私の目の前にあるポケモンの町『スプリングタウン』。
桜がシンボルの町らしく、入り口には桃色の門が築かれていた。
「おっと、確か『いけいけズ』だったか?良く帰って来たな!」
「『ゆけゆけズ』だ!」
「ははは、相棒が悪いねー。覚えてもらえるようもっと活躍しなよ!」
「あなたもあなたで失礼ね…」
門番らしいカブルモとチョボマキとそんな言い合いをしながら町の中へと向かうヒバニー達。私も後を追う為歩き出すが……。
「ん?お前は…?」
「この辺りじゃ見ないポケモンだねー」
彼らにとって馴染みがない存在であろう人間の私を見て、カブルモ達は不思議そうな顔をする。
「え、えっと、あの……」
「その子も私達がダンジョンで救助したの!」
「なるほど。それは大変だったな、町でゆっくり休んでいけよ」
だがチコリータの助け舟のお陰であまり怪しまれず町に入ることが出来た。
そしてその先では…。
「いらっしゃ~い! 今日の目玉商品はセカイイチですよ~! 一品限り早い者勝ちです!」
「育て~育て~オレンの木~! 沢山成れ成れオレンの実~!」
「ねえ、買い物終わったらガルーラさんのカフェで一休みしましょ」
「さあさあ闘技場の賭けポケ受けつけはそろそろ締め切るよ! 今回のカードはドロンチ選手対ハクリュー選手!」
「救助隊の皆さん、新しい救助依頼で~す! 手の空いている方はギルドまでお願いしま~す!」
桜の花びらが舞う『スプリングタウン』の大通り。予想していた通り、沢山のポケモン達が街中で行き来していた。ポケモンが町に居ること自体は元の世界で何度も見ていたが、人間が全くおらずポケモンだけという光景は初めてだ。
「悪い、どいてくれ~。救助したポケモンを運んでるんだ~」
そんな中を、マイナンを背負ったヒバニーがポケモン達の間を縫うように進んでいく。
「ねぇルーア、どうしてそんな隅っこ歩くのよ」
「だ、だって……」
そんなヒバニーの後を追うチコリータと私。
(心の準備はしてたつもりだけど、やっぱりまだ日が落ちていない街中をこんな格好で歩くなんて恥ずかしい……!)
たとえ町に居るのがポケモンだけでも…。
「なんだろ、珍しいポケモンかな」
「確かに。見た事ないわね」
「まさか伝説のポケモン……!?」
「あ……うう……っ」
否。むしろポケモンしかいないせいで余計に目立ってしまう……!
(見られてる、裸の私、見られてるぅ!)
「こっちよルーア。ここがママンボウ医療所」
「ま、待ってぇ」
涙目になりながら私は逃げるようにチコリータが入っていった建物へ駆け込んだ。
医療所というからには病院のような空間を想像していたが、中は木々を使って作られた自然的な建物であった。これもポケモンしかいない世界の文化ということなのだろう。
「はい、治療は終わり。これからは食べ過ぎには注意しなさい。腹八分目」
「はーい……」
医療所を経営している魚のポケモン、ママンボウはお腹を壊したらしい患者に注意するとヒレを振って見送った。そして入口近くに立っているヒバニー……そして彼に背負われたマイナンに気付く。
「おやいけない。急ぎ治療が必要な子ですね。ごめんなさい、一名優先治療しまーす」
そう言ってママンボウはこちらへと近付いてくる。
「キミ達は確か『ゆけゆけズ』でしたね、救助お疲れ様。後は任せない」
「ありがとな! それとこいつなんだけど…」
「えっ?」
マイナンを任せて終わりかと思いきや、ヒバニーが唐突に私を指さした。
「この…ルーアって奴なんだけどこいつもダンジョンで迷ってて。俺達今までニン……こんなの見た事なくて。怪我とかしてるのか? それとも毒とか」
「うーんと……ううん、ごめんなさい。長年医療所やってるけど私も見たことが無いポケモンですね。だけどこの子は元気一杯で怪我も全くない。その点は保証するから安心しなさい」
ヒバニーが人間である私について尋ねるがママンボウはそんな回答をする。本当の本当にこの世界に人間がいないと思い知らされ私は気が重くなる。
「うーん、それじゃあどうしてダンジョンで急に汗をかいたりしゃがみ込んだり……」
「それよりあなた達二匹はここに残りなさい。隠してるつもりでしょうけど怪我だらけよ」
「げっ……」
「は、はい」
チコリータは小声で呟いていたが、エネコロロとの戦いで負った傷を見破ったママンボウに強い口調で言われ、たじろいだ。
