オー、新鮮な百合デース!ファンタスティック!
体育終わりの放課後、体育館に併設された準備倉庫は異様な香りに包まれていた。そんな場所に顔をしかめた岡村くんは眉をひそめながら立っていた。ちょっと愛想のないところはあるけれど、イケメンで性格もよく、頭も良い。おまけにテニスでも結果を残しているスポーツマン、彼はクラスの……いや学校中の人気者であった。であるからこそ、これから何が起こり、何をしなければならないかを知っていた。だからこそ彼は嫌そうな仏頂面をして、人を待っているのであった。
「なに、東園寺さん……。」
「……っ!」
岡村くんが真っ先に気づいた。半開きのままにしておいた重い扉の前に、人影があるのを察知したのだ。その影は観念したように姿を見せる。日本人離れした金髪で、その年頃にしてはやや長身の少女が、眼鏡を若干曇らせながら恥ずかしそうに出てきた。
「お、岡村くん……来てくれてうれしい。」
「うん。」
岡村は短く、視線は観察するようにしたまま答えた。東園寺たゆま、名家の血を引くとかいう令嬢だ。実際の血統を岡村はたいして知らなかったが、両親の資産がたいそう多く、それを彼女が鼻にかけたような態度をしているということも知っていた。東園寺は普段の尊大な態度がどこへやら、ぽしょぽしょと蚊の鳴くような声でうつむきがちに話し始めた。
「あ、あの……今日はお日柄もよく、あ、あの、えと! 私、君に言いたいことがあって!」
「ああ、そうだね……うん。」
「え、あ、あの、言いたいことが……あって。」
「ウンって言ってるンだけど……。」
その言葉に、東園寺たゆまは怯えたような表情を見せた。岡村はどこかイライラしたように、胸元のボタンを一つ開けながら話を続けようとした。その額には汗が浮かんでいる。この準備倉庫は夏場、酷く蒸すのだ。岡村が口を開き、まるでブラックジャックで打たれたかのような鈍き一撃の言葉が狭い空間に響いた。
「じゃあさ、僕の方から言うけれど……もしかして告白?」
「えっ!! う、うん。私は君のことが……。」
「あ……ごめんね。僕好きな人いるから。それに結構今うまくいってる感じだから。」
「え、そ、そう……なの。あ、えへへ……。で、でも私はそれでも……!」
「振ってるんだよ。ごめんだけどね。それじゃ、あんまり希望は抱かないでね。僕、その人のこと本気で好きだから。」
岡村はその言葉を最後に去っていこうとする。まるで氷柱であった。氷柱のごとき冷たい言葉。夏の恋の暑さに浮かれていた少女にとって、その言葉とは心砕く大きな落差の一撃であった。東園寺は震えながら、拳をわなわなといわせた。目に涙を浮かべ、それを押し殺そうと努めながらも去ろうとした少年に向かって声をあげた。
「神崎さん、よね? あんな人、どこがいいの……?」
「……どこがいい、だって?」
「あんな人より私の方がずっとずっと……!」
「僕が神崎ひよりを好きじゃなくても……!! ……君のことは選ばないよ。」
「……っ!! お、岡村くんっ!!」
岡村けんじは返答せずに去っていく。準備倉庫には乾いた空気とともに敗者たる東園寺たゆまの姿が残された。彼女は土ぼこりにまみれたフローリングの上で膝をついていた。
「待ってよ、行かないでよ……私、なんでこんなに惨めな想いをっ!」
その言葉とともに堰を切ったように、感情が揺れ動く。濁流の中で溺れる木片のように、ぐちゃぐちゃにかき回された心の中は、慕情なのか悔しさなのか、悲しさ怒り狂気が混じりあって判別のできない感情へと変わっていく。震える拳を握りしめながら、彼女は暗い水の底からその言葉をくみ上げたのであった。
「神崎、ひよりぃぃ……っ!!」
一方、準備倉庫を後にした男の方はといえば、岡村くんはといえば逃げるように素早く移動をしていたのだ。もうすでに準備倉庫からは遠く離れ、校庭を超えて校舎に入るところであった。
「ち、臭いんだよ。」
岡村くんは一人、誰ともなく呟く。いやそうに、吹き飛ばすように、一つ大きな息を吐いた。そして彼は、東園寺たゆまの涙ながらの慟哭を聞くことはなかったのである。
* * * * * * *
「おーい、ひよりちゃーん! これを見なさーいっ!」
「なに、それ……?」
夏の近くなった暑い日、でした。まだ春だというのに夏の陽気が迷惑にも早起きし、世に快晴と熱気を振りまいているような日に、それは起こりました。まだ蝉の声が聞こえないのが不思議なほど暑い日、下駄箱の前では先にそれを見つけたらしい私の友達が騒いでいたのです。彼女の手には何か手紙のようなものがありました。それはラブレターのように見えないこともありませんでした。
「君の下駄箱に置かれてるのを見つけたのだーっ!どうだい感想はーっ?」
「うーん、なんだろう。これ……。」
「絶対ラブレターだよ! きっと岡村君からだよ! ついに告白されるんだー!」
