大通りでの騒ぎの後、インテレオンの家に集まる面々。
「悪いね、二匹も来て貰って」
「当然」
「マホイップも大丈夫かしら?」
「……はい」
「……」
深刻な表情を浮かべるインテレオン。
相変わらず口数は少ないがその声音は真剣そのものなアノホラグサ。
自分達のリーダーに気を配っているドラミドロ。
憔悴しきった様子で俯くマホイップ。
そして私。
「……凶暴化ポケモンを元に戻せるという話が知られてしまった……だよね? 何があったんだい?」
「……あの二匹……救助隊『アースアーム』が昨日『芽吹きの洞窟』へ行き……そこで以前私とルーアが出会ったナゾノクサと彼らも遭遇したようですわ。そして二匹は彼女に襲って来ない理由を尋ね、私達に凶暴化を解いて貰ったという情報を得たみたいですの……」
俯いたまま語るマホイップ。
「……そうか、そうよね……。ダンジョンに住む凶暴化から解かれたポケモンが、救助隊と遭遇することだって当然ある筈だわ……」
「考慮不足……私達だけ黙ってても駄目だった」
そう言って顔を顰めるドラミドロとアノホラグサ。
「キミ達から見て町のポケモン達の様子はどうだった?」
「完全に浮足立っていたわ。マホイップに会わせてくれってポケモンが幾らいたか」
「凶暴化解除ムード、全部のポケモン戻す気満々」
どうやら凶暴化問題を解決できるという話は収まるどころかより熱狂しているらしい。
これではやはり、狂暴化を解除したのが私の力だと知られれば……。
「……ルーア、申し訳ありませんわ。私が『芽吹きの洞窟』へあなたを連れて行かなければ……」
「……っ」
マホイップはそう謝罪して来るが、私は何も答えられない。
彼女をフォローしたりするような余裕が残っていない。
「悔やんでいても仕方ないさ……この事はファイヤーやチェリムの耳にも届く筈だからギルドから接触があるのを待とう」
「ええ、それまでは下手に動かないのが良さそうね」
「賛成」
「ひとまず、飲み物で落ち着きましょう……台所借りるわね」
「おっと、僕も手伝うよ」
「マホイップ、モモンドリンク好物」
「……」
「……」
インテレオン達が今後のことを話す間、マホイップと私は黙りこくっていた。
「う……♡」
怖い。今後のことが、怖い。
「あ、う……♡」
こんな事やってる場合じゃないのに。
「ううっ♡ ぐっ♡」
でも、少しでも気を紛らわせないと、おかしくなりそうだ。
「ああっ♡ うう、ぐ……♡」
ギシリギシリとベッドが鳴る。
自室に戻った私は一人、うつ伏せで腰を上下させていた。
膣内で振動するバイブは甘美な快感を私に与え続けている。
「ふぅ……♡ う、うう……っ!」
私のせいでマホイップにあんなに辛そうな顔をさせて。
インテレオン達もどうすればいいか分からず困っていて。
本当なら私が何も恐れず勇敢に、全てのポケモンを凶暴化から救うと名乗り上げれば迷惑を掛けずに済んだのに。この身をこの世界のために投げ捨てる覚悟を持っていれば良かったのに。
「……っ」
世界一つと自分一人を天秤にかけ、自分を選んでしまう私が許せない。
許せないと思っていても、その選択を変える事すら出来ないのが苦しい。
その選択のせいで皆が苦しんでいるのが分かっているのに……!
「うううっ♡ ぐすっ……!」
ベッドの上で、プルプル震える私。
ローター等を使えば絶頂出来るのに、私はただ膣内のバイブのみで微弱な快楽で自らを苛む。
こんな事をしても許される訳でもないのに、そんな戒めを罪深い自分に与えていた。
「……ぎ……♡ ぐぎっ……!」
苦しい現実、恐ろしい未来を必死に忘れようと、私は枕を噛み締める。
それでも嫌な想像が脳内を駆け巡ってしまう。
辛そうな顔をして届かない手を伸ばしてくるインテレオン。
どれだけ嫌がっても連日連夜ダンジョンへ向かわされる私。
毎日増えるダンジョン、毎日増える凶暴化ポケモン。
永遠に終わる事の無い凶暴化ポケモンとの戦い。
そして生まれる……『歪みの穴』の発端は私ではないかというポケモン達の疑念。
「ッ!?」
目を見開く。
(今のは……!?)
