暗くなりつつある『つめとぎ山』。
ダンジョンの境界調査を続けていた私達は、日が暮れる前に一区切りつけて調査拠点へと帰還していた。
「よし、それじゃあインテレオンさんの分も写して……」
「だいぶ埋まりましたね。境界調査メンバーの数を減らしても明日には完成しそうです」
救助隊たちが作成した地図。そこに『つめとぎ山』の範囲が描かれているが、彼らが力を合わせ調査を進めたことにより大体の広さが判明している状態になっている。
「しかし本当に拡がっちゃってるな」
「元々の数倍の規模ですよ、これ」
救助隊『アースアーム』のサボネアとゴビットが苦々しい顔をしながら言う。
調査が進んでいることは好ましいが、それにより得られた結果は決して楽観視できるものではない。
「それに我々も凶暴化ポケモンと接触しました」
「確定じゃないけど、やっぱ拡がったダンジョン内にいたポケモンも凶暴化したんじゃないかな……」
救助隊『リュウマ』のシママとハクリューもまた重々しく口を開いた。
「ちょっとハクリュー、ライバルのドロンチもこのダンジョンにいるのよね……? それはつまり……」
「そんな縁起の悪い事言わないでよ……! あいつはきっと大丈夫……!」
「もっと情報が欲しいな。他に戻って来てねえ救助隊は?」
「『ナイトスター』だねー、ダンジョンに向かってからまだ一度も戻ってないよ」
救助隊『パピルピ』のパピモッチとスコルピ、そして守衛のチョボマキもまたポケモン達の輪の中で話している。
拠点に集まったポケモン達が落ち着かない様子で話し合っているのを、私は離れた場所から見つめていた。
「そうだ! マホイップちゃんの力で妨害して来る凶暴化ポケモンを戻せるんじゃないか!?」
「しかしこの拠点で見かけた際に、我々も聞いてみましたがあまり答えたくなさそうで……」
「えー、凄い事なんだからもっと誇っていいでしょ」
「がはは、お前みたいに調子に乗らないのがマホイップちゃんだぜ!」
サボネアが思い出したとばかりに凶暴化解除の話を始め、他のポケモンも興味津々な様子で会話する。
「……あ、思い出しました、インテレオンさん! 今朝のアレは何だったんですか……!?」
「……」
そして流れのままゴビットに尋ねられるも、彼は沈黙。
今朝のアレというのは間違いなく、サボネアとゴビットに質問されていたマホイップをインテレオンが連れ去って行ったことだろう。
「アレって何よ?」
「彼、マホイップちゃんとダンジョンデートしてたんだよ!」
「なぁにぃ!? 俺の愛しのマホイップちゃんを!?」
「ちょ、落ち着いて!」
「話がズレてます……凶暴化解除についてインテレオンさんもご存じなのでは……?」
騒ぎ出す周りのポケモン達に呆れつつもゴビットは再度質問をする。
いつの間にか私の身体に緊張の汗が滲んでいるのに気付いた。
呼吸も早まりとても落ち着いて聞いていられない。
彼は何と答えるのか。一体この場をどうするのか。
「……辛く思っている子がいる」
彼は静かに、そう言った。
「えっ、辛く?」
「どういうこと? 凶暴化ポケモンを元に戻せるのは良い事じゃないの?」
「まさか凶暴化を戻すと苦しい反動がある……とかでしょうか?」
「……どうか時間をくれないかな。僕達自身も向き合い方に四苦八苦している所なんだ」
キョトンとするポケモン達にインテレオンは首を振りながら続ける。
そんな彼に対してポケモン達が示すのは、私の嫌な予感とは異なる反応。
「……おいおいインテレオン、悩みがあるのか?」
「俺達にも相談しなよ、同じ救助隊だろ!」
浮かない表情を浮かべたままの彼に対し、ポケモン達はそんな風に笑いかけた。
「……あれ?」
もしかしたら。
悪い方向に思い込んでいただけかもしれない。
「戻ったわ」