「……筆跡が違う。岡村くんじゃないと思うけど。」
表面に書かれている「神崎ひよりさんへ」という文字。それは細く几帳面そうな字で書かれていて、筆圧の強めな岡村くんの字とは違うように見えました。クラスメイトの子はその文字を見せつけながら得意げに口を開きました。
「でも多分、こんなことするのは男子だよ! いーなー、なんかドキドキするね。」
「そーだね。」
幸いにも封は破られておらず、それを見つけたのは彼女だけらしかったです。私は何か変な噂を立てられるのも嫌だったので、それを彼女の手から奪うとポケットの奥の方に隠し入れました。それを見たその女の子が騒ぎます。
「あーっ! 私が見つけたのに!」
「私に送られたものでしょ。」
「手紙にひよりちゃんの外靴の匂いが染みついたかもしれないのに! まだ嗅いでないよー!」
「えぇ……それ普通に気持ち悪いから……。それに人の書いた手紙を見せ物にするなんて可哀そうだよ。」
「それもそうだね! あとで誰から送られたかだけ教えてねー!」
「そんな勝手なことを言って。教えないよ……。」
私がそれを言う頃には、彼女は走って部活動の部室の方にいった様子でした。カタカタという涼しげな足音が夕方になりかけた校舎の中に響きます。私はちらりと手紙を見て、周囲に誰もいないのを確認してから、靴箱に寄りかかって隠しながらそれを開きました。
『神崎ひよりさんへ
僕はいつもあなたを見ていました。この胸の想いを抑えることがもうできません。どうしてもお聞きしたいことがありますので、放課後16:30に準備倉庫までお越しください。』
書かれていたのはそんな内容でした……。短くてロマンシチズムの足りていない手紙です。書いた人はきっと恋愛の経験がないのでしょう……。
それにどうにも妙な気がします。準備倉庫というのは体育館の外にある中くらいの物入れであり、体育の時は使いますが、放課後によりつく人なんて、運動会の時期くらいにしかいないのです。今は運動会の準備中でもありません。ですから色恋の話をするなら絶好の場所なのは確かなのですが……しかし人の目がないというのは少しばかり不安になります。気を引き締めていった方が良いかもしれません。
それでも行かないという選択肢はありませんでした。だってもし私が岡村くんにこんな手紙を送るとき、無視なんてされたらとても辛いからです。
* * * * * * *
準備倉庫にはカギはついていますが、田舎のゆるい学校だったので普段からかけてはいないようでした。生徒が体育の前は移動時間に道具を取り出したりするので、ある意味効率的だともいえます。
準備倉庫はほこりっぽくて寂しい場所です。外とつながっているため、靴についた土や砂がよく入るのです。そのため口をすぼめてほんの少しだけ息を吸いながら、私はそこで手紙の送り主を待っていました。
送り主の署名はありませんでした。ですが向こうから時間まで指定してきたのだから、そろそろ来るはずです。校舎を出るときに見た時計は16時20分でしたから。私の学校にはスマートフォンの持ち込みは禁止で、腕時計もつけていないため時計のない準備倉庫では現在時刻を正確に測るすべはありません。余裕をもってニ、三分前にはいたのですが、人影はまだありませんでした。
「~~♪ ~~~♪」
私は鼻歌でも歌いながら待つことにしました。胸元にパタパタと空気を送り込むと、蒸し暑さも少しはましになりました。それでもずいぶん暑く、座っているだけなのに汗が出てくるほどです。私は扉も開けた方が空気が流れていいかもしれないと思い始めました。
扉に近づいて開けようとしたときでした。手が触れる前に勢いよく扉が横にスライドしていきました。びっくりして目線を上げると、金色の髪色で背の高い目立つような女の人が太陽に背を向けて立っていました。誰なのかはすぐにわかりました。
「うわ……東園寺さん!」
「うわ?」
じろりとその人はこちらを睨んできます。その人は東園寺たゆまさんです……。間違うわけもありません。クラスでは、そして私たちの第三中学では有名な人です。成績優秀でさらにお金持ちの家の子で、そして悪い意味でも有名で、すごい嫌われ者なのです。すぐに突っかかる性格をしているので、だいたいいつも一人で行動しています。強気で家の力もすごいのでいじめられることこそありませんでしたが、煙たがられている人ではありました。それにそれ以上に、彼女には初対面の子にも嫌われる理由もあったのです。
「こんなところで何してるのかしら。怪しいわね……。」
「い、いや別に……ちょっと用事があって。」
東園寺さんが扉からこちらの方に近づいてきます。待ちに待った冷たい風が吹いて、私の身体を冷ましてくれましたが、早速私は扉に近づいたことを後悔し始めていました。恐れていたものが、私の鼻にツンとくる感覚がありました。
(う……! に、匂いがいつにもましてキツイ!)
