『サマーリゾート』の繁華街からやや離れた区画に建つ『キュワワー医療所』。色とりどりの花で飾り付けられた建物とは対照的に、部屋には重い空気が漂っている。
私達の視線の先には深い眠りについているヒバニーがいた。
「どうやら無理をし過ぎたようですね」
「無理を……具体的には?」
容態の検査を済ませたキュワワーに対し尋ねるインテレオン。
「はい。ダメージが重なり過ぎ、本来なら倒れる状態で無理矢理行動しわざを発動したことです。加えて『ひのこ』のわざパワーが尽きていたのに限界を超えて使用したことも影響の一つでしょう」
『椰子の木ビーチ』での凶暴化スナバァとの戦いにて激しいダメージを負ったことがここまでになるなんて。しかも奥地へ辿り着く前にも多くの凶暴化ポケモンと戦ったことで、わざの使用可能回数も尽きてしまっていたようだ。
「全治まではどれぐらいかな」
「……遅くとも一週間ぐらいで普通の生活は出来るようになるでしょう」
私はキュワワーの回答に一瞬安堵するが、その言い回しに引っ掛かりを覚えた。
「普通の生活"は"? まさかとは思うけれど、何か後遺症でも……」
インテレオンもそれを感じ取ったらしく続けて質問を投げかけるが、キュワワーは重々しい表情を浮かべてゆっくりと口を開く。
「今後の救助隊としての活動に支障が出る可能性があります。具体的には……今回無理に繰り出した『ひのこ』が使えない…よしんば使えたとしても威力や使用限度が大きく落ちる可能性も」
「……」
私もチコリータも何も言えず沈黙する。
救助隊としての活動に支障。
あまりにも絶望的な答えだ。
「……どうにかならないのか?」
「私達も最善を尽くしますが、最終的には彼自身の回復力に祈るしかありません」
インテレオン達が話す中、私は再度ヒバニーへと視線を向ける。砂と毒によるダメージが抜けきっていないのか、安らかな寝顔とは言い辛い表情で眠っていた。
「おや、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
星空が空を覆いつくす頃になってコテージへ繋がる橋へと戻った私達をマホイップが出迎える。
「ヒバニーはどうでしたの?」
「ええと…」
「…私、先に休ませて貰うわね……」
尋ねられたインテレオンが私達へチラリと気遣うような視線を向けるが、チコリータはそれだけ言い残して自らのコテージへ入って行ってしまう。
「……インテレオン、話…お願いしていい?」
「……ああ、任せてよ」
そして私もまた、酷く疲れた気分になりながらコテージへと向かった。
暗いコテージ内を重い足取りで進み、私は寝床へと倒れ込む。
(……私のせいだ)
ヒバニーがあそこまでボロボロになり、挙句の果てに後遺症が残る可能性まで出て来るなんて。
(私が操られたりしたから…!)
浜辺にスコップがある時点で不自然さに気付いておくべきだった……操られたままスナバァを強化しヒバニー達を苦戦させる直接の原因を作ってしまったのだ。
(それにヒバニーが疲労してたのも…沢山の凶暴化ポケモンと戦わせたから…!)
私自身は『リライブ』を行っても何も疲労しないけれど、そのために凶暴化ポケモンを倒さなければならないヒバニー達は疲れ切っていたのだ。
(ランクルスの『リライブ』研究が早く進めば私の負担が早く減るって焦って…結局ヒバニー達に負担を強いて彼らに甘えて…!)
「うう…っ」
後悔の念ばかりが湧いて出て、私は震えながら涙でシーツを濡らす。
『ヒバニーは救助隊をやっていて幸せなのか』。
チコリータの言葉が再び胸中をよぎる。
(…どうしよう、私のせいで『ゆけゆけズ』がバラバラになっちゃうかも…)
今回の件はチコリータも相当参ってしまっているようであったし、これ以上ヒバニーに辛い思いをさせるならばと、別れる選択をしてしまうかもしれない。
私を助けてくれた『ゆけゆけズ』が私のせいで解散だなんて、絶対に嫌だ。どうにか阻止しなければならないがどうすれば良い?
