられ、身軽な小鬼たちにわっせわっせと運ばれていった。酒呑童子は悠々と歩いてその後を追った。
小鬼たちに運ばれ、酒呑童子の屋敷まで辿り着く頃には、十海の体からはおおよその酒が揮発していた。
2人きりになった広い部屋の中で、酒呑童子はひとまず香を焚き始める。
そっと包みを開けてみると、先ほどまでのおどろおどろしい漂着物然としていた姿からは多少なりを潜め、顔立ちもはっきり確認できるようになっていた。
(ふん、やせぎすの骨と皮ばかりではないか。いかにも亡霊らしい。飢饉か、変なものを食いでもしたか)
もう一度、顔に手を触れてみる。まだ霊体が膜を張っていたが、じめじめした感触はなくなっていた。ただ、酔いから覚めるにはもう少し時間がかかるだろう。
亡霊になると不眠になることは酒呑童子も話に聞いていた。そうであれば、今に至るまでずっと意識は保たれているはずだが、それは五感が万全であることを保証しない。おそらく、ひどい酩酊のために今はほとんどなにも見えていないし聞こえていない。
まだ予断を許さない状況ではあるが、とりあえず干からびたりする心配はなさそうだ。
通常、鬼であれば度の強い酒ほど喜んで飲むものだし、滋養に使うこともある。だが、今の十海には刺激が強すぎる。さっきのように霊体の膜を貫通して滲出してしまう。もっとより鬼に近いものを、吸収しやすい形で与えなくてはならない。
酒呑童子は、先生がいつも前もって各家に預けている医薬品の一式が揃っている薬棚を漁った。
(こんな状態の相手に効くのかちょっと分からんが…)
小さく包まれた封を解いて紙状の薬を何枚か取り出し、充分な量の水で溶く。すると薬が溶けて、ぬるついた液体になった。指に絡めると長く糸を引く。惜しげもなくたっぷりしたたらせながら、十海の陰部に潜り込ませた。
「っ、ふ…」
十海がわずかにみじろぎした。今の状態では、ほんの少しでも反応があるだけ御の字だった。
酒呑童子は注意深く様子を伺いながら、外側から順に、少しずつ奥へ指を伸ばす。
肉体の構成は進んでいるようだが、いかんせんのろい。このまま放置していては停滞したり、悪化する恐れも考えられる。
指が肉の中に包まれていったのは間違いないのだが、酒呑童子の目には自分の指がまだ見えていた。十海の体が透けているのだ。
(うーん、これはなかなか…)
酒呑童子は妙な気持ちに襲われた。指をくにくにと中で曲げれば、リアルタイムでその様子が見える。これでは寒天に手を突っ込んだようなものだ。見えて良いのだろうか。見えてしまうのだから仕方がないのだが。
挿れる指を増やし、入った指で少しずつ拡げていく。人差し指と中指を横に広げて動かすと、水面に寄ってきては餌を求める鯉の口のように、くぽくぽと開いた。酒呑童子は枕を十海の腰の下に差し入れ、膝を曲げさせ体を丸く屈曲させると、尻の濡れそぼった窄まりに、ぬめった薬を上から細く糸を引かせて垂らし、とろとろと直に注ぎ込んだ。
薬が腹の中で粘膜の代わりとなって直腸から結腸までを厚く覆う。十海の膝ががくがく笑っていた。体を元の安静な姿勢に戻し、薬が体に馴染むのを待った。弱々しい反応は示すものの、十海はいまだに夢うつつのさなかにいた。
「おい、いいから返事をしろ。なんでもいい。お前の望みを言え」
酒呑童子が声をかける。
閉じた瞼の下で、眼窩におさまる眼球が見えている。水底に沈む意識から浮上しようと、上を向いていた瞳が小刻みに動いていた。
無意識か意図的か、まだ声帯が作られている途中の喉を震わせ、かすかに軋むような声を絞り出した。酒呑童子は彼の言葉を聞き逃さなかった。
「し…にたく…な、…い…」
「よし、それがお前の願いだな。確と聞き届けた」
