それは春風が心地良い、何の変哲もないある日の出来事。
「おやつ、おやつ~」
私はコロンコロンと部屋の中を転がり、戸棚へと向かう。とても美味しい『わかくさグミ』が残っていた筈だ。
「ご開帳」
幸せな気分になりながら自らの枝で棚を開く。
『ただのタネ』、『リンゴ』、『ももいろグミ』、『ネコブのみ』…………。
「ん?」
頭の中に大量の疑問符を浮かべながら私は戸棚の中をガサゴソ探し回る。
「…………ない!!」
私……アノホラグサは『ナイトスター』の拠点で声を上げるのだった。
「どうしてこんな事になってるのよ……」
「わ、分かりませんわ……」
私の前ではチームメンバーのドラミドロとマホイップが困惑した表情でヒソヒソ話をしていた。
「題して、『わかくさグミ盗難事件』」
二名の重要参考ポケモンを順番に見て私は言う。楽しみにしていたグミを奪われたこの恨み、晴らさなければ気が済まない。
「仲間を疑うのは感心しませんわよ」
「む……うぐ、でも」
頬を膨らませて正論を突き付けてくるマホイップに少し押されてしまうが、だからといって簡単に引き下がりたくはない。
「無くなった物はしょうがないわよ、また買いに行きましょう」
「……いつ?」
続けてドラミドロが笑顔で提案するが、私は『ナイトスター』の懐事情を鑑みて尋ねる。
「グミってサイズの割に高いのよね……」
「昔と比べて四倍もしますものね……ダンジョン化が起きてるって言ったって値上がりし過ぎですわ…!」
再びヒソヒソ話し始めたチームメンバーの姿を私は半目がちに見つめた。
こんな調子では『わかくさグミ』にありつけるのがいつになるか分かったものではない。
「すみませんわ……折角ルーアと一緒に『ネコブのみ』を手に入れたのに、その報奨を拠点の補修で使い切ってしまって……」
「安いからって中古住宅を買ったけど、雨漏りする程に傷んでいたとはね…」
項垂れるマホイップと、溜息をついて天井を見上げるドラミドロ。
彼女達の言う通り、この『ナイトスター拠点』はかなりのオンボロであり雨漏り騒ぎで大変だったのも記憶に新しい。
「ならしょうがない、犯ポケ探し、続行」
「ええっ!?」
だがそれは『わかくさグミ』が消えた事をなあなあにする理由足り得ない……。腸は無いけれどはらわたが煮えくり返ってしょうがないのだ。
「私、食べてませんわ!」
「あたくしも同じよ。そもそもいつまではちゃんとグミがあったの?」
「……今朝まで、あった筈」
ドラミドロに問われ、私は過去を思い返しながら答える。
「昨日、大事なお小遣いで、『わかくさグミ』、三個買った」
「ええ、行商ポケモンから買っていたわよね。あたくしも『ももいろグミ』を買ったわ」
「昨日の晩、一つ食べた、今日の朝、また一つ食べた」
「なるほど、つまり最後の一個が残っている筈なのに無い……と」
私の言葉に二匹も頷きながら真相追究のため思考し始めた。
「それであたくし達は、ついさっき救助を終えて帰って来たわよね……という事は?」
ドラミドロの呟きで私は一つの可能性に思い当たる。
「……空き巣!」
「なっ、それじゃあ他の財産とかも……!?」
目を丸くしたマホイップが慌てた様子であちこちの木箱や引き出しをひっくり返し出した。
「……無事ですわ」
しかし彼女はそう言い安堵した表情で戻って来る。
「あら、そうなの」
「ソーナノじゃない、『わかくさグミ』泥棒」
空き巣などいなかったとばかりに応えるドラミドロに対し、私は枝をワシワシ動かしながら抗議した。
「グミだけ奪う泥棒なんていますかしら……お腹が空いていたとしても戸棚にあるリンゴとかは無事に残ってましたわよ」
「あまりこういう事言いたくないのだけれど……アノホラグサがうっかり三個目も食べちゃったとかは無いのかしら?」
「失礼! 怒る!」
間違いなく『わかくさグミ』は二個しか食べていない筈なのに、マホイップ達は中々信じてくれない。
「フフフ、ごめんなさいね。だけどあたくし達三匹は全員食べていなくて、空き巣だと考えるにも無理がある……どうしたものかしらね」
確かにこのままでは『わかくさグミ』の行方を追う議論は膠着してしまう。この様子を見る限りマホイップもドラミドロも嘘をついているようには見えない。
「……あ」
「どうしたの?」
そこで何かを思い出したかのようにマホイップが口を開いた。
「昨日の夜、本屋のヤレユータンさんとお茶をしたのを思い出しましたの。茶菓子として何かを持って『ガルーラのカフェ』に行ったような……」
「あーっ! あーっ!」
そこまで聞き、私は答えに辿り着く。
マホイップが勝手に『わかくさグミ』を持って行ってしまい、ヤレユータンが食べてしまったのだ!
