※この作品はR-18です。

裸の少女とポケモンだけが住む世界   作:Momyaka

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Chapter13 ~降臨、メガスピアー~

 

 不気味な靄が立ち込める山頂から撤退し、再び麓にある調査拠点へ帰還した私達。幸いインテレオンも山頂から離れるにつれ元気を取り戻し、今はすっかり元通りだ。

 

 

 

「おう、戻ったか!」

「お手柄だったわね」

 『パピルピ』のスコルピとパピモッチが出迎えて来るが、その言葉に私は首を傾げる。

 

「ルーア、インテレオン!」

「待ってたわよ!」

 一体何のことだろうと思っていた私の下へやって来るのはヒバニーとチコリータだった。

 

「え!? 町に行ったんじゃないの!?」

「ああ、行ったぜ。無理言ってママンボウに急いで治療して貰ったんだ」

「ドロンチ達と一緒に物資もたくさん持ってきたわ」

 そう言う彼らの後ろには新しいテントが設営されており、箱詰めされた沢山のきのみやリンゴも。

 

「そうだルーア、戻って来て早々だけど急いで来て!」

「ええと、何?」

 走り出して言うパピモッチの後を追いかける私。彼女の向かう先は幾つもあるテントの内一つ。

 

「うううっ!!」

 その中からは何かが呻くような声が聞こえてくる。只事ではなさそうだが、一体何が起きているのだろうか。パピモッチに続いてテントの中に入り、私はその答えを知ることになる。

 

 身体を震わせその場から一切動けないでいるポケモンがいた。

 彼の前では『しばりのえだ』を持ったサボネアが立っている。

 

「お、来たか、彼は『ヨアソビ』が救助しようとしてた救助対象だ。悪いけど凶暴化を解いてやってくれないか?」

 サボネアはそう私に言ってきた。

 

 どうやら私の力を見込んで、凶暴化していたポケモンをここまで連れて来てくれたようだ。私の負担をなるべく減らそうとしてくれる彼らの尽力には感謝しかない。

 

「…………」

「うううっ!!」

 しかし私の前にいるポケモンは動けないものの、その目は怒りに満ちている。彼の周りをうろついてみたりジッと見つめてみたりするが、肝心の青い光は一向に現れない。

 

「ご、ごめん……倒してくれないと戻せないかも…」

「『しばりのえだ』で硬直状態にしてても駄目なのか!?」

「しょうがないわね、皆集まって!」

「……ごめんよ」

「こうしないと凶暴化から戻せないんです」

 動けない救助対象の周りに集まる救助隊ポケモン達。硬直状態は攻撃を受けると解けてしまう為、一気に倒してしまう魂胆らしい。

 

 

「うわあああっ!?」

 悲鳴を上げるポケモンを前に冷や汗を垂らす私。彼には本当に申し訳ないとしか言えない。

 

(……弱らせないと凶暴化を解くことは出来ない…どうしてだろう?)

 

 

 

 サボネアたちが捕らえていた町のポケモンも凶暴化から解放させた後。

 

「山頂ですか」

「うん……だけどあそこに近付いただけで物凄く苦しくなって撤退するしかなかった」

 ゴビットの確認に対しインテレオンが頷きながら答える。おそらく山頂にダンジョン巨大化の要因があると考えられるが、あそこに近付いただけでインテレオンの様子に異変が生じたため、実際に何があるのかすら分からない状態だ。

 

「凶暴化ポケモン達ですら近付くのを拒んでたんだよね……じゃあどうしようもないのかな」

「我々も試してみませんか?誰か影響を受けない者もいるかもしれません」

 『リュウマ』のハクリューとシママの言葉に私は心当たりを覚える。

 

 

 それは……私自身。

 

 

 インテレオンがあれだけ苦しんでいたのに、私自身は一切の不調を感じていなかったのだ。靄の存在を除けば『異様な気配』と言うのも全く分からなかったし、影響を受けないのは私で間違いないだろう。しかし山頂に何があるのか不明である以上、戦闘能力が殆ど無い私が向かっても何が出来るか……。

 

 

「はぁ、はぁ……戻りましたわ!」

「良かった、ルーアいた!」

「お願いよルーア、すぐに来て頂戴!」

 

 その時、切羽詰まった様子で『ナイトスター』も帰還して来た。どうしたのだろうと咄嗟に振り向くと、ドラミドロとアノホラグサが気絶したスピアーを一匹ずつ連れてきていた。

 

 

 

「迷惑かけてごめんなさい……」

「救助隊なのに不甲斐ないよ……」

 『ナイトスター』と戦い、ここまで連れて来られたというスピアー達は元に戻ると共に頭を下げてくる。

 しかし気になることがある。

 

「いや、前例のない事だし仕方ないさ、それより……」

「……残りの一匹はどこにいますの?」

 そう、『スピアーズ』はスピアー三匹からなるチームだと聞いていた。マホイップ達も二匹のスピアー達とのみ出会い戦闘になったと証言している。

 

「……弟は山頂にいます」

 長女のスピアーは物資のオレンのみを受け取りながら答えた。

 

「山頂……!」

 思わぬ単語にインテレオンが目を見開く。今まさに状況を知りたかった場所だ。

 

「あなた達、頂上に行けたの?」

「むぐ、説明すると難しいんだけど……」

 チコリータの質問を受け、次女のスピアーもリンゴを頬張りつつ語りだした。

 

 