チコリータに伝えるのだろうか、私のせいだから気にするなと、これからも力を貸してくれと。
(……そんな能天気な事、言えないよ……!)
彼女らが私の身勝手に力を貸した結果がこれなのに、そんな発言をして元気付けようだなんておこがましすぎる。それに、もしヒバニーが今後救助活動を出来なくなったらチーム解散を止める事は不可能だ。
(私が原因なのに…私には何も出来ないんだ…!)
「ぐすっ……」
小さな嗚咽が私独りだけのコテージ内に広がり、消える。
ブブブブブ…。
そんな静寂な空間故に、ずっと鳴り続けていた小さなバイブ音が存在感を示し出した。
(こんな…こんな時にまで…!)
バイブ音だけでなくその振動にまで意識を向けてしまった私は必死に抵抗する。ヒバニーが倒れている状態であるというのにオナニーなんてやっている場合ではない…!
逃げたい、オナニーして嫌なことは忘れたい。
「違うぅ……っ♡!!」
本能の叫びに対し私は声を上げて拒絶する。しかしその声は発情してしまっており性欲もどんどん高まるばかり。
「逃げてばっかじゃ……んうっ♡ 駄目、なのぉ……♡!」
口ではそんな風に言うが身体は性欲に耐えられておらず、海老反りの体勢になりガクガクと股間を床に押し付けてしまっている。私の理性に反して愛液も垂れておりコテージのシーツを汚していた。
「……ルーア、起きてるかい?」
「っ♡!?」
その時、インテレオンの声が入り口から聞こえてくる。急いで床オナを止めて返事をしたいが、本能がそれを妨害し床が擦れる音と喘ぎ声を響かせてしまった。
「んっ♡ んっ♡」
「……どうかした? もしかして具合が…」
心配気にインテレオンが私のコテージに入ってきてしまい、発情して自慰をしている私と目が合う。
「……な、ルーア…こんな時に何を…」
「……っ!!」
そしてショックを受けたような顔をするインテレオン。
当然だ。
ヒバニーが倒れた直後だというのに、私は早々にコテージに戻ってオナニーで楽しんでいたのだから。
「……っ、それ程までなのか? 仲間が倒れていても尚、衝動を抑えられないのかい……?」
「うっ……、ああっ……♡」
悲しそうな顔を向けられ、私は発情したまま涙を零す。
早くインテレオン!私を犯して、気持ちよくして……!
(違うぅぅ!! 黙ってぇぇ!!)
性欲に狂う本能を私は必死に抑え付け、身体を震わせた。
毎日性交をしていると彼に疲労を溜めてしまうのだ、昨日セックスしたばかりだというのに今日まで彼を求めようものなら……!
(私のせいで……ヒバニーだけじゃなくてインテレオンまで倒れちゃう……!!)
「僕がキミの望みを果たせないからか……? 毎日は相手できないって一方的に要求したからキミは……」
「うぐぅ♡ くぅぅぅ♡」
今すぐにでも欲情を消し去らないといけないのに、彼の言葉を聞くたびにますます子宮が疼いてしまう。
「……分かったよ、キミの苦しみを解消できるなら……」
ああっ! 早く早く! いっぱい犯して! 私を幸せに……!
「いらない!! 帰って!!」
「!?」
私は目を見開き、怒鳴り声を上げた。
「で、でも……」
彼が困惑するのも当たり前だろう……眉を吊り上げる私の顔は涙と汗と涎でぐちゃぐちゃであり、愛液を垂れ流しながら情けなく身体をビクビク痙攣させている。
「ぐすっ……! 私はこんな時にまで発情する淫乱じゃないもん!! えぐっ……! 毎日やらなくたって我慢できるもん!!」
インテレオンを苦しめたくない…そしてまた失敗するのが怖いという一心で、私は必死に彼を拒絶。
「早く!」
助けて。
「帰って!!」
「……っ」
泣き叫ぶ私を前に、インテレオンは視線を落とし沈黙。
「……うん、そうするよ。また明日、ルーア…おやすみ」
「……」
彼は力無く答えるとコテージから去って行き、私は何も返事をすることは無かった。
再びの静寂……海水の音とバイブの音が微かに聞こえる。
「……」
これでいいのだ、インテレオンの体力を奪わずに済んだのだから。
「あっ♡ ……ううっ……!」
襲い掛かる性欲と孤独。
得られた筈の……欲しかった筈のインテレオンの温もりを払い除けたことへの後悔。
「ぐすっ……! あうっ♡ ひくっ……! んうっ♡」
快感欲しさに私は寝床で泣きながらのたうち回る。
しかしここには私独りしかおらず、この欲情を解消することは出来ない。
そして、心の痛みを打ち明ける事も出来ない。
(苦しい、苦しい、苦しい……!)