酒呑童子は彼に自らの精気を分け与えることを決めた。
酒呑童子のものを全て受け入れる頃には、十海の薄い腹は餓鬼のように張っていた。この時ばかりは己の過剰な大きさに冷や冷やしてしまうが、願いを聞き入れたからには相応の責任を負うつもりでいた。
最初に見た時はほとんど信玄餅そのものだった彼の体は、今は白玉状まで凝固しており、観察の限りではずっとましな状態になっていた。しかしながら相変わらず頼りない。普段から触れる生き物の肉にあるような弾力性や柔軟性はなく、まるで手応えがない。
中では酒呑童子の硬く張り詰めた陰茎が力強く脈を打つ様子が、持ち主の目からもはっきりわかるほど見えていた。十海の中でどくどくと蠢くさまは、ふたつめの心臓のようだ。
酒呑童子は慎重に腰を滑らせ始めた。
「…っ、…は…は…」
下から押し上げられるためか、十海は肺から押し出された空気を吐いた。しかしまともに吸えていない。酒呑童子はリズム良く十海の洗濯板のような胸を圧迫した。たいそう長いこと肉体のないまま過ごしてきたのだろう、肺をゴムまりのように握ってでもやらねば、呼吸すら満足に出来ないのだ。
それはきっとさぞ苦しいことだろう。肉を得るとはそういうことだ。体に備わった生きるための機能を余すことなく全身で活用せねば、生きられない。生まれた赤子は、母体から臍帯を通して受けてきた栄養や酸素の供給を絶たれる以上、一度も空気を吸ったことがないしぼんだ肺を膨らませなければ、そのまま死ぬ。
(なんとも手のかかる鬼だこと)
酒呑童子に胸を圧迫されるがまま、十海は喉笛をひゅうひゅう鳴らしていた。
その間も休まず腰を揺すり続けていたが、こうも手応えのない相手を抱くのは、どうにも彼の性にあわない。深海からむりやり引き上げたよくわからないなにかを犯しているようで、酒呑童子は万に一つこの先このような機会がふたたび訪れたとしても、進んで二度やる気にはなれなかった。
だから彼には早く起きて欲しかった。生きていると実感できる様を見せて欲しかった。
最後の一押しのために、酒呑童子は十海の腹の中で早く達したくてビクビクと震えている己の怒張に狙いを定めて、十海の腹の上から揉んだ。
「っあ、はふ、ふうっ、ウッ、ああ…!」
十海の胸が大きく上がった。横隔膜が胸腔を広げ、肺を空気で満たす。酒呑童子が射精し、ひときわ濃い精気が十海の中に放たれた。
(そうだ、生きろ、息を吹き返してみせろ)
酒呑童子は祈りを込めてより深く腰を穿つ。もっと奥へ、五臓六腑へ行き渡れ。とめどない命の奔流はやがて拡散し、十海の中に溶けて混ざりあい、緩慢な血潮に合流する。感じ入っているのか反射なのか、十海の体はぶるぶるっと震えた。
酒呑童子の精気を受け取ったことで十海はみるみる実体をもち始めた。死の臭いしか残っていなかった亡霊の体を脱し、肌が潤いと艶めきを取り戻す様は、蛹から蝶へと至る一部始終を見ているようだった。光を遮断する機能を完全に取り戻した瞼がふたたび開き、瞳孔が光に反応してきゅっと収縮するのを見て、やっと十海の意識が清明になったことを知る。
十海がかつて、風前の灯火のような存在だったことなど、これからは忘れるに相応しい。そう確信した。
酒呑童子は起死回生した十海の顔を一目見ようと、ずいと身を乗り出した。
意識は失っていなかったものの、ほとんどの感覚を遮断された十海は、目からも耳からも情報が筒抜けであるにもかかわらず、それらを処理できずに右から左へ流し続けていた。目を閉じているのにずっとまぶしくて、開けているのか閉じているのかわからなかった。