「……まぁ、そんな訳だから。宿でも取って今日は休んどけよ。ニンゲンとか何とかよく分からないけど一晩寝れば頭も整理されるだろ」
「そうね。多分夕方になるまで私達ここから動けないし、ヤレユータンの所に行くのも明日でいいでしょ」
「えっ、ええっ……」
順番待ちのスペースに座り込んだヒバニー達に言われ、私は狼狽。それはつまり一人で宿まで行けという事だろうか。
「ほら、これが宿代のポケ。エネコロロとの戦いでサポートしてくれたお礼とでも思ってくれ」
そう言ってヒバニーは懐からこの世界の通貨らしき金貨を取り出した。
「ありがとう……よいしょ……」
「後は宿の場所ね、医療所を出たらまず左手に進むの。しばらく進んだらてっぺんに顔のついた縦に長い建物が見えて来る筈よ。そこがミミッキュの宿よ」
苦労しながら後ろ手でポケを受け取りながらチコリータの説明を聞く。
道を左に……縦に長い建物……ミミッキュの宿……。
(だ、大丈夫かな……)
「あーあ、ギルドの晩飯に間に合うかなー」
「そうね…今日は頭使い過ぎて私もお腹空いて来ちゃった」
二匹が会話に入ってしまったので割り込みづらくなり、私は医療所を後にする。
(ううっ……は、早く行こう。左だったよね)
再び多くのポケモン達が行き交う通りに出たことで羞恥心が復活して来た。なるべく目立たないように通りの端を歩いていると、前に人だかり……否、ポケだかりが出来ているのに気付いた。
そして嫌でも耳に届いてくるのは凄まじい歓声。
「今日も麗しいわぁ! ゴールドランクの救助隊『ナイトスター』!」
「うおおっ! こっち見てくれえ!」
「きゃああっ! この手作りグミ受け取ってぇぇ!」
こんなに人気な救助隊が存在するのかと気になり、ポケだかりの中心をチラリと覗く。そこでは三匹と一匹のポケモンがお互い向き合う形で立っていた。
「またお誘いに参りましたわ」
三匹側のリーダー格らしき小柄なポケモン…マホイップがそう言ってお辞儀をする。
「フフフ。何度も言っている通り貴方は『ナイトスター』に相応しい逸材。それなのにずっとフリーだなんて、誘っていると同義ではなくて?」
ミステリアスかつ怪しい雰囲気を纏わせて言うドラミドロ。
「……さっさと加入しろ」
さもなければ呪う、と言わんばかりのオーラを纏うアノホラグサ。
「『ナイトスター』のリーダー、マホイップさん! 可愛らしい姿とあふれ出る気品! 美しいわ!」
「妖艶さと危険さを併せ持ち、並の邪魔者は強烈な技で吹き飛ばすドラミドロさん!」
「ほら見て、あれがオーラも発言も過激だけど本当は甘えん坊なアノホラグサさん!」
救助隊自体どういうものなのかよく分かっていないのだが、文字通り彼女らはこの町のスターなのだろう。
そしてそんな彼女らの前に立つのが…。
「あ、ありがとう。そこまで評価してくれる気持ちは嬉しいけど、僕はやっぱりフリーで……」
スラリとした身体と手足、長い尻尾を持つポケモン……インテレオン。
彼は『ナイトスター』達の誘いを戸惑いつつも断るつもりらしい。
「それであのポケモンがチームを組まず一匹で多くの救助を成功させてるインテレオンさん!」
「何度も『ナイトスター』の誘いを断るなんて肝の据わった奴だぜ!」
どうやらマホイップ達だけではなくインテレオンもなかなか人気があるポケモンらしい。そんな人気者たちが対面しているのだからこれだけのポケだかりが生まれるのも当然なのかもしれない。
「フフフ。相変わらずつれないわね」
「……ずっと待ってる」
「もう少し粘りたいですが、ここは大人しく引きますわ。それではまた今度」
更に大事に発展するかと思いきや『ナイトスター』の面々は諦めている素振りは全くないものの、踵を返し通りを進んでいった。
「いやー、今日もマホイップちゃんは可憐だったなぁ」
「インテレオンさんはいつまで耐えられるのかな?」
集まっていたポケモン達もそれぞれ仕事や家に帰り始める。そして残ったインテレオンは胸を撫で下ろして安堵の息をついていた。
確かにドラミドロやアノホラグサを怒らせたらどんな仕返しをされてもおかしくないので緊張する気持ちもよく分かる。私が同じ立場であったら流されるまま従っていただろう。
ようやく落ち着いたのか、インテレオンは移動を再開し…。
ふと、私と彼の目が合う。
(うっ、いけない!またこんな姿見られちゃった…早く行かなきゃ…っ!)