 『つめとぎ山』に異変が生じる直前、『スピアーズ』は頂上に到達していたらしい。救助対象のポケモンが見つからず引き返そうとした所で、目の前の空間に『黒い何か』が滲み出してきたのだという。様子を見ていたスピアー達だったが、その中から『見たことも無い灰色の生物』が現れたのだ。

 

「体色こそ違いますが……そこのあなたとシルエットはよく似ていました」

「えっ……!?」

 スピアーに言われ、私は驚愕する。

 

 黒い何かから出て来た、灰色の生物が私と似ている……。

 それはまさか、ヒバニー達との戦闘の最中現れたあの少女だろうか……。

 

 スピアー達の語る所によると、その灰色の生物はスピアー達の前から去って行ったが、『黒い何か』は更にその量を増して襲い掛かって来たのだという。

 長男のスピアーが姉妹を守るように立ち塞がり『黒い何か』に捕らえられると同時に、周囲一帯が大きく揺れたとのこと。その直後から精神と身体を搔き乱すような気配に襲われ、本能のままに逃げるしかなかったようだ。

 

「お兄ちゃんを助けないといけなかったのに……!」

「いいえ、あたくし達でさえ頂上の異様な気配には耐えられなかったわ。何か対策を講じないと頂上に留まる事さえ無理でしょうね」

 落ち込むスピアーを宥めるドラミドロ。やはり『ナイトスター』も一度頂上を目指していたらしいが彼女らでさえ撤退するしかなかったようだ。

 

「どうすればいいんだ?」

「灰色の生物……っていうのが原因なのかな……?」

「頂上に近付けない以上、その生物を探すのが一番ですわね。どなたか心当たりはありまして?」

 マホイップが尋ねるがポケモン達は皆知らない様子。

 

「……私、会ったよ」

「えっ!? いつの間に!?」

 唯一情報を持っているのは自分だけだと判断して答えるとインテレオンが大いに驚く。

 

「……インテレオンがヒバニー達を追って私から離れた時……憶測だけど私が一人になるタイミングを見計らったんじゃないかな。この山に来てから何度か視線を感じる事もあったし……」

「平気? 何もされてない?」

「……ポケモン達に捕まってたのかって質問して来て……否定したらまた木々の奥へ行っちゃった」

「我々に捕まって……? その生物は我々と敵対しているのでしょうか」

「念のため聞くけど、スピアー達は何もしてないよねー?」

「はい。私達が驚いている間に山頂から去って行ってしまいました」

 私が情報を出すと、ポケモン達は難しい顔をして悩み出す。

 

「ルーア。あなたから見て、その生物はニンゲンでしたの?」

「……体色以外は」

 マホイップは私の答えを聞くと、救助隊の面々を見渡した。

 

「……では暫定的に『灰色のニンゲン』と呼びましょう。何か知っていると思われるその者はどうやら私達ポケモンを避けている様子……普通に探しても見つける事は出来ませんわ」

 そう言う彼女は私、そしてインテレオンを見つめる。

 

「インテレオンさん、透明化をずっと続ける事は可能でして?」

「適宜身体の表面を潤す手間はあるけど、『ねらいうち』のパワーが尽きない限りは」

「ではあなたは隠れてルーアを護衛して下さいませ。それで灰色のニンゲンがルーアに接触して来るのを待ち『黒い何か』の情報を聞きだす……お願いできますかしら」

 マホイップはインテレオンの能力について確認した後、情報を入手するための作戦を提案。

 

「ルーアはそれでいいかい?」

「いいけど……あの子、本当に接触して来るかな……」

「話を聞く限り、少なくともルーアを敵とは見ていない様子……可能性は低くないと見ていますわ」

 懸念を零すが、マホイップは物は試しとばかりに後押しする。

 

「あたくし達『ナイトスター』は残りの救助対象を探すわね」

「俺達も山頂、行ってみようぜ。インテレオンや『ナイトスター』が無理でも、もしかしたら……があるかもしれないしな」

「構わないけど無理はダメ。苦しさ感じたら即撤退、約束」

 明日の作戦がまとまり、救助隊たちは頷き合う。

 

 まだ見えない事は多いが、ダンジョン巨大化の原因には着実に近付いている。

 

 

 

 

 

 翌日、大雨の降る『つめとぎ山 深奥』。

 思っていたよりずっと早く、チャンスは訪れた。

 

「……」

「……っ」

 私の目の前に立つ、灰色の肌を持つ少女。

 

「……一人? あいつらは?」

「……一人」

 灰色のニンゲンの問いかけに、私は嘘をついた。近くの木の上には透明化能力で姿を隠しているインテレオンがいるのだ。万が一、私に危害が及ぶようなことがあれば即座に護衛に入ることになっているが、それまでは私が彼女から情報を引き出す役割を担う。

 

「逃げ出したの? 捨てられたの?」

「……教えて欲しい事があるの」

 矢継ぎ早に質問をして来るが、私はそれを遮り言った。

 

「この山の頂上で何が起こってるの?」

 雨に濡れながら、私は問う。

 

「……」

 しかし灰色のニンゲンは答えない。一切の感情が読み取れない顔……私を警戒しているのだろうか。彼女が避けているポケモン達と一緒にいる私を……。

 

「……っ、私、あなたの敵じゃない……!」

 だから、敵意を持っていないことを示す。

 

 確かに少女が何を考えているのかは分からない。

 それにダンジョン巨大化と関係している可能性が極めて高いという怪しい点もある。

 

(だけど、まだこの世界やポケモン達に悪意を向けてるとは限らない…!)