「うああああっ……!うええええん……!」
朝の陽射しが海を照らす。今日も『サマーリゾート』は快晴、夜間に下がった気温もぐんぐん上がるだろう。
「……う、ぐっ…♡」
そんな中、虚ろな瞳で呻く私。あれからずっと眠れないまま性欲と孤独に抗い続けていたのだ。
「……ルーア、起きていまして?」
「……っ」
コテージの入口からマホイップの声が聞こえてくる。
「朝ご飯、行きませんこと?」
「……いい」
「…分かりましたわ、ではここにグミ置いておきますのでお腹がすいたら召し上がって下さいな」
誘いを断ると、彼女は予想していたのか食事を玄関近くに置いた。
「それと、今日も私達とインテレオンさんは会談がありますわ。何かあれば『カプ・コケコのギルド』のギルド長室に来て下さいまし」
「……うん」
マホイップが去って行き、再びコテージ内を静寂が包み出す。
それと同時に感じる空腹……昨日は夕食を取っていなかった。それに酷く喉が渇く。
このまま寝床で倒れていたら飢餓と脱水で危険だろうと感じ、玄関に置かれていたきのみジュースとグミへと歩み寄った。コテージの奥へ運び込むのも億劫に感じた私は、扉のない玄関で這いつくばる。
「……ん…♡」
インテレオン達がいないのならと、私は周りの目も気にせず意地汚くきのみジュースに舌をつけピチャピチャと水分補給をしだした。もう完全に人間とはかけ離れた行為であり、惨めさのあまり心臓が高鳴ってしまう。
「あれ?」
そんな朝食を暫く続けていると、不意に何者かの声が聞こえた。
「っ!?」
跳ねる様に顔を上げる私。誰も来ないと完全に油断しており、惨めな姿を晒してしまった…!
「おはようルーア! 朝ご飯中だった?」
コテージ同士を繋ぐ橋にいるのはアシマリだ。変わらぬ明るさで挨拶して来る。
「……えっと、何か用事?」
「うんっ。ルーアとチコリータを誘って町に遊び行こうと思って」
ヒバニーの名前を出さないという事は、彼が今治療を受けていることは知っている筈……。
「遊びって…ヒバニーが倒れてるのに…」
「いいからいいから!」
「ぐむっ!?」
私はそれを断ろうとするがアシマリは無理矢理グミを私の口へ突っ込んで朝食を再開させる。
昇り始めた日に照らされる『サマーリゾート』の繁華街。ポケモン達は今日も元気そうで町は大いに賑わっている。
「全く…なんなのよ」
周りの雰囲気とは真逆に重い表情でぼやくチコリータ。私も彼女と同じ気分だ。結局アシマリの手で強制的に町まで連れ出されてしまったのだ。
「せっかく『サマーリゾート』まで来てくれたんだもんっ、ポケモンコンテスト以外の見所も満喫して行って貰わないとね!」
当のアシマリは私達の気分を読み取っていないのか、ずんずんと町の中を進んでいく。
「……どうしよう?」
「面倒だけどここまで来たからにはしょうがないわね……」
呆れた表情のチコリータと目を合わせ、とりあえずはアシマリに従う事に決定。町で行動するのであれば、帰ろうと思えばすぐに帰れるだろう。
「まずはここで遊ぼう! 『おたからサルベージ』!」
紹介するアシマリの傍には池のような設備と店主らしきスターミーが。
「お宝しゅばっ! お宝サルベージ!! しゅばっ!」
なぞのポケモンスターミーは謎のポーズを取りながら紹介をする。
「サルベージ……この池の中に潜るの?」
チコリータが池を覗き込むのに続いて私も見てみるが、その深さはかなりのものだ。水中の中にはチラホラと何かが漂っているのも見受けられた。
