『………長い夢を見ているようだった…。幾度となく繰り返されるその夢は吉夢なのか、それとも何かが起こる前兆なのか…それは定かではない。ただ思い出されるその夢の内容はとても甘美なものであった。
地平線一面まで広がる美しい花畑。その中で無邪気な声をあげながら花畑の中を駆け回る幼児、そして少し遠くからそれを見て微笑む女性の姿…。その幼児は女性に声をかけられると幸せそうな表情を浮かべながら抱きつく。頭や頬を撫でられているが…それはその女性からしたら単に慈愛の目を向け可愛がっているだけでない様子。
なぜならその瞳の中に僅かに憂いが含まれているからだ。しかしその愚かな幼児が気づくことはない、この幸せがずっと続くと思っているからだ。何も気付かない幼児が満面の笑みを向けるとその女性は優しく微笑み返しながら僅かな言葉を漏らす。
??)『あなたは…何があっても生き延びるのよ…。いずれ時がきたら…事態は勝手に進み始めるわ。いつかは素敵な女性を娶って幸せにしてあげるのよ…?あなたならきっとできるわ…。私の…いえ…私達の最後の希望…。』
そう微かな声で呟くとその感触をしかと覚えておくようにゆっくりと頭を撫で続ける…。
その幼児はその声が聞こえてしまったのかふと頭を上げて不思議そうに首を傾げる。
そう言われた直後ザァァァァ…と風が吹き荒れると花畑の花びらが風に乗って優しくストーム状に空へと巻き上がる。
??)『いつか時がきたら…戻ってくるのよ…。この『ゲンソウキョウ』に…。』
その言葉を最後に幼児の夢は薄れてゆく。まるで水面に反射する夢がゆらゆらと薄れるのと同時に夢心地を味わいながら深い深い眠りへと落ちていく‥。そうして体を休め活力を蓄えるのだった‥。
??)んごぁぁぁぁ…ぐがぁぁぁぁ…
(その夢を見ていた幼児はスクスクと育ち今ではとある高校の2年生として日々授業を受けていた。今の授業は化学である。教室の一番後ろで窓側が彼の席なのだが彼はよく日が当たる席で昼食後の授業中にぐっすり居眠りをしているのである。
石田先生)・・・であることは〜であるからこの式が成り立つのだが今日の問題は…おーい、月谷居眠りをするんじゃあない、起きろー。先生泣いちまうぞー。
(そうとくに泣く気配もなく棒読みで寝ている生徒の名を呼ぶ彼は石田先生。この高校で6年働いている化学の教師である。彼はいつも通り少し砕けた雰囲気を出しながら授業をしている、ただしその月谷と呼ばれた青年が居眠りをするのもまた日常であった。いつもは流すところだが今日はなんだか気になったらしい。そんなわけで声をかけることになったのだが…先生の呼びかけにも答えず彼は寝ている。)
石田先生)なぁ、お前らこれ投げていいと思うか?
(ふと取り出したのは教室の黒板のところに置いてあったたっぷり白くなった黒板消しである。周りの生徒達からいいんじゃないですかね。(適当)と投げやりに言われると先生は少し振りかぶって黒板消しを投げる。だがそれはかなりの速度で投げられているため当たったらかなり痛いことだろう。それを察知したのか月谷は顔を上げる)
月谷)んぁ…?ホグワーツッ!
(むくっとからだをおこし眠そうにあくびをしようとした瞬間にスコーンっといい音を立てておでこに黒板消しが直撃する。そのまま月谷は後ろへガッターン!と音を立てて椅子と一緒に倒れる。そうしてぅ〜…と唸りながら体を起こすとおでこにチョークを消した後の粉がたっぷりついており白くなっているのと黒板消しの硬い部分がぶつかってきたため赤いタンコブも出来上がっており頭に紅白が出来上がっており大変縁起が良さそうだった。)
月谷)せんせいなにをするだぁーっ!
(右手で握り拳を作り叫ぶも頭の紅白具合で全く怖くなかった。)
石田先生)なにをするだぁーっていわれても授業中居眠りしてるお前が悪いんだろうが。ちゃんと授業くらい起きてろ。
それとお前頭の俺蒲鉾みたいになってるからちゃんと水で流しておけよ。
(先生まさかのここで正論という名の二つ目の黒板消しを投げる。)
月谷)ふぐぅっ…
(まさかの先生から正論を言われるとは思っていなかったのか思わず押し黙る。そしてモヤモヤした気持ちのまま授業が終わり生徒たちは帰路を辿っていくことだろう。)
月谷)ったくあの教師生徒に黒板消し投げやがって‥。
(月谷は黒板消しを投げたことをブツクサ文句を言いながら1人で帰っている。もちろん彼には友達も結構いる。部活などで一緒に帰れない日もある。だが今日はなんだか無性に1人で帰りたかったのだ。1人で帰ることも特に気にせずに歩いているととある何かを見つける。その中は目玉がたくさんついて真っ赤な不思議な場所だった)
月谷)なんだぁこの空間…。気味がわるい…(そういって何も見なかったかのように離れて歩き出す。が数歩歩き出したら前後から車が猛スピードで迫ってきたのだ。)
月谷)ふっざけんなっ…!嘘だろ!?(まえか車が来たなと思ったら避けようとした方に後ろから高速で車が迫ってくる。彼は車が来ない場所に飛び込んでは通り過ぎた後に冷や汗を流す。)
月谷)はーっ…はーっ…いったいなんでこんな速度で車が来やがったんだよっ…警察に捕まっちまえっ…!
(思いっきり舌打ちをしたい気分になるがなんとか耐え車の危険が去っていき安堵したのかほっと一息をつく。
…だが何か忘れてないか?彼が避けようとしたのはあの不思議な空間から逃げようとしたからなのだ。そうしてふと考えてみると、あれ?地面の感覚がない…。なんで?と不思議そうな顔をして下を見るといつの間にか移動してきたその変な空間により太ももから下がその空間の中に食われていたのだ。あっ…これ俺死んだわ‥。と顔をするとス〜…と息を一度吸うだろう。)
月谷)だぁぁぁぁぁぁぁ?!(そうして絶叫をあげた直後にその空間に全身取り込まれてしまいその空間の入り口も閉じる。彼はこの現象をなぜか知っているような気がする。そう…あれはこうやっていうのだ…。『神隠し』と…。)
(その日、月谷は姿を消し行方不明者としていくら探しても見つからなくなってしまったのだ。