その時、調査拠点に現れたのは『ナイトスター』のドラミドロだ。
「お疲れ様ー。ところでマホイップさん達は?」
「先にテントへ戻って休んでいるわ」
「すぐに休む必要があるほど、ダンジョンの内部は危険度が上がっているのですか?」
「……報告も兼ねて説明するわね」
ドラミドロはポケモン達の輪に加わると、深刻な顔で面々の顔を見渡す。
「覚悟をして聞いて頂戴……今日の調査で『ヨアソビ』のドロンチ、ボチと遭遇したわ。そして二匹とも凶暴化していた」
「……っ」
まるで貧血を起こしたかの如く首を垂れるハクリュー。
「ま、マジか?」
「ええ。こちらを『ナイトスター』と認識こそしたけれど、立入禁止だと言いながら襲い掛かって来たの。やむを得ず応戦することになって、どうにか撒いて来たの」
スコルピに尋ねられ、ドラミドロは頷いて答えた。
ダンジョン巨大化に巻き込まれた救助隊たちも凶暴化している。
その事実を知らされたポケモン達の胸中ではおそらく、『凶暴化を解けるなら解いて欲しい』という思いが渦巻いていることだろう。しかし先んじてインテレオンから辛く思っている、時間が欲しい、と伝えられている現状口に出す事が出来ない状態。
「……」
それを裏付けるかの如く、複雑な表情を浮かべるポケモン達は沈黙するしかなくなっていた。
「……他に脅威はあったかい?」
「危険性の高いワナが存在していたわ。『ワザへりのワナ』、『すいみんのワナ』……巨大化する前はこのダンジョンでは確認されていなかったものよ」
インテレオンに問われ、彼女は報告を続ける。
「そして『スプリングタウン』近辺のダンジョンでは確認されてなかった『モンスターハウス』も」
「……ごく狭いエリアに多数の凶暴化ポケモンが集結するアレか……確かに危険度が段違いに上がっているね」
報告書を作成しながら話す二匹。
その途中、ドラミドロは切り株の上に置かれていた地図へ目を向ける。
「ダンジョン規模調査もだいぶ出来ているわね。外側の危険度は?」
「危険性の高いワナ、モンスターハウス共に報告は無いね。おそらくだけどダンジョンの中心……"巨大化する前から『つめとぎ山』だった範囲"の危険度が上がっているんだと思う」
「なるほどね……あたくし的にはそれを踏まえて、元から『つめとぎ山』であった範囲の中にダンジョン巨大化の原因があるのではないかと思うわ」
「僕も同じ意見だ、明日はその……『つめとぎ山 深奥』とでも呼ぶべきか。そこの調査を重点的に行うのが良さそうだね、勿論危険度が高い以上誰が向かうかの吟味は必要だ」
「……他に意見は無いかしら?」
インテレオンとドラミドロは意見を出し合うと周りのポケモンにも発言を求める。
「……っ」
「…………」
「……あの」
しばらく沈黙が続いていたが、それを破るかのように口を開くのはハクリューだった。
「……ごめんなさい、インテレオンさん。でも聞きたいの……どうしても、凶暴化を解くのは難しい?」
「……!」
辛そうな表情で、藁にも縋るかのように尋ねられ彼もまた表情が暗くなる。
ハクリューのその感情は、ヤナップと離れ離れになった本屋のヤレユータンが浮かべたものとよく似たもの。親しい者が凶暴化してしまったことへの苦しさ、その者を取り戻せる手段がある筈なのにそれを実行できないことの辛さ。
「気持ちは分かるけどやめておけよ……マホイップちゃん達にも何かあるんだって……」
「だけど……だけど……っ! ドロンチが……!」
サボネアが宥めようとするが、ハクリューは涙を浮かべ体を震わせた。
胸が痛む。
だけど私よりもハクリューの方がずっと、胸が痛い筈だ。
このまま見て見ぬふりをしていて、いいのだろうか?
自分を守るだけで、自分を守ってもらうだけで、いいのだろうか?
