『ロイヤルズ』を取り込んだ灰色のニンゲン……イヴを追う為、そしてポケモン達を救う為に一人でダンジョンを進む私は遂に『蒼海晶洞穴』の最深部と思われる地点に到達。
そして私を出迎えるかの如く佇む黒き物体。
案の定そこには、不気味な靄を放ち続ける黒い繭があった。『つめとぎ山』の時と比べると幾分小さく見えるが、今回はダンジョン巨大化が発生してから比較的早めにやって来たからだろうか。
「……」
出掛けてしまっているのか近くにイヴの姿は見えない。彼女の目的は不明ではあるが、それでもこの繭をこのままにしていたらいずれ更に大きくなって『蒼海晶洞穴』全体に靄を放ち始めてしまうだろう。
「誰だ?」
繭へ向けて一歩踏み出したその時、岩陰から声が響く。
視線を動かした先にて、岩の後ろに潜んでいたその存在が姿を現した。文字通り灰色をした肌、人間の少女のような姿、紫の瞳……『灰色のニンゲン』。
しかし。
(……イヴじゃ、ない!)
確かに一見するだけでは近しく見えるが、髪型や顔つき、声などがイヴとは異なっている……この少女は別の『灰色のニンゲン』だ!
イヴが『追放の遺跡』や『無獣島』から離れるものだろうかと疑ってこそいたが、実際は新しい『灰色のニンゲン』がこの『蒼海晶洞穴』に出現していたのだ。
「……もしかして、あたしの同族か?」
私の姿を眺めながら、警戒した様子で尋ねてくる灰色の肌を持つ少女。
(……もしかして、イヴと同じ?)
実は彼女も凶暴化ポケモンに襲われ、ポケモンを信じられなくなっているのでは。だから身を守るために力を欲し、キングラー達を取り込んでいるのでは。
「私はルーア……あなたのことを襲うつもりはないよ」
だから名乗り、歩み寄る。怖がらなくてもいいのだと、警戒しなくていいのだと。
その途端、少女の表情が緩んだ。
「そっか、あんた……ルーアはあたしの仲間なんだな」
とても嬉しそうに少女がこちらへ歩み寄ってくる。
(……良かった、争わずに済みそう……)
そして私もまた笑顔を浮かべた。
「じゃあ一緒に化け物たちを倒してくれるんだよな!」
「……え?」
満面の笑みを浮かべる少女の言葉に私は顔を青ざめさせた。
「ルーアもあの化け物たちに襲われてここまで逃げて来たんだろ? よく分からないけどこの繭の近くには化け物たちが寄ってこれないから安心してくれよ。あいつらと戦うための拠点なんだ」
「え、あ……」
狼狽する私の前で少女は自らの両腕を変形させ始める。
そして形作られるのは黒いキングラー、そして黒いアマージョ。
「悪い、ビックリしたか? でも安心してくれ、この化け物たちは今あたしが操ってるんだ。だから他の化け物が出て来てもこれで戦えるって訳だ」
「……」
私が彼女らの立場であれば、その笑顔を頼もしいものだと思えただろう。しかし今の私ではそんなことは到底考えられず、ひたすら思考を巡らせていた。
(……どうしよう。どうすればキングラー達を解放して貰える? どうしたら黒い繭を消す事に納得して貰える?)