 

 

 

「侵入者ぁぁぁ!!」

 

「えっ……」

 

 憎悪に満ちた叫びと共に現れたのは鋭い爪を持つポケモン、ザングースであった。昨日凶暴化から解放したのとは別個体らしく、白い毛並みから雨水を滴らせながら私達の元へ疾駆して来る。

 

「がふっ!」

 しかし水弾を受けザングースは大きく仰け反った。

 インテレオンの頼もしさに感謝……しかけた所で私は表情を凍らせる。

 

「……」

 灰色のニンゲンの右腕が形状を変化させていたのだ。まるで触手のように動く少女の右腕の先端……手に当たる部分が巨大化し、次第に『ある形』になる。

 

「な……」

 頭部から大きな耳と小さな樹木が伸び、小さな胴体からはまた小さな手足と長い尻尾が生える。

 その全てが黒一色であるが、そのシルエットはまさしく……。

 

 

 ヤナップ。

 

 

「……!?」

 あまりにも異様な光景に私は後退りする。

 

(何アレ……!?)

 黒いヤナップは少女に操られるかの如く動き始め、ザングースに対し『ひっかく』を繰り出した!

 

「ルーアっ!!」

 余裕を失ったインテレオンの声が響く。まだ姿を隠しているが、彼もまた異常事態だと判断し私を守りに来たのだ。怒り狂うザングースと戦う少女だが、戦いは素人なのか黒いヤナップの動きはおぼつかない。

 

 しかし再び異変が。

 

「……」

 今度は少女の左腕が形を変え、今度はチェリンボのような形状になった。黒いチェリンボもまた『このは』を飛ばしザングースを攻め立てる。ザングースは必死に抵抗をするが、少女の操る黒いポケモン達は幾ら攻撃を受けても怯むことなく攻撃を続けていた。

 

「ヤナップとチェリンボって……まさか」

 ヤレユータンと共に本屋を営んでいたが『つめとぎ山』で凶暴化したヤナップ。ヒバニーとチコリータが元々救助しようとしていたチェリンボ。

 

 まさかその二匹は……!

 

「……っ! 『ねらいうち』!!」

 私と同じことを考えたのだろう、インテレオンがザングースではなく灰色のニンゲン向けて攻撃する!

 

「!!」

 側頭部を高圧縮の水弾で撃たれるが、少女は大したダメージを負った様子もなくこちらを向いて来た。

 

「逃げろザングース!! そいつに取り込まれるぞ!!」

「……ッ!」

 透明化を解いたインテレオンの叫びを受け、凶暴化しているザングースも身の危険を察したらしく木々の奥へ走り去っていく。

 

「……やっぱりそいつらの仲間だった、騙したんだ」

 灰色のニンゲンは黒いヤナップとチェリンボをユラユラと操りながらゆっくり迫って来た。

 

「僕達も逃げるよルーア……想像以上に危険な存在だ……!」

「う、うん……!」

 生存本能に従い、私はインテレオンの言葉に同意する。

 

 

 

 しかし。

 

 

 

「っ!?」

 地面が大きく揺れた。

 それから間もなく、黒と紫の靄が漂い始める。

 靄がやってくる方向は山頂。

 

 私達へ近づいて来ていた灰色のニンゲンは怪訝な表情でそちらを向くと、私達を無視して移動を始めた。

 

「ぐうっ……」

「インテレオン……!」

 そして再び苦しみ始めるインテレオン。昨日山頂へ向かっていた時と同じ症状だ。

 

「う、動けない…!」

 地面に膝と手をつき荒く息をする彼が危険であるのは明らか。こういう時はどうすれば……!

 

「……『あなぬけのたま』!」

 私は咄嗟にランドセルを揺らし、脱出用の道具を使用!

 

 

 

 パリン。

 

「!?」

 割れた。

 

 効果を発揮することなく木っ端微塵となり消えてしまった『あなぬけのたま』。この漂う靄のせいなのだろうかと考察する余裕もない。このままではインテレオンが大変なことになってしまう。

 

「…………っ!!」

 私は意を決し、山頂へ走り出す!

 

(逃げられないのなら、この異常事態を止める……それしかない!)

 何度も転び泥まみれになりながらも、必死に先を目指す。息苦しくて心臓がはちきれそうになるが、我慢して山を登る。

 

「はぁ、はぁ……っ!」

 その途中、インテレオンと同じように倒れているヒバニーとチコリータの姿を見つけた。

 

「……!」

 彼らも私の存在に気付きこそするが、声すら出せないようだ。

 私もまた声を掛ける余裕もなく、立ち止まらず一心不乱に走り続ける。

 

 

 

 『つめとぎ山 頂上』。

 嵐のような大雨の中、黒と紫の靄が漂う。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「……」

 激しい疲労で霞む視線の先には、こちらに背を向けた灰色のニンゲンが佇んでいた。そして彼女の前には巨大な黒い繭のようなものが浮かんでいる……黒と紫の靄はあの繭から放たれているようだ。

 

「……ぜぇ、ぜぇ……なんなの、あなたは!? どうしてこんな事を!?」

 私は怒りのまま少女へ問いかけた。

 

「……」

 灰色のニンゲンはこちらを向くが答えない。

 

「くっ……」

 あの繭をどうにかしなければインテレオン達を救うことは出来ない。私はジリジリと繭へ近づいていくが、灰色のニンゲンは当然それを妨害して来た。

 

 目の前に立ち塞がる黒いヤナップが何も言わずに『ひっかく』を連発! 洗練さを微塵も感じない力任せの攻撃。しかし戦闘の初心者である私にはそれすら脅威である。

 

「っ……!」

 一撃、二撃と攻撃を受け、たまらず私は後退し距離を取った。これではインテレオン達を苦しめる繭に近付けない……!