「時間が掛かっても、いい?」
「えっ……」
ポケモン達の輪に近寄った私はハクリューに尋ねる。
「……ルーア!?」
「……」
インテレオンとドラミドロが驚きで目を見開いていた。
「ありがとう、ずっと庇ってくれて、隠してくれて」
私は彼らに笑みを向ける。
本当は彼らだって凶暴化ポケモンを元に戻す力に希望を見ていただろう。
それを必死に隠して、私を守ってくれていた。
「……な、なんで」
「ルーア……」
隣から聞こえてきた声。
そこにはマホイップとアノホラグサの姿があった。
ずっとテントの中から様子を窺っていたようであるがたまらず出て来たらしい。
「ごめんね……身代わりみたいな真似、させちゃって」
「……っ」
彼女は謝る私に何も答えられず視線を落とす。今朝のやり取りとは逆だ。
「……っ、あなたは?」
「……ルーア、違う世界から来た……人間」
ハクリューに問われ、私は包み隠さず自己紹介する。
「違う世界ですって……!?」
「に、ニンゲン……? 珍しいポケモンだと思ってたけど……」
当然ながら困惑し、理解が追いついていないポケモン達。
それでも伝えないと。
ずっと心の内を隠し続けるのは苦しい。
「凶暴化ポケモンを元に戻す力を持ってるのはマホイップじゃない……私なんだ」
「……!」
驚いた様子でマホイップの方を向く『アースアーム』の二匹。
悩んでいる様子だったマホイップも、ゆっくりと頷き私の言葉を肯定した。
「……だから多分、このダンジョンにいる凶暴化ポケモン達も戻せる筈」
「ほ、本当……!? ドロンチも……!?」
涙ながらにハクリューは必死に確認して来る。
「うん……だけど聞かせて。時間が掛かっても待っててくれる?」
「時間、ですか?凶暴化を戻すのに条件があるとかでしょうか」
「それともあなた自身に悪影響が出てしまうの……?」
ポケモン達に問われ、私は一度視線を動かした。
『ナイトスター』の面々は心配げな表情を向けて来ていた。
インテレオンも口を挟もうとしていたが、私は微笑んで彼と目を合わせる。
怖くないかと聞かれれば嘘になる。
だけど私は一人じゃない……すぐ傍にインテレオン達がいるのだ。
「……全ての凶暴化ポケモンを一気に戻せる訳じゃ無くて、凶暴化ポケモンを倒して一匹一匹地道に戻すしか出来ないの。それに……毎日ダンジョンに行くのも私自身の気力が持たなくて難しい……だから世界中のダンジョンにいる無数の凶暴化ポケモン達を全て元に戻すなんて無理なんだ……」
ポケモン達へ正直に伝える。
私の力は万能ではない事、そして私にも限界がある事。
「皆が苦しむ姿を見るのは辛いし、私もやれるだけの事はやりたい。だけど、皆に凶暴化から戻して欲しい家族や友達がいても、途方もない時間が掛かるかもしれない。もしかしたら元の世界に帰らないといけなくなる時が来るかもしれない……だから」
私は頭を下げた。
「ごめん……私は、皆の希望には、なれない……」
華々しい活躍を見せるマホイップ達みたいに、私は優秀じゃない。
どんどん上を目指し突き進むヒバニー達みたいに、私は勇敢じゃない。
周囲に手を差し伸べ救うインテレオンみたいに、私は立派じゃない。
弱くて、臆病で、身勝手な存在なのだ。
失望や怒りを浴びるかもしれないと思うと身体が震える。
だけど自分の想いを全て伝えなければインテレオンやマホイップ達を苦しめるだけだ。
全然足りないけれど、これまで守ってくれた彼らへの……恩返し。
どうか、心の重荷を少しでも軽く出来れば。
(街から出て行けって言われたらどうしようかな……独りで『追放の遺跡』に住もうかな……)
「……何を言ってる?」
耳に届くのはそんな言葉。
「それでもいいんじゃないか?」
当たり前だと言わんばかりにサボネアが言う。
「はい、私達だって今みたいな緊急時でもなければ自分のペースで救助隊の活動をしています。凶暴化ポケモンを戻せるからと言って、あなたのペースで行動してはいけない理由にはならないでしょう」
ゴビットもパートナーと頷き合いながら言った。