「はい、その通りです! このプールの中へ潜ってお宝ゲットを目指す施設でございます、しゅばっ!」
「なかなかいいお宝も手に入るんだよね! 私もよく利用してるよ!」
「いやいや! あなた達はみずタイプだからいいけどあたしは潜水なんて無理よ!?」
楽しそうに語るスターミーとアシマリに対してチコリータが苛立ち顔で言う。私も潜水どころか泳ぎすら出来ないのでここを利用するのは出来ないだろう。
「大丈夫です、潜水できない方もワタシの得意技『ダイビング』でサポートしますので!」
『ダイビング』……元の世界でも聞いたことがある。なんでもホウエン地方のポケモントレーナーはその技をポケモンに使用させることで自らも水中で活動できるようになるとか。目の前にいるスターミーもそれと同等の技術を持っているのだろう。
「それにそれに。『サマーリゾート』近辺には水中のダンジョンもあるから練習にもなってお宝も手に入るんだから一石二鳥だよ!」
「……」
笑顔で語るアシマリだが、それを聞いたチコリータは視線を逸らす。それは当然である……今後救助隊としての活動ができるかどうかすら怪しい状態なのだから。
「……じゃあ、やってみる」
仕方なくまず私が挑戦してみる事に。記憶が正しければ昨日見せられた依頼書の山の中に海中のダンジョンが目的地のものもあった筈だ。全然泳げなくてインテレオン達の足を引っ張るような真似はしたくない。
「しゅばっ、分かりました! では『ダイビング』追加料金を合わせまして……」
「私が払うよー、ルーア頑張ってね!」
アシマリが応援して来るが、池の淵に立つとその深さが目に入り緊張してしまう。本当に大丈夫なのだろうか、溺れたりしてしまわないかと不安も湧いて来た。
「では行ってらっしゃいませ、『ダイビング』しゅばっ!」
「ぶふうっ!?」
高速回転しながら私の後ろからスターミーが迫り、なんとそのまま池の中へ突き落とされる!
激しい水飛沫を上げてゴボゴボゴボという泡の音が耳を支配。
(お、溺れる…っ)
突然の事に目を白黒させつつ、私は慌てて水面に上がろうとするが逆にどんどん沈むばかり。腕が使えない上にブーツが重くて脚も上手く動かせない…これでは泳ぐことなんて不可能だ。
「ぶはあっ!」
息苦しくなりついに私の口から大量の泡が…出ない。
(あ、あれ……呼吸ができる…)
よくよく考えてみれば鼻や耳に水が入ってくる様子も無いし、ゴーグルも無いのに目も普通に開けた。どうやらこれが『ダイビング』の効果のようだ。
ビックリはしたが、確かにこれなら水中でも活動は出来そうである。視線を下に向けると何かが漂っているのが見えた。まず目につくのが黄色いガラス玉のような物体…『ふしぎだま』のようにも見えるしおそらくこれが宝なのだろう。
「うぐ…よいしょっ…」
身体がゆっくり沈んでいく中、水中での動きにくさに苦労しながら私はどうにかそのガラス玉へと近付き、太腿で挟み込む。これでお宝の入手が…。
刹那、ガラス玉から電流が走る!
「ふぎゃああああっ!?」
いきなりのことに私は悲鳴を上げ大きく仰け反った! 身体中に電撃を受けビクンビクンと痙攣してしまう。弱い電力なのか痛みまでは走らないものの…。
「ひいいいっ♡♡!?」
電気で活性化してしまったのか、膣内のバイブが振動を強くし始めた。『スプリングタウン』でマイナンとプラスルにマッサージされた時と同じだ…!
