私が勤めている会社を恵美子は毎日訪れ、乳酸菌飲料を販売している。
歳は30代なかばくらいか? 色が白く、幼い顔立ちで小柄。それでも、制服の胸元が弾けそうなほど乳房の盛り上がっている。
いわゆる・・・今では死語となったが昭和世代で言うところのトランジスターグラマータイプだ。
「これを飲んだら元気になるの?」
「はい、もちろん」
「じゃあ、ダンナにも毎日飲んでもらってるんだ」
「ええ、それは・・・」
「で、元気なダンナとは週に何発くらい?」
そんな、からかいの言葉に恵美子はすぐに反応し、顔を赤らめてしまう。
その様子がおもしろくて、私は毎日のように恵美子に卑猥な言葉を投げかけていた。
私は55歳。恵美子が訪ねてくる建材販売会社で、営業部長を務めている。
入社したばかりの30年ほど前は、女子社員に対するいやらしい言葉など、当たり前だった。
・・・とはいえ、
「彼氏は元気? 今日もオッパイ大きいね」
と、言う程度のもので、コミュニケーションのひとつだと思っていた。
しかし、今はセクハラだの社内の風紀を乱すなど、ちょっとした声かけにも厳しくなり ちゃん づけで呼んだり、かわいいね と、言う誉め言葉でさえ厳禁になっている。
そんなうっぷんを晴らす意味もあって、私は恵美子をからかう。
出入りさせてもらっているという立場もあってか彼女は恥ずかしがりはするものの、嫌な表情を浮かべない。それどころか、私たちが言うスケベな言葉を待っているようにも見える。
「今日は新しい商品を持ってきました」
「へぇ、どんなの?」
「これを飲むと、お通じも良くなって身体の中がきれいになるんですよ」
「恵美子ちゃんも、それを飲んでるの?」
「はい」
「じゃあ、身体の中はきれいなんだ」
「もちろんです」
「でも、肌に効果はあるの?」
「う~ん・・・・・・、でも、お通じが良くなると、お肌もきれいなるっていいますから、きっと」
「お通じ、お通じって言うけど、便秘にならないってことだろ」
「はい、そうです」
「じゃあ、毎日、無理して出してるんだ」
「え・・・・・・、まあ、はい・・・・・・」
「いつもどれくらい、出してるの?」
「そ、そんなの、分かりません!」
「見ないの?」
「何を、・・・ですか?」
「自分のウンチ」
「やだぁ、部長さんたらぁ」
大げさに魅力ある肉体をよじって、恥ずかしがる恵美子。
「でも、恵美子ちゃんの肌はきれいだよね。それって、いつも飲んでるから・」
「いえ、この商品は発売されてまだ、まだ間もないから・・・・・・」
「肌がきれいなのは認めるんだ」
「あ・・・・・・、いえ、ありがとうございます」
「もっと肌にいいもの、飲んでるんじゃないの・」
「え? 何ですか?」
「たんぱく質がいいって言うよね、コラーゲンとか」
「コラーゲンは高くて・・・・・・」
「お金、払わなくても、たんぱく質は簡単にとれるよ」
「えっ? 何ですか?」
「ダンナの・・・」
「主人の?」
「精子」
「やだぁ、部長さん、やめてくださいよ」
まるで女子高生のように、ほほを赤らめ、肉体をくねらせて恵美子は恥ずかしがる。
私は恵美子が訪ねて来るのを心待ちにしていた。
毎朝、出勤の途中には、
「今日はどんなことを言ってやろう」
「今日はどんな言葉で恥ずかしがらせてやろう」
と、考えるようになっていた。
ところが、ある日から突然、恵美子が姿を現さなくなった。
何でも担当地域の変更があったらしい。
そして、新しく訪ねてくるようになった販売員は、胸は大きいものの、ウエストも尻のサイズもでかい。
胸元だけでなく、制服全部が張り裂けそうな、50過ぎのオバサンだった。
恵美子が来なくなったことで、私の楽しみが減った。仕事にも生活にもなんとなく張りがなくなり、味気ない毎日を送っていた。
そんなある日の夕方。帰宅途中の駅前で、私は恵美子を見かけた。なつかしさが手伝い、声をかけてしまう私。すると、彼女は寂しそうな笑みを浮かべて会釈を返してくれた。
「元気?」
「はい、おかげさまで」
そうは言うものの、声も表情も、どことなく空ろだった。
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
「何か悩み事?」
その言葉に、恵美子は顔を伏せてしまう。
「こんな所で会ったのも何かの縁だ。話なら聞くよ」
「え・・・・・・、でも・・・・・・」
「いいから、いいから」
半ば強引に私は、恵美子を喫茶店に誘い店の中に入り、私たちはコーヒーを頼んだ。
「いや、恵美子ちゃんが来なくなってから、仕事がつまらなくってねぇ」
「すいません、そう言ってもらえると・・・・・・」
「今は、どの辺りを回っているの?」
「中央町です」
「あそこはオフィス街だから、売り上げもいいんじゃないの?」
「はい、確かに・・・・・・、でも・・・・・・」
湯気が立っているコーヒーカップを前にして、やはり彼女は俯いてしまう。
「どうしたの? そうだ、変な客がいるんだろう。スケベなことばっかし言うヤツとか、誘ってくるヤツとか」