「あーっ! あーっ!」
「ちょっとアノホラグサ!?」
大慌てで私は拠点を飛び出し、『スプリングタウン』の大通りを『こうそくスピン』で猛突進!
「やあ、アノホラ……」
「ごめん、忙しい!」
気さくに挨拶してくるインテレオンの横を通り過ぎ、私は目的地へと急ぐ。
道行くポケモン達を回避しながら進み、私は大木を繰り抜いたかのようなツリーハウスの前……『ヤレユータンの本屋』へと到着した。
そして急いで扉を開き、中を覗き込む……。
「ねえヤレユータン。この『夢の雲に乗って』って本、三巻は無いのかしら?」
「いや、それは全二巻の筈さ」
「ええーっ、ここで終わりなのかよ!?」
そこにはヤレユータンだけではなくヒバニーとチコリータもおり、彼らは本を持ってワナワナ身を震わせていた。
「こんなのってアリなの!? 二匹は再会できたの!?」
「主人公が言ってた『夢に浮かぶ楽園』にだって辿り着いてねえじゃん!」
「『歪みの穴』現象のいざこざで筆を折ったポケモンもいるからねえ……」
そして床に転がってジタバタする二匹に応対しながらヤレユータンが茶を飲んでいる。
「まぁまぁヒバ兄ちゃん達……もぐもぐ。読者の想像にお任せしますって作品も少なくねぇんだから……もぐもぐ。そういう楽しみ方も……」
騒ぎを聞いたのか、階段を降りてやってくる緑色のポケモン。確かヤレユータンと共に本屋を営んでいるヤナップだっただろうか。
彼はヒバニー達を宥めながら手に持った黄緑……若草色をしたグミを食べて……。
「うわーっ!? うわーっ!?」
私は大声を上げながら本屋の扉を開け放つ!
「どわあっ!?」
「きゃーっ!?」
「ぶふっ!?」
床に倒れていたヒバニーとチコリータが驚きのあまり揉みくちゃになって転がって行き、ヤレユータンがお茶を盛大に噴き出す中、私は目を丸くしているヤナップの前へ向かう。
彼が手に持っているのは間違いなく『わかくさグミ』……しかし既にほとんど齧られており一口分しか残っていなかった。
これはつまり……マホイップが持って行った『わかくさグミ』をヤレユータンが持って帰り、ヤナップが食べているという事。
『わかくさグミ』はくさタイプポケモンの好物なのだから、孫のような存在であるヤナップのためにヤレユータンが持って帰るのは容易に想像できる。
「うわーっ!? うわーっ!?」
「!? !? !?」
あまりの絶望に打ちひしがれる私を前に、ヤナップは目を白黒させて困惑。
「速過ぎるのよアノホラグサ……」
「ご、ごめんあそばせ~」
「何事なんだい……?」
私を追って本屋に入ってくるマホイップ達を見て、先程までの落ち着きを失った様子のヤレユータンが床を拭きながら尋ねる。
「あの、ヤレユータンさん。昨日ご一緒にお茶をした時……グミとか……」
「……?」
おずおずと尋ねるマホイップだが、ヤレユータンは訝し気に目を細めた。
「グミなんか無かったんじゃないかい? マラサダをくれたじゃないか、ミントのクリームをトッピングした。とっても美味しかったよ」
「んえ?」
彼女の言葉に私はもう一度ヤナップの手にあるグミの欠片を見る。
「よ、よく分かんないけど。これはばあちゃんからじゃなくて『子供の会』で貰った奴だぞ……」
子供の会……定期的に開催される、幼いポケモン達に文字や計算を教えたり、様々な遊びでポケモン同士の交流を持たせたりする場だ。
「そうだったのですね……すみませんわ、私の早とちりで」
「ど、どういうことだい?」