目の前の『灰色のニンゲン』は完全にポケモンを敵視している。イヴは身を守るために止むを得ずポケモンを取り込む選択肢を取ったが、この少女はポケモン達を排除する気なのだ。
「えっと……向こうから襲われたの?」
「ああ。最初は変な青い鳥に襲われて……その時は化け物がこの黒い繭に変わったから助かったんだ。不気味と言えば不気味だけど、この繭はあたしらの益になる存在じゃないかと思ってる」
青い鳥……きっとチルタリスの事だ。凶暴化したチルタリスに襲われたところを『黒い何か』に救われたために、この少女は黒い繭に感謝しているのだろう。
「食べ物とか上の階で探してたらまた化け物に襲われたけど……手で触れたらそいつを取り込めたんだ。どうにかどんどん強い奴にとっかえひっかえしていって……今はこの力を得たんだ」
彼女に操られたキングラーが大きなハサミを動かし、アマージョはキックを放つ。
「……あのね、聞いて欲しいの」
「ん?」
私は意を決して灰色のニンゲンと目を合わせる。
「あなたを襲った……ポケモンっていう存在は、本当は襲うつもりなんて無かったんだ」
「……はあ?」
「……っ」
少女から意味が分からないと言いたげな返事を受け怯んでしまうが、私は必死に言葉を続ける。
「この洞窟がダンジョンに変わったせいでポケモン達が凶暴化しちゃったんだ。だから彼らを元に戻せば私達を襲って来なくなるし戦う必要だって無くなるんだよ」
「……なんでそんなこと知ってんだ? まさかお前、あの化け物たちと仲良くしてるって言うつもりか?」
「……うん。だからあなたも……」
私目掛けて黒い鋏が振り下ろされる。
「うああっ!」
「騙したのか……あたしを」
攻撃を受け倒れた私を、灰色のニンゲンが失望したような表情で見下ろしてきていた。
「何が襲うつもりがない、だ! この蟹どもと一緒であたしを捕まえるつもりだったんだな!?」
少女はアマージョに『トロピカルキック』を使わせながら激昂する。
「うぐっ……違うよ……! このままだと凶暴化から解放されたポケモン達にも敵視されて本当に捕まっちゃうかもしれないんだよ! だからやめて!」
「うるさい! 先に攻撃して来たのはあいつらの癖に、抵抗したら悪者扱いなんて身勝手すぎるだろ! そんな連中と仲良くなるなんざまっぴらごめんだ!」
キングラーの『シェルブレード』を必死に回避し私は少女と距離を取る。私に騙されたことに怒りが収まらないのか、紫の瞳は怒りで揺れていた。
「……っ」
私は何も言えず、歯を食いしばる。
「どっか行け! 二度と来るな!」
「ううっ……!」
余裕のない表情で乱雑に攻め立ててくる少女。
確かに彼女の立場からしたらこちらが身勝手な事を押し付けようとしているのは間違いない。
だけど……このまま彼女がポケモンの敵となってしまうのは悲しすぎる。
「ひゃあっ!」
そんな時、キングラーの『メタルクロー』が命中してしまい仰向けに転倒。
「んきゅうっ♡」
更にアマージョの『ふみつけ』を股間に受けて私は身体を跳ねらせる。
「二度と来ないと言え! 化け物共を連れて出て行くと誓え!」
「……う、あ♡」
少女の命令に対し、私は喘ぎ声を上げながら必死に身を捩った。
(気持ちいぃ……っ!)
脳内がピンクに染まりつつある中、私はランドセルから一つの枝を取り出す。
「『しばりのえだ』っ!」
「!?」
枝から放たれた光弾が黒のアマージョへと命中。
「……なっ、動かない……!?」
突然操作が効かなくなり焦りだす少女。その隙に私はもう一度『しばりのえだ』を振るい黒のキングラーにも光弾を当てた。
「うあっ!? 腕が!腕が動かない!」
灰色のニンゲンは硬直状態になったキングラー達のせいで身動きが取れなくなる。『しばりのえだ』も限界を迎え折れてしまうが私は急いで立ち上がると黒い繭へと向かっていく。
(ごめんっ!)
心の中で灰色肌の少女に謝罪しながら私は繭へとぶつかった。
簡単に穴が空き、青い光を放ちながら徐々にひび割れ崩れ落ちていく黒い繭。
その中で眠っていたのは一匹のポケモン。
まず目につくのは翼と頭部、首元や背中を覆う雲のような大量の毛。胴体からは長大な尾羽が伸び、本来であれば相当な美しさを持っていただろう。
しかしそのポケモンは黒一色……『黒装モンスター』だ。
繭が全て崩れ落ちると同時に、そのポケモンは紫色の目を開く。そしてエネルギーが循環するかのように、翼や背中といった各部位で紫のラインが光り出した。
「ヒュピィィィィィィ!!!」
『黒装モンスター』は美しさの中に恐ろしさも感じるソプラノの声を上げながら飛翔!