そう。彼女はなんというか少しばかり……いえこの季節になると強烈に香っているのです。つまりは臭かったのです。あまりお風呂にも入っていないのかもしれません。髪や顔こそ手入れしているようであり、綺麗に見えるのが不思議なくらいです。多分体臭を誤魔化すためなのか、制汗剤と香水を大量につけているようで、それが立ち上る汗のにおいと混ざってとても独特で目立つ匂いを放っているのでした。彼女が来ればすぐにみんな気づくほどでした。
私はさりげなく鼻をかむふりをしながら、ティッシュを押し当てて我慢をします。ちょっと彼女に悪いかなとも思いますが、まるで汗をたっぷりと貯めて、その水で洗濯でもしたみたいな強烈な悪臭なのです。東園寺さんとはクラスであまり関りにならないほうだったので、それに対するうまい対処法もまだ知らなかったのです。とにかくどうにかしないとほんとに鼻が曲がりそうです。私はそんな考えの中、話を始めました。
「あの、出ていって欲しいんですけど……。」
「私がどこにいようと貴方に命令されるいわれはないと思うけれど。」
「そ、そうですけどこれから人が……。」
「へえ、誰が来るのかしら。それを聞いたら帰るわ。」
彼女はそんな風に返してきます。どうやら取り付く島もないようです。そろそろ手紙の送り主が来てしまうはずなのですが……。なんにせよ、その人は私一人を呼んだでしょうに彼女がいれば困るのです。私は軽く焦りながら彼女をどうにか追い返そうとしました。
「あ、あのホントに……。誰かはわからないのですけど、多分……。」
「いえ、違うわ。」
彼女はそう言いながらたっぷり間を取って、準備倉庫の中を見渡しました。それから、ふんと息を吐くと尊大な調子で言いました。
「来たのは『私』よ。」
「え、それはどういうことです……ぁ?」
私はその言葉の意味がはじめ、よくわかりませんでした。しかし結論からいうと、彼女は急に襲い掛かってきたのです。学校でそんなことあるわけないという油断もあったんだと思います。私も一応警戒をしていたのですが……。しかし現れたのが東園寺さんであったため、同じクラスの女の子であったため、そのころにはもう警戒は緩んでいました。それに匂いをどうするかばかり考えていたため、東園寺さんが何を考えていたのかを少しも知ろうとしていませんでした。
彼女は突然私を突き飛ばしました。そして私が尻もちをついている間に扉をピシャリと閉めました。最後に後ろ手に隠し持っていた縄跳びを使って、私に馬乗りになるとぐるぐる巻きにし始めたのです。私は突然のことにびっくりして思わず叫び声をあげようとしました。
「なに、何なの……っ! 誰か、誰か助け……っ!」
「黙りなさい……!! 質問、したいだけよ。」
「む、ぬぐ!」
彼女が素早く私の口元を抑えると、すさまじい激臭としょっぱさが口の中に広がりました。どうやら口に押し込められた汚らしい布から漂ってきているらしかったです。涙が浮かびそうになりました。味蕾が一つ一つ破壊されるがごとき暴力的な香りが私の脳を容易に熱中症みたいにくらくらさせていきました。
(暑い……っ! 臭い……っ! 頭、おかしくなる!!)