私は足を止めてポケだかりに加わっていた自分を恨めしく思いつつ歩き出そうとする。
「……っ!? ……!?」
しかし異様なまでに狼狽してずっとこちらを見ているインテレオンに気付く。
(やっぱり変なポケモンだって思われちゃってるのかな……。このままだと、もしかしたら怪しい奴だって捕まっちゃうかも……!)
その場から逃げるように私は再び走り出した。
「あっ…!」
インテレオンが呼び止めようとするのも気付かないまま。
そしてあの場からある程度離れた私は一息つく。
(ええと、私が今からやるのは……そうだ、ヒバニー達から貰ったポケで宿に行くんだ)
途中で『ナイトスター』とインテレオンの様子を見ていたせいで忘れかけてしまった。チコリータに言われた宿の特徴は……。
特徴は……。
「………っ」
(何だったっけ。道を左手に……建物の特徴は……?)
私は必死に頭を働かせようとするが、街中で裸になっているという羞恥心でなかなか出てこない……こうなったら、また医療所に戻って聞き直してくるべきだろうか。
(だけどここまで結構歩いて来たし、往復分裸を見られるのも嫌だよ……!)
泣きそうになりながら私は辺りを見渡し、あるものに気付く。
周りの建物から雰囲気の浮いた、一軒の建物。
ポケモンの世界の建物はツリーハウスのようなものだったり、派手な色使いのものだったり、またあるいはポケモンの顔を模したものだったりと、現実ではなかなか見られないものが大半を占める。しかし私の視線の先にあるのは元の世界にあってもおかしくない、落ち着いた色調のレンガ造り二階建て家屋。そこで私はチコリータの言っていた『縦に長い建物』というワードを記憶の底から引き揚げる事に成功。
(そうだ、間違いない!あれが宿だ!)
私は小走りで目的の宿に向かう。大通りから脇道に入り、小さな橋を渡り、スプリングタウンの中心部から離れていく。ここまで来るとポケモンの姿も減って来ていた……中心部程賑やかになるのは元の世界と同じらしい。
そうして辿り着いた目的の建物。
建物の前には大きな池が張られているが、入り口まで飛び石があるのでこれを渡ればよいだろう。飛び石を渡りながら見渡すと水面には睡蓮が所々見受けられ、綺麗な花も咲いていた。
そんな光景を見ていると、少しずつ気分も落ち着いて来る。
どうして私が違う世界に来てしまったかなど、分からないことは多すぎるがヒバニー達の言う通り今日はゆっくり休んで英気を養うのが最善だ。
扉の前に辿り着いた私はドアノブを頬で下げ、ゆっくり開く。
「ごめんくださーい……」
そう言いながら建物の中に入るが返事はない。
「……あのー?」
もう一度声を上げるがやはり反応は無し。
(間違えた? いや、そんな筈は……)
もしかすると管理者が出掛けているのかもしれない。
いつまでも宿を留守にするとも考え辛いのでこのフロント……らしき場所で待てばよいだろう。
「…………」
(静かだな…)
「…………」
(誰もいないや)
「…………」
(まぁ、孤独なのは元の世界でも同じだったし…)
「…………?」
耳をすますと何か変な音がする。
とても小さい音でどこからなのかがよく分からない。
ブブブという機械の振動音なのは…分か…る。
「!!!」
そこで私は思い出し、意識してしまう。
私の股間の中にバイブが入っており、ずっと微振動を続けていることを。
視線を向けると私の股間から愛液がダラダラ垂れ落ちているのに気付く。
(も、もしかして私……町の中でずっと股間を濡らしたまま歩き回ってたの……!?)