ただなにかずっと、揺れているような気がする。ちょっと荒い船の上にいるときを思い出した。これは雨が来そうな気配のする流れだから、早く船着場に戻らないと、そのうち鉄砲水が山から降りて来るかもしれない。
そんなことをぼんやり考えているうち、今度は腹の中で暖かいものがじわりと広がっていくのを感じた。臓腑に染み渡っていくようでほんのり心地いい。熱を久しく忘れた体にとって、体温よりやや低い精液でさえ、熱く感じて身悶えした。やがて十海の不明瞭だった世界が精彩に形を取り戻していく。
「…い、おい、…おっ、瞳孔に反応あり。功を奏したようだな」
「…だ…れだ…あんた…」
自分の存在が急に所在を帯びてくる。手を開いたり握ったりしてみたら、腕は柔らかい布地の上でくったりと寝そべっていたことがわかった。腹の上に何かどっしりとしたものが乗っかっていて、若干苦しい。それが目の前にいる男のでかい腹であることにようやく気づき、十海は顔を顰めた。
「あ、そうだったな。名乗り忘れていた。吾れは酒呑童子という」
「…は、あっ…おい、どけよ…重たいんだよ…」
「お、すまん。そう慌てるな、無理に動くと尻が裂けるぞ」
「へっ…?」
酒呑童子は体を起こし、十海の太ももを軽々掴んでゆっくり慎重に動かす。
「あ、あっ、う…ぃ…!」
十海は思わず顔を顰めた。腹いっぱいに何かがみっちり詰まっていて苦しい。首をなんとか伸ばして自分の腹をみると、臍から下が不自然に膨れていた。
「お前さんの体が難儀だったものでな、吾れの精気をちょいと足してやったぞ」
「おい、これ一体どうなって…」
「ああ、それか?それは吾れのだ」
何度か頭の中で反芻し、言葉の意味を理解した途端、十海の額から脂汗がどっと噴き出した。
咄嗟に腕を突っ張って酒呑童子を押し除けようとしたが、いとも簡単に止められてしまう。腕を掴むと、中の骨の感触がしっかり伝わり、筋肉と筋が骨に張り付きつつあった。しかし酒呑童子はあくまでも、生卵を扱うようにそれ以上の力は決して込めなかった。
「落ち着け。お前さんが暴れたら体が崩れるかも知れんから、とにかく、安静に。動くな」
「その前におれの腹がはちきれるだろうが。お前…おれに…なんってモンを…」
「なんてもんとは失礼な。吾れの精気でお前さんの体を養ったんだぞ。おかげで目も覚めたじゃないか。さっきまでなめくじのような体だったくせに」
「なめ…?いやだからって、おれの断りもなくこんなこと」
「ああ、それは悪かったよ。ただあのままじゃお前さん本当に溶けてなくなりそうだったからなあ。同じ鬼とあらば助けねばならん。そしてお前は死にたくないと言った。だから助けた。許せ」
酒呑童子は子供をあやすように大きな手のひらで十海の頬を包んだ。先ほどのような頼りない霊体の膜に覆われていない。そこにはしっかりとした肉と骨がある。
そのまま手の甲を肌に滑らせ、額から生えた十海の角に触れて形や触り心地をじっくり堪能する。
十海にも角を触られている感覚は伝わっており、くすぐったさにやがて諦めて首の力を抜き、頭を褥に預けた。
「…なんでおれの体はそんなことになってたんだ?」
「ああ、ちょっとした事故みたいなものさ、お前さんの気にすることじゃない」
十海は早くも自らが亡霊だったことを忘れつつある。肉を得てしまった以上、肉がなかった頃の記憶も感覚も失われるのは時間の問題だった。
「だったらもういいだろ、離してくれよ」
「病み上がりが、威勢のいいことだ。気に入ったよ。ただもう一回分くらいは必要だな。お前さん、思ったより大喰らいだ」
酒呑童子はまだ残っていた薬を手で掬い、揉んで温めるとその指先で十海と酒呑童子がまさにつながっている部分に触れた。
手で温めたとはいえ、ぬるついた感覚に十海は反射的に肩が跳ねる。