「実はアノホラグサの『わかくさグミ』が無くなっちゃったのよ。それで心当たりがある出来事を思い返していたらこの子が飛び出してきちゃった訳なの」
「ああ、昨日のお茶で持ち出してしまったのではないか……ってことかい。だけどさっきも言った通りマホイップからはマラサダを頂いたから、申し訳ないけれどあたし達には分からないねえ」
ヤレユータンの話を聞いて、ホッとすると同時に再び項垂れる私。
というより、冷静に考えてみれば今朝の時点では二つ『わかくさグミ』があって、片方を食べてもう片方を残したのだからヤレユータンが関係ないのはすぐに分かった筈だ。
「い、いててて……そ、それで?」
「うぅ……グミが無くなったの?」
その時、ようやく戻って来た『ゆけゆけズ』の二匹が確認してくる。
「うん」
短く答えるとヒバニーとチコリータは顔を見合わせ頷き合う。
「それじゃあ俺達……」
「『ゆけゆけズ』に任せなさい!」
「へ?」
『ナイトスター』の拠点に戻る私達。しかし一緒に『ゆけゆけズ』までついて来ていた。
「ふふん、ここが事件現場ねヒバニーくん」
「そうだぜチコリータ探偵!」
私達の拠点に上がり込んだ二匹は戸棚を前にしてそんな会話を行う。
「……何これ」
「あたくしが聞きたいわ……」
冷や汗をかきながら私達はヒバニー達の様子を見守っていた。
「今回の被害者は『わかくさグミ』氏。二名の兄弟がいたとのことだけれどどちらもアノホラグサ氏に食べられてしまったとのことよ」
「なるほど、生き残りの『わかくさグミ』氏も同じように彼女に食べられた可能性もある、という事だな」
「なっ!?」
謎のやり取りはともかく、私にまで疑いがかけられていることにたまらず声を上げる。
「どうして、私まで!?」
「探偵って言うのは、固定概念に囚われちゃいけないんだ。『怪盗探偵ゾロアーク』でも出て……じゃない! それが探偵として重要なのさ!」
どうもこの二匹は読んだ本に影響されているらしいが、確かに固定概念を払拭するのは大事なのかもしれない。それで被害者の筈の私を重要参考ポケモンの一匹にするのは些か納得できないが。
「その上で改めて情報を整理するわね。まず、犯行には必ず動機がつきものよ! 恨みや金品目当てが主ね」
「『わかくさグミ』氏に恨みを持つポケモンは考えにくいな。つまり犯ポケは『わかくさグミ』氏の味わいを目当てに犯行に及んだのか?」
「鋭いわねヒバニーくん、流石はあたしの助手よ! 『わかくさグミ』氏を特に欲しがる……つまり動機があるのはくさタイプポケモンよ! それはこの場にいるアノホラグサ氏とあたし……」
得意げにそこまで言ったチコリータ自身を私達三匹はジッと見つめる。
「……」
何とも言えない顔を浮かべ大量の汗を搔くチコリータをヒバニーもあんぐりと口を開けて見ていた。
「……こ、ここ、今回の事件は特殊パターンね! どどど、動機は関係ないわ! くさタイプがどうとかも関係ないわ!」
「そ、そうだな! 調べてたら別の動機も出て来るさ!」
露骨な軌道修正を図る『ゆけゆけズ』を前に、私は本当に大丈夫なのかと更に心配になって来た。
「ええと、事件発生の状況を確認しないとね! まずアノホラグサ氏、最後に『わかくさグミ』氏の姿を見たのは今日の朝で間違いないのね? そしてダンジョンから帰ってきたら姿を消していたと」
「……そう」
探偵ごっこなどせずに普通に進めて欲しいが、とにかく犯ポケを見つけ出して欲しいのは事実なのでとりあえず乗っておくことにする。