「そっそんなっ! 私! んっ♡ 町の通りにっ! 愛液撒き散らしてたなんてえっ♡」
一度落ち着いた筈の羞恥心が急激に上昇し、私は一気に顔を紅潮させる。
(とんでもないことしちゃったんだ私! 知らない町で日中から自縛野外露出してたんだあっ♡)
「私っ♡ とんでもない変態だよぉっ! 恥ずかしいぃ! あっあっあっ♡」
自分の行ったことを自覚するごとにどんどん興奮が高まる。発情してしまう。
「ああっ♡ 欲しい♡ もっとぉ、刺激欲しぃ♡」
蕩けた表情で私は腰を振るがこんなのでは全然足りない。バイブのリモコンも手錠の鍵も元の世界に置いて来たまま。振動を強める事も指を秘部に突っ込んでオナニーすることも私には二度と出来ない。
「やだやだぁ♡ 気持ちよくなりたいぃ♡ 絶頂したいぃ♡」
そんなことを言いながら、辺りを見渡す私。
幸い、良さそうなものはすぐに見つかり、私はコツンコツンと足音を立てながら近寄る。
私は見つけた木箱の角に向け、ゆっくりと秘部を近づけ……。
割れ目をなぞらせた。
「――――っ♡♡♡!!!」
訪れた快感に私は声を上げ激しく仰け反った!
そして、何度も何度も割れ目を角になぞらせる!
「いいっ♡ いいよおっ♡ これっ! これが欲しかったのっ♡」
誰かに聞かれる可能性も考えられないまま、ガタガタ激しい音を鳴らし、嬌声を上げる。
「あーっ♡ あーっ♡ 気持ちいいっ! すっごく気持ちいいぃぃ♡」
膣口をなぞらせるたびに愛液があふれ出て、あっという間に水溜まりが出来てしまう。
「自縛野外露出始めてからずっとお預けだったオナニー♡ 最高だよぉぉ♡」
全身から汗が噴き出て、涎も涙も止まらない。
「しゅごいぃぃ♡ 手錠掛けたままの角オナしゅごいぃぃ♡」
手錠の金属音を鳴らしながら、私は木箱相手にヘコヘコ腰を動かす。
「あひぃ♡ 今の私情けないよぉ♡ 腕使えないことに喜ぶマゾ変態だよぉ♡」
興奮で全身が熱くなっていくにつれ、首に感じる首輪の冷たさも鮮明になる。
「んひぃ♡ ふひーっ♡ ポケモンは皆全裸なのにっ♡ 私一人だけ裸にサイハイソックスとロングブーツだけ履いてたのっ♡ 変態だってバレちゃったかなっ♡ ヒバニーやチコリータにも私が変態って気付かれちゃったかなあっ♡」
私はどんどん腰の動きをエスカレートさせていく。
「私これからどうなるんだろうっ♡ どうやって生活していこうっ♡ ポケモン達に媚び売るのかなぁ♡ 身体で稼がないといけないのかなあっ♡ それとも凶暴化ポケモン達の性奴隷にされちゃうのかなあ♡」
妄想が脳内を支配し、私は更に発情してしまう。
「あっ♡ んんっ♡ い、イクぅっ♡ 角オナでイクぅ♡」
ずっと求めていた絶頂が近づき、私は躊躇わずラストスパートをかけた。
そしてついに。
「ふあああああああああっっっ♡♡♡」
勢いよく潮噴きしながら私は歓喜の絶叫を上げる。
「……はぁっ♡ ん……はひぃ♡」
荒く息をし、絶頂の余韻に浸りながら床にへたり込んだ。
(凄く、気持ちよかった……。もし元の世界に帰れて手錠を外せても、もう普通のオナニーには戻れないかも……)
そんな事を考え、充足した気分になりながら視線を動かす。
「……」
「……え?」
目が合った。
すぐ後ろに立っていたインテレオンと。
先に動いたのはインテレオン。勢いよく私から距離を取り、狼狽えているかの如く視線を虚空に彷徨わせ始める。
私は先程のオナニーをずっと見られていたのかと気付き、ガクガク身体を震わせ始めた。
どうしてここにソロの救助隊インテレオンが……と考えるが私は蕩けた頭をどうにか働かせ思い出す。
(そうだ、宿に泊まりに来たんだ)
彼はこの宿の経営もしていたのかと考えつつ、立ち上がる。
「あっあの! 私を泊めて下さい!」
ヒバニー達に貰ったポケを払って……。
ポケを……払っ……。
後ろ手に握っていた筈のポケが無い。
(え、落とした? いつ? オナニーしてた時? 飛び石を渡った時? それとも通りで?)