暑いぐらい汗をかいていた筈なのに、全身から血の気が引いていた。
上がっていた感度も完全に失せ、バイブの振動で快感はちっとも生まれない。
「……っ」
「ルーア、起きてる?チェリムが来たよ」
「う、うん……今、下りる……!」
その時、扉の向こうからインテレオンの声が聞こえてくる。
私は咄嗟に、彼へ応えた。
「その話は私達も聞いてるよー……だけど別件」
インテレオンの家にまでやって来たギルド長補佐の言葉は期待とは異なるものであった。
「べ、別件って……」
「ルーアの事より優先度の高い話ですって?」
「私達だって困ってる……!」
インテレオン達は余裕のない表情で彼女に詰め寄る。
「わ、分かってる……分かってるけど……! 緊急事態なんだよー!」
しかし普段笑顔のチェリムもまた、余裕のない表情になっていた。
「……ご用件をどうぞ」
そんなチェリムの話を聞こうとするのはマホイップだった。
「……マホイップ」
「救助隊ですもの、役目を放棄する訳にはいきませんわ」
彼女はきっぱり言うが、ドラミドロが心配するのも分かる。
マホイップは明らかに無理をしていそうな、固い表情だった。
「……じゃあ、話すね」
チェリムも一瞬マホイップを心配気に見るが、自らの仕事を優先させる。
「つい先ほど、ダンジョン『つめとぎ山』が巨大化したという報告あり」
「……ダンジョン、巨大化?」
「どういうことなの?」
「山一つ分の大きさだった『つめとぎ山』が拡がって、周囲の山もダンジョンに呑み込まれた……っていう報告。厳密な規模、原因共に不明で調査が必要なんだよ」
「そ、そんなバカな話、あってたまるか……! 一度発生したダンジョンが拡大するなんて……!」
想像だにしない問題が発生したという情報を受け入れられていない様子の面々。この世界に来たばかりの私でも、それが相当な異常事態である事は容易に察することが出来た。
「他の都市からの救援は? 救助隊連盟は何か動いていないの?」
「ペリッパー便で速達は出したよー。だけど前例が無いから事実確認や詳細情報の要求が返って来ると思う」
「すぐに動けるのは『スプリングタウン』の救助隊だけ……か」
難しい状況であることに、インテレオン達は苦々しい顔で呻く。
「……それに昨日『つめとぎ山』に向かって、未だ帰って来てない救助隊も幾つかいるんだよー。ダンジョン巨大化の原因に巻き込まれた可能性が高いんじゃないかっていうのがギルド長の見解」
「……どれぐらい?」
救助隊自体の被害状況を聞かれ、チェリムは表情を暗くする。
「『つめとぎ山』に取り残された救助隊は三チーム。『スピアーズ』のスピアー三匹、『ヨアソビ』のドロンチとボチ……」
そこで一旦言葉を切ったチェリムは一同の顔を見てから口を開いた。
「そして、『ゆけゆけズ』のヒバニーとチコリータ」
「……っ!」
言葉を失うインテレオン達。当然、私も驚愕で目を見開いていた。
(あの二匹まで……!?)
「凶暴化ポケモンに倒されて動けない……って話ならまだ良いケース。そして『彼らも凶暴化してしまった』のが最悪のケース」
しかしそこへ追い打ちをかけるようにチェリムは辛そうに言葉を絞り出す。
ヒバニーとチコリータが……凶暴化。
「……っ、冗談じゃない……!」
インテレオンは目元を抑え、声を震わせた。
ドラミドロとアノホラグサも目を閉じて体をワナワナ震わせている。
ダンジョン化に対抗してポケモン達を救う筈の救助隊が凶暴化し他のポケモンの脅威になってしまう……そんな最悪な話を落ち着いて聞いていられる者は少ないだろう。
「……無事な救助隊も次々と『つめとぎ山』へ調査に向かってるけど……どれほどの危険度なのか全くの未知数なんだよ……。だからお願い。ゴールドランク『ナイトスター』、アイアンランクのインテレオン……あなた達の力も貸して欲しい」
そして、チェリムはそんな彼らに対し頭を下げた。
ギルド長補佐として、ダンジョン巨大化という緊急事態へ対抗するために。
「行きますわよ、ドラミドロ、アノホラグサ」
「!」
仲間達に呼びかけるマホイップ。
「私達は苦しむポケモン達を救うことが出来る『ナイトスター』なのですから」
表情は決して芳しいものではないが、長い付き合いの二匹は止めても無駄だとばかりに頷く。
「厳しいと判断したらすぐに撤退よ、いいわね」