 

「帰って」

「……、帰らない!」

 灰色のニンゲンが命令して来るが、私は首を振ってそれを断る。インテレオンや『ゆけゆけズ』だけでない。間違いなく『ナイトスター』も、『アースアーム』達他の救助隊も……そしてこの山に住んでいるポケモンも……皆が苦しんでいるのだ。

 

 引き下がってたまるものか。

 

「……」

 無表情のまま、少女は左腕を再び黒いチェリンボの姿に変貌させた。本気で私を排除するつもりだろう。黒いチェリンボも同様に一言も発することなく、漆黒の『このは』を私に向け飛ばしてくる。狙いこそ正確とは程遠いが葉の数は両手の指でも数えられない程で、その上一つ一つもかなり大きい。

 

「……っ!」

 私はその内の一つを腹に食らい、尻もちをついてしまう。このままでは一方的に嬲られるだけだと、私はランドセルを大きく揺すった。飛び出したのは先がゼンマイの如く丸まった枝だ。その枝を振るわせると、光弾が少女向け一直線に飛んでいく!

 

「……」

 無表情のまま、右腕の黒いヤナップを盾のようにして光弾を防ぐ少女。

 

(避けずに受けた……!)

 狙い通りだ。

 

 

 今のは『こんらんのえだ』。

 

「!?」

 黒いヤナップ……少女の右腕が突如不規則な動きを始める。『ひっかく』を黒いチェリンボに繰り出したり、勝手な方向へ移動を始めたりと少女を翻弄。

 

「……な……なっ……!?」

 ずっと表情を崩さなかった灰色のニンゲンも流石に狼狽し、必死に自らの右腕を制御しようとしている。

 その隙に私は黒い繭へと向け走り出した!

 

「ぐうっ!?」

 黒いチェリンボの乱暴な『たいあたり』を受け、私は草地の上を転がされる。まだダメかと思いつつ、未だ混乱する黒いヤナップに四苦八苦する少女を見つめた。

 

「……このっ」

 灰色のニンゲンは呻きつつ右腕の変化を解除。これでまた調子を取り戻してしまうか、と危惧していたがそれは杞憂だった。

 

「そ、そんなっ……!」

 彼女の右腕は元の形に戻ったにも拘らず、本人の意思と異なる行動を続ける。勝手に少女の頬をビンタしたかと思えば勝手にブンブン振り始め、依然と混乱していた。

 

「ううっ♡!?」

 そして右腕は主の股間へ伸びて素早く割れ目を擦りだす。勝手にオナニーを始めてパニックになる少女に向け、私は再び『こんらんのえだ』の光弾を発射!

 

「っ!」

 私と同じく戦闘慣れしていないのだろう灰色のニンゲンは咄嗟にそれを左腕……黒いチェリンボで受け止めてしまう。

 

(やった……!)

 同様に滅茶苦茶な動きを始める黒いチェリンボおよび彼女の左腕。これでもう私を妨害することは出来ない。

 

 後はあの黒い繭へ……。

 

「ぎゃあっ!?」

 また何かがぶつかり草地に叩きつけられた。激痛に苛まされながら目を開けると私に乗っかっている緑と赤……目を回しているヤナップとチェリンボだ。身体の色が元に戻っており背中からも少女の腕は伸びていない。

 

 灰色のニンゲンに取り込まれていた二匹がついに解放されたのだ。

 

「よ……よくも……!」

 歯軋りする灰色肌の少女。彼女の両腕はダランと垂れたままポケモンへ変化する様子を見せない。混乱して使い物にならなくなったヤナップ達を放棄したことで力も失ったのだ。

 つまり彼女にはもう私へ打つ手が残っていない。ヤナップ達をぶつけてきたのが最後の抵抗だが、私はまた立ち上がる。

 

「許さない!! 絶対に!!」

 表情こそ乏しいが、怒りのままに私を紫の瞳で睨みつけると少女は逃走を開始。

 

 しかし追跡している時間など無い。

 

 木々の奥へ消える灰色のニンゲンを尻目に、私はまっすぐ黒い繭の元へ。近くで見ると圧倒される大きさだが、どのように対応すればよいのだろうか。私は悩みながら繭の表面を見つめる。

 

 黒。まるで闇のような、黒一色。

 

「……」

 見覚えがある。これは『追放の遺跡』を満たしていたあの闇だ。闇の触手を私に伸ばしてくる気配はないものの、無関係には思えない。

 

「……っ」

 『追放の遺跡』の闇は、私に散々幻覚を見せ弄んだ後消えてしまっていた。ならばこちらも同じなのではないだろうか。私がこの闇を消せばこの山に広がる靄も晴れ、インテレオン達を救えるのではないだろうか。

 

「……!」

 怖いけれど、やるしかない。

 覚悟を決めた私は目の前に鎮座する黒い繭へと体当たりする!