水中で快楽に襲われるのはマズイと、私は謎の電気ガラス玉を離そうとする…が。
「……っ!?」
太腿を開いてもガラス玉はそこには無い。しかし私の身体には依然として電流が流れている。そしてビリビリを一番強く感じる部分は……股間。
「う、嘘おおぉぉ♡♡!?」
最悪な事に電流を受けたショックでガラス玉を強く挟むことが出来ず、膣内に入り込んでしまったのだ。
「そんなああっ♡!? ああああっ♡!!」
電撃と強振動のバイブに襲われ、私は嬌声を上げながらどんどん水底へと沈んでいく。そしてその先には別のガラス玉が幾つも漂っていた。
「ちょ……待って…♡!」
このままではまたぶつかってしまうのだが、今の私はまともに動くことが出来ない。成す術も無く身体にガラス玉が当たってしまい……。
「ふああああっ♡♡!?」
更なる電流を浴びせかけられ、私は絶叫を上げる。膣内のガラス玉との相乗効果で電気の強さが不規則にうねり、バイブもまた予測不能な振動を行った。
「あはあっ♡ き、気持ちいいっ……♡」
避けることすら出来ないガラス玉がぶつかる度に電撃が強まり、私は恍惚の表情を浮かべる。
「わっ、私……こんな滅茶苦茶なオナニー初めてだよぉぉ♡♡!!」
そもそも潜水自体初めてなのに更に手錠を掛けて電撃受けながらなんてどうにかなってしまいそうだ。事実、水中の移動がままならないのに腰だけは快楽で勝手に上下している。
「ひぎぃ……♡ も、もうイキそう……っ!」
ただただ池の底へ沈んでいくだけで何一つできないまま、ついに限界が訪れた。苦しい電撃と気持ちいい快感を受け入れながら私は一際大きく仰け反った!
「んおおおおおっ♡♡♡!!!」
池を満たす水に自らの膣液を混ぜながら私は絶頂するのであった。
「しゅばっ! お宝ゲットならず……今回は残念でしたね。次回の挑戦をお待ちしています!」
「あ…あ……あひ……♡ はぁ、はぁ……♡」
「ちょ、ちょっと!? 何があったの!?」
池の中から引き上げられ、倒れたままヒクヒクする私を見てチコリータは顔を青くする。
「あれ、言わなかったっけ? 練習になるって。だから宝だけじゃなくて岩石とか電気が流れる玉とかの障害物もあるんだよ」
「な、何よそれ!?」
「しゅばっ! 苦難無く入手した宝に価値無し……なのかもしれませんね! 何せこのお宝を生むプールはダンジョンで出土した道具を使っていますから!」
そういうことは先に言って欲しかったと思いながらも、私は何も答えられない。
「次はチコリータがやる?」
「遠慮するわ!」
『おたからサルベージ』で酷い目に遭った私は続けて一つの店へと案内されていた。
「今度こそ大丈夫よね?」
「さっきのも楽しいんだよ? それはともかく……ここは『ハハコモリ織物店』。葉っぱの服だけじゃなくて色々な布製品を取り扱ってるんだ!」
アシマリに勧められるまま入店すると、中には彼女の言う通り様々な商品が陳列されている。カーペットや布団といった生活用品やスカーフやリボンなどのお洒落用品……。
「あらあら、アシマリちゃん。いらっしゃい」
おっとりとした笑顔で接客して来るのはここの店主であるハハコモリ。
「今日もコンテストに向けたリボンを探してるのかしら? それともオーダーメイド?」
「ううん、今日は『スプリングタウン』から来たお友達を連れて来たんだ」
「へっ?」
「おっ、お友達!?」
アシマリの友達という言葉に私とチコリータは大いに反応する。
「誰が友達よ! 無理矢理連れて来てるのに!」
「えー、嫌なの? こうして一緒に遊んだり買い物してるのに」
「……」
友達……。
私、こんな風に家族じゃない誰かと町を歩いて買い物したりなんて無かった……。
今……それをやれてるのかな?
