※この作品はR-18です。

裸の少女とポケモンだけが住む世界   作:Momyaka

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Chapter21 ~無獣島 前編~

 チコリータ達と共に町へ出かけた日の晩、私は一同と共にマホイップのコテージに集まり夕食を取っていた。

 

「むぐ、ごくん。会談は一段落着いたのかしら?」

「はい。ですがもう少しこの町には滞在する予定ですわ」

「ヒバニーの回復も待ちたいし……それにカプ・コケコから直々に僕へ依頼が出されてしまったし」

「もぐもぐ……んぐっ!?」

 インテレオンの言葉に私は驚いて振り向く。

「インテレオンさんの透明化能力を見込まれ、ダンジョン『海底の地割れ』調査依頼が出されたのですわ。なんでも他のダンジョンと異なり凶暴化ポケモンが妙な動きを見せているとか」

「妙な動き?」

「『海底の地割れ』、凶暴化ポケモン、よく外に出る」

 

 普通はダンジョンを守り外のポケモンを拒む凶暴化ポケモンが、何故か『海底の地割れ』では頻繁に外へ出てくる……確かに妙と言える。

 

「それに凶暴化ポケモン達の統率も取れているみたいで、生半可な救助隊では太刀打ちが出来ないようなんだ。だから隠れながらその要因を掴んで来て欲しいという依頼なんだよ」

「だ、大丈夫なの? 私が凶暴化ポケモンを一匹『リライブ』して事情を聞いた方が……」

「一匹で行動することも稀とのことですわ。ルーアを連れて行っても大量の凶暴化ポケモンに襲われようものなら危険ですわ。こちらの戦力を増やすと感付かれ易くなりますでしょうし」

 危険度の高い任務に向かおうとするインテレオンが心配になるが、彼にしか出来ない役目なのだとマホイップも強調する。

 

「長丁場になるかもしれないけどヘマはしない、必ず戻って来るよ」

「ええ、お待ちしておりますわ。インテレオンさん」

「あっ…」

 そう言い切るインテレオンにマホイップが笑顔で応える。

 

(私が返事したかったのに…)

「だから護衛は出来なくなってしまうけど、ルーアは町で自由にしていてくれるかい」

「う……うん」

 しばらく彼と別れる事になり、私は躊躇いながらも頷く。あまり我儘を言っても駄目だろう。

「チコリータ、予定ある?」

「ええ、あたしはヒバニーが回復するまではアシマリと一緒にダンジョンへ行くつもりなの。あの子のサポートとして救助活動をやっていくわ」

「まあ素敵。学習頑張って下さいな」

 チコリータもいつヒバニーが戻ってきてもいい様に、明日からまたダンジョンへ向かうらしい。今日一緒に町へ行ったことでアシマリとも仲が深まっているようだ。

 

「私達もダンジョン行こう」

「…そうね。会談ばかりで身体も鈍ってしまうし……黒い奴らについても調べないと…」

 『鬼火草原』にて『ナイトスター』を襲ったという黒の存在。その件についても会談で話していた筈だがどのような方策が出たのであろうか。

 

「ああ、実は『サマーリゾート』でも『エキサイト』が遭遇したことがあるらしいんだ」

「え!? こっちでも!?」

「幸いあたくし達の時と同様に、全滅する寸前で相手側から去って行ったらしいわ」

 

「目的、正体…何もかも不明。会談で命名、『黒装モンスター』」

「『つめとぎ山』の黒いメガスピアーと酷似しているため、その名称となりましたわ。紫のラインを攻撃すればあの時と同様に装甲を剥がせるかもしれませんけど……。相手は非常に強いうえに剥がれ落ちた黒装から黒い靄が発生してしまえば、ルーアがその場にいない限り確実に全滅ですわ」

 