「うん、ドロンチだって……もし凶暴化から解けたとしても、そのためにあなたが苦しんだと知れば逆に辛くなる筈」
「我々も、たとえ時間が掛かるとしても対処の目途が全くついていないよりは気持ちとしてはずっと楽です。町のポケモン達も心に余裕が持てるのではないでしょうか」
「そもそもポケモンじゃなくてニンゲンで、その上違う世界から来たんでしょう? それなのに手を貸してくれようとするだけで有り難過ぎるぐらいよ」
「がはは、むしろ今回の調査が終わった後のんびりこの世界を旅行したって怒らねえぜ?」
「正直に話してくれて助かったよー、隠す方も隠される方も辛いばかりだからねー」
ハクリューを始めとしたポケモン達も私に笑顔を向けて来た。
「……っ」
息が詰まりそうになりながら私はポケモン達を見る。
「……フフフ、難しく考え過ぎだったのかもしれないわね」
「同意、話すの大事」
ドラミドロとアノホラグサが緊張から解放された様子で顔を見合わせた。
「……ルーア」
私に話しかけてくるマホイップ。
「私達救助隊連盟は引き続き、凶暴化ポケモンを戻す方法を探しますわ。決してあなただけに重荷を背負わせたりしません……だからどうかあなたの力を貸して欲しいのですの。少しでもポケモン達の苦しみを和らげ、未来への希望を捨てさせないために」
その顔は先程までの辛そうなものとは異なる、自信に満ちた笑顔だ。
「……うんっ!」
私もまた力強く頷く。
自分の気持ちを出すという事。
本当に、大事だったんだ。
「……ダンジョンから出て来るとはね」
インテレオンが言う。
一同が驚き視線を向けるとその先には夜闇に紛れて拠点へ侵入して来た者達がいた。
「さっきはやってくれたなぁ、『ナイトスター』さんよ」
「勝手にこんな拠点まで作っちゃって」
先頭に立つのは二匹のゴーストポケモン……。
「ドロンチ……!」
「ボチも……」
『リュウマ』の二匹が身構えてかつての同胞を呼ぶ。
「この地を荒らす者達の拠点か、潰さねばならぬな」
「生意気な連中だ」
「やってやる!」
凶暴化した『ヨアソビ』の後ろにはクスネやフォクスライの群れも同行していた。
「十……いや二十はいるかしら」
「がはは、やりがいがあるってもんよ!」
『パピルピ』も戦闘態勢に入り凶暴化ポケモン達を睨みつける。
「ルーア、後ろに」
「混戦必至ね」
「味方を巻き込まないように注意しますわよ」
私を守るように『ナイトスター』は並び立った。
「突撃だ!」
「おおおっ!!」
ドロンチの号令と共に、一斉に向かって来る凶暴化ポケモンの群れ。
「行くよ皆!」
「よーし!」
インテレオンの呼びかけと共に、それを迎え撃つ救助隊たち。
『つめとぎ山』の麓にて、両者がぶつかり合った。
「『なきごえ』……くぅ~ん♡」
「っ!」
ボチが可愛らしい鳴き声を上げると、目の前で腕を振り下ろしかけていたサボネアの動きが鈍る。
彼だけではなく他の救助隊ポケモン達も注意を逸らされてしまっていた。
「いきなり妨害技を使いやがるか……!」
「効果的な行動を分かってるねー……救助隊が敵に回ると厄介だよ」
弱体化した隙を狙い襲い掛かって来るクスネ達をさばきながらスコルピたちが呻く。
「『どろぼう』!」
「あっ!」
道具を取り出したシママを見逃さず、一匹のフォクスライが巧みな動きで奪い取ってしまった。
「おらよっ『いしのつぶて』だ!」
「あいたっ!?」
意識の外から石をぶつけられ悲鳴を上げるパピモッチ。『ヨアソビ』だけでなく周りの狂暴化ポケモン達も警戒しなければならないようだ。
しかし救助隊たちもやられるだけではない。
「おらぁ、よわよわあくタイプ、ゴーストが怖いか」
「なんだとぉ!?」
「あいつを倒すぞー!」
「いけー!」
離れた場所でアノホラグサが挑発を行い、クスネ達を接近させる。
「かかったわね!」
「ひえええっ!?」
テントの後ろから現れたドラミドロが『たつまき』を起こし、吹き飛ばされるクスネ達。
「えいやぁ!」
風に乗り舞い上がるアノホラグサは『タネマシンガン』を放ち、種と風の『レンケイ』でクスネ達を一掃した!