 

 

「うわっ!?」

 まるで暖簾に腕押ししたかのように、私は勢いのまま地面に倒れた。

 

 周囲は黒一色。

 だが、何かがいる。

 暗くて詳細は分からないが、巨大なそれは眠っているようで静かに寝息を立てていた。

 

「……」

 恐る恐るそれに近付く私の背後では、ぶつかった場所を起点として黒い繭が青い光を放ちながら溶け消えていく。それにより徐々に判明していく鋭角的なフォルム。

 

 槍のように大きく黒き二つの針。その補助をするかのような黒い三つの針。黒い背から生えるのは、またこれも黒く薄い翅。完全に繭が無くなり、ついに天の下に現れたそれは…全身が黒の何か。

 

(ポケモン……なのかな)

 疑問に思う私の前で眠るその存在はピクリと身体を震わせた。

 

 大雨の中、眠りから覚めたそれはゆっくりと身を起こし始める。

 黒かった瞳に光が灯り、妖しい紫色へと変化。

 その後黒い身体のあちこちに紫色に光るラインが走り始める。

 

 

 

「ビビビィィィィィ!!!!!」

 

 

 

 黒く巨大な存在が劈く叫びを上げ、私は思わず蹲った。素早く翅を動かし、巨体が浮かび上がる。

 

「うわあっ!?」

「な、何!? 何!?」

 後ろから怯えた声が聞こえて来た。ヤナップとチェリンボが、黒き繭より現れた存在を恐怖に塗れた顔で見上げている。その叫びを鬱陶しく感じたのか、黒い存在は両脚と尻の針を向けてきた。

 

「に、逃げて!」

 私は危険を察知し警告を発するが、二匹とも動けない様子だ。灰色のニンゲンに限界以上に酷使された影響で、体力が残っていないのだ!

 

 一切の慈悲なく発射される『ミサイルばり』が上空から襲い掛かって来る。灰色のニンゲンが発動した技と同じく一発一発が巨大で数も多い……そして彼女とは違い狙いも正確だ!

 

「うわああっ!?」

 鋭い弾丸の嵐に晒され、私の身体のあちこちに針が命中する。痛みで視界がふらつく中、ヤナップ達を見るが二匹とも針が刺さった状態で気を失ってしまっていた。

 空からこちらを見下ろす黒い存在は、私がまだ動いているのを確認すると再び両脚と尻の針を向けてくる。

 

(ま、まずい……!)

 

 

 

「『ねらいうち』!!」

 

 

 

 高圧縮の水弾を受け、バランスを崩す黒い存在。『ミサイルばり』は不発に終わった。

 

「ルーア、無事かい!?」

 私の元へ走って来るインテレオン。

 

(良かった、生きてた……そして、来てくれた……)

 

「……もう大丈夫なの?」

「ああ、靄が消えて苦しみも無くなった。ルーアのお陰だよね……本当にありがとう!」

「話してる暇は無いわよ」

「もしかしてあれが今回の異変の原因か……!?」

 顔を見合わせる私達の元へやって来たチコリータとヒバニーが空を見上げて言う。

 

「真っ黒、巨大。だけど……」

「ええ、あのフォルム。そしてさっきの技、間違いないわ」

「……『メガスピアー』ですわ」

 同様に山頂へ現れた『ナイトスター』達もまた言い放った。

 

(メガ……スピアー……!?)

「あれが、お兄ちゃん!?」

「どうしてあんな姿に…!」

 続けて現れた『スピアーズ』の二匹。残り一匹のスピアーが今、上空に浮かんでいる巨大な黒き存在に変貌しているのだ。黒いメガスピアーは毒が滴る両手の針を構えると上空から急降下して来る!

 

「『どくづき』ですわ!」

「散開!」

 山頂に巨大な二本の針が突き刺さると同時に毒液が大地へ染み込み、周囲の草を一瞬で枯らせた。

 

「なんて威力だよ!?」

「これがメガシンカの力なの……!?」

 どうにか被弾は避けたが、あまりにも強烈過ぎる破壊力だ。

 

(……メガシンカ)

 聞いたことはある。主にカロス地方で多く確認される、ポケモンの姿が一時的に変化する現象だ。しかしそれはポケモントレーナーとの絆が無ければ起こりえないとも聞いている。

 

「人間がいないこちらの世界では『覚醒状態』になると一部ポケモンがああやってメガシンカするんだ」

 私の困惑を表情から読み取ったらしく、インテレオンが説明を入れてくれた。

 

「だけど『メガスピアー』はあんな黒い体色だったり巨大だったりしませんわ……!」

「ルーア、何が起きたか知ってる?」

「……皆を苦しめるあの靄を放ってた黒い繭……その中で眠ってたんだ」

 話し合う私達へと目を向けるメガスピアーが突然素早く突撃して来る!

 

「ぎゃあっ!?」

「ぐうっ!」

 黒きメガスピアーは槍のような手の針を一閃…『つばめがえし』で私達を切り裂いた!

 

「くそっ……『ひのこ』!」

「ま、待ってヒバニー!」

 辛うじて巻き込まれなかったヒバニーが反撃を放とうとするが、彼の足になかなか火が収束しない。この大雨の中だ、火が弱まるのは必然である。

 

「ビビィィ!!」

 相手は再び『つばめがえし』を振るい、『ゆけゆけズ』も吹き飛ばされてしまった。

 

「止まってお兄ちゃん! 『みだれづき』!」

「『ドリルライナー』!!」

 暴走する仲間……兄弟を止める為、今度は二匹のスピアーが攻撃を仕掛ける。

 

「……ッ、ビィィィィ!!」

 僅かに身じろぐものの、メガスピアーは姉妹であろうと関係ないとばかりに『どくづき』で薙ぎ払った。

 

「うおおおっ!」

「目を覚ませぇ!」

「ビビビビィィィィ!!」

 『アースアーム』、『リュウマ』、『パピルピ』、『ヨアソビ』といった救助隊ポケモン達も次々に突撃していくが、蹴散らされるばかり。

 

「行きますわよ、『デコレーション』」

 マホイップは素早くクリームを放ち、仲間であるドラミドロを彩っていく。

 

「感謝するわ……来なさい落雷!」

 強化されたドラミドロは天に向け叫んだ。厚く黒い雨雲を走る雷光。そして轟音と共に『かみなり』がメガスピアーを撃ち抜く!