お金が無いと宿には泊まれない……それどころか今の私は一文無しで宿でオナニーしていた変質者だ。この世界に警察があるのかは分からないが、このままでは逮捕されてしまう……!
代わりに払えるものなんてない。今の私は何も持ってない……この身体一つだけ……。
私は一瞬躊躇うが、いつインテレオンが私を変質者として捕縛して来てもおかしくない。
「えっと、私…お金ないんです…」
そう言いながら私はヨタヨタとインテレオンに近寄る。
「あの、ぐすっ! 何でも……何だってやります……! えぐっ! だから私を泊めて、下さいぃ……!」
自分の身体を売る恐怖に涙を零しながら、私はインテレオンの胸に擦り寄る。
「……」
「……ひぐっ……ぐすっ」
長い沈黙の中、私の嗚咽だけが響く。
「……だ」
そして沈黙を破るかのように、インテレオンが震える声で呟く。
("だ"……? だめ? だまされない?)
「……大丈夫、だから」
そう言って、インテレオンは私の肩に手を置いた。彼の手はとても大きく、私の肩などすっぽり覆ってしまう。しかし大きさの反面その手は震えており、彼が緊張しているようにも感じる。
「……その、質問、いいかな?」
インテレオンは私の肩を掴んだまま少しだけ距離を離し、互いの顔を見れる状態にして質問してきた。
「キミ……人間で、合ってる?」
彼は硬い表情でゆっくりと口を動かす。
「……知ってる、の? 御伽噺扱いしてる訳じゃ、なくて?」
私が聞き返すと彼は頷く。
それと同時に彼の目に何かが…。
「……涙?」
「っ!」
私が言うと、インテレオンはこちらに背を向ける。そしてその大きな手で自らの目を覆い隠していた。
彼なりのプライドなのか泣き声は聞こえないが、必死に声を押し殺しているのはすぐに分かった。私は何か言おうと考えるが、彼が泣いている理由も分からない立場で気の利いた言葉など思いつかない。だからと言って彼の後ろ姿を見続けるだけなのも耐えがたい。
「……」
「……っ」
何も言わず、インテレオンの背中に寄り添う。
変態の私なんかで彼の安らぎに繋がるとは思えなかったけれど。
自分自身だって泣いているのに、彼の涙を拭いてあげようなんておこがましいけれど。
私が出来る事は、何でもやりたかった。
「……ごめん、取り乱したりして」
「ううん、気にしないで。それに先に取り乱したのは私だし……」
ようやく落ち着いた様子のインテレオンと再び会話をする。
「それで……キミはどうしてこの世界に迷い込んだの?」
「ルーアだよ。正直言うと分からない、夜の町を逃げ回ってたら突然……」
「逃げ回ってた……!? そうだ、その姿……人間って衆目にそこまで肌晒さないよね!? それに手錠や首輪といい、ルーアはまさか誰かの手で酷い目に……」
並んで座りながら質問に答えるが、彼は目を丸くして焦った様子で聞いて来る。
「あっ……これは、自業自得で……」
「そんな話がある訳が……! 本当は一体誰に……」
インテレオンは本気で心配した様子で問いて来る。
その優しさに甘えて嘘を突こうかとも考えたが、いずれボロが出そうだ。
「自縛野外露出っていうの思いついて……試した初日に見つかっちゃって……逃げる羽目になって」
「……」
「ほ、ほら。さっき……その、私のオナニー……見てた、でしょ? 私、あんなこと……好き……なの」
「分かった、うん。その話は終わろう、うん」
恥ずかしさで顔を赤くしながら言う私に対し、インテレオンは引いているのか顔を青くして目元を抑える。
「それよりお金も泊まる場所も無いならここ……僕の家を好きに使っていいよ」
「え? ここってインテレオンの宿じゃないの?」
「……? スプリングタウンにある宿はミミッキュの宿ぐらいだけれど……」
「……あ」
インテレオンに言われ、私は完全に思い出す。チコリータが言っていた宿はてっぺんに顔のついた縦に長い建物……! 名前はミミッキュの宿……!