「無理無茶禁止、慎重行動」
『スプリングタウン』に住むポケモン達の希望の星である『ナイトスター』。
そんな彼女ら三匹がギルドからの要請を受けるのは必然だったのかもしれない。
「……マホイップ」
「如何されましたか、インテレオンさん」
準備のため家から早速出て行こうとする刹那、呼び止めるポケモンと振り返るポケモン。
「……別行動にはなるけれど今朝言ったダンジョンに行くという約束は守る。どうか無理はしないで欲しい」
「!」
インテレオンの言葉に一瞬動きを止めるマホイップ。
「うふふ……ありがとう、ございますわ」
そして彼女はは感謝と……心の底から嬉しそうな笑顔を残し外へ飛び出して行く。マホイップが町のポケモン達にとっての星であるように、インテレオンはマホイップにとっての星なのかもしれない。
「チェリム、そういう訳だから僕も『つめとぎ山』へ向かう」
「……うん! ありがとう、お願いね!」
彼がチェリムにも正式に伝えると、彼女もまた山積みの仕事の対処のため家から出て行った。
そして残される一匹と一人。
「それじゃあルーア、今日は家から出ないようにね」
「……インテレオン」
ダンジョンへ向かう準備を開始する彼の背中を見つめ、私は名前を呼ぶ。
「……私も一緒に……」
「駄目」
そして声を絞り出すが、即座に切って捨てられた。
「ダンジョン巨大化なんて前例のない事態……危険過ぎる。キミを守れる保証もない」
「無理に守れとは言わないよ、丈夫さだけなら自信があるから……」
「傷を受けないとはいえ、痛くて苦しい事には変わりがないんだろう。駄目だ」
こちらに背を向けたままのインテレオンは準備を進めながら私の同行を拒否し続ける。
「……ヒバニーやチコリータはもっと苦しんでるかもしれない」
「……っ、彼らが凶暴化してたらどうするんだい……解放するのか?」
手を止め振り向いてくるインテレオン。
「……」
僅かに迷うが、私はゆっくり頷く。
「……かっ、考え直すんだルーア! 今朝の事を忘れたのかい!? キミが凶暴化を解除する力を持っていることを誤魔化せなくなったら何が起こるか……!」
彼は必死な表情で声を荒げ、その大きな手で私の両肩を掴む。
その大きな手は小刻みに震えており、本当に気が気でないのだろう。
(ああ、インテレオンは……優しい、な)
だから、こそ。
「キミだって、本当は怖いんだろう? そう言ってくれ……!」
「……っ、怖いよ! 物凄く怖い!」
この力がポケモン達にバレたら、生活が一変するかもしれない。
インテレオンとも引き離されるかもしれない。
考えるだけで苦しい、辛い、怖い。
「でもっ……! ヒバニーとチコリータはこの世界に来たばかりの私を助けてくれたんだよ!? そんな二匹を平然と見捨てるような人間になるのも怖い……!」
「……」
私の言葉にインテレオンは目を見開き、口を閉じる。
「ぐすっ……、それに、それに……!」
涙が止まらないが私は必死に言葉を紡いだ。
「私が家に残ってたとしても……インテレオン、本当に帰って来るの? インテレオンまで凶暴化しちゃったら私、本当の本当に、おしまいなんだよ……?」
「……!」
「私、あなたと一緒がいい。たとえ、私まで凶暴化することになっても……一緒がいい」
長い沈黙。聞こえるのは私の嗚咽ばかり。
「負けたよ……」
そして私の肩から離される彼の手。
「分かった。行こうルーア、『つめとぎ山』へ。そして一緒にこの家に帰ってこよう」
彼の笑顔が視界一杯に映る。
「……うんっ!インテレオン!」
その言葉を聞けた私もまた、彼に笑顔を向けるのであった。
空は厚い雲に覆われ、空気も湿っぽい。
広大な草地を横断している踏み分け道をインテレオンと共に進む。
前方には青々とした森に覆われる山々…『つめとぎ山』が私達を待ち構えているかのようにそびえていた。
「結構歩いたけど大丈夫?」
「うん」
本来であれば『ネイティオテレポート屋』で一気にダンジョン前まで飛べたようであるが、ダンジョン巨大化に伴い登録してあった座標が使えなくなってしまったらしい。ダンジョンの規模が変動することなどこれまで無かったことを思うと、流石にネイティ達を責める事は出来ない。
「『ファイヤーのギルド』で聞いた所、巨大化した後の『つめとぎ山』の入口に調査拠点が設営されるらしい。まだ大丈夫そうなら一度そこまで進んでしっかり休息した後ダンジョンに突入しよう」