その間に東園寺さんは放置されていた学校の椅子に私を無理やり座らせると、数本の縄跳びで私の両足をそれぞれパイプに拘束しました。その次に私の両手を後ろ手に縄跳びで縛り付けます。私は抵抗しようとしたのですが、目にじんわりと涙が広がって、肺の中に貯まってしまったハウスダストみたいな空気の匂いが苦しくて、ほとんどされるがままになっていました。知らなかったことですが、同年代にしては体格のいい彼女の力がとっても強かったのも、原因の一つだったと思います。
「なんでアンタなのよ……っ! なんで、アンタなんかが……!」
東園寺さんはブツブツそんなことを言っていました。しかし手はテキパキと作業を進めていくのがわかります。そんな中で、私はなんとかえづきながら口元の布を吐き出しました。それはハンカチでした。でも何か変な液体でもついて変色したような色の使用感のある汚いハンカチです。なんでただのハンカチがあんなに臭うようになるのでしょうか。
ともかく私はそれで再び叫んで助けを呼べるようになったのですが、その時はぜえぜえと溺れたような息をしているのが精一杯でした。そんな情けない姿になった私を、東園寺さんは軽く笑いながら見下ろしていました。
「……フン、良いざまね。調子に乗ってるからそうなるのよ。」
「わ、私……調子に乗ってなんか……。」
「乗ってるでしょ!! 調子に!! ……岡村くんといい仲になってる癖にッ!!」
彼女は唐突に大声を上げました。次の瞬間にはハッとして、自分でも大声を上げると不味いと気づいたようすでした。声を抑えると彼女は言葉を続けます。
「で、ホントなの? そういう噂を聞いたのだけれど、神崎ひよりさん?」
「……東園寺さん。東園寺、たゆまさん……っ。そうだと言ったら何なの? こんなことして何の意味があるっていうの……っ!」
「ふ~~~~~~~~~~~ん???」
彼女は首を傾けると私の座らされている周りを回り始めました。そうすると垂れた金髪が軽く私の顔に触れました。サラサラしたすごくいい感触なのに、それすら臭いのは最早不思議なほどです。
「なかなか気丈じゃない。個人的には気に入ったわ。でも今の状況分かってる?」
「……分かってるけど。バレたらやばいのはあなたの方だって。」
「あら、それは大変。……で、どうするって言ってたわねぇ。こうするわよっ!!」
「ムグ……ッ!?」
東園寺さんはいきなり私の顔に靴を押し付けてきました。真夏の下駄箱よりもずっと強烈で、まるで夏休みの間ずっと朝も夜も履き続けたような、不衛生極まりない濃縮されたような匂いが漂っています……。東園寺さん、どうやら彼女の内履きのようでした。
「なんでアンタなのよ……! ワタシいつも頑張ってるのに! 塾だって学校だって、部活だって! 自由な時間殆どないくらい頑張ってるのに! お母様も、岡村君も、あんなひどいこと言って……! アンタみたいに何のとりえもない奴が、なんで笑ってるのよ……!!」
「う……やだ……!」
頭を振って逃げようとしますが、それでも無理やり押し付けられます。それはもう拷問みたいな匂いです。もう目に染みて呼吸すらいやになるほどなのに、それでも逃げられないのです……。
(くらくら♡、してきた……♡♡)
「なんでアンタが、私だって頑張ってるのにっ!」
その間も彼女の独り言みたいな声は続いていました。でも、もう限界でした。私は首を大きく振って逃れて息を吸いこむことができました。そうしながら、しかしこれは私だけのためというわけでもなく、彼女の言葉の中に気になることがあったので、ぜえぜえしながらも話し始めたのです。
「と、東園寺さん……な、なんか事情があるみたいだね。わ、私も力になるからさ。な、縄ほどいてよ。友達から始めよ……?」
「力になる、貴方が? 力に、ねえ。へえー。」
「な、何するんモガっ!!」
「モガですって! はしたない声!」
