ギルド長室で会談を続けるインテレオン達を残し、私は『ゆけゆけズ』と共に外へ出ていた。
「それでルーア、平気? 酷い事ばかり言われて…」
「……大丈夫」
「浮かない顔だぞ、もうコテージに帰って休むのもアリじゃないか?」
空元気で返事をしながら、『ゆけゆけズ』達と共にギルドの門へ向けて歩く。
「おーいルーア」
そんな私を呼ぶ声につられて視線を向けるとギルド敷地内の建物の前でランクルスが手を振っていた。看板にはギルド研究室と書かれている。
「ギルド長室で話した『リライブ』についての研究なんだけど、答えはどうかな? まだ決められないのなら待つよ」
私以外でも『リライブ』が使える様にならないかの研究に協力するかどうかの件だ。
「……」
どのように研究するのかは分からないが、凶暴化からのポケモン達の解放に一気に近付き私の負担も減らして貰えるのなら願っても無い話だ。
「協力するよ。ポケモン達のためにも、私のためにもなるから」
「本当!? ありがとう!」
私からの承諾を受けたランクルスは無邪気な笑顔で喜び始めた。
「……研究って何するの? 解剖とか怪しい投薬じゃないわよね」
「ちょ……ちょっと失礼じゃない? 実際に『リライブ』する時に何が起きているのかを調べたいんだよ!」
「実際にリライブ……凶暴化ポケモンを用意しないといけないのか?」
「そう、流石に町まで凶暴化ポケモンを連れ帰るのは危険だから現地調査……つまりダンジョンへ行くって事。スケジュールはどう? 明日や明後日、来週に来月……」
ランクルスは口早に説明すると研究協力が可能な日を確認して来る。
「今日で良いよ」
「えっ!?」
私が言うとヒバニーが驚いて顔を向けて来た。
「焦るなって言われたじゃないの!」
「……何もしてないと余計に変なこと考えそうな気がする、それに研究が早く始まればその分悩む時間も少なく済むと思うんだ……」
チコリータも心配してくれるが、私も自棄になっている訳ではないのだ。
「……しょうがねえな! 俺達も行くぞチコリータ!」
「そうね、インテレオンからも任せられたわけだし」
喧嘩気味であった二匹が仲の良い姿を見せてくれ、私は思わず口端を緩める。
「おおおおっ! 感謝してもし足りない! ちょっと研究道具用意して来るね!」
「じゃあ俺、インテレオンに伝えて適当にさっきの依頼書一つ貰って来るぜ」
そう言ってランクルスがギルド研究室、ヒバニーはギルド長室へと向かって行った。
「ルーアもあんまり悩まず、もうちょっと気楽にしてもいいのよ。ヒバニーを見なさいよ」
私と共にその場に残ったチコリータは少し呆れた様子を見せながら提案して来る。それもそうかもしれないとは思いつつも、気楽にするべきなのはチコリータも同じなのではとも考えてしまう。
「……チコリータも焦ってたりするの? なかなか新米扱いから抜け出せなくて」
「はえっ……!?」
そう尋ねると彼女は上擦った声を上げた。
「焦ってなんか……いえ、嘘ついてもしょうがないわね。ルーアの言う通りよ」
チコリータは物憂げな顔を私に向けて正直に話し出す。
「まだあたし達ブロンズランクだし、重要な話には参加出来ないし、特訓しても特訓してもインテレオンや『ナイトスター』に全然追いつけない。沢山依頼をこなさないと救助隊ランクは上がらないし、ずっと新米扱いのまま認められない……。タイプ相性を間違えただけのヒバニーに不必要にきつく当たってしまったのもあたしが焦ってたせいかもしれないわね……」
「インテレオン言ってたよ、チームを組んで数週間でランクが上がるのは滅多に無いって」
「それでもまだ下から二番目のランク……ヒヨッコよ。それに『鬼火草原』でだって、アイドルと救助隊のどっちつかずだったアシマリの方がよっぽど活躍してたわ」
そこまで話した彼女はとても寂しそうな、辛そうな表情を浮かべた。
「ルーア……ヒバニーはあたしと救助隊やってて幸せなのかしら」
「えっ……」
「待たせたなーっ」
その時、ヒバニーが一枚の依頼書を持って戻って来る。
「……どんな依頼書持ってきたの? まさか本当に適当に選んでないでしょうね?」
「ちゃんとキングラーが選んでくれたよ! ブロンズランクでも問題ないダンジョンだって!」
普段の表情に戻ったチコリータがヒバニーといつものように話し始めた。
「……」
ヒバニーはチコリータと救助隊をやっていて幸せなのか。
なんだか、とても恐ろしい質問のように思えた。
「……?」
その時、私は何かの気配を感じる。
ランクルスかと思ったが彼女はまだ研究室におり別のポケモンだろう。
「……」
視線を向けた先には、こちらに背を向け何も言わず去って行く空色のポケモン……。
(ナミイルカ……かな?)