「あっ、ひ」
「もう少し滑りを良くしよう。先生が作ってくれた薬だ、ありがたく受け取るがいい」
「せ、先生…?」
ほとんど限界まで拡げられていた縁に沿って塗っていると、十海がむずがって息を弾ませているが、そんなことは素知らぬ風に酒呑童子が続けた。
「そう、先生。最近ここにやって来た鬼ではあるが、吾れらのためによく働いておる。世にも珍しい鬼の医者よ」
「へ、へえ、鬼にも医者が必要なんだな」
「鬼も不死身ではないからな。元々の肉体や抵抗力は他よりずっと強いものの、病や大怪我を負えば死の危険はある。先生が来るまでは文字通り酒やツバだけでなんとかしてきたものさ」
靴下でも履くように酒呑童子は己の逸物を深く挿れ直した。
「っあ、は、はっ、あぅ、きつ、い…」
圧迫感に慣れようと十海が躍起になって身をよじるが、ひどく呼吸が浅くなっているので体を起こして背中をさすり、ゆっくり深呼吸するよう促す。
「歯は抜いてもまた生えてくるし、腐りかけた四肢は切り落としてきた。もちろん弱い鬼もいて、かれらは四肢まで生えてこない。先生は侵襲をできるだけ抑え、むやみに切り落とさぬように治し、四肢や身体の一部を欠損した者のために苦痛を和らげようとした。助かる命は増えたし、未然に防げるものが増えた。先生には頭が上がらんよ」
「そりゃ、っ、一度、会ってみたい、な…」
十海は虚勢を張ったが、あえなく酒呑童子のでっぷりとした腹にもたれかかる。
「元よりお前さんには後で先生に診てもらうつもりさ。これはあくまで応急処置だからな」
「は…はぁ…うっ…本当にこんなんで応急処置になってるのか…?」
酒呑童子は十海の尻を掴み、ゆるゆると中をゆすって少しずつ刺激を与える。一方的に精気を与えるだけではまだ足りない。早く肉の感覚に慣れてもらわなければ。
自己を鬼と再定義し、肉体を得て間もないの今の十海は、比喩でなく赤子に近い状態だ。形成した肉・脳、神経、感覚器を通して世界を識り、自己と外界とをリンクする精度を上げるためには、アウトプットとフィードバックが欠かせない。
中では酒呑童子の陰茎を包む肉が、彼の形に沿って蠢いていた。
(反応は悪くない)
十海の形成されたばかりの肉体を、酒呑童子はゆっくり形を確かめるように撫でてやる。今の十海の肌は汗でしっとりほどよく湿り、もちもちと吸い付くようなみずみずしさを持ち始めていた。出会って最初に触れた時に覚えた嫌悪感など、忘れてしまうほど心地のいい感触だ。
十海も触れられることが気持ちいいのか、身を委ねて酒呑童子の愛撫を受け入れた。
世界で起こっていること、それこそそよ風から感じ、自ら体を動かそうという意思のもと、動く自分の体をふたたび認知する。生まれたての体が世界と自分をチューンさせていく際の過程だが、それと同じことを行っているのだ。そうすることで、再構築した体の調整にも有効に働く。例えるならば、楽器の調律に似ている。
(そうだ、感じろ、動かせ、自らの意志で。お前は己の望みを見つけ出すために鬼になる)
「あ、あっ、はっ、んん…」
十海が自ら腰を揺らして刺激を求め始めた。良い兆候だ。目を閉じて悩ましく眉根をひそめ、唇を震わせて体内で温められた吐息をこぼす。つたない動きでもどかしく、もたもたしている十海を問答無用で下から激しく突き上げたい衝動に駆られたが、酒呑童子はぐっと我慢して待ってやった。
ところが彼は思った以上に飲み込みが早い。試行錯誤しているうちに腰を押し付けたり、陰茎が抜けるギリギリまで引き抜いてはぐっと奥まで沈めたり、自分が感じ取れる快感を拾い集め、もっと悦くなりたいと無意識に求めているのか、探りを当てる動きに変わっていく。そのたび酒呑童子のいきり立つ怒張が十海の腹のすぐ下を蛇のように這いずる様がよく見え、酒呑童子はその隆起を指で撫でて愉しんでいた。