 目的が分からない上に厄介な能力も持っている存在……『黒装モンスター』。頻度は低いものの救助隊ポケモン達にとっては非常に頭の痛い問題だろう。

「邂逅したら撤退するよう救助隊連盟のポケモン達に周知するという方針になった……そしてそれは『灰色のニンゲン』に関しても同じだ。『ダンジョン巨大化』に関して何か情報を持っているだろうから捕獲をしたいけれど、僕達ポケモンを取り込むという恐ろしい力を持っている。見かけてもその場では深追いせず連盟へ伝達し、捕獲のためのチームを組むこととなったよ」

 

「……」

 灰色のニンゲン……イヴは実際には何も知らないのだ。記憶の無いままダンジョン巨大化と共に現れただけで、襲って来る凶暴化ポケモンに必死に抵抗していただけだ。

「……っ」

 本当であればインテレオン達にも知らせたいけれど、彼女は『追放の遺跡』で静かに暮らす事を望んでおりポケモン達に話されることを嫌がっている。たとえポケモンが近寄れないとしても勝手に居場所を教えるようなことはしたくない。

 

「灰色のニンゲンに取り込まれたヤナップも言っていたわ。取り込まれている間は物凄く苦しくて、まるで道具のように扱われてもう二度と経験したくないって……」

「……許せない、いつか捕まえないと…」

 

 やはり難しいのだろうか…イヴがポケモン達と分かり合えるのは。

 

 

 

 

 

 

 いつものサンサン輝く太陽が雨雲に隠れた『サマーリゾート』にて私は一人、町の中を歩いていた。

(こんな雨の日ぐらい、皆休んでもいいのに)

 インテレオンは予定通り『海底の地割れ』へ行ってしまい、チコリータや『ナイトスター』も体が鈍るからと資材集めの依頼を受けてダンジョンへ向かった。こういう日はダンジョンへ出向くポケモンは少なく、救助依頼もあまり来ない筈なのだがそれでも救助隊は働くらしい。

 逆に私はヒバニーへの見舞いも終えた以上、特にやる事も無い状態。

(暇潰そうにもランドセルは使えないしなぁ……)

 ダンジョンに落ちている道具で僅かながらエネルギーを回復させるという手段も、肝心の道具を拾えず持ち帰れずではどうしようもない。

 

「おや、あれは何のポケモンだろう」

「『スプリングタウン』から来たんじゃなかった?」

「種族は? 伝説のポケモン?」

「ちょっと分からないなあ…」

「うっ、うぐっ……」

 まだこの町には私がニンゲンである事が広まっていない為、珍しいものを見る目が四方八方から注がれ裸の私は慌てて歩みを早める。やはり見慣れない存在と言うのは目立つらしく、その視線でどうしても羞恥心が芽生えてしまう。

 

ドンッ

 

「あうっ」

「む……?」

 よそ見しながら小走りしていたせいで何かとぶつかってしまった。不注意だったことを反省しつつ謝ろうとしたその時……。

 

「う、うわああっ」

「やばいぞ!逃げろ!」

 周りのポケモン達が悲鳴を上げて逃げ出していく。一体何事か、凶暴化ポケモンでも現れたのか、と思っているとバチバチという電撃の音が聞こえ始めた。

 

「……」

 目の前にいるのはギルド長カプ・コケコ。機嫌の上下が激しく、突然怒り出す事も少なくない伝説のポケモンにぶつかってしまったらしい。

 

(まずいまずいまずい……!)

「何でボクに体当たりしたのかな?」

 一気に背筋が凍る感覚。カプ・コケコは不快そうな表情をして帯電し始めている。

「ご、ごめんなさいっ! よそ見してて……!」

 即座に謝罪するもののこれで機嫌が直るとは思えず、文字通り雷を落とされてもおかしくはないだろう。それでも私は心の中でギルド長の機嫌が直る事を必死に祈る。

 

 

「うるさーいっ!」

「ぎゃあっ!?」

 

 

 祈りは届かず、至近距離から『ほうでん』を浴びせかけられた私は膝から崩れ落ち、ぺたりとその場に座り込む。

「う……げほっ」

「……?」

 苦しさで咳き込む私を見下ろすカプ・コケコは怪訝な表情を浮かべた。

 