ずっと私達を見ていたのだろうか、それともただ単に通り過ぎただけなのだろうか。
砂浜の白、海の青。そして椰子の緑。
椰子の陰は日射を遮る安息の地となり、そして格好の餌場ともなる。
美しき三色のカンバスを終焉の黒が塗り潰す地、『椰子の木ビーチ』。
『サマーリゾート』から海岸沿いに進んだ先にあるダンジョンに辿り着いた私達。
「うっぷ……ここのネイティは結構乱暴にテレポートさせるんだな……」
「そうかな? あんまり意識してないけど」
ヒバニーのボヤキに大荷物のランクルスが答える。
「この町では当然なら慣れないといけなさそうね……」
チコリータも少し気持ち悪そうな表情をし、周囲の様子を窺う。
大量の椰子の木が森を形成している『椰子の木ビーチ』。ダンジョン化する前は海水浴に適していた地であったようだ。それ故に十匹近くもの町のポケモンがダンジョン化に巻き込まれてしまったらしい。
「言い方は悪いけど町のポケモンを連れ帰るのはついで。今回は『リライブ』の仕組みを調べる事だからこの海岸に住むポケモンでもいいんだよね」
「そうね。十匹近くいるならその内一匹ぐらいには会えそうだけど確実じゃないもの」
「『トロトロ丘』での捜索は苦労したよなぁ。三回目でようやく救助対象に会えたんだから」
通常の救助とは異なり、凶暴化した救助対象は一ヶ所に留まる可能性がゼロであるため、構造を変えるダンジョンの中でその相手に出会うこと自体が困難を極めるのだ。
「そういや『サマーリゾート』ではチームは纏まってダンジョンに行くようにって指示されてるらしいけど、イルカマンやオオタチはいなくていいのか?」
「うん、今回の救助はメインの『ゆけゆけズ』に私とルーアが同行してる扱いだから大丈夫だよ」
「……ねえランクルス。それなら今回は出来るだけあたしとヒバニーに任せてくれない?」
「へっ?」
突然そんな事を言い出すチコリータに私は唖然とした顔になる。
「だ、大丈夫なの? 危ないかも……」
「……そっかー、本当にピンチの時以外は見てることにするね」
私は止めようとしたがランクルス自身が受け入れてしまったため口を出せなくなってしまった。
「実践は特訓とは違うもんな! やってやろうぜ!」
「……そうね」
正直不安でしかないのだが、ヒバニーも同調しているし私からとやかく言える状態ではないだろう。
「まあそこまで心配しないで。このダンジョンは比較的小規模な部類だから、とんでもないアクシデントが起こらない限り夕方までには奥まで進んで脱出できる筈だよ」
「とんでもないアクシデント……」
ワナを踏んでしまったり、マホイップ達を襲った黒い表皮のポケモンが襲ってきたり……。出来ればそのようなことが起きないことを祈るしかない。何せ今の私はランドセルが使えず自力では『あなぬけのたま』での脱出すら不可能なのだ。
密集した椰子の木が形作るダンジョンの中を暫く進み続けてること小一時間……遂にその時が訪れる。
「こんにちは」
「え……こんにちは?」
茂みから突然現れた幼虫のポケモン、キャタピー。
「侵入者さん、やっつけるです」
挨拶を終えたキャタピーはトコトコと私達へと近付いてくる。
「……」
私達は顔を見合わせ沈黙。
「おーい、油断しちゃダメだよ」
「いや、本当に凶暴化ポケモンか分からなくて……」
「ごっこ遊びじゃないわよね? 反撃していいのよね?」
「遊びじゃないです。キャタピーは悪者をやっつけるです。『たいあたり』です」
ランクルスの警告に対し『ゆけゆけズ』は困惑したまま、私の足にゆっくりぶつかってくるキャタピーを眺めていた。
「……えーと、『たいあたり』!」
「わあああんっ! 痛いですー!」
チコリータの攻撃を受けたキャタピーは呆気なく転がって行き、シクシク泣き始める。
「ちょっと! 罪悪感が酷いんだけど!?」
「ランクルス! 何とかしてくれよ!」
「えー。ピンチの時しか助けないって言ったよ」
「えーんえーん……『いとをはく』です」
狼狽する『ゆけゆけズ』に対し、キャタピーは口元から糸を発射。しかし糸は届かず草地に妙な白色の模様を描くに終わる。
(全然脅威じゃない幼いポケモンもこうしてダンジョン化の影響で凶暴化しちゃうんだ……)
「……悪く思わないでくれよ、『でんこうせっか』!」
「ひいんっ!」
腹を括った様子のヒバニーが更に攻撃を仕掛け、キャタピーがまたも吹っ飛んだ。幸い体力も少なかったようで目を回しているのが確認できた。
「……おっと」
私はキャタピーから距離を取り『リライブ』が勝手に発動しないようにする。今回はランクルスの研究に協力しなければならないのだ。
「お疲れ、それじゃ失礼」
ランクルスはヒバニー達を労いながらキャタピーに近付くと、彼の身体へよく分からない器具を取りつけ始める。
「……んん?」
「どうかしたの?」
「……いや、大丈夫。ルーア、『リライブ』お願い」
ランクルスは訝しげな表情を浮かべたが、首を振って指示を出してきた。私は頷いてキャタピーのすぐ傍に歩み寄って彼をジッと見つめる。
……。
…………。
(あれ?)