次第に酒呑童子は手を離し、十海の好きに任せることにした。
「どうだ?気持ちいいか?」
「はぁ、はぁ…き、もち、い」
「それはよかった。ほれ、もっと自分のいいところを当ててこい。存分に吾れを使え」
十海は酒呑童子の厚い腹の皮を鷲掴み、水を得た魚のように夢中になって腰を振った。豊満な胸に顔を埋め、全身で抱きついて息を切らす中に、掠れてはいるものの唸り声にも近い雄々しいうめきが混じっている。今の彼はさっきと比べて、目に見えて生き生きとしてきた。酒呑童子の腹に何度も十海の腰が打ち付けられる。ばちん、ばちん、と互いの汗を弾く音が響いた。中を貫かれた陰茎で膨らんだ自分の腹を、そそりたった自分の陰茎もろとも擦り付け、2人の腹の間に押し潰した。欲望に身を任せて全力でぶつかりにくる姿こそ、酒呑童子が求めていたものだった。やはり交わるからには、こうでなくては甲斐がない。
「はあ、ん、んぅ!うっ、ふあ、あぁ!」
十海は喉仏をそらして喘いだ。自分の中にある性感帯を見つけたらしい。中にあった酒呑童子の亀頭でぐり、と強く押し潰した途端、腹筋が引き締まり、太ももが痙攣した。
「あっ、あっ、いい、なにかくる、たすけて、たすけて」
その懇願はもっと早くから言うべきだったろうに。
「やれやれ、もう助けとるわい。どれ、ここか?」
せり上がってくる未知の感覚に戸惑いを隠せず、舌足らずにわめく十海を見かねて、もじもじしている腰を小突いてやった。答えは返事を聞くより明快で、下唇を噛んでぎゅうぎゅう力いっぱい腹の皮を握り返してくるものだから、若干痛かったものの、その必死ないじらしさに免じてやった。
心得たとばかり酒呑童子も十海の動きに合わせて手助け─という名目で執拗にピンポイントで責めるのを─してやると、十海は歓喜に咽び、恥も忘れて泣き出した。初めて手にした者が鳴らすへたくそなバイオリンのような悲鳴を上げて、うぶなふるまいとは裏腹に、臍につくほど硬く反り上がった陰茎から勢いよく静液が飛び散った。
「あ、あーっ、あー…はぁ…あぁあ…っ…」
酒呑童子はそれがこの世に生を受けた者が上げる産声に聞こえ、微笑ましくさえ思えてきた。彼が鬼として初めて達することができたのを見届け、両腕で汗のにじむ十海の体を包み込んで祝うと同時にいたわった。己の快楽をひたむきに求め、望みにまっすぐな姿を見るのはいつだって好きだった。これまでの苦労に見合うどころか、釣りが来るほど満足のいく成果だった。
厚く拵えた筋肉がうねり、肋骨が手を広げて肺を膨らませ、大胸筋の下では心臓が力強く鼓動を放ち、全身に血潮を巡らせている。間違いなく彼は今まさに息づいており、もはや肉体なき亡霊の面影はどこにもなかった。
もう、大丈夫そうだ。
「さあ、準備運動はもういいな」
今までの介抱からひるがえって酒呑童子は十海の肩を掴み、うつ伏せにねじ伏せた。
「え…?」
絶頂の余韻の真っ最中である十海は油断しきっており、まだ目をとろんとさせたまま無邪気に酒呑童子を見上げている。
「お前の名前は海境童子。海境よ、もう少し吾れに付き合ってくれるか?」
「海境…おれ、そんな名前だったんだな」
「そうとも、海の境目からやって来た稀人よ。吾れとこの島はお前を迎え入れよう」
「ああ…悪くないな」
海境童子はあどけなく笑った。
「だからって最後の二、三回は余計だっただろ」
膝を立てて尻だけ高く掲げられた状態のまま、海境童子は情けない声を上げた。