「ボクの電撃が全く効いてない…? す、すごい!」

 

 そして途端に興奮した様子になり、私の周囲を飛び回り始める。

「じめんタイプって訳でもなさそうだし…もしかしてニンゲンって物凄く強かったりするのかい!?」

「う、えっ?」

「凄いなー、凄いなー! こんなに強い仲間がいるなんてファイヤーが羨ましいよ!」

「え、ええと…」

 カプ・コケコのテンションについて行けず、私は狼狽えるばかりだ。

 

「別世界から来たんだよね! どんな世界なのか教えて欲しいな!」

「う、その…」

 機嫌こそ直ったものの怒涛の如く話しかけてくる相手に私はなかなか対処が出来ない。しかし些細なことでまた怒りだすとも聞いているしどうにか対応しなければ…。

「そっちの世界にはキミみたいな強いニンゲンが沢山いるのかな?」

「い、いや…私はそもそも強くないし…体が丈夫になったのもこの世界に来てからで……」

 

 

 

「ん、この世界に来てから? 世界を越えるタイミングで何かが起きたのかなっ?」

「……え」

 

 何かが起きた?

 世界を越えたから私の身体に異変が生じていると思っていたけれど。

 元の世界で激しい光に包まれた後から『清流森林』で目を覚ますまでの間……。

 『気を失っていた間』に何かが起きて、私の身体が変化した……?

 

 

 

「あはは、世界を越えるなんて初めてだし分からないよね! それで君の世界はどんな場所だったのかな? ここみたいに暑い場所? それとも『スプリングタウン』みたいに暖かい場所?」

「……ええと、時期によって暖かくなったり寒くなったり……」

「ええっ!? ニンゲンの世界って凄い! 流石おとぎ話と言われてきただけはあるよ…!」

「あ、ニンゲンの世界って言ってもポケモンもいて…」

「っ!?」

 私の話を聞いていたカプ・コケコは更に目を輝かせ始める。

 

「異世界のポケモン! あーっ、話を聞くだけでもワクワクする! ボクも行ってみたいなぁ……でもギルドの仕事があるし、この世界から離れるのもなあ」

「……その、どうしてギルド長やってるの?」

 小躍りするカプ・コケコに対して私はおずおずと尋ねた。どうも自由気ままで気まぐれな性格のカプ・コケコにとってはギルド長という立場が窮屈そうに感じてしまう。

 

「んー、エンペルトがうるさいから?」

「へっ」

 

 伝説のポケモンとは思えない回答を喰らい私は呆気にとられた。

「元々はとある島で気ままに過ごしてたんだけど、エンペルトが毎日毎日やって来ては『その力を苦しむポケモンのため活かすべきではないのか』って説教して来たんだよねー。面倒だから『ほうでん』で追い払っても次の日には来るからさー……折れちゃったわけさ」

「そ、それじゃあ嫌々ギルド長やってるってこと?」

「辞めようと思えばいつでも辞めるつもりだけど。まぁポケモンコンテストとか、かき氷とか……元の島に無かったものが沢山だから楽しめる内は務めを果たすさ」

 

 そこまで言うとカプ・コケコは一瞬だけ暗い顔をする。

「それに……戻っても楽しくないだろうし」

 

「え?」

 しかしカプ・コケコはすぐに普段の表情に戻るとため息をつきながら身体を伸ばし始める。

「エンペルトがいない隙に羽伸ばしてたけど、そろそろ戻って仕事片付けなきゃなー」

 愚痴りつつもカプ・コケコはギルドがある巨大ヤシの木の方へと移動し始めた。一瞬だけ見せた暗い顔の事が気になるものの、どうにか怒りを再発させずに済んだことへの安堵が強く私はゆっくり息をつく。

 

 

「あ、そうだ」

「はいっ!?」

 しかし振り返って来た相手に私は肩を跳ねらせて返事をする。

「今日は話ありがとね! それと君に伝えるべき事があったんだ、丁度いいからここで話すよ」

「私に伝えるべき事?」

 

 

 