「どうしたんだよルーア」
急かすようにヒバニーが言ってくるが、どうやっても青い光が出てこない。
「な、何で?」
「えっ……『リライブ』出来ないの!?」
顔を青くする私を見て、チコリータが声を上げた。
一体何が起きたのだろう……まさか力を失ってしまったのだろうか?
「……」
「ま、待ってくれランクルス! 凶暴化を戻せるって話は嘘じゃなくて……」
依然として怪訝な表情をしているランクルスへ弁明するヒバニー。
「ううん、疑ってはないよ」
彼女は首を横に振ると、視線をキャタピーに向ける。
そして。
「えいっ」
彼に向け一つのタネが投げられる。
あれは……『プチふっかつのタネ』。
「えっ!?」
私が驚く間にそのタネは効力を発揮し、キャタピーを回復させた。
「……む」
キャタピーは目を覚ますとその双眸で私達の姿を確認。
「侵入者さん、さっきはよくもやったです。覚悟するです」
そう言いながら再び襲って来るキャタピー。そしてその身体が突如宙に浮いた。
「なるほどね」
「離すですー」
ゲル状の大きな腕でキャタピーを持ち上げるランクルスは難しそうな表情をして呟く。
「ルーア、どうしたんだ……? 凶暴化、解けなくなっちまったのか?」
「う、あ……」
敵意を失っていないキャタピーを見上げて私は身体を震わせた。
(どうしていきなり力が無くなって……。自分に甘えてたせいで……?)
「落ち着いて、原因はルーアじゃないよ」
こんな状況であるのに一切慌てていないランクルスはキャタピーを見つめたままだ。
「この子、凶暴化してない」
「……は?」
ヒバニーが唖然として声を漏らす。私もチコリータも同じだ。凶暴化していないのなら私達を侵入者と呼んで攻撃を仕掛けてくる訳がない筈だ。
「さっき取り付けたのはポケモンの状態が確認出来る、ダンジョンから出土した道具。凶暴化してるポケモンだと独特な歪みが検出されるんだけどこの子にはそれが無かったんだ」
しかしランクルスは凶暴化していないことを証明するように語った。
「あなた、何歳かな?」
「一歳ですー、離すですー」
突然謎の質問を投げかけられたキャタピーはランクルスの手から逃れようと今も藻掻いている。
「ここがダンジョン『椰子の木ビーチ』と化したのは一年半前。この子はそれより後に凶暴化ポケモン達の間で生まれたみたいだね。どういう意味だと思う?」
「え、凶暴化ポケモン達の間で……凶暴化が遺伝した……?」
「でも『リライブ』が効かなかったぞ。遺伝する中で更に厄介になっちまったとか……」
二匹が顔を見合わせて答えを模索するが、私の頭の中に嫌な回答が浮かんでしまう。
「……凶暴化してない子供を、凶暴化した親が教育した……"ダンジョンの外から来た存在は敵だ"って……」
声を震わせて答える私に対し、ランクルスは頷く。
「今の今まで私も凶暴化は遺伝するものだって思ってたよ……親たちと同じように外から来た私達を攻撃して来るからね。だけどまさかこんなタイミングで真実を知ることになるなんてね」
「え、遺伝しないならいいんじゃないのか?」
「それだけならね。でもルーアが言った通りこの子みたいな凶暴化ポケモン達の子供は親からの教育により歪んだ価値観を植え付けられてるんだ」
更に年月が経ち凶暴化したポケモンが天寿を全うしたとしても、子孫たちには脈々と歪んだ価値観が受け継がれていく。そして『リライブ』では解除しようがない溝が、ダンジョン内外でどんどん生まれる……。
「ねえ。外から来たポケモンは悪者だって、誰から教わったのかな?」
「パパとママです、侵入者さん、離すです」
「このままじゃこの子が成体になった時、自分の子供へ同じような教育をしちゃうんだろうね」
物憂げな表情をしてキャタピーを見上げるランクルス。
「……パパとママ、呼んでくれないかな? 私達、お話したいんだよね」
「うわーん、パパー、ママー! キャタピー虐められたです」
ランクルスに解放されたキャタピーは泣きながらダンジョンの奥へ去って行く。
(……これって、つまり?)
最低限町に住んでいてダンジョン化に巻き込まれたポケモンを『リライブ』すれば良いのかと思っていた。ダンジョンに住むポケモンと町に住むポケモンで一応住み分けはしていたのだから。
しかし実際は、ダンジョンに住むポケモンも全て元に戻さなければ、将来的にこの世界は争い塗れになってしまうのではないのだろうか? 凶暴化ポケモンはダンジョンを守るという意思に呑まれて行動しているが、彼らの教育を受けたポケモンは外のポケモンが悪者だと教えられるのだから……。
(それじゃあ私が死に物狂いで世界中のダンジョンを回らないと……!)