「応援してますわ、『デコレーション』」
「ありがとよマホイップちゃん! いくぜ『どくどくのキバ』!!」
マホイップのクリームで装飾されたスコルピが勇猛果敢にフォクスライ達へ噛みついていく。
「『ねらいうち』」
「がふっ!?」
木に登ったインテレオンもまた、高所からクスネやフォクスライを水弾で撃ち抜いていた。
「……っ!」
私も見ているだけではいけない。『タネマシンガン』により目を回したまま落ちて来たクスネ達へと近寄り凶暴化を解く。
「おおっ。その青い光がまさか!」
感動した様子でゴビットが振り返って来た。
「あ、あれ? どうして私、あなた達の事嫌って……」
「凶暴化、覚えてる?」
「ええっ! だってダンジョン化したのは近くの『つめとぎ山』で……」
「ダンジョンが拡がってあなた達も巻き込まれてしまったのよ、仲間もまだ凶暴化しているわ」
目を覚まし困惑するクスネ達にアノホラグサ達が説明する。
「あわわ! お父さんたちが戦ってるー!? どうしよう!」
「えっと、危ないから下がってて……」
救助隊と戦うフォクスライ達を見てパニックになるクスネに私は言い残し移動を開始。
撃破された凶暴化ポケモンはまだいるが、遠くからでは解放が出来ない……そのためなるべく近くから……。
「喰らえ!」
「うわっ!」
目にも止まらぬ動き……『でんこうせっか』で横からぶつかって来たフォクスライ。まさかの襲撃に対応できず転倒してしまう私に対し、フォクスライは前足を振りかざす。
早く立ちあがらなければ、と焦るがそこへ割り込む影。
「『まもる』!」
「なにいっ!?」
追撃を仕掛けようとしていた凶暴化ポケモンから私を守ったのはチョボマキだった。
攻撃を弾かれ隙を晒したフォクスライの身体に水弾が命中……インテレオンの援護だ。彼らの救援に感謝しながら、私は倒れたフォクスライの凶暴化を解く。
「お父さん! 元に戻った?」
「あ、あぁ。皆さんも申し訳ない」
クスネ達が凶暴化が解けたフォクスライへと駆け寄った。
「ここは任せて、娘さんたちと一緒に下がりなよー」
「……いや、どうか仲間を凶暴化から解く手助けをさせてくれ……『つめとぎ』!」
チョボマキは言うが、元に戻ったフォクスライは自らを強化した後突撃していく。
「な、何をする!?」
「それはこちらの台詞だ! 正気に戻れ!」
凶暴化ポケモン達は攻撃してくるフォクスライに驚き、動きが鈍り始めた。
「救援感謝です……『でんげきは』!」
「『たいあたり』!」
そこへシママとパピモッチが追撃を仕掛けていく。
戦況が有利に傾いた……と思ったのも束の間。
「『しっぽをふる』……くぅ~ん♡」
「ぐわっ……またあいつか……!」
ボチは再び妨害技を繰り出し救助隊ポケモンを弱体化させてきた。
「お前ら行くぞ、『ふくろだたき』!」
「うらうら!」
「くらえー!」
「のわあっ!」
更にフォクスライ達がサボネアを集中攻撃し始める!
「だ、駄目だぁ」
「『プチふっかつのタネ』を渡しますわ、お待ちくださいませ!」
「いいや、次はお前だ!」
限界を迎えた彼の救援に入ろうとするマホイップだが、凶暴化ポケモン達が次の狙いを彼女に定めた。
「いけない、マホイップ!」
ドラミドロ達がリーダーの危機に駆け付けようとするが別のクスネやフォクスライが目の前におり動けない。
「『マジカルシャイン』!」
「ぎゃああっ!?」
しかしゴールドランクは伊達ではない。マホイップは強烈な光で迫って来ていた敵たちを薙ぎ払った。
「このチビめ……!」
「フェアリーだからって調子に乗るなよ!」
まだまだやる気のフォクスライ達、そしてその後ろにやってくるポケモン。
「退場お願いね、『ほえる』……ガァァァァウ!!」
「!?」
今まで可愛らしい技ばかり使っていたボチが突然咆哮を上げ、マホイップを吹っ飛ばした!