 並のポケモンであれば一撃で戦闘不能になるであろう、慈悲の無い強烈な技。

 

 

 しかし。

 

 

「ビィィィ……」

「……嘘でしょ?」

 黒いメガスピアーは一度地面に倒れ伏しただけで、平然と起き上がった。

 

「追撃!」

 そこへ、どこからともなく現れたアノホラグサが勢いよく身体を叩きつける。渾身の『ゴーストダイブ』だが、これもまた決定打にはならず手の針で振り落とされた。

 

「ぐっ……『ナイトスター』でさえ……」

「インテレオン、大丈夫? 『オレンのみ』とか……」

 肩を押さえ呻くインテレオンの表情は苦しそうだ。まだ一発しか攻撃を受けていないのにここまでのダメージになるほどメガシンカによる強化は凄まじいものだということか。

 

「もぐ……ルーア、僕はまた透明化して戦う。あの相手だとキミのことを気に掛けている余裕がないかもしれない」

「分かった。私もスピアーを救うために色々試してみるね」

 彼は『オレンのみ』で回復すると、すぐさま姿を消して戦闘に戻る。救助隊ポケモン達も暴れるメガスピアーへ何度も立ち向かっているが、このままではジリ貧だろう。

 

「……『こんらんのえだ』!」

 私は灰色のニンゲンに対しても使った枝を振るい、インテレオン達の援護に入る。距離はあるが相手が大きいため光弾は問題なく命中……。

 

「……ううっ」

 しかし黒い表皮にぶつかると光弾は弱々しく四散し、メガスピアーを止める事は叶わなかった。更に『こんらんのえだ』も限界を迎えたのかポッキリ折れてしまう。

 当のメガスピアーは周囲を囲むポケモン達を鬱陶しく感じたか、『ぶんまわす』で一気に薙ぎ払いながら再び上空へ飛び上がった。そのまま『ミサイルばり』を連射し眼下のポケモン達へ追撃!

 

「きゃあっ!」

「うわあっ!」

 無数の針による襲撃にポケモン達が悲鳴を上げる。

 

「ちくしょう、あんな高所まで行かれたら……」

「あたしの『はっぱカッター』も届かないわ、どうすれば……」

 雨雲を背景に空で羽ばたく相手を見上げ、ヒバニー達が歯軋りをした。

 

「ねえ、空中戦は出来ないの?」

「ここもダンジョンだ。伝説ポケモンならともかく、俺達一般ポケモンじゃ低空飛行しか出来ねえ……」

 ボチに問われたドロンチも首を振って悔しそうにしている。地面にいるこちらから攻撃することが出来ない状態……しかし逆に上空から……『かみなり』で撃ち落とせば良いのでは。そう考える私だがそれは相手も同じだった。

 

「ビビビビィィ!」

「くっ……」

 メガスピアーは『ミサイルばり』でドラミドロを集中攻撃し始めている。これでは彼女は『かみなり』を発動する余裕すらない。

 

「ドラ……きゃっ!」

 救援に入ろうとするマホイップだが彼女もまた針の着弾に巻き込まれてしまった。

 

「『ねらいうち』」

 再び上空の相手へ狙撃を計るインテレオン。雨で強化された水弾がどこからか放たれ、メガスピアーの元へ高速で飛ぶ。

 

「ッ!」

 しかしメガスピアーは同じ手は喰らわまいと回避してしまった。

 だがこれで『ミサイルばり』が止んだため、『かみなり』で……。

 

「ぐうっ……」

「ドラミドロ、しっかり!」

 そちらを見ると、地面に倒れ伏すドラミドロの姿があった。メガシンカポケモンからの集中攻撃を受けたせいで体力が尽きてしまったのだ。

 

「さっきの靄のせいで『プチふっかつのタネ』が全部使い物にならなくなりましたし……どうすれば」

 依然として空を飛んでいるメガスピアーを見上げマホイップは表情を曇らせる。報復とばかりに再びインテレオンの水弾がメガスピアーに襲い掛かるが、相手は針でそれを防御するとそのまま急降下。『どくづき』で地面を突き刺した後、そのまま針を引き抜くと同時に勢いを乗せた『ぶんまわす』を繰り出した。透明化が解け吹っ飛んでいくインテレオンの姿が遠目に見える。

 

「インテレオン……!」

「……ルーア、さっきの話の続き」

「……え、話?」

「スピアーがメガシンカした事」

 その時、いつの間にか近くへやって来ていたアノホラグサが問いかけてきた。

 

「このままじゃ負ける。情報欲しい」

「……黒い繭の中で眠ってた、ってぐらいだけど」

 ヒバニー達を始めとする救助隊ポケモンが着陸したメガスピアーの元へ向かう中、会話を続ける。

 

「繭の中にいた時から黒くて大きかった?」

「うん、目を覚ますと同時にあの紫のラインが出て来て暴れ出したんだ……」

「紫のライン……? 模様じゃないって事?」

 やり取りをしていると、彼女は何かに思い当たったようでさらに聞いてきた。

 

「うん、まるでエネルギーが走るみたい……に……」

 私も答える内に一つの可能性に辿り着く。

 

 

 

「……、チコリータ! 聞いて!!」

 大雨の中でも聞こえる様に、私は声を張り上げた。

 

「紫のラインを狙って!!」

 

 

 

 『はっぱカッター』がメガスピアー……腹部を走る紫のラインへまっすぐ飛ぶ。チコリータが飛ばした葉の刃は目標へ深く刺さり……。

 

 

 メガスピアーの黒い表皮にヒビを入れた!