東園寺さんは今度はガムテープを私の口にビタンと貼って封をしました。口は抑えられ、ろくに声も出せず口で息を吸うことも出来なくなりました。そして、それはある一つの恐ろしい事実を浮かび上がらせることでもありました。つまりは鼻でしか呼吸ができないのです。多分東園寺さんは声を出せなくしただけのつもりだってのでしょうが……。あのおぞましい空気から逃れる方法は息を止め続けるしかないということであるのです。それも当然長続きするはずがありません。
……手足を縛られ、叫ぶことも出来なくなりました。そして彼女はゆっくりともてあそぶ様に私の制服をまくり上げてくるのでした……。服を抑えるのとは逆の手では、スマートフォンを持ってこちらに向けています。撮影されているというのは明白でした。東園寺さんはちょっと驚いたように、にやけながらカメラを回し続けていました……。
「う……♡ な、なかなか良いスタイルしてるわね……。で、でも汗ばんでるわよ、あー恥ずかしい~~!!」
貴方には言われたくない……というのは勿論言えませんでした。私はようやく、縛られて声も出せないという今の状況がとても恐ろしいということに気づきました。気づいてはいましたが、そんなことになりはしないと思おうとしていたのでしょう。正常性バイアス……そんな言葉を思い出したのはずいぶん後のことでした。
東園寺さんは恥ずかし~、恥ずかし~と鳴き声をあげながらスマホで下着がむき出しとなった私の姿を撮っていました。スマホの持ち込みは禁止のはずですが、どうやらルールを守っていないようでした。まあ法律を守らない人なのですから、校則で縛れるわけもないのでしょう。私はそんな姿を撮られてとても恥ずかしくて惨めな思いをしながらも、目だけは東園寺さんを睨んでいました。多分涙目だったでしょうが、従って思い通りになるつもりはありませんでした。
「ふん……そんな目をして。」
「……ウーッ!!」
「あらあら、恐いわね。獣みたい……ただし口枷のついた恐れるに足りない猛犬のメス犬ね。……そうね、下着なんか撮ったって心を折るには足りないみたい。もっとぉ、過激にぃ……しないとね?」
「か、過激……?」
「それっ!!」
一気に下着がはぎとられました……。上だけでなく、下もです。ほとんど強引に無理やり脱がせられ、制服が着崩れて所々にかかっていますが、恥部を隠してくれるほどではありません。何気なさそうに東園寺さんがすうと鼻で空気を吸い込む音が、ちょっと長い気がしました。
「……うっわっ!♡♡ くんくん……くっさ!! くっさいわよ貴方……♡♡ スゥー……っ♡ なにこの匂い……。」
「~~~~~~~!!」
恥ずかしさで目が回るようでした。確かにちょっと気を抜いていたかもしれませんが、こんなに言われるなんて思いませんでした。
さらにそれを動画で撮られてしまっているなんて……。私の自尊心と抵抗する意思は、どんどん恥ずかしさと惨めさ、情けなさ、怒りでぐるぐるして塗りつぶされていきました。頭に血が上るような感覚になって、急に恥ずかしくなって……暴れますがきつく縛られたなわとびは、びくともしませんでした。
「あー、なにこれ……♡ 酷い匂い♡ こんなんで岡村君と付き合おうなんて馬鹿みたい……♡」
「……ッ!!?」
お前に言われたくないpart2、です。こんなに言われては、悔しさで言い返したくなってきてはいましたが、口元のガムテープがそれを許してはくれません。
「ふん、なんでアンタなのよ……。一皮むけばこんななのに。みんなそうなのに……。」
東園寺さんはそう言いながら、私の乳首をはじき始めました。私はガムテープの中で押し殺された悲鳴を上げます。甘く弱い刺激が、この特殊な状況では耐えがたい快楽のようでした。こんな、縛られて、無理やりで、乳首だけで……感じてはいけないはずです。しかしその思考をすればするほど、でした。弾かれるたびに脳がくらくらするような弱い快感が、あたまの中を駆け巡っていってしまうのでした。
「……え、なんで濡らしてんの?」
「っ!!」
東園寺さんのしごく当然みたいな調子の声が聞こえました。それを聞くだけで恥ずかしさでもう赤い顔がさらに赤面するのが分かりました。彼女がしげしげと私の開かれた足の辺りを見てきます。
「なんで、濡らしてんの……?」
(ち、違う……っ! そんなことなってない……!)