「分かった」
調査拠点が築かれるということは、今までと異なり町の外で夜を越す必要がある規模の調査という事だ。現にインテレオンもポーチに入りきらない、テントなどの大荷物を背負い込んでいた。
拠点は町とは異なり『預かりボックス』が無いため、私も必要そうな道具はランドセルにしまい込んできた。緊急用の『あなぬけのたま』、サポートに使う各種きのみ、えだ、そして食糧。昨日の宝探しのお陰でそれらを用意できたことを考えるとドラミドロやアノホラグサには感謝の気持ちしかない。
「……」
そんな事を考えながら私は再度、前方にある『つめとぎ山』を見つめる。
見ただけでは自然豊かな山にしか感じない。
しかしそこは異常事態の現場である巨大化ダンジョン。
もしかすると『追放の遺跡』よりも怪奇な現象が襲って来るかもしれない。
私はより一層気を引き締め、ヒバニー達を救うため……。
『救助』するため道を進む。
山の麓にある小さな林。
ポケモン達の足跡……そして上空に立ち昇る煙を目印に進んだ先にあったのは焚火を中心とした広場と幾つかのテント……救助隊の調査拠点だ。
「やあ、インテレオンさん! あなたも来てくれたんだねー」
「うん、テントを設営していいのはどの辺りかな」
インテレオンに呼びかけてきたのは拠点入り口に立つチョボマキだった。本来彼女は『スプリングタウン』の門番であるが、緊急事態故にこちらへ来ることになったようだ。
「あまり離れてない場所ならどこでも……あれ? あなたはどこかで見たような……」
チョボマキはインテレオンの後ろに立つ私に気付くと不思議そうな顔をしてくる。
「救助隊証明カードは持ってるー?」
「え、えっと」
「彼女は救助隊じゃないけど、今回の調査の協力者なんだ」
「なーんだ、納得」
質問に言い淀む私にインテレオンがフォローを入れてくれたため、私もどうにか調査拠点に立ち入ることが出来た。拠点内に設営されたテントの多くは桜色をしたものであるが、奥の方に青白いクリームのようなデザインをしたテントが私の目を引く。
「ああ、あれは『ナイトスター』のテントだね。『ファイヤーのギルド』から支給されるテントはデザインが桜で統一されているけれど、一定のランクまで上がればその功績としてオーダーメイドのテントを作って貰えるんだ」
つまり、彼女達は既にテントの設営を終えダンジョンに向かったらしい。
ゴールドランクとはいえ無事だろうかと心配になりながら私は桜色のテントを組み立て始めているインテレオンの後姿を眺める。
「そうだルーア、今回の目的を具体的に伝えておくよ」
「……うん」
「まず一つ目、巨大化ダンジョンの調査だ。調査内容はダンジョンがどの範囲まで拡がったのか、ワナや凶暴化ポケモン含めた危険度がどれほどか、そしてダンジョンが巨大化した原因の特定。手がかりになりそうなものを持ち帰ったり、何か違和感があれば調査報告にまとめたり」
今後の被害増加を防ぐため、そしてダンジョンの巨大化は今後も発生する可能性があるのか、その対策方法の究明といった調査任務。
「二つ目は被害状況の確認。救助に向かったヒバニー達救助隊、彼らが救助する筈だった救助対象、それとは関係なく近隣に暮らしていたポケモン……彼らが無事なのか、凶暴化ポケモンに襲われているのか、または凶暴化してしまったのか……」
『つめとぎ山』にいるポケモン達がどうなっているのかの調査任務。
「……三つ目はポケモンの救助。ただし救助可能なポケモンに限る……。凶暴化ポケモンは元に戻せないというのが現時点での救助隊連盟の見解だからね」
「でも私が……」
「分かってる、キミの力なら凶暴化ポケモンも元に戻せる。だけどそれはヒバニー達が本当に凶暴化していた場合の最終手段だ」
彼の言う通り、出会うポケモン全てを凶暴化から解いていたら誤魔化せなくなるだろう。緊急事態故に、『つめとぎ山』には多くの救助隊がいるのだから。
しかし凶暴化ポケモンは皆、覚えのない意思と苛立ちで苦しんでいる筈。
何か、ないのだろうか。
隠したりせずに凶暴化を解けるような方法が。
連なる山。野生に生きる者たちの楽園。
樹木に、岩に、大地に残る傷跡。それは獰猛なるポケモンの爪痕。