「君が『スプリングタウン』の『追放の遺跡』に入ったって、ファイヤーから手紙で教えられたよ。だからボクからも伝えよう……『サマーリゾート』の南にもポケモンを拒むダンジョン『無獣島』がある。『追放の遺跡』には元の世界に帰る手段が無かったって話だけど、だからってこっちも可能性がゼロとは限らない。もしも興味があるのなら行ってみるのはどうかな?」

 

 

 

 コテージの中で一枚の紙を前に私は頷く。

「……これでよし。多分」

 手が使えない為汚い文字になってしまったが、この置手紙で暫く出掛ける旨は伝わる筈。これで余計な心配をかける事は無くなるだろう。

 エネルギー切れで動かないランドセルも背負い、私は準備を終える。

 

 目指すは無人島ならぬ『無獣島』。

 

 カプ・コケコが言っていたような元の世界に帰る手段を探す気は無いが、『追放の遺跡』のように何か私の役に立つ道具が眠っているかもしれない。そしてあわよくばこのランドセルのエネルギーを充分に回復させる方法も見つかれば有り難い。

「……」

 不安なのは『追放の遺跡』を満たしていたあの漆黒の闇。何度も幻覚を見せつけられ酷い目に遭わされ続けたことを思い出すと少し尻込みしてしまう。

 

(……流石に同じこと起きないよね……?)

 私が通うべきだった学校の校舎の姿をしていた『追放の遺跡』と異なり、今度は島だ。私には関係の無い場所であるから大丈夫……だと思いたい。イヴが暮らしているあの遺跡と同じ状態……つまり凶暴化ポケモンもおらず安全なダンジョンである筈だ、きっと。

 

(……どうにかしてまた道具が使えるようになって、皆の足を引っ張る現状を変えなきゃ。じゃないと迷惑ばかりかけて邪魔者扱いされて嫌われて……っ)

 私は嫌な思考をかき消すように首を振り、コテージを飛び出した。

 

 

 

 もし島へ向かうなら利用するようにカプ・コケコから伝えられた『ラプラス便』を訪れる私。暫く待っているとラプラス、そして彼の背中に乗ったポケモンが海から近付いてくる。

「ご利用ありがとうございました」

 町に向かうポケモン達を笑顔で見送るラプラス。どうやら私の世界と同様にラプラスという種族はこうして他のポケモンを背に乗せて水上を渡っているらしい。

 

「あ、利用者の方ですね? どうぞ」

 そして私に気付いたラプラスは笑顔で背を向けて来る。大きな体躯と温厚な気性でその背中は頼もしさを醸し出していた。

「その、『無獣島』まで」

「えっ?」

 だが、行き先を伝えて彼の背中に乗ろうとした所で驚いたような顔をされる。

 

「ごめんなさい、『ラプラス便』は決まった時間に決まったルートを通るだけで、行きたい場所へお送りするのではないんです」

「そ、そんな…」

 てっきりタクシーのようなシステムだと思っていたが、そうではなくバスのようなものらしい。

 

「……あ、もしかしてイカダレンタルをご利用される方でしたか?」

 

「イカダ?」

「利用される方が滅多にいないので私自身も忘れてしまいがちですが……ほら、隣の桟橋にありますでしょう? あれなら利用料さえ頂ければ自由な場所へ向かえます」

「……」

 ラプラスの指し示す先には丸太を連結させたイカダが幾つも海面を漂っている。まさかカプ・コケコは私にイカダを漕いで海を渡れと言うつもりでここを紹介したのだろうか。腕が使えないのにどうやって漕げばいいのだと文句が言いたくなるが相手はそれを知らないので責められない。

 

「ですけど『無獣島』は近付こうとしても押し出される島ですよ。悪い事は言わないのでやめておいた方がよいのではないでしょうか?」

「……ううん、行く」

 しかし諦める訳にはいかない私は、インテレオンから事前に貰った生活費のポケを切り崩してラプラスに払う。こうなったら脚を使ってイカダを漕ぐしかないだろう。

「ではこちらがイカダのロックを外す鍵となります。備え付けの道具はご自由にご利用ください、くれぐれもお気をつけて」

「ありがと」

 私はラプラスに礼を言うと、一つのイカダに乗り込むと、桟橋との連結を鍵で外しいよいよ海の旅へ。

 