「ルーア、落ち着いて。何のために研究に協力してるか思い出すのよ」
「っ!」
汗だくになっていた私を呼びかけるチコリータ。
「ルーアだけじゃなくて皆が『リライブ』出来るようになれば、悲しい価値観が受け継がれるなんて災厄はすぐに抑えられるさ!」
そしてヒバニーも頼もしい笑みを浮かべて私を勇気づけて来る。
「……うんっ」
そんな『ゆけゆけズ』の姿に、私は涙を零しながら頷いた。
「お前達だな、俺達の息子を虐めたのは!」
「いじめは絶対に許しません!」
その直後、木々の間から怒りに満ちた表情を浮かべるポケモン達が出現。先程逃げて行ったキャタピーの両親、バタフリーだ。
「来たな……!」
二匹の凶暴化バタフリーを前に、『ゆけゆけズ』が立ち塞がる。
「『ねむりごな』!」
「『しびれごな』!」
「っ!!」
バタフリー達が状態異常を起こす粉を振り撒き始め、咄嗟に前に出たチコリータがそれを全て一身に受けた。
「大丈夫かチコ……じゃない、『ひのこ』!!」
「ぐおおっ!?」
彼女の心配をしそうになったヒバニーだが、即座に攻撃に転じて父バタフリーに炎を命中させる。
「……また叱る羽目にならなくて安心したわ」
そんな相棒に笑顔を向けるチコリータは全く粉の影響を受けておらずピンピンしていた。彼女はくさタイプであるため、粉や胞子による攻撃が通用しないのだ。
「おかえしよ、『どくのこな』!」
「ひいっ!?」
逆に母バタフリーはチコリータの振り撒いた粉で毒を浴びてしまい動きが鈍くなる。
「よくも妻を……! 『かぜおこし』!」
「……っ!」
怒り狂う父バタフリーの攻撃で弱点を突かれてしまうチコリータであるが、それだけで倒れる程彼女は軟ではない。常に上を目指し続ける救助隊『ゆけゆけズ』なのだ。
「『はっぱカッター』!」
「くさタイプの技など我々には……効か……?」
チコリータの放った葉の刃は嗤う父バタフリーの横を通り過ぎていく。
「よっしゃあ!」
葉の刃に飛び乗ったヒバニーは重心を動かしながら巧みに飛び回る。
「ね、『ねんりき』!」
母バタフリーが危険を察知し超能力で妨害を試みるがヒバニーは葉に乗ったまま華麗に回避した。
「『ひのこ』!」
そしてヒバニーが葉の刃を着火させ勢いよく蹴り飛ばす!
「がああっ!?」
父バタフリーは二匹の『レンケイ』を浴び、地面へと墜落。
「あなた……くうっ」
倒れた夫を助けようとする母バタフリーも毒が回りさらに動きを鈍くしていた。
「『でんこうせっか』!」
「『たいあたり』!」
そこへすかさずヒバニーが突撃して吹っ飛ばし、その先で待ち構えていたチコリータが追撃!
「かふっ……!」
二匹の活躍により、母バタフリーも限界を迎え目を回しながら地面に落ちるのであった。
「私の助けなしに倒すとは、見事だね『ゆけゆけズ』」
ランクルスはヒバニー達を称賛しながら二匹のバタフリーへ先程の道具を取りつけ始める。
「今度こそ情報を取れる筈。よろしくねルーア」
「うん……!」
私は不安を乗り越えてバタフリー達へと近付く。
そして二匹から発せられる青い光……無事に『リライブ』が出来たようだ。
「おおっ…歪みが減っていく減っていく……! ほうほう!?」
興奮した様子で手元の道具を見つめるランクルスの隣でバタフリー達が目を覚まし出す。
「ううん……?」
「あ、あれ、私達は……」
バタフリー夫婦は私達を見つめると、怪訝そうに首を捻りだした。
「どういうことだ……? 余所者を見ても苛立たないぞ……」
「そもそもどうして私達は外から来た方々を侵入者だと……」
「パパー、ママー! 早くキャタピー虐めた侵入者さんを倒してです!」
そんな夫婦の元へ息子のキャタピーがノロノロとやって来る。
「あなた達二匹は凶暴化してたのよ」
「凶暴化だと……まさか俺達が……!?」
「一応聞くけど、もしかして子供に外のポケモンは悪者だって教えちゃってないか?」
「……そ、そんな! ああ、ごめんなさいキャタピー! ママとパパが間違ってたわ!」
「ど、どういうことです?」
目を白黒させるキャタピーに謝りながら抱き着くバタフリー。この様子なら彼らはもう大丈夫だろう。
「興味深いデータが取れたね」
そしてランクルスも頷きながらバタフリー達から道具を取り外した。
「何か分かった?」
「うん。凶暴化から解放されると同時に、バタフリー達の体内にあった『ダンジョンのエネルギー』が抜けて行ったよ」
「ダンジョンのエネルギーって……『預かりボックス』とかに注入するアレか?」
「その通り。ダンジョン化と同時にポケモンが凶暴化しちゃうのはエネルギーが体内に入っちゃうからみたいだね」