「ふーん……?」
彼女が私の表情と開かされた足の間を交互に見ます。それはつまり、彼女からすれば丸見えになっているということで……。足を軽くよじってみますが、無理やりぐいと開かれて観察されます。
「もしかして気持ちよかったの? この状況で? 乳首だけで?」
(う、うう……。)
「気持ち悪……。」
東園寺さんがこちらを見下すような視線を向けました。私だって感じたいと思ったからそんなことをしてるわけではありません。そもそもこれは肉体の反射的反応で……。思考ではいくらでも反論できますが、口をふさがれていてはそれもできません。
東園寺さんは無言で私のパンツを下すと、冷たい目のまま陰核を軽くつねり上げます。私の脳内で何かがはじけるような感覚がありました。被虐と何かが合成され、目の奥でスパークがはじけるような感覚です。私の中では何かが知らないうちに、変わり始めていたのです。
「ふうん、そうなんだ。そういう人なんだ。神崎さんって。」
「ん~~っ!?」
彼女は私の……だ、大事なところも撫で上げてきました。そうして手についたねとねとを眺めながら、指についた粘性のカーテン越しに、私を冷たい目で見てくるのでした……。
「私から見たあなたの状況って……縛られていて、声も出せなくて、無理やりで、それなのにこんなにしてるのね。」
彼女の顔が近づいてきます。ゾクゾクとした気持ち悪さと得体の知れない快楽の予感を感じました。レロォ、と熱い吐息とともに柔らかいものが耳に入れらました。そのまましばしの間、舌で耳の中を蹂躙されていました……。
「それって、どっかおかしいんじゃないのかしら?」
耳元でそんな声が囁かれました。小さな声でした、しかし近い距離を感じさせる大きな囁きでした。そのまま指の速度が上がっていきました。そのたびに背骨を引っかかれるみたいなゾクゾクが走ります……。
(や、やだ……き、気持ち悪い……っ!! も、もうやめてよぉ……っ!!)
「ん、ちゅぷ……♡ 学校で、みんなが使ってる倉庫をこんなに汚して。明日になればみんな気づいちゃうかもね。そしたらこの時間に貴方がここにいた~~って言いふらされて全部バレちゃうかも……。」
彼女が耳もとに口を寄せてきて、リップ音が鳴りました。それと同時に耳に粘つくような温かさも感じます。
「ね、わかってる?」
東園寺さんの声が近い。誰かに、こんな風に近づかれたことなんてない気がします。……彼女の言葉が続きました。
「あなたがこんないやらしいことしてるって、学校中、地域中のみんなにばれちゃうのよ……?」
「……っ!!」
彼女はじーっとカメラを向け続けて強気な笑みを浮かべていました。それを意識したとたん、そのカメラが急に恐ろしく、そして自身の状況が恥ずかしくなりました。そのカメラは証拠を記録してくれる味方ではなく、私の痴態を記録し続けるただのものであったことにも気づいたのです。
(や、やめてよ!こ、こんな姿撮らないで!)
汗ばんだ靴をかがされて、下半身を丸出しのまま乱暴にクリトリスをねじられているのです。こんな姿を撮られたら……もしこんな状況でイってしまったのを映像に残されたら……いやだ!
しかし東園寺さんはやめてくれません、そうしてくれるわけがありません……。さらに恐ろしい言葉を続けていきます。
「さっき、貴方ティッシュで鼻押さえてたわね……? もしかして鼻水でそうだった?」
「……。」
私は首を振りました。彼女は私のそんな様子を見て、くすくすと笑います。
「遠慮しないでいいのよ。ほら、私のハンカチで拭いてあげるから……っ。嗅ぎなさい。」
動けない私の顔面に再びあの凶器のようなハンカチーフが押し付けられます。首を振って嫌がりますが、ろくに動かすことも出来ず無理やり押し付けられました。再び呼吸困難になりそうな、毒素を含んだような空気が鼻を通して体内に吸い込まれていきます。必死に呼吸を止めようとしますが、混乱した体は酸素を求めて勝手に空気を取り入れようとします。そうすると、私はまるで溺れるみたいにその空気の中で目が回り始めました。
「……ッ! ……ッ!?」
しかし咳をすることも出来ません。目の前がチカチカしてきます。歪んだ視界で、かろうじて何か白いものが近づいてくるのが見えました。……温かいものに顔をがっしりと挟まれます。その途端、これまでがまるで悠々とした山の中の澄み切った空気であったかのように思えるほどの臭いがしてきました。私はようやく、必死に体をばたつかせました。しかし抵抗はむなしく異色である気がするような、熱せられたむわむわとした空気が侵入してきました。
(やだぁ……やだぁっ!!)