「……な、何だよこれ……!」
いまだに動けない灰色のニンゲンは黒きポケモンを見上げ呻いた。
「ヒュピィアァァ!」
相手は私と灰色のニンゲンを紫の目で視認すると、『りゅうのはどう』を発射してくる!
「うぎゃっ!」
凄まじい規模と速度を持って襲い掛かるそれに吹き飛ばされ、私は地面にたたきつけられた。
「……ふざけやがって……!」
攻撃を受けたことで両腕の硬直状態が解けた少女は反撃に移ろうとする、が。
「ヒュピィィ」
「このっ……!」
『黒装モンスター』は高所で滞空しており、接近戦が主であるキングラーとアマージョどちらの攻撃も届かせることが出来ない。
「これならどうだっ!」
「えっ!?」
しかし少女は腕を勢いよく振るい、取り込んでいたキングラーを解放する!
元の赤色に戻ったキングラーは黒きポケモンの元へ飛んでいくが、相手はそれを素早く回避してしまった。
天井の青い宝石にぶつかり、地面へ落ちていくキングラー。
「ひ、酷いよ! そんな道具みたいに……!」
「こうでもしなきゃやられるだろ! それにあたしを捕まえようとした奴だっての!」
そんな口論をしていると、ミシミシという音が上方から聞こえてくる。
先程の衝撃で天井から生えた巨大な青い宝石が落ちかけているのだ。そしてその下には気を失った状態のキングラーがいる……!
「……っ!」
助けに行こうにも私では宝石を止める事もキングラーを運ぶことも出来ない……!
ついに限界を迎え、下方へと落下していく尖った宝石。
このままではキングラーが串刺しに……!
「『アクアブレイク』!」
宝石は真っ二つに割れ、キングラーに命中することなく地面へと落ちる。土煙が薄れていく中、悠然と立っているのは一匹のポケモン……。
「エンペルト……!」
「あの靄を払ってくれた事、感謝しよう。そしてお前を身勝手な存在だと決めつけた事、申し訳なかった」
その翼で容易く宝石を両断したエンペルトは私に対し感謝と謝罪を述べる。
「……黒装のチルタリス……いや、『メガチルタリス』か。そして『灰色のニンゲン』……!」
彼女はそれぞれの相手に視線を向け静かに身構えた。
「ヒュピィオォォッ!」
メガチルタリスは新手に対し天使のような歌声『みわくのボイス』で攻撃を仕掛ける!
「……ッ、『ラスターカノン』!」
しかしエンペルトはそれを耐え、翼や腹部の金属部位に光を収束させ発射!
攻撃後の隙を突かれたメガチルタリスに命中するものの、あまり通用していないようだ。
「『黒装モンスター』は紫のラインが……」
「既に聞いている。しかし遠距離からそうそう狙えるものではない……」
彼女の言う通りいまだにメガチルタリスは飛んでいる上に、『つめとぎ山』のメガスピアーの時よりも巨大化の程度が抑えられており、その分ラインを狙うのが難しいのだ。
「っ!」
「えっ!?」
突如、私とキングラーを抱え飛び退くエンペルト。
一体何事かと思い視線を向けるとそこには灰色のニンゲンがいた。メガチルタリスと戦闘している隙をついてエンペルト達を取り込もうとしたらしい。
「ピィィィ!」
「ぐっ!?」
そこへメガチルタリスが『りゅうのはどう』を放ち、灰色のニンゲンを攻撃!