「アシマリ……私、友達?」
「もちろん! 一緒に『鬼火草原』も乗り越えて伝説の祭壇も観光した仲だもんね!」
自信なく尋ねるとアシマリは底抜けに明るく答えた。
「もちろんチコリータもね!」
「勝手に決め……いや、それでいいわ……」
「あらあら、仲良しね。もしかしてようやく救助隊の仲間が出来たのかしら」
呆れるチコリータと顔を合わせるアシマリに対し、ハハコモリは笑顔のまま質問。
「ううん、単なる友達だよっ。それで何か似合いそうなもの無いかなって」
「品揃えには自信があるからゆっくり見て行って頂戴。試着も結構だしオーダーメイドも受けてるわ」
「ありがとーハハコモリさん」
そう言ってハハコモリは別の客への接客へ移る。よく見るとこの店には多くの客がおり繁盛しているようだ。店員も彼女だけでなく何匹ものクルマユやクルミルがおり、大規模な店らしい。
「チコリータの好きな色は?」
「いいわよ…買うにしてもパワーバンダナやモモンスカーフみたいな実用品がいいわ」
「任せて、このお店でも取り扱ってた筈……」
「ちょっと! だからって買ってくれって意味じゃ…!」
店の奥へ進むアシマリを止めようとチコリータも後を追っていく。
私も追わなければ、と思ったその時。
「あれれっ、ルーアちゃん?」
ふわふわした声が耳に届く。そこにいたのは可愛らしい顔と整えられた毛並みを持つポケモン……救助隊『エキサイト』の一員オオタチだ。首元のピンク色をしたリボンが彼女の魅力を更に上げている。
「どったのどったの? コンテストに興味出ちゃった?」
「ち、違うよ…アシマリに連れて来られて…」
笑顔で近付いてくる彼女に、私は答えつつ助けを求めようとするが既にチコリータもアシマリも店の奥へ行ってしまったようだ。
「なるほどー……んっ?」
私を眺めていたオオタチは私の足元に目を止める。何か落ちているのだろうかと思ったが、きちんと掃除された木の床があるだけでゴミなどは見つからない。
「ちょっとだけ触っていい?」
「え、触るって何を…」
「身体!」
「身体!?」
突然そんな要求をされて私は顔を赤くする。もしかして胸やお尻を触らせて欲しいのだろうか。こんな店内でエッチなスキンシップなど恥ずかしくてたまらない……。
「駄目かな?」
続けてオオタチはクリクリした目で私を見つけてくる。
「ど、どうぞ……」
その可愛らしさに抗えない私は思わず許可を出してしまった。どこを触るのだろうか、胸かお尻か、それともおへそ回りか背中か……あるいは股間……。
「ありがとー」
オオタチはそんな妄想をしている私へ近づくとブーツの先を触りだす。
「え、ちょ……」
「なるほどなるほどー」
そのまま彼女はサイハイソックスや首輪、手錠を順番に触れてきた。
「…これ、全部身体の部位なんだね」
「えっ!?」
「昨日ギルドで見た時はてっきり首とか手首とか脚を覆ってるのは全部装飾品でお洒落してるのかと思ってたけど……実際はエビワラーやサーナイトみたいに、そういう部位なんだよね?」
「……っ!?」
(今身に着けている物が全て体の部位……?)
ニコニコしながら確認して来るオオタチに対し、私は冷や汗を垂らす。
「うーん、残念。ニンゲンにお洒落の文化があれば色々聞きたかったのに」
以前も少し気にしてはいたものの、あまり考えないようにしていた……この世界に来る直前まで身に着けていたモノたち。まさか本当に私の身体と同化してしまったということだろうか。
(……じゃあ、やっぱりこの手錠とかはずっと外せなくて脱げなくて…)
そんなことを考えると再びいやらしい思いが滲み出てきてしまう。
「い、いひぃ……♡」
軽い気持ちで野外自縛露出をしたことで、まさか一生この格好をすることになるなんて。