 生憎小雨が降っており海も黒色。

 だけど今更辞めたりなどはしない。

 

 これは、私がこの世界で生きていくために必要なことなのだから。

 

 

 

「……駄目ぇ、全然進まないぃ…」

 脚を海に突っ込んでオール代わりに水を掻いていたが、いまだに桟橋から殆ど離れていない状態。こんなスピードでは夜になっても目的地へ辿り着くのは無理だろう。

「うーん……あれ?」

 困りながら視線を動かすとイカダの後部に何かが取り付けられているのに気が付く。

 

 木の棒…いや、『ふきとばしのえだ』だ。

 

 そこで私はラプラスの"備え付けの道具"という言葉を思い出した。確かに私だけでなくポケモンにだってオールを使えない者はいるだろうから、そのための推進力だろう。

「これ…振ればいいのかな」

 先端がイカダにくっついた『ふきとばしのえだ』を脚で揺らしてみる。それにより枝から射出された光弾がすぐ目の前のイカダにぶつかり…。

 

「ひゃあああああっ!?」

 

 猛スピードでイカダが海上を吹っ飛んでいく! まるで水切りの如くイカダは何度も海面を跳ねながら猛進。すぐ近くにあった筈の海岸も桟橋もあっという間に遠くなり、激しい水飛沫が私にまでかかる。海水がしょっぱいがそれよりも…。

 

「は、速い速いぃ!」

 あまりの速度に目が回るし、這いつくばっていないと振り落とされてしまいそうだ。手錠を掛けたまま海の中に落ちるなんて冗談じゃない。

 

 海の上を暫く進んだ所でようやくイカダの動きが収まるが、私は吐きそうになっていた。

「ううえええっ…気持ち悪い……」

 滅茶苦茶な海上爆走により完全に船酔いに陥ってしまった。落ち着こうにもイカダは海面でユラユラ揺れておりどんどん吐き気が増してくる。周囲は海ばかりで陸に逃げる事も出来ない…最悪だ。

 今更ながらラプラスの"利用者が滅多にいない"という言葉も思い出す。確かに好き好んでこんな思いをしようとする者は希少だろう。

 

「うぷっ……ん」

 顔を青ざめさせながら前方を見るとカプ・コケコから教えられた『無獣島』が水平線上に見えていた。だいぶ酷い目にあったが一応成果はあったらしい。

 

「……」

 しかしまだまだ距離はあり、脚で漕いでどうにかなるものではない。つまりどれだけ苦しかろうと再び『ふきとばしのえだ』による海上爆走を行う必要がある。

「く…うぐうっ!!」

 

 ヤケクソ気味に私は涙目のまま再びイカダ後部の『ふきとばしのえだ』を使用。

 

「うぐええええっ!」

 またも海上を跳ねながら猛進するイカダ。吐いてしまうのを我慢しながら必死に這いつくばる私。腕が使えない為しがみつくことすら出来ず、ただただ振り落とされないよう耐えようとする。

 

「……あっ!?」

 

 身体がイカダから浮かび上がった。

(まずい、このままじゃ海に……)

 しかし空中では何も出来ず、イカダがどんどん離れていく。

 

 

 イカダを後方に残し、私だけが島に向かう形で。

 

「えっ、あ、わああああっ!?」

 『追放の遺跡』に向かっていた時私の身体が遺跡に引き寄せられたのを思い出したが、だからといって何が出来る訳でもない。私は何一つ抵抗できず、空中に浮かんだまま凄い勢いで『無獣島』に引っ張られていく。

 

「んぎゃあっ!」

 波打ち際に落下し、そのまま砂浜を何度も転がる。全身砂まみれだ。

「うえっ……おえええっ!」

 身体をビクビク震わせながらえずく私。出発直後は海の旅など気楽に思っていた自分を激しく恨む。

 