「……奴らは仲間ではないのか」
「うん、そうみたい」
メガチルタリスと灰色のニンゲンも敵対しているが、だからといってどちらかが私達の味方という訳でもない。いわば三つ巴の戦いだ。
「ルーア、大丈夫ですの!?」
「待たせた」
そんな時、マホイップ達『ナイトスター』もこの最深部へ加勢にやって来る。靄が晴れたのを見計らって上階から降りてきたようだ。
「……チルタリス、やはりあなたが『黒装モンスター』になってしまったのね」
そしてドラミドロは変わり果てたかつての相棒を見上げ、静かに呟いた。
メガチルタリスはそんな彼女のことなど知るかとばかりに再び『りゅうのはどう』を発射!
「アノホラグサ! 投げて下さいまし!」
「了解!」
アノホラグサは枝で持ち上げたマホイップを迫りくる『りゅうのはどう』目掛けて投げつけた! マホイップがクリームを撒き散らしながら波動の中へ飛び込み、たちまちかき消してしまう。
フェアリータイプの彼女にはドラゴンタイプ技が通用せず、さらにフェアリーの力を持つクリームを放って波動自体を打ち消したのだ。
「今ですわ!」
「『たつまき』!」
マホイップの掛け声と共にドラミドロが技を放つ。竜巻はメガチルタリスへも届くが、メガシンカによりタイプが変化しているのか全く効いていない様子だ。
「うりゃあああっ!」
だが通用していないのは『ナイトスター』の想定内だったようで、本命はアノホラグサを特性『かぜのり』で飛び上がらせる事だ。
充分に近付いたアノホラグサはメガチルタリス目掛けて『タネマシンガン』を乱射!
大量に発射されたタネは黒き表皮に弾かれるばかりだが、そのうちの一つが翼に走る紫のラインを撃ち抜いた。
「ヒュピィィィィィ!?」
『ナイトスター』のレンケイによりメガチルタリスの右の翼から黒い表皮が剥がれ落ち、本来の白き羽毛が露になった。
「エンペルト、私を下ろして! 剥がれ落ちた黒装からも靄が出ちゃう!」
「分かった」
灰色のニンゲンと相対していたエンペルトから離れ、私は靄を放ち始めている黒装の元へ向かう。
「良いこと聞いた!」
「っ!?」
しかし黒いアマージョの『トロピカルキック』が炸裂し、私は地面を転がされた。灰色の少女はいち早く剥がれ落ちた黒装の元へ辿り着くと嬉々としてそれを拾い上げる。
「これがあれば化け物たちを無力化できる……! 自由に出歩けるんだ!」
靄を放つ黒装の欠片を抱えた少女は用済みとばかりに上階へと向かい始めた。
「待て貴様!!」
まだアマージョを取り込んだままの灰色のニンゲンへ向けて『ラスターカノン』を発射するエンペルト。だがその攻撃は当のアマージョを盾にして防がれてしまう。
「来てもいいぞ化け物。靄で動けなくして取り込んでやる」
「……っ!」
少女に言われ、エンペルトは近付くことも出来ず怒りで身体を震わせた。
その間に灰色のニンゲンは足早にメガチルタリスが暴れる最深部から逃げて行ってしまうのであった……。
「く……っ、く、くおおッ!!」
「……ご、ごめん……私が失敗したせいで……!」
悔しさのあまり地面に翼を叩きつけ吼えるエンペルトに、私は声を震わせて謝罪する。
下手に叫んだせいであの少女に情報を与えて利用されてしまうなんて……!