その後酒呑童子による怒涛の独壇場が始まり、精気のわんこそばをのべつ幕なく繰り出した。海境童子は何杯目か途中から数えるのをやめた。そして酒呑童子の猛りに身を任せているうちに、とうとう足も腰も言うことをきかなくなってしまった。
「どうどう」
「おれは牛じゃない」
酒呑童子は笑いながら海境童子の尻を宥め、そのまま横に倒して寝かせた。つい興奮した酒呑童子が尻を何度も叩いたため、左右どちらも真っ赤に腫れていた。
「お前もしこたま楽しんだじゃないか、なあ?」
酒呑童子は拗ねた子供の機嫌をとるように猫撫で声で耳をもてあそび、萎え切った海境童子の陰茎とその周りを丁寧にぬるま湯を含んだ布で拭った。海境童子と違って、酒呑童子は彼が何度力強く精を迸らせたかしっかり見て数えていたが、今は黙っておくことにした。
「些か疲れただろう、何か欲しいものはあるか?」
上から降ってくる酒呑童子のねぎらいの問いかけに、海境童子は何度か瞬きして思い出したように言った。
「喉が渇いた」
「はは、いい飲みっぷりだ」
海境童子が喉仏を波打たせて盃の酒を一息に空けたので、酒呑童子は気を良くして笑い声を上げた。
海境童子はしたり顔で盃の影からちらっとその様子を見た。
「当然さ、おれは元から酒が好きなんだ」
「そうかそうか、それはよかった」
海境童子は酒の残る湿った唇を舌でぺろりと舐めた。
美味そうに飲む海境童子の顔はなんとも幸せそうで、他の鬼たちから飲まされて一口のうちに泥酔していた時とは別人のようだった。酒が好きなことには間違いないのだろうが、今までよほど薄いもので満足していたのだろう。鬼の酒をまともに飲むには、鬼の体でなくてはならない。こんなうまい酒が飲めないだなんてもったいない。飲める体になってなによりだと酒呑童子は安心した。
「のう、海境よ。お前が共寝を望むなら、またいつでも声をかけるがいい。吾れは望みに素直なやつが好きだ。とりわけ、お前は欲に正直だ」
酒呑童子が肩を抱いて寄せると、海境童子は黙りこくって角の根元を掻いた。わかりやすく照れ隠しをする様が、酒呑童子には大変愛らしく感じた。酒呑童子からは海境童子のつむじがよく見える。そして髪をかき分けたわずかな隙間から見える耳は、血の色が透けて赤く染まっていた。
何度も体を重ねた結果、2人は一夜にして互いの奥深くまで知り合うような関わりになっていた。特に肉を得てからの海境童子の成長はめざましく、水を注げば注ぐだけ吸い込んでいくように酒呑童子を覚えていった。オーガズムを「なにかくる」としか形容できなかったのが、今や野太く濁った声でみっともなく喘ぎながら「イッてるから結腸を突きぬけてくるのはやめろ」と懇願するまでに至った時の海境童子の顔ときたら、何度思い返しても新鮮味にあふれている。今後しばらく酒の肴に困ることはないだろう。
2人は新しい閨に体を横たえ、身を寄せ合って布団を被った。
「お前はまだこの島に来たばかりでなにも知らんだろう。明日からゆっくり挨拶に回るといい。そしたら今度は先生のところへ案内してやるから、元気になった姿を見せてやれ。きっと先生も喜ぶだろう」
「おれってそんなにやばかったのか」
「ああ、そうとも。酒を飲んでも全部身体中から外へ垂れ流しになるほどな」
「ありえないな」
「ははは、鬼は嘘を吐かん」
酒呑童子はにっこり目を細める。
「じゃあ、明日から、そうさせてもらおうかな…」
海境童子がうつらうつらとしてきたので、そのまま腕を差し出して頭を乗せてやった。安心しきった海境童子の目が閉じられて静かな寝息を立てるまで、酒呑童子はずっと見守っていた。
「嗚呼、それがお前が本当に望んでいたことなんだな」
酒呑童子がそう確信したのも、彼が今まで見た中で最も満たされた表情をしていたからだった。