凶暴化の原因……まさかダンジョンで生成される道具に含まれるエネルギーと密接に関わっていたなんて。
「それはダンジョンが生成した道具……きのみとか食べるのはマズいって意味?」
「ううん、ダンジョンのエネルギーには良いものと悪いものがあるんだよ。道具を生成するのが良いエネルギー、ワナを生成するのが悪いエネルギー。そして今回分かったのは後者のエネルギーは凶暴化を発生させる要因でもあったことなんだ」
ランクルスにより明かされる数々の真実。
「じゃあ『リライブ』は悪いエネルギーを消してしまう力って訳か?」
「そう取ってもいいけど厳密にはさっきも言った通り、あくまでも抜けて行っただけ」
「それは……空気中に流れ出て行ったって事よね。大丈夫なの?」
「これまで何度も『リライブ』して来て他のポケモンが凶暴化することは無かったんだよね。なら大丈夫じゃないかな」
ずっと分からなかった『リライブ』の仕組み。それはポケモンの体内に滞留している悪いエネルギーを抜き取るものだったのだ。
「……分かったぜ! 凶暴化ポケモンを『エネルギー変換の壺』にぶち込めばエネルギーが抜けて元に戻るって訳だ!」
「駄目! それは怖い! あの壺に入った道具は消えるから、もしかしたらポケモンも消えるかもしれないよ!? とりあえず取っ掛かりは出来たから研究させて!」
「た、確かに……それじゃあひとまず今回の調査は完了でいいのよね?」
「そういう事! 私としてはもう帰ってもいいけど、どうする?」
荷物の中に道具をしまいながらランクルスが尋ねてくる。確かに当初の目的は終えたが、町から来たポケモンとは出会ていない状態。
「俺は奥に行きたいかな。折角ここまで来たんだし」
「あたしも同意よ、ルーアは?」
「……私も。もしかしたら町のポケモンとも会えるかもしれない」
「んじゃ三対一で私の負けだね。このまま奥まで行こう!」
私達は次の行動を決定すると早速移動を始めようとする。
「その、お前達。俺達を凶暴化から解いてくれた事、感謝する」
それを呼び止めたのはバタフリー達だった。
「……不躾であることは重々承知しているのですが……この海岸を進まれる間、私達も連れて行っては頂けませんか?」
「こっちに侵入者がいるって?」
「ああ、早く来てくれ」
「この海岸を荒らす悪い奴は倒さないとね」
「ご協力お願いします」
バタフリー達に案内され姿を現す凶暴化ポケモン達。
「……っ!?」
しかし凶暴化ポケモン達は唐突に苦しみ始め、動きを鈍らせた。
「すまないな」
「よしっ」
「行くわよ」
案内する最中、バタフリーがこっそり『しびれごな』を撒いていたのだ。そして彼らの合図で茂みから飛び出した『ゆけゆけズ』が動けない相手を次々に撃破していく。
「……だいぶ元に戻したんじゃないのか?」
ヒバニーがその場に座り込み、疲れ切った表情で呟く。
「二十匹ぐらい凶暴化から解放されたね」
「海岸に住む仲間達の一割ほどが元に戻りました。ありがとうございます」
「これぐらい多くの者が凶暴化から解放されていれば子供たちへの悪影響も多少は抑えられそうだ」
多くの仲間が凶暴化から戻った事実にバタフリー達は嬉しそうにしていた。
彼らの要求はこの地で暮らす仲間達を出来るだけ多く戻して欲しい、ということ。その為の協力は惜しまないとのことで、こうして凶暴化ポケモンを連れて来ては動きを止める形でサポートしてくれたのだ。
「まさか残り九割も元に戻せって言わないわよね……?」
「いえ、今はこれだけ元に戻れば充分です。まだ凶暴化している仲間達、そして価値観を歪ませてしまった子供たちとどう向き合うか話し合えそうですから」
『リライブ』を受けたポケモン自身は凶暴化から解放されるが、だからといって全てが元通りという訳ではない。ダンジョン化した住処でどう生きるか、交流断絶となってしまった外部とどうやって関係修復するか、まだ凶暴化している仲間とどう向き合うのか……考えないといけないことが沢山ある。
「……」
「どうしたんだランクルス、難しい顔して」
「あー……うーんとね」
バタフリーの言葉を聞いてランクルスは何かを考えこんでいる様子であった。
「凶暴化ポケモンに敵だと認識される条件って何だろうな……って」
「ダンジョンの外から来たポケモン……じゃないの?」
「それが一般認識だけど…でも"ダンジョン化に巻き込まれた外から来たポケモン"は敵と認識されないってのが私は気になっててさ」
それは……例えば『清流森林』にいたエネコロロや『つめとぎ山』の巨大化に巻き込まれたヒバニー達の事だろうか?