「ま、マホイップ!?」
アノホラグサが名前を呼ぶが、彼女は拠点の外……木々の奥まで飛んで行ってしまった。
「邪魔するなよ!」
「いいや『ナイトスター』は強いんだよ。どっか行ってもらった方がいい」
フォクスライ達が不平を漏らすがボチは首を振りながら返す。
救助隊たちの情報を持っている『ヨアソビ』が敵に回っていることがここまで厄介だとは。
「あううっ!」
「えっ!?」
気を取られていた私のすぐ後ろに飛ばされてくるのはハクリュー……今度は一体何が起きたと言うのか。
「おいおいハクリュー、情けねえなあ」
「……くうっ」
彼女の近くへやって来たドロンチが嗤う。
地面に倒れ呻くハクリューはかなりボロボロだ……こういう時は。
「……『オレンのみ』!」
「むぐっ……!」
私はランドセルを揺すり、きのみをハクリューの口へと飛び込ませた。『オレンのみ』はポケモン達の体力を回復させる力を持つ道具だ……これで彼女は大丈夫なはず。
「……ありがとう、ルーア。ちょっと乱暴だったけど」
「ちっ、邪魔しやがって」
倒れ伏していたハクリューを起き上がらせることには成功するが、ドロンチは苛立ちを増していた。
「……ライバルって聞いてたけど、こんな一方的に……?」
「前までは五分五分だった筈だよ……凶暴化して強くなってる……!」
「言い訳か? 侵略者に成り果てた奴らしいぜ。『こうそくいどう』!」
私達の会話に不快そうな表情を浮かべたドロンチの動きが突然速まる。
彼はそのまま目の前から消え去り、辺りを高速で飛び回りだした。
(速い! 目が追いつかない!)
「気を付けて!」
ハクリューが注意を呼び掛けて来るが、間に合わない。
「『かみつく』!」
「いだあっ!?」
高速で飛来したドロンチに脇腹を噛みつかれ、私は悲鳴を上げた。
「『ドラゴンテール』!」
「ッ!」
ハクリューが尻尾を振るい反撃するが、その強打は空を切る。
「遅いんだよっ、『ワイドブレイカー』!」
「うわっ!」
「ひぎっ!」
更に高速の攻撃を受けた私達は成すすべなく地面へ倒れてしまった。
(速すぎる……攻撃も回避も出来ない……!)
何か対抗手段は無いだろうか。
道具はランドセルに入っているものの高速で飛び回るドロンチに命中させられるとは思えない。
(どうにか動きを止める事さえできれば……)
私はふと樹上を見上げ、ハッとなる。
(そうだ……!)
ハクリューへ一言伝えた後、私は再び立ち上がった。
「さっさと倒れろ!」
まだ倒れない私に対し、ドロンチは飛び回りながら連続攻撃を仕掛けてくる。
『ワイドブレイカー』、『おどろかす』、『かみつく』……。
多様な技で私は何度も攻撃を受けるが、それでも何度だって立ち上がる。
(……すごく痛い……だけど……!)
「……ぜぇ、ぜぇ……なんなんだこいつは……!」
息が上がった様子のドロンチがスピードをがくんと落とし、私を見下ろしてくる。
怒りのままに技を連続で使い続けるのはスタミナを浪費する行為。
そう……『清流森林』でのエネコロロの時と同じだ。
「『れいとうビーム』!」
「かっ!?」
一直線に飛ぶ極冷の光線がドロンチを狙撃した。
樹上にいるインテレオンの指からは冷やされた水蒸気が霧のように立ち昇っている。
動きが速すぎるドロンチに照準を合わせられなかった彼のため、私は自分の丈夫さを活かしてスタミナを削る作戦に入ったのだ。
「『ドラゴンテール』!」
「ぐおおっ!」
そして体力が尽きたフリをしていたハクリューが尻尾をドロンチに叩きつける!