自分の記憶力の悪さに私はため息を漏らした。
「ミミッキュの宿と間違えたのならポケを……」
「い、いい……! 折角だし……ここで休ませて欲しい……」
お金を出そうとするインテレオンを止め、この家に泊めさせて貰うこととする。
「キミがそれでいいなら……。おっと、もうだいぶ日が暮れて来たし夕ご飯にしようか」
「あ、ありが……うわっ」
話が決まり、移動のため立ち上がるが私はバランスを崩してしまう。
「危ないっ……ふぅ」
「ご、ごめんね、ありがとう」
「……その手錠、外そうか」
両腕が使えない私を見かねたインテレオンは後ろに回り手錠を外そうとする。
「え、でも……鍵が無いと外せなくて……」
「……これが鍵穴か。鍵が無いなら針金で……」
まさかピッキングのようなことをするつもりだろうか、と気楽に思っていると。
唐突に激痛が走った。
「いぎゃあああああっっ!?」
まるで手首の内部を傷付けられたかのような痛みに私は絶叫を上げた。
「えっ何!?」
それで驚いたインテレオンが手元を震わせたか、再び骨と肉をかき混ぜられるような激痛が。
「痛いぃぃぃ!!! 手がぁぁ!! 手がぁぁ!!!」
「ご、ごめん! 今抜いた!」
鍵穴から針金が抜かれたようだが、まだ手首の内部がジンジン痛む。
「ああ…手が……」
私はその場に膝を付き、涙で床を濡らす。
恐る恐る両手を動かしてみるが、金属音が鳴るだけで痛みは強まらなかった。
「本当にごめんルーア……。でもどうしたんだい、僕は手錠の鍵穴に針金入れただけで……。別に血とかも出てないし……」
インテレオンの焦りようから嘘はついていないのだと思う。
でも、そうだとしたら。
私の身体……どうなってるの? 何が起きてるの?
私の目の前に置かれる木の実や果物。前に座っているインテレオンは手を使って夕飯を口に運んでいた。
人間である私も本来であれば彼と同じような食べ方をする筈なのだが…。
手錠が外せない私は両腕が依然使えない訳で。
私は少し躊躇いつつも、上半身を下げて伏せのような体勢に。そのまま顔を果物に近付け…直接咥えた。
「う……むぐ……ううっ」
まさか人間の私が四足歩行ポケモンのような食事方法を取らないといけないなんて……!
「ルーア、やっぱり僕が口まで運ぼうか……?」
「はぐっ……ごくん……。いいの。なんかこれもドキドキしちゃう、から」
自らの惨めさに発情してしまう私と、再び目元を抑えるインテレオン。
「……それにしてもそんな姿でよくこの町まで辿り着けたね」
「うん、『ゆけゆけズ』って救助隊に助けて貰って」
「へえ……一週間前に結成したばかりのチームのあの子達が……すごいじゃない」
ヒバニーとチコリータのことを話すと、インテレオンは感慨深そうに呟く。
「もぐもぐ……そうだ、救助隊って私よく分かってないんだけどどういうものなの?」
「ああ。ルーアはこの世界のことどれぐらい知ってるかな」
「えっと、『歪みの穴』っていうのが出るとその一帯をダンジョンに変えちゃうこと……。それに、その時その場にいたポケモン達は凶暴化しちゃうってこと……。数年前からこの世界はこの『歪みの穴』に悩まされてるんだよね」
私は『清流森林』での話や出来事を思い出しながら答える。
「そうだね。ダンジョン発生による影響は大きく二つ。さっきルーアが言った凶暴化と、元々資源が豊富だった土地がダンジョン化することによる資源収集の困難化。後者の要因があるせいで危険なダンジョンに踏み込まざるを得ないポケモンも多くいるけれど。それでダンジョンから帰れなくなった者達を救出するのが救助隊なんだ」
「……凶暴化は元に戻せないの?」
私はあえて、チコリータ達から既に答えを聞いた疑問をインテレオンにもぶつけてみる。
「戻せるなら戻したい。救助隊連盟が数年前からずっと『歪みの穴』原因解明と並行して凶暴化の解除方法も探してるけど、糸口すら掴めてない……ダンジョンがどんどん増えて、凶暴化してしまうポケモンも増える一方なんだ……」