「……エンペルト」
その名を呼んだのは私でも、『ナイトスター』達でもなく……キングラーだった。
「踏みとどまってくれて、ありがとな……。アマージョだけやなくてエンペルトまで連れてかれたらワテ、耐えれへんかったわ……」
ボロボロの状態の彼は自分だって辛い筈なのに、エンペルトのために感謝を伝える。
「キングラー……」
「今はこの場を乗り切らんと……。アマージョのこと、ワテとエンペルトで助けに行こな……」
彼は『ナイトスター』と激闘を繰り広げるメガチルタリスを見上げて続けた。
「でも、拠点にはチコリータ達が……もしかしたら取り込まれちゃうかも……」
「……いや、キングラーの言う通りまずは『黒装モンスター』の対処だ。これを放置していたら何が起こるか分からない……。それにこの『蒼海晶洞穴』は孤島ゆえに彼奴も出られない筈だ」
エンペルトはキングラーに対して頷くと、上を向いて構えを取る。
「『ふぶき』!!」
「ヒュピッ!」
彼女は極寒の吹雪を放ち、メガチルタリスへとぶつけた!
仲間を攫われ辛い状態であっても、感情に任せず今やるべき事をやる……エンペルトは自らの信念に基づいて選択したのだ。
黒装で守られているとはいえ流石にダメージが嵩んだらしく、メガチルタリスは高度を落とし始める。
「ピ……ヒュピィィィピィィィッ」
しかしその途中でメガチルタリスがソプラノの声でハミングを開始。
一体何を……。
(あれ……なんか……ね、む……)
頭や瞼が重くなり、立っていられなくなり……。
「『スイートベール』発動ですわ!」
「はっ!」
『うたう』の影響で眠りかけていた私を甘い匂いで起こしたのはマホイップだ。彼女の持つ特性により眠気を解除されたのだ。
「はああっ!『アクアブレイク』ッ!」
「ヒュピィィッ!」
同じく眠気を吹き飛ばされたエンペルトはメガチルタリスの元へ疾駆し、左の翼に走るラインを的確に切り裂いた!
剥がれ落ちる黒装、更にサイズが戻りつつあるメガチルタリス。黒装をすべて取り除くまであと少しだ。
「…………ビ、ビ、ビ」
「……?」
その時、メガチルタリスが今までの美しい声とは真逆の不気味な声を漏らし始める。
「いけない!!」
真っ先に反応するのはドラミドロだ。
「『ほろびのうた』を使うつもりよ!」
「なっ!?」
それと共に周囲が暗くなり始め、嫌な耳鳴りが響き始める。
「ヒュビィィィアァァァァァ!!!」
紫の瞳を輝かせ、メガチルタリスがソプラノにノイズが混ざったかのような不気味な声音で妖しく歌い出した! それと同時に私の頭に激痛が走り、吐き気までして来る!
「うああああっ!」
迸る苦痛に耐えられず蹲る私。耳を押さえたくても手錠のせいで塞げない……!
「くっ……『マジカルシャイン』!!」
苦悶の表情を浮かべたマホイップが隙だらけのメガチルタリスへ接近し激しい光をぶつける!
その攻撃により背中のラインも傷付けられ、ついに全ての黒装が剥がれ落ちた。
「うぐっ……駄目、ですわ……!」
しかし黒装から出る黒と紫の靄を浴びてしまい、マホイップも行動が出来なくなってしまう。黒装を消しに行こうにも私は『ほろびのうた』が苦しすぎて動けない……。
「ああ、ボクは愚か者」
黒装から解放されたものの、未だに凶暴化しているメガチルタリスが歌い続ける。
「ボクは何が欲しかった? 名声、美貌? 富、権力?」
まるで後悔するかのように涙を流しながら歌う彼女の身体からは僅かに青い光が放たれていた。『ほろびのうた』が彼女自身へも苦痛を与えており、それにより少しだけ『リライブ』が効いているのだ。
「ボクは友が欲しかった。並ぶ友が欲しかった」
私達だけではなく自分自身さえ滅びへと堕とす歌を奏でるチルタリスとドラミドロの視線が合う。
「ボクだけが持つ青い石。キミとお揃いになりたかった」
キラリと光るのはチルタリスの首元に掛けられた青い宝石のアクセサリ。長い時間凶暴化していたために、宝石はすっかり汚れくすんでしまっている。
「この地を守護するべきなのに。帰りたいと願ってしまう。キミに会いたいと願ってしまう」
凶暴化により自分自身すら破滅に追いやる『ほろびのうた』を止められないメガチルタリス。
「神が囁く、お前は愚かだ。神が囁く、滅ぼし滅べと」
ドラミドロが激しい頭痛を抑え込み、泣いて歌うチルタリスの元へ向かう!