(これからずっと……手錠と首輪なんて奴隷みたいな姿でポケモン達に囲まれたまま生きていくんだぁ……靴下もブーツも脱げなくて、バイブも取り出せなくてエッチな気分に囚われたままなんだぁ……)
「あれ、どったの?」
「な、なんでも、ないぃ♡」
自分の変態的な格好を見下ろしたまま私はどうにか返事を返す。見ると股間が愛液で濡れてしまっており、腰が勝手に左右に揺れていた。
「あわわ、引き摺らないでぇぇ」
「全く……悪いわねルーア、連れ戻してき……あなたは確かオオタチ?」
そんな時、アシマリを引き摺ったチコリータが姿を見せる。
「およ、チコリータちゃんだよね? 『エキサイト』のオオタチだよっ、よろしく!」
「……っ」
ずっとこの格好のままなら、元の世界に帰ったら友達なんて絶対に出来ないだろう。
誰からも気味悪がられて拒絶されるだろう。
「それより、もう装飾品はいいわよね?」
「むう…じゃあ次は一緒に何か食べようよ!」
「あ、折角だから私も連れてってー」
チコリータ達と共に店から出る私。
それなら……私は……。
「という訳で、これが『サマーリゾート』で流行りの『鬼かき氷』!」
「やっぱりこれだよね!」
「……」
「……」
炎天下の中、椰子の実をくりぬいて作られた器に盛られたかき氷を手にやってくるオオタチとアシマリ。青色のオレンシロップがかけられているだけならまだしも、オレンの果肉がオニゴーリの顔を描くかのように載せられており私からは不気味に見えてしまう。
「キーンとするねえ」
「……この町では氷を食べるの?」
「暑い時の氷は格別なんだよー」
美味しそうにかき氷を頬張るアシマリ達に続いて、私も恐る恐るテーブルに乗ったそれへと口を近づけた。
「……もぐ」
確かにこの暑さの中で冷えた物を摂取するのは良いものだ。味もそれほど悪く…。
「……」
そういえばこの世界に来てから数週間……ずっときのみや果物ばかり食べ続けている。たまにマラサダを食べる事もあったが、栄養が偏っているにも拘らず体の不調も現れていない。
(私の身体……この世界に適応しちゃったのかな…)
しかし味覚の方は元の世界から変化していないのか、無性に果実以外が恋しくなることも多い。『追放の遺跡』でイヴがパンやお菓子を食べていたしその点に関しては羨ましくて仕方ない。
「……ねえアシマリ」
「なに?」
その時、チコリータが真面目な顔になった。
「……どうしてあたし達を町に連れてきた訳?何か狙いでもあるの?」
疑うような視線と共に彼女は問いただす。ヒバニーの事を忘れて元気になれとでも言うのか、と聞きたそうに。
オオタチもまた、何も言わずアシマリを見つめる。
「うーん……」
問われたアシマリはしばらく視線を落とすものの、意を決したように頷くとチコリータと目を合わせた。
「狙いならあるよ。チコリータ達を元気付けたくて」
「……ああそう」
アシマリの回答に、やれやれといった様子で首を振るチコリータ。
「感謝するわ、コテージに閉じこもるよりはずっとマシだったろうから」
チコリータはそう言うとかき氷に口をつけず私達の前から去ろうとする。
「えっ、チコリータ……」
「やっぱりあたしよりアシマリの方が気が回るし……ヒバニーだって波長の合う相手の方が…」
私に顔を向けたチコリータが言う。とても、とても悲しそうな笑みを浮かべて。
彼女はもう限界なのだろうか。
ヒバニーと喧嘩してしまったこと。
アシマリを責めた時にヒバニーが彼女を庇ったこと。
ヒバニーがアシマリと仲良さそうにしていたこと。
ヒバニーに毒を浴びせてしまい彼の救助隊生命が危うくなっていること。
そして、それで落ち込んでいる時に手を差し伸べて来たのがアシマリであること。
彼女は、ヒバニーの隣にいるのに相応しいのは自分ではなくアシマリだと……!