ダンジョン化に巻き込まれた外のポケモンとダンジョン化した後に外から来たポケモン……その違いは凶暴化しているか否かの筈。そして凶暴化の原因は先程ランクルスが語っていた。
「ダンジョンエネルギーを体内に持ってるかどうか?」
「そう。凶暴化の原因がそれだと分かった時には、そこで敵か味方か判断されると思ったんだ。だけど元から凶暴化してないキャタピーや『リライブ』されたバタフリーも味方と認識されてる……。ダンジョンエネルギーが体外に出て行った筈なのに……」
「……だーっ! 小難しくて分かんねーっ!」
ランクルスの話を受けたヒバニーは頭を抱えて声を上げた。
「その辺はいいだろ! 『リライブ』しても仲間から襲われる訳じゃないならいいだろ!」
「ちょっとヒバニー……。ごめん、彼は難しい話が分からないの」
そう言って先に歩き出してしまう彼を咎めつつ、チコリータがランクルスに頭を下げる。
「いやいや、研究やってる私が調べるべき事項だから仕方ないよ。ヒバニーの意見も御尤もだしね」
ランクルスは苦笑して奥地を目指すヒバニーの背中を見つめた。
「……それに難しく考え過ぎてる時に、あんな感じにただただ一直線に素直な感情で動く仲間がいれば気持ちが楽になったり新しい知見を得られたりするんだ」
「……」
そして続けられる言葉を受け、チコリータも相棒の背中を見る。
「……それはそうだけど……逆はどうなのかしら。自分の燃え上がる感情を原動力に動いているのに仲間から難しい事言われたり理屈ばかり並べられたりしたら……」
「チコリータ……」
視線を落とす彼女の辛そうな表情を見て私はまたも心配な気持ちに。ヒバニーはもう気にしていないようだがチコリータは彼と喧嘩してしまったことをまだ引き摺っているように見えてしまう。
「心配な事でもあるの?」
「……ここに来る途中でアシマリってポケモンと会ったんだけど……。ヒバニー、あたしと話してる時よりも楽しそうにしてて……」
頭で考える事が多いチコリータと、心のままに夢を追いかけるアシマリ。感情を優先するヒバニーにとって相性がいいのはどちらか……。
「……どうだろうね、価値観が違う相手の事を理解するのは難しい事だから」
「……」
価値観の違う相手、それは例えば。
力ある者は苦しむ者を救うべきという価値観を持つエンペルトであり。
現状に満足せず、更なる高みを常に目指し続けるヒバニーとチコリータであり。
臆せず大勢のポケモンの前に出て幸せを振り撒くオオタチであり。
大事な相手がいて尚、沢山のポケモンを勇気づけようとするマホイップであり。
(……インテレオンだって、私とは価値観が違う)
悩んでいる相手がいるならすぐに助けたいと考える私と、敢えて手を出さず自力での解決を期待するインテレオン。それだけでなく趣味や休日の過ごし方、好物だって異なる。
だけど、私と彼は一緒にいる。
価値観が違っていても、私は彼の事を大事に思っているのだから。
だから、チコリータとヒバニーもきっと……。
「ここが奥地か?」
「ああ」
ヒバニーの問いかけにバタフリーが頷く。
周囲が椰子の木々で覆われた小さな入り江。海の向こうでは夕日が輝いており、その美しさに私は思わずため息をついた。『サマーリゾート』の海岸も絶景であったがこの入り江も負けていない。一つ残念なのは何故か小型のスコップが放置されていること……ダンジョンの生成物だろうか。
「こうして穏やかな気分で海を眺められるのも久しぶりです」
「そうね……凶暴化している間は苛々してしょうがないもの。あたし達も同じだったわ」
「えっ、チコリータ達凶暴化したことあるの?」
一同が感嘆していると、ランクルスが目を丸くして尋ねて来た。
「恥ずかしながらね。ダンジョン巨大化に巻き込まれちゃったのよ」
「ほう……ん?」
彼女は興味深げにチコリータとヒバニーを見ていたが、何かに気付いたようで視線を動かす。
「おらおらーっ!」「侵入者めーっ!」「なっすぃー!」
耳をすますと、複数の騒ぎ声が段々と近付いて来ていた。
「危ないっ!」
「うわっ!?」
バタフリーが私を押し倒した直後、球状の物体が頭上を飛んでいく。砂まみれになりながら声のする方向を見るとそこには椰子の木のような姿をしたポケモン、ナッシーがいた。椰子の実のような複数の頭がいずれも怒りの視線を私達へ向けて来ている。
「お前ら何故ーっ!」「そいつらの味方をしてるーっ!?」「なっすぃー!」
「ナッシーさん……あなたは凶暴化しているんです!」
一斉に騒ぐナッシーに対しバタフリーが呼びかけた。
「何を言ってるーっ!」「さては洗脳されたかーっ!?」「なっすぃー!」
しかしナッシーはそれを一切聞き入れず、『たまなげ』で沢山の球を投げつけてくる!