 

 

 数分近く倒れたまま動けなかった私だが、どうにか気分を落ち着かせフラフラと立ち上がり辺りを見渡した。

 

 ポケモンどころか一切の草木が存在しない孤島。

 黒と紫の霧に覆われ海の向こうの水平線も雨雲も見る事は叶わない。

 

 『追放の遺跡』の時と同じ……ポケモンを拒み人間を逃がさない闇の空間。

「……」

 またあの時のような幻覚を見る事になるのかという嫌な予感を必死に振り払う私。『追放の遺跡』は私の学校と同じであったがこのような島に覚えはない。あちらとは違うはずだ。

 しかしここから脱出するためには、おそらく周囲の霧が晴れた状態にする……つまりこの島にある黒い闇を消さなくてならないだろう。

 

(早くこの状態を解消させて……またランドセルを使える状態にする方法を探さなくちゃ)

 私は砂浜から島の中心部に向けて足を進める。

 

 

 

 全く植物が無く、生命の気配がない殺風景な島。

 遠目から見た時は小さい島だと思ったが実際に歩いてみると『追放の遺跡』の敷地よりも広大な面積を持っている上に高低差もあり大変だ。

 

(……『追放の遺跡』では校舎っていう分かりやすい所を闇が満たしてたけど……)

 ようやく中心部に辿り着いた私は周囲を見渡すが島のどこにも目印になりそうなものは見つからない。そもそもこの『無獣島』が意外に広く遠くの状況まではよく分からない上に崖や岩の陰に隠れているという可能性もありそうだ。

「虱潰しに探すしかないのかな……」

 そう思うとドッと疲労感が襲って来るが泣き言を言っていても始まらない。無理矢理気力を奮い立たせて足を一歩踏み出したその時。

 

「……?」

 何かが私目掛けてまっすぐ近付いて来ている。

 飴玉のようにとても小さな黒い球……。

 

 

 黒……闇?

 

 その途端、『追放の遺跡』で私を捕らえようと伸びて来た黒い触手のことを思い出す。

「……ひっ!」

 私は本能のままにその小さな球を避けようとしたが、それはまるで引き寄せられるか の如く方向転換しながら迫って来た。

「わあっ!?」

 

 

 まるで膨大な闇を極限まで濃縮したような小さな黒い球は逃げようとする私へ直撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暑い。物凄く暑い。

 

「……」

 全身から汗が噴き出る中、呆然と立ち尽くしている私。先程までの光景とは異なり、島全体を鬱蒼としたジャングルが覆っている。黒と紫の霧も晴れ、島の周りには青空や青い海がどこまでも広がっていた。

 

 この様変わり用は『追憶の遺跡』で幻覚を見ていた時と同じだ。

 

(誰も、いない……)

 しかしあの時とは違い、学校の児童たちや教師などがどこにも見当たらない。確かにここは学校ではない為彼らがいないのは当然ではあるのだが。

 

 

 

 その代わり、花畑に立つ私の周囲を飛び回る小さなポケモン達がいた。

 

「フフフ~」

「フフッ」

 色とりどりの花を持つフラエッテ達。

 

 赤、黄、青、白の花を持って私を見て笑う彼女らは『つるのムチ』で私の胸や乳首をピシピシと刺激して来る。

 

「ひいんっ♡!?」

 突然急所を責められた私は喘ぎ声を上げ仰け反った。

 

「フフフ」

 そんな私を笑い、フラエッテ達は続けて大量の『かふんだんご』を口の中に突っ込んでくる。花の蜜のような甘味が口いっぱいに広がるが量が多すぎて逆に苦しい。

「むぐぐぐっ!? ぐ、ぐううっ!」

 吐き出そうにも『つるのムチ』で押し込まれ私は全ての団子を飲み込む羽目に。爆発しなかったことから攻撃用ではない……と安堵する暇も無く。

 

 