「私の脇で顔面押さえてホールドしてあげるけれど……幸せでしょ? 花粉とかぜーんぜん入ってこないくらい、ぎっちり脇マスクで押さえてあげるから……私の脇通してしかもう一生呼吸させないからね……♡」
その言葉ともに手が頭に回されます。もう首を振ることすらできません。それなのに優しく、まるで愛しいものにでも触れるかのように撫でられるのが、さらなる嫌悪感を誘いました。
脇とハンカチ、しかもどちらも異臭のするものです。ハンカチごと顔面に脇を押し付けられ、少しも動くことも出来ず、その不潔そうなものを顔面にまで押し付けられているのです。何かの病気にでも感染しそうなほどの……それをです。ひどく情けなくてひどく情けなくて、嫌で視界が水中のように歪んでいきます……。
「あー、可愛い……このまま窒息させて全部私のものにしたい……♡♡ ……っ!? って違った違った!き、きもーい。」
薄れゆく意識の中で彼女が何かを言った気がしますが、はっきりとは聞き取れませんでした。
その中でもにちゅにちゅとした音ともに、私の大事なところはもてあそばれ続けていました。にちゅにちゅ、くちゅくちゅくちゅ……。音は鳴りやみません、匂いは少しも収まりません。私は気絶することも出来ずにぼーっと涙を流しながら終わるのを待ち続けるしかありませんでした。
東園寺さんも何が楽しいのか、自分のをいじっているのが見えました。そこから漂うにおいは今までの何十倍も強くて……。倉庫の中に急速に広がっていきました。目に染みるほどの悪臭です。しかし何か、多分彼女も女の子だからでしょう。女の子の気持ち良い部分を知っていました。私は確かに、そんな嫌でしかない状況の中、肉体は絶頂に近づいていたのです。煮えたぎるような思考の中で、心臓が茹で上がっていき、どんどん頭が変になっていくようでした。目に汗が入ってしみて、痛いので涙すら出てきます。それを見ても東園寺さんはやめてくれません。それどころかどんどん変な顔をして、指の動きを速めていくのです。
「神崎さん……♡♡ か、神崎さん……♡♡ お、岡村君とはぁぁぁぁ……♡♡!! もう付き合わないって言いなさ、おおおおやばこんなのぉぉ初めてっ♡♡!!」
言えといわれても、口にガムテープを貼られていては言えるわけもありません……と思いました。そしてその時に気づいたのです。おそらく蒸れた湿気で粘着力が緩んだのでしょう。ガムテープがぺろぺろと剝がれかけていました。チャンスはここしかありません。私は脇の隙間から口を出して(汚くてホントに嫌でしたが……)、そしてガムテープの剥がれた部分から必死に声を出そうとしました。ここから助かれるのなら、もう岡村君なんてどうでもいいとまで思っていたのです。私の意志は決まっていて、言うことは一つでした。
「つ、付き合わないよ! だからもうやめ……。」
「おおっと!! な、なんですって!! き、聞こえないわねー♡♡♡!!!」
しかし東園寺さんはいじわるにも、ガムテープを貼りなおしました。そして反論の余地など与えないかのように、乱暴にクリトリスを弾き、擦り続けてくるのでした。無理やりな絶頂が近づいてきてしまっていました……。
臭くて、暑くて、辛くて、そして認めたくありませんがき、気持ちよくて……私の脳内は茹っていきました。正常な思考ができません。こんな状況でひどい状況といじめの中で、絶頂しようとしていたのでした。こんな刺激は私の人生で知ったこともないような、恐いほどの強イキが近づいているのがわかりました……。
東園寺さんもピンと張って勃起したクリトリスを、右に左に弾いて変な顔をしていました。彼女も──気持ち悪いことに──達しそうになっていたようでした。
「やばい、なんか……♡♡ 匂いかがれるの気持ち良い♡♡!! 神崎さん、神崎さん♡♡ クラクラしてびっしょり汗ばんでるの可愛い……♡♡!! 憎いのに、憎いのになんかクル……!」
彼女が上ずった声でそのように言います。しかし私もそれどころではありませんでした。彼女が素早く指を弾くたびにピリピリとした感覚が走ります。そのうえ倉庫に広がったもはや何かすらわからない形容しがたい匂いを吸うたびに、ホントはいやなのに今まで感じさせられた条件反射で得体の知れない興奮をもたらしてきます。
(も、もう離して……鼻曲がるぅぅっ!!)