「では次はドラミドロ氏。あなたが『わかくさグミ』氏の姿を最後に見たのは?」
「えーと、今朝……の筈よ」
「最後にマホイップ氏は?」
「昨晩ですわ。今日は一度も戸棚を開いていませんもの」
チコリータによる聴取が行われ、その後ろではヒバニーが件の戸棚を開いて中を見ていた。
「チコリータ探偵、これを見てくれ!」
「どうしたのヒバニーくん……はっ、これは!」
自称助手に呼ばれ、自称探偵もまた戸棚の中へ視線を向け声を上げる。
ただ探偵っぽさを出すための演技なのではと正直あまり期待せずに眺めていたが、『ゆけゆけズ』は自信に満ちた顔で振り返って来た。
「犯ポケが分かったわ。それはあなたよ、ドラミドロ氏!」
「っ!?」
チコリータに前足で指し示されたドラミドロはなぜ疑われているのか分からないと言った様子で目を丸くしている。
「ふふん、あなたはさっきの聴取で濁した回答をしていたわね。それは犯行を隠そうと焦ったために出た反応よ」
「ち、違うわよ! ただ少し……」
「しかーし。俺達は見つけちまったのさ、動かぬ証拠を!」
そう言ってヒバニーが戸棚から取り出したのは『ももいろグミ』であった。
「この『ももいろグミ』はどくタイプが好物としているもの。そしてこの場にいるどくタイプはあなただけよ」
「それがどうしたのよ……」
「何故『わかくさグミ』が無くなり『ももいろグミ』が残っていたのか……それは今朝、あなたが寝ぼけて食べるグミを間違えたからよ!」
「……『ヘドロばくだん』撃つわね」
「どええっ、なんでだよ!?」
「追い詰められた犯ポケが暴れて抵抗するパターンね!?」
「やめて下さいドラミドロー! 家が腐敗して倒壊しますわー!!」
暴れ出そうとするドラミドロから慌てて逃げ始める『ゆけゆけズ』と、彼女を必死に宥めようとするマホイップ。
「寝ぼけて犯行って何よ!」
「じゃ、じゃあどうして『ももいろグミ』は残ってるのよ!?」
「忙しい朝じゃなくて、晩にゆっくりと味わいたかったからよ!」
まるで頭から湯気を立てているかのように憤慨したドラミドロが捲し立てる。中々に珍しい姿だ。
「うーん……それじゃあどうして聴取の時は言い淀んだんだよ?」
「はぁ……少し自信がないからよ。朝『わかくさグミ』を見たのは確かだけど、今日の別のタイミングでも目にしたような気がしていて……」
「それを思い出して欲しいわね。『わかくさグミ』氏が失踪した時間帯をもっと絞り込めそうだわ」
「ドラミドロ、お願い」
額にヒレを当てて思い出そうとするドラミドロに対し、私も頼み込む。
彼女は難しい顔をしながら部屋の中を見渡し、ある物を見つけて目を見開いた。
「……思い出したわ!」
彼女の視線の先にあるのはポーチ型をした『レスキューバッグ』だ。
「アノホラグサが『わかくさグミ』をダンジョンで食べるって言って、最後の一つをあの中に入れていたのよ!」
「……あ」
ドラミドロの言葉に私もぼんやりと記憶が蘇って来た。
確かに二つ目のグミを食べる際、もう一つも戸棚から取り出してバッグにしまい込んだような気がする。そしてダンジョンで凶暴化ポケモンと戦う間にその事を忘れてしまったのだ。
「もう、なんですの! 散々ポケモンを疑っておいて!」
「ごめんねー、でも良かった」
プンプン怒るマホイップに謝りつつ、私は急いでレスキューバッグの元へ。
ようやく『わかくさグミ』にありつける喜びでウキウキ気分になりながらバッグを開いた。
そして迸る悪臭!