「うあっ!?」
「ぐへっ!」
その数は多く、私もポケモン達も回避できず次々と被弾してしまう。起き上がったばかりなのに再び転倒してしまった私の身体に、砂浜に刺さっていた小型のスコップがぶつかる。
(スコップ……持たなきゃ……)
「……二匹とも、ナッシーの相手は私がやっていい?」
向かって来た球を全てキャッチしたランクルスが構えつつ尋ねた。
「何言ってんだ! 俺達がやるって……」
「待ってヒバニー!」
立ち上がりながら提案を拒もうとするヒバニーだがチコリータが呼び止める。
「ふ、ふあ……?」
『ゆけゆけズ』はスコップの持ち手に股間を下ろそうとしていた私に視線を向けて来た。しかし私の腰の動きは止まらず、膣内に持ち手を突っ込んでしまう。
「あうううっ♡!」
「何やってんだ!?」
目を白黒させるヒバニーを無視して私は腰を必死に動かしてスコップを使う。砂を集め砂山を作り……。
「ははははは、私の身体が作られていく!」
そして砂山が意思を持ち動き出した!
(砂山……大きくしなきゃ……)
「ルーア、どうしたの!? さてはあなたの仕業ね!?」
「私はスナバァ! この変なポケモンは操り易くて、私の身体作りに丁度いい!」
よく分からないことを話しながらチコリータとスナバァが睨み合う。
「んあああっ♡」
その間にも砂山を大きくしなければならない私は、膣で咥えたスコップで必死に砂を集めていた。
「……スナバァって……あ! 確かあなたは町のポケモン!」
「私はここを守らないといけないんだ! そのためにもっと大きく強くなるんだ!」
ダンジョン化に巻き込まれ凶暴化したスナバァは少しずつ大きくなりながら二匹へ敵意を向ける。
「んひぃっ♡ んおおっ♡」
砂を掬い上げるとスコップが傾き持ち手が膣壁を擦り上げる。快感に悶えながら砂をスナバァに与えるとスコップの傾きが戻りまた膣壁が擦られた。
(ダメぇ、気持ちいいっ! もっと砂山大きくしないと……!)
「ルーアを戻さねえと……『ひのこ』!」
「むっ!」
ヒバニーの先制攻撃を喰らい、スナバァは呻き声を上げる。それと同時に砂が吹き飛んで砂山が小さくなってしまった……早く砂を戻さなければ。
「あうんっ♡ ああっ♡」
私は膣液を撒き散らしながら砂山を大きくし、スナバァが回復する。
「ははははは、効かないぞ」
「そんな……ルーア、砂を集めるのをやめて!」
喜ぶスナバァを見てチコリータが必死に言ってきた。
(あれ……チコリータ嫌がってる……ええと、砂山がまだ小さいから……?)
私は蕩けそうな快感の中もっと砂山を大きくするため、そして気持ちよくなるため腰を動かし続ける。
「んひゃあっ♡」
「だ、駄目だ! 完全に操られちまってる!」
「このっ! 『はっぱカッター』!」
「ふん」
飛んできた葉の刃はスナバァにぶつかるが刺さりもせず砂の上へ落下。
「ははははは、特性『みずがため』。私は濡れると硬くなるんだ」
私は膣で咥えているスコップを見下ろす。いつの間にか愛液で持ち手から先までびしょ濡れになっており、砂が掬い上げられるや否や湿って硬化していた。
「あああっ♡ 私のおつゆ入りの砂山ぁ♡」
砂遊びでこんな淫乱な砂山を作ってしまう自分のいやらしさにますます発情してしまう。
「硬くなるし回復するし……ルーアからスコップを取り上げないと!」
「よしっ、任せとけ!」
その脚力を活かしヒバニーが私向けて駆け出した。
が、それもスナバァの計算の内。
「かかったな、『すなじごく』!」
「うわあ!?」
ついに攻撃に移ったスナバァが小型の砂嵐を発生させ、ヒバニーを捕らえてしまう。
「ぐああっ!」
吹き荒れる大量の砂に襲われ、脱出することも出来ないヒバニーの悲鳴が響いた。
「ヒバニーっ! は、『はっぱカッター』!」
「ははははは、だから効かないぞ」
焦るチコリータは葉の刃を飛ばすが『みずがため』で強化されているスナバァには通用しない。
「おマンコで砂遊びしてるぅ……♡ 幼稚園児以下だよ私ぃ……♡」
まだ子供とはいえ学校では高学年であるのに砂遊び……しかもほぼ裸の格好で遊んでいるという事実にどんどん羞恥心が湧き上がってくる。
「……ヒバニーとルーアを解放しなさい! 『どくのこな』!」
力押しでは止められないと判断したか、チコリータは有毒性の粉をスナバァ目掛けて振り撒いた!