「神崎さん、神崎さん神崎さんイってイって嗅いでイって私もイクからぁぁぁぁぁぁぁあああっっ!!!」
「…………っっっ」
頭がちかちかと真っ白になりました。気持ちいい星の明滅です。東園寺さんの手からも、小刻みな振動が伝わってきました。気絶したアニメキャラクターみたいに星がぐるぐると、私のぐつぐつとした頭はほんの少し放心していました。ちょっとの気絶から意識を取り戻してみるとぶしゃぶしゃとふいた放射状のシミがフローリングの上には広がっています。ぼんやりとした軽い快感の余韻で、ふわふわと浮くような気持ちです。軽い熱中症のようになっていた私は、そのシミだけをぼんやりと見ていました。
「……はっ!? カ、カメラカメラ……ちゃんと撮れてるかしら。おおバッチリパッチリ!」
しばしの間ののち、そんな満足げな声が聞こえてきました。パンツは脱ぎ捨てたままで、東園寺さんはスマホの映像を確認していました……。終わってみると、あんな人にこんな目に合わせられている自分が惨めで、怒りに震えるようで、そして悲しくてたまりませんでした。
沈んだ様子の私を見たのでしょうか、東園寺さんがおずおずと声をかけてきました。こんなことをしたくせに……。
「え、ええと。その神崎さん?」
「……。」
私はぐったりと椅子に体重を預けながら、ぜんそくの時みたいに息をしていました。涙があふれて勝手にこぼれ落ちました。どうにでもなれ、という気持ちです。涙を止めようとする気持ちにもなれませんでした。
「わ、わ、私……こ、こんなことするつもりじゃあ……。あ、あのそのあのあの、こ、こ、拘束ほどくわね~!扉は開けていくから熱中症には気を付けてね~~っ!! あとあと、あ、あと映像のことは忘れないでね~!」
東園寺さんが逃げるように扉を開けて出ていき、パタパタとした足音が準備倉庫の中に響きました。異臭のする空間です、この場所は。果たしてこれは彼女だけのものでしょうか。ぐっしょりと汗で濡れた、私の身体から漂うものが少しもないのでしょうか。そう考えると急に自分が汚れた存在であるかのように思えてきました……。
吹きすさぶ風が、火照った体を冷ましてくれますが、少しも嬉しくはありません。もうどうしてやろうかと思いましたが、開いた扉から外が見えるのを確認したとき、私は思わずむき出しの身体をかばってしまいました。それからはもう、流れるようにです。どうするか考えるのも嫌でした。
証拠はあります、東園寺さんが撮っていたあのカメラの映像こそが証拠です。……しかし、もし警察に行ったらどうなるでしょうか。その映像は大勢の人に閲覧されて、そして地域の噂になることも間違いありません。「大変だったね……。」「私がついてるよ!」そんな意味もない、好奇交じりの視線と質問に耐えなければいけないのです。そんなのひどすぎます。それこそ今以上に……。
準備倉庫は私が掃除しました。縛られて、触られて、嗅がされて、恥ずかしい思いをさせられた……私は被害者なのに、掃除までさせられたのです。それに動画まで変態の東園寺の手に渡ってしまっているのです。これから私はどうなるのかと思うと、拭いたばかりのフローリングに涙がこぼれ落ちます。外は既に夕日が落ち切っていて綺麗な星が見えていました。しかしそれは少しの慰めにもなりません。あれほど惨めで寂しい夜もありませんでした。
* * * * * * *
【東園寺たゆまの家】
やってしまったやってしまったやってしまったやってしまった。同性とはいえ普通に犯罪……よね。監禁、わいせつ、不純異性交遊……異性ではなかったけどそんなことはどうでもいい!東園寺の家にも迷惑がかかるお母様にもきっと怒られる……。神崎さんにもひどいことを……ひどい、ことを。
「神崎、さん。」
不思議とその名前は口に出ていた。スマホの中ではその可愛らしい女の子が、嫌そうに顔をゆがませながら痴態をさらしています。それを見ると、頭が変にぼうっとしてきて、なんだか胸が苦しく切なくなってしまって……私の手は下の方に伸びていました。私は、何かおかしくなってしまったのかもしれません。岡村君を前にしたってこんな風には……ならなかったのに。
涼しい夜の中で、静まらぬ熱気に胸のドキドキが収まりませんでした。どれくらいたってからかはわかりません。でも私は確かに笑いました。声を立てずに、口端だけ吊り上げられた、下手くそな引きつった笑い顔をしました。握りしめたスマートフォンの中には、彼女を支配するに足る映像のデータが残っているのです。その事実を認識したとき、犯罪を犯した恐怖よりも興奮の方が勝ったのです。私は、本当におかしくなってしまったのかもしれません……。
彼女を支配できる、何でも好きにできる……またあんなことをできる。ひどいことを、そんなひどい、妄想をして……しかし私の手は昼間と同じ場所に触れました。そこには既にぬるぬるとした淫性の液体が充填されていました。私の日課には、新たな一つの悪癖が追加されたのでした……。