「う、あ、あひぃ♡!?」

 特殊な花の花粉を使ったのか、私の身体を激しい性欲が走り出す。まるで媚薬を使った時のように体が火照り、刺激が欲しくてたまらなくなった。このまま性感帯を弄ばれたら簡単にイッてしまいそうだ。

 

「フッフフ~」

 しかしフラエッテ達は更なる刺激を私に与える事はなく、ジャングルの中へと飛んで行ってしまう。

「ちょ、ちょっと待って……♡」

 発情状態にされた私は彼女らを追おうとしたが足元に仕掛けられていた『くさむすび』に引っ掛かり転倒した。

「あぐっ♡!?」

 欲しかった快感ではなく痛みを受けて私は涙をこぼす。

 

 早く追わなければ、と起き上がった時には既にフラエッテ達はジャングルの中へ消えてしまっていた。

 

(な、何なのあのフラエッテ達……!)

 

 突然の理不尽な襲撃に歯軋りするが、その口からは涎が垂れてしまう。

「うぅぅぅ……♡」

 どんどん膨れ上がる性欲に耐えられず、私はピクピク身体を震わせた。感度が高まっているせいで膣内で微振動するバイブから意識を切り離す事が出来ずオナニーがしたくてたまらない。

 当然手錠で拘束されている両腕は使えない為、私は花畑の一角にある岩へと駆け寄る。

 

 

 幾つもの花を気付かず踏んづけながら。

 

 

「はぁ、はぁ……♡」

 私は岩の尖った部分にゆっくりと愛液に塗れた股間を近づけた。

(オナニー……! オナニー……!!)

 そして今にも割れ目が触れる…と思ったその瞬間。

 

「フーフー!」

「わあっ!?」

 岩の陰から現れた複数のフラベベ達に突撃され私は転倒させられる。仰向けのまま目を白黒させる私の上を飛び回る彼女ら。言葉が聞き取れない為、どうして攻撃されたのか全く分からない。

 

「フフフー」

 遠くから別のフラベベ達の声が聞こえてくる。今度は何をして来るのかと思っていると、新たにやって来たフラベベ達が何かを運んでいるのに気付く。紺色をした布のようなものだが、パッと見ではタオルなのか旗なのかも分からない。

 

 彼女らは困惑する私の真上まで移動すると、そのまま私の身体へと落としてきた。

 

「うっ!?」

 布はモンスターボールに入るポケモンの如く光と化し、私の身体を包み出す。痛みこそないが、締め付けられるような感触が走り出した。

 

 

 光と化していた布が元の紺色の姿を取り戻す。それは私の胸や背中、お腹に股間といった胴体周りを包み込んだ衣類…。そして胸部には『ルーア』と名前が書かれたゼッケンが。

(これ…私のスクール水着…!)

 

 

 何故こんな所にあるのかと混乱する私を無視し、フラベベ達が何かを運びながら移動を始める。それは水色をした物体…。

「あっ!? 私のランドセル!!」

 無理矢理ランドセルと水着を交換してしまった彼女らを追おうとした途端、目の前に更なるポケモンが出現する。

 

「フゥゥゥ……」

 私をまっすぐ睨むのはフラージェスだった。

 

「ひいっ!?」

 テリトリーを荒らされた怒りを溢れさせる彼女は『ソーラービーム』の構えを取り出す。慌てて逃げ出す私だったが眩い日差しにより即座にチャージは完了。

「フゥゥゥゥ!!」

「ぎゃああっ!?」

 強烈なビームを浴びて私は成す術なく吹き飛ばされてしまう。

「い、痛いぃ……ひゃっ!?」

 激痛で震える私へと続けて襲い掛かる『ソーラービーム』。私を絶対許さないと言わんばかりにフラージェスが執拗なまでに攻撃を仕掛けて来ていたのだ。

「や、やめてぇ!ぎゃっ」

 私は必死に逃げようとするが再びビームが直撃しまたも吹っ飛ばされ……。

 

 

 

「あっ……」

 崖。

 

 

 

 私は眼下に広がるジャングルへと落下するのであった。

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