彼は強く吹っ飛び木にぶつかるとぐったりと倒れた。
(残るは……)
「『シャドーパンチ』!」
「きゃうん!!」
ゴビットの拳に倒れ伏すボチ。
「『ヘドロばくだん』!」
「おげえっ!」
そして最後まで抵抗していたフォクスライもドラミドロの一撃で戦闘不能になる。
これで終わり……そう思い息をつきかけたその時。
ガサガサと茂みが揺れ始めた。
「っ!?」
再び身構えるポケモン達。
まさか、新手の凶暴化ポケモンなのか。
「……はぁ、はぁ……あれ、終わりましたの?」
必死に走って来たであろうマホイップが拠点の様子を見て目を丸くする。
「……ぷははっ」
「がははっ!」
そして救助隊達は安心のあまり笑い出すのであった。
良かった、ポケモン達と心を通わせて勝利を掴めたんだ。
「う、う~ん」
「あれれ?」
目を覚ますドロンチとボチ。
周囲にいる救助隊ポケモン達が彼らの顔を覗き込む。
「……」
それに気付いた『ヨアソビ』の二匹は数秒の間黙り込んだ。
「……うおおおっ!! 悪かった!」
「きゃうん! すみません!」
そして凄まじい勢いで謝罪をして来る。
救助隊である筈なのに、同胞を襲ってしまった罪悪感はかなりのものであろう。
「良かったぁ! 元に戻ったぁ!!」
「うおっ!」
しかしハクリューは涙ながらにドロンチに飛び掛かった。
「やったわね!」
「ああ、本当に良かったぜ」
他のポケモン達も、彼らが凶暴化から解放された現実にとても嬉しそうにする。
「元に……僕達、凶暴化から戻ったの?」
「そうですよ。こうして私達を襲わないのがその理由です」
キョトンとするボチに対してゴビットが頷いて答えた。
「……そうか、迷惑かけちまったな」
状況を説明すると、ドロンチはため息をつきながら項垂れる。
「ドロンチ、ダンジョン巨大化について何か知らない? 違和感があった事でも」
「……違和感ならあったさ。ボチと共に『つめとぎ山』を進んでたが凶暴化ポケモンが妙に手強くてな……」
ハクリューに尋ねられ、ドロンチは語りだした。
「偶然強い個体がやって来てたと考えてたが、しばらく進んでいる内に周囲が大きく揺れやがってダンジョンが見る見るうちに変貌……そして頭の中に妙な……『この地を守らなければ』って意思が……」
この地を守るという意思……凶暴化ポケモンに植え付けられる思想だ。
「ダンジョンが変貌すると同時に凶暴化……そのタイミングでダンジョンが巨大化したようですわね」
「凶暴化ポケモンが手強い……ダンジョン巨大化の予兆?」
「もしそうなら同じことが起きた時の対処になるかしら……これも記録に残しておくわね」
『ナイトスター』達は話し合いながら調査報告をまとめていく。
「僕達が分かるのはそれぐらいだよ、だけど……」
「だけど?」
「……『つめとぎ山 深奥』で『スピアーズ』を見かけたんだ。僕達より上のカッパーランクの彼女らならもしかしたら原因を知ってるかも……凶暴化してしまっているけれど」
『つめとぎ山』に取り残されている救助隊は残り二組……『スピアーズ』と『ゆけゆけズ』。
『ヨアソビ』が知らない情報を何か掴んでいるかもしれない、とボチは語る。
「やっぱり、もっと情報を得るには奥の調査が必須らしいねー」
「ですわ。『ナイトスター』は明日も深奥へ向かいますわよ」
チョボマキの言葉にマホイップも同意する。
「……ルーア、どうかキミの力を貸して貰えないだろうか。情報を入手するためには残りの救助隊を凶暴化から解放する必要があるんだ」
「うん、任せて」
そしてインテレオンと私も『つめとぎ山 深奥』へ向かう事に。
「『ヨアソビ』さん、帰還したら現時点の調査内容をギルドへ提出いただけませんか」
「任せとけ、届けたらさっさとこっちに合流……」
「ダメダメ! ちゃんと『ママンボウ医療所』へ行けよ!」
「そうだね……正直、結構くたびれてる。それじゃ」
ドロンチとボチの両名は報告係も兼ね、休息のため『あなぬけのたま』で街へと帰還していった。
「私達はまだ凶暴化している仲間達がこの拠点へ来ないよう手回しします」
「ありがと、助かるわ」
フォクスライとクスネの群れもまた、山の中へと帰っていく。
「……さて、明日の調査のため今日は休むぜ!」
「それが一番ですね……って」
残った救助隊ポケモン達もまた明日に備え寝床に着こうとする、が。
「……暴れすぎた」
「だね……」
先の戦闘により大半のテントが滅茶苦茶になっており、調査拠点は見る影も無くなっていた。
自分達のテントも破壊されていた故に、私とインテレオンもまた外で眠る事に。
「この辺りでいいかな」
インテレオンはシーツを抱え拠点内での寝床を見繕う。
「……もうちょっと離れた場所がいい」
「え?」
私は藁の上で眠るハクリューやパピモッチ、焚火の傍で番をするチョボマキなどを見ながら言った。
「あんまり拠点から離れない方がいいと思うんだけど……」
彼はそう返してくるが……我慢できない。
「……インテレオン」
私は彼の顔をジッと見上げる。
腰を揺らし、股を擦り、股間を愛液で濡らし。
「え、ルーア……まさか」
「んんっ……♡」
彼が驚く前で私は身悶えした。
微振動を続ける私の中のバイブ。
「今朝からずっと、ずっと……我慢してた……♡」
私は彼に歩み寄るとその胸へと擦り寄った。
「……っ」
「あっ♡」
すると彼は私の二の腕を掴み、チョボマキの目を盗んで林の奥へと進んでいく。
彼は拠点から見えない場所にシーツを敷くと、私をその上に座らせた。
「ランドセルを下ろすんだ」
「……は、はい♡」
命令されるがまま、私は背負っていたランドセルをシーツの上へ落とす。
インテレオンはそれを取り上げ木の枝にかける……私はこれで何も抵抗出来なくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……♡」
まだ触られてすらいないのに、感度が高まり私は荒く息を繰り返す。
(欲しい、早く……っ!)