「チコリータ。ヒバニーくんが言ってたんだ」
「えっ……」
アシマリがチコリータの背中に触れながら言葉を紡ぐ。
「今日の早朝に医療所に行ったらヒバニーくん起きてたんだ。それで"俺の代わりにチコリータ達を元気付けて欲しい"って。私、あんまり気が回らない方だしヒバニーくんに頼まれるまでチコリータ達も傷ついてるだろうって気付かなかったんだよね」
苦笑しながら言うアシマリ。
「……どうして引き受けたのよ。ヒバニーともっと仲良くなり……」
「勿論、スーパーアイドルを目指す救助隊だから!」
チコリータの問いに彼女はポーズを取りながら答えた。
「ポケモンコンテストはね、『歪みの穴』現象で不安な気持ちを抱いてる町のポケモンに幸せを届けるだけじゃないんだよ」
チラリとオオタチの方を見たアシマリは満面の笑みをチコリータに向ける。
「いつも大変な思いでダンジョンへ向かう救助隊、そして壁にぶつかったり挫折を味わったりして苦しむ救助隊の傷付いた心を癒すのも役目なんだよ! だから自分を責めて苦しむチコリータ達を救助するんだ!」
「……救助隊の心を、救助?」
目を見開くチコリータにアシマリが頷く。
「ヒバニーくんが言ってたよ。"たとえ技が一つ使えなくなったとしても他の手段は幾らでもある! 俺が救助隊として復活するまでの間に、チコリータも復活させて欲しい! あいつとまた救助隊『ゆけゆけズ』として頑張りたいから!"……って」
「……っ!」
チコリータの目から一筋の涙が零れ落ちた。
心の底では、彼女はヒバニーと一緒に救助隊を続けたかったのだ。しかしヒバニーを苦しめないために、その願いを必死に押し留めて我慢していたのだろう。
「……チコリータ、『キュワワー医療所』に行っておいでよ」
「……ええ、ルーア! ゴメンねアシマリ、ありがとう!」
私の言葉を受け、彼女はアシマリ達に頭を下げた後医療所向けて走り出して行った。
例え喧嘩してしまっても、例え倒れてしまってもヒバニーとチコリータの思いは一緒……二匹はきっと大丈夫だろう。
「素敵だよアシマリちゃんっ! アイドルの役目をよく分かってるねー!」
ずっと黙っていたオオタチは嬉しそうにアシマリに抱き着く。
「……ねえ、ポケモンコンテストに出るポケモンだって挫折を味わったりするんじゃないの? アシマリだって予選を越えられないって……」
「うん、ルーアちゃんの言う通りだね。確かにそれが原因でポケモンコンテストから離れちゃったポケモンもいるし決して楽な役目じゃない……」
私の問いにオオタチは過去を悔やむような表情をし答える。
「だけど私達は幸せを振り撒くだけじゃない! 煌びやかなステージに立ち、練習した技術を披露し皆の声援を一身に浴びる幸せ! そして皆を幸せに出来ているという喜び! 他のポケモンだけじゃない、自分自身でさえ幸せにするのがポケモンコンテストなんだよ!」
他者だけでなく自分自身でさえ……。
自分以外を優先するのではなく。
自分だけを優先するのでもなく。
その両方を幸せにする……それがオオタチの価値観なんだ。
凄いな……。
私とは、全然違う……。
「お帰りインテレオン」
「あ、ルーア…ただいま」
夕方、『コテージレンタル・ネッコアラ』の近くで待っていた私は、会談を終えて帰って来た彼を出迎える。彼の後ろには『ナイトスター』の姿も。
「……昨日はごめんね」
「大丈夫なのかい?」
「うん。何があっても救助隊として復活するって、ヒバニーが」
「そっか、やっぱり彼らは強いね」
「私達も負けてられませんわね」
私の言葉にインテレオンもマホイップも笑顔を浮かべる。
「色々買ってきた、今日は皆で食べる」
「そうだね、チコリータも呼ぼうか」
和気藹々とコテージへの橋を渡る彼らの後を追う私。
そうだ、ヒバニーとチコリータの件は解決したんだ。
後は……私がまた失敗さえしなければ。
また失敗しなければ…この世界での居場所を守れる…!
また孤独にならずに済む…!
今の私は……体質も姿も力もまともな人間とかけ離れてて……。
元の世界に帰っても絶対に居場所なんて残ってないんだから…!
どうにか、この世界に……!
「ルーア」
「え?」
ドラミドロに呼ばれ、私は振り返る。
「『サマーリゾート』を見て回ったんでしょう? どうだったかしら」
「うーん…暑さに負けないぐらいポケモン達も活気づいてて……。何と言うか明るくて楽しそうな町かなって……」
「……そう。ありがとう」
「……?」
私は何故そんな質問をされたのか分からず首を傾げた。
そしてマホイップ達の後に続くドラミドロの背中から苦しそうな感情が滲んでいるように見えたのであった。