「あーっ! うわーっ!?」
完全に虚を突かれた私はショックで何度も跳ねまわり壁や床にぶつかる。
「どええっ、なんだなんだ!?」
「犯ポケだと思ってた相手が真犯ポケに『どくどく』を盛られたパターンね!?」
「止まって下さいアノホラグサー! 家に穴が開いて倒壊しますわー!!」
マホイップ達が慌てて私を取り押さえる中、ドラミドロがバッグの中に視線を落とした。
「これは……『ベトベタフード』ね」
彼女が持ち上げたのは紫色をしたヘドロのようにドロドロした物体。『わかくさグミ』は好きだが、私はそれが大嫌いなのだ。
「『ナイトスター』は『ベトベタフード』も平気で食べるのね……あたし達はダンジョンから帰り次第すぐに『エネルギー変換の壺』に叩き込むのに……。流石はゴールドランクだわ」
「ご、誤解ですわ! 食料が尽きてよほど空腹じゃないと食べたりしませんわ!」
チコリータから若干引いたように見つめられ、イメージダウンを防ぐために即座にマホイップが否定する。
「じゃあどうしてこんなに詰まってんだよ……」
「確かに妙ね……ダンジョンに落ちてたのを拾った訳でもないのに」
ヒバニーと共にバッグの中を整理していたドラミドロはそこまで言って作業の手を止めた。
「……あら、『わかくさグミ』が入ってないわね」
「う、うへぇ?」
彼女の言葉に、ようやく悶絶状態から立ち直った私は返事を返す。視線を向けるが、確かにドラミドロの前に並べられた道具の中に目的の品は無い。『オレンのみ』、『ベトベタフード』、『しばりだま』、『いしのつぶて』、『あおいグミ』などなど……。
「……」
「……マホイップ?」
そこで私は隣にいるマホイップが固まった笑顔をしながら、道具の中に混じる幾つものベトベタフードを見下ろしていたのに気付いた。
「えーと、その……『わかくさグミ』……多分『ベトベタフード』になりましたわ。『ベトベタのワナ』で……」
『ベトベタのワナ』……それはとても恐ろしい、持っている食料を『ベトベタフード』に変貌させてしまうワナである。
本日救助のため向かったダンジョン『蒼天桜花の道』。
救助自体は成功したものの、途中で何度も凶暴化ポケモンの妨害に遭い激しい応酬を繰り広げていた。
その時にマホイップがワナを踏んでしまったらしいが、『どろのワナ』などとは異なり彼女自身への影響が無かったためそのまま戦闘を継続したとのことだ。
つまりそのワナというのが……。
「ああああっっっ!?」
慟哭の叫びを上げ、私はベトベタフードの前で崩れ落ちる。
「真相解明だな、チコリータ探偵」
「ええ。アノホラグサ氏自身がグミをダンジョンに持っていき、ドラミドロ氏が情報共有を忘れ、それを知らないマホイップ氏がワナを踏んでしまった……悲しい事件ね」
そんな私を見下ろしながら、ヒバニーとチコリータが静かに語るのであった。
『わかくさグミ盗難事件』、終幕―――。
あんまりな事件の真相を目の当たりにした、その日の夜。
「晩御飯ですわよ、アノホラグサ」
「うう……」
マホイップに呼ばれ、まだショックから立ち直れない私は食卓に向かう。
そして私の席に置かれたのは艶々と光を反射する若草色をした……。
「『わかくさグミ』!?」
見間違いでも幻でもなく、そこにはずっと求めていたグミが鎮座していた。
「ど、どうして? 懐寂しい筈、まさか買った……?」
「違いますわよ。今回のダンジョンで拾った道具の中に『ベトベタフード』への変貌を免れていた『あおいグミ』がありましたでしょう? それをしっかり洗った後、インテレオンさんに『わかくさグミ』と交換して貰ったんですわ」
『にじいろグミ』を前にしてマホイップが語る。『あおいグミ』はみずタイプの好物……それをわざわざ『わかくさグミ』との交換に使ったという事らしい。
「……でも私、二匹を疑ったりした」
「フフフ。気にしなくていいのよ、あたくし達にも多少否はあったのだし」
申し訳ない気分になる私に対し、ドラミドロは『ももいろグミ』を前にして笑顔を向けてくる。
「それに『あおいグミ』をダンジョンで拾ったのはアノホラグサですわよ?」
「いつも目ざとく道具を見つけて拾って来てくれるから、とても助かっているのよ」
そうマホイップとドラミドロ……大切なチームメンバー達に言われ私は嬉しい気分になった。
私は自分が欲深くて甘えん坊な面があるのをそこそこ自覚しているのだが、二匹はそんな私の性格を長所として受け入れてくれ、仲間として一緒にいてくれているのだ。
「……うん、ありがとう」
だから仲間達の好意を受け入れ、甘えさせて貰う。
そしてこれからもありのままの自分で、マホイップ達と一緒に笑い合いながら救助隊『ナイトスター』として過ごしていきたい。
「それじゃあ『ナイトスター』、今日もお疲れ様ですわ!」
モモンドリンクの入った杯を掲げるマホイップにドラミドロと私も続く。
オンボロだけど暖かく居心地の良いこの拠点で、今日はいつもより遅い時間まで談笑の声が続いていたのだった。