 

 

「ビビビィィィィ!!??」

 紫のラインが傷付いた箇所を中心に、メガスピアーの黒い表皮が剥がれ落ちていく。その下は黄色のボディ……本来のメガスピアーの身体だ。黒い体色だと思っていたが、黒い膜か鎧を身に纏っていた形だったのだ。

 

 だが喜ばしい事ばかりではない。

 

「この黒いのは……ぐっ!?」

「またあの靄が……!!」

 黒い繭が放っていたものと同じである靄が剥がれ落ちた表皮からあふれ出ており、近くのポケモン達が苦しみ出していた。

 

「ま、待ってて!」

 私はあわてて駆け付けると表皮に足を乗せる。黒い繭の時と同様に黒い表皮は青い光を放ちながら消えていき靄の発生も止まった。

 

「……ビビィィィ……!」

 下半身の黒い表皮が剥がれ落ちただけでなく、心なしか縮んだメガスピアーはその間に再び飛翔を開始。

 

「まだ暴れるのですか……!」

「上半身に黒いのが残ってる……あっちも剥がさないと…」

 紫の瞳でこちらを見下ろすメガスピアーが『ミサイルばり』を乱射する。しかし針の大きさや数といった規模はかなり落ちており、ポケモン達も回避や防御で対処が追いついていた。

 

「しかし飛ばれちまったら……」

「いいえ、羽ばたくパワーも落ちたからかさっきよりは低いわ!」

「任せときなぁ!」

「私達も!」

 ドロンチとスピアー姉妹が飛行し、メガスピアーの元へ接近。

 持ち前のスピードを活かし、まずはドロンチが『おどろかす』で相手をけん制した。一瞬驚きつつも、メガスピアーはドロンチを『ぶんまわす』で撃墜する。しかし彼が生んだその隙に背後から飛び掛かったのは姉妹のスピアーだ。

 

「はぁぁ!『ドリルライナー』!」

「ええい!『ダブルニードル』!」

 

 弟、そして兄を救うために放たれたスピアー達の針は、メガスピアーの巨大な両手の針に走るラインへと命中した。

 

「ビビビビビビビ!!??」

 黒い表皮が更に剥がれ落ちると同時に、メガスピアーはそのサイズを本来の物へ縮ませながら地面へ墜落する。

 

「よし……」

 私は忘れず剥がれ落ちた黒い表皮にタッチし消していった。メガスピアーを覆う黒い表皮はもう残っていない。これで元に……。

 

「調子に……乗るなァァァ!!」

「ぎゃああっ!?」

 しかし暴走の止まらないメガスピアーは『ぶんまわす』で周りのポケモンを弾き飛ばす。

 

「この山を荒らす奴は許さん!」

 これは……凶暴化だ。黒い表皮をすべて取り除くことは出来たがまだ凶暴化に囚われたままなのだ。

 

「くっ……『でんげきは』!」

「『シャドーパンチ』です!」

「邪魔だ、『どくづき』!!」

 メガスピアーはシママとゴビットの攻撃を浴びつつも、メガシンカのパワーで強引になぎ倒していく。

 

「どうすればいいの……!?」

「インテレオンもドラミドロも動けねえし……」

 

「……ん? 空に火?」

 疲弊したポケモン達がどんどん倒されていく中、アノホラグサが空を見上げて呟いた。そんな馬鹿なと思いつつ私も視線を向ける。

 

 

 

 雨雲の下を飛ぶ橙色の何か。確かに火のように揺らめいているそれは、こちらへ近づいてきていた。

 

 翼。鶏冠。尾羽。それらは実際の炎の如く高熱を放ち、雨の中でも燻ることなく燃え上がる。羽ばたくたびに橙の火の粉が舞い、灰色の暗雲を彩った。

 

「ファイヤー……」

 間違いなくそれは『スプリングタウン』の救助隊を統括するギルド長ファイヤー。それがこの『つめとぎ山』の山頂に来ていたのだ。

 メガスピアー含めたポケモン達が見上げる中、ファイヤーは上空を旋回する。

 

「うわっ」

 私は眩しさに目を細めた。

 

 同時に暖かい日光が山頂を照らす。

 しかし天は雨雲が支配しており青空は見えない。

 ではなぜ日光が肌を照り付けるのか。

 

 

 太陽。

 

 『にほんばれ』による小型疑似太陽が雨雲の下に生まれていたのだ。

 

 

「やれる?」

「当然だろ」

 雨が蒸発し日光に照らされる中、二匹のポケモンが笑顔で目を見合わせる。

 

「では、任せますわ」

 マホイップが二匹に『デコレーション』を行い強化を与えた。

 

(あなた達なら、やれる!)

 私も心の中で応援する。

 

「うおおっ!」

「『はっぱカッター』!」

 飛び上がるヒバニー、彼へ向けて葉の刃を飛ばすチコリータ。ヒバニーは葉の上に着地するとまっすぐメガスピアーの元へ突っ込んでいく。

 

「っ!?」

 上空を飛ぶファイヤーからの攻撃を警戒していたのであろう彼はヒバニーに気付くのが遅れた。

 

「行くぜええっ!!『ひのこ』!!!」

 ヒバニーは勢いよく、チコリータに託された『はっぱカッター』を蹴り飛ばす!