しかしインテレオンは悔しそうな表情でそう答える。マンキーやエネコロロを凶暴化から解放した不思議な青い光について尋ねようと思ったが、この様子だとインテレオンも知らないだろう。
「……その救助隊連盟って言うのは?」
「文字通り救助隊たちの団体だね。『ゆけゆけズ』も『ナイトスター』も、そして僕も連盟に従う一員という事になる。この『スプリングタウン』を例に挙げれば、この町を拠点にする救助隊たちを総括しているのが『ファイヤーのギルド』。届いた救助依頼をまとめて救助隊たちに知らせたり、新規救助隊結成の承認、救助活動に役立つ道具の配布といったサポートを行っているんだ」
「そこまで規模を大きくしないといけないぐらい……沢山ダンジョンで遭難者が出てるってこと?」
「うん。この町だって中心部だけ見れば賑やかに見えるけど、つい数日前に近くで新しいダンジョンが発生して、生活に苦しむポケモンもドッと増えてるんだ。むしろもっと救助隊として名乗りを上げてくれる仲間が欲しいぐらいだよ」
苦しむポケモン達を救う救助隊と聞いていたが、その救助隊自体も手が回らず苦しんでいる……。
聞いているだけで頭が痛くなってくる話だが、この世界に来た以上私も当事者……。見て見ぬふりをしていたっていずれ私の身にも……。
「泣き言を言っていたって苦しむポケモンが減る訳じゃない。とにかく僕達救助隊は今自分が出来る事をやって、一匹でも多くのポケモンを救助するため活動しているんだ」
話し終えると同時に食事も終えたインテレオンが立ち上がる。それを見た私は急いで、まだ残っている夕飯に食らいつくのであった。
天空に広がる一面の星空。
私はインテレオンの家の窓からその光景を見上げていた。こちらの世界へ迷い込む前の最後の夜も、こんな星空だった。今頃元の世界はどうなっているだろうか。
……しかし脳裏に思い浮かぶのはいつも自分の部屋。
一人でいる私の姿ばかり。
外から聞こえる同じ年代の子供たちとポケモンが楽しむ声に耳を塞いで。
誰かに興味持って貰おうとお洒落しても特に相手されなくて。
両親やハーデリアともほとんどコミュニケーションを取らなくて。
文字通り孤独な自分を慰めるために自慰に耽って。
(……私がいなくなったって、何も変わってないんだろうな)
孤独なのは……自業自得、なんだから……。
「それじゃあ僕はそろそろ寝るとするよ。ルーアも夜更かししないようにね」
「…………うん」
扉から顔をのぞかせて言うインテレオン。本来ここは彼の寝室なのだが、ベッドは私に使わせ彼は一階で寝ると言っていた。
「おやすみ」
「あっ……」
呼び止めようとしたが喉で声がつっかえ、インテレオンは扉を閉めてしまう。
(ううん…これで良いんだ。私と違って彼は明日もポケモンの救助があるんだから)
そう自分に言い聞かせて、ベッドに腰掛ける。
「……」
私は一人、脚をスリスリ動かし始めた。
股間が腿に擦れる度、脳の快楽中枢に刺激が走る。
膣から愛液が、口から涎が垂れる。
ああ、気持ちいい……。
「……っ」
……虚しい。寂しい。
元の世界から逃げたって、孤独なのは同じなんだ。
ヒバニーやチコリータは私が人間だって伝えたら困惑するばかりで。
インテレオンも私の変態性に困っている様子を見せてて。
完全には、受け入れられてない。
それどころか、もしもまた"あの時みたいな事"をしたら、きっとすぐに……。
(私……いつまで…見限られずに済むのかな)
「……くっ…ううっ…」
必死に股間に刺激を与えるが、胸が締め付けられる感触の中和が出来ない。ベッドに倒れた私はビクビク身体を震わせる。
(こういう時、どうやって気持ちを落ち着かせてたっけ…)
今までの寂しい夜を思い返す。
ある夜は思いっきり指でクリトリスを弄って絶頂して気を紛らわせてた。
ある夜はぬいぐるみや布団を抱きしめて自分は一人じゃないと誤魔化してた。
ある夜は自分で胸や肩をさすって気持ちを落ち着かせてた。
(ああ、今の私は自分を慰める事すら、まともに……)
「……っ」
痛い。
心にぽっかり空いた穴が、痛い。