「終演よ、チルタリス!!」
限界を超えたまま孤独に演技を続けるチルタリスへ放たれる『ヘドロばくだん』。
美しきその身体が毒により汚れ、地面へと倒れてゆく。
「……ありが、とう…ドラミドロ……」
相方の一撃を受け、笑顔になった彼女はついに哀しき舞台を降りるのであった。
メガシンカが解け、青い光に包まれるチルタリス。
「……あ」
目が覚めた彼女は顔を覗き込んでいたドラミドロと目が合う。
凶暴化が解けたチルタリスはもう敵意を見せる事はなく、穏やかな表情を浮かべた。
「ごめんドラミドロ、何も言わずに一匹で出掛けて。それにすぐに助けに来てくれたのに襲い掛かっちゃって」
「いいのよ、チルタリス。怒ってなんかないわ」
「……そしてありがとう。ボクを見捨てずにこうして救い出してくれて」
「……お礼を言うのはこちらよ……。あたくしを友だと言ってくれて、一度逃げたのにずっと待っていてくれて……!」
涙を流すドラミドロとそれを見て微笑むチルタリス。
チルタリスが青い宝石を採りに行ったのは友であるドラミドロとお揃いになりたかったからで、決して嫉妬してしまったドラミドロを貶すためなどでは無かったのだ。
相棒が友と言ってくれたことでドラミドロの胸中に渦巻いていた嫉妬もきっと落ち着くことだろう。
だがいつまでも二匹の再会で感慨にふけている場合ではない。
「ルーア。落ち着く間も無いままで悪いが、灰色のニンゲンの追跡について来てはくれまいか」
「あの黒装の欠片でワテらじゃ近づけんと思うねん」
「うん、分かった」
「ここは『ナイトスター』にお任せくださいませ」
「気を付けて」
私はエンペルト達に頷くとマホイップ達に見送られながら上階に向けて移動を始める。
いつまでもあの少女をポケモン達の敵のままでいさせる訳にはいかない。
どうにかして止めなければ……!
しかし。
「……うせやろ」
調査拠点は見るも無残に荒らされており、テントは破壊され食料等の資材も盗まれていたのだ。
「う……」
「無事か?」
呻き声を漏らすイワンコやカルボウの元へエンペルトが足早に向かう。二匹とも徹底的に痛めつけられたのかボロボロだ。
「……っ」
チコリータは、アシマリは無事なのだろうか。
私は破壊された調査拠点を歩き回り、彼女らの姿を必死に探す。
(……お願い、無事でいて……!)
そう願いながら視線を動かすと見覚えのある大きな葉を見つけた。
「チコリータ!」
私は声を上げて走り寄ると、そこにはカルボウ達と同様にボロボロになったチコリータの姿を確認する。
「ルーア……無事、だったのね」
「大丈夫!? 誰にやられちゃったの、灰色のニンゲン……?」
私はランドセルを揺すってオレンのみを彼女の傍に落としながら尋ねた。
「そうよ……腕からアマージョを生やして攻撃して来て……。しかも『つめとぎ山』の時と同じ靄のせいであたし達はまともに反撃すら出来なくて……!」
悔しそうに語るチコリータ。やはりあの黒装を奪われてしまったのは大失態だったのだ。
「……そして一方的に叩きのめされたあたし達を、あいつは値踏みするかのような目で見下して……」
チコリータが涙ながらに口を開く。
「……アシマリまであいつに取り込まれたの……!! 灰色のニンゲンはこの島から脱出するために泳ぎが得意なあの子を使うことにしたのよ……!」
アシマリが、灰色のニンゲンに……!?