 

 特性『しんりょく』および『もうか』。

 ピンチをチャンスに変える、まさに諦めない『ゆけゆけズ』らしい特性だ。強い日差しの中、二匹の『レンケイ』は業火となりつつもその鋭さは衰えることはなく……。

 

 

「ぐおおおおおっ!!??」

 

 

 効果抜群、急所命中。

 メガスピアーはたおれた。

 

 

 

 

 

 メガシンカが解けたスピアーの身体を包む青い光。

 

「……」

 目を覚ました彼は私の事も、周りのポケモン達の事も襲う様子を見せない。

 

「……お兄ちゃん!」

「うおっ」

 そんな彼に泣きつく妹スピアー。

 

「本当に感謝いたします、ルーアさん」

「いや、彼を止めたのはヒバニー達だよ……私はそんな……」

 笑顔で感謝を述べてくる姉スピアーに私は照れながら目を逸らす。

 

「凄かったぞ、お前ら!」

「あんな『レンケイ』が使えたなんて驚きですよ」

「沢山特訓した結果だよな、チコリータ」

「まだまだ新米だって思ってたけど、下手したら私達より強いんじゃない?」

「恐ろしい成長っぷりだぜ……俺らも負けてらんねえなぁ」

「もう、そんな褒めても何も出ないわよ」

 救助隊ポケモン達も目覚ましい活躍を見せた『ゆけゆけズ』を嬉しそうに称賛していた。

 

「あれっ?チェリム?」

「どうしてここにいるんですか?」

「ギルド長補佐だよ! 当然当然!」

「『にほんばれ』は彼女がしてくれたのですよ」

 山頂に降り立ってきたファイヤーとチェリムも安心した様子で救助隊ポケモン達に応対する。

 

「ごめんなさいね、二匹とも…」

「集中攻撃苛烈だった、対策検討必要かも」

「ですわ。帰ったら久しぶりに『ナイトスター』反省会にしましょう」

 『ナイトスター』達は一仕事終えたばかりであるのに既に次の事を考えているようだ。

 

「ルーア、僕も……」

「気にしないでよ、それにインテレオンがいなかったらスピアーを元に戻せなかったんだよ」

 インテレオンも申し訳なさそうな顔をして来るが、私は首を横に振った。言い方は悪いが彼が囮になってくれたお陰で上空に陣取っていたメガスピアーが降り立ち、ラインを攻撃するチャンスを得られたのだ。

 

 

「それで……何かダンジョン巨大化の原因は掴めましたでしょうか?」

 一同に向け問いかけるファイヤー。

 そして私に集まる視線。

 

 

「…………私?」

 慌ててキョロキョロ見渡した。

 

「ルーアが話してくれないと何も分かりませんわ! 私達は靄で動けなかったんですもの!」

 冗談はほどほどにしろと言わんばかりにマホイップがプンスカ怒って来る。

 

「えーっと、スピアーは?」

「悪い、あの変な黒いのに捕まった後すぐに気を失って……目を覚ました後は既にメガシンカ状態でな」

「弟が言うには黒い表皮に包まれている間の事は覚えていないようです」

 もっと情報を知っている存在がいるだろうと話を振るが、スピアー達はそんな答えを返してきた。

 

「ルーア、あの『灰色のニンゲン』は結局なんだったのか分かったかい? それとも逃げられた?」

 そこへインテレオンが質問して来る。

 

「……スピアーが入ってた黒い繭を守ってたけど……理由を聞きだせないまま逃げられちゃった。ごめん……」

「やっぱりその存在、怪しい……」

「同意見だわ、それにヤナップやチェリンボを取り込んで道具のように扱ったのでしょう?」

 私の回答を聞き、アノホラグサとドラミドロが怒りの表情を浮かべた。やはりこの二匹は所々恐ろしい一面を見せてくる。

 

「なるほど、一番有力な情報を持っているのは『灰色のニンゲン』なる存在と。私達ポケモンを取り込む力を持っている以上不用意に近付くのは大変危険です……今回の調査は切り上げ街へ帰還としましょう」

「あっ、まだ『スピアーズ』が探してた救助対象が見つかってなくて……」

「その者も凶暴化している筈です。ルーアも疲労しているでしょうし、またいつかの機会に対処するべきです」

 『あなぬけのたま』を出すファイヤーは諭すように私へ言った。

 

「ファイヤーの言う通りだぜ」

「時間が掛かってもいいか確かめて、自分のペースでいいって応えて貰ったんでしょ?」

「……うん、そうだったね」

 ヒバニー達の言葉に私は頷く。

 

「では帰還しましょう!」

 ファイヤーが持つ『あなぬけのたま』が強く光った。

 

 

 

 こうして、巨大化したダンジョン『つめとぎ山』の調査任務は終了したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『灰色のニンゲン』の目的はなんなのか。

 あの黒い繭や靄はなんなのか。

 どうして私が凶暴化を解く力を持っているのか。

 何故この世界に来ることになったのか。

 

 分からないことは沢山あるし、不安だって一杯だ。

 

 だけど、隣にはインテレオンがいる。

 ヒバニーやチコリータ、マホイップにドラミドロやアノホラグサもいる。

 そして沢山の救助隊ポケモンも私に理解を示してくれた。

 

 だから……私は孤独じゃない。

 

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