「いえ、そんな・・・・・・、それよりも・・・・・・」
「それよりも?」
「逆なんです。必要以上のことを話してくれないんです。私が新製品を紹介しても『へ~』だとか、『そうなの』とか、まったく関心を示してくれないし・・・・・・。そう、商品を渡してお金を受け取るだけ。まるで自分が自動販売機みたいな感じなんです」
「なるほど」
「部長さんたちは、私にいろいろと声をかけてくださっったし、コミュニケーションっていうんでしょうか、なんだか仕事に張り合いがあったけど、いまは・・・・・・」
単純に恥ずかしがる恵美子が見たくて、私はからかっていた。けれど、言われる本人は、それでやりがいを感じていたと言う。
「でも、最初はみんな遠慮しているからじゃないの? 慣れてくればさ、そのうち冗談のひとつも口にし始めるかも」
「でも、それじゃ間に合わないんです」
「えっ?」
「我慢できないんです、私・・・・・・」
「どういう意味?」
それまでと違い、恵美子は思いつめた表情で訴えるが、私には彼女が口にする言葉の意味が分からない。
「私、私・・・・・・」
店の周囲を窺う恵美子。
「場所、変えませんか?」
「ここじゃ、言いにくいの?」
「はい」
「どこに?」
「二人きりになれる場所に」
恵美子の眼は真剣だった。そして、私たち二人は連れ添って店を出て、恵美子の示す場所に赴いた。
到着したのはラブホテルだった。
確かに二人きりになれる空間だが、ここまで来てお話だけと言うわけにはいかない。邪魔が入らない場所であれば、カラオケボックスとか、個室の居酒屋とか場所はいくらでもある。
恵美子は何を思って、こんな場所に誘ったのか。
―まさか? 美人局でも・・・・・・―
ながら、私は期待を感じながら、まずは恵美子の話に耳を傾けることにした。
「主人と結婚して8年になります」
ふたりがけのソファーに腰かけた恵美子は、隣に腰を下ろしている私に訥々(とつとつ)と話し始めた。
「どこで知り合ったの?」
「お見合いです。両親の勧めで」
「へえ、いまどき珍しいね」
恵美子は小さくうなずいた。
「主人はマジメな人で、それは仕事も私生活も同じで、年はわたしと十歳も離れていますけど、わたしの両親は 人間は真面目が一番 とか言って」
「それで無理やり?」
「いえ、無理やりでもなかったんです。私も遊び好きな人より、夫にするんならマジメな人がいいかなぁって。わたし、学生の頃、付き合った彼氏も何人かいたんですけど、結婚と恋愛は別でしょ?」
恵美子は次第に、親し気な口調になっていく。
「生活に苦労はないし、主人が会社に行っているときは自由だったし、さすがに浮気はしなかったけど、昔の友達とランチに行ったりとか、そこそこ楽しんでたんです。でも・・・、彼の会社が倒産しちゃって」
「それは・・・・・・」
「知り合いの紹介で新しい職場は、割合簡単に見つかったんですけど、給料は以前に比べて、かなり減っちゃって。それに慣れない職場だから、人間関係とかにも疲れちゃって。給料が減った分は、わたしがパートに出て埋め合わせするにしても、主人は・・・・・・」
ストレスが溜まって、ご主人はかわいそうにインポになってしまったらしい。
もともと真面目な恵美子のご主人は、セックスも淡泊で、交わったとしても正常位だけ。学生時代、いろんな相手と楽しんできた彼女には物足りない。
「そんな時、部長さんはいろんな言葉でわたしをからかってくれたでしょ。主人のアレを飲むとか、お尻の穴を試してみるとか」
「そんな事、言ったかなぁ」
「言いましたよ。わたし、仕事が終わって家に帰って、主人が戻ってくるまで部長さんに言われたことを妄想してたんです。いえ、強烈なの、たとえば縛られるとか、大勢の前で露出するとか、そう言うの聞くとたまらなくなって、部長さんの部屋を出るとすぐにトイレに駆け込んじゃうこともあったんですよ」
恵美子は妖しく微笑んだ。
それは、愛らしい面立ちの中に潜んだ、女の性を見せつけるような表情だった。
私は恵美子を見て想う。
彼女は何を望んでいるのか、そしてこのあと、自分は彼女に何をしてしまうのか。
「だけど、担当場所が変わってから、みんなよそよそしくて冷たいんです。誰も部長さんみたいに気安く接してくれなくって・・・・・・。わたし、欲求不満というか、気分が鬱になちゃったんです。それに、主人は相手してくれないし、たまに相手をしてくれても自分勝手に入れて、腰を振って、ただ出すだけ。そんなの、もう、我慢できないんです」
最後の言葉は悲鳴に近かった。
恵美子は私に抱き着き、キスをねだってきた。私はうろたえたが恵美子を抱きしめ、唇を重ねる。
彼女は舌を私の口にねじ込み、口の中を舐め回し、濃厚な口づけを終えた時、彼女はうっとりとした目で言った。
「してください。部長さんが言っていたような恥ずかしいこと、いっぱいたくさんしてください。わたし、恥ずかしいことが大好きなんです。恥ずかしいことをされると、燃えちゃうんです」
つづく