私は心の中で必死に願うが、私を見つめたままなかなかインテレオンは動き出さない。どんどん湧き上がる性欲に私はギリギリと歯軋り。
「インテレオン……っ♡ お願いぃ……っ、頂戴ぃ……♡」
涎を垂らしながら私は欲しがる。
「……」
彼の指がゆっくりと私の身体向けて伸ばされ……。
股間のすぐ前で止まってしまう。
「……っ、うーっ♡ ううーっ♡!」
私は快感を得る為ジリジリと腰を前に動かすが、インテレオンは手を引いてしまった。
「なっ……なんでっ!? 酷いよおっ!!」
「ルーア、質問に答えて欲しい」
涙を流し激昂する私に動じず、彼は静かに言う。
(しっ、質問……!? それより早く……!)
「あの時……ハクリュー達に対し何もかもを伝えて……キミは平気だったのかい!?」
「……!」
「僕は気が気じゃなかった……! もしも彼女らがキミを無理矢理捕らえるという選択を取ったらと思うと恐ろしくてたまらなかった……!」
インテレオンはとても辛そうな感情で顔を歪め、私に問いかけてくる。
「実際は皆理解してくれて良かったけれど……それは結果論だ……! 僕でさえ震えが止まらなかったのに……キミは躊躇わなかったのか、怖くなかったのか!?」
「わ、私は……!」
「今朝、家で言っていたじゃないか……怖いって……! どうして僕とドラミドロに任せておかなかったんだ……!」
そこで彼は一旦、言葉を切り。
「僕は……頼りないかい? キミの力には、なれないのか?」
悔しさで顔を赤くし、涙を流していた。
「……っ」
私は彼の胸元へ寄りかかった。
「ルーア……」
「ひくっ……怖かったよ…! 怖かったに決まってる……!」
そして身体を震わせ、胸の内を吐露する。
「でも、でもっ……ヤレユータンやハクリューの辛そうな顔を見て見ぬふりして隠し続けるのも苦しくて……それに私がずっと甘えてたせいでインテレオンもマホイップ達も苦しめて……!! 私が臆病なせいで! この世界のポケモン達を余計に苦しめるのが耐えられなかった……!! ぐすっ、私がこの世界を滅茶苦茶にしてるみたいで怖かった……!!」
私は顔を上げ、至近距離でインテレオンと目を合わせた。
「だから……勢いのまま曝け出すしかなかった……でも完全に自暴自棄だった訳じゃ、なかったんだよ……?」
「……」
私は彼に笑いかけようとするが、泣くのも止められずきっと酷い表情をしているだろう。
「ポケモン達に怒られるかもって不安はあったけどね……そうなってもインテレオンが守ってくれる、逃がしてくれるって信じてたから……言えたんだよ……。だから……ハクリュー達に理解してもらえたのは……インテレオンのお陰でもあるんだよ……」
インテレオンが目を見開いた。
「本当に、ありがとう……」
頼りない訳などない。
充分過ぎる位に私の力になってくれている。
いくら感謝してもし足りない。
それぐらいに彼の存在は、私の心の支えになっているのだ。
「……っ! ルーアっ!!」
感謝を述べる私の身体が強く抱きしめられた。
力が強すぎて息が詰まりそうだけど、離して欲しくはなかった。