「!!」
「ぐわあっ!」
しかしスナバァは咄嗟に『すなじごく』を操り『どくのこな』を砂嵐の中に取り込む。当然中にいたヒバニーにも襲い掛かり毒に侵されてしまった。
「そ、そんなっ……そんなっ!?」
自分からヒバニーに毒を与えてしまい、チコリータが顔面を蒼白にさせる。
「あううっ♡ あひっおひっ♡」
そんな彼女らに意識を向けられず、私は全身を痙攣させ歓喜の涙を零しながらスナバァに砂を与えるばかり。
(も、もっと大きくしなきゃ……私の膣液入りの砂山……みんなに見て貰わなきゃ……)
「ははははは……お手上げか~?」
「……っ!」
自らがどんどん強化されることに喜びながらスナバァはチコリータへ砂嵐を見せつける。
「うっ……ううううっ……!」
技が何も通用しないどころかヒバニーを苦しめてしまったショックで彼女はその場に蹲って泣き出してしまった。私は砂山作りをしなければならないし、ヒバニーは『すなじごく』に囚われて動けない。完全にスナバァの独壇場である。
「チコリータぁ! 技がダメなら道具だ!! お前の頭でなんとかしてくれぇ!」
「っ!」
しかし、砂嵐の中からヒバニーの声が響く。泣いていたチコリータはハッとなると、すぐさまポーチをまさぐり始め一つの枝を取り出した。
「ふん」
しかしスナバァは枝から放たれた光弾を見ても動じていない。彼女は再び『すなじごく』を動かして枝の光弾をヒバニーに受け止めさせる。『こんらんのえだ』だろうと『しばりのえだ』だろうと、自分が受けなければ問題はないからだ。
「うわああああっ!?」
「っ!?」
そして枝の効果を受けて悲鳴を上げるヒバニー。しかしスナバァもまた驚愕していた。
光弾を受けたヒバニーが勢いよく吹っ飛び『すなじごく』の中から脱出したのだから。
「わああああっ!?」
その直後続けて放たれた光弾が私にぶつかり、同じく勢いよく吹き飛ばされる! 入り江の椰子の木にぶつかり痛みが走るがそれと同時にスコップが私の膣から抜け落ちた。
命中した相手を勢いよく吹き飛ばす枝……『ふきとばしのえだ』だ。あえてスナバァではなく仲間達に命中させることでスナバァの支配から解放させたのだ。
「う、ぐぐぐっ……」
スナバァのスコップに触れてしまったことで操られていた私は、呻きながら立ち上がる。自分のせいで『ゆけゆけズ』に苦戦させてしまったことへの申し訳なさで居たたまれない。
「私のスコップ返せ!」
そんな私の元へまっすぐ向かって来るスナバァ。彼女らスナバァという種族にとってスコップは非常に大事な道具故に、弱ったヒバニーに追撃するよりも優先するべき事項なのだ。
「ぎゃっ!?」
その隙を逃さないチコリータが『いしのつぶて』を何度もスナバァへぶつける。ただの石ではなくダンジョンで生成された道具故に、『みずがため』で強化されたスナバァへも確実にダメージを蓄積させていた。一撃の威力は低いものの私が解放されている状態では回復も出来ず、どんどん体力を削る。
「このおっ!」
しかしスナバァは私とスコップのすぐ傍まで迫ってきており、また操られでもしたら台無しに……!
「ルーア! スコップを飛ばして!!」
「!」
チコリータの指示を受けた私は足を振りかぶり、勢いよく蹴り飛ばした! 素足であったら痛い思いをしていただろうと、ブーツを履いていることに心の中で安堵。
「私のスコップー!」
スコップはスナバァを飛び越え入り江の波打ち際に落ち、持ち主はまたも一心不乱に追いかける。
そしてその先に立つズタボロのヒバニー。彼は今にも倒れそうな身体に鞭を打って跳び上がると足先に炎を収束させ始める。特性『もうか』により勢いを増し業火となった。
しかし、燃え盛り勢いづいている筈のその炎は風前の灯火のようにも見えてしまう。
「……『ひのこ』っ!!!」
「ひょええっ!?」
スコップしか見ていなかったスナバァは待ち伏せていたヒバニーに気付かず、至近距離から炎を浴びたのであった。
「はぁ、はぁ……」
目を回して倒れ伏すスナバァの前で、ヒバニーは荒く息をする。私は彼らの元へ急いで駆け寄りつつスナバァを『リライブ』。近くで見るとヒバニーの白い毛並みは砂で汚れており、かなりボロボロだ。
そう言えばと思いランクルスやバタフリー夫婦の方を確認すると無事に彼女らもナッシーを撃破したらしい。後で『リライブ』するため向かわなくては。
「ヒバニー!!」
そしてチコリータも彼の元へ駆けつけポーチから『モモンのみ』と『オレンのみ』を取り出す。
「ありがとな、チコリータ……」
心配そうな表情を浮かべる彼女に対し、ヒバニーはニコリと笑顔を見せて手を伸ばした。
だが彼の手はきのみへは届かず。
「……え?」
小さな身体が倒れ、砂煙が舞い上がった。