彼らが力でもって熾烈な縄張り争いを繰り広げる地、『つめとぎ山』。
山の麓よりも湿度が増し、肌がじっとりとした感触を覚える。
更に湿った土や樹木の匂いが鼻腔を突く中で山道を進むのはインドア派の私には少々苦しい。
「ここまで大規模な変動が……元々この座標は比較的平坦な山の中腹だったのに」
目の前にある不自然なほどの急斜面を見下ろし、前に立つインテレオンが呟く。
彼は紙を取り出すとダンジョン『つめとぎ山』の境界を地図に記していく。
ダンジョン内の形状は時間が経つと変わってしまうが自然そのままの形状とはかけ離れている場合が殆どで、それ故に慣れればダンジョン内外の境界を見分けるのは難しくないのだという。
「普通のダンジョンなら木や岩が規則正しく並んでいるとか、分かり易い通路や広間の存在とかで見分けるんだけど、ダンジョンが巨大化すると山の形状までまるっきり変わってしまうんだね……」
ダンジョン化すると地形が変わる事に対し、『春寒沼地』のガマゲロゲも困っていると言っていた。山の形自体が変わってしまえば、この地に住んでいたポケモン達への影響も計り知れないだろう。
「複数の救助隊が別々の場所の境界を調査しているけれど、今日いっぱいはこれで終わっちゃいそうだな」
「うう……こんな事やっててヒバニー達は大丈夫なのかな……」
「逸る気持ちも分かるけど……初日からダンジョン内部の調査を行うのは『スプリングタウン』で一番のチーム『ナイトスター』に任せる方針に決まっているからね。こういう一見地味に見える作業だって大事なのさ」
そんな話をしながら再び歩き始めるインテレオンと私。
「……もしかしてこの作業には私、邪魔だった?」
「そんなことは……!」
ダンジョンの境界調査という凶暴化ポケモンと出会う可能性の低い任務に私はボソリと呟くが、インテレオンがすぐさま振り返って来た。
「そもそもダンジョンの巨大化自体前例が無いんだからどこであっても油断は禁物なんだよ!」
「……?」
彼が言ってくるが私は別のモノに気を取られていた。
茂みの中からこちらを窺う……何か。
しかし私と目があったためかすぐに離れていき、木々の向こうへ消えてしまった。
他の救助隊か、それとも凶暴化ポケモンか。
「あれ、聞いてる? どこ見てるのルーア?」
「え、あ……わ、分かった。油断禁物、うん」
「……分かってる?」
彼に瞬膜越しで見つめられ、私は再び目を逸らす事にする。
その視線の先にある茂みで動いている何か。
「えっ!?」
「!」
今度はインテレオンも反応し、すぐさま指先を向けた。
「悪者! 出ていけぇ!」
そう叫びながら現れたのはきつねポケモン、クスネだ。
足音も立てずにすぐ傍の茂みまで近づいて来ていた彼女は怒りのままにこちらへ飛び掛かって来る!
「『ねらいうち』!」
「!?」
しかし高速の水弾が鼻先を掠め、クスネはバランスを崩して地面に激突。
「まだ襲って来るなら、今度こそ当てるよ」
そんな彼女の眉間にインテレオンはまた指……照準を合わせる。
「わわっ……!」
すると、クスネは慌てた様子で退却していった。
「……え、あれ?」
あっという間に戦闘が終わってしまったことに私はポカンとして呟く。
「大丈夫かいルーア」
「う、うん」
「……だけど、ここにも凶暴化ポケモンがいるということはまさか本当に……」
「えっと、凶暴化ポケモン……? 倒してないのに逃げてったけど……」
思考し始めるインテレオンに対し、私は困惑したまま尋ねる。
「可能なら戦闘は避けたいからね、普段からああやって凶暴化ポケモンを追い払っているんだ」
「へ、へえ……」
平和的なことを言ってはいるものの、先程の威圧感に私は冷や汗をかきながら頷く。
「……それにキミの力は倒した凶暴化ポケモンにのみ働くんだろう。こうした方がキミの力が露見するリスクを回避できる」
「……っ」
「さあ、ダンジョンの範囲の調査を続けよう。いつ凶暴化ポケモンに襲われるか分からないから警戒は怠らないようにね」
徹底的に私を守ろうとするインテレオンは先頭を歩きつつ、都度私にも気を配ってくるのであった。
優しい……優しいけれど……私は、甘えてていいのかな……?
このまま自分の力を隠そうとしてていいのかな……?
凶暴化ポケモン達が苦しんでいるのに。
インテレオンもマホイップ達も私を守ろうとして……苦しんでいるのに。